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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第三章:チームワーク編

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52頁:もめ事は話し合いで解決しましょう

『園芸スキル』

 集約的に植物を育てるスキル。

 『農作スキル』のように大きな畑などで大量に植物を育てるより、植木鉢や花壇で育てるのが難しい植物を栽培するのが得意。

 短期間で種から薬草やハーブ、売ると金になる花などを増やせるため、趣味だけでなく生産的な使い方ができる。

 去年の今頃。

 行幸正記は天照御神(てんしょうみかん)に連れられてとあるゲームセンターにやってきた。友人を紹介するという話だったが、正記には一抹の不安があった。


 師匠ミカン)の紹介する友人が、普通の人間だとは予想できなかったからだ。


 そして、その予想は予想を上回って正解だった。


 そこにいたのは……

「あ、ミカ姉、知り合いって……ってえええ!! 将兄マサにい)!?」


「あ、ああ。まさか『あなた』と友が知り合いだったとはな……」

 一瞬で『彼』は三木将之になった。


「ゾンビくん、えっと紹介する前から知り合いだったみたいだし……ぶっちゃけ知ってて会わせたんだけど……この子は私の妹分の友ちゃん。将棋の対戦ゲームで知り合ったんだよ」


「ゾンビ?」


「この子のニックネームだよ。そして、実は私の彼氏!」


「えっ!?」


「嘘だよ、本当は舎弟……てゆうかパシり? 友ちゃんが好きな人を盗るわけないじゃん。ゾンビくん、実はこの子、キミのことが大好きなんだよ」

「わー!! ミカ姉変なこと言わないでください!!」


 友は本気で慌てているようにも見えたが、『将之』は特に動じない。

 小学一年生の女の子が懐いた知り合いの『おにいさん』を『大好き』なのは不自然なことではないだろう。『三木将之』はそんなところで性的な意味を無理に見出すような『人格』ではない。


「えっと勘違いしないでください将兄!! 将兄が好きって言うのはそういう意味じゃなくて、えっと、こ、駒として好きって意味です!! 飛車とか桂馬とかみたいに!!」


「そうだもんね~、友ちゃんのちっちゃな肉体(からだ)じゃ、『おしべとめしべ』もできないもんね~」


「師匠あんた小学生になに教えてんですか!? そして友も赤くなってんじゃない!!」


 完全に友は遊ばれていた。

 友はまるで思春期の少女のように赤面し、慌てふためいた。


 『彼』はその姿をどこか微笑ましく思った。

 どんなに天才だろうと、どんなに末恐ろしかろうと、今はただの女の子として生きてほしい。

 だから、『ライト』は心の底から思う。


 絶対に、デスゲームの中で『ここにあの子がいれば』などとは思わない。

 必要とあらば、自分がいくらでも偽物を演じると。





《現在 DBO》


 攻略六日目。

 今日はきたるボス戦に向けて壁役タンク)攻撃役ダメージディーラー)援護役サポーター)遠距離攻撃シューター)、そして取り巻きの相手をする遊撃隊の班分けをすることになったのだが……


 ガヤガヤ ガヤガヤ


「ちょっと待ってくれ!! 一度静まって!!」


 ガヤガヤ ガヤガヤ ガヤガヤ


 リーダーのシャークの声も気持ちも届かず、班分けは難航していた。


 危険な前衛が嫌だ、援護なんてがらじゃない、止めを刺せるチャンスがない後ろは嫌だ、遠距離攻撃はそこまで得意じゃない、取り巻きの相手は嫌だ、遊撃隊なんて仲間外れにされているみたいでなりたくない、危険な前衛なら取り分が多くなるのか、こいつと同じ班は嫌だ、あいつが前で自分が後ろなんて納得できない……


 皆が思い思いに自分の希望を主張し、班分けは一向に進まない……というより進むわけがなかった。元々がバラバラなプレイヤー達である上、さらにボス攻略後のドロップ品の取り分問題が加わり余計に話がややこしくなった。

 特に金は等配分で良いとしても、分けることのできないアイテム……特にボスを倒したときに止めを刺したプレイヤーにドロップすると思われるラストアタックボーナスの扱いについては議論が荒れている。売って金にして等配分するには戦力増強の面での価値が高すぎる。


 昨日は会議をうまく切り上げられたシャークだったが、今日はうまく行くという道理はなく、もう涙目でかわいそうな様相だ。


 班分け会議が始まってもう一時間くらい経っているが、一向に話が収まりそうな気配がない。しかも、今度は赤兎も(ちゃんと)出席して腕を組んで居眠りしている。昨日のように突飛なことをして場を動かしてくれる気はないらしい。


