56頁:人種差別はやめましょう
『細工スキル』
アイテムを加工するスキル。
低レベルなら装飾を付けたりする程度だが、レベルを上げると複数のアイテムを組み合わせてアルコールランプなどの便利なアイテムを作ることも出来る。
約三前。
『我が最大の親友へ
ねえ、ちょっと武器か兵器を売った相手のリスト見せてくれない? 相応の代金は払うから』
『我が永遠の親友へ
もろ顧客情報だし、中身はマフィアとかテロ組織ばっかりだよ?
こんな情報どうするつもりなの?』
『我が最大の親友へ
別に悪用するつもりはないよ。
ちょっと、役者が少ないから参加してもらおうかと思って』
『我が永遠の親友へ
役者って何?
革命でも起こす気?』
『我が最大の親友へ
革命なんてとんでもない。
ただちょっと、手強い相手がいるからね』
《現在 DBO》
「じゃ、私はライトと話して来るから、その子の相手はよろしくね、ジャックちゃん」
「え!?」
「あそぼ」
「スカイ助けて!」
「チャンバラしたいなら丁度いい近くに廃墟があるわよ」
「ちょっと誰か助けてー!! ライト!!」
「どっちも死なない程度にしとけよ」
「味方がいない!?」
殺人鬼に味方してくれる者はいなかった。
というより、ライトとマリー=ゴールドが席を外すのは前提条件だし、スカイには戦闘能力的に介入は難しいだろう。
ナビキのステータス的に人格が違っても戦闘能力は高いだろうし、何をするかわからない。
「じゃあ、二人でデートに行きましょうか『銀メダル』」
「おいおい、本来の目的忘れんなよ『金メダル』」
悲鳴を上げて廃墟へ逃げるジャックとそれを追いかける『ナビキの第三人格』を背に、二人は西へ歩き出した。
「さて、この辺で良いでしょうか」
「この辺で良いでしょうかじゃないよ……なんでフィールドのど真ん中? 街があんなに小っちゃく見えるんだけど」
マリー=ゴールドはライトを誘導して『時計の街』から西方向にフィールドを進み(モンスターは全てライト任せ)、見渡す限り周りにこれといったものがない岩の上に腰かけた。
「ここなら死角もないし、万が一にも盗聴の可能性はないでしょう? これからする話の内容を考えたらこのくらいが妥当です」
「つまり、スカイや彼女たち本人に聞かせたくないような詳しい話までしてくれるんだな」
ライトは腕を組んでマリー=ゴールドを睨む。
マリー=ゴールドはその眼を見ても怯むことなく、浅くため息をつく。
「先に言っておきますけど今回のことに関しては私はあんまり関与してませんよ? それ以前に、ナビキちゃんが二重人格になったことも厳密に言えば責任は私とライトくんで等しいはずです」
「どういうことだ?」
「あの子は本来、才能の適正的には音楽家がベストでした。それなのに、あなたが戦闘技術なんて無理に憶えさせようとしたから……」
「別々の方向に同時に引っ張ったから人格が裂けて半分になった……そう言いたいのか?」
「引っ張らなくても、心に『切れ目』が入っていて、そこに何らかの『切っ掛け』があっただけで、裂けてしまう場合もありますよ……あの子は、この世界に来て心が弱ってました。そして、体質的にストレスに極度に弱かった。さらに、本来の性格には合わない『戦闘』というストレス。たとえるなら、私とライトくんがナビキちゃんの破れかかった紙のように脆い心を両側から支えていた時に、紙の真ん中に大きな石が乗ったようなものです。どちらが悪いとは言いませんが、ライトくんには怒られる筋合いはありません。もちろん、ナビキちゃんが私を恨むなら、言うことはありませんが……」
マリー=ゴールドは言う。
責任逃れをする気はないと。
しかし、恨まれるなら本人に恨まれたいと。
今度は、ライトがため息をついた。
「この前、ボス攻略の前の交代の時に聞いたよ。ナビキとナビの両方に『もし、二重人格じゃない自分がいたら羨ましいか』ってな。驚いたことに答えは揃って『もう一人の自分のことが大好きだからむしろ二重人格には感謝してる』だったよ……オレが悪かった。あの子の人格の分離はマリーが意図してやったんじゃないかと疑ってた……師匠みたいに」
「……何か、苦い思い出でもあるんですか?」
「……ああ。オレ自身じゃないがな」
