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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第四章:ギルド編

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85頁:落とし物は落とし主に届けましょう

『ドッペルシスターズ』

 使用者……ナビキ。

 アバターが複数に増える技。

 HP、EPは共有なので受けるダメージや消耗は増えるが、同時に別々の技を放つことも出来るので同時攻撃などもでき、また『自分に全力支援をかけながら全力攻撃』などということもできる。


 しかし、複数のアバターを同時操作するのは両手で別々の絵を描く以上に困難な操作であり、常人が使用しても足手まといが増えるだけ。


 ナビキ曰わく。

「『妹』達とスキンシップが出来るようになって便利な技です。」


 

「今日の課題は、あの子だよ」


 ミカンはある日、呼び出した正記に向かってこう言った。

 場所は正記の家から車で一時間ほどの距離にある研究所のような建物だった。


 その中の一室に、分厚い本を読む一人の赤髪の少女がいた。

 その周りには山のように本が積まれ、彼女を世界から隔離するように囲んでいる。


「えっと……オレにどうしろと?」


「あの子は……見てもらった方が早いかな」


 そう言って、ミカンはゆったりと歩いて少女に近付き、その顔を蹴りあげるように足を振り上げ……少女の赤い前髪を掠める。

 だが、少女は全く反応せず……気づいた様子もなく、本を読み続ける。


「師匠……そんな蹴り、そんな小さな子に当たったら死にますよ」


「当たらなかったからいいでしょ? それより、見ての通りこの子は普通にコンタクトしても全然興味すら持ってくれないのよ。」


「読書に熱中してるだけじゃないですか?」


「何を読んでるか、よく見てみなさいよ」


 ミカンは本の題名の部分を足の先で指す。

 そこには『日本交通量計測表』という……とてもではないが少女が好みそうにないタイトルが書いてあった。


「この子はね……『記録』と認識できる物しか記憶してないの。生きた人間や今現在の『生の情報』には全然興味を示さない。だから、キミにはあの子が本以外にも気を向けるようにしてほしいの」


「……昔話みたいですね。笑わないお姫様を笑わせろって命令を受けた道化師が右往左往するっていう」


「あははは、まあよく似てるかもね。でも、あの子は笑わないお姫様より塔の上のお姫様の方が近いかもしれないよ。あの子の『世界』はあの高く積まれた本の中にしかない。キミがそこからあの子を引っ張り出すんだよ」


 ミカンの言葉を聞き、正記は皮肉を込めたように笑う。


「……囚われのお姫様を救い出す王子様なんてガラじゃないですよ。百歩譲って、オレは外の世界のことを語ってお姫様を楽しませるくらいが限度です」


 正記の言葉を聞き、ミカンは楽しげに笑う。


「それでいいよ。それが可能なら、キミは彼女の『世界』になってあげて。そうすることで、キミもあの子も、次の段階へ進めるから」








《現在 DBO》


 コロシアムを離れて、『本部』の裏にて。


「では、この子は運営委員として責任を持って預かりました。お客様は祭をお楽しみください。」


 ナビキの仕事を増やさないために配慮したつもりか知らないが、子連れデートなどという鈍感きわまりない行為を提案してアイコに睨まれる赤兎に対して、ナビキは極めて事務的な口調で、素晴らしい営業スマイルをしながら応える。

