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三日鷺~ミカサギ~  作者: 帝 真
第4章 思惑
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思惑・3

 「……なぁ、やめておいた方がいいんじゃねぇか?」


 亜樹の衣装部屋の外で、雄二は中の様子を気にしながらそわそわと待っていた。

 灯乃がはっきりと言い放った途端に、亜樹にここまで引っ張ってこられた二人。

 中では灯乃が、亜樹に手伝って貰いながらメイド服へと着替えているところだった。


 「大丈夫だよ。それに、学校休めって言ったのは雄二じゃない」

 「そうだけど、何でメイド服なんて着る必要があるんだよ?」

 「ついでだよ、ついで」

 「何の!?」


 雄二と漫才のような会話をしている中、灯乃はチラチラと亜樹の目を盗んで辺りを見回す。

 衣装部屋というだけあって、四方すべてが様々なジャンルの様々なサイズの衣装で埋め尽くされていて、これがすべて亜樹のコレクションだと思うと、灯乃は今後の生活に少し悍ましさを感じた。


 ――とりあえず衣装だけ、か。他に変わったところは無しかな


 灯乃は先程感じたにおいを思い浮かべる。

 生々しくて嫌なにおい……まるで血のにおいのようだった。

 けれど彼女が感じたのはほんの一瞬で、今は何も感じない。

 もちろん、この部屋でも。


 「何をぼーっとしてるの?」

 「え」


 そんな時、亜樹が灯乃の頭にフリルのカチューシャをつけて顔を向き合わせる。

 どうやら一通りセットし終えたようで、亜樹はやりきったと達成感に満ちあふれた笑顔を浮かべ、うんと満足気に頷いた。

 そして襖を開けると、雄二がいる外へと灯乃を押し出す。


 「わっ」

 「できたわよ」


 バッと勢い良く開かれた襖に雄二が振り向くと、そこから灯乃が飛び出し、思わずその身体を受け止めた。

 が、彼女の姿を見るなり雄二は一瞬硬直する。


 ――想像はしてたつもりだったんだが……


 「雄二?」

 「…………直視、できねぇ」


 雄二は灯乃から離れると、次第に真っ赤になっていく顔を彼女から逸らした。

 定番の黒のワンピースにフリルエプロンかと思いきや、上は花柄の小紋の着物に黒帯が巻かれ、下は紅いミニスカートにフリル前掛けといった和風メイド服だった。

 そしてそれらはしっかりと帯にしめ上げられているのか、くびれのラインがしっかりとあらわれていて、スカートからは彼女のスラッとしたふとももが見え、より肌の白さと細さを引き立たせる為か黒のニーソックスが履かれていた。

 ツインテールに束ねられた髪の上にはフリルのカチューシャがつけられ、味気ない使用人服とはまったく違って、完全に異性を意識した仕様となっていた。


 「ふふ、私の見立て通りだわ。凄く可愛いわよ、灯乃ちゃん」

 「は、はぁ……」

 「あ、そうだ。ちょっと待ってて」


 亜樹は機嫌良くそう言うと、何かを思い出したのか灯乃を残して中へ戻っていく。

 その一方で目のやり場に困りながらも、雄二は灯乃に訊ねた。


 「……お前、それ一日中着てるつもりなのか?」

 「えーと……駄目、かな?」

 「駄目に決まってる!! ここに野郎どもが何人いると思ってんだ!」

 「野郎どもって……?」


 呑気に構えている灯乃とは反対に、雄二は目を血走らせながら両手をワナワナとさせる。

 

 「だいたいお前、分かってるのか? 他の奴ならまだしも、斗真に命令されたら終わりなんだぞ!?」

 「え、終わりって何が?」

 「何がって、お前……」


 まったく気がついていない灯乃に対して雄二が言い難そうにしていると、そこへ大きな欠伸をしながら眠たそうにしている仁内が歩いてきた。


 「ふはぁあ……朝っぱらから何騒いでんだ……って、えぇっ!!??」


 方向的に雄二しか見えていなかったのか、突然彼の影からひょっこり出てきたメイド服の灯乃に驚いて、眠気どころか鼻から血しぶきも吹き飛ばして、仁内はすぐさま柱に隠れた。


 「あっあの、仁ちゃん……?」

 「なっなんで、んな格好してんだ!?」

 「え?」

 「灯乃、こういうことだ」


 なかなか学習できないのか、仁内の反応を見てようやく灯乃も気づいて赤くなる。


 ――私、こういうのって可愛い子が着るからいいのかと思ってた


 恐るべしメイド服、と灯乃は何処か勘違いした思考を持っていると、そんな時ふと斗真の顔が思い浮かんだ。


 ――それじゃ斗真も、もしかしたら少しは……?


 「お待たせ、灯乃ちゃん」


 その時、亜樹が部屋から出て来ると、ニコニコした様子で灯乃の頭からカチューシャを取り除き、代わりに新たなカチューシャと首にはチョーカーが付けられた。

 それは猫耳つきフリルカチューシャと鈴付き黒チョーカー。


 「あら、やっぱりこっちの方が可愛い。こっちにしましょう」

 「え」

 「「おいっ!!」」



 *



 結局、灯乃は学校を休み、残ることとなった。

 車には雄二と仁内の二人だけが乗り込み、運転手が車を発進させる。

 見送りは一人もいない。

 灯乃が残っていることを知られない為に、時間より早く二人は出たのだ。

 何故そうしたのか、単純に灯乃が恥ずかしがっただけだ。

 メイド服だけならまだしも、猫耳や鈴までつけられては流石の彼女でも人前には出難いようだった。

 これには雄二と仁内も妙に賛成して《むやみに出歩くな》と念を押していたが、どうせ見つかるのも時間の問題である為、亜樹は不満そうな顔をするも反対はしなかったのだった。

 そうして発進された車の中で。

 何処となくつまらなさそうな表情で、男二人は後部席に座り、互いに外方を向くように窓の外を眺めていた。

 

 「おい」

 

 そんな時、雄二が口を開く。


 「あ?」

 「お前まで登校して来てよかったのかよ? あいつがいないんだから、来なくてもよかったんだぞ?」


 雄二は仁内へ訊ねるが、二人とも相変わらず目線は窓の外だった。

 それでも会話する気はあるのか、そのままの態勢で仁内もまた口を開く。


 「仕様がねぇだろ、灯乃がてめぇを一人で行かせるなって言うんだから。てめぇこそ、襲われた次の日だってぇのにあいつ残して登校なんて、わざわざ出る必要あったのか?」

 「まあな。確かめたいことがあるんだ」


 雄二はそう言うと、胸元にある三日鷺の欠片を取り出し静かに握り締めた。


 ――大会、あいつに見に来て欲しかったんだけどな


 雄二の中で何か思うことがあるのか少し悲しみを覚えていると、学校に到着したのか車が停車する。

 校門の前でおろされ、《それでは》と運転手が車を発進させ帰っていくと、雄二は校内を睨みつけるようにして仁内に呟いた。


 「用心しろよ、仁内」

 「あ?」


 まさかこんなところから気を引き締めるとは思わず、余程のことがあるのかと仁内は何となく周辺を見渡していると、そこへちょうど登校してきたのか門から入ってくる一人の生徒を見つけた。


 ――それは肩に包帯を巻いている女生徒


 「え……?」

 「雄二、仁内君……おはよう、今日は早いのね?」


 みつりだった。

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