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三日鷺~ミカサギ~  作者: 帝 真
第2章 学園生活
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学園生活・4

 「ちっ、外であいつの気配を感じやがる」


 仁内が全力疾走で部室へ飛び込み、外へ出る扉を勢い良く開けた。

 ちょうどその扉を突っ切った方が近道の気がして、仁内は灯乃の気配を辿ろうと外へ集中する。

 その間に雄二はロッカーのかばんから三日鷺の欠片を取り出し、首にそのチェーンを通した。

 すると途端に身体が震え出し、確信する。


 ――この震えは、灯乃のものだ


 「何であいつ、外なんかにいるんだよ? 迎えが来るにはまだ早いだろうに」


 雄二は焦りと苛立ちでグッと拳を握り締め、仁内の後を追って外へ出た。

 すると、苦い顔をしながら何故か四方を見渡し、行く先を定めきれていない仁内を見つける。


 「どうしたっ?」

 「はっきりと分かんねぇ。何でだよ」

 「えっ!?」


 その言葉に雄二も灯乃の気配を探ろうとするが、まるで頭の中に霧がかかったような、彼女のはっきりとした居場所が特定できない。

 いつもなら、危機が迫ればその分気配を感じ取れるようになるのに、今は中途半端な感覚で、更には三日鷺の力も、身体に漲ったような気がしない。


 「奴らに襲われてる訳じゃねぇのか?」


 彼女の身に何かが起こっていることは確かなのだが、いつもとは違う感覚に二人は戸惑った。

 しかし《例の彼ら》に襲われていないのだとしたら、いったい何だというのか。


 「俺らを呼び寄せる程の危機じゃねぇのか?」

 「じゃああいつ、一人で勝手に震えてるだけかよ。とんだ無駄足だぜ、焦って損した」


 雄二の呟きに仁内はふと思い立つと脱力感を覚え、その場に座り込んだ。

 確かにこの数日で色々なことが起き、一人になった今、彼女はそれを思い出してしまっているのかもしれない。


 ――彼女は強い子ではあるが、やっぱり弱いところもある普通の子


 そんな不安定な心情は当たり前のことだと、雄二と仁内はそう考え納得した。


 「……灯乃……」

 「あーやめたやめた、俺パス。気になるなら、てめぇ一人で行きやがれ」


 仁内はそう言って、疲れた身体をよいしょと立ち上がらせると、踵を返して元来た方へと帰っていく。

 慰めるというのは彼の性分ではないらしく、寧ろ気心知れた雄二の方が適任と思ったのだろう。


 「てめぇは、まだ便所だって伝えといてやるよ。慣れねぇもん食って腹壊したってな」

 「はあ? 勝手なこと、言うんじゃねぇよ」


 しかし雄二もまた、仁内と同じく道場の方へ引き返す。

 気にはなるが、今は側にいるよりそっとしておいた方がいいような気がしたのだ。


 「あいつ、強がりなとこあるし、迷惑かけるの気にするタイプだから。俺が部活抜け出して来たら、責任感じちまう」

 「……面倒臭ぇ」

 「その割には、お前もあいつのこと心配してるみてぇじゃねぇか。焦って損したんだろ?」

 「そっそんなんじゃねぇよ! 三日鷺のせいに決まってんだろ!!」

 「一応あいつは俺の妹みたいなもんだから言っておくけど――手ぇ出すなよ?」

 「…………は?」


 二人とも少し気が抜けたこともあってか、ゆったりとした足取りで肩を並べて歩いていった。


 *


 「――ねぇ唯朝さん、ちょっと痛い目みないと分かんないかな?」


 雄二達の安堵とは裏腹に、ハサミを持った女子生徒がそう言って、ゆっくりと灯乃に近づいていた。

 他の女子達も当然止めるようなことはせず、卑しい者を見るような目で灯乃を見ている。

 

 ――どうしよう……どうしたらいいの……!?


 灯乃の頭の中はパニックになっていて、まともな判断ができず、身体が凍りついたように動けなくなっていた。

 このままでは何をされるか分からない。

 隙を付いて、早く逃げ出さなくてはならないのに。

 そもそも三日鷺の力は引き出せるのだろうか。

 コントロールしきれていない現状では、やはり無理なのではないだろうか。


 ――駄目だ、できない。斗真が、斗真がいないと、私は……


 自信が持てなかった。

 仁内を動かしたのも無意識で、意図したものではない。

 なら助けを求めようか。

 ……いや、それもできない。迷惑はかけられない。


 光る刃がジリジリと迫ってくる。

 ……怖い。

 それは三日鷺の力を持った《例の彼ら》よりも。


 ――どうして?


 彼らを前にしても、ここまで震えることなんてなかったのに。

 絶対にこの女子達の方が弱い筈なのに。


 ――ドウシテ……?


 「アンタさぁ、前から目障りなんだよね」

 「学校に来ないでくれる?」

 

 女子達が口々に灯乃を中傷する。

 それはまるで自分達が正義だと言わんばかりに。


 ――目障リ……? 私ガ……?



 “……怖いんだもん。お母さんに、いらないって言われるのが”



 その瞬間、いつか灯乃自身が言った言葉が思い出されて、途端に彼女をおかしくさせた。


 ――私ハ、イラナイ子……?

 ――必要ナイ子……?

 ――迷惑ナ子……?


 今まで居場所がなかった自分。

 灯乃として母から名をよんでもらえなかった自分。

 そして学校でも……


 動悸が激しくなる。

 もう止まらない。





 ――私ハ、邪魔ナ子






 「……こ、来ないで……来ないで!!」


 ――バリィーーーン。

 灯乃の中で、何かが大きく割れた。

 それと同時に、彼女の頬をハサミの刃が掠め、ツゥーと赤いものが流れる。


 「来ないで? それはこっちの台詞だっつうの」


 耳元で女子が囁き、灯乃を押し転かした。

 他の女子達もそんな灯乃の周りに集まってきて、見下したようにクスクスと笑う。


 だがその時。


 ブワァッと大きな風がひと吹きした。

 女子達が一斉にそちらを向くと、


 


 「……みつけた。紅蓮の三日鷺」




 そこには黒紅の装束を真っ暗なマントで覆い隠した《例の彼ら》が立っていた。


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