81頁:待ち合わせ場所には十分早く行きましょう
『ドラゴンズブラッド』
無敵モードになる能力。
能力発動中はHPダメージは受けず、筋力も速力も大幅に強化される。(ただし、完全な不死身ではなく、首を切られたりしたらもちろん死ぬ)
発動中はHPを消費していくので、常時発動は不可能。(その間、回復効果も全て無効化)最大使用時間は三分が限度。
赤兎曰わく……
「突撃するにはうってつけだ。それに、三分間の無敵ってヒーローみたいで格好良くね?」
「はい、終わりました。目を開けてください」
襲撃イベントの翌日。
ナビキはマリー=ゴールドの膝の上で目を覚ました。
「あ……マリーさん。おはようございます。」
ナビキは寝ぼけたままで応える。
「おはようございます。どうですか? 頭の調子は」
「頭……すっきりしてます……あれ? ナビ? エリザ? どこ!?」
一気に覚醒した。
頭の中がすっきりしている……し過ぎている。
自分の中の別人格であるナビやエリザの思考が混ざって来ない。
「ナビ!! エリザ!! 答えて!!」
ナビキは軽いパニックを起こしかけた。
ナビキにとってナビとエリザは『妹』も同然の存在だ。それが、見失うはずのない二人が見当たらない。
共に生きると決めたばかりなのに……まさか…
「ナビキちゃん、落ち着いてください。大丈夫、二人ともちゃんと居ますよ。」
「本当ですか!?」
「ええ。昨日の夜、人格の統合はせず『三人』で生きていくと言っていたので、ナビキちゃんが寝ている間に自我の境界を調節しておきました。ほら、他の自分に知られたくないプライベート情報とか、一人になりたい時とかあるでしょう? 思考が無秩序に混ざってしまうと人格も境界が薄くなりますし。だから、今まで相部屋になっていた三人の人格にそれぞれ『私室』を用意しました。」
「『私室』……どうやったらナビ達と話せますか?」
「頭の中にそれぞれの部屋のドアをイメージして、ノックしてください。相手が拒否しない限り話せるでしょうし、また三人で集まりたいときには部屋から出てきてもらって『ダイニングルーム』に集まれば良いでしょう。」
ナビキは早速試してみる。
まずは、寝ている可能性のあるエリザではなく、会話が成立しやすいナビの方。
『ナビの部屋』という標札がかかったドアのイメージが浮かんでくる。
コンコン
『ナビ? いる?』
『おう、ナビキか…んっ…入ってきていいぞ』
ドアを開けると……
筋トレグッズが並んだ部屋で、トレーニングウェアを着たナビがベンチで仰向けになりバーベル上げしていた……もちろんイメージ上の話だが……
順応が早すぎる上、会話するほど暇そうに見えない。
『あ……忙しそうだから、やっぱり後にするね』
『そうか…んっ…またな』
「ちなみに内装はそれぞれの好みに合ったものになっていると思います。快適だと思いますよ」
「気が回りすぎててビックリしました!! おかげでナビの予想外のシーン見ちゃいました!!」
「あら? シャワーでも浴びてましたか? でもいくら何でも自分の身体に赤くなるのは……」
「そういうのじゃありません!!」
「なにかするなら止めませんが、残った一人に見られないように気をつけてくださいね。気まずくなりますから」
「しません!!」
「クスクス、冗談ですよ。まあでも、仲良くするのは良いことですよ……どうか仲良くしてあげてください」
「……わかってますよ、マリーさん。」
この日から、ナビキ、ナビ、エリザの『三人暮らし』が始まった。
《現在 DBO》
『100日生存記念祭』。
そう銘打たれたイベントが今日から開催される。
主催は生産ギルド『大空商店街』。
これまでに死んだプレイヤー達への弔いと、同時にこれまで生き残ってきたプレイヤー達の労をねぎらう意味合いを込めて行う盛大な祭だ。
……というのはもちろん建て前であり、実質の支配者であるスカイの本音としては『ギルドの体制も整ってきたし時期もいいから一度ギルドの勢力をお披露目しよう』ということである。
『大空商店街』は総勢三千人の巨大ギルド。
傘下を加えれば四千人近くにもなる。
生存している残りのプレイヤーは約6400人余り。
間違いなく最大のギルド。
もはや、プレイヤー全体の生活を支えるギルドだと言っても過言ではない。
そして、その巨大ギルドの主催するイベントが盛大なものにならないはずはない。
「それでは、これより『100日生存記念祭』を開催します!!」
