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三日鷺~ミカサギ~  作者: 帝 真
第2章 学園生活
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学園生活・6

 「斗真!」


 灯乃は斗真に向かって走った。

 もう震えはしない、戦える。

 しかしそんな彼女が罠に飛び込んできたウサギに見えたのか、《例の彼ら》は灯乃を囲むように集中し攻撃を仕掛けてきた。


 「灯乃!」


 これでは確実に捕まってしまう、それに気づいた斗真が慌てて声をあげるが、灯乃に怯みはない。

 彼女の瞳が、翡翠色に輝いた。


 ――ザクッ!


 その瞬間、灯乃の背後から飛び出すように仁内が素早く戦斧を投げ放ち、彼女だけに気を取られていた奴らはあっさりとそれを受けてその場に崩れる。


 「灯乃……!」

 「斗真、迷惑かけちゃってごめんね。もう大丈夫」

 「おい、斗真。さっさとこいつに命令しやがれ」


 うまく合流を果たし、さっきまでの灯乃の様子とは一変しいつもの様子に戻っていることに安堵した斗真だったが、共に戻ってきた仁内のまるで彼女を理解したような態度に、途端に苛つく感情を覚えた。


 ――こいつが灯乃を正気に戻したのか!?


 「斗真?」

 「……もう大丈夫なんだな?」

 「うん!」


 斗真は三日鷺の刀を差し出すと、それを灯乃がしっかりと受け取った。


 ――この思いに、絶対応える!


 彼女から漲る意思の強さを感じて、斗真ははっきりと彼女に言い放つ。


 「灯乃、命令だ。奴らを斬れ」

 「御意」


 灯乃の目が、力強く開かれた。

 刃から炎が溢れ出し、彼女の姿を紅蓮の三日鷺に変える。


 その美しき焔の鳥は、風を切るように素早く飛んでいった。

 悪しき黒影を滅す炎を燃やしながら。


 「灯乃……」


 そんな彼女を見送りながら、斗真は密かに思いを翳らせる。

 灯乃の闇を拭い去ったのは、自分ではなく仁内だったことに嫉妬さえしているのかもしれない。


 「仁内」


 紅蓮の三日鷺が次々と敵を斬っていく中、斗真は仁内に語り掛ける。


 「灯乃に何と言ったんだ?」

 「別に。思ったこと、言っただけだぜ」

 「だから、何と言ったと訊いてるんだ」

 

 仁内はいつものように適当に言い返しただけの筈だったが、斗真が不機嫌になり、半ばムキになって再度追求してきた。

 どういう訳か、いつもの余裕や冷静さがないようにも見える。

 そんならしからぬ斗真を見て、仁内はきょとんとするが、何かを察すると途端に面白いものを見るようにニヤッと笑った。


 「さあな。てめぇで考えろ。ま、分かんねぇだろうけどよ」

 「何だと……っ!」

 「あぁ、絶対ぇ分かんねぇな。誰からも認められて必要とされて来た、そんな次期当主様にはよ」


 仁内は斗真にそう吐き捨てると、彼を朱飛に任せて雄二と春明の方へ歩いていった。

 斗真は皮肉ととれるその言葉に、グッと拳を握り締める。

 

 ――俺より仁内の方が、灯乃を理解した?

 彼女は、俺の三日鷺なのに……っ


 斗真は悔しい気持ちを胸に、戦う灯乃を見つめた。

 すると《例の彼ら》を討ち取っていく彼女の装束がまたしても白桜色に輝いているのに気づく。


 「やはり奴らを斬ると、白さを増すか。でもいったい何故……?」


 仁内や朱飛を斬った時と何が違うというのか。

 斗真の中で、それはすぐに答えが出た。


 「そうか、斬った相手が三日鷺であるかどうかか」


 斗真がそれに気づくと同時に灯乃が全ての敵を討ち終え、刀の炎を収める。

 既に傍観者となっていた雄二らもその終息に胸を撫で下ろし、雄二は気が抜けたようにぼやいた。


 「すげぇな、あいつ。俺たちの三日鷺の力とは、桁違いだ」

 「それが紅蓮の三日鷺ってことなんでしょうね。それより、アレはどうするつもりなの?」

 「え?」


 春明の声に雄二がそこを見ると、意識を失い眠っている6人の女子生徒達の姿が映る。

 

 「灯乃を虐めてた奴らか……」

 「てめぇのせいなんだから、てめぇが何とかしろよ」


 やって来た仁内が雄二にそう言うが、女子達の中で何かを見つけたのか、春明が二人にそれを見せる。


 「だから、二人のせいだって言ってるでしょ?」


 春明の手元には彼女達の携帯電話。

 その中で、灯乃と仁内が一緒にいる所を盗撮された画像が雄二達の目に飛び込んだ。


 「これ……」

 「……マジかよ」

 「あの子、学校にも居場所がないのね」


 仁内が苛々と地団駄を踏み、春明が律儀にその画像を消していく。

 別にどんな噂が立とうが構わないが、灯乃だけに危害が及ぶのは雄二も仁内も納得できなかった。

 雄二は白鷺のように白く優しく微笑む灯乃を悲しげな目で見つめる。


 ――どうしてお前は、誰も頼らねぇんだよ……


 「春明さん」


 雄二は、真剣な目をして春明へ向いた。

 その目の奥で、悔やんでも悔やみきれない、何もしてやれなかった自分が許せない、そんな感情が見え隠れしているのを春明は密かに感じ取る。


 「何?」

 「俺と仁内でこの場は何とかする、灯乃を早く送ってやってくれ」

 「勿論。そのつもりよ」

 「くそ面倒臭ぇが、仕方ねぇ」


 意外と仁内もすんなり承諾し、春明は早速車の手配を始めた。

 雄二に、本当はあなたのせいではないと一言言ってあげたいと春明は思うが、二人のせいだと二度も言ってしまった手前、なかなかその言葉を出すことができなかった。

 これがもし本当の女の子だったならば……灯乃だったならば、素直にそれが言えたのだろうか。

 そんなことを春明は思っていると、ふと仁内と目がかち合う。


 「……何?」

 「……別に。さっさと失せろ」


 何処か逸物含む仁内のその視線に春明も何かを察すると、足早にその場から去っていった。

 その光景に雄二は気になりはするが、考えても答えなど出る筈もない。

 仁内が小さく舌打ちし女子達の方へ歩き出すのを見て、雄二も続いた。


 「お前がすんなり言うこと聞くなんてな」

 「春明(あいつ)に処理させること程、胸糞悪ぃもんはねぇからな」

 「え?」


 一方灯乃は、斗真と朱飛と共に黒紅の影達の様子を窺い見る。

 すると一人の男が僅かながらに意識を取り戻し、斗真の方を見上げた。


 「……若……?」

 「やっぱり本家の人?」


 灯乃は彼の掠れた声を聞き斗真に訊ねると、間違いないと斗真は頷く。

 

 「灯乃、すまないが彼らに命令を。すぐにこの場を立ち去った方がいい。気は進まないが、一人ずつ支え運ぶより各々で動いてもらった方が早いだろう」

 

 斗真は申し訳なさそうにそう告げた。

 倒れた彼らの中には、負傷して一人で歩くのが辛い者もいる。

 そこでの命令は酷かもしれないと思ったが、だからといってのんびり一人ずつ気遣う時間はないと、斗真は思ったのだ。

 しかし灯乃は、そんな彼に想定外の答えを返す。

 

 「え、でも私――この人達の名前、知らないよ?」

 「……え? お前は全員の真名を()ったんじゃないのか?」

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