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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第二章:戦闘編

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43頁:戦闘の後処理はちゃんとしましょう

「正気とは思えないわよライト。そんな作戦、うまくいく確率は相当に低い……というかライトの死亡率と比較すると無視していいくらいの確率よ?」


 『大空商社』で、ライトの『作戦』を聞かされたスカイは半分諦めたように作戦の中止を呼びかける。


「まあ、スカイの視点から見てもそうだろうな。オレ自身、プレイヤーキルでのレベル上昇とか、冷静な平常時との行動パターンの違いとか、不安要素が多すぎる。戦術、アイテム、スキル全て使っても勝ち目は五分五分以下だろうな。普段から一緒に戦ってたが、戦闘面においてジャックに勝てるプレイヤーなんてほぼいないだろう。特に多対一の戦闘ではもはや無双の域だ。本当ならナビか赤兎レベルを援軍に欲しいくらいだが、その時間もないし、作戦上一対一にならないと意味がない。この街の生半可なプレイヤーじゃあ足手まといだ」


「……わかったわよ。そっちは私が対処しとくから……死ぬ覚悟はあるの?」


「覚悟なんて改めてするようなものじゃない。オレを生贄にする覚悟はあるか?」


「あるわよ。ライトが惨殺されても泣かない自信があるわ」


 ライトの決意は変わらない。

 というより、もとから決意など必要ないほど決まりきった行動だ。


「……この作戦が成功したら、失敗するより後悔するかもしれないわよ」


「まあ、大迷惑なのはわかってる。スカイにも、他のプレイヤー達にも……つまるところはオレの自己満足……いや、満足すらできてないな。『まだまし』くらいだ……だが、ここまで展開が悪い形で進行したこの話の結末としては、これくらいの救いは残しておいてもいいだろうと思う。そうじゃないと、これはただの憂鬱なバッドエンドだ」


 それを聞き、スカイは小さくため息をついた後、開き直ったように言った。


「……まあ、私は私が得をするならそれでいいわ。しっかりお金はもらうわよ」


 スカイは、ジャックのように一緒に戦うことはできない。今回のようにライトが遠征なんてすればただのお留守番だ。

 だが、スカイはそれに不満を洩らすことはない。

 スカイは、ライトが帰って来るのを待ち、ライトができないことをしている。

 無力な自分を恥じたりしない。そんな感情は一銭の価値もないし、その必要もない。


「しっかり生きて帰って来なさい。借金を返すまでは死なれると大赤字なんだから」


「わかってるよ。オレが死んだらスカイに報告できないだろ?」


「そうね、後処理は任せといて。その代り、面白い土産話(よわみ)を聞かせてもらうわ」








《ライト復活から30分後 DBO》


 ライトとようやく落ち着いたジャックは、階段の下から数段を椅子代わりにして横に並んで座った。互いにHPとEPをある程度回復した状態になっているが、もう戦闘するつもりはない。


 しばらく静かな時間が過ぎた後、ジャックは問いかけた。


「どうして復活したのか、聞かないの?」


 ライトは、自分が何故死んでないのか……死んだのに、復活したのか自分からは聞かなかった。


 それは、もうほとんどわかっているからであったし、ジャックの口から自分で話してもらいたい事でもあったからだ。


「大体予想はついてる。だが、ジャックから言ってほしい。ジャックが、どうやって、オレを『助けた』のかを教えてほしい。ジャックの主観で教えてほしい。客観的に見れば『自分で壊して自分で直した』だけになっちゃうだろ?」


 それを聞くと、ジャックは少し気まずそうな顔をする。だが、重苦しくも、その口を開く。


「ライトを殺したすぐ後、ライトが技で間違ってもボクに致命傷を与えないようにしてたのに気がついた……後悔した……ライトもきっと、心の底ではボクを殺そうと……心の底から殺そうとしてると思ってたから……そこら辺の人達みたいに」


 ジャックの言う『そこら辺』の人達とは、死体になって転がっているプレイヤー達だろう。


 ジャックの持つ『殺人鬼』の称号は街中でも殺人を犯すことのできる『HP保護無効化』という能力がついている。これは、街の中を安全だと信じていたプレイヤー達を震撼させる恐ろしい能力だ。だがしかし、この能力はジャック本人からはデメリットが多すぎる。常時発動のこの能力により、ジャック自身のHP保護は常に無効化されている。


 つまり、ジャックからしたら、他の全てのプレイヤーが殺人鬼化してしまったのと同じなのだ。そして、実際にジャックの能力を恐れたプレイヤーはやられる前にやろうとして襲って来る。