(リーダーなんてもっとカリスマのある奴がやるべきだろ……俺がギルドマスターやってたってのも、ただ単にそのゲームの仲間の中で一番レベルが高かったからってだけだぞ……)


 もう陣形なんて考えずボスに突撃でも良いかとヤケになりかけたとき、シャークの肩を叩く者がいた。


「指揮官がそんなんじゃ、勝てる戦も勝てないぞ」


 古臭い帽子に空色の羽織り。

 生産職代表代理……最も多くのスキルを持つ少年、ライト。


「俺が指揮官だって時点でおかしいんだよ。代わってくれよ」


 正直、戦闘職としてのプライドを傷つけるようなライトの活躍は攻略メンバーのストレスの原因になっているというふうに思う部分もあるのが、本人にそれを言ってもしょうがない。そこでせめてもの皮肉としてつい口走ってしまった言葉だったが、むしろその方がいい気がした。


 だが、返事はつれないものだった。

「生憎と、オレは集団行動は苦手なんだよ。だが、流石にこのまま決まらないのも困るし、指揮官様にプレゼントだ」


 ライトはシャークに一枚の紙を手渡す。

 そして、シャークの耳元に口を寄せ、囁く。


「それぞれのプレイヤーのビルド傾向と各役割の班分けの草案だ。これを承認してくれたら、後はこっちで全部やる。舞台だけ整えてくれ」


「……は? なんでこんなものおまえが!? てか、ほかのプレイヤーのビルドとかなんでこんな詳しく知ってんだよ!?」


 シャークは小さく驚きの声をあげる。名義上リーダーであるシャークもここまでそれぞれのプレイヤーのビルドを熟知していない。それに、班分けの他にもその班編成での戦い方の方針や連携パターンなどが記載されていてとても素人の立てた作戦とは思えない。


 ライトはシャークの驚きを楽しむように笑った。


「誰がこいつらの武器整備してたんだと思ってんだよ? 使う武器や装備で戦い方はだいたいわかる。それに、オレには強力なブイレンがついてんだ。戦術も悪くはないはずだ」


「確かに……この表通りのビルドならこの分担で良いだろうが……だが……プレイヤー全員の要望が満たせているわけではないだろ? 素直に従うかどうか……」


「全員の要望なんて満たせるか? それを従わせるのがリーダーなんだよ。そんなんだから威厳がないんだ」


「さすがに傷つくな、その言い方は」


「正論言われて傷つくなら、それは傷つく方が悪い。手本を見せてやる……『ユーハブ・ア・ロングナンバー』」


 その途端、ライトの声はシャークと同じものになった。そして、そこにいる全員に聞こえる大声で、シャークの肩越しに叫んだ。


「意見がまとまらないようだから役割分担はこっちで勝手に決めさせてもらった!! 読み上げるから聞いてくれ!!」

「!! ちょっと待ておまえ」

「攻撃役、リーダーマサムネ!! アイコ、赤兎、レーガン……」


 ライトはシャークの声をかき消す大声で班分けを読み上げていく。

 その反応は、やっと決まったかという反応、納得いかないという反応、希望通りで満足そうな反応、いきなりの決定に状況を読み切れていない反応、そして、全てをわかりきった反応と様々だった。


 総勢34人。


 攻撃班6人。

 主に剣や素手での近接タイプ。

 壁役班12人(二班)。

 盾剣士中心の防御重視型。

 援護班6人。

 回復魔法、支援、反支援の魔法と長柄武器の中距離タイプ。

 遠距離攻撃班5人。

 弓と遠距離魔法魔法の射撃型。

 遊撃隊5人。

 取り巻きを担当する単独戦タイプ。


 そして……

「従いそうにないプレイヤーが6人か……他は説得できそうだが、あそこらへんは話聞かなさそうだな……ってことで、頼むよアイコ。」


 ライトは『打ち合わせ通り』にアイコに合図をする。


 ライトが目星をつけたプレイヤー達が班分けに異を唱えようと一歩を踏み出そうとしたとき、事前に打ち合わせしていたアイコは既に動いていた。


 ドガシャン!!


