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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第三章:チームワーク編

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66頁:戦いには万全の体勢で臨みましょう

『設計スキル』

 設計するスキル。

 設計図を書くことが出来る。

 このスキルによって作成した設計図は『組立スキル』『機械工スキル』『木工スキル』『武器作成スキル』などでのアイテムやギミックの作成精度に補正がつく。

 ある日曜日。

 友、ミカン、そして『三木将之』は一緒に博物館に遊びに来ていた。

 将之は友の母親からも信頼されていて、友が博物館に行きたいと言った時にはすぐ了解してくれた。


 ミカンは呼ばれていないのだが、待ち合わせ場所に何故か当然のように待っていた。


「だって、もしかしたらデートの成り行きによっては模写出来ないようなシーンに突入するかも知れないでしょ? そうなったときのために、生で見れるようにスタンバイしとかないと」


「止めないの!? 心配しなくてもそんなシーンは発生しません、師匠はエロゲのやり過ぎです!! 僕が友に手を出すわけないじゃないですか!!」


「あわわわわ!! まさかこの博物館デートがそんな罠だったなんて!!」


「友ちゃんも乗っちゃだめだから!! てか、博物館で小学生襲うとか前代未聞だから!! あり得ないから赤くなるな!!」


 将之は毎度のミカンからの冗談に突っ込み、さらに小学生とは思えない反応をする友にも突っ込む。

 そして、本来の目的を思い出させるべく友の頭を撫でて言う。


「今日は一緒に歴史のお勉強をしに来たんだぞ? ふざけに来たわけじゃないからな」


 すると、友は頭を撫でられながら恥ずかしそうに頷く。


「そうでした……将兄、石器時代からの戦争の発展について楽しく議論しましょう!」


「それ小学生と楽しく話す内容じゃないと思うけどな……てか、戦争の発展って歴史の勉強として正しいんだろうか?」


 今日の主な目的は友の学校の宿題で『歴史について興味のある事柄をしらべる』というものだった。

 しかし、友の提出する物はおそらく小学生を越えた熱意と知識の塊になるであろうことが予測される。


「いいんじゃない? 人類の歴史は戦争の歴史でもあるんだから」


 ミカンがそう言うので、将之ももう何も反論しなかった。

 しかし、その時の、過去の武器や要塞を食い入るように見る友の表情は印象強かった。心から先人達を讃えるような畏敬の念を感じた。


 そして、将之が理由を尋ねると友は答えた。

「友ちゃん、どうしてそんなに戦争が好きなんだい?」


「将兄、私は戦争自体が好きなわけじゃありませんよ。私は、戦争に勝つためにがんばった人達の考えたものが、生き残るためにがんばった人達が作ったものが好きなんです」





《現在 DBO》


 襲撃イベント四日目早朝。

 スカイは三日で木材から組み上げられた即席の物見櫓から敵陣営を確認する。流石生産職の街なだけあって、突貫で組み立てられた高さ7mほどの櫓は簡素な構造にも関わらずかなり安定している。


「夜の内には詳しい陣形はわからなかったけど、どうやらレベルでいくつかの群れに集まってるわね」


 敵の布陣はわかりやすかった。

 

 先頭にはこの街の周辺にもよく出てくるレベル一桁からの野生動植物系のモンスターが雑多に混ざっている。

 そして、同じような集団が後ろに行くほど強くなって固まっている。後ろに行くほど上位種系のモンスターが多くなっている。


 少し間が空き、その後ろには武器を構えていたり、馬や牛のようなモンスターに跨がっていたりする人型モンスターを中心とした群れ……というより、軍団。隊列が整っていてそれぞれが能力に合ったポジションを担っているように見える。

 それが、前方に雑兵や壁兵士、後方に弓兵や騎兵というように並んでいる。


 そして、少し間があり、さらに後方には巨大モンスターが数十体。そして、巨大な壺と……敵の大将、最後尾で他の巨大モンスターより一際巨大な亀のモンスターの甲羅に乗って眼帯をして旗を掲げたカカシ〖ハグレカカシ〗。