 まるで、人里に降りてしまった熊のような扱いだ。あるいは、昔話の鬼だろうか。


「それに、思い出してみるとライトは嫌な感じがあんまりしなかった」


「『嫌な感じ』?」


「『殺気』……って言うのかな、襲ってくる人はすごく感じるけど、逃げ出そうとする人はあんまり感じない……でも、やっぱり危ないから、近づいてくる人とか、変なことしてる人は皆斬った」


 ジジッ


 ジャックは大した感慨も無いように、無関係な人間まで殺したことを自白した。

 それをライトは責めなかった。



「ライトの攻撃は全然その感じがなかったから、すごく戦いにくかったよ……でも、もともと殺す気なんて欠片もなかったんだね。むしろ、間違っても殺さないように戦ってくれてたんだね。ライトは『無害』だった……世界で一番『安全』なのはライトの傍だって、殺してから気がついた。それで……治した」


「『医療スキル』……『蘇生措置』か」


 ジャックが上げていた『医療スキル』。

 HPの回復に関して言えば、市販の薬や回復魔法に見劣りする。だが、それらを凌ぐ利点もあるのだ。


 それは、低い可能性だが、かなりの初期段階から『蘇生措置』ができると言うことだ。


 死亡直後に限られ、死因や死体の状態にも寄るが、HPを全損したプレイヤーが現実で実際に死亡する前には『仮死状態』というものがあり、その間に処置が間に合えば死亡状態から復活できる可能性が残されている。


 それこそ、首を切断されたり『ハートスティーラー』のような対象を蘇生不可能にする技なら話は別だが、運が良ければ奇跡を起こせるのだ。


 ジャックは頬を少々赤く染めた。

「心臓マッサージと……じ、人工呼吸で……治した」


「いや、別に言いたくないことは無理に言わなくてもいいんだが……えっと、治療だからノーカウントでいいからな?」


「いや、別にいい。それくらいで一々動揺する医者なんていないよ……それに、ライトは結構美味しかったし……」


「ん? なんだ?」


「なんでもない……でも、成功して良かった。『絞殺』だったのが良かったのかもしれないけど」


 それを聞き、ライトは転がっている大量の死体……その腕を見た。

 どれもこれも、腕自体を欠損していなければ黒い布切れが巻かれている。


 ライトは、静かに問いかけた。

「蘇生はスキルのレベルに合わせて確率が上がるはず……ジャックの『医療スキル』のレベルは今いくつだ?」


 ジャックは一瞬黙った後、小さな声で答えた。


「……レベル256」


 そのレベルは、現段階のスキルのレベルとしては常識はずれの高さだった。

 それを聞き、ライトは小さく笑う。


「ジャック、あんまり悪人のふりするなよ。良いことしようとして失敗したのを話すのは恥ずかしいかもしれないが、ちゃんと話してほしい」


「…………本当に、お見通しなんだね。普通に見たら、猟奇殺人にしか見えないのに」


 転がる内臓、縛り付けられて四肢を切断された死体、何十もの死体が転がっている。


 だが、ライトはそれらを見て言う。

「ジャックはすごいよ。なにせ、オレだけじゃない、殺したプレイヤー全てを『治そう』としていたんだからな」


 よくよく見れば、死体の切断された四肢には『止血』のためのありあわせのアイテムが巻かれ、内臓は傷つかないように丁寧に取り出されたものだとわかる。


 おそらく、戦闘中にもかかわらずジャックは『患者てき)』の傷を止血し、戦闘が終わった後に間に合うよう応急措置をし、内臓が傷ついたプレイヤーに別のプレイヤーの内臓アイテムを移植しようとした。


 しかし、その試みはほぼ全て失敗に終わった。


「すごいよ。縫合の痕はよく見ないと傷があったことすらわからないんだから……でも、最初の60そこらのレベルのスキルじゃ蘇生……特に無数の斬撃での『惨殺死体』なんて蘇生できるわけもなかった……あの現場の黒い布を見て、ジャックがどんなに『頑張って』、あの現場を作ったのか解ったよ」


「まさか……あの死体を調べたの? あんな状態の死体を?」


「ああ……言っただろ? 『目をそらしてなんかいない』って……だからこそ、『マーダーズ・バースデー』を受けきれたんだ。まさか、『あそこまで』強い技だとは思ってなかったんだろ?」


