65頁:大規模な戦いの前には士気を高めましょう
『武器破壊スキル』
武器を破壊するスキル。
攻撃によって相手の武器の耐久力へのダメージと破壊の確立に補正が付く。
修得には一定数の武器を完全に壊れるまで使い潰す必要がある。
襲撃イベント三日目の朝。
『時計の街』のある宿に、何人ものプレイヤーが集まり、ベッドに横たわる少女を見守っていた。
「毒自体は我が輩の薬で解毒したが、何故か目が覚めないのだ。それに、先ほどからノイズが頻繁に発生している。どういうことなのだ?」
黒ずきんに協力して〖ラジェストポイズンスライム〗の毒をを解毒したドクターは駆けつけたスカイ、マリー=ゴールド……そして、モンスター軍団をなんとか引きつけながら見事まいたライトに問いかける。
同じくモンスター軍団を相手にしていた闇雲無闇は偵察を続けるためにモンスター軍団の近くに付かず離れず貼り付いている。
問いかけに答えたのはマリー=ゴールドだった。
「ゲームのステータス的には回復しています……しかし、問題は精神面のダメージ、つまりストレスです。彼女は元々かなりストレスに弱い体質でしたから、精神を守るためにストレスの情報の処理を保留状態にしているのでしょう」
「さもないと記憶が消えるから、防衛反応ってわけか……そこまで辛いのか? 『猛毒』って……」
「いえ、普通の人にはそれほどでは無いでしょう。インフルエンザをこじらせたくらいでしょう。しかし、彼女には……彼女のチップには一定以上のストレスを受けるとその記憶を前後の記憶と一緒に消してしまう機能があります。彼女の精神はストレスの経験がない。そのため、彼女は強いストレスへの耐性が無い……精神がストレスの処理に慣れていないのです。」
ライトの知る限り、人の精神にかけてマリー=ゴールドより詳しい人間はいない。
その手の話となるとスカイやドクター、黒ずきんは専門外だ。
この中でマリー=ゴールドの次に人間の精神や人格が専門に近いライトが見ても嘘をついている様子はないし、彼女の見立ては正しいのだろう。
しかし、疑問も残る。
「じゃあ、なんでナビキは今回の毒の苦痛の記憶を消さないんだ? さすがに人生の全記憶が消えるほどじゃないだろ?」
「耐えようとしているのでしょう。ナビキちゃんは記憶を消すときに少なくとも数日分は一度に消してしまいます。むしろ、記憶を消すと言うより、脳の状態を異常の起こる前まで戻すと言った方が良いでしょう……そうすると、その『数日分』の情報に含まれる『エリザ』という人格が……」
エリザの名前に黒ずきんが少々動揺する。
自分のミスで生まれた、自分の精神のデータを元に作られた殺人鬼。
それが消えそうだということに、動揺を隠せていない。
「しかし……やはりストレスに耐えられなければ、記憶の消去範囲が少なくて済む数日中に記憶の消去が行われるでしょう。その方が脳の負担も減るでしょうし」
その言葉に一番強く反応したのはライトだった。
「つまり、このままだとエリザは消え去り、ナビキは数日分の記憶を失ってしまう。そういうことだな」
マリー=ゴールドは無言で頷く。
ナビキは、『エリザ』という人格を失おうとしている。
殺人鬼という性質を持った人格など、本来は治療してでも消そうとするものだ。
しかし、ナビキは苦しみながら……それを拒んでいる。
「……マリー、ちょっと来てくれ。考えがある。」
ライトはマリー=ゴールドを連れて部屋を出た。そして、部屋の外でライトはその『考え』を告白する。
「ナビキがストレスをチップ無しで処理できるようにする。そうすれば、エリザの人格は残るし、今までみたいに記憶の消去に怯えなくてもよくなる」
「簡単に言いますが、どうやってやるつもりですか? 長期的に少しずつストレスに慣らしていくというのならともかく、タイムリミットはほとんどありませんし、ストレスを経験させるにも本人の意識が朦朧とした状態では……」
すると、ライトはメニューから一冊のノートを呼び出して見せた。
「これを使う。ナビキは記憶の補完を日記で行う習慣があるから日記に書かれた情報は自分の過去の『記憶』として認識するはずだ。そこで、『ストレスを乗り越えられるようになる過程の経験値』を日記で圧縮して入力する。『乗り越えたストレス』ならチップも消そうとはしないだろうし、マリーが暗示をかけて『夢』に近い形で追体験させれば日記の出来事を実際に体験したことのように見せかけられるだろう?」
