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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第四章:ギルド編

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78頁:人の恨みを買うのはやめましょう

『殺人スキル』

 人を殺すスキル。

 人を殺すほど成長する。

 高速で全身の急所を斬りつける『マーダーズ・バースデー』、噛みつきで相手のHPやEPを急速に吸収し攻撃と回復を両立する『カーニバル』、首を絞めて詠唱や行動を封じて苦しみを与えながらダメージを与え続ける『クルシマス』など、強力な技が揃っているようだが、交戦したプレイヤーが漏れなく死亡しているので詳細不明。


 

 人間とはなかなか進化しないものだ。


 技術が発達しても、物質的に豊かになっても、飢える必要がなくなっても幸福に結びつかない。


 ホタルはよくそれを実感する。


「おい、もう壊れちまってんのか?」

「いや、まだまだだろ」


 安全エリアとなっている洞窟の小部屋で鞭を受けながら、ホタルは今も実感する。



 彼女の父親は血のつながった親ではなかった。

 母親は血はつながっていたが心はつながっていなかった。


 そんな親から常々言われていたことがある。

『私達の役に立て 役に立たない子はいらない』


 痛みには慣れている。


 父親は機嫌が悪いと妻と娘に暴力を振るう。

 母親は娘が夫の機嫌を取り損ねると娘に暴力を振るう。


 だから彼女は、いつも『役に立つ』ことをしていた。


 一番『役に立つ』のは、家にお金を入れることだった。


 もちろん子供の働き口なんて身分の偽造が難しくなった現代では出来るわけもなかったが、方法はあった。


 昨今は金銭の電子化が進んでいると言っても、未だにスリや引ったくりは消えていない。貨幣や紙幣も絶えてはいない。

 万引きや置き引きなど、手段を選ばなければ出来ることはたくさんあった。


 家にお金を入れるだけでは駄目だった。

 迷惑をかけてもいけない。

 お小遣いは自分で『稼いだ』。

 欲しい玩具も自力で『手に入れた』。

 食べ物も自分が食べる分は『集めた』。


 いつしか中学では不良グループに属していたが、特に仲間意識は無かった。

 他の人達は親や家族に反抗してつるんでいただけだが、彼女は親の『役に立つ』ための情報収集のためにそこにいたからだ。


 そしてあの日。

 高校受験なんてどこ吹く風と、不良仲間から手に入れたアカウントでゲームを始めたあの日……


 彼女は、自分が操り人形だったと自覚した。


 両親のいない世界など想像もしていなくて、どうやって生きたらいいか目的すら思い浮かばない自分に気づいて……



 二週間ほどして、声をかけられた。

 惰性で生きていた。

 惰性で盗みをして、惰性で物運びなどの単純なクエストを受けて、惰性で走っていた時……


『ちょっと仲間が欲しいんだ。一緒に悪いことしないか?』


 犯罪者を集めていたロロに声をかけられた。



 ロロの下についた理由はそれだけだった。

 ただ、誰のかの役に立ちたいと……自分に価値があると思いたかっただけだ。


 絶対服従……そんなもの、考える責任を放棄したに過ぎない。