 ちなみに、混乱を避けるためアバターを分けた後は主人格のナビキに主導権が移るようにしているので、ナビはもう『私室』に戻っている。


「お、おお。助かるぜ」

「うん、ありがとう。ナビキちゃん」


 どうやら賊の撃退は大したアクシデントではなかったらしく、デートは続行される。


 ちなみに、花火玉はただの玉だと思われて赤兎が運んでいたらしい……まさか自分が何も知らずに爆弾を運んでいたとは思いも寄らないだろう。


 そして、その花火玉を返してもらったメモリは……


「ばいばーい、赤兎くん! アイコちゃん!」


「日に二度もさらわれそうになったのに、何でそんなに元気なんですか?」


 花火玉を頭の上に持ち上げて手を振るかわりに左右に大きく揺らしていた。見ているナビキとしてはかなりヒヤヒヤする光景だ。


「メモリちゃん、その玉は……」


「あ、そうだった! これを返さなきゃ!」


「そうそう偉い偉い。おねえさんがちゃんと係りの人に返しておくから、おねえさんにそれを……」



「落とした人にちゃんと返さなきゃ」



 その言葉に、ナビキは疑問を抱く。

 『落とした人』……馬車に積んであった箱に入れてあった花火玉を持ち出したのはメモリのはず。

 それなのに、誰が『落とした』というのか。


「それ……誰に返すんですか?」


「落とした人だよ」


「落としたところ見たんですか?」


「うん。顔も見たよ」


「……その状況、詳しく教えてくれますか?」


 ナビキはメモリとホタルの情報に齟齬があるのを感じ取っていた。

 もしかしたら、メモリが花火玉を持ち出したのもしっかりとした理由があるかもしれない。そう思って、した質問だった。


 だが、答えは予想外の物だった。



「わたしを『利用』しますか?」




 それまで、メモリは子供らしく笑っていた。

 全く無邪気で、年相応だった。

 だが……この時だけは、完全に無表情だった。

 まるで、機械のようだった。


 思わず、ナビキは後ずさる。

「い、いいえ。ちょっとそれを返すのをお手伝いしてあげようかと思っただけです。」


 すると、メモリは先程の無表情が嘘だったかのようににっこり笑った。


「お手伝いしてくれるんだー! ナビキちゃん、優しいね」







「どうしてこうなったのでしょう……」


 ナビキは、自分の手の中にあるコートでくるまれた花火玉を見てため息をつく。

 そんなナビキには気を止めず、メモリは祭の風景の中の人や物全てが物珍しいように辺りを見て回る。


 手伝いをすると言った手前、取りあえず花火玉だけは預かり、さらに誤爆の可能性を下げるためにコートで包んだのだが……

 本当のことを言えば超怖い。

 赤兎やメモリは正体を知らずにいたから普通に持っていられたかもしれないが、正体を知っている上で預かるのは超恐ろしい。


「メ、メモリちゃん? 早く落とした人探しませんか?」


「探してるよー」


「いや、流石にゴミ箱や屋台の商品棚にはいないと思いますけど……」


「わかってるー」


 対してメモリは好奇心の塊だった。

 全然進まない。


「いっそ、これ持って一人でも戻った方がいいでしょうか」


 ちなみに、ホタルや他の運営委員にはメールしてメモリをさらおうとしたプレイヤーを探す方に労力を割いてもらっている。赤兎達はメモリの保護を優先して犯人には逃げられたらしいし、ゲートポイントの前は祭の受け付けがあって赤兎たちに顔を見られて大まかな特徴がわかっている誘拐犯は簡単には逃げられないので街のどこかにいるはずだ。


