90頁:仲間との交友を深めましょう
『オフィシャルバトル』
使用者……キング。
条件つきでアイテムの所有権を移動する技。
その条件とは相手の了承のもと『賭』の契約を行い、『決闘の勝敗を予想』『時間内のモンスターの討伐数の対決』などで行われた賭の賞品を自動的に移動させる。(転移などでの逃亡不可)
キング曰わく、
「賭け金を踏み倒しされないから便利だぜ」
「昔、実は魔法少女になりたかったんだよね」
ある日、ミカンは唐突に言った。
正記は部室でテスト対策に公式の暗記をしていて、ミカンはホログラムのゲームをしていたが、なんの脈絡もなかった。
強いて言うなら、ゲームの内容が『銃火器で敵の魔法使いを抹殺する』という少々マニアックなゲームだったことくらいであろうか。
正記は反応しないと物理攻撃が来ると知っているので気のない返事をした。
「そうですか……なれましたか?」
「ううん、なれなかったよ。」
そこまで言って、ミカンは『才能がなくてね』と付け加えて小さく笑う。
「別にフリフリの服が着たいとか、格好いい技がほしいとかじゃなくて、本当にただ単純に魔法が使いたかったんだよ。マッチ一本分の火をつけるだけでもいいから、魔法を使いたかった」
「……珍しいですね、師匠がそんなこと言うなんて。そんなふうに、諦めたような事を言うのって」
「実際諦めたからね……でも、おかげで気づいたこともあったの。」
「諦めて気付いたこと、ですか?」
ミカンは、ゲームの中でバズーカ砲を使い、魔力弾を飛ばしてくる魔法使いを消し飛ばしながら話す。
「魔法で作った火も、マッチで作った火も、石を打って作った火も、超能力で起こした火も……全部同じなんだって気付いたんだよ。そう思った途端、魔法少女を羨ましいとは思わなくなった……手段が偽物でも、同じ事が出来ればいい。だから、今はこう思うよ」
ミカンは強く言った。
「『どんな』力であるかより、その力を『どう』使うかが大事なんだよ。本当に力を使いこなせたなら、人間は魔法にも神様にも勝てる……ねえ、そう思わない?」
《現在 DBO》
12月21日。
デスゲーム開始から約半年。
犠牲者数……約1000人。
攻略済みエリア……9つ。
『火山の国』……『土鍋の街』にて。
「ぐはっ……まさか、伏兵なん……て」
黒ずきん(ジャック)が致命的なダメージを受け、膝をつく。
「諦めなさい、現実とは残酷なものなのよ」
スカイが達観したように言う。
「黒ずきんちゃん……」
マリー=ゴールドが慰めるようにやさしく黒ずきんを見つめる。
「黒ずきんちゃん、逃げたら駄目だよ。真実を受け止めないと」
ホタルが同情するように言う。
「だ、大丈夫……ですか?」
ナビキが予想以上に傷付いた黒ずきんにどうしたらいいか分からず、心配して恐る恐る声をかける。
そして……
「え、ちょっと大丈夫!?」
黒ずきんに致命的ダメージを与えた犯人であるアイコは黒ずきんの予想外の反応に動揺し……そして、真実を悟った。
「そんなに胸の事気にしてたの!?」
「しょうがないでしょ!! まさかアイコがボクより大きいなんて思わなかったんだから!!」
ここは『土鍋の街』で最大の旅館『鴨鍋』。
現在開放されたエリアの中でも最高の品質を持つとプレイヤーの間で噂される、露天風呂の名所である。
「信じられない!! アイコはボクより小さいとまでは言わなくても同じくらいだと思ったのに、普通にBくらいあるじゃん!! この裏切り者!!」
「裏切り者って言われても仲間になった覚え無いんだけど……」
「まさかサラシ巻いて胸潰してるなんて思わないじゃない!!」
「サラシは防御力強化のアイテムで……防具として……ね」