 重い物体が地面に叩きつけられる音が響き渡り、その音源に注目が集まった。

 そこには地面に叩きつけられたらしい大きな袋と、それを踏みつけるアイコがいた。


「この班分けにどうしても納得できない奴はかかってこい!! 納得させてやる!!」






 金属音が響く。

 盾を構えた男が盾ごと押し潰された音だった。


 その光景を壁際に座りながら傍観していた赤兎は状況を冷静に分析する。いくら馬鹿だと自称しても、小規模な戦況の分析においては経験に裏打ちされた戦略眼がある。


「囲むと互いの武器が引っかかるから勝ち抜き戦にしたのは良かったが、単独での戦いは元々ソロのアイコの方が有利だな。それに、少し前までのアイコならともかく、今のアイコは格段に強くなってる。数レベルくらいのレベル差なら簡単にひっくり返せるようになった。そして……ライト、あの『武器』はやっぱりおまえが用意したのか?」


「ああ、元々アイコは格闘家タイプであんまり武器を使うのを好まなかったし、武器を使った戦い方に経験がなかったから武器選びには苦労したんだか……どうやらアイコとの相性はバッチリだったみたいだな。アイコ自身あれを気に入ったみたいだし」


「しかし……なんだよあの武器? サンドバックか?」


 アイコは、人一人くらい詰め込めそうな大きな袋を振り回して戦っていた。だが、振り回すと言ってもやたらめったらムチャクチャにというわけではなく、得意な『投げ技』で投げたそれを叩きつけるようにしている。

 しかも、中には重くて固い物体が詰まっているらしく、その一撃は盾を構えたプレイヤーを盾ごと押しつぶし、時には盾のように使って敵の攻撃を防いでいる。


「《ブラックジャック》だよ。医者の名前じゃねえぞ?」


 ブラックジャックとは、袋に砂や石を積めて作る即席の鈍器だ。その特徴は即席の材料で作れることと、使った後の処分が簡単だということ。戦闘目的で発明された武器ではないが、古来からよく犯罪や暗殺で使われる武器として知られる。


「まあ、あれは即席と言うよりオレがアイコにあわせて作った特注品だけどな。袋は内側に鉄線の網を張って補強してるし、中身は本来剣や盾に使う金属素材の鉱石だ。持ち手も技がかけやすいように工夫してあるし、そもそもサイズが従来のやつよりかなりでかい。まあ、サンドバックに見えてもしょうがないかもな、アイコも『サンドバックで戦うって面白そう』とか言ってたし」


 ちなみに、当然中身とサイズの関係上重さはかなりのものなので、それこそアイコのパワーあってこその武器だ。そして、重量の分鈍器として使ったときの威力も高く、直撃すれば巨大ハンマーやメイスを凌駕する。


「それにしても……ライトは加勢しなくて良いのか? ライトの考えた陣形なんだろ? 一応シャークにはさっき念押ししておいたから公式には認められたんだろうが……」


「アイコからの頼みだよ。自分も何かかませて欲しいってな。それに、言っちゃ悪いが、オレや赤兎がやるよりアイコにやらせた方が効果も大きい。『小娘』のアイコに負けたとあっては、さすがにもう口出し出来ないだろ」


「……策士だなライトは」


「知り合いにはもっとえげつないことを笑顔でやってくるのもいるけどな」


「スカイか?」


「いや、リアルの方での知り合いだよ………さて、オレもそろそろ戦うか」


 赤兎の隣に腰を下ろしていたライトが地面に手を突き立ち上がる。


「加勢はしないんじゃなかったのか?」


「加勢はしないよ。オレはオレの戦いをしてくる。赤兎はアイコがやられそうになったら助けに入れるように見ててやってくれ」


 そう言って、ライトはその場を後にした。

 その最後に、誰にも聞こえないような声援を残して。


「アイコ、赤兎にかっこいいところいっぱい見せてやれよ」






 一方、特に異論の出なかったプレイヤー達は各々思い思いの場所で配布された手描きのプリントの陣形を確認していた。ちなみに、公表はされていないがもちろん34枚ものプリントを用意したのは『筆記スキル』を使えるライトだ。


