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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第三章:チームワーク編

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63頁:メンタルケアも大事です②

『メイススキル』

 棍棒で戦うスキル。

 技が大振りになり隙も多いが、その分ヒットしたときの威力はかなり高く、相手をノックバックさせやすい。素人から達人まで使い易い武器。


 また、刃物よりも甲羅や牙といった硬度の高い部位への攻撃には適している。

「本当にいいんですか? 彼女にはこのまま普通の女の子として生きる道もあるのに」


「ああ、もちろんそれについては躊躇してる部分もある。だが、オレはやっぱりこの子達には強くなって欲しいんだ。オレがいなくても生きていけるくらいに」


「……良かれと思ってやったことが、結果としてさらに状況を悪くしてしまうこともあります。それに耐える覚悟はありますか?」


「……その時にはオレが責任を取る。たとえ命を捨てることになってもな……だが、もしオレが責任を取りきれなくなったら、頼んでいいか『金メダル』」


「……どうしてこの子に拘るんですか? 同族だから? それとも、可愛い女の子だから?」


「強いて言うなら……オレはこの子に自分を殺させたくないんだよ。オレが知らず知らずの内に間違えてしまった分岐点で、この子にはちゃんと迷って欲しいんだ。その答えとして自分を殺すのは仕方ないとしても、選ばずに道を外れるのはやめて欲しい」


「……自分を重ね合わせているだけでは? いくら他人を救っても、それだけ自分が救われるとは限りませんよ? 救おうとしても手遅れで、救いながらに裏切られ、救ったことで殺してしまう。そんなことだってあるのに、この子を救うんですか?」


「流石、人を救うことを理解してる人は言うことの重みが違う……だが、一つ違うのはオレがこの子を救うって部分だ。オレが救うんじゃない。この子が這い上がるんだ」


「『銀メダル』、あなたは這い上がった先で手をさしのべるだけ……そう言いたいんですか? それは、結局救うことと大差ないですよ? それは、間違った道へ引きずり込むだけかもしれませんよ?」


「馬鹿言え、そんなセコい言い逃れするつもりはない。オレも這いつくばって、一緒に迷う。そうして、オレの『答え』を探してやる。自分を殺した、踏み外した先の……今まで見えなかった、自分の『未来』を見つけてやる」


「……止めても無駄なようですね。わかりました、あなた達の『時間旅行』を見届けましょう。そして、予言しましょう……この救いは今だけは誰の絶望にもならないことを」




 同刻。

 上位の仮想空間にて。


「なるほど……『金メダル』の『予言』と『銀メダル』の『語り手』の共同合作『時間旅行(タイムトラベル)』ね……これはまた面白いこと考えたわね……なら、じっくりと観劇させてもらうわよ」







《?? ???》


『解離性同一性障害』

 主にストレスが原因で発生する一つの人間に複数の人格が宿る、よく『多重人格』の名で知られる症状だ。

 ただし、それは全身まるごと違う人格に支配されるとは限らない。場合によっては、片腕のみが自我の通りに動かなくなる『エイリアンハンド症候群』と呼ばれるような場合もある。



「えっと……つまり、ストレスのせいで私は頭がおかしくなっちゃったってこと?」


『おい! そんなふうに否定的にとらえるな! あたしらはお前の精神が壊れないように守ってんだぞ!』


 ネットで見つけた『エイリアンハンド症候群』のページを見ながら、七海は『左手』と筆談を続ける。


 日記を燃やされ、背の大きな先輩に脅され、哲学的ゾンビを名乗る先輩にはめられ、占い師みたいなおねえさんに手の甲にキスされ、極めつけに自分の中に新しい人格が二人も現れ……


