80頁:浮かれないように気を付けましょう
登場したスキルはほとんど紹介してしまったので、次回からは主要人物の『オーバー50』の技を紹介します。(登場する予定のない技も出します)
「超能力はあるとしても『予知』なんて系統の超能力はない。なんでか分かる?」
背の高い女の人……演劇部の部長さんは唐突に尋ねてくる。文脈も脈絡も、時系列すら無視して問いかけてくる。
「いえ、私にはわかりません。どんな超能力者だろうと『予知』は不可能だから、とかですか?」
「マイナス百点満点。正解は『全ての系統の超能力者が予知能力者に繋がるから』だよ。全ての道がローマに続き、ローマの道は全てに繋がるように。残念だったねナビキちゃん」
ここはナビキの夢の中。
ここで見聞きした話など、起きたら憶えてはいない。『マイナス百点満点』などという有り得ない採点をされたところで、ショックを受ける必要はない。
「ダメだよ、そんな捨て鉢になっちゃ。折角、私の弟子の弟子、つまり孫弟子の頭の中に私の認識が出来たから睡眠学習でもしてあげようと思ってるのに、そんなにやる気がないと暇つぶしにもならないじゃん」
「暇つぶしなんですか」
なら逆に少しくらい真面目に聞いても良いかと思った。
どうせ、寝ている間……夢見ている間は暇なのだ。
「あなたが知ってる予知能力者は『金メダル』『銀メダル』『銅メダル』、あとは茨木の悪鬼ちゃんくらいかな。ゲーム開始時点で予知能力者と呼べるのは『金メダル』と『銀メダル』くらいだったけど、他の子達も順調に育ってるみたいで嬉しいわ」
「『予知』の能力者はいないって話じゃなかったんですか?」
「『予知』って系統がないって話よ。まあ、まず前提として『超能力』はいる。ただし、手から火を出すとか空を飛ぶとかって分かりやすい能力は文明機械の発達と普通の人間からの弾圧とかでほとんど衰退しちゃってるから、内面に効果が現れる証明しにくい能力しか現代には残ってないのよ。実際、ライターがあれば火は作れるし、空を飛ぶより飛行機に乗った方が速いしね。それが超能力が存在しないとか思われちゃってる理由。」
「はあ……」
「要は『超能力はある』っていうのだけ憶えてればいいの。まあ、最近は科学力も発展して解析出来るようになってきてるし、『科学で説明できないもの』なんて定義からははずれるかもしれないけど。そもそも『科学で説明できない』って定義で超能力って言ってる専門家が『科学で証明できないから存在を認めない』とかって言うのはどうかと思うけどね。普通に『未知』って言えば良いのに、『私は何でも知っている』みたいな顔したいばっかりに知らないことを否定するなんて、それだからなかなか世界は変わらないのよ」
「いや、愚痴はそこら辺にしてください。予知能力者の話です」
「あ、ごめんね。まあざっくり言えば、電力操作、読心、直感、透視、流体操作……どんな系統の能力でも、観測系の方向に進化していけば『予知能力』になるってことよ。計算過程が違っても同じ答えに辿り着く数学の問題みたいにね。」
能力の収束。
観測系の能力の行き着く先。
言うのは易しいが、それを予知と呼べるレベルに高められるのはほんの一握り。
像がぶれる。
ノイズが走る。
「あー、やっぱり私の人格を再現するにはチップの容量が足りないか……私もちょっとくらいゲームに参加できるかと思ったのに。まあいいや、今日はここまで。じゃあ、良い目覚めを」
《現在 DBO》
デスゲーム開始から三カ月と少し。
現在攻略済みの国……4つ。攻略中の国……3つ。
犠牲者数約800人。
ギルドが結成されてからギルドでの連携にも慣れ始め、攻略は概ね順調だ。
そして、その攻略の最前線を支えるのは戦闘ギルド『戦線』。
