気持ち・4
「――灯乃に会って、俺はどうするつもりなんだ?」
朱飛に訊いて仁内の部屋へ向かう途中、斗真はずっと考えていた。
特に用はないのに、灯乃に会おうと探している。
――もしかして斗真君、灯乃ちゃんのこと好きになっちゃった?
「春明が変なことを言うから……」
斗真は小さく愚痴をこぼし、それでも灯乃に会いたい気持ちもあることに戸惑いながら、目的の部屋へとむかう。
彼女に対しては巻き込んでしまった負い目もあるが、共に協力してくれることへの感謝や尊敬も感じている。
しかし、そういった想いはあるがそれ以上はないと思う、思うのだが……
斗真は答えの出ないモヤモヤした気持ちを抱えながら、灯乃に会うのは気持ちを確かめる為だと、そう自身に言い聞かせて歩を進めた。
「仁内、灯乃はいるか?」
部屋に到着すると襖が開け放たれていて、斗真は返事を待たずに中を覗く。
すると次の瞬間、斗真は凍りついた。
中では灯乃と仁内が、ベッドの上で寄り添うように見つめ合っている。
しかも仁内は上半身が裸で、彼女の腕を逃さないとするように掴んでいた。
この状態で何もないなんて考えられない。
斗真は全身の血が逆流するのではないかと思うほどにカァッとなり、ズカズカと進入するなり仁内の手を払い除け灯乃から無理やり引き離した。
「斗真!?」
「来い!」
突然のことに驚く灯乃を余所に、斗真は彼女の手を引くと部屋の外へ連れ出す。
本当なら仁内の頰を一発殴ってやりたいところだが、それはできないし、何より殴れるほど灯乃と深い関係でもない。
寧ろ仁内の方が彼女にとって近い存在なのだとしたら?
そう考えるとゾッとして、斗真の手に力がこもる。
するとそんな彼を見て、灯乃は不安を覚えた。
「斗真っ、どうしたの? 怒ってるの?」
「どうしたのじゃないだろ! 何をやってるんだ、お前は!」
「斗真……?」
唐突に声を荒げて怒鳴る彼に灯乃は吃驚して、その表情に斗真はハッと我に返り、罰が悪そうに外方を向く。
――違う。おかしいのは俺の方だ。何をやっているんだ、俺は……
情緒不安定な自身の感情に動揺を隠せないでいると、そんな彼の額にそっと灯乃の手が添えられた。
労わるように優しく触れられたその温もりは、斗真を容易に惑わし、彼の頰を赤く染め上げる。
「斗真、大丈夫? ちゃんと休めてないんじゃない?」
心配そうに覗き込む灯乃の顔が目の前に現れ、斗真の鼓動がドクンと大きく跳ね上がった。
――何なんだ、この気持ちは。まさか、俺は本当に……?
「仁ちゃんにしてあげてたんだけど、斗真にもマッサージしてあげようか?」
「……え? マッサージ?」
そんな時、湿布もあるよと灯乃が斗真から離れて手元にそれを出し見せると、彼はきょとんとしながらもジロリと仁内を見た。
するとその視線をそらすように体の向きを変えて仁内はシャツを着直し、その様子にどうやら二人の間には危惧するようなことはなかったと斗真は察することができた。
だがホッとしたのも束の間、服を脱がせてまでするのには納得がいかず、再び彼に苛立ちが現れる。
「やり過ぎだ、灯乃。だいたい男の部屋に一人でとどまるなんて、もう少し考えろ」
「え? ……あ! えぇっ!?」
斗真の言葉で灯乃は気づいたのか、顔を真っ赤にさせて思わず仁内の方を見た。
彼も一応は年頃の男で、それなりに女の子を意識するのだ。
そんな話が耳に届いていたのか、赤面する顔を隠そうと更に背を向ける仁内に、灯乃は顔から火が出る思いで硬直した。
普段、気兼ねなく雄二の部屋に入り浸っていたせいで、そういった意識には無頓着だったのだ。
斗真が執拗にしなくていいと言っていたのが、ようやく理解できた。
もはや呆れ顔に近い表情の斗真を前に、連日にわたって大失態をおかしてしまった灯乃は居た堪れなくなってそのまま疾走する。
「ごっごめんなさぁーい!!」
去り際に湿布を落とし、しかしそれにも気付かないで逃げ去る彼女に、斗真と仁内は全身からハァと溜息をもらした。
仁内にいたっては、マッサージされる前より疲労感が現れているようだ。
そんな彼に、斗真は湿布を拾いながら厳しい口調で呟いた。
「お前も少しは言動に注意しろ」
「どうやってだよ? 俺はそれを制限されてんだ、文句があるならてめぇがしっかりあいつを見とけ。ご主人様だろうが」
脱力しきった様子で仁内は愚痴をこぼすと、深くベッドに倒れ込む。
――必要な人だなんて、簡単に言いやがって
一方で、斗真はムッとしながらも手の中の湿布に目を向けた。
仁内と同様に、斗真にもマッサージを提案してきた灯乃。
それはつまり、彼女の中で二人は同じ距離にいることを表している。
――あいつにとって俺は、仁内と同じ。男として見られていない
途端に斗真の中で虚しさがこみ上げ、そんな時、ふと仁内の部屋の《打倒斗真》の文字が目に入った。
以前とは違い、今は力がない自分。
灯乃の命令がなかったら、とっくに仁内に倒されているだろう。
弱くて、護ってもらっている惨めな現状。
そんな自分が男として見られる訳がない。
「「……はぁ……」」
二人ともが再び大きな溜息をもらした。