 これはもう厄日とかってレベルではない。

 もはや神様にまでいじめられている気分だ。


『失礼』

『現実逃避やめろ。考えようによっては友達沢山増えたみたいなもんだろ? この調子で日常が続けば、いじめられっこどころか一ヶ月もすれば友達百人も夢じゃないぜ?』


「こんなの一ヶ月も続いたら本気で神経が保ちませんよ……こんなの、他人に相談できないし」


『他人に相談できないならあたしらに相談しろよ。そのための呪いだろ?』

『それだと(のろ)い おまじない』


「悩みの原因に相談するのも変ですが……って、おまじないってあのおねえさんのキスのことですか?」


『ああそうだよ。文句ならアイツに言え』

『手の甲 あわてすぎ』


「はぁ……もう何がなんだか……」


 七海はとりあえずノートを閉じ、ペンを置いてベッドに横になった。

 起きて目がさめたらまた記憶が消えているかもしれないと一瞬不安になったが、それは今気にしてもしょうがないことなので我慢して目をつぶる。


 明日のことは、明日の自分に任せよう。




 翌日。

 記憶は無事だった。


 ……まあ、主観的な話なのでそのうち消えるかもしれないけど……


「なんで目覚まし止まってるの!?」

『うるさい 止めた』


 『左手』が勝手に止めたらしく遅刻ギリギリだった。しかも、勝手にペン握ってノートで喋ってるし……思ったより自己主張の強い左手だった。


 おかげで、今日は学校まで全力疾走することになりそうだ。

 急いで着替え、鞄を右手に持ち、玄関を飛び出そうと……出来なかった。


 玄関から走って出ようとしたら、腕を引っ張られたように身体が止まった。

 悪い予感を感じながら、ゆっくり振り向く。


 『左手』が、ドアの枠をガッシリと掴んでいた。七海の意志と関係なく……強い力で掴んでいる。


「こんな時になんなの!?」


 『左手』は人差し指を伸ばし、ドアの枠に簡潔に短い文を書いた。


『おなかすいた』





 結局遅刻した。

 何度か挑戦してみたが、『左手』は全身で思いっきり踏ん張っても勝てないくらい力が強く、朝ご飯としてパンを口に詰め込むまで玄関から先へは進めず、朝の点呼にはギリギリ間に合わなかった。

 こんなことなら無駄な抵抗はせずにさっさとパンを食べれば良かった……


『ナビキがエリザに力で勝つなんて無理に決まってんだろ。エリザはリミッター外せるからな』


 『左手』がノートの隅にそんな文を書き加える。授業中ですら、この左手は勝手気ままだ。


 だが、気になる部分もある。

 『エリザ』とは、朝自分を引き留めた方の人格だろうか。七海自身には名前をつけた覚えはないが……


 そういえば、口数(単語数?)の少ない方の人格はパンを食べ終わってからは何も言わない。

 まさか満足して消えたわけじゃないだろうし、どうしたのだろうか……


『アイツ夜型だから今は寝てんだよ。それに名前に関してはナビキに付けられなくてもあたしにはナビ、アイツにはエリザって名前があるんだ。口数の多い方少ない方とか思うな』


 多重人格になると新しい人格には最初から名前があるものなのだろうか……というか、『七美姫』から来てると思われる『ナビ』はともかく、『エリザ』はどこから来たのだろうか?


 まだまだこの『左手』の彼女達には謎が多そうだ。


「七美姫、落書きしてないでこの問題に答えなさい」


「あ、えっと……」


 不覚。

 当てられてしまった。

 全然授業に集中出来てないし答えられるわけが……


『楽勝だぜ x=12 落書きなんてしてないで授業くらいちゃんと聞けよ』


「x=12……ですか?」


「おお、正解だ。すまんな、落書きは気のせいだったようだ」


 助かったが、なんか悔しかった。




 心配していたいじめの方は『クラス総シカト』の段階に達しているらしく、ある意味助かった。知り合いにやられれば辛いかもしれないが、記憶が継ぎ接ぎだらけの七海にとってはほとんど他人同然の存在。変に親しく話しかけられても困る。


 そして放課後……

「こっちはそうは行かないだろうな……」


 お待ちかね……というわけではないが、部活である。

 あの『哲学的ゾンビ』を自称する行幸先輩は嫌いではないが……はめられたこともあるし、同じような悩みがあるはずなのに自信満々な所とか少し苦手だ。

 悩んでいる自分が弱いだけのような気がしてくる。


 部室の前で逡巡する。

 ……このまま幽霊部員になるのもありだろうか?