 自分は誰かの操り人形だと思いこむためのロールプレイングに過ぎない。


「罰が当たったのかなぁ……」

 自分の無価値な人生に笑えてくる。


 犯罪者に恨まれる憶えは山ほどある。

 しかし、死んだロロが責任を取ってくれるわけでもないし、今仕えているライトに責任を求めるのも筋違いだ。



「こいつ、笑ってやがる」

「まだまだ足りねえってか……とんだM野郎だ」


 拷問は続く。







《現在 DBO》


 ライトは呼び出された場所に来た。

 モンスターのポップ率が低いフィールド。

 『胡桃の街』に程近い、フィールドボス〖トラップラクーン〗の巣があった場所。

 木々が視界を遮り、遠くまで見渡せない。

 待ち伏せするにはもってこいの場所だ。


 そこでライトは、正面の木陰に向かって呼びかける。


「久しぶりだな……ここにはホタルはいないと分かっては居たが、久々におまえとも話がしたかったから来た」


 木陰から、何者かが答える。


「貴様……あれで俺だとわかったのか?」


「筆跡から書いたやつを逆算するとか得意でな。知り合いの中であんな字を書くのはおまえだけだろうと思ったよ……シャーク」


 陰の中の人物は……シャークは、名前を呼ばれて初めてその姿を見せた。


 初めてのエリアボス攻略でのレイドリーダーであり、唯一の脱走兵となった男だ。


 二十代の男……だが、その表情には押さえきれない憎しみがにじみ出ている。

 装備は陰に隠れやすい黒マントで分からないが、マントから突き出された右手には隠す気もなく無骨な剣が握られており、その敵意を示している。


「あれから見ないとは思っていたが、犯罪者になっていたとはな。しかも、何人か隠してるみたいだし、結局リーダーやってるのか?」


「意外だろうな。ボス戦ではみっともなくしっぽ巻いて逃げ出したのにな」


「いや? オレはあの時からシャークには指揮官の才能があると思ってたぜ? 出来ればそれをゲーム攻略の方に使って欲しかったがな」


「そうかよ……じゃあとりあえず、貴様を殺したら考えてみようか」


 シャークは剣の矛先をライトの顔に向けた。

 すると、他の木陰から武器を持った五人の人影が現れる。


「六人か……やっぱり戦わずに交渉ってわけにはいかないか? てか、ホタルは生きてるか? 死んでるならオレは帰るつもりだが……」


「安心しろ。貴様の部下は別のところで拷問を受けてるはずだ。あいつらがうっかり殺してなきゃ生きてる。あと、これは戦いじゃない。貴様への『復讐』だ」



 新たに現れた五人を見てライトは目を見張る。

 ライトのレベルは現在71。相変わらず前線でも十分戦えるレベルだ。

 対して、出てきた五人のレベルはライトの『解析スキル』『鑑定スキル』によれば30から40。特に特別なアイテムを所持しているわけでもない。むしろ、防具の類はほとんどつけていない。


 だが、そのHPは既に真っ赤だ。

 その武器を握る手は恐怖に震え、足がすくんでいる。


 しかし、彼らはライトへと近付いてくる。


「なるほど……妙にわかりやすくしてあったのはこういうことか」


「さあ、人質となった知り合いを救いに来たヒーローは見ず知らずの人質を傷つけて生き延びようとするのか……はたまたヒーローらしく人質になぶり殺しにされるのか……見物だな」







 同じ頃。

 ホタルは洞窟の奥で鎖につながれて考えていた。


 どうして、自分は捕まったのか?

