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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第三章:チームワーク編

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59頁:深追いには気を付けましょう

『変装スキル』

 容姿を変えるスキル。

 服装の瞬間的変更や声の変更などのトリッキーな技が多い。また、スキルのレベルを上げて修得クエストをやり直すと『名前を変える』『身長を変える』『性別を変える』などの効果を持ったマジックアイテムが手に入る。

 また、《竹光》《空砲》のような通常ダメージを与えることのない『偽武器』に高いステータスを与える事が出来る。

 襲撃イベント二日目。

 宿の床で少女は起き上がった。


「っ……頭痛てー……痛いです」


 少女は、自分の言葉に疑問を感じる。

 なぜ一言目にあんな調で言葉を発したのか。

 なぜ二言目に言い直したのか。


「どうなってんだ? ……どうなってるんだろ?」


 そこで気がつく。

 疑問を感じた口調は、『もう一人の自分』の言葉だ。

 何となく今まで同じ体を共有しながら、ほとんど同じ時間を共有しなかったもう一つの魂の言葉。


「まさか」


 少女は、急いでメニューを開き、鏡を取り出して自分の顔を見つめて、困ったように……しかし、若干嬉しそうに呟いた。


「おはよう、もう一人の(あたし)







≪現在DBO≫


 馬に乗ったライトと闇雲無闇、そして木の上に立つ黒ずきんの目の前で、村が一つモンスターに蹂躙されていく。


「黒ずきん、敵陣営はどうなってる?」


「斥候が村の残党を探してる。それから誰もいないのを確認して中くらいのが略奪を始めた。」


「村人は避難済みだしな……略奪の優先順位は?」


「えーと、一番が家畜。二番目に食糧庫、金目の物には目もくれず素通り……だけど武器は別みたい。〖 ツールエレファント〗とか猿系とかが持って行ってる。」


「武器使う奴は頭良いからな……鬼に金棒、ってほどじゃないだろうが厄介だな」


「……………」


「無闇が遠距離系は居るのか聞きたいらしい」

 聞いていないが助かる。


「居るけど、割合的にはかなり少ない。略奪隊の中にも二、三体。」


「…………」


「そうだな、そろそろ行こう」


 黒ずきんは枝を何回か踏み台にして地上に降りる。そして、馬に乗っているライトの後ろに乗った。


「さあ、村の敵討ちと行くか」




 ライト達一行は村を一つ見殺しにした。

 とは言っても、村人は多少力ずくだったが全て避難させてある。

 どちらにしろ四人で防衛しきることなどほぼ不可能だし、元から家財などは諦めさせる必要があったので、ただ戦闘の開始を遅らせただけの話だ。


 もっとも、ここにいるのはライト、黒ずきん、闇雲無闇の三人だけ。ナビは次の村の周囲でモンスターを狩っているところだ。


 無闇は宿屋の屋根の上、ライトは地上で白兵戦、黒ずきんはその後ろから援護射撃を担当している。


 村に攻め込んでくるモンスターは低レベルの斥候、二足歩行モンスターが中心の略奪隊、そして本格的な攻撃部隊。


 そして……


「無闇! 黒ずきん! そろそろ潮時だ!!」


 ライトが声を上げる。

 戦況はライト、黒ずきん、闇雲無闇が手練れだったこともありライト達に有利に動いていた。

 しかし、ライトは強い危機感を込めた声で二人に撤退を促す。


「どうしたの?」

「でかい奴が集団で迫ってる。もう観察は充分だし退くぞ……無闇、足の速そうな奴だけ仕留めて下りてくれ! 馬で次の村まで戻るぞ、殿しんがり)はオレがやる」


 これが今回の戦闘での予め決めておいた作戦だった。今回の目的は敵の出方を見ることだけ。ナビはこういう適当なラインで退くという事が苦手そうなので別の仕事をしてもらっている。


