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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第一章:セットアップ編
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3頁:武器は早めに手に入れましょう

第三話投稿します。

あと、流石にこのペースじゃ遅いかもしれないので、週二回投稿できるかどうか検討中です。

「『残り物には福がある』って言うけど、あれって順序が逆じゃない?」

 八月中旬。文化祭での発表での役決めが決まった後、二人きりの部室でミカンは唐突にそういった。


 当時、行幸正記は理由を聞くまでその真意は全くわからなかった。ただ後輩を困らせて楽しんでいるのかとも思った。


「嘘って言うなら分かるけど、逆って言うのは良く分からないですね」


 すると、彼女は当然のように言った。平然と、まるで『なんで空は青いのか』と問われたかのように、奇をてらった様子もなく。


「だって、普通に確率論的に考えたら、最初にくじを引いても最後に引いても当たりの全く確率は同じはずよ? 後の方が数が少なくなってもそれ以前に当たりを他人に引かれる可能性が高くなるだけなんだから」

「あー……そう言えばそうですね」


「だけど、くじ引きじゃなくてバーゲンとかで考えたら納得できそうじゃない?」


「諺にえらく現代的なたとえを出さないでほしいです。バーゲンて……」


「まあ何でもいいわ。要するに、早い者勝ちの状況で品物にそんなに差が無ければ成立するって事」


 早い者勝ちなら残ってるのは誰も選ばなかったものばかりになるはず。だが、彼女は自信満々に言った。


「だって、本当に運のない人は商品自体もう残ってないから。商品を買えるって事自体すごい『福』だと思わない?」








≪現在 DBO≫

 行幸正記が今までVRMMOをしなかったのには、ちゃんとした理由がある。


 行幸正記は集団行動が苦手だ。


 別に、友達がいないわけではないし、孤高を気取っているのでもない。

 むしろ、常日頃から他の人と仲良くしようと心掛けているし、実際友達はたくさんいる。


 だが、一緒に行動するなら話は別だ。


 二人でのペア行動くらいなら全然大丈夫だ。


 だが、五、六人ともなると行動に支障がでる。


 だから正記は学校などで集団行動をせざるを得なくなったとき、友達の一人にひっついて行動することで何とかしていた。


 しかし、今回は違った。


 チュートリアルのあとパニックが伝染し、全体が『とりあえず武器を手に入れよう』という流れになった。


 誰かがマップで武器屋を見つけると、まず一部の比較的冷静なプレイヤー達がコソコソと武器屋に向かい始めた。


 次に、その周りのプレイヤーがそれに気がついて追いかけた。


 そして、あとの精神的に余裕を失ったプレイヤー達が取り残されるのを恐れて雪崩を打って武器屋へ押しかけた。



 その結果……


「なんでだ……オレ、なんか悪いことしたか?」


《イージーソード》 1000b

《イージーランス》 1000b

《イージーダガー》 1000b

《イージーボウ》 1000b

《イージーメイス》 1000b


 ライトは『初心者用武器』の棚を穴があくほど見つめるが、それは買うものを選ぶために悩んでいるのではない。


 棚には値札だけが乗っていて、商品らしきものはない。

 全て売り切れていた。


「いらっしゃいませ~」


 誰かがライトに声をかけてきた。

 大学生くらいの女の人だが、店のロゴの入ったエプロンをしているので『店員さん』という役割を持つNPCだと思われた。


「すいませ~ん、初心者用の武器は売り切れなんです~。予備の武器なら『シンプルシリーズ』がオススメですよ~」


「予備以前にメインがないです」


「あれ? じゃあ紛失したんですか~? それなら最初の武器と同系統の武器を……」


「同系統以前に武器を買うのが初めてなんです」


「あら~、そうですか~。では、ゆっくりとお選びください」


 『店員さん』はライトから目を離すと椅子に座って武器を磨き始めた。ライトが来る前から武器磨きをしていたらしく、椅子の近くの棚には綺麗に磨かれた武器が整頓されている。