 黒ずきんがグルだった? しかし、自分を拷問してくる奴らの話だとどうやら違うらしい。


 仲間の一人が殺されたらしい。

 そして、その犯人が殺人鬼かもしれないそうだ。

 殺人鬼は犯罪者を仲間まで含めて全滅させるという噂がある。だから、他の犯罪者集団にも応援を要請して警戒を固めていた。


 殺人鬼は犯罪者達にとっては出来るだけ関わり合いたくない存在だが、関わってしまえばいっそのこと何が何でも始末したい相手だった。


 そして、その警戒網にホタルが引っかかった。


 犯罪者達は仲間を殺したのも『泥棒狐』であるホタルだと思っている。というより、信じたがっている。


 だから、意味もない自白を強要してくる。

 ホタルが犯人になるまで、殺人鬼の恐怖を拭うことが出来ないのだ。


 今は拷問は中断している。

 耳を澄ませば、どうやら『上位組織』のようなものから指示が来たらしい。


「逃げられないかなぁ……」


 自分の体を見る。

 左脚はふくらはぎの半ばで切断され、簡単な止血のみがされている。

 両手は後ろ手で食い込むほどきつく縛られている。余程警戒されているようだ。これでは逃げることも、武器を持って抵抗することも出来ない。

 残った右足には壁に繋がった鎖がつけられていて這って行くことすらかなわない。


 他にも傷は沢山あるが、もはや些細な問題だ。

 逃げられない……それだけで十分だ。 


「もう……言っちゃおうかな」


 嘘でも認めてしまえば……きっと殺される。

 今はダメージを受けて安い薬で回復してを繰り返しているが、最後にとどめを刺されて終わるだろう。


 だが、やはり……


「最期に一度、ちゃんとお話したい……」


 拷問役のプレイヤーが戻ってくる。

 そして、問いかける。


「お前が殺したのか? 今まで盗んだ分の金はどこにある?」


 ホタルは少し考えてはっきりと答えた。

「私はなにも知りません」


 拷問は続く。






 プレイヤーのレベルにはレベル50という『壁』がある。

 レベルを一つ上げるのに必要な経験値はレベルがあがるごとに増え、倒せるモンスターのレベルが上がって入る経験値が増える量より多い。


 わかりやすく言えば、レベルは上げれば上げるほどさらに高いレベルへ上り詰めるのが難しく……『レベルアップ』という行為の難易度が高くなる。


 そして、その難易度がもっとも高いのがレベル50へと到達する段階だと言われる。

 レベル45から50へ上げるのと、50から55へ上げるのでは難易度が大きく違う。


 レベル50になると『オーバー50』と呼ばれる『そのプレイヤーのプレイスタイルに適した固有の技』がシステムに自動生成される。その事からも分かるように、レベル50はゲーム的にプレイヤーのランクを線引きするラインなのだ。


 今やレベル50を越えていれば、下っ端でもマップ拡張に協力できる前線に仲間入りできると言われているくらいに、その差は大きい。

 オーバー50の事もあるが、50越えのプレイヤーに50を越えていないプレイヤーが勝負を仕掛けるのは命知らずだとされている。



 だが、レベル40以下の五人はライトに襲いかかる。

 ライトは五人の攻撃を避けながら観察する。

「勝てると思ってるわけじゃないだろうし、表情とか見る限り好きでやってるわけじゃなさそうだな。大方、脅して無理やりやらせてるって感じか……」


「そいつらはレベルも低いしロクな防具もつけさせてない。一発でも反撃したら死ぬかもな」


 シャークは自分は接近せずに五人に攻撃を受け続け、避け続けるライトを離れたまま見る。


「なるほど、これは正義の味方への対抗策としては最高のやり方かもしれないな……だが、オレは正義の味方じゃないぜ? 偶には『悪役』もやってみようか」


 ライトは自らの腰に手をかけ、竹光ではなく……脇差を抜く。

 そして……


「下手に動かない方が身のためだ」


 五人を容赦なく『斬った』。




「……貴様……何をしたんだ?」

 シャークは驚きの声を上げる。


 目の前では、五人が攻撃対象を見失ったように周囲を見回す。

 攻撃どころか、一歩も動けなくなる。


「この脇差はちょっとしたレアアイテムでな……名前は≪闇討ち≫。この刀で斬られてもダメージは発生しないが、その代わりに一定時間『失明』の状態になる」

 ライトはそう言いながら一歩一歩シャークに接近していく。


「犯罪者に襲われたら動きを止めるのに使おうと思って装備してたんだが、思わぬ場面で役に立ったな」


「クッ!!」


 シャークは接近するライトに自分の剣を振りかぶるが、ライトはそれを脇差で受け流すように止める。

 そして、脇差を持っていない方の手を握り拳に変え、シャークの剣を持つ手を殴って剣を落とさせる。


「チッ……」

「シャーク、おまえは自分で気づいていないかもしれないが、自分で戦うより指揮官をした方が向いてる。おまえは前のゲームでギルドマスターなんてやってたのは押し付けられた結果みたいに言ってたが、多分おまえの仲間はおまえのその才能を知ってて任せたんだと思うぞ。まあ、最初から飛び抜けるタイプじゃなくて磨けば伸びるタイプだろうけどな」


