93頁:基本戦法は『命は大事に』です
黒い、腕のない魔女の姿をしたものがプレイヤーの一人を喰い終わったとき、一番早く動き出したのは赤兎だった。
「オーバー50『ドラゴンズブラッド』!!」
固有技『ドラゴンズブラッド』を発動し、ダメージを受けない『無敵モード』なり、強化された速力、筋力で威力をブーストした斬撃を繰り出した。
しかし……
スカッ
その一撃は、空を斬るように、煙を斬るようにすり抜けた。
「なに!?」
驚く赤兎。
だが、仰天している暇もなく、黒い魔女が口と思われる部分をまたも大きく開き、赤兎に牙をむける。腕がなく、腰などの関節を感じさせない動きは蛇のように見えた。
その姿に、赤兎は悪寒を感じる。
『ドラゴンズブラッド』を発動しているときは基本的にダメージは受けない。それゆえに、反撃を警戒せずに全力をたたき込めるのが、この技の強みだった。
しかし、赤兎は直感的に全力でしゃがみ回避して、胸をねらったと思われる噛みつきを避けた。
しかし、牙がかすった肩が『もっていかれた』。
赤兎はHPダメージを受けない状態だ。
事実、HPは減らなかった。
しかし、攻撃を受けた部分のアバター『そのもの』を削られた。
たとえどれだけHPが残っていようが、首を丸ごと削られれば……プレイヤーは必ず死ぬ。
黒い魔女が赤兎から目を離し、また次の目標を見つめる。
その先にいたのは……ゲーム初期から赤兎とパーティーをよく組んでいた、元TGWのメンバー。
「やめろぉおおおお!!」
赤兎の目の前で、仲間の命が消し飛んだ。
《現在 DBO》
草原にて。
ひたすら、攻撃を避け続ける。
刀を抜いて反撃してしまいそうな反射を押さえつけ、避ける。
そして、段々と攻撃をギリギリでかわすようになり、遂には侍装束に掠り始める。
そして、とうとう攻撃が当たり、ダメージが発生する直前で……
「んりゃあ!!」
腰の刀を抜き、一撃の下にモンスターの首を両断する。
だが、まだ終わらない。
「まだまだ!!」
刀を素早く鞘に納め、空中の首をさらに真っ二つにし、さらに返す刀で両断する。
地に落ちた首は、四つに割れてから消滅した。
そして、首をなくした身体は自身の死すら気付かなかったかのように数歩前へ出て、それから消滅する。
それを見た赤兎は、達成感を全く感じていないような口調で呟いた。
「……こんなもんか」
攻撃を『防御せずに回避だけでやり過ごす』という戦い方には慣れてきた。
回避しながら接近し、決定的な瞬間に高威力の連撃を叩き込む動きも身体に覚え込ませた。
装備も機動力を優先し、具足などの防具はほとんど装備せず、レアアイテムの滝に登る龍の絵が描かれた着物だけ。素の防御力は高いが、防御などする気はほとんどする気はないのだ。
『予行練習』は、もう城の中のモンスターで十分なはずだ。
そろそろ……
「おいおい、お通夜みたいな顔してるな。大丈夫か?」
赤兎は、声のした方を見た。
そこにいたのは、日に焼けた帽子をかぶり、空色の羽織りを着た長身のプレイヤー……ライトだ。
「……相変わらず、変な格好してんな」
「第一声がそれか!? てか、とうとう赤兎にまで言われたか……まあ、それは置いといて、ナビキから聞いた。葬式に出なかったそうだな……TGWのメンバーも死んだんだろ。お別れしなくていいのか?」
「……お前に関係ないだろ」
ライトとはそれなりに長い付き合いのつもりだが、いまだに彼の考えてることがよく分からないことが多い。
表面上は目先のことに全力で対処してるようにみえるが、時々赤兎には推し量ることのできない遠い『先』を見つめているように見えるのだ。
おそらく、自分と違って頭が良いのだろう。自分より年下の少年でありながら多様な技術と揺るぎない精神を持ち、ボス戦などではとても頼りになる。