 ナビキは名目的には『犯人がまだ狙っているかもしれないメモリを護衛しながら花火玉を馬車まで届ける役』ということになっている。

 メモリを置いて戻るわけには行かない。


「そういえば、先輩はメモリちゃんとリアルで知り合いなんでしたっけ……どうやってこの子と付き合ってたんだろう。…………あれ? 私はどうでしたっけ?」


 ライトとリアルで同じ部活だった気もするが、それは夢だった気もする。

 だが、夢にしてはかなりリアルな記憶で……


「どうしたの? ナビキちゃん」

 考え事をしていると、突然目の前にメモリの顔が至近距離で現れた。

 ゴミ箱を動かしてきて踏み台にしたらしい。


「うわっ!? メモリちゃん!? びっくりさせないでくださいよ!!」


「ごめんね。でも、知りたかったから」


「知りたかった? 何を?」


「わたしの知らないおにいちゃんのこと。」


 ナビキは離れようとするが、メモリはナビキの首にしがみつくように手を回し、顔をさらに近づけてナビキの目を瞬きすらせずに見つめる。



 そして、メモリはその『本性』の片鱗を晒す。



「この世界に来てから、わたしはおにいちゃんに会うのを我慢してたの。まえに『次に会っても知らないふりして離れてくれ』って言われてたから。だから、その『次』の次を待って、ようやく会えたのに、おにいちゃんはわたしを避けるの。何があったんだろう、どうしたんだろう、誰がおにいちゃんを変えちゃったんだろう。それともおにいちゃんが勝手に変わっちゃったのかな? もしかしたら、わたしが変わっちゃってるのかな? もしかしたら、わたしが変わらないから嫌われたのかな? わたしがもう一度おにいちゃんと繋がるにはどうしたらいいの? ナビキちゃんはどうやっておにいちゃんと繋がったの? ナビキちゃんはおにいちゃんとどんな関係なの? もしかしてナビキちゃんはおにいちゃんを利用してるの? それともおにいちゃんがナビキちゃんを利用してるの? 新しく利用できる人が出来たからわたしはいらないの? そうだとしたら、わたしに何が足りないの? わたしはこんなにおにいちゃんを必要としてるのに、何でおにいちゃんはわたしを全然使ってくれないの? どうしたらあなたみたいに自分の代わりを任せられるほど頼ってもらえるの? ねえ、教えてよ」


 まるで、呪詛のようだった。

 小さな身体からは想像もできないほどの圧力を感じる。

 その目には、まるでブラックホールのように捉えた全てを呑み込もうとするような闇が渦巻いていた。


 ナビキは金縛りに遭ったように動けなくなる。

 周りから見たら無邪気な女の子がナビキの首にぶら下がって遊んでいるだけに見えるかもしれないが、ナビキは蛇に睨まれた蛙どころか、大蛇の口の中を見ている気分だった。


 メモリは体を持ち上げ、自分の耳元にナビキの口が来るように、そしてナビキの耳元に自分の口が来るように高さを合わせて絡みつき、そっと囁く。


「わたしは、全部知りたいの。お願い、読ませて」



 喰われる……ナビキは自分の中の妹たちに助けを求めるのも忘れてそう思った。

 メモリは、ナビキの中にある情報の全てを引き出そうとするように、もはや好奇心という概念を遥かに逸脱した衝動に突き動かされているように見えた。



 そして……

「あなたにとって……先輩は、何なんですか?」

 できた唯一の抵抗は、そんな質問をする程度であった。


 ナビキの耳元でかすかに笑ったメモリは、迷うことなく答える。



「『世界』だよ」



 その答えに、ナビキは悟った。

 メモリが小さな女の子だと認識したのは間違いだった。

 こんな子供が本当にOCCなのかと疑ったのは愚かだった。


 この子は……ヤバい。


 ここまでの危機感を感じたのは、殺人鬼(ジャック)に襲われたとき以来だ。

 あまりの恐怖に動けない。

 睨まれたまま、逃げられない。


 そこに、救いの手が差し伸べられた。



「あらナビキ? 何してんのよ、そんな小さな子と真剣な顔でハグして……変態はホタルだけで十分よ」



 そこに居たのは、傷んだ灰色の長い髪をポニーテールに、というより妖狐の尾のようにまとめた女性プレイヤー。

 触れば折れそうなたおやかな身体に、不思議と大きめの『空』を背負った着物が似合う商人。

 ギルド『大空商店街』のギルドマスター……スカイだった。





 十分後、『大空商社』にて。

 ギルドマスターとして特別なイベントを開催していないこの店は、今日は新装開店する店に客を取られて客足は少なく、人が途切れて今は中に三人しか居ない。


「びっくりしたわよ。いきなり泣きついて来るんだから」


「ごめんなさいスカイさん。でも、本当に怖かったんです」


「わー」


 メモリが物珍しいように商品棚を見つめる隣で、ナビキはスカイに平謝りする。

 スカイの登場でメモリの興味が逸れた瞬間にナビキはメモリを引き離してスカイに泣きついたのだ。


「私もちょっと祭を見て回ろうかと思ったら、まさか爆弾持ったナビキにいきなり抱きつかれるなんてね。自爆テロかと思ったわ」


「そんな、滅相もないです。」



 スカイはギルドマスターというだけでなく、プレイヤーショップ『大空商社』の店主でもある。(なぜ『商店』ではなく『商社』なのかと良く疑問が投げられるが、本人曰く『会社っぽくしたかったから』だそうだ。)