 よく見ると『店員さん』は特徴的な髪をしている。

 足下まで届くポニーテールは癖毛なのかボリュームがあって、ポニーというよりも妖狐の尻尾のようだ。

 そして、何よりも目を引くのはその髪の色だ。


 銀と呼ぶにはくすんでいる。

 黒と呼ぶには白過ぎる。白と呼ぶには黒すぎる。

 ライトはその髪の色から火山灰を連想した。


『特徴的な容姿をしたNPCは特別なイベントに関わっている確率が高い』

 というミカンの話を思い出して、ライトが話しかけてみようかと思い始めたとき、『店員さん』が突然何かに気がついたかのようにライトを見て棚に手を沿えながら歩み寄ってきた。


「ねえ、ほんとにまだ買ってなかったの?」


「……はい」


「もうゲーム始まってから5時間は経ってるのに?」


 そう、実は今このとき、ゲーム開始から既に5時間32分が経過している。


 一部のプレイヤーはもうすでに武器入手どころか戦闘チュートリアルまで済まして、勇敢に次の町を目指している段階だ。


「ねえ、今までなにしてたの?」


 ライトは『店員さん』から目を逸らしてボソボソと答えた。

「NPCの店員さんには関係ない事です」


 相手がNPCでも自分から失敗の詳細を明かしたくはない。


 だが、『店員さん』は目をそらしたライトの耳元に息がかかりそうなほど唇を近づけて、少し機嫌の悪そうな声で囁いた。


「私、プレイヤーなんですけど」


「……え?」


 ライトは『店員さん』を見つめて観察した。


 今ではプレイヤーの容姿はリアルと同じになっているはずであり、その特徴的な髪はリアルでそうそう見かける物ではないので簡単にはプレイヤーだとは納得できない。


 しかし、近くでよく見るとNPCらしからぬ部分がいくつかある。


 まず、先程はエプロンだけに注目していたが、よく見るとその下の服はライトの着ているのと同じ初期装備のセーターだ。

 色は違うがデザインは間違いようがなく一致する。


 そして、その袖口や襟から見える手や首は細く、弱々しく、触れば折れてしまいそうに見えた。

 基本的に『標準的な人間』をモデルにデザインされたNPCなら、『不治の病で衰弱した令嬢』という設定でもなければこんなデザインにならないような気もする。


 そしてなにより、NPCに間違えられて不機嫌になっている。

 この表情は作り物じゃないと確信できる。割と本気で不機嫌なようだ。


「失礼しました」

 ライトは頭を下げた。


「それと……」


「なに?」


「エプロン超似合ってます」







 時は少し遡り、チュートリアル終了直後


 ライトは周りより比較的冷静に状況を整理していた。

「これは『デスゲーム』っていう状況だ……仮にそうでないとしたら助けを待てばいい、だけどデスゲームならクリアしなければ帰れない」


 ライトの脳裏には一瞬『一番弟子』という言葉が浮かんだが、ライトは相手の特徴を何も知らないので思考から排除する。


「確か、今まで読んだ『デスゲーム』に関する小説は34種類……そのうちこの状況と似た出だしは27種類。その内、街が完全に安全だった物は……0種類だな」


 大抵の場合、デスゲームを支配するゲームマスター、通称GMは長期の停滞を望まない。

 現に、先程のGMも街の安全が永続的ではないと宣言しているし、あからさまに賞金を掲げている。


「問題は時間制限だな。あの時計の次の鐘ってことは後55分くらい……」


 安全を確保するにも時間制限があるなら優先順序を決めて、効率的に動く必要がある。


 そこで、時計台を見上げたライトは気がついた。


 時計が全く進んでいない。


「なんでだ?」


 先程のチュートリアルでのプレイヤーの反応からすると、この時計全てのプレイヤーから真正面に見えるように設定されていると思われる。

 角度を変えて見てもそれで時間を読み違えることはないはずだ。


「あれ、時間のカウントダウンじゃないのか!?」


 じゃあ何のカウントなのかと考えると、先程のチュートリアルの中での一言を思い出した。


「そうか、あれは……」


 この直後、ライトは人の波に呑まれた。




 そして、武器屋の前まで来ると入りきらないプレイヤーが行列すら作らず、我先にと店に群がって塊になった。


 本当なら、ここでライトは気がついた事実を他のプレイヤーにも伝えて『焦らなくてもいい』とパニックを収拾するべきだったかもしれない。


 だが、ライトにはそんなカリスマ性はなかった。


 行幸正記は集団行動が苦手だ。

 だが、それは孤高を気取っているのでも、対人スキルが低いわけでも、集団のペースについて行けないわけでもない。


 行幸正記は『みんながこうするから自分も』という考え方ができない。


 だから、このときも……


「店は入れないし、街の下見でもしておこう」


 一刻も早く武器を手に入れたい、それ以外の行動には頭が回らない、他に遅れるのは嫌だ、みんな武器を買おうとしてるのに他事するのはいけない気がする、危険があるかもしれないのに不確定な場所に最初に踏み入りたくはない……