「話してもらっても?」
「簡単な話だよ。師匠に関わって変わってしまった知り合いがいる。それだけの話だ。……良いか悪いかは別にして、それが善意だとしても、人の心に無闇に干渉するのはよくないと思う」
それは『哲学的ゾンビ』を名乗る彼だからこその主張だと言えるかもしれない。
同じ失敗を誰かにしてほしくない。
壊したり、ずるをして作ったりせず、生まれてからずっと持ち続けている『自分』という人格を大事に自分で育ててほしいのだ。
「……『持たざる者こそ真の価値を知る』ですか。なるほど、確かに一理ありますね。」
「ま、これもオレの個人的な意見で説得力はないし、マリーの暗示やなんかの能力を全否定したいわけじゃない。人格を育てる以前に壊れたり、確実に他人の意見を聞いた方が良くなることなんていっぱいあるからな……だが、これだけは憶えててくれ。もし、マリーのせいで誰かが『別人』になってしまった時には……本気で怒るぞ?」
「肝に命じておきますよ」
そう言いながら、マリー=ゴールドはライトに隣に座るよう促す。ライトもマリー=ゴールドが聞き流していないのを確認して横に座る。
「じゃあ、そろそろ本題に入ろうか……『金メダル』、『殺人鬼』って一体何なんだ?」
「『殺人嗜好症』。殺傷行為に快楽を感じてやめられなくなる精神病…………………………だとスカイさんには伝えて置いてください。」
「……本当は違うよな。その病気は知ってたが、前ジャックと戦って明らかに違うとわかった。好き嫌いで説明できないレベルの執念だったし、中毒化してても四十人も殺した後に全く殺意が衰えないなんて可笑しすぎる。何かが根本的に違う」
ライトは確信を持って言う。
真っ向からジャックと戦ったライトはその精神状態をかなりの高精度で観察している。
明らかにただの病気とは何かが『違った』のだ。
「『予知できる突然変異』第七章、『殺人鬼なる新人種』。読んだことありますか?」
「悪いがあんまり紙の本はあまり読まない方だ。大抵ホログラムの映像付き資料を使ってる」
「紙の本も呼んでみた方が良いですよ? ゲームが終わったら読んでみてください」
「善処するよ。で、その章にはなんて書いてあったんだ?」
「『殺人鬼は殺人中毒者とは一線を画し、時には三桁以上の被害を出すこともある。』……ライトくんの言ったとおり、根本的に違うのです。精神構造も行動原理も……『人間』とは別の生き物。いや、こう言い換えても良いですね。殺人鬼とは、人類の亜種……人間という動物の天敵です」
「まるで映画の突然変異だな。新人類が前の人類を滅ぼして成り代わろうとするとかっていう……」
「いえ、どちらかと言えば妖怪やファンタジーですよ。彼らはよく化け物退治の昔話のモチーフとなっています。『先生』によるとこの国の山姥とかや人喰い鬼の話は大抵殺人鬼だそうです。」
実のところ、恐ろしげな伝説の由来が生身の人間だという話はよくあることだ。
だが、あるいはだからこそただの迷信より恐ろしい。
同じ生身の人間であるはずなのに、理解できないから恐ろしい。
近いからこそ、逆に恐ろしい。
「彼らは傾向としては人肉を食すことが多いですね。ほら、ジャックちゃんもよく隠れて食べてますし……本人は隠してるつもりなんでしょうけどね」
「食人趣向か……だが、本質は違う。喰うために殺すんじゃなく、殺すついでに喰ってるんだろ?」
食べるために殺すのではない。
殺して、死体が残っているから食べる。
手段と目的を履き違えてはならない。
「まあ、そこら辺は本人の主義や趣味の問題があって一概には言えませんが……一番の共通する特徴は『人間を自分と同種の生物と認識できない』ということです。『彼ら』にとっての殺人とは人間の認識する殺人とは違うんです」
「『人がゴミのようだ!!』とかって感じか?」
「映画で出てくるような『人間よりちょっと強いエイリアン』だと思ってください。隕石に乗ってきたエイリアンが人間を虐殺するシナリオは多いですけど……あれって結構理不尽だと思いませんか? ある日突然周りが異生物だらけになり、恐怖の目で見られる。相手は当然のように生存本能に従って殺意を向けてくる。そんな状況なら逃げ隠れしたくもなりますし、誰かに見つかったら殺したくもなりますよ」