 そんな中、うつむいてため息をつくプレイヤーがいた。

 戸板のような巨大な二枚の盾をわきに置き、分厚い甲冑を着ている筋肉質な二十代の大男。

 彼のプレイヤーネームはアレックス。突然タンク班二つの内一つのリーダーを任された男だ。


「いきなり指名された……俺にできるのかな……」

 アレックスがため息をついていた理由は他でもないく。班分けのことだった。

 彼は前線で五人パーティーの前衛壁役をしているが、パーティーのリーダーというわけではなく、そのような経験もなかった。

 ぶっちゃけ自信がないのだ。


 確かに防御力には自信があるし、配属されるなら壁役だとは思っていたが……リーダーとして班を引っ張っていく自信は……


「アンタが壁役A班のリーダーのアレックスだな? しっかり防御しろよ」

「……え、俺?」


 顔を上げると、そこには巨大な骨の棍棒を持った生産職代表代理がいた。


「玉乗りスキル『ベストバランス』気功スキル『パワーブースト』荷運びスキル『リフティング』」


「な、なにを」

 前線での戦いの経験から反射的に盾を構える。

 棍棒を振りかぶったライトは笑みを浮かべた。


「メイススキル『メガインパクト』!!」


 盾と棍棒が激突する。

 大重量の衝突は激しく、安全エリアの地面に砂埃を起こさせる。

 だが、二者は……その場を、動かなかった。


「いきなり何すんだ……お前は」

「アンタがみんなを守る盾にふさわしいかどうか、見極めてやるんだよ」


 ライトは、もう一度棍棒を振りかぶる。

 そして、もう一度攻撃を加える直前、ライトは口を開く。


「相手がオレだろうとボスだろうと、アンタのやることは同じだろ。しっかり踏ん張って、押し返せ」


 その瞬間、アレックスの表情が変わる。

 ライトの纏う重量級の巨大モンスターのような気迫に目を覚まさせられる。

 フィールドでは、迷っている暇などないのだ。


「メイススキル『メガインパクト』!!」

「『シールドチャージ』!!」


 二度目の衝突は一度目とは違った。

 今度は、両者とも前へ……相手を後ろへ追いやろうと踏み出す。

 アレックスの盾はスキルの輝きを宿し、その巨体はまるでトラックのような力感を見せながら棍棒に正面からぶつかり合う。


 その結果……後ろに追いやられたのはライトだった。

「ギギギギギギギギ、グアッ!!」

 地面に足を引きずった跡をつけながら数メートル後退した後、最後の一押しで跳ね飛ばされた。


 跳ね飛ばされて仰向けに倒れたライトは、アレックスを見上げながら飛ばされそうになった帽子を押さえて笑う。

「ギシシ……やっぱり見立て通り、すごい固さだな。本番もその調子で頼むぜ」




 また別の場所で、騒いでいるプレイヤー達がいた。

「おい、本当にリーダーこの人でいいのか?」

「まあリーダーなんて名前だけなんだろ……どうせ年の順かなんかだ」

「どうせ援護役は適当に決めてんだろ」

 不満が出ている。


 その原因は、援護班のリーダーにあった。

「フェ、フェ、フェ。まあまあ、気軽にやりましょうや」

 長さ1mほどの杖に体重を任せた魔導師型のプレイヤー。だが、その装備は魔導師というより呪術師をイメージさせ、その容姿もその装備にぴったりだった。

 援護班のリーダーは、七十代を越えると思われる腰の曲がった老婆だった。


「お婆さん、アンタが援護班のリーダーのヤマメ婆さんか?」


 ただでさえ高齢で背の低い上に、腰が曲がっていてさらに小さく見えるヤマメ婆のかなり上の方から呼びかける声がした。

 援護班の六人の内、リーダーのヤマメ婆以外が一斉に上を向いた。


 そこには、壁に張り付くようにして援護班を見下ろしているライトがいた。

「長槍三人、魔法三人か……まあ、長柄系に関しては攻撃役と遊撃にもまわしてるから人数が少なくなるのは仕方ないとしても……ここは少ない人数でも効率よく働いて欲しいな」


「フェ、フェ、フェ。なら班長はもっと若いもんに任せたらどうかね」


 ヤマメ婆は上を向くことなく笑う。

 ヤマメ婆は前線でも異彩を放つプレイヤーだ。その高齢な点もそうだが、もっとも有名な点は別にある。

 彼女は、戦闘開始から終了までほとんどの場合一歩も『動かない』ことで知られているのだ。

 その実力は前線の一部では有名であり、固定パーティーを持たずに町で援護担当のいないパーティーに声をかけて増援として参加させてもらっているらしい。

 