 ライトは、『車輪の町』で二人分の死体を調べた。他のプレイヤーが触れようともしなかった死体を、念入りに調べた。


 そして、魔導師のような男は心臓を抜かれて最初から蘇生不可能だったが、盾剣士は全身を、それも倒れる間もないほどの『連撃』で前後から切り裂かれ、過度に殺されていて、尚且つ『蘇生措置』の痕があると気がついた。


「これは想像だが、仲間が殺されて錯乱した奴が襲ってきて、その時に目の前に咄嗟に表示された『新技』の名前を読み上げたんじゃないか? そして、『うっかり』殺してしまったプレイヤーを治そうと、先に死んだほうを『使った』。そうだろ?」


 ジジジッ


「……どうしてそこまでわかったの? ボクが死体でスキル上げのために『遊んだ』だけかもしれないでしょ?」


「あの黒い布切れ……応急処置の優先順位を決めるやつだろ? たぶん、そのジャックのバンダナもそれを意識して何だろうが……黒は『手遅れ』、赤は『危険だが回復の可能性あり』だろ? そんな『遊び』のためにわかりにくい証拠を残していく殺人鬼はいないよ。メッセージなら『Death』とでも書いてある」


 そう言い、ライトは手首の赤い布切れを指す。

 『医療スキル』に限っては、他のスキルにないレベル上げの裏技がある。それは『死体の解剖』。外から表面的に身体を知るのではなく、中まで切り開いて全てを見た方が、医療技術は格段に進歩する。


 それこそ、死体を『用意』できる殺人鬼でもないと不可能な方法だろう。


「……矛盾してるよね。自分で殺しといて治そうとするなんて……じゃあ、動機はなんなのかな?」


「本人がそれを言うなよ。てか、どうしてオレを殺したのかもよくわからないんだよ、それだけは……なにがあったんだ?」


 ジジッ ジジジッ


「……確かめたかったから。ライトを殺せるのか、殺したら、否定できるかもしれなかったから……でもダメだった」


 ジジジジ ジジッジッジジジジジ


 ジャックの周囲の空間に、ノイズが走った。

 ライトは、それを見て不意に既視感を感じる。そう、あれは〖ダイナミックレオ〗との戦いで…………


「ジャック、様子が変だぞ」


 しかし、ジャックの耳には届かない。


「悪い人だったからかと思った、数が多ければ良いのかとも思った、弱そうな人ならとも思った、逃げる人を背中から斬ればとも思った、女の人なら、助けを乞う人なら、罵倒してる人なら、呪いみたいに怨んできそうな人なら……でも、全部ダメだった。拷問の真似事みたいなこともしてみたけど、それでもダメだった……最後に、ライトを殺しても……ダメだった」


「しっかりしてくれ!! ジャック!!」



 ジジジジッジジッジジジジジッジジッジジジ




「人を殺したのに、何も感じない。罪悪感もないし快感もない。なのに、人を見たら殺し方ばっかり考えちゃう……ボク、壊れちゃった」


 ノイズがひどくなる。

 ジャックの姿が霞む。

 空間が歪む。


「ボク、おかしくなっちゃったよ。人を殺して、ライトを殺しても、まるで罪悪感が湧かなかった。ライトに殺意がなかったって解ったとき、ボクはやっと気がついたんだよ……ボクは、人に戻る最後のチャンスを自分で殺したんだって、ボクを救おうとした人を殺したんだって、無駄な否定材料なんて探さずに認めれば良かったんだって……ボクが、人を殺す鬼だって……殺人鬼なんだってさ」



 ジジジジジジジッジジジッジジジッジジッジジッジジジジジジジッジジッジッジッジジジッジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジジ


「正気に戻れ!! 戻ってこい!!」


 ライトは、これと似た現象を知っている。

 ナビキから別人格の『ナビ』が生まれたときだ。

 このデスゲームはかなり高性能な機材を使っているらしく、他に似たような事例はほとんどなかった。しかし、ナビキの周りの空間で起きたノイズは見間違いではなかった。


 そこで、ライトとスカイは仮説を立てた。

 そのノイズは、『自我が崩壊する前兆』なのではないかという仮説だ。


 このゲームでは、プレイヤー全てにリアルと寸分違わぬ容姿を持ったアバターが当てはめられている。そして、どうやってそんなアバターが作られたかといえば、プレイヤー間の定説では『プレイヤーの記憶やイメージが基になっている』とされている。


 スカイの脚には『自分以外誰も知らないはずの傷跡』があったそうなので、まず間違いないとライトは考えている。


 ならば、そのイメージを保存している脳自体が正常に働かなくなる瞬間、プレイヤーの精神がそれこそ『自己』を保てなくなるほどの負荷を受けたとき、それがノイズとして表れるのではないかという仮説だ。