 先程はNPCの店員に店番を任せて『ギルドの部下達がちゃんと働いてるか視察する』という名目で祭を楽しんでいたらしい。


 大人気なく値切り交渉などもしていたようだ。

 しかし、それも権力を振りかざすのではなく、商人同士の技量比べといった意味合いがほとんどだろう。

 スカイは権力を得るのは好きだが使うのが好きなわけではないのだ。


 だからこそ……おそらく誰よりもこのゲームを楽しんでいる人だからこそ、ここまで沢山のプレイヤーがついてきたのだ。



「ま、取りあえず花火玉はケースにいれたから誤爆の危険はないし、ナビキを怖がらせたメモリはあそこでウロウロしてるから大丈夫よ」


「ぅぅ……ありがとうございます。」



 スカイのプレイヤーショップである『大空商社』はゲーム初期はこの街の生産職と他のプレイヤーがアイテムを売り買いする窓口として客層を独占していたが、最近ではギルド結成による生産職同士の繋がりや、特定の戦闘職の専属になる職人が増えて委託での納品などは減っている。


 しかし、スカイは店を畳んでギルドマスター一筋とはならず、店を続けている。


 最初期に作られたプレイヤーメイドの建物のためか店は現在開いている他の生産職のプレイヤーショップよりやや小さく、派手でもない。

 しかし、ゲーム攻略の象徴とも言われ、同時にこの店の代名詞でもある『攻略本』は今も二週間に一巻という脅威のペースで更新されているし、プレイヤーメイドのアイテムがそれぞれの専門店で売られるようになるとスカイは方針をやや変更してプレイヤーの作れない『ドロップ品』や『クエスト限定アイテム』を中心に扱うようになり、今では珍品から高級品まで様々なアイテムが棚に並んでいる。

 さらに、街の機能上店を出しにくい『薬剤師』の作った回復薬やレストランで出せない『携帯食料』なども取り揃え、加えて彼女自身の高い『商売スキル』によって『研ぎ師』『裁縫屋』などの技能を持ったNPCを雇って武器や防具の修理も請け負っているため『補給を一度に済ませられる店』として専門店にはない需要を押さえている。


 そして、店番をNPCに任せてスカイ自身は普段何をしているかと言えば……


「わー、時計だー」


「メモリちゃん~、そこら辺精密機械だからあんまり触らないでね~」


 スカイは『機械工スキル』を上げているのだ。

 そして、それによって作った『機械』を店に置いている。

 彼女の目的は『売る』ことより『作る』ことの方が強いようで、彼女が作った機械は一般プレイヤー向けにはあまり売れていない。

 しかし、スキルアップによって新しく開発された『自動印刷機』は攻略本の量産に大きく影響を与えているし、魔力をチャージした水晶を使って開発した《魔力電池》と、それによって動く『自動機械』は革命的に話題にあがった。


 スカイは未だに現役の商人であり、機械職人なのである。



 だが、同時に彼女はやはり、巨大ギルドのギルドマスターでもある。

「ところでメモリちゃん、なんで花火玉を持ち出したのか、詳しく説明してくれない?」


 商品棚を見ているメモリに、スカイは優しげに……しかし、強めの口調で尋ねた。

 メモリの返答は……


「わたしを『利用』しますか?」


 ナビキがその状況を尋ねたときと同じ、無表情で平坦な質問だった。

 それを見て、スカイはギラギラと笑う。

 ナビキが躊躇して踏み越えられなかった一線を、あっさりと越える。


「有益な情報だったら情報料を払うわ。利用させてくれない?」


 メモリは無表情のまま、スカイの返答を吟味するように間をおいて……

「……ご利用、ありがとうございます」

 と答えた。



 ナビキはそのやり取りに唖然としながら、スカイに尋ねる。

「ス、スカイさん? この子は一体……」


「ライトの『バックアップ』って聞いてもしかしてとは思ってたけど、やっぱりこの子の人格も誰かに『使われる』ための非人間的な部分があるのよ。そうでしょう? メモリちゃん」


 スカイの確認に、メモリは平坦な口調で機械のように答える。


「はい、わたしの存在目的は情報の蓄積と解析、及び利用者への提供です。あなた方はメインユーザーの代理として、情報の一部を引き出す権限があるものとします」


「まるで機械みたいね。一見普通に見えて中身は機械みたい……そういう所はライトに似てるわね。変人……って言うより、人の形をした記憶装置なのかしら? ナビキみたいに頭に特殊なチップでも入れてるの?」