だが、それが却って今の赤兎を苛立たせる。
「確かにオレには直接関係することじゃないかもな。オレのフレンドの中には死んだやつはいなかったし、友達の友達の死に涙できるほど感傷的でもない。」
合理的で葛藤がなく、
「だが、友達が仲間の葬式にも出ずにモンスター相手に変なことしてるって聞いたら心配するだろ」
自身の心をいとも簡単に表現できて、
「まあ、マサムネから話聞いて大方考えてることはわかってる。ギルドの方針が魔女への不干渉に決まったから、ギルドをあげての敵討ちができなくなったから、自力で魔女を倒そうとしてるんだろ。だが、赤兎だってわかってるはずだ……『魔女』は、根性や勢いで倒せるような相手じゃない。赤兎のしようとしてることは、自殺行為だ。それは勇気とは呼べない……ただの無謀だ」
他人の心すら見透かしたように理解し、
「だが、オレとおまえの二人でなら話が別だ。一応、魔女に対抗する策もある。無謀な『特攻』は誰も喜ばないだろうが、ちゃんとした『攻略』で倒せば、それは立派な『敵討ち』になる。オレにも、〖飽食の魔女〗の攻略を手伝わせてくれ」
どこまでも……白々しい。
「ライト……策があるって言うなら、なんで先に言わなかった」
本当はわかっている。
ライトは、ちゃんと論理的に考えて行動しているのだ。魔女の倒し方を知っていて隠していても、それにはちゃんとした理由があって、それを説明できる。
それに、今回ライトに一言も断らず魔女の城を攻略しようとしたのは赤兎達戦闘ギルドだ。
マサムネが『攻略連合』との関係の悪化を危惧してあちらの『外部に情報を洩らさない』という条件を協力の代償として呑み、それに従ったのは赤兎だ。
「それは悪かったと思う。だが、オレが知らないうちに魔女にぶっつけ本番で挑むとは思わなかったんだ。先に情報が広まると、『楽に』魔女を倒せると思って先を争うように攻略されるかもしれないと思ったんだ……魔女の城に突入する直前に、レイドリーダーに教えるつもりだった。」
ライトの答えは実にはっきりとしていて、わかりやすくて、まるで模範解答のようだった。
だが……
「今度は城のモンスターの情報もマップも手には入ってるし、魔女自体の攻撃もアレックスから聞いて知ってる。これなら、オレたちだけでも十分勝算がある。オレを信じてくれないか……それと、攻略法を黙ってたことは謝る」
「なあライト、お前は謝るな。悪いのは全部俺なんだ……これは、俺の問題だ。」
赤兎は、ライトの手を拒んだ。
ライトは、驚いたように赤兎を見つめる。
「赤兎……いくらなんでもおまえだけのせいじゃないだろう。百人近くもいてそれでも勝てなかったんだし、赤兎は指揮官でもなかったんだ。責任なんて……」
「違う、俺……何となくわかってたんだ。魔女には敵わない……進んじゃいけないって感じてた。けど、それを他の誰にも言えなかった。せめて警戒するように言ってれば犠牲はもっと少なくて済んだかもしれない。それに、オレは相手が即死技を使うってわかって……すぐ逃げたんだ……仲間が喰われてるのを後ろに、ひたすら扉を攻撃してた。本体を攻撃するのに集中してれば勝てたかもしれないのに、俺が扉を壊そうとしだして他の皆もそれに続いて……結局ボスも倒せず退却じゃ、死んだ三十人も無駄死にだ」
赤兎の表情はライトが今まで見たことなかったほど暗かった。
そこにあるのは後悔と……自分への怒り。
「……だからって、自分も無駄死にするつもりか? そんなことしたらアイコが悲しむぞ」
「別に無駄死にするつもりはないさ……差し違えることはあるかもしれないけどな」
その目は全く嘘を言っていない。
本気で、ボスと差し違える覚悟だ。
「本気で一人で行く気なのか? 馬鹿なのか?」