 ライトはシャークに≪闇討ち≫を突きつける。


「本当はな、オレは臨時で指揮を執る役を代わったが、おまえを立派な指揮官に育てたかったんだ。それを、その発想力を、その指揮力をこんなことに使ってほしくなかった」


 そう言って、ライトは≪闇討ち≫の刃を指で挟むように持ち、柄の方をシャークに向ける。


「どうする? まだ戦うか?」


 シャークは逡巡する間もなく≪闇討ち≫を握った。


「貴様は俺をどこまで馬鹿にすれば気が済むんだ!? ……!?」



 だがその瞬間、シャークの視界は闇に包まれた。



「言い忘れてたけどな、その刀呪われてるから……装備してる間、持ってる奴も失明するぞ」

「なら貴様は見えないまま!?」

「知り合いに生まれた時から見えない奴がいるからな。そいつの真似をしただけだ」


 シャークの見えない目の前で、ライトは≪竹光≫を抜く。

 そして、大きく振りかぶる。


「人質を逆らわせないための定番は、さらなる人質、心臓に爆弾、それと……『首輪』だよな」


 ライトは、空中の見えないほど細い『糸』を切断した。



「チッ……」

 シャークはマントの中に隠した『左手』の糸に手応えがなくなり、糸が切られたことを悟る。


「『糸スキル』。扱いは難しいけど便利だよな……奇遇にも、オレも修得してあるんだ。特に、値段が高めの丈夫で細い糸だと筋力とか関係なく高い切断力が出るから……HPをギリギリまで減らさせた状態で糸を首にかけて『逆らったら首が飛ぶ』って言って脅したのか? 確かに死にたくなければ従うしかなくなるが……それだと敵にが糸に気付いたら終わるぞ?」


 ライトはシャークから≪闇討ち≫を取り返し、鞘に納める。

 ≪闇討ち≫の失明効果は基本的に30秒。だが、持ち主が脇差を鞘に納めれば時間が来る前に効果が切れる。

 会話から糸が切れたことを知れば、捕まっていた五人はすぐ逃げるだろう。


 すでに二人、逃げ始めているような足音が聞こえてきている。


「まあ、オレが罪もない奴を攻撃しないと思って安易な作戦を立てたのかもしれないが……オレを過大評価しすぎだ。オレはヒーローじゃないし正義の味方じゃない。今日は見逃してやるからホタルの居場所を教えろ」


 戦闘能力の差は歴然としていた。

 心底期待を裏切られたようなライトの言葉に、シャークは方を震わせ……


 笑った。


「……まだだよ、ばーか」


 ライトの背後から槍と剣とナイフ……三つの武器が突き刺さった。


「あれ?」


「ごめんなさい……パートナーが捕まってるんです」

「仲間のためなんです」

「すみません……でも、あなたを殺さないと……」


「なるほど、五人中三人は二重の呪縛か……これは前言撤回だ。安易な作戦なんかじゃなかった」





 レベル71のライトのHPはレベル40以下のプレイヤー三人から見たら膨大だ。

 攻撃しても攻撃しても、大したダメージは与えられない。

 だが、逆にそれが惨たらしい。

 ライトは、一撃で沈められる相手三人の攻撃を大人しく、避けもせずに受け続ける。


 それを見ながら、シャークは嗤う。


「どうだライト……俺はな、この一ヶ月ずっと苦しんで来たんだ。ボス戦で逃げ出した間抜けだって誰もパーティーを組んでくれず、俺より弱い奴らに見下されて、何もしてないで様子見決め込んでた奴にも馬鹿にされてな!! 貴様にわかるか俺の気持ちが!! やりたくもないリーダーなんか押し付けられて、会議やなんかも誰も彼も自分のことばっかりでろくに話し合おうとせずに話が進まないのはおまえのせいだって責任転嫁されて、普通勝てないような大量の敵が現れたから無理だと思って逃げたら『勝てる戦いで逃げた臆病者』だぞ!! ふざけんな!! 全部貴様らのせいだ……貴様のせいだ!!」


 ライトは攻撃を受けながらも、シャークの目を見てシャークの言葉を聞く。


「あの時、貴様らも……お前らも逃げればよかったんだ。あんな大量のモンスターなんて、いきなり相手するなんて馬鹿げてる!! あんなの、逃げるしかなかったんだ……逃げなきゃ全滅するはずだったんだ……それなのに、お前が、お前と赤兎が手を組んで無茶なことやったから!! お前らが何とかしちまったから俺が悪かったことになったんだ!! 俺が勝てる戦いで一人だけ逃げたことにされちまったんだ!! 俺はただ、勝てないから逃げただけなんだ……何も間違ったことはしてないんだ!!!!」