「待ってください。それはナビキちゃんが用意したものを自身の実際の日記だと認識した場合です。筆跡、文体、構成、出来事に関する反応、ある事象についての模写の仕方……それらを全て本物に合わせないと本人にはすぐばれます」
赤の他人に見せる文書の偽造とはわけが違う、本人に自分の書いた日記だと錯覚させるのだ。
違和感も抱かせず、疑問も持たないような偽物。
それではまるで……『本物』だ。
「それはオレがやる。オレなら、紛れもない『本物』の日記を作れる。ナビキの今の日記やメモは見たことがあるから、そこから心情を逆算したのをさらに逆算して日記から伝わる思考パターンも合わせる。これなら、本人も錯覚するレベルの日記が書けるはずだ。それに、内容は反応を見て随時追加していく。こうすればナビキの中のイメージとオレが再現するイメージの差を細かく修正できる」
「記憶の矛盾はどうするんですか? 同じ時間設定に印象深い出来事があれば強い矛盾が発生してパニックを起こしますよ。ナビキちゃんの精神はかなり脆い……普通の人間に暗示で記憶を挿入するよりかなり繊細な注意が必要です」
「ナビキにはゲーム開始前に二か月ほど記憶のない空白の時間がある。そこの時系列に記憶をねじ込むんだ……オレ達が協力すれば出来る」
ライトは退こうとしない。
しかも、以前はマリー=ゴールドに暗示を使わないようにと主張していたのに、今回は暗示を使うように促している。
「……ライトくん、ナビキちゃんの記憶を消させたくないという気持ちは分かります。しかし、そこまで過剰反応する必要は無いのではないですか? エリザちゃんが消えてしまうのは悲しいですが、殺人鬼の人格を持ったまま生きていくのも相当に難しい道だと思います。ナビキちゃんには『忘れる権利』もあるのですから……」
「マリー=ゴールド、オレは別にエリザを生き残らせるためにこんな提案をしているわけじゃない。オレが気にかけてるのは、ナビキの選択だ。今、ナビキは記憶の消去に必死に抵抗しているんだ……今まではただ嫌なことを忘れるだけだったが、今回は『妹』の存在がかかってる。だから初めて流されるままに記憶を消すのではなく、苦しみながらも戦ってるんだ。ナビキが変わるなら、今がその分岐点だ」
ナビキが今まで何度記憶を消してきたのかはライトには分からない。
本人にわからないことはライトにもわからない。
だが、一つだけ言える。
ナビキの記憶の中で、ここまでリセットと戦おうとした時はこれまでにない。
それも、ナビの時のように切り離すのではなく、自分の力で立ち向かっている。
ライトは、そこに自分の力を加えようとしている。
「……わかりました、ライトくんが本気で決めたら私じゃ止められませんね、暗示は効きませんし……順次精神状態を観察して日記の中の『物語』を進めながら、ナビキちゃんの頭の中のプログラムに手を加えましょう。プログラムを整理すれば精神の安定性も上げられるでしょう」
「……ありがとう、マリー」
《現在 DBO》
目覚めたナビキは妙にすっきりした頭で状況を考える。
確か、自分は……というかナビがカカシの仕掛けた罠にはまり、命からがら逃げ出し、毒に侵されてしまった。
そして倒れ、黒ずきんに運ばれて……
二ヶ月分くらいの長くてリアルな夢を見ていた。
しかし、偶然見た夢ではないだろう。
目の前の日記に書いてある内容だ。
おそらく、また記憶が消えそうになってライトやマリーが何とかしてくれたのだろう。頭の中がスッキリしていて、今なら本一冊くらい暗記できそうな気がする。
「えっと……先輩、マリーさん、それに皆もありがとうございました。」
ナビキはベッドの上で深く頭を下げる。
「全く……今回の治療費と心配させた分の慰謝料は後で払ってもらうからね」
スカイはギラギラとした笑みを浮かべて言う。
「ホントにナビキもナビもエリザも、世話がかかるね……次からあんな無茶やめてよ?」
黒ずきんは怒りたい気持ちと喜びたい気持ちが半々くらいの表情で、気を張ってそう言うが……喜びがやや勝ったらしい。目に涙がうっすら浮かんでいる。
「クスクス、頑張ったのはナビキちゃんですよ。私達は手助けしただけです。」
マリーはいつも通りに笑っているが……夢のせいかちょっとその笑顔に苦手意識を抱いてしまう。
そして……
「……………」
「先輩? どうしたんですか? 顔色が……」
「ごめん……今ちょっと席を外させてくれ」
ライトは背を向けて部屋を出て行く。
もしかして、泣くのかな?