「あの壺の中にすごい厄介な奴が居るのよね……ライト~、なんか対策あるんでしょうね?」


 スカイは櫓の下で武器の整備をするライトに確認する。スカイは戦闘に関しては専門外だ。敵の対策に関してはライトや黒ずきん(ジャック)に丸投げしてある。


 ライトはスカイの質問を聞き、大声で答えた。


「壺のHP見てみろよ!」

「HP? どれどれ……あ、五本のバーの四本が空になってる!!」


 壺のHPは中の〖毒王 ラジェストポイズンスライム LV50〗のHPを示しているが、それが最大値の一割近くにまで減っている。

 ボスクラスの膨大なHPから考えればこれだけ削るのはかなり骨の折れる苦労だろう。


「どうやったのあれ!?」

「あいつ、時間経過で蒸発していくんだよ! 蓋壊してやったから毒ガスになって消耗してんだよ!」


 〖毒王ラジェストポイズンスライム〗は無形で強大な猛毒の液状モンスター。


 ライトが戦った時の情報では、物理攻撃は完全無効、逆に触れただけで毒に侵され、金属だろうと武器は溶解し、しかも常に毒ガスが吹き出している。

 さらに、魔法攻撃、爆薬なども試したらしいが、膨大なHPに対して与えられるダメージがあまりに少なく、攻撃範囲に入るリスクを考えると割に合わない。


 早い話、時間切れまで逃げるしかないモンスターなのだ。

 その時間制限が既に十分の一になっているというのは大きな進展だ。後でライトには何か報酬を出そう……出来るだけ安上がりな方法で。



 敵陣営を見終わったスカイは味方陣営を見下ろす。

 三列の堀と土壁、即席のバリケードで形成された防衛ライン。『穴掘りスキル』『農作スキル』『園芸スキル』などの地形の一部を変えることのできるスキルの持ち主達が掘った堀は平均的に深さ1m、幅1mほどで、越えられない深さではないが敵の勢いを止めるのには十分効果を発揮してくれるだろう。


 そして、待ち構えるのはほとんど戦闘をしたことがない『純生産職』と、材料集めで戦闘の経験はあるが前線ほどではない『戦える生産職』。

 さらに、前線には届かないものの戦いに慣れた『中級戦闘職』と、日々の生活費を稼ぐために最低限の金を絶対に安全な狩りで稼ぐ『下級戦闘職』。

 最後に、運営の策略からこぼれ落ち、前線へ進まなかった最前線レベルの戦闘能力を持つプレイヤー達。その数はライト、ジャック、闇雲無闇を入れても両手の指で足りてしまう。


「敵戦力はざっと三千体以上。対してこっちは六千人はいるけど……実質戦力はあっちより少ないのよね」


 一見プレイヤー陣営の方が数は多く有利に見える。しかし、プレイヤーの八割はほとんど戦ったことがない生産職、レベル30を越える戦えるプレイヤーなど一割もいない。対して敵はレベル40を越えるモンスターがざっと百はいる。死ぬわけにはいかないプレイヤーのリスクを考えると真正面からぶつかり合うわけにはいかない。


「正直戦力的に厳しいわね~……せめて、ナビキが参戦してくれたらな~」






 『時計の街』の東側。

 盗賊対策本部(仮)。

 モンスター軍団の襲撃に乗じて、HPの保護が解かれた街を襲うと思われる盗賊を撃退するための戦力が集まっている。

 のだが……


「見事に女子供ばっかりですね……」

「いつの時代も、男の人達が戦争にかり出された後故郷を守るのは女子供ですよ。それに、盗賊くらいこれだけの戦力があれば十分です」


 集まったのは、教会で保護されていた子ども達30人とマリー=ゴールド。そしてナビキ。


 ナビキ以外はいずれも前線から遠くかけ離れた非戦闘員達。本当ならこの街から避難させられてもおかしくない面子である。

 しかし、マリーの顔には余裕の笑みが浮かんでいる。


「ナビキちゃん、確かに見た目は頼りなさそうに見えるかもしれませんが、この子達だってこの街が大好きで、守りたいと思っているんです。だから、私達を信じてください」

「……そうですね」


 ナビキはやや控え目に応える。

 別に戦力に不安を感じているわけではない……治療中に見た『夢』のせいで、どうしてもマリーと話し難いのだ。


 ライトによるとナビキは夢を利用した催眠治療を受けていたそうなのだが、ナビキとしては夢にしてはリアル過ぎてなかなか忘れられない。まるで現実に起きたことのように覚えている。しかも、その『夢』の中ではライトとマリーは恋人同士だったというヒドいオチがあったのだ。


 本当のことをいえば、今でもライトとマリーの関係を少し疑わしく思ってしまっている。『治療』の直後に二人で部屋を出て行ったのも気になるし……


「ナビキちゃんはライトくんの方へ行かないのですか?」

「へ、はい!?」


 突然呼びかけられて驚いた。

 気がつくとマリーが顔をのぞき込んでいた。


「大丈夫ですか? ライトくんの方を手伝えないからって、別に無理してこっちを手伝ってくれなくてもいいんですよ?」


「あ、そっちですか? ……いえ、私もこの街を守りたいですから、ここで働かせてください……本当は、先輩の方を手伝いたいんですけどね」


 ナビキは少々残念そうに言う。

 『ナビキ』は本当は今すぐにでもライトの援軍に向かいたいのだ。しかし、彼女の『妹』……別人格の『エリザ』がそれを嫌がる。


 ナビキの抱える三つの人格の中で、一番自己主張が強いのは末っ子の『エリザ』だ。

 主人格の『ナビキ』は気が弱く自己主張が弱い。

 二番目の人格である『ナビ』は気は強いが基本的には主人格の『ナビキ』のために動くため、こちらも自己主張はあまり強くない。

 この三人は普通の多重人格ではほとんどあり得ないが脳内で意志の疎通ができ、リアル『脳内会議』ができる。そして、一番自己主張が強い『エリザ』が全力で反対してしまうと、ナビキにはどうにもならないのだ。


