5頁:見ず知らずのプレイヤーに忍び寄るのはやめましょう
新キャラ出ます
9月のある日、授業の予習をしていた行幸正記は、部室で椅子に座りながら立体映像の画面でゲームをしていたミカンから突然話しかけられた。
「ねえ、ロールプレイングゲームの主人公って結構ひどくない?」
「唐突に何ですか? それはプレイヤーの行動次第だと思うんですけど」
「いやいや、だって考えてみなさいよ。野生動物を乱獲し、誰の家だろうと勝手に入り、棚の中の財産を勝手に盗み、挙句の果てに勝負して相手の所持金をぶんどる。もう盗賊とやってること変わんないわよ」
ミカンはちょうどそんなタイプのゲームをプレイしながら平然とそんな事を言って退けるのだ。
しかも、さらに続けてこんな事まで言う。
「それに比べて恋愛ゲームはホント主人公の精神を心配するくらい主人公良い人だよね。ヒロインに暴力を振るわれても殴り返さないし、告白されたら『ちょっと考えさせて……』とかって言わないし、ヒロインが人外だろうと宇宙人だろうとそれが理由で避けたりしないし」
「師匠って完全に男向けの恋愛ゲームやってますよね!?」
「やってるよ」
「堂々としてる!?」
ミカンの姿をまじまじと見つめる。観察する。
女子高校生にしては平均から飛び抜け過ぎた190㎝を超える身長、日本人の女子高生ではまずありえないような長身で見た目からも普通の枠に入りきらないのに、まるでそれを気にせず堂々としている。
行幸自身も背は180を越え高い方だが、平均から外れることには少しコンプレックスを感じる。
行幸が彼女の事を『師匠』なんて呼び方をするのも、その自分への自信を尊敬しているというのが理由の一つだ。
「私が言いたいのは、主人公なんて別に完璧超人じゃなくても務まるって事よ。一番大事なのは『自分の行動の責任を取れる』ってことなのよ。略奪しようがネコババしようが乱獲しようが、最終的にそれが世界を救う過程とかなら責任は取れるわ」
そう言うと、突然ミカンはセーブもせずにゲームの電源を切った。
「私は今まで、状況を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、こうやってゲームを止めるように何事も無かったかのように逃げた主人公だけは見たことが無いのよ」
ミカンはそう言って、自分の動かした椅子まで正確に元の位置に戻して去って行った。
≪現在 DBO≫
結局スカイは金を貸す決断までじっくり三分熟考し、とうとう折れた。
「あーもうっ!! わかったわよ、私の負けでいいわよ。あーあ、大赤字」
「オレが返せば赤字じゃないだろ」
「精神的にはもう既に取り返しのつかない損害が出てるのよ」
確かにライト自身も卑怯だったとは思う。リアルネームなんて公開されたらスカイの打つ手は降参か自分のリアルネーム公開くらいしかなかったのだから。
スカイはおもむろに≪ハードグローブ≫を手に取るとクリック。そしてウィンドウをいくつか操作して購入。
「ほら、取ってけ泥棒」
スカイの手が差し出すそれをライトが受け取ろうとした瞬間スカイは急に手を引っ込めた。ライトの手は虚しく空を切る。
「あれ?」
「踏み倒されちゃたまらないから、契約書をつくるわ。いいでしょ?」
「契約書?」
スカイは右手でメニュー画面を開き短い操作をするとライトを指差す。
「受け取りなさい」
すると、ライトの目の前に
『プレイヤー スカイ からフレンド申請が来ました。』
という短い文面が表示された。
ライトは戸惑いながら承認をクリックする。
「そして、これが契約書」
スカイは驚くべき高速タイピングでメールを送って来た。
『契約書
ライトはスカイに8000bを借りたことをここに証明する。
この契約に関し、両者は以下の条件を承認するものとする。
①ライトは8000bを必ず返済する義務がある。
②この契約はゲーム終了時にも無効にはならず、返済が完了せずにゲームが終了した場合1b=壱円のレートで現実世界にて返済の義務が生じる。
③ライトは返済が完了するまでは死亡することを禁じる
以上の条件に両者同意する場合は互いに同じ文面のメールを持ち、互いに契約内容を保存する。』
