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三日鷺~ミカサギ~  作者: 帝 真
第2章 学園生活
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学園生活・5

 「なっ何、アンタ達っ」

 「部外者は立ち入り禁止なんですけど?」


 女子達は《例の彼ら》に話しかけるが、当然そんな言葉に返す筈もなく、彼らは倒れ込んでいる灯乃をまっすぐ見つめる。

 そんな見るからに怪しげな彼らに、女子達はたまらなくなって教師を呼びに走ろうとしたが、その時。


 ――ザッ!


 彼女達の足を止めるように、彼らの六方手裏剣が幾つも地面に刺さった。

 そして手甲鉤を構え戦闘態勢に入ると、殺気の交じる冷たい風を女子達に浴びせる。


 「な、何なの……!?」

 「だっ誰か!」

 「誰か助けて!!」


 たったそれだけでガタガタと足が竦み、腰が抜け、尻餅をつく。

 もう動けない。動けたとしても次はない。

 このままでは殺されると思った彼女達は、精一杯の叫び声をあげた。

 しかし、ひと気のない場所を選んでしまったことが裏目に出てしまい、声に気づいてくれるかは絶望的なものだった。


 どうしてこんなことになってしまったのか


 6人共がそんなことをグルグルと思考の中で繰り返すが、答えなど出ない。

 あまりに想定外すぎて、皆しっかりとした判断ができなくなっていた。

 そして黒紅の影達が駆け出し、彼女達に手甲鉤を振り上げる。


 「「「きゃあぁぁぁっっ!!!!」」」


 女子達の悲鳴が一斉に響き渡り、誰もがもう駄目だと思った、その時。


 「はあっ!」


 誰かに蹴られたのか、真っ先に駆け出した彼らの一人が真横へ吹っ飛ばされた。

 更には別の一人も攻撃を受けて倒れる。

 そんな音に、彼女達が恐怖で閉じていた目をゆっくり開くと、そこには雄二と仁内の姿があった。


 「雄二君!?」

 「仁内君!」


 二人が立ちはだかり、助けてくれたのだ。

 皆、安堵と喜びで全身の力が抜けたように、はぁと息を吐く。

 しかし、二人が助けたのはもちろん彼女達ではない。

 その奥に崩れている灯乃を、だ。

 雄二と仁内は一度戻ろうとはしたものの、灯乃が外にいる疑念が残って、捜索し直していたのだ。

 そんな時に、灯乃の感情の異常と頬に傷がついたことで三日鷺の力が一気に高まり、彼女のもとへと辿り着いたのだ。

 そのことと今の灯乃達の並びや握られたハサミを見れば、どうしてこんな所にいたのかが明白だった。


 「っ……灯乃っ」

 「何やってんだよっ」


 雄二と仁内は苦渋に顔を歪めるが、今は黒紅の敵と対峙しなければならない。

 憧憬の眼差しで見てくる女子達に舌打ちし て、体勢を立て直した敵に二人は構えた。


 「胸糞悪ぃもん、見せやがって。てめぇのせいだからな!」


 仁内は雄二に悪態をつくが、その時。

 ストンと背後から何かが着地する音が聞こえ、二人は振り返ると、途端に目を丸くする。


 「あなた達、二人のせいでしょ?」

 「まったくです」


 そこには当たり前のように春明と朱飛がいて、周りの女子達が何故か揃って眠っていた。

 どうやら一瞬のうちに、眠らせる成分のある粉を彼女達に嗅がせたようだ。

 その手際の良さに二人が驚いていると、奥で斗真が灯乃を抱き起こす。


 「灯乃、大丈夫か?」


 灯乃の頰の傷を見て斗真は眉をひそめるが、彼女を落ち着かせようと平静を装い、優しく訊ねた。

 しかしそんな彼の声は届いていないのか、灯乃は酷く動揺し、震えた声で小さくブツブツと呟く。


 「私は……いらない子。必要ない子……迷惑な子……」

 「灯乃?」


 そうしている間に、黒紅の彼らが攻撃を仕掛けてきて、雄二達は応戦する。

 しかし、やはり相手も三日鷺ということもあって苦戦を強いられ、灯乃の、紅蓮の三日鷺の力が必要だった。


 「灯乃、しっかりするんだ。お前は必要だ」


 斗真はそう言って三日鷺の刀を差し出すが、彼女の心には届かない。

 まるで頭痛を覚えたように灯乃は頭を抱え、横に振る。


