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三日鷺~ミカサギ~  作者: 帝 真
第2章 学園生活
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学園生活・2

 それからの午前の授業も、雄二と仁内によって荒れた授業になった。

 国語では字の綺麗さを競って、互いが黒板に大きく字を書きなぐり、音楽では声の大きさを競って、完全音程無視の大音響を撒き散らす。

 体育に至っては、もはや二人でバスケをしているようなものだった。

 どの授業も仁内の方がつっかかるような発言をした後、口論になって競い合いが始まる。

 気づけば僅か半日で、仁内はクラスのトラブルメーカー、もといムードメーカーになっていて、彼の周りでは笑いが絶えないものとなっていた。

 そんな様子に灯乃は次第に後悔を忘れ、命令しなかったことに安堵さえ覚え始めた。

 短時間でその場に馴染める彼の良さを、命令で押し潰さなくて良かったのだ。


 ――雄二には少しだけ申し訳ないけど


 そして迎えた昼休み。

 授業が終わった解放感からか、生徒達の賑やかな声が一斉に広がり、校内が急に騒がしくなった。

 教室で弁当を広げる生徒もいれば、売店や食堂へ走っていく生徒もいる中で、雄二がおもむろに席を立ち、仁内に呟く。


 「俺、ミーティングだから。暴れるんじゃねぇぞ」

 「しねぇよ」


 雄二の一言で仁内がまた眉間に皺を寄せるが、それを気にする間もなく雄二が次の言葉を出す。


 「灯乃を頼む」


 彼は真剣にそれだけ伝えると、間が抜けたようなポカンとした顔をする仁内をよそに弁当を持って教室から出て行った。

 改まって頼まれると、何も言い返せない。

 仁内は小さく舌打ちすると、雄二が持っていったものと色違いの弁当を机の上に出した。

 それは亜樹が使用人に言って作らせたもので、灯乃も同じように持たされている。

 やはり格式高い緋鷺家の弁当となれば一瞬で一目につくのか、その豪華さにすぐさまクラスメイト達が仁内の周りに集まってきていた。

 だからなのか、灯乃は自身に用意されたそれを公衆の面前に出して良いものなのかどうか迷い、悩んだ。

 彼らと同じだと知れたなら、何かと面倒になる。

 無意識に溜息がもれると、そんな時、灯乃の携帯電話が静かに震え出した。


 「……あ」


 画面を覗くと《斗真》の文字。

 常に連絡が取り合えるようにと、互いの番号を交換したのだ。

 もっともいつまで使えるかは分からないが。

 灯乃はパァッと明るい表情を見せると、そそくさと弁当を隠し持ってひと気のない場所を探しに教室を出た。


 「――もしもし斗真?」


 灯乃は立ち入り禁止になっている屋上の扉の前までやって来ると、暗がりの中で斗真にかけ直す。


 『――すまない、かけても平気だったか?』

 「うん。ちょうどお昼休みになったところだから」


 どことなくウキウキとした様子で、灯乃は声を弾ませた。

 どういう訳か、斗真の声を聞くとホッとする。

 灯乃は少し気持ちがほっこりと温かくなるのを感じながら、その声に耳を傾けた。


 『そっちは何事もないか?』

 「うん。仁ちゃんがちょっと心配だったけど、今はすっかりクラスに馴染んでるよ。凄いね、大人気なんだよ」

 『そうか。暴れていないようで良かった』


 まるで肩の荷がおりたように、斗真は安堵の声をもらす。

 彼はとても心配していてくれたのだ。

 それがひしひしと伝わって灯乃はとても嬉しく思うが、それと同時に申し訳なくなる。


 「……ごめんね、斗真。無理にお願いしちゃって」

 『もういい、過ぎたことだ』


 斗真は灯乃達を心配して、樹仁達が決定した後になっても納得がいかず反対の意を示していたのだ。

 それを灯乃は自らが説得し願い出ることで、半ば強引に彼の賛同を得た。

 しかし出された条件はあった。


 仁内に灯乃を護らせる命令を出すこと。


 彼には斗真の盾となる命令が刻まれていて、側を離れることが出来ない。

 打ち消すには解除するか、以前朱飛が行った時のように、その命令より優先させるべき命令を出すかしかない。

 仁内のことを信じきれていない斗真は、解除する危険よりも新たな命令を課すことを選んだのだ。


 「仁ちゃんにも悪いことしちゃったかな」

 『あいつに気兼ねすることはない。それだけのことはやって来ている』

 「言葉って難しいね。ただ《護れ》だけなら離れられるのに、《盾になれ》だと離れられないなんて」

 『護るだけなら離れていてもできるからな。だが盾になるには、側にいなければできない』


 言霊の重みを知り、灯乃は僅かに気落ちする。

 ほんの少しの言い回しの違いで、言動が左右されてしまうのだ。

 命令する側も考えて告げなればならない。


 「私って、全然駄目だなぁ。皆に迷惑かけてばっかり」

 『そんなことはない。お前はよくやってくれている』

 「情報収集も出来てないのに?」

 『ああ、する必要はない。誰も期待していないんだからな』

 「そうかなぁ…………え!? そうなの!?」


 思わず聞き流してしまいそうになる程さり気なく言われた斗真の言葉に、灯乃は遅れて反応した。

 今、何と言った?