「その条件で良ければそのまま私に転送して」
「返済できなければ現実世界で返済か?」
「半リアルマネー取引だと思いなさーい。本名も知ってるし、どんな手使っても探し出して残金の清算と捜索費を払ってもらうわ」
「捜索費までオレ持ちかよ!!」
「利子とは別の話よ~。いやならゲーム内で返しなさーい。その方がお得よ~」
絶対に踏み倒せない約束がそこにはあった。てゆうか結構グレーな金融会社みたいだ。
「分かった、必ず返すから、今送り返すからちょっと待てくれ」
ライトは慣れない手つきでメールを送り返す。
そして、スカイはそれを確認して≪ハードグローブ≫を差し出した。
「戦いが終わったら必ず私の所へ戻ってきなさい。契約書には書いたけど、死ぬ事は許さないわ。今回は負けたけど、いつかは泣かせてやるんだから」
スカイは凶悪といしか言えなさそうなギラギラとした笑みを浮かべていた。
≪現在 DBO≫
そこから行動するにあたって、ライトは考えなしに戦場に出たわけではない。
武器を手に入れたからといって、しかも初心者用武器より遥かに高級な武器を手に入れたからと言って、武器の性能を盲信して戦いに出たりしない。
レアアイテムを得たからと言って油断してはいけないと、ミカンにきつく言われている。
戦場に出る前にまず≪ハードグローブ≫の使用法を確認。
次に、前もってチェックしておいた雑貨店などでポーションなどのフィールドで必要そうなアイテムを購入。(スカイの売り上げ貢献のために細々とした戦闘補助アイテムを幾つか買った)
そして……
「素振り……って言うのか? どちらかと言えば試し打ちだな」
ライトはミカンに戦闘の手ほどきは受けていてもVRMMOでの戦闘は素人だ。
昨今のVRMMOには戦闘時にアバターの動作を補助するシステムが普及している。それは主に戦闘中の技の動作に適用されるが、『体が意思と関係なく動く』というのは慣れていないと危険だ。
その動作の直後に意識を切り替えて、自分の意志での動きを繋げなければカウンターを喰らう。
逆に、うまく自分の意識での動きを上乗せして技を出せばスピードも上乗せされる。
それを考えると、実戦の前に技を出す練習くらいしておくのは当然のことだ。
だから、ライトは今試し打ち(正拳突き?)をするために丁度いい場所を探している。
正直なところ、初心者武器ではない≪ハードグローブ≫はあまりたくさんの人がいる前で使いたくはない。
もし金目のものを持っていると知れたら強奪されるかもしれない。
このパニックの中、一番警戒すべきなのはモンスターなんかより人間の方なのだから。
「ということでイザナちゃん、どこか六畳くらいのスペースがあって、地面がしっかりしてて、見通しが悪くて周りから見られないような場所はないかな?」
「そうですね……あ、あっちの二つ並んだ宿屋の間の建物の隙間を通ると、建物の隙間で開けた場所があります。秘密基地にもってこいの場所です」
戦場に出る前の下準備に当たって、ライトは再度イザナに案内を頼んでいた。
理由は簡単、目的地に行くついでに最短ルートや裏道を教えてもらうためだ。
イザナは基本的に道案内NPC。だが、曖昧な条件でもしっかりと目的地を提示してくれる上、ルートもある程度指定できる。
もちろん無料ではなく、毎回少しばかり『お駄賃』を要求されるが、今は多少のお金より情報が欲しい。
イザナとともに宿に行くと、そこには『双子の宿』という看板がかかっていた。
「案内ご苦労さん、はい、お駄賃」
「ありがとうございます!!」
イザナに実体化したコインを渡すとイザナは心底嬉しそうに飛び跳ねた。
かれこれ一時間ほど連れまわしているが、なんだか会話を重ね、お駄賃をあげ続けているうちにイザナの表情がより打ち解けた笑顔になってきた気がする。
「じゃあ、そろそろこの街のこともわかって来たし、いつまでも付き合せちゃ悪いからここからは一人で行くよ」
「そうですか……」
ションボリするイザナ。NPCだとわかっていても、その表情を黙って見てはいられない。
「またすぐ会えるよ。だからそんな顔しないでくれ」