『鴨鍋』自慢の大浴場にて、アイコの裸を見た黒ずきんがその予想外のバストに驚き、喚いていた。
その様子を見て、露天風呂の縁の石に座ったマリーが少々呆れたように笑う。
「まさかあんなに胸の事を気にしてるなんて……普段は男の子みたいだって自分でネタにしてるくらいなのに」
同じ光景を見たスカイが肩まで湯に浸かりながら溜め息を吐く。
「胸の悩みはマリーには理解できないわよ。ま、今回は目測でアイコの方が小さいとふんでたのに、蓋を開けてみたらサラシだからね~。それに筋肉付いてるけど、なかなか健康的で優良物件だし……私や黒ずきんからしたら羨ましい限りよね~」
黒ずきんは病気で入院生活が長かったため食事制限などで全体的に細くてスレンダーであり、贅肉などは無いが胸もない。
また、灰色の長い髪を束ねて湯に浮かべたスカイも、リアルでは寝食をそっちのけにして仕事漬けで引きこもり生活を送っていたのでまともな食事をしておらず、やや不健康な痩せ方をしている。だが、それでも胸はそこそこあるのでバストは栄養状況より遺伝子に影響されるのかもしれない。
対して、アイコはリアルで格闘技をしていたためか四肢に筋肉がつき、日焼けした肌も相まって健康的なプロポーションを見せている。
そして、金髪の北欧美人マリー=ゴールドはまるでプロの芸術家がデザインした彫刻のような整ったボディーラインを持っており、胸も平均から見てかなり大きいように見える。
「それにしても……ホタルちゃんは足長いし、スタイルいいですよね。後は性格が良かったら男の人にもモテそうなんですが……」
「私は男になんて興味ないもーん! それよりナビキちゃん、一緒に体洗いっことかしよー♡ そして、胸とか二の腕とか腿とか耳たぶとか、いっぱい触らせて♡」
「きゃー! この人女湯に入れちゃ駄目な人です!」
スタイルが良くやや童顔のくノ一のホタルは、普段は結んでまとめている髪を解いた長髪をなびかせながら『体を洗う』という大義名分の下、逃げるナビキの年相応で全体的に整ったボディーを触りまくろうと追い回す。
本来なら注意すべき事だが、他に客がおらず、また注意すると自分に矛先が向くのを危惧し、スカイ達は止めにはいらない。
ただ、それぞれに楽しんでいるように見える黒ずきん、アイコ、マリー、ホタル、ナビキを見て、スカイは誰に言うともなく呟く。
「いーわね、たまにはこうやって羽を伸ばすのも」
何故この六人が一緒に温泉に入っているか?
その理由を一言で片付けるなら『慰安旅行』である。
時は12月末。
年の変わり目が近付く時期であり、クリスマスから年末年始は攻略や狩りを忘れてオフにして、英気を養おうというプレイヤーも出てくる。
だが、年末年始が『オフ』になる時期、生産に特化したスカイのギルド『大空商店街』は逆に稼ぎ時になる。
そして、スカイは行事が続いて忙しくなる前に一度骨休めするため、このような慰安旅行を企画したのである。
『大空商店街』は三千人からなる巨大ギルドであるため一度に一つの場所に旅行に行くと人であふれてしまう。
そこで、旅行先を選択制にし、さらに日にちをずらして分散させているのだ。
「それにしても……本当にいいんですか? あたしたちまで参加しちゃって」
黒ずきんから胸を隠すように湯に浸かったアイコが、やや申しわけなさそうにスカイに尋ねる。口調もスカイは大ギルドのギルドマスターでしかも年上なので慣れていない敬語だ。
アイコ、黒ずきん、マリーは『大空商店街』のメンバーではない。特に、フリーの黒ずきんやマリーとは違い、アイコは戦闘ギルド『戦線』のメンバーなのだ。やや場違いと言えば場違いである。
だが、スカイは大して気にしていないように言う。