 シャークはその眼に涙さえ浮かべて、その怨嗟の念を語った。

 そして、ライトは攻撃を受けながらも、全く動じずに答える。



「ああ、シャーク。おまえはあの時、誰よりも正しい選択をしていた。オレは今日それを言いに来たんだ」



「なん……だと?」


 ライトは斬られながらも、嘘のない目でシャークを見つめる。


「指揮官にとって一番大事な命令は『全員突撃』じゃなく『全員撤退』だとオレは思ってる。指揮官は生き残るのが仕事だ。生き残って、その経験と情報を次の戦いに生かし、それを積み重ねてあらゆる局面に対応できるようになることだ。あの局面で言えば、あそこは逃げて次は敵の増員を考慮した作戦を組み立てるのが指揮官としてベストアンサーだった。敵に退路を塞がれる前に脱出したシャークは、本当に正しい選択をしていたんだ」


「何を……心にもないことを言って命乞いになるとでも…」


「シャークの言ったとおりだ。あの時の非はオレと赤兎にある。オレは油断や対抗意識で士気が下がったり勝手な動きをするやつが出ないように増援のことは誰にも言わなかったが、リーダーのシャークにだけは言っておくべきだった。あの時、逃げようとするシャークと反対に赤兎が敵の弱点を見つけて注目を集めたのも計算外だった。普通は指揮官が逃げれば周りのやつも逃げはじめるのに、誰もシャークが逃げたことに気がつかなかったんだ。襲撃イベントが無ければ、オレはシャークを探して改めて前線での指揮をお願いするつもりだったんだぜ……こればっかりは星の巡り会わせ、というよりオレが下手に前へ出たしわ寄せかもな」


「……まさか、今更攻略に戻れとか言うつもりじゃないだろうな?」


「まさか。そんなことは言わない……犯罪者なら犯罪者のままでいい。指揮官として腕を磨いて頑張ってくれ」



 そう言うと、ライトはシャークにさらに接近する。


「なんのつもりだ?」


 やや予想外の動きに動揺するシャークを見て、ライトはニヤリと笑う。

「秘伝技『自爆』……って、知ってるか?」


 シャークはライトの言葉に目を丸くする。

 ライトの口から出た技名は、超高難易度な上リスクが大きすぎて誰も修得できない……しようとも思わないと噂の秘伝技だったのだ。


「な、まさか……だが、デスゲームで自爆技なんて修得してるやつがいるはずが……」


「やっぱり攻略本読んでるんだな……実はあれ、オレも制作に協力してるんだ。オレは入って来た情報を確認するためにクエスト……特にスキル修得と秘伝技の類は全部受けて修得してるんだ。そのオレが、『自爆』を持ってないと思うか?」


「!!」

 ライトを攻撃していた三人の手も止まる。

 残りHPは三割と言ったところ……こっそり防御力をブーストしていたが、攻撃を無抵抗に受けながら話していた分、やはりダメージは大きい。


「さあ、あの技は今オレが死んだら自動的に発動するように設定してある。威力は誰も見たことないが、この距離で発動すればシャークも、そこらへんに隠れてる奴も確実に死ぬぜ? 優れた指揮官なら、どうしたらいいかくらいわかるよな?」


「ぐ……まだ貴様の部下は俺の手中だ。俺が指示すればいつでも殺せるし、俺が死んでも殺すように言ってある。知ってるぜ? 殺人鬼から庇って同じ宿部屋で一晩寝た仲だろ?」


「寝てねえよ、徹夜だ……わかってないな」


 ライトは更にシャークに近づく。


「今回は見逃してやるから、この件から手を引けって言ってるんだ。ホタルの居場所も自分で探すから言わなくて良い。その代わり、次からはもっと数を揃えて、質を上げて、作戦を立てて、人質なんて相手の善意に頼ったやりかたじゃなくてオレをちゃんと殺せるようにして来い。同じ作戦が二度通じると思うなよ? 次は誰が人質だろうと、誰を盾にしようと、お前を殺すぞ」


