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三日鷺~ミカサギ~  作者: 帝 真
第4章 思惑
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思惑・7

 「斗真君、どうしたの?」


 斗真は灯乃らを見送った後、すぐさま玄関の方へと歩いていた。

 それを春明は不思議そうに後を追い、彼に声をかける。


 「叔母様のことはもういいの? 灯乃ちゃんは?」

 「気になることがあるんだ」

 「気になること?」


 斗真は足を止めると、春明の目を見ながら訊ねる。


 「春明、お前は何か感じたか?」

 「え?」

 「灯乃は感じたそうだ、叔母上から血のにおいを」

 「え……?」


 斗真がそう言うと、途端に春明は顔を険しくさせて考え込む。


 「あたしは何も感じなかったわ。いつもの叔母様だと思ったけど?」

 「俺もだ。それじゃ、お前は《紅蓮の三日鷺》と話したことはあるか?」

 「え、灯乃ちゃんじゃなくて?」

 「あぁ。《紅蓮の三日鷺》の方だ」


 斗真は少し怪訝そうに眉を歪め、春明の答えを待った。

 何か嫌な予感を覚えているようだ。

 それを春明もすぐさま感じ取り、慎重に答えた。


 「あたしは一対一で話したことはないわ。あの姿の彼女を見る時は、斗真君達も一緒だったし」

 「なら《紅蓮の三日鷺》と朱飛が二人でいるところを見たことは?」

 「――まさか、斗真君」

 「確証はない。俺の推測が間違っていれば、すべてがひっくり返る。だから――」

 「なる程、だから道薛を待つのね? でもいいの? 灯乃ちゃん、どっちに転んでも危ないんじゃない?」

 「あぁ。頑張りすぎるのも問題だ」

 

 斗真は心配そうに呟くと、玄関から外へと出て行った。

 そんな彼の後ろ姿を眺めながら、春明は嫌悪感を抱くように溜息をつく。


 「あの子のことは、何も疑わないのね……」



 *



 「――何なんですか? その、黒の道連れって……」


 亜樹の部屋で、朱飛を押さえつける冷たい表情の亜樹に、灯乃は震えた口調で訊ねた。


 ――黒? 三日鷺から解放しないと仁ちゃんが道連れになるってどういうことなの……?

 

 「あの刀で誰かを斬り続け、三日鷺を増やしていけばいく程、紅蓮の三日鷺と同化してしまったあなたは黒に近づき、そしてやがて自身を破滅させる」

 「え……っ!?」

 「勿論そうなれば、斬られた者達もその道連れとなるわ。仁にそんな末路は辿らせない。さあ、早く!」


 真剣な眼差しを向けて強く言い放つ彼女に、灯乃はどうしたらいいか分からず硬直した。

 もし亜樹の言うことが本当なら、このままでは、灯乃は黒になり破滅するということになる。

 そして三日鷺になった仁内をはじめ、朱飛も春明も。

 そういえば、道薛や本家の人達を斬った時は、三日鷺の装束が白に近づいていた。

 三日鷺の者達を解放すれば、破滅は免れるのか?


 ――もしそうであるのならば……


 するとその時、朱飛と目が合い、彼女が微かに首を横に振った。

 それを見て、灯乃は再び戸惑う。

 朱飛も山城の人間、彼女なら本当かどうか知っている筈。

 そんな彼女が言いことを聞いてはいけないと示しているようだった。

 

 ――亜樹様の言っていることは、嘘……なの? どっち?


 「さあ! 早く!」


 亜樹は灯乃を急かし、朱飛の髪を引っ張って短剣の先を首筋に突き立てた。

 僅かに赤い血が滴れ、灯乃の動揺を誘う。


 「でっでも、仁ちゃんはここにはいないし……」

 「仁は、あなたにとって最初の三日鷺。繋がりが長い分、命令の言霊がなくてももうあなたの声が届く筈。さあ!」


 灯乃は迷った。

 仁内は亜樹の子、彼女が必死になるのも当然だが、矛盾もあった。

 それは仁内に渡してきた三日鷺の欠片の存在。

 彼を解放させたいのに、欠片を持たせる理由が分からなかった。


 ――やっぱり亜樹様が嘘をついている? 朱飛が誤魔化す理由もないし。それともあれは仁ちゃんに渡そうとしていたものじゃないの?


 考えがまとまらない。

 しかしその時。


 「……っ……!」


 突然、頭痛を感じ、灯乃は頭を抱えて膝をついた。

 

 ――痛い、痛い。急に頭が、割れそうに……


 「灯乃、ちゃん……?」


 亜樹が灯乃の異変に気づき、一瞬力が弛む。

 すると突然、灯乃の双眸が翡翠色に輝いた。


 ――何か、視える。布団の中で静かに眠るお母さんと、側に――朱飛?


 それは春明の別荘でトキ子をみていた時の記憶だった。

 恐らく紅蓮の三日鷺が視ていた記憶。


 “――朱飛よ、あやつの言葉は命令からきたものなのか、それとも本人の意志か。どちらと思う?”

 “え……それは私には分かり兼ねます”


 どうやら雄二に三日鷺の欠片を持たせるかどうかを話している時のようだった。

 三日鷺が欠片を眺めながら、朱飛へ口を開く。


 “あやつ自身に決めさせるのも、また一興か。この身を護る者が増えて良いかもしれぬし”

 “構わないのですか? 手放すことになるかもしれないのですよ?”


 朱飛が少し戸惑いながら問いかけると、そんな彼女へ三日鷺はニタリと薄気味悪い笑みを浮かべた。

 その笑みに朱飛はゾッとする。


 “朱飛よ、貴様は山城の者なのだろ? 我に仕え、我に尽くし、我と共に生きる者。なら護ってみせよ、我の欠片を。目的の為、我が求めるその日まで” 


 三日鷺はそう言うと、朱飛の額に手を添え――そして何かを囁き、三日鷺の欠片を彼女に託した。


 ――――…………


 「ぁっ……!」


 灯乃は思わず口を手で覆った。

 思い出した、紅蓮の三日鷺と朱飛が交わした言葉を。


 ――そんな、それじゃあ朱飛は……!


 「……くっ!」


 その時。

 亜樹は油断していたのか、朱飛が素早く腕をひねってクナイを取り出し刃を放った。

 そして彼女はまんまと拘束から逃れると、すかさず亜樹へ第二攻撃を仕掛ける。

 無数のクナイが亜樹を狙ってとんだ。


 「亜樹様っ!!」


 すると、何故か灯乃は彼女を庇おうと、駆け寄る。

 けれど、到底間に合わない。


 ――私、もしかして凄く大変な間違いをしてた……!?


 灯乃は後悔の念を感じ、目をきつく閉じた。

 すると。


 ――キキィーーン!


 幾つものクナイが、何か硬いものにぶつかり弾かれた音がした。

 灯乃が恐る恐る瞼を開くと、


 「斗真……!」


 三日鷺の紅い鞘を構え、亜樹の前に立ちはだかる斗真の姿があった。

 灯乃はホッと肩をなでおろす。


 「叔母上、お怪我は?」

 「大丈夫、ないわ」

 「斗真様っ、何故庇われるのですか?」


 朱飛が不満げに顔を歪め、彼に訊ねた。

 するとそこへ薙刀を持った春明も現れ、その刃を朱飛へ向ける。


 「悪者があなただって、分かったからよ――朱飛」


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