47頁:握手はリラックスして行いましょう
スキル紹介を始めてみます。
『気功スキル』
『気』の力で戦うスキル。
汎用性が高く攻防のバランスに優れる。
しかし、スキルの成長が遅く、また武器を装備していると効果が半減するので、純格闘型でないとスキル育成の効率は良くない。
「そういえば、ライトはスカイとつき合ってんのか?」
ダンジョン西側の狩りの途中、赤兎はライトに問いかけてきた。何の気なしに、なんとなくと言った感じで。
大して、ライトも特に感慨なく答える。
「いや? オレはそんなふうにスカイを見てないし、スカイも恋愛対象だなんて思ってないだろ。最近特にこき使われてるし……まあ、オレたちは一番強い繋がりが借金だからな。それにしても、いきなりどうしたんだ?」
「いや……ナビキといいナビといい、噂の黒ずきんといいマリーといい、ライトってモテるなと思ってな」
「周りに女子が多いのは認めるが、ハーレムを作ろうとしているわけじゃないぞ。第一、時計の街は戦えないプレイヤーが多いから女子が多いだけで、オレだけがハーレムってわけじゃない。オレはそんな下心で人を見てないしな」
「はは、朴念仁ってやつか」
「おまえが言うな鈍感剣士」
「ん? 感知系スキルならいくつか持ってるし、むしろ感度は高い方だと思ってんだけど?」
「そういう事じゃないよこの馬鹿……泥沼に気をつけろよマジで」
「え、トラップか!? どこだ!?」
「もう……勝手にやってろ」
赤兎自身は知らないが、ライトは知っていた。
赤兎には『ファンクラブ』があり、多くの女性プレイヤーが彼に思いを寄せていることを。
《現在 DBO》
この大規模なダンジョンには、所々に水の湧く泉や井戸、屋根のある安全エリア、生活に使えるアイテムが揃った廃れた家屋らしき建物などがあり、それらを見つけられるとかなり精神的に楽に休憩できる。
ライトは、そんな場所の一つ、家主が逃げ出したらしいボロ小屋にアイコを運び込んだ。
アイコは、膝を抱えて部屋の隅に座っている。そして、ライトは取りあえずお詫びにとあり合わせの材料でデザートを作っているところだ。
「オレだって悪いとは思ってるよ? 女の子の顔面にグーパンチは流石にやり過ぎだった。だが、それはアイコの強さを評価したからであってな……」
「………………」
「……いや、無言はやめてくれ。女の子マジ泣きさせるとか洒落にならない」
気まずい空気の中、アイコはポツリと呟いた。
「……………泣いて……ない」
声が震えていた。
結構マジ泣きだ。
「アイコは本当に強かったからな、オレも本気出さざるを得なかったんだ。それに、あれは殺人鬼を撃退したときにも使ったやつだったし……」
「…………」
「徒手空拳に自信があったのはわかるが、得意科目で負けたからってそこまで落ち込むなよ……ほら、これ食うか?」
ライトは出来たばかりのデザート……カットフルーツの盛り合わせを差し出した。材料はダンジョンの所々に生えた木から集めたもので、見た目からしてただ果物をカットしただけだったが、盛り付けは工夫が凝らされていて売り物のようだった。
オマケに爪楊枝まで刺さっている。
流石にそこまで用意されたものを無碍にできなかったのか、アイコは爪楊枝をゆっくりと指で摘まんで、カットフルーツを口に運び……
「!! 何これ!? 甘い、美味しい!!」
さっきまでの落ち込み方が嘘のように、勢いよく食べ始めた。それを見てライトは苦笑する。
「隠し味は《マイライシロップ》だよ。プレイヤーメイドだけど、スカイの店で売ってるから気に入ったら今度買うと良い」
どうやらアイコは結構単純な性格だったらしい。フルーツを食べている顔はほころんでいた。
そして、フルーツの大部分を食べ終え、自分の振る舞いの単純さに気がついたらしく少々赤面する。
「ありがと……おいしかった。今更だけど、殴ったことは怒ってない。勝負の中での攻撃だし、勝負しかけたのはあたしだし……ただ、拳法で負けたのが悔しかっただけ」
「悪いな、ろくに武器を使う暇も無かったからな」
「手を抜いたわけじゃないの?」
「まさか、手を抜くどころか足まで使うことになるとは思わなかったよ。さすが前線でソロやってるだけあるなと思った」
それを聞き、アイコの表情は少し楽になったように見えた。
「はは、まさか生産職がここまで強いなんてね」
「言っておくが、オレは生産職でも戦闘職でもない。というより、どっちでもあってどっちでもない。じゃなきゃ、こんなレベルの高いダンジョンには来ないよ……まあ、スカイだったら儲け話があればくるだろうが……」