 本番は三時間後。

 次の村で勝負をかける。






 三十分後、ライン達は馬を駆って次に襲われることになる『野苺の村』に到着した。


 途中敵のマークをかわすために遠回りしたり、辺りの地形をチェックしたりと時間がかかったが、敵襲までには十分に時間がある。

 盗賊もエリザにこっぴどくやられた分今日は来ないだろう。


「あ、先輩!」


「お、ナビキか? ナビはどうした?」


「ナビは待ってるのが性に合わないから出番まで寝てるそうです」


「作戦は聞いてほしいんだけどな……だけどまあ、ナビキとも話したいとは思ってたし丁度良いか」


「あ、じゃあ一緒にお昼食べません? 私、最近料理始めたんですよ」


 ナビキはライトの手を引っ張り無人の民家へ連れて行く。どちらにしろこの後蹂躙されるので、村人は避難済み。残された食糧を勝手に使おうと文句は言われない。



 『エリザ』という第三人格が現れるまで、『ナビキ』と『ナビ』はもう片方の睡眠を合図に主導権の入れ替わる一日交代のローテーションを組んでいた。しかし、『エリザ』の影響かそのローテーションが狂ったらしく、今は『ナビ』と『ナビキ』が同時に起きている。


 状況が掴みきれなかったナビキは同室に寝ていた黒ずきんを起こそうとして……ギリギリで直感的に踏みとどまり、ライトにメールして状況を説明してもらった。そして、全てを知ったのだ。

 今では、二人は頭の中で意思の疎通ができるらしく、相談の上で体の主導権を持つ方を決めている。


 元々、ナビキは音楽による支援担当、ナビは鎌による前衛担当であり、前は日にちや時間帯によって戦闘での役割が変わっていた。しかし、今の状態なら細かく主導権をやり取りすることで両方を担当することも不可能ではない。そう考えると今の『ナビキ』は戦闘の幅も広いし、エリザの思わぬ副産物だとも言える。

 しかし、『本人たち』にとってはそんなことよりも『一緒の時間を共有できる』という部分の方が大きいらしい。今までもほとんど以心伝心で互いのしたいことは大体わかっていたし、日記で詳しい情報を共有できた。しかし、今の『話し合いができる』という状態はこれまでのそれとは違うらしい。


 ライトが外から見ている限りでは、ナビキの方が落ち着いたお姉さんのように見える。



「どうぞ召し上がれ」


 ナビキは住人の抜け出した民家で残っていた食材をふんだんに使った昼食を机に並べた。

 ハムサンド、ドレッシングのかかったサラダ、温かく湯気の立つポトフ、果物を絞ったジュース。


「えっと……美味しそうだけど、いつの間にこんなに上達したんだ? オレが言うのもあれだが、戦闘職上げながらよくこんな料理の練習できたな」


「スキル全上げなんてしてる先輩に言われるのはホントにあれですが……これでも頑張って料理の練習してるんですよ? 最初は赤兎さんも『これはねえだろ』とかって言ってましたけど、最近では『見栄えだけはまともになって来たな』って褒めてくれますし」


「ちょっと待ってくれ。それを聞いてからこの美味しそうな料理を食べるのにはかなりの抵抗を感じるんだが……あの赤兎が『これはねえだろ』って言ったものからは味も進歩してるんだよな? 見栄えの方が進歩が速いってだけで味も進歩してるんだよな?」