「結構エイリアン側に寄った視点で映画見てるんだな……」
「少しレベルを下げて置き換えるなら殺人鬼を人間としたとき、人間はゾンビの群れみたいなもんです。あれはゾンビを殺すのが当然みたいな世界観ですが、良く考えたらあれ全部元人間ですよ? 悲しいことに世界は視方が変わればすぐに地獄に変わってしまいます。ジャックちゃんが宿を占拠して『安全地帯』を作ろうとしたことも頷ける話です。特に、三桁級の殺人鬼ともなると自分だけの『殺人工房』を持つのは当たり前ですし、『巣作り』に近い本能なのかもしれませんね。」
ジャックにとって、他の人間はゾンビのようなもの。だとすれば、殺すのは当たり前。
多少言葉が通じても、分かりあえるとは思えない。
そんなジャックにとってライトは『強いが怒らせなければ襲ってこないボスゾンビ』くらいだろうか。彼女も、必要とあらばライトも殺すだろう。
本気の彼女を止められるのは……そして理解出来るのはやはりマリー=ゴールドの方なのだろう。
「……マリーは殺人鬼について心理までよく把握してるな……ジャックより前に殺人鬼の知り合いでもいたのか?」
「クスクス、以前ちょっといろいろありまして、それについてはまた別の機会に……今の問題はナビキちゃんのことです。正直に言って、今回のような『後天的な殺人鬼』なんてケースはなかなかイレギュラーです。」
「てことは、普通は殺人鬼って生まれつきなのか? ジャックは殺したのはこの前が初めてだって言ってたが……」
「ほとんどの殺人鬼は突然変異で親からの遺伝じゃないですし、どんな殺人鬼でも初犯は初犯ですよ。そこら辺は『殺人鬼』の発現って『不死身』と似てるかもしれませんね」
「どういうことだ?」
「生まれつき死んでも蘇れる体質の人がいて、人間と全く見分けがつかなければ、一体いつからその人は不死身に『なる』んでしょうね、認識的に」
たとえば、一人の不死身の男がいる。
しかし、彼にはその自覚はなく、外からもわからない。普通に年を取り、普通に生きている。
そんな男がある日目覚めると、自分は棺桶に入れられていて、周囲には仰天する家族がいて……
「初めて死んだ時……か。つまり、ジャックは潜在的に殺人鬼の素質があったが、正当防衛とはいえ殺人を犯したことでそれが目覚めた。そういうことか?」
「概ねその通りです。一つ訂正させてもらうなら、殺人鬼は素質ではないので一度自覚したらもう人間としての生活は困難です。それこそ、『服を着る』という文化に目覚めた人類がもう裸で生活できないように」
「ジャック、わりとよく脱がされてるけどな……だが、それとナビキの『後天的』ってのはどう違うんだ? ジャックとナビキで何が違う?」
「ジャックちゃんは殺人鬼として『目覚めた』時、既に『人は人を殺すと罪悪感を抱く』という知識を常識として知っていて、だからこそ自分の異常に混乱してライトくんにもちょっと迷惑をかけてしまいました。というより、大抵の殺人鬼は彼女のように育つ中で刷り込まれた倫理観と自分の感覚の矛盾に苦しみ、自己の行動を正当化しようと快楽殺人者を演じます。むしろ、ありのままの殺人鬼としての自分を受け入れられる例はかなり少ない方ですよ」
快楽殺人者だから殺人鬼になるのではなく、殺人鬼だから快楽殺人者に演じる。自己暗示をかけて自分が狂っていると思い込む。
しかし、本当は違う。
人を殺そうとすること以外、メンタルは普通の人間とほぼ変わらない。
だからこそ倫理観と本能の間で困惑する。
『殺人』に関して罪悪感を感じることはないが、『罪悪感を感じないこと』に罪悪感を感じる。
「たとえるなら、田舎から都会に出て来た若者が自分のファッションセンスを場違いに感じて、どうしてそんなに値の張るのかわからない流行の服を買っている内にそれを格好良いと思うようになってしまうようなものです。誰もがライトくんみたいなオンリーワンファッションで堂々街中を歩けるわけじゃないんです」
「今さらっとオレをディスったな?」
「しかし、ナビキちゃんの第三人格にはその困惑の原因となる倫理観自体がない。もう立派に殺人が出来るほど成長した肉体を持ちながら、精神面では生まれたばかりの赤ん坊のような殺人鬼なのです!」