イザナは『パァ!!』という効果音の付きそうな笑顔を見せた。
「じゃあ、今度お家に遊びに来てください!! なんなら泊まって行ってください!!」
「え、でもそれはさすがに親御さんに悪い気が……」
こういう所で気軽にお邪魔になれないのは日本人らしい反応だろう。
そのための配慮なのかどうかはわからないが、イザナの次の一言はライトの胸に突き刺さり、本気で泊まりに行こうと思わせた。
イザナの目が急にうるうるとしだして、声の調子も少しおかしくなった状態で、無理に作ったような笑顔になりながらこう言ったのだ。
「約束ですよ。パパもママも帰って来ないけど……ライトさんはちゃんと帰ってきますよね?」
なんだかわからないが、設定が凄く重かった。
建物の間の道は一人通るので精一杯な細さで、日も入らず薄暗かった。
確かに隠れるのにはうってつけの場所だ、と思いながら隙間を進んでいたライトの耳……というより聴覚が不自然な音を感知した。
ヒュッ
「風?」
一瞬、風が建物の間を通る音かと思ったが、それにしては短いし鋭い。
ライトは若干警戒しながら隙間を進んだ。
その間も断続的に先ほどの音が届く。
そして、隙間が終わりにさしかかり、少し開けた場所が見えてくると同時に、ライトは一人の男を発見した。
ライトは咄嗟に身を潜めながら、その男を観察する。
背はライトよりやや低いが、顔つきは大人びていて年下ではなさそうだ。大学生くらいだろう。
髪は短く、肌は浅黒いし体格もいい。体育会系だとなんとなくわかる。
それに、眼光が鋭い。
しかも手には先ほどライトが買い損ねた『イージーシリーズ』の一つ《イージーソード》があり、構えが堂には入っている。
構えは正に『剣士』……と言うより『侍』のような雰囲気がある。
その『侍』が、剣を振り上げ……
短い息遣いと同時に一気に振り下ろした。
ヒュッ
「……速っ!!」
剣速が尋常じゃなく速かった。
動き始めから動き終わりまでの時間がほとんどない。
始まったと認識し終わる前に動作が終わっていた。
「ん?」
声を出したのがいけなかったのか、ジッと見つめていた視線に気が付いたのか、侍はライトのいる建物の隙間に目をやった。
当然、気づかれてしまえば隠れる場所もないが、隠れる理由もない。
相手の意図も自分と同じだと簡単に推測出来るし、少し声をかけて場所を空けてもらうなり、立ち去るなりすればそれで済む話だ。
弁解どころかほとんど会話の必要すらない。
道端ですれ違った程度のアクシデントにしかならない。面倒事など起こりようがない。
そこで、ライトの取った行動は……
パチパチパチパチ
と、拍手することだった。
「んん!? なんだ、いきなり」
「あ、いや、凄い技だと思ってつい」
完全に目があった。
お互いに相手を認識した。
「いつから其処にいたんだ? 気配は感じなかったぜ••••••」
かなり高いレベルで警戒された。
彼から見れば、ライトは暗闇から突然拍手して来た謎のプレイヤーだ。当然だろう。
よくある敵キャラの登場シーンのシチュエーションだ。
「いやいやいやいや、怪しい者じゃないって、今ここに来ただけだって!!」
「知ってるか? 自分で怪しい者じゃないと言うやつが一番怪しいんだぜ?」
雲行きが怪しくなってきた。
このままでは戦闘になりかねない。
しかも、悪いことにライトは建物に囲まれた空間の唯一の出入り口にいる。
このままの状態が続くとライトが侍を監禁している形になってしまう。
しかし、道を空けるだけの幅はないので、道を譲ることもできない。
前に出て道を空ければ、ライトが接近したことになり斬られかねないが、後ろに下がっても逃げ出したような形になって追われそうだ。
事態を収拾しなければならない。
「いったい何の用だ? まさか、俺の装備を狙って……」
侍が剣を構える。
このままでは、本当に斬られる。
いくらHPが減らないとしても無実の罪で斬られたくない。
ライトが分かりやすい武器でも持っていれば、武装解除で警戒を解くことが出来たかもしれない。
しかし、皮肉な事にライトはほとんど丸腰にしか見えない。
最初から丸腰の状態で警戒されてしまうと、逆に警戒を解きにくくなってしまう。