「そこにいるのは誰だ!?」


「はい!?」


 突然、扉の向こうから男の声が聞こえた。

 恐ろしい形相の老人を連想させる声。しかも、かなり苛立っている。


「わかった! また儂をいかれた病人だと思った馬鹿もんだろう! 儂を消しに来たんじゃ!」


「な、なんですかいきなり!?」


「そっちがその気なら儂も容赦はしない! この部屋に一歩でも踏み込んで見ろ! 貴様の脳天叩き割ってやる!」


 わけが分からない。

 だが、一つ確信したことがある……今、このドアを開けてはダメだ。中に入れば殺されかねない。


「し、しつれいしました!!」

「あ、おい待て!!」


 七海は恐ろしくなり逃げ出した。

 しかし、背後でドアの開く音がする……おして、追いかけてくる足音がする。


 何がなんだか分からないが、追いつかれたらマズい。しかし、足はあっちが速い。

 七海はすぐに体力が尽き、曲がり角で身を潜め、乱れた息を整える。


(どうしよう……どうしたらいいんだろう)


 半ばパニックに陥る七海。

 七海がそこにいることがわかっているのだろう、足音はゆっくりと近付いてくる。


 助けを呼ぼうにも、声も出せないほどパニックになっている。


 このままでは……

『あたしに身体貸せ。何とかしてやる』

 『左手』が壁にそう書いた。



 迫る足音。角で待ち構える『自分』。

 『七美姫七海』は客観的にそれを認識する。


 足音が後三歩の距離まで迫る……『自分』は右の拳を握りしめる。


 後二歩……『自分』はオーバーのまでに大きく拳を振りかぶる。


 後一歩……『自分』は振りかぶった拳を思いっきり『敵』にぶつけた。


「ぅらあ!!」

「グハアッ!?」


 倒れる『敵』に向かって『自分』は……『ナビ』は威勢良く言った。


「こいつに手を出すのはあたしが許さねえ!!」


 だが、『七美姫七海』は倒れた男の顔を見て唖然とする。

 彼は間違いなく……行幸正記だった。




「アハハハ、そう言えばあなたにはゾンビくんの『役作り』のこと話してなかったね。演劇部のみんなは知ってるんだけど、あの子本格的に役作り始めると人格変わっちゃうのよ。まあ、新しい人格作るために作り替えてるんだけど……まあ、言ってみれば幽霊に取り憑かれたみたいな状態だから他の人は部屋には入らないようにしてるのよ。危ないから」


 そう言うのは、倒れた正記を前にオロオロする七海を見つけて事情を察し、正記の足を掴んで軽々と部室に引きずり込んでくれた演劇部部長……七海を脅して部室に来させた背の高い三年生の女子だった。

 七海は弁解しようとしたが、部長は全く怒った様子も困惑した様子もなくまるで『面白いことになった』というような表情だった。


 そして、正記を雑に部室の隅のソファーに寝かせると、自分はホログラムのゲームを起動しながら七海に話しかける。電子回路を通って侵入してくるウイルスを迎撃するシュミレーションゲームだ。


「やーぱり、まだ殺人鬼の人格は早かったか……戻るのに十秒もかかるようじゃ駄目ね。これじゃあゾンビくんの『悪鬼』の役を見るのはまだちょっとだけ先かな……まあ、要するにさっきのゾンビくんはちょっと『役』になりすぎちゃってそれであなたを怖がらせちゃったってこと。まあ、部屋から出るときにはもう戻ってただろうから、殴らなくても良かったんだけど」


「ほんっとうにすいませんでした!!」


「いいよ別に。扉には部員のチップには立ち入り禁止の表示がされるようにホログラム組んでおいたはずなんだけど、新入部員に対応させてなかった私が悪かったし……この子の予知能力を破って奇襲をかけるとはなかなかやるじゃない。まあ、この子は一度に何人もパターンを真似できないから、そこをうまく突いて『七美姫七海自身にも予想できない動き』をしたんだろうけど……あなたも意外に『完成』の可能性があるのかもしれないわね。まあ、機械の部分が多すぎると成長の方向性が制限されるからあんまり期待しないわ」