「構わないわよ~。マリーと黒ずきんは作ったアイテムの納入全部うちに回してくれてるからギルドのお抱えみたいなものだし、アイコはナビキの紹介。しかも参加費も出してくれてるし、『戦線』の内部情報も聞けるかもしれない。誰も文句は言わないわ」
「今さらりと内部情報って言いましたよね。スカイさんって結構抜け目ないですよね」
呆れるアイコ。スカイとの繋がりは少ないが、やはりあのライトの雇い主だと思うと不思議と合点が行く。
「それに、ホタルも温泉なら誘った方がいいって推してきたし」
「あはははは、よいではないかよいではないか、女の子同士なんだし!」
「揉ませません!」
「ホタルちゃんって、あの性格じゃなきゃモテそうですけどね」
「……ボク、揉まれる胸すらない」
「ほらほら、いつまでもしょぼくれててもしょうがありませんよ。それより、髪洗ってあげますよ」
「せめてマリーみたいに一見普通なら良いんだけどね~……それにしても、あの二人ホント仲良いわね」
黒ずきんの正体は恐るべき殺人鬼『ジャック』……なのだが、今はマリーのなすがままに髪を洗われている。(ちなみにプレイヤーネームは指輪型アイテムで変えている)
マリーは黒ずきんの正体を知っているのだが恐れている様子は欠片もなく、むしろお人形遊びでもしているように触れあうのを楽しんでいる。
「まあ、皆が楽しんでいるみたいだし、細かいことはいいじゃないの。すぐ死ぬほど忙しくなるんだし」
「あはは、クリスマスシーズンですもんね」
現在、クリスマスまで一週間を切ってから、ゲーム内はクリスマスカラーに染まりつつある。
クエストやイベントもクリスマスを意識した内容のものが多数出現し、多くのプレイヤーがそれらに挑戦するのに夢中になっている。
特に、クリスマスのイベントやクエストは危険が少なく報酬が高いものが多く、普段リスクを気にしてクエストに消極的なプレイヤーも積極的にそれらに参加しているのだ。
また、ゲーム開始から半年が経ち、プレイヤーの間でも『ゲームを楽しむ』という考え方が広まりだしているので、それもクリスマスブームを盛り上げているのだろう。
「そういえば……ライトくんも来ると言っていましたが、旅館に来てから一度も見ていませんね。どこにいるんですか?」
マリーが黒ずきんの髪を泡だらけにして遊びながら、ふと思い出したようにスカイに尋ねた。
ライトも『大空商店街』には属していないが、攻略本の情報集めなどでかなり深くギルドに関わっており、スカイの懐刀とまで言われている。(ライトは『借金してるだけだ』と否定している)
しかも、ここにいる女子陣は皆ライトとそれなりに深い関係があるのだ。
いない方がおかしいくらいなのだが……
「ライトなら、この街の近くで新しく見つかったクエストやってから旅館に来るそうよ。」
「クスクス、ライトくんは相変わらずですね。」
マリーがクスクスと小さく笑い、それが伝わった黒ずきんもつられて笑う。
「そもそもホームも決めずに浮浪者みたいな生活してるあの人に慰安旅行とか、猫に小判豚に真珠ですよー」
「うわっ、あ、ちょっと、やめてホタルちゃん!」
逃げるナビキの動きを止めようとホタルが石鹸を手裏剣のようにナビキの足下に投げつけて転ばせようとし、慌てたナビキは湯船に逃げ込む。
そして、そんなナビキを見てアイコはふと思い出したように言う。
「そういえば、ナビキとライトってどんな感じなの? 進展した?」
「え、どんな感じって、どういう意味ですか?」
「あ、え、いや……今度のクリスマスとか、デートとかするのかなー……って思って」
「ク、クリスマスデートですか!? それはその……私と先輩はそんな関係じゃなくて、その……」
ナビキが真っ赤になっている。