「馬鹿で結構だ……これは、俺の戦いだ。誰にも……ライトにだって邪魔させない」
ライトは赤兎の動かぬ決意に呆れたようにため息を吐く。
「『危険な戦いに巻き込みたくない』『オレ一人で十分だ』……いつも周りから注意される考え方だが、実際やられると……結構腹立つな」
赤兎は、呆れながらも全く退く気配を見せないライトを睨む。
ライトは射抜くような赤兎の視線を正面から見つめる。
もう、そこには探り合いなどありはしない。
「……ライト、お前が止めても俺は行くぞ。そこを退いてくれ」
赤兎は腰の刀に手をかける。
『退かなければ斬る』という意思表示……脅しではないのは、超能力など使わなくてもわかるほどの敵意が滲み出ている。
そして、ライトは……全く怯んだ様子もなく口を開いた。
「赤兎、オレがおまえに最初に会った時に言おうとした言葉を憶えてるか?」
「さあ、何だったけな」
「あの時は最後まで言い切れなかったし憶えてなくても無理ないかもな……だから、この機会にもう一回ちゃんと言おうと思う」
ライトは、腕を左右に伸ばし、叫んだ。
「此処を通りたくば、我が屍を越えてゆ」
「うりゃぁあ!!」
戦闘が開始された。
「玉乗りスキル『ベストバランス』気功スキル『パワーブースト』荷運びスキル『リフティング』……メイススキル『メガインパクト』!!」
「うぉりゃあ!!」
ライトがいくつものスキルでブーストした巨大な骨棍棒と赤兎の刀が激突し、拮抗する。
そして……
バキッ
「チッ」
武器が力比べに耐えられず中ほどで砕け、ライトはそれを捨てて跳び下がりながら懐に手を差し入れる。
「手品スキル『インナーポケット』釣りスキル『フィッシングポイント』鞭スキル『パイソンテイル』!!」
「うらっ!!」
ライトは先にアンカーのついた鞭を懐から出して赤兎に振るうが、赤兎はそれを空中で一刀両断する。
「やっぱり今の赤兎相手じゃこれくらいでは歯が立たないか……」
赤兎から距離を取ったライトは切断された鞭を見て呟く。
これらの武器は、元々ゲーム初期で苦戦したクエストボスクラスのモンスターのパーツから作ったアイテムだ。レベル制RPGの宿命として戦闘のレベルが上がって元のままの強力さでこそないが、ライトも生産系スキルで強化している。本来は、一合で壊れるようなことはそうそう起きはしない。
だが、相手が問題なのだ。
赤兎は、現在プレイヤー中で最強と言われるほどの強者。
『剣術スキル』を攻撃手段とし、遠距離攻撃系スキルや生産系スキルなどは一切排してその分のポテンシャル全てを基礎的なステータスにつぎ込んだ近接白兵戦特化型のプレイヤー。その真の強さは、本人の愚直なまでの努力によって鍛え上げられた戦闘技術に起因する。むしろ、ステータスやスキルなどと言うものは彼の戦闘能力をゲーム的に活かすためのものに過ぎない。
赤兎は小細工なしに単純に『斬る』という戦い方に命を懸けている。
そんな赤兎が、一時期悩んでいたことがある。
それは、『対人戦には強すぎる』ということだった。ただ単純に倒すだけの対象であるモンスターを相手にするときには問題ないが、プレイヤーの盗賊などから身を守るとき、攻撃力が高すぎると相手を殺してしまうかもしれなかった。
そこで、赤兎はそれを修行と努力で解決した。
『武器破壊スキル』……そして、赤兎自身による武器を使うモンスターを相手にした何千回という反復練習により、赤兎は高確率で相手の武器の一番弱い部分を狙い破壊するという技術を手に入れたのだ。
さらに、赤兎の使用する武器は高難易度なクエストの報酬≪剛刀 黒金≫。
特殊能力を一切持たない代わりに驚異の硬度を誇る業物の日本刀。
より硬い武器で、より精確な一撃を相手の武器の急所に叩き込むことによって、赤兎は相手の武器をへし折り、相手を殺さずに勝つことができるようになった。