「重大発言を利用してスルーするな!! 何が悪いんだ!? この帽子か!? それともこの羽織りか!?」
「つまり彼女は下着で街を出歩くことも、さらにはライトくんのその『ウォーリーを探せ!』で十秒で発見されるような格好で出歩くことも平気で出来てしまうような状態なのです!」
「オレのファッションセンスは下着オンリーより下なのか!? てか、流石に十秒は無理だろう。あれカラフルな人たくさんいるし」
「ライトくんが街中に居ればメールでみんなに目撃情報を聞けば一瞬で居場所を特定できる自信がありますよ?」
「う……否定できない」
ライトはクエスト中毒者としての知名度があり、さらに殺人鬼の撃退、最前線への遠征(手柄と話題の大部分はほとんど最後に援軍に行ったスカイに持って行かれた)により『時計の街』ではちょっとした有名人である。確かに、街中で歩いていればわかるだろう。
あるいは、マリーはライトが注目を集めるのを警戒してフィールドの真ん中まで連れてきたのかもしれない。
「まあ、冗談はここらへんにして……あの子には一応一通りの知識はあります。言語も理解できるし、他人に言われれば服を着たりもできます。しかし、精神年齢的にはほとんど幼児……あるいは獣みたいなものですよ。あの子はたぶん人殺しが悪いことだともわからないし、逆に人間に対する危機感も薄いので殺人に関してもあまり積極的ではないでしょう。殺人鬼が殺人を犯すのは防衛本能に近いものですし。あくまで後天的ですが先天的に近い……いわゆ狼少年みたいなものです。」
「おい、それジャックが危ないんじゃないか? てか、ジャックとあの子のが今戦ってると思うんだが、それが殺し合いに発展してたらどうするんだ」
「大丈夫だと思いますよ? 殺人鬼同士は互いを同種の生物だと認識してますから、むしろ人間同士より絆は強いです。私はそれを利用して認識操作で襲われないようにしてますが」
「それであの子があんなに懐いてたのか……で、頭撫でたり髪で遊んだりしながらいろいろ調べてたんだろ? どうして殺人鬼の人格なんて出て来たかわかったか?」
そこで、ライトは突然ポケットから長い杖を取り出し、無造作に振り回す。
マリー=ゴールドは微動だせず、杖は彼女に迫り……ギリギリ当たらず、岩の後ろから襲ってこようとしたネズミ型モンスターを殴打して一撃でHPを消し飛ばした。
「あら、ありがとうございます。ライトくんは優しいですね」
「優しすぎるのも問題だと思うけどな……ぶっちゃけ、ナビキの殺人鬼化ってオレのせいだろ? 話題をそらすんじゃない」
「あらあら、人の好意をあまり無下にするものではありませんよ。まあ、そこまで言うならストレートに……まず第一に、ライトくんの最大の失敗はジャックちゃんとナビキちゃんを近づけすぎたことです。そして、私の最大の失敗はライトくんへの情報開示を怠ったこと……ミステリアスを気取るのは駄目ですね」
「ナビキの頭の中の特殊なチップのことは知ってる。それと関係あるのか?」
ナビキの脳内には昔事故で大きく欠損した部分の機能を補うための特殊なチップが埋め込まれている。しかし、その機能は完璧ではなく、特に支障が出るのは記憶についての機能だ。ナビキは強いストレスを受けて気を失うと最低でも数日分の記憶が消える。
しかし、それは二重人格となることで解消されたと思われていたのだが……
「恐らく、彼女はライトくんの『思考パターンの模倣』という行為をそのチップで再現しています。それによってジャックちゃんの殺人鬼としての思考構造をコピーしたんだと思われますね。その原因はジャックちゃんに襲われた時のストレスでしょう。」
『ストレス』。
それは、ナビキにとって最も忌避するべき物だ。
「彼女は二重人格になろうと、ストレスに弱い部分は変わっていません。ストレスに強くなっているように見えたのはナビキちゃんの最大のストレス源であった戦闘を、それをストレスに感じない『ナビ』という人格が担当することで問題を解決していたからストレスに強くなっているように見えたのです。しかし、戦闘とは違う殺人鬼の殺意はまた別問題。だから、その殺意に耐えるためにジャックちゃんの思考構造をコピーしたのです」