「「「うぉおおおおおおお!!!」」」
今日は攻略も中断し、プレイヤー全体が楽しむ日だ。
「なるほど……この騒ぎなら多少のアクシデントが起きてもデートは中止しない。それに一緒に遊ぶ場所も多い。これなら行けるかも!!」
「はい。後はアイコちゃんの勇気次第です。玉砕したら慰めてあげますから遠慮なく特攻してください。」
「ふられる前提で話しないで!? 一週間かけて心構えしてきたんだから!!」
そして今日は、アイコが赤兎に告白する日である。
ナビキは『大空商店街』の幹部のような立場にある。そのナビキが予め入手した祭の内部情報からデートプランを二人で相談して決めた。
アイコの服装も今はいつもの戦闘用の道着ではなくデートのための私服。いつもは絶対に着ないスカートまで履いている。
準備は万端。
後は、本番だけだ。
「その本番が一番心配なんですけどね。あの人やその周りって本当に予想の遥か上をスキップしながら飛んでいきますからね。もしかしたら待ち合わせ場所に来る途中で何かあって事件に巻き込まれてたり……」
「言うと現実になりそうだからやめて!!」
「そもそも女の子の方が先に待ち合わせ場所に着いてるのもどうかと思いますが……待ち合わせ時間は9時、場所はゲートポイント……そろそろですね。では、私はこれで」
「え!?」
「『え!?』じゃないですよ。デートは二人水入らずに決まってるじゃないですか。私は主催側としての仕事もあるし、夜にはコンサートも控えてますから……結果報告、楽しみにしてます」
係員専用の日暮れのような深い青色の羽織りを着て『仕事モード』に切り替えるナビキ。
「え、ホントに行っちゃうの!?」
確かにデートなのだから知り合いはいない方がいい。ギルドの仕事もあると言われれば引き留められるわけもなく……
「ぅぅ……ナビキちゃんの意地悪……今度ライトに告白するって言われても協力してあげないんだから」
一人でドキドキしながら赤兎を待つことになった。
9時13分。
十分以上の遅刻の後、ゲートポイントを通って私服姿の赤兎が現れた……赤茶色の髪をした小さな女の子を伴って。
「いや悪い。この子が誘拐されかかってたから……」
「遅い!!」
ドガッ
「グフッ!!」
極限まで緊張して待っていたアイコの直突きが赤兎にヒットし、赤兎は閉じきっていなかったゲートポイントを通って転移前の街へ消えていった。
「あ、凄いパンチだ! おねえさん、アイコって人だよね」
「あ、うん……て、しまった!! 思わず殴っちゃった!!」
プランでは赤兎が遅れてきても『今きたところ』と答えるつもりだったのに、女の子を連れているのを見て、待っていた間に溜まった緊張も相まってつい手が出てしまった。
初っ端から失敗した。
一分ほどして混雑したゲートポイントから改めて赤兎が現れた……私服なのに刀の鞘で防御姿勢を取りながら。
「悪い……だが知り合いなんだ。無視なんて出来ないだろ。だからそう怒るなよ」
「見ず知らずの女の子でも同じ事言うんでしょ。てゆうか、もう殴らないから教えて。この子、どういう知り合い?」
「ああ、オレのっていうかライトの方が近い知り合いなんだが……OCCの後衛、メモリだ。」
「え、OCC!? あの子が……」
「あ、チョウチョー」
宙を飛ぶ移動型オブジェクトを無邪気に追いかけている。
「あの子が!?」
「ああ、信じられないかもしれないが、本当だ」
OCC。
たった六人、ワンパーティーで攻略の進行速度は『戦線』と張り合えるレベルだと言われる化け物みたいな集団。
そのメンバーは一人一人がプロ中のプロで、噂では本物の軍人がいるとか、様々なゲームのトッププレイヤーの集団だとか、変人な天才集団だとか言われている。
少数故のフットワークの軽さを生かして新しく発見されたダンジョンにどこのギルドよりも早く踏み込み、恐るべきスピードで最深部へ侵攻し、ダンジョンにいたかと思えば街で高難易度のクエストを攻略したという情報が広がる。
前線のプレイヤーですら、彼らの事を詳しく知る者は少ないのだ。
そして、その一人が……
「あ、虫さんだー」
ブカブカの賢者のようなローブを着て、身体に不釣り合いな大きな本をバンドでランドセルのように背負って地面の蟻のような虫を見つめている少女『メモリ』である。
「本当にこの子があのOCCなの?」
「しかもライトとはリアルでの知り合いらしい」
「あー……なんか分かったかも」
