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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第一章:セットアップ編
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6頁:NPCから装備を剥ぐのはやめましょう

お待たせしたかもしれませんが、戦闘シーン突入です。

 《ハードグローブ》を受け取ったあとライトは機嫌の悪くなったスカイを宥めるために武器屋で買うものを考えていた。


 そんなとき、スカイは武器を磨きながら呆れ混じりに言った。


「なんでまだ居るのよ、さっさと行けば?」


「そんな冷たいこと言うなよ。さっきはリアルでも会いたいと言ってくれたのに」


「借金踏み倒したら取り立てに行くって言ったはずだけど!? 踏み倒す気!?」


「いや冗談だ。ただ、踏み倒す気はないけど、そんな事関係なくまた会いたいと思うよ。『オフ会』って言うのか?」


 スカイは本気で呆れたように溜め息を吐く。


「オフ会以前に、ゲームクリア出来るか分からないでしょ。出来たとしても、あなたが生きてるか分からないし」


「……スカイは生き残るんだろうな、きっと」


「あら? どうしてそう思うの?」


 ライトは一瞬悩む仕草をして、スカイのギラギラとした笑顔を真似しながら答えた。


「オレ、実は超能力者なんだ。オレにはスカイが生き残る未来が見える」


「…………そう、珍しいわね」

「突っ込んで!! それか驚いて!!」

 予想外の反応だった。


 ライトは頭をガシガシ掻きながら目を逸らす。

「てか、本当に未来が見えてたらこんな状況になってないだろ」


「そ、それもそうね。そうごろごろ超能力者なんて転がってないわよね」


 スカイの返答もぎこちない。

 コントに不調和を起こした時はとりあえず話題を変えるべき。ライトはそう判断した。


「まあだけど、たぶんスカイは生き残る。スカイはなんか……芯があるっていうか……自分の信頼できる『武器』を心の中に持ってる感じがする」


 スカイと駆け引きしたライトだからこそ、そのように思えるのかもしれないが、スカイはこの極限状態でも全くぶれない欲望を持っている。


 きっと、スカイならこの世界に屈せずに望みを叶える。ライトはそう確信できる。


「武器……ね。アナタはどう? 何かあるの?」


 ライトは『罠』のコーナーの武器をいくつか手に取る。


 少し動きを停止したあと、ライトは小さな声で答えた。


「無いな、何にも」


 どれも消耗品。いくらでも使い潰して新調できる。ライトが選んでいるのはそんな武器。


「オレはあんまり武器に愛着はないからこれでいいよ。もちろん、このグローブは大事にするつもりだけど」


 このとき、スカイはライトの存在が酷く不安定に見えた。生きようとはしているが、何が何でも生きようという気概が感じられない。


「じゃあついでに、自分の命も大切にしておきなさいよ。アナタが死んだらアナタの家族が悲しむわ」


「お、良いこと言うな……ちょっと死亡フラグっぽいけど」

「まさか、家族が死に際に借金を残して逝くなんて」

「そっち!?」


 







≪現在 DBO≫


 戦闘チュートリアルを兼ねた最初の必須クエスト『守護者の試練』。




 安全なこの《時計の街》の周囲にはモンスターの侵入を防ぐ『守護者』がいる。

 街の外は危ないから素人を街から出すわけには行かない。

 街の外に出る許可が欲しければ『守護者』を打ち破ってみろ。




 というのがNPCの衛兵から聞いたクエストの内容だ。


「で、これが『守護者』か」

「これで入って来れないモンスターって本当に危ないのか?」


 円形の街のフィールドとの境界に位置する『中立エリア』。通常のモンスターは湧かないがHPは保護されていない。


 そんなクエスト戦闘の舞台でライトと赤兎を待ち受けていた物は……乱立するカカシだった。

 二人はパーティーを組んで少々慎重に互いに周囲を警戒しながらここまで来たのだが、正直拍子抜けした。


「まあ、戦闘チュートリアルの相手がカカシってのは定番だけどな」

「モンスターの扱いが畑を荒らすカラス並なのが気になるな」


 赤兎がカカシの一体に触れると


 クエスト『守護者の試練』を受けますか?