もはや、赤兎は基本的な通常攻撃が必殺技に匹敵するのだ。
「普通は武器破壊なんてよっぽど運がいいか相当に武器にダメージを与えて初めて実現するんだろうが……それをただただモンスター相手に繰り返し挑戦し続けて、狙って発生させることができるようになるなんて本当に常識はずれだ。おかげで『ボスラッシュ』のシリーズが壊滅したぞ」
周囲に転がる壊れた鎧、法螺貝、盾、牙の短槍、棍棒、鞭など武器の数々。
しかし、全て斬られて使い物にならない。
だが、ライト自身はダメージを受けていない。
ライトは赤兎の破壊力をわかっていて、武器が破壊されるのを計算に入れて戦っている。その点では、戦闘はライトの計算通りに進んでいるためライトの劣勢とは言い切れない。
だが、やはりライトが優勢というわけではない。現在のところ、ライトは赤兎相手に押し切れていないのだ。
「そこを退けよ」
赤兎は剣先をライトに向け、睨みつける。
「ここまでは武器破壊で勘弁してやってた。けど、今度は直接斬るぞ」
それは警告だった。
ライトに剣を向ける姿には迷いがなく、隙もない。
赤兎は本気でライトを斬り伏せてでも一人で魔女に戦いを挑むつもりなのだ。
赤兎とライトの戦いは
だが、ライトは赤兎の言葉を聞き、答えた。
「赤兎、本気で来い。殺す気で、真正面からオレを突破しろ。もちろんオレも全力を出す……もしオレに止められたら、魔女攻略はやめてもらうぞ」
「本気の俺を止められると思ってるのか? オレのユニークスキル知ってるんだろ?」
「称号『先駆者』……そして、そのユニークスキル『先陣スキル』だろ。遠慮せず、使えるもん全部使えよ……オレも、そうするつもりだから」
ライトはさらに距離を開き、100mほどの距離を取る。
それに対して、赤兎は文句を言わない。
むしろ、それに合わせるように刀を腰だめに構え、突き出す準備のような姿勢を取る。
互いの感知能力があればこのくらいの距離でもなんと会話できる。
話し合いの限界距離。
「ありがとよ、わざわざ助走距離を用意してくれんのか」
「勘違いすんな、このくらいの距離がないと瞬殺されるからな」
ライトは、右手を前に突き出して技名を唱える。
「オーバー50『ツールブランチ』」
ライトの手に細長い『枝』が出現する。
「じゃ、ウエスタンスタイルでいいか? これが地面に落ちると同時に攻撃開始だ」
そう言って、ライトは枝を持つのと逆の手でどこからか取り出したコインを摘まんで見せる。
「いいぜ……それっぽい」
「じゃあ、いくぞ!」
ライトはコインを指で高くはね上げる。
「行くぜ……先陣スキル『正面突破』オーバー50『ドラゴンズブラッド』オーバー100『ドラゴンフレア』!!」
最初のエリアボスに止めを刺したプレイヤーに与えられるユニークスキル『先陣スキル』。
先陣スキル『正面突破』
障害物や妨害に対する突破力を強化する技。
オーバー50『ドラゴンズブラッド』
筋力、速力を強化し、ダメージを受けない『無敵モード』になる技。
オーバー100『ドラゴンフレア』
斬撃の当たり判定の範囲を拡張し、流体、広範囲攻撃も斬れるようになる技。。
どれも赤兎のみに使える強力な技のコンボ。
全身にエフェクトを纏い、赤兎はどんな障害でも正面突破する弾丸のようになる。
対して、ライトはコインが地面に落ちるのと同時に口を開いた。
「いくぞ……」
弓術スキル『ロックオン』
一点に正確に狙いを定める技。
指揮スキル『アレグロモデラート』
コンボの連結速度を速める支援技。
歌唱スキル『ボイスチャージ』
声を溜める技。
木管楽器スキル『ハイパーノイズ』
音を飛ばして攻撃する技。
打楽器スキル『ボリュームカノン』
打撃を太鼓で衝撃波として遠距離で飛ばす技。