それを見て、アイコは『あれ?』という表情になる。
「もしかして……何一つ進展してないとか? クリスマスの予定は一応あけてあるけど誘える勇気がなくてあっちから誘ってくれるのを待ってるけどそんなのは宝くじより確率が低いって心のどこかで思ってて一人でクリスマスを過ごす覚悟を決め始めてるとか?」
「なんでそこまで詳しく心情模写出来るんですか!?」
「あれ? てゆうか、なんでナビキがメインヒロインみたいな流れになってるの? 一番初めにライトと組んだの私なんだけど。てゆうかライトの所有権は私にあるわ」
「スカイさんが参戦した!」
「ちょっと、ボクって実はライトの命の恩人なんだ。実はキスもしたことあるし」
「黒ずきんさんも参戦!?」
「ナビキもスカイさんも黒ずきんさんもやめといた方がいいよあの人は。私はあの人の真の姿知ってるから絶対にお勧めしない」
「ホタルさん今誰よりも親しいっぽい発言したよ!?」
アイコがライトのハーレムぶりに驚愕する。
……まあ、それぞれナビキがどんどん真っ赤になっていくのを見て流れに乗った感じなのだが、実のところライトと彼女らの関係はかなり複雑である。
ライトはスカイに法外な借金をしている。
黒ずきんは確かにライトの命の恩人ではあるが、実のところ殺そうとしたのも彼女本人である。
ホタルに関してはライトが殺人鬼だと思い込まされている。
だが、それらを知らないアイコは真剣に考え始める。
「えー、ライトってあんまりモテるって感じじゃないと思ってたのに実はすごい競争率じゃん……しかも、大ギルドのギルドマスターとかサブマスターとかかなり強敵も多いし、ナビキちゃんがどうしていつまでも動かないのかと思ってたらこんな膠着状態になってたなんて……」
「あ、あの……よろしいでしょうか?」
マリーが手を小さく上げた。
「マリーさんも参戦ですか!? この上さらに巨乳枠ですか!?」
「いえ、そうではなくて……ナビキちゃんが茹だっちゃってますけど大丈夫でしょうか?」
「え……」
「ほぁー………」
ナビキは湯に浸かってアイコの発言に反応して興奮し、さらにからかわれ続けた結果、完全にのぼせ上がっていた。
30分後。
旅館『鴨鍋』……卓球ルーム。
「で、ナビキが伸びたからナビが出張って風呂から出て着替えて……こうなったわけか」
「はい、困ったものです」
スカイ達と入れ違いになって温泉に入って、つい先ほど出て来た浴衣姿のライトに経緯を説明し終えた同じく浴衣姿のマリー=ゴールドはため息をつきながら卓球台の一つを見やる。
「ぅらあ!!」
「はぁあ!!」
卓球台の左右では、浴衣姿のナビとアイコが卓球のラケットを使って、ピンポン球をテニスのように台に落とすことなく打ち返しあっていた。
それも、卓球という競技では普通考えられないような全力で球を打っている。
どれくらい全力かと言えば……周囲に転がる《潰れたピンポン球》や《壊れたラケット》を見ればわかりやすい。
「ルール違うって教えた方が良いんでしょうか?」
「いや、近付いたら流れ弾が飛んできそうだから後で言おう。それと……あっちはあっちで凄いな」
「あっちはちゃんとルールを守ってますね」
「……まあ、確かにルール的には反則じゃないんだろうが……」
反対側の卓球台では同じく浴衣を着た黒ずきんとホタルがかなりの高速で球を返し合っていた。
ただし、そのラケットの持ち方がおかしい。
黒ずきんは順手、ホタルは逆手に……まるでナイフや小刀のように握り、側面で球を打ち返している。
「まあ、手になじむ持ち方が良いんだろうが……」
「まるで台を挟んで戦ってるみたいですね」
「スカイは?」
「流れ弾が怖いから先に部屋に戻るそうです。」
「安定の戦線離脱スキル……」