ナビキがそう思うと……
「すいません……私もちょっと……」
マリー=ゴールドも追いかけるように部屋を出ていった。
何だか夢の最後の部分を思い出して不安になった。
ライトは宿の廊下で壁にもたれ掛かっていた。マリー=ゴールドはライトに近付き、優しく声をかける。
「大丈夫ですか……いえ、大丈夫ではありませんね。周囲に見ている人は居ません。もう無理しなくてもいいですよ」
「なら、遠慮なく……任せるよ『金メダル』」
「もちろん、姉弟子に安心して任せてください『銀メダル』」
その瞬間、ライトの周囲の空間に強烈なノイズが広がった。
「ぐ……オレは……私は……あたしは……」
第一人称さえも定まらず、ライトは輝きをなくした目をする。
マリー=ゴールドはノイズを見ても驚きもせず、優しく語りかけながら歩み寄る。
「ライトくん、ナビキちゃんを助けるためとはいえほぼ100%までパターンを合わせるのはやはり危険でしたね。それに、最近メンテナンスも怠っていましたか? 自我のプログラムの統合が不安定になってます……頑張り過ぎですよ」
ノイズを軽く無視して、背の高いライトの頭を背伸びして優しく撫でる。
「気を楽にしてください……」
ライトの耳に口元を寄せ、小さな声で囁く。
「『偽善でも、墓まで続けば本物だ』」
その途端ノイズが収まり、ライトの体から力が抜ける。
そして、マリー=ゴールドは無抵抗のライトの体を倒れないように抱きしめる。
「今のあなたなら、きっと簡単に虜にできるのでしょうね……」
マリー=ゴールドがライトに吹き込んだのはライトとの間で交わしておいた『合い言葉』だ。
本来、ライトには暗示の類は全くと言っていいほど通用しない。しかし、それは暗示などの技術は時には治療に必要な場合もある。精神の治療には特に有用だ。
マリー=ゴールドがライトに使用した『合い言葉』はそのような場合に他人が暗示をかけられるよう、天照御神が設定させた、そしてライトがナビキに『なる』前にマリーに予め教えておいたものだ。
そして、ライトは他人に行動パターンを同調させる際、その『純度』を上げ過ぎると元に戻りにくくなる。そして、やりすぎると自我が不安定になる。
「いいですか? あなたの本名は『行幸正記』、性別は男性、年は17歳です。このデスゲームでは『ライト』というキャラネームで呼ばれています。第一人称は『オレ』です。」
マリー=ゴールドはライトのプロフィールを挙げていく。
そして、最後にこう綴る。
「……もう、こんな無茶しないでください。それかせめて、今度からも無茶するときには私に先に了解をとってくださいね? あなたは私にとって、大切な存在なのですから」
そう言い、マリー=ゴールドはライトの目の前で『パンッ』と音の立つように手を叩く。
そして、ライトは目を覚ます。
「……ああ、メンテナンス終わったのか。なんか変な暗示とか仕込まなかっただろうな?」
『メンテナンス』という言葉に、マリー=ゴールドはやや複雑なものを感じる。
彼女が彼に行った行為について、もっとも適切な表現はやはり『治療』でも『メンタルケア』でも『カウンセリング』でもなく……やはり『メンテナンス』。
まるでロボットの設定を初期化するようなその表現が、もっとも合っている。
チップで生きているナビキをもっとも機械に近い人間だとすれば、ライトはもっとも人間に近い機械。
あるいは、もっとも人間に近い人外……『哲学的ゾンビ』。
自分の人格を自在に改変できるという能力は、彼に人間性を与えると同時に、人間味を奪っている。
それが哀しい。
救うのには手遅れなのが……完成してしまっているのが悲しい。
せめて、幸せなふりくらいは……人間らしい振る舞いくらいはしてほしい。
「暗示ですか……仕込みました」
「なに!?」
「冗談です」
「ホントか?」
「『冗談です』というのが冗談です」
「何したんだ一体!?」
「一人で勝手に変なことしないようにおまじないをかけただけです。どうですか? 調子は」
「まあ……悪くはない。だが……オレよりナビキの方はどうだ? うまく行ったか?」
自分の話題を早々に終わらせてナビキを心配するライトにため息を吐きながらも、マリー=ゴールドは事務的な口調で答える。