鋳造スキル『リロードボール』
所持する金属素材から鉄球を複数生み出す技。
偽造スキル『マトリョーシカ』
サイズ違いのコピーを作成する技。
鍛冶スキル『一撃入魂』
金属武器の攻撃力を一回分だけ上げる技。
効果付加スキル『ランダムエンチャント』
武器に一時的にランダムで特殊効果を付加する技。
ジャグリングスキル『ボールキープ』
アイテムを空中で回転させておく技。
投擲スキル『スロウ120』
時速120kmほどでアイテムを投げる技。
野球スキル『殺人ノック』
弾をバットで連射する技。
サッカースキル『殺人シュート』
弾を蹴り飛ばして的に当てる技。
テニススキル『殺人スマッシュ』
弾をラケットで高速で打ち出す技。
バレーボールスキル『殺人スパイク』
弾を手で高速で打ち出す技。
卓球スキル『殺人サーブ』
弾を高速でバウンドさせながら打ち出す技。
火起こしスキル『バーベキューフレア』
松明から火を浴びせかける技。
扇スキル『ウインドフレア』
扇から強力な風を相手に浴びせかける技。
消火スキル『ホースフレア』
ホースから高水圧の水を浴びせかける技。
保存スキル『クールフレア』
団扇で冷風を浴びせかける技。
組み立てスキル『インスタントビルド』
高速でブロックで壁を作るスキル。
忍術スキル『畳返し』
地面をめくり上げる技。
調合スキル『ドラッグショット』
強酸を浴びせかける技。
糸スキル『インビジブルネット』
糸を網状に張る技。
綾取りスキル『輪郭造形』
糸で作った物を立体的に構築する技。
採掘スキル『ロックピアース』
ツルハシで鉱物の弱い部分を突く技。
木工スキル『ジグゾーシーソー』
武器を前後させて同じ場所にダメージを蓄積させる技。
研磨スキル『荒削り』
相手の武器の切れ味と耐久力を削る技。
武器破壊スキル『修復失敗』
武器を耐久力を大幅に削る技。
EXスキル『オール・フォー・ワン』
スキルを多く修得しているほど威力の上がる技。
赤兎が弾丸なら、ライトは弾幕だった。
音が、鉄球が、火が、風が、水が、冷気が、壁が立ちはだかる。
それを空中で両断し打ち消しながら、勢いを失いつつも突き抜けた赤兎に、近距離からの連撃が注がれる。
両者の技は正面からぶつかり合い、打ち消し合い……
全てを正面から打ち破った赤兎の《剛剣 黒金》が、柄までライトの胸に突き刺さり、ライトは派手に吹っ飛ばされた。
「ガァッ!!」
ライトを吹っ飛ばしてその向こう側まで駆け抜けた赤兎が、倒れたライトに対して振り返らずに言う。
「相変わらずすげえスキルの数だな……お前と本気でやるのは初めてだったが、正直ここまでとは思わなかった」
そう言って、赤兎はライトに突き立てた刀を見る。
「まさか……最初から俺じゃなくて俺の『刀』だけを狙って来るなんてな」
赤兎の手に握られているのは、鍔から数センチの所でポッキリ折れている。
そして、赤兎の『突進』によって吹っ飛ばされたライトは凄まじい衝撃を受けた胸を押さえながら笑う。
「おまえはオレより強い……仮にまぐれで今回は勝てたとして、それでお前が魔女攻略を諦めてくれる気がしないからな……いくらおまえでも、そんな鈍刀では魔女には挑めないだろ」
ライトは、最後の攻撃で折り掠めとった刃の部分を赤兎に投げ渡す。普通は壊れた武器は使い物にならないが、さすがは剛剣……繋げられそうなほど綺麗に折れている。
ライトの攻撃は、赤兎を倒そうとするものではなかった。
赤兎自身は『無敵モード』でダメージが通らず、そのステータスは技での強化もあって正面から止めるのはライトでは不可能に近い。
だが、赤兎の使う武器は別問題だ。
いくら《剛剣 黒金》と言えど、耐久力は無限ではないし、生産・支援のスキルもない赤兎では強化は武器には及んでいない。