「ちょっと待てくれ。思考のコピーなんてそんな一朝一夕でできるようになるものじゃない。ましてや、根本的な構造の違う殺人鬼はより難しいだろ」
「……ナビキちゃんの脳内のチップでしょうね。このゲームでは、プレイヤーの精神状態がモニターされています。だから、そのチップで無意識にデータを転写してしまったのではないかと……」
「さらに待ってくれ。精神状態のモニターなんてどうしてわかるんだ?」
それはプレイヤーが知らされている情報の中に入っていない。確かに、このゲームの目的が何かの実験だと考えるならそのくらいされているだろうという推測は立つが、マリー=ゴールドは精神状態のモニターを断言した。
ライトが強い口調で問うと、マリー=ゴールドはあっさりと答えた。
「簡単です。私の称号『救世主』の取得条件は『チュートリアル終了時にもっとも精神が安定していたプレイヤー』でしたから。それ以降もモニターが継続していると見るのが妥当でしょう……まあ、ライトくんの場合は周りに合わせて驚いたふりをしただけで脳波測定でも驚いたことになってしまうでしょうし、場合によってはライトくんが『救世主』だったんでしょうね」
「そんなのガラじゃない。オレは人助けがしたいわけじゃなくて、人の夢に乗っかりたいだけだからな」
ライトの言葉を聞き、一瞬悲しそうな笑みを浮かべたマリー=ゴールドはライトの目を見つめて言った。
「予言します、近いうちにあなたにも自分の夢が見つかることでしょう」
二十分後、『時計の街』西の荒れ地の廃墟。
「……何この状況」
「さ、さあ?」
「ライト……ヘルプ……」
第二回殺人鬼対決はまたもナビキの第三人格の勝利であった。
……というか、ジャックが精神的にボロボロにされていた。
いつもは『黒ずきん』に変装するために戦闘では杖を使っていたのだが、今のジャックの手にあるのは赤い包丁……結構本気だったようだ。
しかし、その包丁を握る手を含めてジャックの全身は長い髪でぐるぐる巻きにされ、しかも抱き枕のように抱き締められてた。
抱きしめている当の本人はジャックの髪の毛を一房甘噛みしながら幸せそうに眠っている。確かに行動が幼児のようだ。
ジャックはスピードビルド、ナビキはパワービルド。ナビキの第三人格はさらに力が強いと言うし、この体勢に持ち込まれたらジャックはまず抜け出せないだろう。
殺人鬼を抱き枕にする殺人鬼……けっこうシュールな構図だ。
とりあえずは、ジャック救出はこの無邪気な生まれたての殺人鬼が起きるまで待って……
「あれ? なんで眠ったのに人格が変わらないんだ?」
同刻。
『金メダル』の少女は思い出す。
かつて彼女が救おうとして救えなかった青年を……
「『殺人鬼に詳しい』ですか……当然ですよ」
彼女はアメリカで一人の殺人鬼と出会った。
そして、彼の『それ』を『病気』だと誤認した。
殺さずには生きられない彼を救おうと……『治療』しようと、殺人鬼の記録を漁り、死力を尽くし、彼と共に暮らした。
人の心ならどうにでも出来ると思っていた彼女が、初めて迎えた苦難だった。
そして、彼女の人生において最大の失敗だった。
殺人鬼を人間に変えることなど出来なかった……猿に手話を教えても人間にはならないように、殺人鬼に命の尊さを植え付けても人間にはならなかった。
結果的に、彼は罪悪感に苦しみながらも殺すことをやめられず、最後には彼女の目の前で人を殺しながら殺された。
「叶うなら、あの子達に血に濡れていても明るい未来を……」
神にではなく、自分に誓う。
《連戦の帯》
看板の町でクエストによって入手できる帯。
最初は白帯だが、徒手での戦闘を続けると色が濃くなり、次第に黒帯に近付いていく。
色が濃いほど能力補正が強くなる。
(スカイ)「はい、今回はこちら~。アイコの付けてる帯と同じ物よ~」
(イザナ)「アイコさんのは薄い灰色でしたよね」
(スカイ)「使い込むほど強くなるアイテムだからね~。黒帯になるのはまだまだ先じゃないかな~」
(イザナ)「頑張って欲しいですね」
(スカイ)「そして売って欲しいわね~」
(イザナ)「騙し取るとかはやめてあげてくださいね……あの人、本当に騙されちゃいそうですから」