「スカイ……あの攻略本の人?」
「うん。大空商社の店長……いや、社長ことスカイだよ。なんか社長って響きの方が好きらしいからな……」
「そっか、あんたは時計の街の人だもんね……攻略本読んだ?」
「ああ、今まで出たのは全部読んだ」
今のところ、攻略本は三巻まででている。そして、実のところその情報集めをしているのはライトであり、『読んだ』どころか『書いた』と言っても嘘にならないくらいの立ち位置なのだが、世間一般にはそれは知られていない。
「……やっぱり、技でも知識でもかなわないのか…あたしじゃこんな美味しいものも作れないし……はあぁ」
アイコはまたも俯き、ため息をついた。
それを見たライトは、首を傾げる。
アイコがライトを見る目が差別するものではなく、羨ましがる目のように思われたのだ。
『何』を羨ましがってるかはよくわからないが……
「そういえば、勝った方が何でも一つ命令できるんだったか?」
ビクッ
アイコの目が見開かれる。自分でつけた条件を忘れていたらしい……というより、負けたときのことを考えていなかったらしい。
「えっと……あんまりムチャなのはなしって事にしていい?」
「…………アイコ、オレに何を命令したかったのか、教えてくれるか? それから決める」
「えっと……」
アイコの目が泳いでいる。あまり話したくないらしい。
ライトはそんなアイコの様子を見て、表情を変え、優しく囁く。
「アイコ、知ってるか? 裁判には『黙秘権』ってのがあるんだ。これを宣言すれば、自分に不利な情報は言わなくて良くなる。なんなら、『黙秘権』を宣言してもいいんだぞ?」
「じゃあ……黙秘で……」
「よし、命令権の使用を宣言する。黙秘せず、何を命令したかったのか正直に話せ」
「なっ!?」
アイコは、完全にライトの手玉に取られていた。
数分後。
「赤兎とのコンビを代わって欲しい? それを命令するために決闘を申し込んできたのか?」
「うん」
アイコの命令とは『ライトの代わりに自分が赤兎とコンビを組むこと』だった。
どうやら赤兎とライトがコンビで中ボスを撃破したという話を人伝で聞き、ならばライトより自分が強いことを示せば赤兎とコンビになれると考えていたらしい。
「そんなこと、オレか赤兎に頼めば良いだろ……てか、最終的にコンビとして認めるかどうかは赤兎なんだし、赤兎に直接言えよ。なんなら今から呼んでくるからここで待ってろ」
「うわぁぁぁぁあああ!! ストップストップ!! いくら何でもいきなり……」
その反応を見て、ライトは何かに思い至ったような表情をして、ニヤリと笑う。
「なるほど……アイコ、さては赤兎に惚れてるな?」
アイコが固まった。
まるで石にでもなってしまったかのように、微動だせずに固まった。
「アイツが女子にモテるとは聞いてたが……なるほど、それなら合点がいく。チームプレイをしている時より、オレとコンビプレイの時の方がコンビを組むのもやりやすいし」
アイコは返事をしなかったが、その表情は言葉よりも雄弁だった。もともと褐色だった肌色がさらに紅潮し、もうトマトのようになっている。
「そういえば、アイコはナビキが抜けるって決まった直後にダンジョン攻略に加わったらしいな……もしかして、赤兎を追っかけてこのダンジョンに来たのか? ナビキがいないタイミングを狙って」
「だ、だってあの鎌女、いつも赤兎と一緒だし、赤兎さんに近づけるとしたら今しか……あ」
語るに落ちた。
赤兎は前線では割合的に少ない女性プレイヤー達からの人気が高く、競争率も高い。
なんでも、聖王国の飛び地の『円盤の街』でのイベントで、闘技場の中で『回復なし、装備品だけで無限に出現する敵をどれだけ倒し続けられるか』という挑戦をし、その剣技だけを頼りに数多の敵を斬り倒す姿が女性プレイヤー達を魅了したらしい。
だが、このダンジョンはトップクラスでなければ危険で入ってこれないし、トップクラスだとしても、初めて体験するボス戦の難易度はわからないので警戒して参加していないプレイヤーが多い。
そんな中、アイコは赤兎に接触するチャンスだけを理由に危険なダンジョンに乗り込んできたのだ。
「えっと……赤兎のファンってことか?」
「そんなんじゃない!! ただ……前一度、ダンジョンで罠にかかった時に助けてもらったから……命の恩人で……その時は名前も言わずに去っていったけど、イベントで見かけて……それからずっと気になって……」