そして、当たり判定が拡張された状態では赤兎が『回避』さえしなければ全て攻撃のダメージが刀に蓄積される。
重ねて、赤兎の刀は魔女の城の攻略から使い続けて、それからもモンスターを一撃で仕留める修行のために振るい続けて、加えてライトの自分の武器の負担を顧みない『ぶつけ合い』で消耗していたのだ。
パワータイプのプレイヤーの武器は負担が大きくて壊れやすい。赤兎のパワープレイに、武器が耐えられなかったのだ。
「赤兎、おまえはマジで強いな……つか、本気で胸刺すなよ……死ぬかと思ったぞ」
「お前なら死んでも生き返るスキルくらいあるかと思ったからな」
「流石にねえよそれは……死んだらそこまで、それはプレイヤーの共通ルールだ。だからデスゲームでは『ガンガン行こうぜ』なんて作戦は作戦とは呼べない。仲間を殺されたくらいで特攻なんて考えんなよ……アイコが心配してたぞ。恋人置いて一人で死にに行くとか、おまえらしくない」
ライトの言葉に、赤兎は呟くように答える
「……あいつには会わせる顔がねんだよ。それに、連れて行くなんてとんでもない」
ライトは、赤兎の本心を察したように、赤兎の声を真似る。
「『今回はアイコがいなかったからいいものの、いたら守りきれなかったかもしれない。もしかしたら、アイコが襲われていても逃げてたかもしれない。そんなことを考えてしまうような自分を、アイコには見せられない』……そんなところか。この見栄っ張りが」
「悪いな……俺は馬鹿なんだよ」
「確かにおまえは前から馬鹿だ……だが、今はその馬鹿を通り越して阿呆だよ。予知が出来ても未来を思い通りに出来ない、予知できていたのに止められない……そんなこと、良くあることだ。過去ばっかり見て後悔してないで、未来を見て生きなきゃ、やってられないぜ?」
ライトは経験者のように語る。
その目には、一面の曇り空が映っている。
「オレだって全部思い通りになってるわけじゃない。オレが平気なふりをして、ハッピーエンドを装ってるだけで、全部は上手く行ってないんだ。終わりよければ全て良しなんて言うが、終わりなんてなかなか来ないんだぜ? てか、簡単に終わらせちゃいけないんだ。」
かつて、殺人鬼の卵がいた。
心に刃を隠した彼女を人の悪意から遠ざけ、その目覚めを止めようとしたが、彼女は手の届かない場所で目を離した隙に目覚めてしまった。
その結果、影響は広がり、被害者は四十人を超えた。
人間は全知全能ではないのだ。
手の届かない場所まで目が届く。
だが、目の届く場所まで手が届かない。
届いたとして、全てに向かって手を伸ばす事など出来ない。
そして、差し伸べた手を相手にとってもらえるとは限らないのだ。
「生きて帰れたら、その時はちゃんと謝るよ」
赤兎は、振り返らずに歩き去っていった。
そして、ライトは一人で残され、誰に言うでもなく呟く。
「あの刀に赤兎は愛着あるだろし、修理するんだろうな……普通ならあんだけやれば直すのは材料集めとか高レベルの鍛冶屋探しで一週間はかかりそうだが……赤兎だからな……」
予想を上回って材料が簡単に集まって刀が早く直るか、それとも前以上の武器を見つけるかはわからないが、おそらくそこまで長くはかからないだろう。赤兎はそれだけの主人公のような幸運を無意識に引き当てる能力を持っている。
ならば、その前に策を講じなければならない。
「『vs.主人公』か……勝てる気がしない……正直エリアボスを単独撃破する方が楽な気がするくらいだよ、全く」
ライトが空を見上げていると、何か白いものが舞い降りてきた。
これは……雪だ。
どうやら、クリスマスまでには自動的に雪が積もってホワイトクリスマスになるように天候が設定されているらしい。
「……今年は、忙しいクリスマスになりそうだな」