ライトの周囲には能力は高いが性格的に少々特殊な人物が多い。
時々別人のように豹変することで有名な『天気屋』ことナビキ。
誰ともパーティーを組まず危険なダンジョンで舞う闇夜の魔法使い『幻』の黒ずきん。
僅か一週間でプレイヤーショップを立ち上げた驚異の起業家『最大の生産職』スカイ。
スカイへの身も心も捧げる元義賊『泥棒狐』、そして今は『大空商店街』のサブリーダーであり情報屋『狐火』の蛍。
類は友を呼ぶとは、このような事を指して言うのだろう。
……しかし、こんな小さな子供まで知り合いとは、本当にロリコンの素質があるのではないだろうか。
「でもなんでOCCの一人が拉致されそうになってたのよ?」
「お菓子貰った!」
「丁度この祭に参加するつもりだったらしくてな、案内するって言われたらしい」
「絵に描いたような誘拐の手口……その子、よく前線で生き残って来れたよね」
「あ、お菓子屋さんだー」
「あ、行っちゃった……」
「ま、ここまで送れば大丈夫だろ。遅れて悪かったな」
「あたしも……いきなり殴っちゃってごめんなさい」
「ん、じゃあ互いにごめんでお相子だ。じゃ、祭を楽しみに行こうぜ。今日は攻略のこと忘れて楽しむんだろ?」
「うん!」
赤兎はさり気なく手を出し、アイコは恥ずかしがりながらもその手を握る。
「人が多いから迷子になるなよ」
「……うん、わかってる……てゆうか、わかってた」
こうして、二人のデートが幕を開けた。
同刻。
時計台広場の中にあるゲートポイントの近くの建物の陰から、手をつないで歩き出すのを見つめるプレイヤーがいる。
「ふふふ、アイコちゃん。私が準備だけ手伝って丸投げなんてするわけないじゃないですか。陰ながらサポートしますよ」
祭当日分の自由時間を増やしてもらうために、この一週間は不眠不休(主に休憩はナビやエリザとの交代制)で仕事を片づけたのだ。
「赤兎さん相手に事前の対策だけでどうにかなるなんて思うわけないですからね。どんなトラブルも、赤兎さんが関わる間もなく解決して見せます。先輩がいない今、私こそが陰の功労者です」
ライトは未だに連絡が取れない。
折角の祭りだから帰ってきて一緒に祭を楽しんで欲しいところだったのだが、連絡が取れないのだからしょうがない。それに、ライトはこのような企みには喜んで協力してくれそうだが、何故かかえって事が大きくなりそうな気がする。
「マリーさんは空気が読める人だから騒ぎは起こさないだろうし、黒ずきんさんには大人しくしててくれるように頼みました。赤兎さんは当のアイコちゃんが一緒ですし、後はそこまで騒ぎを起こしそうなお客さんは……」
その時だった。
ゲートポイントから、五人のプレイヤーが現れる。
凄まじい覇気を放つ老人。
マントを装備した少年。
全身顔まで隠した外套の狩人。
銀髪をした執事服の青年。
金髪でサングラスを付けた少年。
そして、赤茶色の髪の少女が五人を見つけて駆け寄る。
「あ、みんなー!」
「大人しくせんか、一人で勝手に動きよって」
「近くにいないと守れないからな。」
「…………」
「レディはもっとお上品にしなければなりませんよ」
「一人だけ抜け駆けなんてズルいぞ」
「あれはまさか……」
以前エリザの意識越しに酔って朦朧とした頭で見ただけだが、印象には残っている。
ライトや赤兎に負けず劣らずの異彩を放つ個性派集団。
意識せずともトラブルを引き起こしかねない、最強のパーティー。
「あれは……OCC!」
ライトがいない中、ナビキの壮絶な戦いが始まった。
(スカイ)「うーん……そろそろめぼしいアイテムは紹介しちゃったかしらね~」
(イザナ)「無くは無いですけど、本編に出てないものは紹介してもわかりませんからね」
(スカイ)「ぶっちゃけもう紹介アイテムのストックがないのよね~……どうしよっか?」
(イザナ)「また新しいコーナーでも始めますか?」
(スカイ)「でも、新しいコーナーなんて……」
(???)「あらあら、お困りのようですね。お手伝いしましょうか?」
(???)「へえ、これがメタ空間ってやつ? ボク初めてだけど」
(イザナ)「あ、あなた達は!」
(スカイ)「まさかこれって……そういう事なの? マリー、ジャック」
(マリー)「はい、選手交代です。次回から私ことマリー=ゴールドと」
(ジャック)「ボクことジャックで」
「新コーナー『プレイヤーお悩み相談室』を始めます。」