「せっかくだから私達も卓球しませんか?」
「いいが……ステータス違いすぎるし、ぶっちゃけ強いぞオレ」
「では、手加減してください。得意でしょう?」
マリー=ゴールドが悪びれもせず手加減を要求し、ライトは苦笑する。
「ああ、いいぜ。手加減にかけてはオレの右に出る者はいないからな」
同刻。
『小麦の国』……城下町『砂糖の町』にて。
町の土地の大部分を占める巨大な『飽食の城』の内部で、城を攻略する百人近い戦闘職プレイヤーの隊列の中、赤兎はつぶやいた。
「アイコのやつ、今頃楽しんでるんだろな」
「良かったのか? 置いてきて」
隣を進む壁戦士アレックスが赤兎に話しかける。
二人は現在の前線戦闘職の近接攻撃と防衛力のトップであり、隊列を組むと共に先頭付近になって話をすることが多い。
「あいつ楽しみにしてたからな……いきなり中止になんてさせられないだろ。」
「そうだな……今回は作戦の準備も秘密裏に進めていた。情報漏洩を防ぐためにはしょうがないだろう。いきなり約束を反故にしたらそこから情報が漏れるかもしれないしな」
「ん、ありがとな。」
「おい、余所事話してないで集中しろ! ここは街中じゃないんだぞ!」
「ん、わかったよ」
「……ああ」
後方からかかった声に赤兎とアレックスはやる気のない返事を返す。
そして、小声で本音を吐き出すように言う。
「張り切り過ぎなんだよ、あいつら」
今回の作戦は主に二つの戦闘ギルドによって実行されている。
一つは構成員65名、攻略の最前線を支える歴戦のプレイヤー集団『戦線』。
そして、もう一つが構成員五百人以上、戦闘ギルドの中では最大の規模を誇る『攻略連合』。
『青騎士』レーガンの率いる巨大ギルド。
一人一人のプレイヤーの質は『戦線』にやや及ばないが、その代わり数を生かした連携を得意とする。
赤兎とアレックスの会話を注意したのは『攻略連合』のメンバーだ。
今回の作戦は『攻略連合』が指揮していて、百人近い参加者の七割は『攻略連合』のメンバーだ。
目的は……
(魔女の討伐……というより、手柄の独占か……気に入らねえ)
『王』と呼ばれるエリアボスでも、フィールドでマップの拡大を邪魔するフィールドボスでもなく、市販の地図には描かれていない僻地に自ら治める『町』を持ち、そこのNPC達から神のように崇められる存在『魔女』……いわゆるスペシャルステージの裏ボス。
ここは第一の魔女『飽食の魔女』の城。
ファンシーな内装と、クッキーやチョコレートを象り、しかし見た目に反した強さを持つお菓子のモンスターが出現するダンジョン。
通称『お菓子の城』。
『攻略連合』はその討伐の手柄を他のプレイヤーに渡さないため、城の発見を公開せず、その情報を秘匿したまま攻略しようとしたのだ。
『戦線』が参加しているのは、直前にその情報を知ったギルドマスターのマサムネが交渉によって援軍を出せるようこぎ着けることに成功したからに過ぎない。
(他のプレイヤーてか、OCCに対してか……)
ワンパーティーの小規模ギルド『OCC』。
たった六人でありながら、その活躍は『戦線』『攻略連合』と競り合うレベルだ。
特に驚異的なのはその情報力とフットワークの軽さだ。まるで予知でもしているかのように発見されたばかりのダンジョンやクエストを効率的に攻略し、レアアイテムや経験値を大量に手に入れている。
そして、厄介なことに戦闘マニアが多い『戦線』と違い、『攻略連合』は戦闘への意欲よりレベルや収入で他のプレイヤー達より上位であろうとする意識が強い。ギルド内でもレベルや装備でプレイヤー間に階級があるくらいで、ギルド外のプレイヤーに対する対抗意識もかなりのものだ。