「勿論です。この前マイマイちゃんとライライくんに教えてもらいましたから。もう家庭で出せるレベルです」


「店で出せるレベルじゃないんだな……まあ、じゃあ遠慮せず食べさせてもらおうか。いただきます」


 スプーンでポトフを一口食べた。

 ……やや味が濃い。


「どうですか?」


「悪くはないが、ちょっと濃くないか?」


「そうですか……ナビの馬鹿……」


「ナビとの間に何かあったのか?」


「いえ……ナビが『調味料なんて目分量でいいんだよこの野郎!』って言ってドサドサ入れるから」


「ナビのやつ、大雑把なんだよな……」


「私はちゃんとミリ単位で計量して入れようとしたのに」


「ナビキは几帳面過ぎだ。グラム単位でいいから」


 徹底的に対称な二重人格だ。

 こうなると、エリザが料理したときどうなるのか知りたいところだが……エリザは生肉とか食べてそうだ。


「案外、エリザが入って初めて完成するのかもな」


「『エリザ』ですか……殺人鬼、なんですよね」


 ナビキの表情が暗くなる。自分の心の中に殺人鬼の部分があると言われるとやはり複雑な気分になるのだろう。しかし、目を逸らすわけにはいかない。

 ライトは事の顛末をマリーに聞いた話を含めて全て教えたのだ。


「殺人鬼と言っても、基本的なメンタルは人間とほとんど変わらない。人を殺してしまうこと以外は本当に人間なんだ。ジャックだってナビキを襲ったことに関しては悪かったと思ってるし、エリザに関してはまだ人を殺したこともない。というより、エリザは敵の生死に興味がないくらいだった。危険だとしても悪いやつらじゃないんだ」


「それは、ジャックさんをかばってるんですか? それとも、私を慰めてるんですか?」


「違う。そんなんじゃない……むしろ、なんて言うか……『すごい』って思ったんだ。ジャックとエリザを見てると、マリーが言ってた『人間より絆が強い』ってのがよくわかったよ」


「どういうことですか?」


「ジャックはエリザに好き勝手にされても、結局エリザを傷つけることはなかった。エリザは自分のダメージや敵の生死より後ろのジャックが無事かどうかを気にしてたし、ジャックが同じベッドで寝ることを断固拒否して床で寝ることになっても離れようとはしなかった。もしかしたら、『殺人鬼』って人間のそういう『進化の形』なんじゃないかって思ってさ。自分と自分の同族を、自分の『種族』を守るためには過剰なまでの防衛本能を発揮する。人類が今まで多くの生物を絶滅させ、文化や肌の色の違いで戦争を繰り返してきたのと同じように、他の人種を根絶やしにしてでも生きようとする。排他的だが、その代わり仲間を心から想ってる。ある意味、どんな人間より人間らしい生き物なのかもしれない」


 ライトの言葉は、まったく偏見のない……まるで本人の知りえない、無自覚の心情まで語るような言葉だった。しかし、その響きに偽りや誇張の声色はなく、それが真実から見当はずれなものではないということはナビキにもわかった。


 ナビキは一度目をつぶり、それから浅くため息を吐き、ライトの目を見つめた。


「……私、今度どうにかしてエリザとしっかり話をしたいです。そして、私も先輩みたいに彼女たちのことを理解して仲良くなりたい。同族にはなれなくても、先輩と黒ずきんちゃんみたいに友達くらいにはなれると思います。それに私は一応おねえちゃんですから、新しくできた妹とも仲良くしたいですしね」







 二時間半後。

 ナビキの人格は奥に引き下がり、ナビが主導権を握った。

 ライトは各種スキルで準備を整えたのを確認する。

 黒ずきんは戦闘の準備と回復アイテムの残量を確認する。

 闇雲無闇は無言で戦闘の準備を整え、遠方を見据える。


 そして、村の西側から迫るモンスターの大軍は動きの比較的早い斥候を放ち、目前の村を蹂躙しようとしている。


「いいか、作戦通りに行けばそれに越したことはない。だが、不測の事態が起きた時には引き上げられるようにしておけ。オレじゃなくても、無闇でも、黒ずきんでも、ナビでも、メールか口伝で撤退の伝達が来たら即撤退。作戦はハイリスクな分、途中段階で中止しても十分効果の出るようになってるから、欲を出し過ぎるなよ」