「ええ。記憶の挿入は滞りなく済みました。彼女の中の三つの人格の優先度を整理して情報に応じて最適な子が処理するようにしましたし、それに、チップのストレスに対する反応の基準も上げておきましたから、半端なストレスで記憶が消えることはもうないでしょう」
「すごいな……マリーは人間の精神以外には手を出せないかと思ってたが、チップの設定にまで干渉出来るのか」
「昔取った杵柄ってやつですよ。無人兵器集団と戦うために最新AI操作の自動ロボット巨大兵器を説得して味方についてもらったこともありますし、半電子頭脳のナビキちゃんのプログラムくらい軽いものです」
ライトはすっきりした頭で驚く。
何気にすごい発言が出た。
ライトが見ても嘘をついている様子はないし、本当に体験したのだろう。
マリー=ゴールドの暗示の能力は『読心』より、どちらかというと『電気使い』に近いのかもしれない。
「マリー、一体どんな紆余曲折があったらそんな経験するんだ?」
「……『THE GOLDEN TREASURE』で、『前』のデスゲームですよ。あの時が一番危なかったかもしれませんが、今ではいい思い出です」
ライトは、そのゲーム名を以前も少しだけ聞いた。
マリー=ゴールドが以前にクリアしたデスゲーム。
おそらく、今の彼女を形作ったゲーム。
「……前々から聞こうかと思っていたが……それどんなゲームだったんだ? やっぱりVRMMOなのか? だが、今回みたいに何千人がログアウト出来ないような事件は聞いたことが無いが……参加者が少なかったとかか?」
ライトがそう問いかけると、マリー=ゴールドは立ち位置を変え、ライトの隣の壁に寄りかかって答える。
「クスクス、『THE GOLDEN TREASURE』はオンラインゲームじゃありません。現実世界を舞台にした、世界中を回る宝探しゲームでしたよ」
『THE GOLDEN TREASURE』
それは、三年前に人知れず開始され、一年半に及んで行われた、世界を股に掛けた壮大な宝探しゲームだった。
当時のマリー=ゴールドは15歳だった。
親はなく、孤児院を兼ねていた教会に暮らし、義務教育を終えていた。
しかし、高校には行かなかった。というより、行く必要がなかった。
そのとき既に、大学くらいの知識は持っていたし、『才能』を使えば生きるのに何も困ることはなかった。
そんなとき、人生に退屈し始めていたとき、背の高い『先生』に声をかけられた。
そして、綺麗な金色の……しかし、黄金ではない見たこと無い金属で出来たメダルの欠片と印のついた世界地図を渡されこう言われた。
『このポイントにメダルの欠片があるから、欠片を全部集められたらクリアよ。』
「師匠らしいな……」
その『先生』を知るライトが呟き、マリー=ゴールドも頷く。
「しかも『パスポートを持ってません』と言ったら、不法出国で南の無人島に放置されました……スタート直後の最初の試練が無人島脱出でしたよ」
「それはデスゲームらしいシチュエーションだな……だが、後はメダルの欠片を探すだけだろ?」
「それから、欠片を探しながら世界を巡って、メダルを狙って来る現地のマフィアや独裁国家の軍隊、トレジャーハンターや裏社会で名の知れた殺し屋に命を狙われたり……」
「すごいなそれ! なんでそんなマジな連中が参加してたんだ!?」
「なんかメダルが滅んだ文明のオーパーツだったらしくて……なんか『完成させると人心を自由にできる力が得られる』とかって……」
「ハリウッド映画並みにすごい冒険してんな!!」
「あと最後の方には他の参加者との欠片争奪戦とか、自分のクローンとの洗脳対決とか、第三次大戦を止めたりとか、核ミサイルの発射をやめさせたりとか……」
「有名小説の主人公か!? てか一年半前って、一時期世界中の軍事事情が緊張してたのはマリーのせいか!?」
一時期ニュースはどこぞの国の軍隊が不自然な軍事演習を繰り返したり戦闘機が国境を無視して他国に侵入したり、潜水艦と漁船がぶつかって騒ぎになったりしていた。
ちょうどデスゲーム終盤の時期だ。
「クスクス。今となっては、なかなか良い思い出ですけどね」
「笑い事じゃねえ!! てか、そんな奴が参加してるデスゲームって心強すぎるだろ」