「竹光、買っておくべきだったか……」
とにかく、警戒心を解くことが最優先だ。
今、冷静に話し合おうと言っても逆効果だ。
一旦この緊迫した空気を壊して、笑って話ができるくらいの空気に、ゴールデンタイムのバラエティー番組くらいの空気に上書きする。
ライトは両側の壁に両手を突っ張って、渾身の一発芸を披露した。
「此処を通りたくば、我がしか」
「うりゃっ!!」
「なんでだぁぁあああ!?」
言い切る前に斬られた。というか、突かれた。
慌てて体を反らせて回避。
避けた剣がチュートリアル時に伸びた前髪を短く切りそろえる。
「危っ!!」
「ん!?」
攻撃を躱された侍が疑問の声を漏らす。攻撃を避けられたのが予想外だったらしい。
「普通言い切る前に切りかかってくるか!? せめて『我が屍』くらいは言い切らせろよ!!」
「ん、いや、なんか『かかってこい!!』みたいな感じだったし。それにしても、今のよく避けたな……」
「誤魔化すなよ!! もっと斬りかかる前に悩め!! 避けられて驚くような速さの攻撃を速攻で仕掛けるな!!」
「いや、まあ、『悩んだらとりあえず動く』ってのが俺の座右の銘なんだ」
「でもオレは攻撃の前には一度考えることを推奨する!!」
まあ、とりあえず空気は上書きできた。バラエティーどころかお笑い番組みたいな空気になった。
侍のような雰囲気を持つプレイヤーは剣を収めると右手を差し出してきた。
張りつめていた空気が今の一撃で峠を越えたようだ。
「さっきは悪かった。強いなオマエ」
ライトは『ハードグローブ』を装備した右手で相手の右手を掴んだ。
「オレはライトだ。次からはネタ中に攻撃するのは勘弁してくれ」
ライトが名乗ると侍もそれに答える。
「俺は赤兎。よろしくな」
それから二人は建物に囲まれた空き地のような空間で十分ほどだが、お互いの状況を確認するために小会議を開いた。
「てか、オマエもまだ戦闘クエストやってないんだな」
「『も』ってことは赤兎もなのか? オレは武器が手に入らなかったんだけど……赤兎は何してたんだ?」
正直驚きだった。
ここまで剣が振るえるプレイヤーならもうとっくにフィールドに出ていると思っていたのだが、一度も出ていないらしい。
「ん、俺か? 俺は……素振りしてたな」
「素振り?」
「ああ、このアバターと武器を馴染ませるためにちょっと準備運動としてな」
「……」
ちょっとどころか六時間くらい経っている。
デスゲームどころか、罰ゲームでも普通しない。
「しっかし、そろそろ本番いくか」
「それがいいと思う。てか、オレが来なかったらいつまでやってたんだろう……」
あの剣速は同じ動きを何千回も繰り返したからだろう。
日常的に同じようなことをしているなら尚更だ。
「そういえば……なあ、ライトは本当にVRMMOやったことないのか? さっきの動きはまるで……」
「ああ、普段から部活で鍛えられてるからな」
赤兎は何か言いたそうだったが言葉を飲み込んだ。
「ところで、赤兎はVRMMO経験者なんだよな」
「ん? まあ、経験者かと言えばそうだな……超経験者だ」
相手はスカイのように駆け引きを求めるタイプではなさそうだ。
そんなタイプはいきなり斬りかかってこない。
ライトは直球で提案した。
「どうせなら一緒にフィールド行かないか? あとついでに色々教えてくれ」
強いプレイヤーと一緒にいた方が安全そうだ、という打算があったのは言うまでもない。
そのころ、武器屋では一人武器を磨くプレイヤーがいた。
彼女のプレイヤーネームはスカイ。ただ今、バイトクエスト中。
武器を磨きながら、スカイは先ほど出て行ったプレイヤーを思い出す。
「変な奴だったな~……やること無茶苦茶だし」
VRゲームで交渉材料に自分のリアルネームを出すなんて前代未聞だ。しかも、あんなに接近して……
「現実世界に戻ったらセクハラで訴えてやりましょうか~」
まあ、最初に自分も同じようなことをしたし、その仕返しなのだろうからあまり怒ることでもない。それに、多少近づいたり触れたりしたところで減るものでもない。
「でも……どこから計算だったんだろ?」