「あの……何の話ですか?」


「こっちの話よ。それより、私はちょっと席を外すわよ? あんまりここに居過ぎてあっちの子たちに鉢合わせするのも嫌だし……二人にしてあげるから、他人の手を借りずにちゃんと本人に謝っておきなさい。そろそろ目を覚ますはずだから」


 そう言い、演劇部の部長はゲームをしながら部屋を悠然と出ていく。

 そして、彼女の姿が完全に死角に消えた瞬間に丁度正記が目を開く。


「えっと……ここはどこ? 私は誰?」


「きゃあああああ!! 謝ってどうにかなるレベルの事態じゃなくなってる!?」


「ははは、冗談だよ。あんな女の子とは思えないほど腰の入った、しかも普通は人間に対して少しはするであろう手加減が全く感じられないパンチだろうと、さすがに記憶まではとばないよ。すごく痛かったことは憶えてるし」


「本当にごめんなさい!! 心から謝罪します!! すいませんでした!! 何でもしますから赦してください!!」

 七海は心の底から本気で謝った。

 出来れば、心のどこかにいるはずのナビも謝罪してくれるように。


 しかし、正記は口で言った程には怒っていないらしく、殴られた顎をさすりながらニヤリと笑う。

「何でもしてくれるんだな?」

「……はい?」

 またしても嵌められてしまったのかもしれない。七海はそう思った。



「良い!! すごく良い!! すごく似合ってるぜ!!」

「え、ちょ、そんなに見ないでください……恥ずかしい」


 七海は、正記の顔を殴ってしまった代償として……正記の指定するコスチュームを着るという罰ゲームを受けていた。

 ナース服、忍び装束、学ラン、メイド服と続き、今は男物のタキシードを着せられている。

 この部活、衣装に予算使い過ぎだ。着替えの場所はブルーシートとハンガーで作られた即席の衣装室なのに……


「うぅ……新人いびりです……」


「何を言うんだ。この部活には断固としてそんなもの存在しない。これはオレの個人的な趣味だ」


「今さらっと自らの性癖を暴露しました!? まさか行幸先輩がここまで堂々とした変態さんだったとは思いませんでした!! まさか、写真とか撮ってませんよね!?」


「写真などという無粋な物はオレの主義には合わない!! 写真などなくてもしっかりと脳内に焼き付けている!! そしてオレは変態ではない、ただ単に普段と全然違う格好をしてる女の子を見るのが好きなだけだ!!」


「きゃああああ!! 女の子に恥ずかしい格好をさせる羞恥プレイに特化した変態さんでした!! その内どんどん服の面積が少なくなっていって最後には全裸でまじまじと見つめられることになりそうです!!」


「そんなことしねえよ!! 第一、全裸はコスプレじゃねえ!! もし今ここで、お前が自分の意志で脱ぎ始めてもオレは縛り上げてでも止めるぞ!!」


「もっと変態的な絵面になりますよそれ!!」


 正記との絶え間ない口論で息が続かなくなった七海は荒い息をしながら椅子に座る。

 こんなに大きな声を出したのは……口論したのは初めてだ。少なくとも記憶の中では。

 正記はまだ体力が全然尽きていないらしく、疲れ果てた七海を勝ち誇った表情で見ている。


「はあ……はあ……」


「演劇部員が多少声張った程度でへばってどうする。まずは発声練習が必要だな」


「はあ……行幸先輩、もしかして演劇部に入った理由って……」


「師匠に誘われたからってこともあるが……もちろん合法的にいろんな格好の女子が劇をやるのを見ていられるってのもある」


「ヤバいこの人……計画犯だ。そもそも、どうしてそんなにコスプレ女子が好きなんですか……そんなに好きならその手の動画でも電子書籍でもダウンロードでもすればいいじゃないですか……」


「なんでだろうな……そういうのじゃダメなんだよ。なんというか、あいつらのほとんどは何にも感じない……プロ意識ってやつなんだろうが、奴らの心にはもう役者なりモデルなりでそのまま駆け上がって名前を売ることしかないんだ。手段が目的になっちゃってるし、それじゃダメなんだ」