 『奴らの他に敵がいる可能性は極めて低いからな。でなければ朱飛達が前もって情報を掴んでいるし、まともに情報収集を行ったことのないお前達をかり出すような無駄な危険をおかそうなんて思わない』

 「う、言われてみればそうだけど、無駄とまで言わなくても……」

 『朱飛達の情報網に全く引っかからないという時点で、あの火事は奴らの仕業とみてほぼ間違いない。そんなこと、叔父上だって分かっておられただろうに』

 「じゃあ、どうして……?」

 『三日鷺だろうな』

 「え?」


 斗真の少し寂しげな声が一言答えた。

 三日鷺――たとえ同じ一族でも争わせてしまうもの。


 『叔父上は三日鷺を狙って、俺からお前達を引き離したかったのかもしれない。そうでなければあんな簡単に叔母上の口車に乗ったりはしないし、仁内を出したりしない』

 「斗真……大丈夫なの?」

 『お前が心配することはない。こちらのことはこちらで何とかする』

 「でもっ」

 『大丈夫だ。叔父上だってすぐに尻尾を出すようなことはしない、そう慌てなくてもいいだろう』


 色々と先のことを考えている斗真に、灯乃は関心しつつも罪悪感を募らせた。

 誰よりも大変な状況下におかれているのにも関わらず、こちらの心配をしてくれるなんて。


 「ごめんなさい。私、自分のことばかりで」

 『雄二のことを思ってのことだろ? それにお前だって慣れないことばかりで疲れている。慣れ親しい学校は安心するんじゃないか?』

 「斗真……」


 本当に優しい人だと、灯乃は思った。

 だからこそ、申し訳なさと役に立ちたいという思いが溢れ出す。

 自分に何が出来るかは分からないが、せめて迷惑だけはかけたくない。


 「ありがとう、斗真。必要ないかもしれないけど、私一応情報収集してみる。頑張ってみたいの」

 『……そうか。だが十分に気をつけろ、校外へ出る時は特にだ。ひと気が多くても見つかれば襲ってくると思え』


 斗真は灯乃の気持ちを察してか、頭ごなしに否定してやめさせることはしなかった。

 しかしそれでも心配性なところは言葉にあらわれ、しっかりと忠告してくる。


 『それともう一つ。朱飛達の情報網は大したものだが、例外がある。お前の姉のことだ』

 「お姉ちゃん?」

 『彼女に関しては情報を得られなかったと言っていたな。もしあの火事、唯朝 陽子が関わっているとしたら?』

 「まさか。だってお姉ちゃんはもう……」

 『あくまで可能性の話だ。お前だって気になっているんだろ?』


 陽子のことを密かに気にしていたことまで斗真に見透かされていて、灯乃は恥ずかしさで少し頰を赤くする。

 本当に彼には隠し事や悩み事はできないなぁ、と灯乃は小さく笑った。


 『探ってみてもいいと思うが、無理はするなよ。間違っても一人にはなるな、いいな?』

 「うん。心配してくれてありがとう。斗真も気をつけて」


 互いに気遣う言葉をかけると、そこで通話を終えた。

 灯乃はふぅと息をつき、そっと携帯電話をポケットにしまう。

 斗真と話すと、つい甘えてしまう。

 本当は、色んな問題を抱えている彼だから、手助けしてあげたいのに。


 ――私が斗真を護ろうと思っているのに


 いつも励まされてばかりで、そんな彼に比べて、どこで弁当を食べようかで悩んでいた自分が酷く小さく思えて、情けなくなる。


 「私って、ホント駄目だなぁ」

 「まったくだ」

 「えっ!!??」


 急にある筈もない声が返ってきて、灯乃はビクッと身構えた。

 声のした方を見ると、仁内が壁にもたれるようにして座り、当たり前のように弁当を食べている。


 「仁ちゃん、いつの間に!?」

 「お前、勝手にうろうろすんじゃねぇよ」

 「教室で食べてたんじゃないの?」

 「あんなとこで食えるかよ」


 どうやらクラスメイト達に群がられ、逃げてきたらしい。

 脱力したような疲れた表情の彼に、灯乃は思わずクスッと笑った。


 「人気者になれて良かったね」

 「良くねぇよ! 馬鹿にしやがって!」

 「そうかなぁ。ちょっと羨ましい気もするけど」

 「はぁっ!?」

 「だって、ここにいることを認めてもらってるっていうか、必要とされてるっていうか」

 「あ? お前何言ってんだ?」

 「うっ、何って……」

 「んなことより、今の斗真だったんだろ? 何話してたんだよ」


 ぶっきらぼうに仁内が言うと、灯乃は少しムスッとしつつも、そんな彼の隣に腰を下ろして同じように弁当を広げ、食べながらも斗真が心配してくれていたことを話した。

 さすがに樹仁の話はしなかったが。

 そんな灯乃をこっそり一瞥しながら仁内は思う。


 ーー認めてもらってる? 必要とされてる? ふざけやがって……


 そんな肩を並べて話す二人の姿は、周りにはどういう風に見えていたのか。

 見られないようにしていた筈の二人を隠れて見ていた視線があった。

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