リアルネームの価値について言質を取り、発言の取り消しを封じる伏線を逆に自分の言葉に適応し、あたかもこれからクエストでアイテムを取ってくるかのように偽装した。
そんなに計算高いタイプには見えなかったのに、本当はかなり計算していた。
相手が馬鹿正直に正々堂々賭けをすると思ったから、油断してやられた。
しかし、実際のところ賭けの結果相手が得たのは『無利子の借金』であり、利益は出ていない。それに対しての代償がリアルネームでは勝利はできていても得はできていない。
「印象には残るけど、あんまり利益に繋がらない。見栄えが良くても質が悪い。『主人公』というより『主役』に近いかしらね~」
『主人公』のように勝つのが当たり前の人間も世の中にはいる。だが、ライトはそうではない。そうではないのに、主人公のように勝とうと小賢しい手を使う。
ライトなら本当の天才にも、本当の『主人公』にも勝てるかも……
「ごめんください。売りたいものがあるのですが……」
「あ、はい!! いらっしゃいませ~」
一人で考え込む時間はもう終わりだ。お客さんが来たならバイトとしては応対する他ない。
「これを全部売りたいんです」
客として来店したそのプレイヤーは武器を実体化した。しかし、その数にスカイは驚かされる。
「これは!!」
一つ二つではない。二十は超えている。
それも、『イージーシリーズ』の全種類が含まれている。
「えっと……店に売却すると高くても買った時の値段の七割くらいになっちゃいますけど……ホントにいいんですか?」
「あ、そうなんですか……」
武器を売りに来たプレイヤーは少し考え込む。もしかしたら、そのまま武器のまま換金せずにトレードでもした方がいいかもと思っているのかもしれない。スカイがこっそり調べてみるとまだ『スキル習得』の効果を使ってないものも混ざっている。
一体、どんな方法でこんなに集めたのだろうか?
これを全部売れば、ライトが借りた8000bなど簡単に用意できる。
しばらく悩んだお客はようやく答えを出した。
「じゃあ、私が受け取るのは三割分でいいです。残りはあなたにあげます」
「………はい!?」
大赤字どころではない。そんな条件付けは相手に何の得もない。
「その代り……一つお願いしてもいいですか?」
「……そうよね、当然だわ」
どうやってこれだけ武器を集めたかはわからないが、流石にそうポンポン捨てられるようには入手できまい。情報か、物品か、何かの交渉材料だと考えるのが妥当だ。
「全部じゃなくてもいいので、あなたの得た利益の中から困ってる人への支援を出してもらえませんか? 手段はお任せします」
「……え?」
「私一人では流石に7000人を直接手助けはできませんからね。どうか、よろしくお願いします」
わけが分からない。
利益がないどころか、この状況で人助け?
私の何を信じてそんな『お願い』をしている?
スカイは答えることができなかった。
「では、私はこれで……まだ、やることがありますから。善は急げと言いますし、お金はまた今度いただきましょう……計算はお任せします」
スカイがどう答えるべきかわからないまま、そのプレイヤーは去って行った。
これは契約や取引ではないから一方的に『言い逃げ』ができる。だが、計算まで任せて、スカイが引き渡す分をごまかす可能性に思い当たらないわけもないだろう。
スカイにはまったく理解できない種類の人間だった。
ライトとも全く違うタイプ。
打算も、勝利も、利益も求めない。
「名前……聞いてないわ」
お金を渡すにも名前すら聞いていない。どうやって再会すればいいのだろうか?
ここで、スカイはある事実に気がついた。
「あいつ、あと一時間待ってたら武器手に入ったわね」
ライトが一時間早いか、一時間遅かったら武器が残っているかさっきの客と鉢合わせるかで初心者用武器は普通に手に入っていた。
「ある意味、これも『運命的』っていうのかしらね」
この二人の『変な客』が知り合ったときどんな化学反応が起きるか楽しみになった。
だが、それはまだ少し後のことになる。
出来れば水曜日と土曜日あたりに連載出来るように努力します。