 ライトから放たれたのは、殺人鬼のような本物の殺気だった。






「ごーお、よーん、さーん、にーい、いーち、零。もうどこか行ったな。さてと、あの三人は今回は解放できなかったな……」


 『百数えるうちにどこかに行け』というかくれんぼのようなルールでシャークと終戦したライトは辺りを見回し、シャークも人質も、関係のない一般のプレイヤーもいないことを確認する。

 そして、そのどれでもない者へ声をかける。


「ジャック、見てるんだろ。ちょっと来い」


「あれ? なんでわかったの?」

 木の上から、仮面をつけて黒いジャケットを着た殺人鬼(ジャック)が飛び降りて来る。


「オレが『自爆』って言った時逃げようと身構えただろ。それ以外の時は気配がなさ過ぎたから逆説的にジャックだってわかったよ」


「そう……ところで何の用?」


「ホタルの居場所を知らないか? 確定した情報でなくても、いるかもしれない場所でもいい」


「さあね、心当たりはなくはないけど……言っておくけど、ボクはホタルに何もしてないからね? 何かあったとしても、それはあの子の選択の結果、あの子の意志だよ。それこそ、あの時ライトとスカイが二人で仲良く話してる間にボクが殺人鬼になったのと同じようにね」


「そう来たか……確かに、養生してろと言ったのはオレだし、それを無視してホタルが事件に巻き込まれたなら自己責任かもな。ホタルにジャックの正体を明かさなかったのもオレだし、それで必要以上にジャックが信用されてホタルが動いたって考えることもできる。ジャックがオレにホタルのいるかもしれない場所を教える義理もない」


 ジャックはホタルに犯罪者のアジトを調べに行くことを提案しただけで強要はしていない。

 ついでに言えば、ジャックはそのアジトを利用している犯罪者の一人を嬲り殺してアジトの場所や見張り、さらにはどんな犯罪行為をしているのかを詳しく問い詰め、最後にその犯罪者の指を使って『近日参上』というメールを送ったくらいである。


 それによって昨日。ライトと殺人鬼、そして『泥棒狐』の接触を仲間からのメールで知ったシャークが殺人鬼か狐の片方でも捕えればライトを相手にするとき武器として使えると考えて張った罠にホタルがかかってしまったのだが、ジャックはそんなことは予期していない。

 『警戒してる所に詮索に行ったホタルが仲間の仇と勘違いされて命を狙われるかもな~』と思ったくらいである。


 その後は、シャークに呼び出しを受けたライトを尾行して来ただけだ。

 これは純粋に、ライトがジャックの正体を交渉材料としてばらしたりしないかどうか心配になっただけだ。


「いや……別に教えてもいいけどねー。もしかしたら、さっきシャークが手を引いて制限が外れて酷いことされたり殺されちゃったりしてるかもねー。まあ、それで一番いいのは辛すぎて記憶喪失になったり精神崩壊しちゃったりとかかもねー。さすがにそんな状態なら当分は殺す必要ないし……」


「ジャック……ほんと殺すこととなると容赦ないな。命を殺すとオレがジャックを殺すかもしれないなら精神を殺すか……ある程度わかった気でいたが、やっぱりまだまだわからないな……殺人鬼の思考は」


「ボクを生かしておいたことを後悔してる?」


「いや、後悔なんてしてない。後悔があるとすれば、あの時ジャックを一人にしたことだ。」


「今回のことは後悔してないの?」


「今回か……今のことなんて、後悔するにはまだ早い……まだ、バッドエンドにはなっていない。」


 ライトは力を込めて言う。

 ジャックはそれを無駄な努力だと哂う。


「まだバッドエンドにはなってない? もう殺されちゃってるかもしれないのに?」


 余裕を見せるジャックに、ライトはギラギラとした笑みを見せる。


「『殺人鬼の素顔の写真』……あいつには、この最強の交渉カードがある」


「え……そ、そんな馬鹿な、しゃ……写真は全部、燃やしたはず……」


 ジャックはあからさまにたじろいだ。

 それは、ジャックが自分を脅かすものとして徹底的に処分したものだ。

 死体の持ち物をストレージ含め調べつくし、死体が持っていた部屋鍵で開く部屋の中も調べつくして、もう一枚も残っていないはずだった。

 それなのに……


「あいつもメンバーだったんだぞ。最後の一枚はホタルが持ってる」


「ボ、ボクの顔見ても反応しなかったじゃん!!」


「持ってるが見てないだけだ。危ない情報だってわかってたんだろう。だが、拷問されてるらしいし……拷問をやめてもらおうと差し出してるかも。殺人も厭わない犯罪集団にな」