「んなことわかってるよ。さっさと始めようぜ」

「敵に囲まれて逃げ遅れるようなへまはしないよ」

「…………」


「なら……全員配置に着け。作戦開始だ」




 モンスター軍団は行軍しながら数を増しており、昨日は500ほどだったが今では600ほどに増加している。集まったモンスターが他の場所からもモンスターを呼んでいるらしく、増加も加速度的なようなので街に到達する頃には何倍にも増えているかもしれない。しかも、村などを襲うことでモンスターが『レベルアップ』しているという情報もある。


 そのモンスター軍団の陣営は、大きく分けて四つに分解できる。


 まず進行方向にある先頭集団。

 数はライト達に削られた後だが250程。

 レベルは一桁から30程で幅が広く、村を見つけた際の斥候や略奪に出てくるモンスターはここから出てくる。モンスターの種類も様々だが、統率などはとれておらず、さほど厄介というほどでもない。しかし、中にはレベルの割に強いモンスターが混じっているので注意。


 次に先頭集団の少し後ろから先頭集団を追い立てるように歩くのが恐らく主要戦闘部隊。

 数は恐らく150前後。レベルは20代から30代前半。

 先頭と違うのは、この部分にいるモンスター達が合理的な陣形を形作っていることである。

 正面に飛道具対策のゴーレム系、機械系といった堅いモンスターの列を作り、その後ろには飛道具、中距離武器といった戦術的に戦力を調節しやすい人型モンスターが多く控えている。


 そして、主要戦闘部隊のすぐ後ろに、一際大きな〖封魔の壷 LV50〗を含み、レベル30から40ほどの巨大モンスターや襲撃イベント限定であろうモンスター約50が集まる『本丸』らしき集団がある。巨大モンスターが多いせいではっきりと見ることはできないが、なにやら旗のようなものも見え隠れしている。中心的モンスターがいるらしい。


 残りはモンスター軍団の後続、殿しんがり)集団。数は150前後で、いるモンスターはそれまでの三つの集団のモンスターが混ざったような雑多なものだった。恐らく補充要員としての、意味合いもあるだろう。


 ライトの作戦は、この四つをバラバラにすることを目的としている。




 ライトの目の前で、斥候に続いて来た略奪隊が村に染み込むように集まってくる。

 まるで、砂糖に群がる蟻の群のようだ。

 ライトはその目前で呟いた。


「作戦1、逆MPK」


 ライトは法螺貝を構える。


「歌唱スキル『ボイスチャージ』、ナビキレプリカ『餓狼の挑発』」


 息を大きく吸い込み、まるで狼の遠吠えのような巨大な音を吹き鳴らす。

 それは、敵を集める挑発の音。知能の低いモンスターを一手におびき寄せる魔性の音。


 統率のとれていない先頭集団は一気に加速する。

 そして、ライトは馬に乗り、敵を引きつけて更に前へ。そして、その先の『仕掛け』に導く。


「優先順位第一位は家畜、その次は食糧だろ? 持ってけ泥棒」


 そう言い、ライトは予め用意していた『仕掛け』……村の東側に繋いでおいた家畜を解き放ち、先頭集団をさらに東側に樹系図のように枝分かれさせて並べておいた食糧の『導火線』にモンスター達を導き、ライト自身は一度草村に隠れて『隠密スキル』で身を潜める。


 モンスター達はライトを見失い、代わりに見つけた家畜を追いかけ、さらに食糧の導火線に食いつき散り散りに散って行く。ナビが周囲のモンスターを枯渇させるほど刈り尽くしておいたため、導火線はヘンゼルとグレーテルのパン屑のように途切れることなく続いていく。