最初期から未知のエリアの攻略の最先端に立っていた戦闘職プレイヤー達が構成員のほとんどを占める、まさしくトップギルドと呼ばれるべき、攻略を象徴するギルド。
その中でも、ひときわ目立つプレイヤーがいる。
第一のエリアボスとのボス戦では一人で勇敢にボスに立ち向かい、百戦錬磨、倒したボスモンスターは数知れず、全プレイヤー中最強との声も高い剣士。
『先駆者』の称号を持つ男『赤兎』。
また、同時に彼にはパートナーがいるというのが一般的な情報だ。
恐ろしいモンスター相手に武器は持たず、その拳を武器に闘う『武道家』の少女『アイコ』。
その攻防共に優れ、持ち前の技術を生かした戦い方は赤兎のサポートをつとめるのに相応しく、また猪突猛進気味な赤兎のブレーキ役として彼をいさめる姿も見られ、前線のベストカップルとも噂されている。
しかし、実はこの二人の噂には少々訂正すべきところがある。それは……
「ナビキちゃん! 一生のお願い!! 私の赤兎への告白、プロデュースして!!」
「……はい?」
二人はまだ付き合ってはいなかった。
忙しい中、アイコに『大事な相談がある』と言われて前線近くのレストランに呼び出されたナビキは思わぬ相談内容に困惑する。
生産ギルド『大空商店街』に加入したナビキは、今やギルドの幹部のような立ち位置にいる。
理由は簡単で、ナビキは元は戦闘職として前線で戦っていた経験があり、レベル的にも知識的にも、主に生産職から構成された生産系ギルドでは他のプレイヤーから抜きんでているからである。
攻略本の情報集めに加え、素材集めのために戦闘技術が必要になるプレイヤーへの教育で忙しい上、ギルドに入ってさらに大きな仕事をする事になってしまった。
スカイ主導の『プレイヤーメンタル充実政策』のために歌を唱い、時にはサインなどをせがまれ、さらには写真まで売り物にされている。
有り体に言えば、アイドルになってしまった。
しかも、望んだわけではなくスカイの策に乗せられていつの間にか有名になってしまった。
おかげさまで、今のナビキの装備は目立たないようにわざとブカブカのコートを羽織り、大きめの帽子をかぶり、さらに伊達眼鏡までしている。
こんな変装でもしなければ静かに街中を出歩く事も出来ない。
それでもアイコに会いに来たのはアイコとナビキが友達だからだ。
元々、アイコが今前線で居座っている立ち位置はナビキの抜けた穴に代わりに入ったという意味合いが強い。だが、それはアイコが赤兎の隣を奪い取ったわけではなく、二人が話し合いの上で合意してナビキからアイコに受け継がれたものだ。
今では二人は親友とも言えるような親しい仲である。
……まあ、諸事情あってナビキの『秘密』についてはまだ話していないのだが……
「いや、流石に親友でも告白まで面倒は見ませんよ? それくらいは勇気を出して自力でやってください」
「そういうことじゃないの! ナビキには、邪魔が入らないようにセッティングして欲しいだけなの!」
「ちょっと意味が……どういうことか、詳しく説明してください。」
「……何度も告白しようとしてるのに、いつも何かに邪魔されるの。この前も……」
アイコは告白を決意し、覚悟を固めて赤兎をデートに連れ出した。
デートとは言っても一日ショッピングに付き合ってもらうだけの簡素なものだった。赤兎はデートだとは思わずに、荷物持ちに連れ出されただけだと思っていただろう。
そして、デートの終盤。
人気のない夜の道で、アイコが思いの丈を込めた告白をしようと口を開いた瞬間……
「路地裏から女の人の悲鳴が聞こえてきて告白出来なかったの。犯罪者に襲われてたみたいで赤兎が走っていって助けたんだけど……とても、その後に言い直せなくて」
「それは災難でしたね」
アイコは視線を机に落とし、注文したココアの入ったカップを握りしめる。