「若けりゃいいってもんじゃないだろ。それに、やっぱりこの六人の中で一番強いのはアンタだと思うよ!!」


 そう言って、ライトは壁を蹴って空中に飛び出した。

 そして、着地と同時に糸を飛ばす。先に小石が結び付けられていて、小石が弧を描いて援護班を襲う。


「フェ、フェ。さっきアレ坊からメールが来たよ。味方の強さを確かめるのもいいけんど、ほどほどにしなさいな」


 小石は援護班の六人に当たると思われた。

 ヤマメ婆は全く動かなかったし、他のプレイヤー達も突然の攻撃に反応しきれていなかった。

 だが、小石も、小石に結び付けられた糸も六人には届かなかった。


 直前に地面から湧き出てきた骸骨たちによって攻撃は阻まれていた。

 ヤマメ婆の杖が輝いている。ヤマメ婆が召喚魔法で骸骨を呼び出したのだ。


「オレが来たときにはもう詠唱を始めてたっぽいな……てか、この世界の戦闘に慣れ過ぎだろ。メールも使いこなしてるし……コンピューターお婆ちゃんならぬ魔法お婆ちゃんか?」


 攻撃に反応して襲い掛かってきた骸骨から逃げ出すライトであった。





 また、集団からポツリと離れた場所で座りながら、無言でプリントを眺めるプレイヤーがいた。

 深緑の外套を着込み顔までほとんど隠したプレイヤー。その背に弓と矢筒を背負っていることから弓兵なのはわかるが、他の情報はほとんどわからない。体系は中肉中背で、背も成人男性の平均くらい。

 周りには他のプレイヤーはいない。というより、彼に近寄ろうとしない。

 近づきにくい雰囲気を放っているのだ。


「遠距離攻撃班リーダー、闇雲無闇(やみくもむやみ)だな。なんだか、弓矢で戦うとは思えない名前だが……遠距離攻撃のソロって珍しいよな。守ってくれる仲間がいない状態での狙撃って結構神経削るだろ?」


 そんな闇雲無闇に近づくライト。

 無闇は首を少しだけ動かしてライトを見上げる。


「…………」


「今回は前衛と遊撃が守るから安心して攻撃をしてほしい。アンタは……まあ、実力には問題なさそうだな。だから、マントの下で袖箭(ちょうせん)構えるのをやめてくれ。そこまで警戒心が強いとわかれば十分だから」


「…………」


 ライトが両手を上げて降参の意を示すと、無闇はマントの隙間から長さ一尺ほどの筒を出して手の上でもてあそぶ。

 それは袖箭と呼ばれる中国の暗器だ。バネの力で矢を飛ばすのだが、小ささに反して射程が大きく、威力も高い。そして、ものによっては連発も可能であり、メインとしては頼りないが接近された時の護身用としては十分に強力な武器だ。


「班の仲間との意思疎通は……まあ、無理に喋らなくてもいい。簡単なハンドサインでも標的を定めるくらいはできるだろう。あと……そういうロールプレイングも嫌いじゃない。無口で孤高なスナイパーって感じ……だが、観測手(スポッター)が必要になったら言ってくれよ」


 そう言い、ライトは背中を向けて去って行く。

 目的は達したというように。

 だがその時、ライトの目の前に一つのウインドウが表示される。


 それは、闇雲無闇からのフレンド申請だった。

 無言ではあったが、返事は速攻だった。


「あ、あれ……闇雲無闇さん? もしかして孤高とかじゃなくて、ただの恥ずかしがり?」

「……………………」



 こうして、ライトの『裏面接』には見事班のリーダー全員が合格した。

 




 同刻。

「まったくもう、本編では久しぶりの出番ですね」

「こらこら、へんな発言しないのイザナちゃん。それより、道はこっちでいいんだよね?」


 スカイは、道案内NPCのイザナに本来の役割を果たすように促す。

 イザナは地図を広げ、道順を確認する。


「はい、このまましばらく真っ直ぐ進んでください。あ、あと近くに休めそうな場所がありますけどどうしますか?」


「そうね……時間もあるし、ここらで休憩しましょうか」


 スカイはメニューを開き、ライトにメールを送る。


『作戦は予定通りに進行。明日のボス戦、幸運を祈るわ』

《回復ポーション》

 回復アイテムの代表。

 一定値のHPを回復するが、回復速度や回復量はポーションの種類で違う。

 安くて効力の強い『漢方薬』という分類もあるが、大抵味がひどい。


(スカイ)「はいこちら、デスゲームの必需品回復アイテムです~」

(イザナ)「スカイさんの店ってこんなのも扱ってるんですね」

(スカイ)「NPCショップよりちょっと安いから、売れ行きも好調よ」

(イザナ)「どうして安いんですか?」

(スカイ)「モンスターからのドロップをNPCショップの安い買い取り額より少しだけ高く大量に買ってるし、お抱えの調合屋さんがいるからね~」

(イザナ)「噂では弱みを握って不当に安い値段で仕入れてるとか……」

(スカイ)「さあ、どうでしょうね~」

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