 計画通りだ。

 戦えば時間がかかるし後方が援軍に来てしまうかもしれないが、前方への進行を速めてしまえばリスクを犯さずバラバラにできる。


「作戦成功。次は作戦2だ。頼んだぞ無闇」






「……………」

 作戦2、ロビン・フッドの逆襲。


 馬に乗りながら、闇雲無闇は無言で背中の矢筒から矢をつがえる。

 敵は多い。その足音は地響きのようだし、空気から伝わる気配も危険を感じさせる。


 だが、無闇は負けるなどとは全く思わなかった。


「…………!」


 無闇は馬にまたがり、矢を放つ。

 矢は、『堅い』モンスター達の上を弧を描いて通り過ぎ、その後ろの比較的防御が弱いモンスター達の真上に到達する。


 そして、一本だった『矢』が十倍の数の矢の雨となってモンスターの群れに降り注ぐ。


 『魔法スキル』と『弓術スキル』のコンボ『魔弓』。本来はただの弓矢での攻撃しかできない『弓術スキル』に、特殊な効果を追加できる魔法がいくつかある。

 その中の一つがこの『増える魔弓』だ。ただし、『増える』とは言っても、実は準備段階で分裂する数と同じだけの矢を用意して一つの矢を作り出すため数に限りがあるし、外したときはリスクが大きいが、このように敵が集団の時は効果的だ。


 しかも、今回はただの矢ではない。


「…………」


 敵陣営に着弾(着矢?)した直後、モンスター達の中から悲鳴のような鳴き声が聞こえた。しかも、かなり苦しそうな悲鳴だ。


 それもそのはず、今回の矢は特別製。

 高い『調合スキル』を持つ黒ずきんが調合した強力なダメージ毒が塗布された毒矢だ。


 敵のヘイト値は急激に上がり、遠距離攻撃を飛ばしてくる。しかし、無闇の位置はギリギリ射程圏外。前もって調べたとおり、プレイヤー中でも最高レベルの『射程距離』を持つ無闇は一方的に攻撃できる距離だ。


 無闇を攻撃するためには、モンスター達は前進する必要がある。


『無闇は射程ギリギリで敵を焦らして前進させてくれ。統率のとれた頭のいいモンスター達は「陣形」ごと前進してくるだろうから、進軍は遅い。馬に乗りながら移動しつついろんな角度から攻撃し続ければ敵全体を前進させられるはずだ。』


 村から拝借した材料でできる限りの数の矢は用意してある。ライトも矢の製作には協力してくれたし、黒ずきんは大量の毒を用意してくれた。


 それに、『増える』以外の『魔弓』もまだまだ準備してある。準備は万端、敵を引っ張る程度容易いことだ。


 無言の内に次の矢を弓につがえ、覆面の下で笑みを浮かべる無闇であった。







「作戦3、背後に迫る脅威」

 持ち前の隠密行動と移動速度でモンスター軍団の背後に回り込んだ『ジャック』は鬼の仮面の下で呟いた。


 今の彼女は魔法使いの『黒ずきん』ではない。黒いジャケットや鬼の面で全身武装した殺人鬼『ジャック』だ。


 普段は杖と魔法で戦っているのだが、やはり得意なのはナイフによる接近戦。今回は誰も見ていないし遠慮は無用だ。


 ジャックの担当は敵の背後からの奇襲。

 殿しんがり)集団の足止めだ。敵は東に向かって進み続けているため後ろは足止めするだけで中枢からは引き離せる。


 だが、ジャックに『それだけ』で済ます気はさらさらなかった。


「斬り込んで動き回って攪乱してくれれば良いって言われたけど……別に、『殺すな』とは言われてないし、構わないよね。」


 殺人鬼の証明である《血に塗れたやいば)》を右手に握り、『被害者』となる集団を見据える。

 小さいモンスター、大きいモンスター、弱いモンスター、強いモンスター、硬いモンスター、速いモンスター、力の強いモンスター、二足歩行、四足歩行、それ以上、やや浮いてるモンスター……