 そんな集団心理を無視したライトは、他の雑貨店などを廻ってアイテムの値段の相場などを調べた。


 そして、街角で重そうな荷物を背負ったお婆さんを見つけた。






「で、それからどうしたの? さすがに相場を調べてるくらいでは5時間かからないでしょ?」


 『店員さん』はそこまでのいきさつを聞いて質問を挟んで来た。

 現在、ライトは棚に寄りかかっている『店員さん』に対してこれまでの経緯を説明している。彼女をNPCと間違えたことへの謝罪と武器を買っていなかった言い訳のためだ。


「お婆さんが凄く困ってる顔をしてたから荷物を家まで運んであげて……家で少し話を聞かせてもらってからこの店に来た」


「……? 時系列がおかしくない? そのクエストを受けて、そのあと他にもいくつかクエストを受けたっていうならわかるんだけど……」


「……お年寄りってさ、昔話になると話やたら長くなるよね」


「あ~」


 お婆さんの家は町の雰囲気にあまり合わない日本家屋のような趣があった。

 荷物を運び入れたライトがそろそろ武器屋に向かおうと退室しようとすると……

「ちょっとお待ちなさいな、せっかくだからお茶でも飲んでいきなさいな」

 と、引き止められ、いつしかお婆さんの昔話を聞く展開になっていた。


「そんなの、『用事があるから』ってクエスト中断しちゃえばいいじゃない」


「だって……話の節目に『これ持ってお行き』ってアイテムくれるし、立とうとすると凄く寂しそうな目するから……旦那さんに先立たれてから息子夫婦も引っ越しちゃってて一人暮らしで話し相手もいないって言うし……」


「いや、そういう設定なだけだからね!!」

 突っ込まれた。思いのほかキレのいい突込みだった。


「まあ、そのままお婆さんの話が続いて、丁度お婆さんの家に遊びに来たお孫さんにここまで送ってもらった。お婆さんの家の周りの道複雑で戻り方よくわからなかったし」


 ライトが話し終えると『店員さん』は額に手をついて、疲れたようにため息をつく。

 絶対NPCのする反応ではない。


「『お婆さんの長話を聞く』って内容のクエストだったわけね。それにしても、よくもまあそんな時間ばっかかかって、大した報酬もなさそうなクエストを初っ端から引き当てられたわね……それにしても、そのクエストの最中に街が安全エリアじゃなくなるとか考えなかったの?」


「それは店員さんも同じだと思う。なんでこんなところで『店員さん』なんてやってるんだ?」


 『店員さん』は、目を少し細めた。

 そして、軽い口調で返した。


「……交換条件、あなたが気づいた時計の秘密を教えてくれたら、私もここで『店員さん』やってる理由を教えてあげるわ~」


 『店員さん』がにこやかに笑った。

 だが、ライトにはその笑顔が『営業スマイル』にしか見えなかった。心の底からお互いの利益を考えている笑顔にはどうしても見えない。


「簡単なことだ。さっきGMはプレイヤーが何人いると言ってたか覚えてるか?」


「7200人じゃなかったっけ? それが関係あるの?」


「じゃあ、短針が時計を一周するのにかかる時間は何時間?」

「12時間」


「長針が一周するのにかかる時間は何分?」

「60分。常識でしょ?」


「じゃあ、『短針』が時計を一周するのにかかる時間は『何分』?」

「720分……あ」


「一人6秒だと考えれば一分に10人。12時間で7200人。もうわかった?」


「ええ……あの時計は『死者の数』に比例して進むのね。だから、安全エリアが無効になるのは1時間後なんかじゃなくて『600人目が死んだ瞬間』となるのかしら」


「あの『3分』はたぶん予定道理にログインしなかった人の数だろうな。さすがに初回限定アイテムがあるといっても、事故に遭ったり病気になったりでログインできなかった人はいるはずだし」