赤兎の属する『戦線』でも一時は派閥争いが発生しそうになったり、元々ソロ同士だったプレイヤーが連携を取れずギクシャクしたことなどもあったが、今では戦闘能力でランキングを付け、揉め事があれば正々堂々決闘、明らかに片方に非がある場合は降格などというシステム(マリー考案)を作り、互いの対抗意識を健全なものとしている。
元々の戦闘系VRゲームの経験者や戦闘系のイベントで知り合ったプレイヤーに声をかけて集まったギルドなので、そういった『言い争うより拳で語れ』的な政策は予想以上の効果を発揮したらしい。
だが、『攻略連合』は成り立ちが違う。
ギルドメンバー同士がほぼ同列で実力での下剋上も自由、基本的に義務や規律がほとんどない『戦線』と違って、『攻略連合』は厳格な上下関係があり、連携の訓練や狩りのノルマがある。
元々、彼らのほとんどは最初の一週間で出遅れたり、リスクを避けてレベルが低目のダンジョンを狩場としていて最前線に届かなかった中上級の戦闘職が遅れながらにトッププレイヤーに並ぼうとして『質』を『数』で補おうとして集まったのだ。
もちろん、だからといって『戦線』に戦力で劣っているわけではない。むしろ、総力戦でもやれば勝つのは『攻略連合』の方だろう。連携の力は侮れない。
……だが、それでも向き不向きがある。
『攻略連合』の連携は巨大なエリアボスとの戦いでは強力な武器になったが、人間大のボスの相手には向いていなかった。
的が大きく多方向からダメージを与えやすい相手には有効だが、素早く賢い相手に陣形を乱されると危険だ。
その点『戦線』は連携は多少の合図とポジションが決めてあるだけで基本的には個人での遊撃や組み慣れた数人でのパーティー戦の要領で戦っている。ランキングやギルドメンバーでの切磋琢磨もあり対人戦や人型モンスターとの戦闘には慣れている。
(下見をして相手がデカくて遅い奴なら『攻略連合』が、小さくて速い奴なら俺達『戦線』が中心になって戦う作戦を立てる。だが、今回は焦り過ぎてほとんどぶっつけでやるつもりだ……なんか、今までうまく行ってたのが裏目に出始めてるみてえな……)
漠然とした不安……だが、ただの勘より遥かに確かな危機感。
強いて言うなら虫の知らせ。
このまま戦うのは危険だと確信している。
それなのに、それを上手く言葉にできない。
ここにいるのがアイコやTGWのメンバーだけだったなら、この漠然とした感覚を伝えて退却する事も出来ただろうが、ここにいる全員は止められない。
「おい、見えたぞ!! ボス部屋の扉だ!!」
誰かが言った。誰かが見つけた。
言ってしまった。見つけてしまった。
長い通路の先の巨大な扉。
そこまでの道には、立ちはだかる巨大なお菓子のモンスター達。
そして……
『……クリスマスシーズンに挑んで来るなんて、無粋な人たちですね。わたくしの城に入ってきたことを、後悔させてあげますしょう』
魔女が、その牙をむく。
キングの相談
『イカサマなんてやってないのによく賭けでイカサマを疑われる。正々堂々やってんのに……』
(ジャック)「えっと……すごく運が良いってことなのかな? イカサマしてないのに反則級に」
(マリー)「いえ……彼はイカサマはしませんが、運がいいだけというわけではありませんよ」
(ジャック)「どういうこと」
(マリー)「ナビキちゃんによると、トランプの確率などから手を選んでいるそうですし……」
(ジャック)「公式チート系なんだね……それは疑われてもしょうがないかも」
(マリー)「でも、態度をあらためるだけでもいろいろ変わってきますよ。金髪とサングラスをやめてみるとか」
(ジャック)「キングからそのアイデンティティ奪っちゃうと誰かわからなくなる気がする」