 というウィンドウが出現し、赤兎は迷わずYesを押した。


 カカシの横に二段のHPバーが表示される。


「これを削りきればクリアだ」


「わかった、オレもやってみる」


 ライトは赤兎と同じように近くのカカシのクエストを起動させた。


 赤兎はカカシを前に剣を両手で構える。《イージーソード》はサイズ的には片手剣だが、柄が長めなので両手でも扱える。


 重心や柄の握り方にはどこか粗い印象があったが、全身からは歴戦の強者のような自信が漲っている。


「言っとくが、ここだとHP減るから気をつけろよ」


「じゃあ、例えば赤兎がオレに斬りかかってきたら身を守らないといけないのか……勝てるかな?」


「いや、さすがに圏外でさっきみたいにいきなり急所は狙わねぇよ」


 ライトは真顔で赤兎の目を見つめる。


「本当か? 後ろから声かけたりしただけで斬らないよな? 絶対だぞ!!」

「どんだけ信用してねぇんだよ!? あと目が怖えよ!!」


 ライトはしばし赤兎の目を凝視してから、突然視線を外して笑った。


「よし、信じる」

「そうかぁ、ってぇぇえええ!! 信じるの早過ぎだろ!! この一瞬に何があった!?」


「オレ実は超能力者でさ、人の心が読めるんだ。だから信じる」


「な、なるほど……って、んなわけあるか!! そんな能力あったら最初から疑うな!!」


「よし!! このツッコミが欲しかった!! さっきコントが中途半端で不完全燃焼だったんだ」


「知らねえよそんなもん!!」


 閑話休題。


 ライトも赤兎に倣ってカカシの前で構えた。ただし、ライトの武器はパンチ力増強の《ハードグローブ》(片手のみ)なのでとる構えは空手の中段構えに近い。


 ライトは目の前の的(敵)を改めて観察する。


 構造はわかりやすい。

 十字に立てた人間の手足と同じくらいの太さの木の棒に粗末な上着、手袋、ズボンが装備されていて、顔の代わりに綿か何かを詰めて丸くした麻袋に目が黒インクで書かれている。口は縫い目で表現されている。

 その頭にはツバが目が隠れるほど広くて、全体的に色褪せた帽子を被っている。


「なかなかいい帽子だな」

 ライトはポツリと呟いた。


「そうか? こんなの被ったら目が悪くなるだろ」


「それでいいんだよ。オレ的には」


「俺には分かんねえし興味もないけどな……一応気合入れろよ。ここはもう戦場だ」


 そう言って、赤兎は目の前のカカシを斬った。

 今回はシステムのアシストがあったらしく、スキルの赤い残光が残っている。


 『パーティーメンバーが戦闘をしている相手のHPバー』と『仲間自身のHPバー』は他のメンバーにも見える。


 カカシの一本目のHPバーが三割一気に削れた。


「『ストレートジャブ』」

 これがライトが今使える『拳術スキル』の唯一の技の名前。ストレートなのかジャブなのかはっきりせず、素人臭さが名前からにじみ出ている。


 このゲームにはアシストを受けるための『ボイスコマンド』が技ごとに設定されている。技を放つために必ず必要なわけではないが、コマンド抜きで技を出すためには技の初動を高い精度で再現する必要がある。


 ライトも中段構えから自分の方のカカシの腹に拳を打ち込む。拳には紫の輝きが宿った。

 カカシの一本目のHPバーが5%減少。


「……一応これ、高級なはずなんだけど」


「ん? 何か言ったか?」


「いや、なんでもない。筋力値が低いだけだ」


 あと、もしかしたら消耗が違うのかもしれない。

 このゲームにはEP(エネルギーポイント)というものがあり、それはHPバーの下に一緒に表示されている。

 これは技にスキルの効果を乗せる時などに消費される。


 ライトには赤兎と自分自身のEPバーが見えているが、どちらも数パーセント減っていて心なしかライトの方が減りが少なそうだ。


「あとは手数くらいか?」


 剣なら構え、振り上げ、斬り、戻すという行程が必要になるが、拳なら突いて戻すだけでいい。


 そう思い、今度は連続で『ストレートジャブ』を打ち込んだ。


ガッ ガッ ガッ ガッ ガッ


 五回当たった。これでやっと赤兎の一撃にダメージが追いつく。


 だが、連続だと精度が落ちる。だんだんと胸を狙っていたのが肩にずれて来て、与えるダメージも小さく……


「ああ、そうか。『ストレートジャブ』!!」


 今度の一撃はカカシの『頭』に当てた。


 ガッ!!