「し、信じると思う?」


「『時計の街』の六時の方向の八百屋の前。マリーと手をつないで歩いてたろ。しかも恋人つなぎで」


「あれはマリーさんがふざけて……!!」


「早くホタルを助けに行った方がいいんじゃないか? ジャックが行くなら、もれなくオレがついていくが」


「……ライトにスピード合わせるつもりないから」


「全速力で頼む」


 ライトとジャックはそれぞれ全速力でホタルのいる洞窟を目指した。








 同刻。

 ホタルの拷問をしてたプレイヤーへ連絡が届いた。


「おまえのこと、俺達の好きなようにしていいそうだ。文字通り、『煮る』なり『焼く』なり『刻む』なりな」


「……いままで通りですね」


「まだ口答えする元気があるのか? だが、ここからは今まで通りじゃない。殺してもいいそうだから、吐かないと本当に死んじまうぞ」


「……あれ? じゃあ今までは殺される心配はなかったんですか」


「本当に口が減らないな。早いとこその口で金の在処とザキをどうしたのか言えば良いんだよ」


 『拷問役』のプレイヤーは道具を台に並べながら言う。

 ペンチ、スパナ、焼き鏝、鋏、金鎚……

 拷問がこれから本番だというのは本当らしい。

 痛覚が半分のデスゲームでもキツい……というより、この手の痛みは現実的な範囲に制限されてしまう方がより辛い。


「お金はもう使ってしまったのでありません。ザキさんという人は最初から知りません。聞き出せることなど、何一つありませんよ」


「ハハ、そりゃ困ったな。なら俺はいつまで拷問してりゃいいのか分からねえ。いっそ体で払ってもらうにしても、そんな体じゃ誰も気が進まねえらしいしな。しかも、それでやたら痛みに強いってんだから困る」


「ふふ、忍者が拷問に強いのなんて常識ですよ。それに、スタイルはそこそこ自信がありますよ?」


「誘ってんのか?」


「まさか、自暴自棄になっているだけですよ」


「自暴自棄になるくらいなら何か吐けよ。それとも何か? 俺の拷問がかったるくてやってられねえのか?」


「確かに、おしゃべりな人だとは思いますね。仕事が進んでいませんよ?」


「しょうがねえだろ、拷問なんて初めてなんだ。意地悪もお手柔らかにしてさっさと何か吐いてくれ」


 ホタルにとって拷問など怖くはなかったか、あるいは痛みに対する精神の反応が鈍くなっているのか、ホタルは冗談を言えるほど精神的に余裕を感じ始めていた。


 ……というより、逆に本格的にヤバいんじゃないかと思い始めた。

 これは精神的に限界が近づいて精神崩壊する予兆なのではないか?

 このまま行くと精神が現実逃避を進めて笑いっぱなしの廃人とかになってしまうのではないか?