 ジャックにはどこをどう切り裂けば倒せるか見ただけで大体わかる。どうやれば殺せるか一目で見当がつく。

 図体がデカくても、多少速くても、硬い殻に守られていても……彼女より強いモンスターは後ろにはいない。


 ジャックに殺せないモンスターはここにはいない。

 全部殺せる。


「さあ、全滅の時間だ」

 モンスター150体 vs 殺人鬼一人。

 ここはジャックの独壇場だ。





 そして、敵中枢部『本丸』。

 ライト、闇雲無闇、ジャックにより縦に伸びきったモンスターの軍団の側面を見て機を伺っていた最後の一人が草陰から立ち上がる。


「てか、出番遅すぎだ!! 一番短気なあたしに一番最後までスタンバらせるってどういうことだ!!」


 餌を前に散々『待て』をくらった犬のように、いきり立っていた。


 本当なら、作戦などと小細工を弄する前に真正面から切り込みたかったが、敵を拡散させないと敵の本丸など狙えるはずもないので、他の三人の作戦が効果を発揮するまで待ち続ける必要があった。

 最重要ポジションと言われて喜んでいたが、ここまで待たされるとはとんだ誤算だった。


 だが、それもこれまでだ。


「ボス戦でもハブられて腹立ってたんだ、今度こそ大暴れさせてもらうぜ!!」


 大鎌を振りかぶり、ナビは巨大なモンスターが何十とひしめく本丸に斬り込んで行った。




 今回の作戦について、闇雲無闇が一番疑問を呈したポジションはこの『ナビによる本丸への特攻』だった。


 どう考えても、他とは危険度が違う。

 他は敵を引きつけて拡散させるだけでいい。

 だが、ナビだけは強いモンスターの群れ、それもモンスター軍団の中で最高のレベルを持つ群れと『戦闘』をしなければならない。


 ナビがいくら強いと言っても、クエストボスクラスのモンスター達と一人で戦えるわけがない。


 だが、ライトは無言で疑問符を浮かべていた無闇の目の前で言った。


『この作戦は、余計な尻込みをせず飛び込めるナビだからこそできるんだ。大丈夫、心配するな』




 ナビは躊躇なく巨大なモンスターの群れに突っ込んでいく。

 そして、正面にいた巨大なゴーレム型のモンスターもナビの姿を認めて迎撃を始め……


 ナビはゴーレムの股の下を通り抜け、鎌で硬い外皮を持つゴーレムのアキレス腱を貫いた。


 だがそこで、ゴーレムの後ろにいた鼻で大剣を持っていた象がナビを真っ二つにしようと剣を横凪に振るい……


 ナビが避けた剣がゴーレムの足をへし折った。


「ハッ!! デカブツ共が、攻撃するときゃ周り見ろ!!」


 さらにナビは倒れるゴーレムの首を鎌で貫き、その頭を踏み台に象の顔面に跳び、鎌を脳天に突き刺す。


 ナビは巨大モンスターに囲まれながら高らかに笑った。


「ヒハハハハハ!! 絶好調だぜ!!」




 ライトがナビを巨大モンスターのひしめく本丸に送り込んだのには大きく分けて二つの理由がある。


 一つは、ナビの武器が《大鎌》だということ。

 現実では『鎌』というものは武器として使われる事は少ない。それは、刃の部分が内側に付いている事と、突きがし難いということが主な要因として挙げられる。

 倒れた相手の首を刈り取る分には良いが、戦闘においては内側に向いた刃は使える間合いを制限していまい、真っ直ぐに刃が付いている槍より使いづらい。


 だが、このゲームの世界においては鎌には現実には無い利点がある。

 それは、『一点への破壊力』だ。

 現実の人間同士の戦闘では武器は威力より当てやすさが重視される傾向がある。それは、人間は多少着ているもので防御力が変わっても、ほとんどの場合は刃物が当たれば決着が付くからだ。


 しかし、この世界でのモンスター戦に関しては話が別だ。

 鎌は振りかぶって加速させた力を刃の先の一点に集中でき、硬い装甲も貫通して深い傷を負わせ、高いダメージを与えることができる。刃の先端を突き刺すのはやや難しいが、当たればそれこそ弱いモンスターなら一撃で貫ける。相手が攻撃を当てやすい巨大モンスターなら尚更だ。