 だからライトは、『さすがに1日目で600人は死なない』と考えて動いた。

 もちろん、その発見を公表してプレイヤー全員を納得させれば、全員が纏まって攻略の方針を立てられたかもしれない。


「でも、このゲームの難易度は未知数なんだし……もしかしたら予想より早く600人に届いちゃうかもしれないんじゃない?」


「そこは心理の問題だろ。オレがGMならたかが数時間で12分の1が死ぬような高難易度なゲームは作らないし、仮に難易度が高くても外に出た人が全員死んでるような状態なら生きてる人は外に出ない。てか、店員さんだって知ってたんだろ? じゃなきゃ、こんなゆっくりしていられないし」


 すると、『店員さん』はまた機嫌が少し悪くなったように見えた。


「そんな鎌かけるようなこと言われても困るんだけど。てゆうか~、その『店員さん』ってやめてくれない? 私はただのバイトだよ~」


「バイト?」


「バイト系クエスト、エプロン付けて適当に客にアイテム紹介してればいいクエストよ。これが私が『店員さん』っぽいことやってる理由。あと、私は時計台の秘密には気がつかなかったわ~、ただ単に白兵戦とかの才能がないから、いざとなったら他の人に守ってもらえばいいかなって思っただけ」


 『店員さん』はウインドウを操作して、ライトにも見えるようにプロフィール画面を表示した。


 画面には所属(空欄)、性別(♀)、職業(無職)、そして名前が書いてあった。


「私はスカイ、あなたの名前も教えてくれる?」









 同刻。


 円形の街の外周部分、ここはモンスターは出ないがHPは減る言わば『中立地帯』。ここでほとんどのプレイヤーが最初のクエストを楽にクリアして、今ではフィールドに出るなり街に戻るなりしている。


 そもそも、安全性を求めるなら街の中の方が完全だし、アイテムや金に関してはフィールドに出た方がいい。だから、ここに留まっているプレイヤーはほんの少数。巨大な『街』を囲む『中立地帯』の広さを考えると、人口密度は極端に低く、パーティーを組んでいる者でもなければお互いの顔さえ見えない距離にいる。(『HPは減るがモンスターはいない』という状況は『プレイヤーに襲われる危険はある』と言い換えることもできるからかもしれない)


 そんな中、周りにプレイヤーがいないことを心底嘆く者がいた。


「はあ、はあ、はあ」


 息が荒い。仮想世界では本当は必要ない行為だが、緊張状態のせいで現実世界での生理的行動が無意識に再現されてしまう。


(なんでだよ、俺はただ地道に経験値稼ぎしてただけだぞ)


 手が震える、膝が嗤う。手に握る初心者用の剣が頼りない。

 冷静にならなければと思うが、それは叶わない。


「っ!!」


 『敵』からの攻撃が精神を落ち着かせる時間を許さない。


(こんなの……絶対、最初の方に出てくる奴じゃない!! このままじゃ死……)


 そこで初めて実感する。自分が今やっているのはただのVRMMOではない。死に直結するデスゲームなのだと身を持って体感する。


(いやだ、いやだいやだいやだいやだ!! もう嫌だ!! こんな戦闘無理に決まってる!! 俺は人並みにVRゲームができるだけの素人だぞ!? こんなところで命を懸ける必要なんて欠片もない!!)


 ここまではどこか悪い冗談だと思っていた。デスゲームだとしても、内容はいつも遊んでいるVRゲームと大差ない。全体の流れに合わせて死なない程度に適当にプレイしてみようと思っただけだ。


 だが、死を直感した瞬間に全てが変わる。

 作り物のはずのモンスターは実際に命を脅かす怪物に変貌し、無機質なHPバーが命の灯に変わる。


 残り一割を切り真っ赤に染まった自分の『命』を視界の端に確認した瞬間、彼は武器をかなぐり捨て、敵に背を向けて街に向かって走り出した。……闘争をやめ、逃走に走った。


(もう、やめだ、ゲーム攻略なんて、他人に任せて、俺は、安全な……)


 そこまでだった。

 彼が最後に見たのは空っぽになったHPバー。


 最後に脳裏に浮かんだのは『初見殺し』という、ゲームをする者なら誰もが知っているようなありふれた言葉だった。

もはや伏線で終わるのが定番になりつつありますね。

回想で始まり、伏線で終わる……なんか引きを意識した感じになって申し訳ございません。

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