「それだけじゃないの。何度も理由をこじつけてデートに誘って告白しようとしたけど、その度に……すぐ側の木に雷が落ちたり、知り合いに呼び止められたり、狩りをしてたプレイヤーの外した矢が飛んできたり、トラップが作動して離れ離れになったり、迷子を見つけたり、喧嘩に出くわしたり、近くを歩いてた人が倒れたり、封鎖されてたゲートポイントが開通して飛ばされたり……必ず邪魔が入って来る」
カップを握る手に力が入り、陶器のカップにひびが入る。
嘘や冗談を言っている雰囲気ではない。
「そのくせ、アクシデントで裸を見られるわ胸を触られるわ、時々不意打ちみたいに『可愛い』とか言ってくるのにすぐ話変えちゃうし、寝てるとこについキスしちゃったのに爆睡してて気がついてないし、あたしの前で他の女の子の話も平気でするし女の子助けるし女の子にデレデレしてるし女の子に誘われて顔赤くなってるし女の子に頼まれたこと断らないし油断してると周りが女の子だらけになってるし女の子と……」
「アイコちゃん!! 戻ってきて!! カップもう粉々だよ!!」
ナビキは割れたカップから流れ落ちたココアを拭き取り、店員NPCに謝りながら考える。
……ああ、苦労してるな。アイコちゃん。
ナビキは一時期……僅か二週間ほどだが一緒に前線で戦っていた。
だからこそ、アイコの苦労がわかった。
普通なら告白出来なかった言い訳にも聞こえるだろうが、赤兎が相手ならあり得るのだ。
ダンジョンを進めばピンチの女の子を助ける。
気まぐれでいつもと違う道を歩くと事件に出くわす。
女の子が水浴びをしていれば信じられないようなアクシデントで覗いてしまう。
よく女の子に一目惚れされる。
敵の攻撃が運良く急所を外れる。
遠征先で知り合いと再会する。
ピンチになると味方が現れる。
赤兎にはそういった『主人公体質』のようなものがある。どうしてそんなに希運や幸運に満ちたルートを選択できるのかは知らないが、赤兎はまるでライトノベルかマンガの主人公のような運命を持っている。
「どんなに対策をとっても告白が成功しないの……どんな状況でも、近くで困ってる人がいたりトラブルが起きてたりしたら赤兎は助けに行っちゃうから……そんな所が好きなんだけど」
実はアイコも助けられて赤兎を好きになったくちである。
「はいはい、惚気はいいですから。でも、そういうことなら私より先輩に相談した方が良くないですか? 二人のコンビ結成をプロデュースしたのも先輩ですし、今度帰ってきたときにでも……」
「そんなに待てないの!! 赤兎の周り女の子がどんどん増えてくし、この前のギルド結成の時も『アマゾネス』から勧誘されてハーレムになりそうだったのをどうにか引き止めたんだし、最近また攻略が進んだせいで赤兎の人気も上がってるし……今度のボスダンジョン攻略から『アマゾネス』も本格的に参加してくるから早くしないと……」
『アマゾネス』とは前線の女性プレイヤーの多くが加入している二百人近い大型ギルドだ。
悲しいことにこのデスゲームでも男女差別は完全には消えておらず、女性プレイヤーは犯罪の標的になりやすく、また男の割合が高い前線でパーティーメンバーに加えてもらうのも難しいため、女性プレイヤーが互いに支え合うために結成した総合ギルドだ。
女性プレイヤーだけとは言え、弱いギルドではない。自衛の能力を鍛えるためか積極的にレベル上げに精を出している戦闘寄りのギルド。
『戦えないプレイヤー』の保護を兼ねた『大空商店街』よりも戦闘能力が高いプレイヤーの率はかなり高く、専業の生産職もいて機能的にも整っている。
男子禁制の独立女人国家、秘密の園との噂も高い。
ナビキもアイコも一度は勧誘を受けたが、当然断っている。
そして、あろうことか赤兎も勧誘を受けている。