 そして、もう一つの理由はナビの度胸。

 巨大モンスターの密集地に突撃し、接近戦を挑むというのはかなりの度胸を必要とする行為だ。しかし、それが出来たなら戦闘はかなり有利に運ぶことができる。


 何せ、複数の巨体が一人の小人プレイヤー)を狙うのだ。

 攻撃が仲間に当たるのは必然だ。ナビ自身が与えるダメージよりも同士討ちの方が大ダメージを与えることも多いだろう。


 勿論、危険な作戦ではある。

 ナビの最前線での戦闘経験、回避力、そして戦闘に恐怖を感じない精神力あっての作戦だ。



 ただ一つ、誤算があるとすれば……



「ハッ!! 歯ごたえの無い奴らだな!! もっと強え奴はいねえのか!!」


 ナビは進撃を続けていた。

 モンスターの足の間を走り抜け、攻撃を他のモンスターを壁にして防ぎ、敵を踏み台に頭を貫き、さらに先に進む。


 ナビは防御力が低い。

 巨大モンスターの強力な一撃でも受ければ危険だが、ここまで『かする』程度はあっても直撃は皆無だ。

 このまま、敵陣を突っ切って反対側に抜けられるんじゃないかと思い始めているくらいだった。


 そんな時、『本丸』の中間地点まで来た辺りで、巨大な蜘蛛の牛型モンスターの足元を通り過ぎると突然視界が開けた。


「……なんだ?」


 一瞬本当に反対側まで出てしまったのかと思ったが、すぐに違うと思い直す。

 何故なら、そこはモンスターのいない空白地帯が円形にできていたのだ。

 周囲のモンスターは全てが円の内側を向いていて、その攻撃範囲を考えると自由にナビが動き回れる範囲は半径30mほどだろうか。

 だが、その全てが空白というわけでもない。


 ナビの反対側に一体のモンスターがいた。

 その姿は『時計の街』を出るためのクエストで倒した〖スケアクロウ〗に似ている。

 だが、同じカカシでも装備が違う。

 帽子はライトがかぶっている古びたソフトハットではなく、テンガロンハット。

 肩から斜めに鎖を巻いていて、腰には縄を巻き、幾つか巾着袋を吊り下げている。

 そして左目に眼帯を付け、手には『ひびが入り壊れた時計』のマークが描かれた大きな旗の付いた長さ2m程の旗棒を持っている。武器としても使えそうだ。


 名前は〖ハグレカカシ〗。HPは三段。

 レベルは最初は表示されなかったが、すぐに『LV47』と表示された。現在のナビと同じレベルだ。

 ライトに以前聞いた情報からナビと同じレベルに調節されたのだと考えられる。


 ライトから言われていたことだ。

『クエストのネーミングから考えると「守護者」はカカシの類の可能性が高い。そいつを倒せば襲撃イベントを終わらせることができるかもしれない。だが、それは恐らく大量のモンスターに守られてる現時点では困難だろう。カカシはレベル差で倒すことはできないし、普通のでも戦えばかなり強いからそいつはより強いだろう。だから、見つけたら適当に戦って情報だけ取って来てくれ。絶対に無茶するな』