「いえいえ、私は一人では何も出来ませんよ。それに、私はあなたの方がこのゲームでは心強いと思いますけどね」
「オレが?」
「ええ、頼りにしてますよ」
そう言い、マリー=ゴールドは壁から背を離し、宿の外へ歩を進める。
「あまり長話をしているとナビキちゃんに嫉妬されてしまいますし、私は防衛の準備をしている皆を励まして来ます。」
「嫉妬? ……ナビキの『夢』の中でオレと何かあったのか?」
「……覚えてないんですか?」
マリー=ゴールドが不思議そうに問いかけるが、ライトは少し考えた後……首を横に振った。
「『オレ』の行動した部分は覚えてるんだが、ナビキの主観は覚えてないな。というか、あの時はほぼ『七海』になってたし、意識を引っ張られないように消したんだろ。確か……七海を入部させて、殴られて、多重人格に気付いて、一緒に劇やって……食事の約束したんだったか?」
「……ええ、それで本来なら私がライトくんを誘惑してナビキちゃんがストレスに耐えきれたら謝ってネタばらし……って筋書きでしたけど、邪魔が入って途中で『夢』から醒めてしまったので私とライトくんの関係を勘違いしたままで……そうでなくても、変な感情を持ったままでいるかもしれません」
今回の作戦はライトが『七海』と『正記』になってマリーの考えたシナリオを日記に記録し、その日記をマリーがナビキに追体験させるというものだった。
最後の部分に関しては強いストレスに耐えられるかどうかを試し、耐えられればネタばらし、耐えられずに失敗するなら記憶消去という筋書きだったが……外部の音声による干渉でネタばらしの前にナビキが目覚めてしまった。
「よくわからんが……まあ精神関係に関しては最後まで責任とってくれよ」
「……女性関係に関しての責任はちゃんと取らないと後々刺されることになりますよ。それと……」
ため息をつくマリー=ゴールド。
そして、最後に以前の意趣返しのように付け加える。
「エリザちゃんを救ってくれて、ありがとうございました……本当は、私も殺人鬼なら死んでもいいなんて思えませんからね」
その夜。
ライト、復活したナビキ(ナビとエリザの覚醒中)、黒ずきんの三人は『時計の街』西側から更に西を望遠鏡で覗きながら会話する。
「やっぱり近いな……戦闘開始は明日の朝か?」
「うわあ……沢山いますね。」
「思ったより行軍が速い気が……」
それぞれが星明かりと月光の下で迫ってくるモンスター軍団を見て、口々に感想を言う。
その時、視界の中に空からの光とは違う暖かな光を認める。オレンジ色の松明の光だ。
「お、来たな……無闇!! お疲れ!!」
「ずっと偵察してたんですか?」
「松明無かったら全く見えないよねあの格好」
「…………」
『時計の街』に久しぶりに帰還した無闇は荒れ地を見回して少々驚いたような態度を示す。
まあ、驚いているのだろう。
何せ、中世か戦国時代の合戦場のような立派な防衛準備が出来ていた。
堀に土壁、さらに柵や落とし穴まで作られている。
プレイヤー達の防衛戦にかけるやる気が目に見える光景だ。
後列の夜営の陣にも、補給のためのアイテムが大量に備えられている。
この短時間に備えられる準備としては最大限のものだろう。
「さて、これで戦力は揃った。決戦は明日……奴らを倒すぞ」
≪馬≫
騎乗できる動物の中で最もメジャーなもの。
しかし、馬の中でもランクがあり、ランクが高いものは足も速く長く走れるが、代わりに値が張る。
(スカイ)「はい、今回はレンタル品。馬です~」
(イザナ)「家でも飼ってますよー!」
(スカイ)「確かにNPCの家でもレンタルできる場合もあるけど……イザナの家って、けっこう上等な物件よね。馬小屋ついてるし」
(イザナ)「そんなことないですよー。私自身、働いてますし。道案内の商売で日銭を稼ぐ日々です」
(スカイ)「道案内って商売だったんだ……ところで、一番の上客って……」
(イザナ)「ライトさんです!」
(スカイ)「やっぱりね……ライト、イザナに何か思い入れでもあるのかしらね。そうじゃなきゃロリコンか……」
(イザナ)「『オレはロリコンじゃなくてシスコンだ』って言ってました」
(スカイ)「どちらにしろ変態ね」