 「私は、誰からも必要とされない。私は、認められない……邪魔な子」

 「灯乃……」

 「斗真様、彼女に命令を。ここには長く留まれません」


 斗真が灯乃の動揺に戸惑っていると、朱飛が近づく影達を遠ざけるように戦い、彼に助言する。

 幾らひと気がない場所でも騒ぎが広がってしまえば、いつか人が来てしまうのだ。

 長期戦はこちらにとって不利になる。


 「……くそっ……」


 皆を危険にさらす訳にはいかない。

 しかし斗真には灯乃の闇を残したまま、戦いを強要させることがどうしても拒まれた。

 斗真は酷く悔やむ。


 ――こんな時に、どうして俺には力がないんだ


 以前のような力が今もあったのなら。

 彼女を戦わせずに済むくらいのあの力があったのなら。

 己の無力さが恨めしくて、苦しかった。

 そんな時、朱飛の防壁をすり抜け、黒紅の影が彼に飛びかかる。


 「斗真様っ」

 「灯乃!」


 朱飛と雄二が振り返るが、彼らより早く仁内が動き、半月斧の刃が敵の手甲鉤を防いだ。

 それを見て雄二はふぅと安心するが、そんな彼の背後を今度は狙われ、それをギリギリで春明が薙刀で防ぐ。


 「油断しないで」

 「あぁ。サンキュー、春明さん」


 一方仁内は戦斧を構え、朱飛と共に斗真と灯乃の前に立つ。

 すると僅かな灯乃のか細い声が聞こえ、不愉快そうに彼は眉をつり上げた。


 「何やってやがる! さっさと片付けやがれ!」

 「……私は、いらない子。駄目な子……」

 「ちっ。マジ面倒臭ぇ」


 仁内は苛々しながら斗真を見るが、戸惑いからか指示を出す様子もない彼に更に苛立つ。

 そうしている間に敵がどんどん迫り、複数の影が斗真と灯乃を狙い、やむを得ず朱飛と仁内はそれぞれを庇い分かれた。

 攻撃を躱した斗真を援護する朱飛と、灯乃を抱え飛ぶ仁内。


 「くそっ、斗真から離しちまったら、こいつはただのお荷物なのに」


 仁内は斗真達から距離を取りすぎ苦い顔をすると、その言葉に反応してか灯乃の身体が更にガクガク震える。


 「私は、お荷物……」

 「あーもー余計なことだけ聞きやがって!」


 ――分からなくもねぇが……


 仁内は仕方なく《例の彼ら》から出来る限り離れた場所で灯乃をおろすと、静かに立ち上がり彼女に背を向けた。

 必要とされない寂しい気持ち、悲しい気持ち、惨めな気持ちを、分からない筈がない。

 その恐怖を――知らない訳がない。


 ――今でもずっと、俺はそれを抱えたまま……


 仁内は嫌な思いを考えてしまったことにハッとして大きく頭を掻きむしると、気持ちを落ち着かせるようにはぁと息を吐き、今度は冷静な目でゆっくり灯乃を見下ろした。


 「いい加減にしろよ、灯乃。てめぇ何様のつもりだ?」


 仁内は堰を切ったように、気持ちを吐き出す。


 「てめぇは紅蓮の三日鷺だろうが。この世でたった一人、三日鷺に選ばれた奴だろうが。何が誰からも必要とされないだ、ふざけやがって。しっかり三日鷺っていう、すげぇ刀に認められて必要とされてるじゃねぇか」

 「……え……」


 必要とされている、その言葉に灯乃は大きく目を見開いた。

 誰もなることのなかった紅蓮の三日鷺になれたことが確かな形として、灯乃に光を与える。

 決して上辺だけの言葉ではない。

 それを仁内が教えてくれた。

 灯乃の意識が、今しっかりと彼を見る。


 「逃げるんじゃねぇよ、灯乃。三日鷺から逃げちまったら、てめぇはマジいらねぇ奴だ」

 「仁ちゃん……」


 彼女の中の三日鷺の炎が、じわじわと熱を感じさせた。

 

 “忘れるな――我が選びし紅蓮の三日鷺”

 

 己の想いを。

 託した願いを。


 ――主を護る。斗真を護りたい


 「……そうだ、私は……!」

 「分かったなら、とっとと行きやがれ」


 背中を押すように発せられた仁内の言葉に、灯乃は完全に目覚めたように頷いた。


 「うん!」


 彼女の目に、初めて彼の姿が大きく映った瞬間だった。

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