どうやら運命的な出会いをしていたようだ。
アイコはいつしか命の恩人としての感謝の気持ちだけでなく、別の感情を抱いている自分に気付いたらしい。
「要約すると、アイコは赤兎が異性として好きなんだな。アイコ・ラブ・赤兎なんだな?」
「ぶっ!! そんなストレートにまとめる普通!?」
「好きでもないただの恩人を追っかけてこんなダンジョンの奥底まで来るかよ。てか、オレは心が読める能力があるから本人も気付いてることくらいストレートに言うよ。ようはあれだろ? このボスダンジョン攻略の間に赤兎と仲良くなりたいんだろ?」
「う、うん。でも……どうしたらいいのか……」
「オレがプロデュースしてやるよ、その恋路」
「……え?」
アイコが目を丸くする。
「前々から赤兎は鈍感だしいつか泥沼になるんじゃないかと心配してたんだよ。友達として、戦えば強いあいつが女から背中刺されて死ぬ未来とか許容できないし、早いとこ誰かとくっついた方がいいと思ってたんだ……正妻ポジションってやつ」
「え、ちょっ、何の話?」
アイコは訳の分からない展開に目を白黒させている。『笑われるかもしれない』くらいは思っていたかもしれないが、協力を申し出られるとは考えていなかったらしい。
だが、ライトは笑みをスカイのようなギラギラとしたものに変え、アイコに顔を寄せて囁くように言う。
「取引しないか? ボス攻略までの間、赤兎との距離を縮めるのに協力する。その代わり、前線で手に入るクエストやイベントの情報を今現在知ってる情報と以後知る情報、全部教えてくれ」
「な、何言ってるの!?」
「よく考えて見ろ、オレは今現在赤兎と即席コンビなんだぞ?
オレが紹介すれば同じパーティーになれるし、このダンジョン攻略の間に親密になればボスを倒した後はオレ抜き、間に誰も挟まず二人きりだ……オレはナビキにも『ツテ』がある。ダンジョン攻略を簡単に降りるあたり、ナビキは赤兎にそこまで執着はないみたいだからオレがちょっと手を回せば邪魔はしないよ。ゆっくり、じっくり、二人で関係を進めていくんだ」
『二人』。それは、悪魔の囁きのように甘美な言葉だった。
「……それに、オレももらった情報を独占するつもりはない。プレイヤー全体に益になるように扱うつもりだ……アイコは赤兎と幸せになれて、プレイヤー全体も幸せになる。良いことずくめじゃないか? 今はただ、首を縦に振ればいい。無理強いはしないが、ここで一歩先んじられなけゃ、今回のボスを倒したあとには『次』があるかはわからないぞ?」
そして、今度は天使のような……マリーがするような優しい笑みを浮かべ、優しく語りかける。
「大丈夫、オレがついてる。オレも一緒に頑張るから、アイコも頑張ろう? 一人じゃ出来なくても、二人ならできるよ」
マリーとスカイ……天使と悪魔の交渉術を前に、アイコは首を横に振ることなど出来なかった。
一時間後。
赤兎が狩りから戻ってくると、ライトが紅い道着を着た少女と待っていた。
「ん? ライト、そいつは? 確かソロの……」
「ああ、こいつはアイコ。ソロで頑張ってたが、このダンジョンは流石にソロだと危ないからパーティーに誘ったんだ。事後承諾になって悪いが仲間に加えて良いか?」
「別にかまわないぞ。よろしくな、アイコ」
赤兎は友好の印にと握手をもとめる手を差し伸べた。
アイコは、緊張しながらもその手を両手でしっかりと握り……
「よ、よろしくお願いします!!」
ライトには『ゴギゴギッ』という、過度のパワーで手の骨が握りつぶされたかのような音を聞いた気がした……が、アイコは気付いていないようなのでライトは見て見ぬふりをしておいた。
こうして、『ボスダンジョン攻略』と並行して行われる『赤兎攻略作戦』が幕を開けた。
《マイライシロップ》
木の実や樹液を混ぜ合わせて作られた甘いシロップ。
果物に合うあっさりとした甘さが人気。
(スカイ)「今回はこちら、我が商社の売れっ子料理人コンビが作った甘味料です」
(イザナ)「これ、普通のお砂糖を使うのとどう違うんですか?」
(スカイ)「今まではNPCからクエストでもらうか買うしかなかったけど、これならプレイヤーメイドで増産可能」
(イザナ)「画期的ですねー。でも、増産可能って言ってもやっぱり材料は集めないとですねー」
(スカイ)「大丈夫、果物栽培も始める気だから阿、そうだ。今度ライトに果物の成る木を引っこ抜いてきてもらおうかな~」
(イザナ)「ライトさん、ボス戦終わってもお休み無さそうですね」