 先ほどよりも景気のいい音がしてHPバーも一割近く減った。


 同じ技でも適切な部位に当てれば威力が大きく変わる。そのことに気が付いたライトは攻撃対象を頭に絞った。


 赤兎の剣戟に威力は劣っても連射性では勝っている。赤兎がペースを合わせてくれたこともあって、二人はほぼ同時に目の前のカカシの一本目のHPバーを削りきった。


 続けて二本目も削ろうとしたが、二人は手を止める。理由は驚きと警戒が半々だった。


 先程から攻撃され続けても一定以上揺れなかったカカシが、前に向かって大きく傾いたのだ。


「んな?」

「『本番はここからだ』ってことか?」


 カカシは地面に倒れ込む瞬間に、確かに一本の棒だったはずの『脚』が分裂して、片足を前に出して踏ん張った。


 脚だけではない。腕も腰も首も皆、主要間接が球体間接に変化する。


 HPバーの上には煙のように文字が浮かび上がった。


 そこに『誕生』したのは身長180cmのカカシ型モンスター〖スケアクロウ LV1〗。


「ライト、気をつけろよ? ここからは攻撃して来るぞ」


 赤兎の声を引き金に、二体のカカシが二人に襲いかかった。





 はっきり言って、二体のカカシは動きが単純で多少攻撃を避けはするが少し慣れれば簡単に当てられるようになった。


 攻撃パターンも横振りの爪攻撃と予備動作の大きな蹴りだけで、死の危険とは程遠かった。


 だが、ライトがカカシの頭を狙って三回目の『ストレートジャブ』を放った時、ライトの拳は回避された。回避されたが、軌道をずらして当てようとした。


 結果、ライトの攻撃は〖スケアクロウ〗の額を掠め、その『帽子』だけを吹っ飛ばした。


 その瞬間、悪寒が走る。半ば反射的に左手で腹を守り、その直後にその腕ごと身体が後ろに吹っ飛ばされた。


「がはっ!?」

「ライト!!」


 赤兎は直ぐに異常に気付いた。

 丁度あと一撃で倒せるところまで弱らせていたカカシにとどめを刺し、ライトの方を確認する。


 帽子を喪失したカカシ。

 数メートル吹っ飛ばされて倒れているライト。早くも上体を起こして立ち上がろうとしているが、その表情には予期せぬ衝撃への驚きがありありと浮かんでいる。


 そして、カカシに変化が訪れる。


 まず、体全体が一回り大きくなる。おそらくライトより背が高い。

 次に、手袋を突き破って杭のような爪が露わになる。

 そして、縫いつけられていた『口』が裂けて、高らかに笑う。


「ギ、ギシ、ギシャ、ギシャ……ギシャギシャギシャギシャギシャギシャギシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ!!!!!!」


 最後に名前が変わる。

 内容はそのままに、ただ色だけが鮮血のような真っ赤な文字に変わる。


「……狂乱……状態」


 ライトは、ミカンに教えられたゲーム用語を呟いた。








 同刻。

 武器屋から出てくる女がいた。灰色の髪に細い四肢、とても戦えそうにない容姿だが、目の奥の輝きは人一倍強い。


 そんな彼女が、そんな瞳で視線を注ぐのは街中央の時計台。


 お客として来店したNPCの話では、この街はあの時計台をシンボルとしていて、街の名前は『時計の街』なのだそうだ。


 時計は今12時18分を指している。

 この短時間で150人前後がゲームオーバーになったようだが、彼女は大して気にしない。


 強いて言えば…

「あいつ、生きてるといいな~」


 それは知り合いだからではなく……


「あんなにいい武器貸したんだから、死なれちゃったら大損よ」


 ゲーム初日には規格外に高級な武器への心配だった。

ちなみに、赤兎の技は『剣術スキル』基本技『シンプルスラッシュ』という技です。

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[気になる点]  《ハードグローブ》を受け取ったあとライトは機嫌の悪くなったスカイ宥めるために武器屋で買うものを考えていた。                  ↑      「を」が必要だと思います …
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