 正記はいつからか、どこか自分の中の答えを探りながら話すように、慎重に話すようになっていた。

 七海も、その様子に言葉を選ぶ。


「…………なら、私の心には何があるんですか?」


「『目立ちたくない』『普通の人間になりたい』……『変わりたい』『不幸でも、欠陥があっても、それに負けたくない』」


 最初の半分は確かに自分でも思っていたことだが、あとの半分は思い当たらなかった。

 だが、正記は七海の表情を見て、得意げに笑う。


「案外、人間は自分の願望をわかってないもんだよ。自分はそんなもんじゃないっていう先入観とか、世間一般の常識とかで無意識に否定してるけど、人間は柄にもない夢を抱えてるもんだ。まあ、それが才能と一致するわけじゃないから苦労するんだけど……案外、オレがコスプレ女子を見たくなるのもそこらへんに関係があったりするかもな」


「どんな関係ですかそれ!?」


「たとえば、七美姫さんがナース服とか着た時、『これは正しい自分じゃない』って思っただろ? 案外、人間って明らかに『間違ってる』と自覚してる時の方が『正しい』ことをちゃんと認識できてるんだ。まあ、『何が正しいのか』より『どっちが正しいのか』のほうがわかりやすいって事なんだろうが……まあ、もしかしたらただ単にコスプレで羞恥心を見せる女子が好きなだけかもしれないけどな」


「最後ので台無しになりましたけど……まあ要は、行幸先輩は私にいろんな服を着せて、いろんな反応をするのを見て楽しんでるんですね」


 七海は密かに覚悟を決めた。

 もういい。言い争っても勝てないし、正記自身信念があるらしいので無理やり逃げるようなこともしない。

 もう、正記が満足するまで着せ替え人形になっておこう。

 それに、このまま続けていけば何かが吹っ切れそうだ。


「わかりました……次は何を着て見せればいいんですか? チャイナ服ですか? 和服ですか?」


「いや……ちょっとそのままで……」


 正記は七海を引き留めてタキシード姿の彼女をじっと見つめる。

 ……改めて見つめられると恥ずかしい。良く考えたら男装しているし……。


「あの……」


 七海が恥ずかしさに耐えかねて見つめるのをやめさせようとした時、正記は唐突に言った。


「七美姫さん、今度の劇で主役やってみないか?」


「あ、はい…………はい!?」





 同刻。

 盤上遊戯用AI『飛角妃』はゲーム中どこの座標にも属さない場所からプログラムを走らせる。

 目的はもちろん出された命令……プレイヤー『ナビキ』の即時抹殺。

 

 本来は一回目の接触で達成できるはずだった。

 実際、失敗はしてもかなりギリギリまで追い込んだはずだ。


 だが、逃げられた。

 しかも、『時計の街』に逃げ込まれてしまった。襲撃イベントまでは命の危険もない安全地帯だ。


 このゲームのルールに則った方法でゲームオーバーに追い込むことは難しい。

 しかし、どうしても、できる限り早く対象を抹殺……そうでなくとも、ゲームバランスの崩壊を防ぐためには無力化する必要がある。


 ならば、どうしたら良いか……

『!!』


 対象のメンタルをモニター化してその精神状態を計測。

 さらに、アカウント『飛角妃』の権限で使える手を検索。

 そして、終局までの算段を立てる。


『演算完了。勝利まで五十六手……今度は逃がしません』

《石》

 ただの石。

 どこでも拾える


(イザナ)「これ、売り物ですか?」

(スカイ)「ぶっちゃけ商品価値ないよ~。たまに珍しい色とか形とかのがあると趣味で買っていく人がいるけど」

(イザナ)「まあ……特殊な効果もないただの石ですもんね」

(スカイ)「投げれば投擲武器としては使えるけどね~。あ、あとそういえばただの石でもすごい使い方するお客さんいたわ」

(イザナ)「誰ですか?」

(スカイ)「マリーよ。大きな石を彫刻にして納品してくれるけど、あれ結構いい値段で売れるのよね~。なんだか見てると気分が良くなるって」

(イザナ)「ただの石も達人が使えば武器になるそうですが……マリーさんなら精神兵器になるんですね」

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