「つってたけど、タイマン張ってくれんなら願ったり叶ったりだ」


 周囲のモンスター達に襲ってくる気配はない。

 だが、戦わずに逃げようとすれば通してはくれないだろう。

 巨大モンスターは周囲を囲まれている分には相手にするのは楽だが、一列に並んで防衛ラインを作られると正面突破は難しい。


「ギギギ……」

「ああ、わかってる。始めようか」


 カカシは避けた口で(わら)った。

 ナビは好戦的な笑みを浮かべて(わら)った。


 カカシは旗を肩に担ぐように構え、ナビは腰だめに大鎌を振りかぶる。


 そして、二人は一気に距離を詰め、その武器をぶつけ合った。

 鎌の刃の根元に旗棒が噛まされ、互いに押し合う。


 ナビはその鎌から伝わってくる手応えからカカシの強さを感じ取る。

 強い。だが、パワーはナビの全力ほどじゃない。

 だが、注目すべきはそこではない。力の使い方が普通のモンスターなどよりずっと器用だ。

 一瞬でも気を抜けば鎌を受け流され、弾き飛ばされてしまう。


 ナビは一度鎌を退き、後退して仕切り直す。

 そして、今度は回転力を鎌の柄まで使う連続攻撃を仕掛ける。


「ががががががが!!」

「ギシャシャシャシャ!!」


 カカシは旗を振り乱してその全てを捌ききる。さらに、振り乱される旗が視界を封じ、さらにそれを利用して突きで反撃を入れてくる。

 ナビは直感的に突きを避けながら更なる攻撃を続ける。


 ナビは肌で感じ取る。このカカシは強い、一対一でも楽に倒せる相手などではない。

 だが、同時に喜びも感じる。

 互いに身を削るような激しい戦闘。しかも、赤兎やライトとの『手合せ』とは違う本気の殺し合い。

 カカシからは確かな殺意を感じる。まるで、〖ダイナミックレオ〗との戦いの時のような確かな意思を感じる。


 ナビは『殺人鬼』ではない。だが、本当の意味で生まれつきの『戦士』なのだ。

 戦いに喜びを感じ、戦いに没頭する。なにより、戦うために生まれてきたのだ。


「悪いなライト……こんな楽しいの途中で抜けるとか無理だわ」





 同刻。

 ライトはモンスター軍団の『本丸』の外側から、感知系スキルを複数同時に使用することで戦況を詳しく把握しようとしていた。


「ナビ……やっぱり止めに入らないとダメか。だが、この戦術パターン……なんか覚えがあるような……」


 ライトは敵の布陣に違和感を感じていた。

 ナビが中央部に到達するまでにかかった時間が予想よりかなり短い。ライトの予想では、ライトが先頭集団を十分に引き離して迂回して来るまでには中央部までの道のりの半分程度、そこでライトが後を追い中央部には二人で到達するつもりだった。


「オレが先頭を引き付けている間に布陣が変わった? しかも、ナビを陣営のより奥深くに導くように……まるでナビ一人を罠にかけるみたいに……」


 ライトは木に登って敵陣営を俯瞰しながらよく観察する。

 ナビの突入に対するモンスター達の迎撃パターンを分析する。今回の作戦の最大の目的は各種モンスターの戦闘パターンの見極めだ。イベントボスである〖ハグレカカシ〗の戦闘パターンが観察できるなら願ったり叶ったりなのだが、ライトは現状に奇妙な感覚を覚えていた。


 奇妙な感覚というより、よく知ったパターン……予定調和のような感覚……


 その時、壺の『蓋』が開き始めていることに……そして、ナビと〖ハグレカカシ〗の戦っている円が少しずつ壺に接近していることに気がついた。



『待ったは無しですよ。また次の対局でお会いしましょう』



「このパターン、まさか『飛角妃(ひかくきさき)』か!? ヤバい、ナビを引っ張り戻さないと」


 ライトは珍しく鬼気迫る気配を放ちながら木を飛び下り、ナビのもとへ走った。

《竹光》

 木で出来た偽物の刀。

 安値で軽いが、敵にダメージを与えることが出来ない。

 これで相手にダメージを与えるには人並みはずれた『演技力』が必要。


(スカイ)「はいこちら、たまに刀と間違えて買っていく人がいる竹光です~」

(イザナ)「あれ? 最初からそれを買い求める人は居ないんですか?」

(スカイ)「こんなクセの強い武器使うのはライトくらいよ。そのライトにしたって今じゃ武器作成で自作してるし」

(イザナ)「ライトさんらしいですね。」

(スカイ)「まあ、この世界銃刀法とかないし普通の人は普通に本物の剣買うよね」

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