ただし、正式にギルドに入るわけではなく『アマゾネス』の戦闘職に戦闘経験を積ませるための『技術顧問』という名目だったが、実のところはなんとか赤兎を引っ張り込もうとする策略であった。
何せ、赤兎は前線のヒーローなのだ。
女性プレイヤーの集まりである『アマゾネス』の中に赤兎のファンクラブが出来ていないわけがない。
一ヶ月前にはあらゆる手を使って何としても赤兎を引き込もうとする『アマゾネス』と赤兎を渡すまいとする『戦線』で熾烈な戦いが繰り広げられていたが、赤兎本人はそれを知らない。
「なるほど……つまり今の内に恋人同士にならないともう近づけないかもしれないから、今度こそ確実に告白を成功させようと私に……」
「ライトにも相談したかったんだけど、『アマゾネス』のボス攻略参加の情報を聞いた時にはもう音信不通になってて……」
「先輩は今、連絡できない所にいますからね」
アイコと赤兎がコンビプレイをするようになるまでの段取りをしたのはライトだが、そのライトは昨日からどこかの複雑なダンジョンに潜るというメールが来ていた。いつ戻るかはわからないが……
『一週間くらい戻ってこないかもしれないが心配するな。多分遭難してるだけだから』
というメールがあったので皆とくに心配はしていない。
ライトは一人で行ったわけでもなく、連れとして『道案内NPC』のイザナを連れて行っている。
……前々からイザナの行動範囲の拡大が気になっていたが、とうとう転移で他の街まで連れ出せるようになったらしいというのには正直驚いた。
他のプレイヤーが他の街までの案内を依頼しても同じようには連れ出せないのでライトへの好感度が関係しているのかもしれない。
「街のNPCをダンジョンの道案内に連れて行くのはどうかと思いますけどね」
「ついて行く道案内NPCもどうかと思うよ。どれだけ好感度あげてんのよ……ライト本気であの子を攻略しようとしてない?」
「……それはともかく、確かに告白は成功させないといけませんね。ギルド間抗争とかに発展するかもしれませんし」
「さらっと流したね……でも、具体的にどうしたらいいんだろ。不意打ちみたいに告白しても『ちょっと考えさせて欲しい』って言われそうだし、やっぱりデートしてその勢いで告白したいけど……それだとアクシデントが起こったときデートも中止になって話が流れちゃうし」
アイコも何度も挑戦して一筋縄では行かないのを知っている。
ナビキもそれを察してしばし目を閉じて考える。
赤兎のアクシデントを引き寄せる体質はどうにもならない。
必要な条件はアクシデントの起こらない環境ではなく、多少アクシデントが起こっても上手くフォローできるという環境だ。
それに、デートの場所も確実に告白を成功させたいなら出来るだけ楽しいデートにしたい。
「………あ、そういえば……」
「え、何か思いついたの?」
「はい……最高のデートが出来るアイデアがあります。それに、これなら多少のアクシデントも誤魔化せるはずです」
「い、一体なんなの? そのアイデアって」
「……一週間後の『デスゲーム開始100日記念祭』です。」
《破魔の鬼面》
特殊な宝石が埋め込まれた鬼の面。
高レベルの魔除けであり、呪いや反支援を無効化する。
(スカイ)「はいこちら、街中で装備したらまず間違いなく犯罪者扱いされるアイテムデス~」
(イザナ)「手配書の顔の所にこの絵が描いてあるくらいですからね」
(スカイ)「何せ、遭ったら死んじゃうからね~」
(イザナ)「それにしても……ジャックさんってよくこんな怖いアイテム持ってましたね」
(スカイ)「あの子はね~……変なところで変な運強いからね~。犯罪者に身包みはがされたり、ライトに袋に入れて運ばれたり」
(イザナ)「ちょっとかわいそうです」