「わたしの肉体はMBIチップを除けばほぼ100%タンパク質で構成されています。しかし、記憶装置であるという点ではその指摘は適切です。記憶容量は……」


「いいわ、そういう細かい話はライトから聞くから。それより、あなたが花火玉を持ち出した理由とその周辺状況を教えてくれない?」


「了解しました。」


 そう言って、メモリは花火玉の入ったケースへ近付く。

 そして、そっと蓋を外す。



「第一の前提として、これはあなたの言う『花火玉』とは別のものだと考察されます。」


「……なら花火玉じゃない『それ』を、どうしてあなたは持ち出したの?」


「本日13時31分。ある男性プレイヤーが馬車の荷台の箱から『花火玉』を取り出し、これを代わりに箱に収めるのを目撃。わたしは箱を開けてこの物体を観察し、花火玉とは別の機能を持ったアイテムだと判断し、倫理基準に従って『取り違え』を指摘し、『花火玉』との交換をするためにこれを持ち出しました。」


「……これは、『花火玉』とは別のどんな機能を持ってるの? どうやって判断したの?」


 すると、メモリは花火玉を持ち上げ差し出す。


「音がします。大変小さいので耳を押しつけて聞いてください」


 ナビキはスカイに目で指示され、恐々と球体を持ち上げ、耳に付ける。



 チッ チッ チッ チッ



「時計みたいな音がします。……こ、これってまさか……!!」

 ナビキは震える手で『それ』を耳から離し、メモリに問いかける。

 そして、メモリは無表情のまま、平坦な口調で答えた。


「はい、そのアイテムの機能は『時限爆弾』に類するものだと推測されます」










 同刻。

 ライトはイザナに話しかける。


「イザナ……おまえって人間っぽいよな。」


「そうですか?」


「ああ。実は知り合いにおまえにそっくりな人間がいるんだ。最初イザナを見たときは実はそいつかと思ったんだぜ? ちょっとイザナの方が小さいけどな」


「そうなんですか。お友達ですか?」


「さあ、あいつは人間なのにやたら機械みたいで、オレのことも友達なんて思わないだろうが……あるいは、人間もどきと機械もどきで歪な関係なりに釣り合ってたのか。オレがあいつに人間性を求めたのがいけなかったのか、良かったのか」


「なんの話ですか?」


「いや、特に深い意味はないよ。ただ、イザナを見てると知り合いの昔の姿を思い出す……今のイザナと完全に対称的だったメモリを思い出すって話だよ。まるで、空っぽの器を必死に埋めようとして情報に飢えてた機械みたいなメモリの姿をな。まあ、今でも根っこは全く変わってないが……それから、こんな根拠もないことを思いついたりする」


 そう言って、ライトは足を止めてイザナを見つめる。

 イザナも、足を止め、ライトを見つめる。


「間違いなら間違いでもいい。

 馬鹿な妄想なら馬鹿な妄想でいい。

 答えられないなら答えられないでいい。

 笑い飛ばしてくれればいい。

 誤魔化してくれればいい。

 何もなかったかのように歩き出してくれればいい。

 否定してくれればいい。

 だが、言わせて欲しい。





 おまえが、本来の『メモリ』の人格(プログラム)なのか?」




「………………」

 イザナは、何も答えなかった。

 ナビキからの相談。

『多重人格なのですが、親友に打ち明けられません。あちらは私が気性の変化が激しいだけだと思っているらしいのですが、どうやって打ち明けたらいいのでしょう?』


(ジャック)「これは……正直、ナビキを『気性の変化が激しい』で済ませてる親友の人がすごいと思う。『ドッペルシスターズ』の時とかどう思ってるんだろ?」

(マリー)「まあ……人格の境目というものは他者から見てもわかりにくいですから、普通にアバターを同時操作してると思ってるかもしれませんね。一般の人達はナビキちゃんが増えてもどれかが本物で後はAI操作の自動操縦だと思ってますし」

(ジャック)「これ、別に話さなくても何とかなるんじゃない?」

(マリー)「でも、本人は親友に秘密を持っていたくはないようですし……そうだ、こうしましょう!」

(ジャック)「どうするの?」

(マリー)「マイナスな印象を与えず『特技』として伝えるんです。『敢えて人格を分けることであらゆる局面に対応できます。私は男の子でも女の子でも人間以外でも大丈夫です』って」

(ジャック)「マリーさん、前から思ってるけど、たとえ素質があるんだとしてもナビキをその道に引き込もうとするのはどうかと思うよ。それに、最後の部分が入ると却って告白しにくくなるし」

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