 元々育ち方が異常だと自覚していた分、いつか精神的におかしい人間になってしまうのではないかとは思って覚悟してはいたが、意識すると現実的な危機感が生まれる。


 ……それは困る。

 まだ、マトモに意思疎通できる内にやっておきたい……あの人に伝えなければならないことがある。


「あの……死ぬかもしれないんなら、拷問を始める前に一ついいですか?」


「なんだ? 命乞いか?」


「遺書を書いてもいいですか? 足はないので縄をほどいても逃げられませんし」


「遺書? 俺達がそんなもの届けると思うか?」


「届けてもらわなくても結構です。たぶん、私がそれを読んでほしい人は近いうちにここに来ると思うので、目立つところに置いといてください。なんなら私の死体の傍にでも」


「?」



 数十分後。

「はい、私が死んだらこれを私の死体の傍に置いといてくださいね。じゃあ、拷問の続きに入りますか」


「そんなに明るく拷問の再開を宣言されても困る……お前、頭おかしいんじゃないか?」


「誰のせいですか?」


 ホタルは開き直ったように、軽い口調で、壊れ気味の笑みを浮かべながら話す。

 『遺書』を書き上げた途端、心残りがなくなったかのように振る舞い始めたのだ。


 その表情に拷問役の犯罪者は逆に寒気すら感じた。


「お前がおかしいのは……拷問とか始まる前からだろ。俺のせいみたいに言うな。ほら、拷問器具はどれがいい?」


「あら、選ばせてくれるんですか? お優しいですね。そうですね……ペンチで一本ずつ指切りとか、ズキッってして新感覚の痛みがあっていいかもしれません」


「おい! こいつ絶対頭おかしいぞ!! もう拷問とか逆効果だ!!」


 ホタルの心の中でも乾いた笑みを浮かべる。


 冗談だったのだが、まあそんな冗談を言えてしまう時点で十分おかしいのかもしれない。そんな自分を笑ったのだ。


 『拷問役』のプレイヤーは笑顔で拷問器具を指定するホタルに困惑する。



 その時、洞窟(アジト)の入り口の方から激しい爆音が響いた。


「爆発!? いったい何だ!?」

「あら? もしかして……あの人が……」

「拷問は後だ、そこで待ってろ!」


 『拷問役』のプレイヤーは拷問器具を台において安全エリアの外に出ていく。

 そして、その数分後に洞窟の入り口方向から複数の悲鳴が上がる。

 まるで、大量殺戮が行われているような……


 その音で、ホタルは全てを察する。


「ふふ、はははは、あはははははは……これはもう傑作ですね。そう思いませんか? 殺人鬼さん」


「…………」

 安全エリアの小部屋に『彼』が入って来る。

 黒いジャケットに、真っ赤な武器、そして鬼の仮面。


「はは、コソ泥から始まって、仲間を作れたと思ったら全滅しちゃって、犯罪者の癖にかっこつけて義賊の真似事なんてしてたら拷問にあって、最後にはあなたに殺される……これはもう、笑うしかありませんよ」


 本格的に頭がおかしくなり始めてるのかもしれない。笑いがこみ上げて来て止まらない。

 だけど、何故か気持ちいい。

 思えば、生まれて今日まで、心から笑ったことなんてあっただろうか?

 それが死ぬ直前で、しかもそれを見せる相手が殺人鬼だというのは滑稽だろう。


 しかしこれでいい。

 最後に笑いながら死ぬというなら、それはそれでいい。

 義賊の最期としては最高だろう。



 殺人鬼はホタルに近づき、その武器を振り上げる。

 単なる殺意か、あるいは狂ってしまった自分への介錯のつもりなのか……

 その刃は躊躇なく……


 ホタルの左足に巻かれた鎖を断ち切った。


「……はい?」


「オレの前でもそのくらい笑ってくれて良かったんだけどな」


 殺人鬼は、おもむろに鬼の面に手をかけ、ゆっくりとそれを外す。


 その下の顔を見て、ハイになっていたホタルの意識が一気に正気に戻る。

 そして、信じられないというように……その名を呼んだ。


「ライト……様?」

《闇討ち》

 呪われた脇差し。

 斬った相手を失明状態にさせられるが、抜いている間自分も失明状態になる。


(スカイ)「はいこちら、呪われてて買い手がつかなかったからライトに売りつけたアイテムです~。」

(イザナ)「不気味な模様が入ってますね……確かに持ってるだけで不幸になりそうです。」

(スカイ)「呪いのアイテムはデメリットの異様に高い効果がくっついてるのよね~。持ち主のアイテムドロップにマイナス補正のつくアイテムもあるわ」

(イザナ)「それは嫌ですね……どんなアイテムですか?」

(スカイ)「付けると自分では外せない呪いの眼鏡」

(イザナ)「それ前私が付けたやつじゃないですか!?」

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