 理由は簡単に言えば『あんな危ないモンスター相手にしたくない』だった。

 エリザには他の人間の生き死にには特に興味が無いらしく、殺人鬼のジャックに関しても『なんで人間のために戦うんだろう? ま、危なくなったら逃げてくるよね』くらいに考えているらしい。


「確かに、戦いが危ないと言われればその通りなんですけど……」


「クスクス、こちらの戦いも重要ですしそんなに責めることはないでしょう。『戦いは危なくて怖い』というのは普通の感覚です」


「殺人鬼にそんな感覚を主張されるのも変ですが……」


 どうにかエリザを説得してライトの援軍に行けないかと考えるナビキであった。






 そして、モニター室にて。

「なに!? 妃が負けたってのか!?」

「シー!! 声がデカいです!!」


 運営陣の襲撃イベント直前の緊張の中、別の緊張に包まれている二人がいた。


 ナビキを暗殺しようと『飛角妃』を放った少女と、問題解決にあたって彼女の補佐を担当した……という口実で忙しい中サボっていた男だ。


「それ結構ヤベんじゃねえか? 結構ルールスレスレだし、その上一撃でしとめ損ねたとか……」


「しかも妃ちゃん、敵に感づかれて例のチップに直接干渉しようとして防衛プログラムで撃退されて、目下自動復旧中です」


「マジかよ……どうすんだ? おまえ主任に怒られるどころか罰則もんだぞ」


「こうなったら……あなたも道連れです! こんな幼気(いたいけ)な幼女に作戦を任せた監督不行き届きです!」


「誰が幼気な幼女だこの腹黒策士!! 人に責任押しつけんじゃねえ!!」


「もう知りません。私はもう手を出しません。どうぞ一緒に怒られるまで好きなだけサボタージュしてて下さい」


 拗ねてそっぽを向く少女を前に、男はため息をつく。

 どうせ、この小賢しい策士はこれからの自分の動きも計算しているのだろう。


「しかたねぇな……サボってた俺も悪かった。尻拭いくらいはしてやるよ」


 男は『主任』への緊急用のメール画面を開いた。


 餓鬼(ガキ)の失敗の責任を取るのは大人の仕事と決まっている。






 そして、『時計の街』の西の荒れ地の直前のフィールドにて、モンスター軍団が一斉に足を止める。


 プレイヤーは予め決めていた配置につき、武器を手に取る。

 ある者は固唾を飲み、ある者は敵を睨み付け、ある者は武者震いする。


 さらに、モンスター軍団とプレイヤー達の間に巨大なウィンドウが表示される。


『守護者の逆襲』


『魔女の望んだ安寧を否定せし守護者は、厄災を率いてその永遠を脅かす。


 クリア条件:〖ハグレカカシ〗の撃退。

 ただし、〖ハグレカカシ〗のゲートポイントへの到達時に失敗となる。』


 ウィンドウの下に60という数字が表示され、一秒ごとに減っていく。

 HP保護・安全エリア無効化までのカウントダウンだ。


 そして、スカイは櫓の上から叫ぶ。


「みんな!! 私達は生産職と戦闘職とか言う前に同じプレイヤーです!! このデスゲームを攻略するために、力を合わせて戦いましょう!!」


 限られた時間の中で伝えられる、簡潔で、しかし内容の濃い演説だった。

 そして、スカイは慎重に……しかし急いで櫓を降り、自分の配置に着く。


 ここからは、この街の全勢力を出し尽くす総力戦だ。



 …3

 …2

 …1

 START!!


 カウントダウンが完了し……モンスター達が動き出した。





 同刻。

 『時計の街』の東門にて。

 マリー=ゴールド、ナビキ、子供達……そして、東門周辺に潜むプレイヤー達にも戦いの開始が運営からのメールによって告げられた。


 同時に、イベント開始の表示が出る。


『〖強奪王〗の襲来』


『財を求めよ。

 力を求めよ。

 そして我が命を求めよ。

 全ての財は勝者の物。強欲なる王はさらなる勝利を求める。


 クリア条件:〖強奪王〗の撃破。

 ただし、イベント「守護者の逆襲」終了までに達成されなければ失敗となる。』


 東から、もう一つの脅威が現れる。

《包丁》

 食材の調理に使う刃物。

 武器としても使える。


(スカイ)「はいこれ……って、どっちかというと調理器具より武器としての印象が強いけどね。私たちにとっては」

(イザナ)「殺人鬼さんの武器ですからね。」

(スカイ)「てゆうか、元々ライトがプレゼントしたやつなんだけど……女の子への贈り物が刃物とか、デリカシー無いわよね」

(イザナ)「ライトさん言ってましたよ。『実用的な日用品と武器のどっちがいいか迷って、最終的にどっちにも使い易いデザインにした』って」

(スカイ)「その結果が殺人犯の凶器っていうのは皮肉な話だけどね。流石に人斬った包丁で作った料理なんて食べられないし」

(イザナ)「あれ? でもボクっこのおねえちゃんは『普通の包丁としても使い易い』って誉めてたそうですよ?」

(スカイ)「そこら辺の感覚はよくわからないけど……もし黒ずきんに料理してもらうことがあったら、調理器具とか食材は全部こっちで用意するわ」

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