「落ち着け、大丈夫だ、オレは生きてる。ジャックが蘇生してくれなかったら、オレは生きていないんだ、ジャックは命の恩人だ。だから落ち着いてくれ」


 触れようとするが、ノイズに触れると弾かれ、ジャックには届かない。まるで、そこの空間が進入禁止になっているようだ。


 ナビキは記憶を『消す』事に長けていた。精神が崩壊しかねないストレスからもその精神を守れる術があった。

 だが、ジャックにはそんな能力はない。

 このままでは……


「あの時、ちゃんと『私』の話を聞いとけば良かった……頭の中の天使と悪魔の戦いで言うなら、ボクは悪魔の方だよ……いや、鬼だよ。今だって、ライトをもう一度殺そうと思ってる自分がいて……気のせいだと思いたいけど……無理みたい」


 ジャックはノイズを纏いながらライトの顔を見る。



 ノイズでぼやけたジャックのアバター。その額に、小さな二本の『角』が、生えかかっているように見えた。



「ごめんなさい。もうボクのことは忘れて……ボクは二度とライトには近づかないから、ライトも、殺人鬼ボク)と遭わないように気をつけてね?」



 その眼には、隠しきれない殺気と、涙が溢れていた。




「『助けて、ボクは怖いんだ!! 死にたくないんだ、本当は殺すのも嫌なんだよ!! 助けてよ、ボクを助けてよ……殺人鬼になっちゃったボクを助けてよ……いつか殺しちゃうかもしれないけど、味方でいてほしいよ』」


 それは、ジャックが自分自身で聞くのと同じ、自分自身の声だった。

 それがなぜか、ライトの口から聞こえてくる。ライト自身は帽子で口以外を隠しているので表情は見えないが、その口調からは悲痛なものを感じた。


「……え?」


 ノイズが弱まる。



「『本当は、みんなと笑って、攻略にも参加して、最期まで笑って生きていたい……新しい町や夕日を見たいんだ……でも、ボクは人殺しだから、人と一緒には生きられない。でも、しょうがないでしょ!! ボクだって殺人鬼なだけで、他は普通の女の子だよ!? 青春とか、友達とか、やり残したこといっぱいあるのに、こんな所で終わりたくないよ……助けてよ、ライト……こんなところで見捨てられたら、寂しいよ……』」


 ノイズが収まる。

 角は半透明になり、消えかけている。


「『本当は、ライトが来るのを待ってたんだよ? ボクにはどうしたらいいかわからなかったけど、ライトならどうにかしてくれると思ったから……でも、迷惑になるんじゃないかと思ったし、嫌われたんじゃないかと思うと怖くって……言い出せなかったんだよ……ごめん、ライト。ボク、本当はライトのこと……』」


「うわああああああ!! 止めて、勝手にボクの声で変なこと言わないで!!」


 ジャックの顔が真っ赤になる。

 角は……消えた。


「どうだ? 落ち着いたか? 落ち着かないようなら、小学校の卒業作文くらいは再現してやるが……」


「止めて!! もう殺す!! もう一回殺して今度は全部食べて蘇生不可能にする!!」


「ギシャシャ、じゃあ第三ラウンド始めるか? てか、今度は倒したら捕まえないとさすがにスカイに怒られるよな……あ、あとなんか罰ゲームとかつけるか? オレが負けたら補食プレイだとして、オレが勝ったら何しよう?」


「え、わかってるの? 殺すって言ってるんだけど、罰ゲーム扱い? 補食プレイ?」


「よし、ならオレが勝ったら猫耳ペットプレイでもするか。いや、鬼の角の方がいいか? まあ安心してくれ、三食昼寝と首輪付き、檻も用意して本格的にやろう」


「何そのハードなプレイ!? なんか命と天秤にかけてもハード過ぎて退くレベルなんだけど!?」


 ジャックはライトから若干距離をとる。

 だが、ライトはわりと真剣な顔でジャックを見つめる。


「オレは本気だぞ。そうなったら気の済むまで絶対に檻から出さないし、誰にも渡さない。もちろん、檻の中では不自由させない。望む物はできる限り用意するし、誰かを殺したくなったらオレが相手する。まあ、別の方面で相手が欲しくなったら……オレで我慢してくれ」


「『別の方面』って何!? 何そのヤンデレ!? 何そのもはやペットプレイとも呼べない監禁プレイ!?」


 ジャックは本気で焦り始めた。

 次に負けたら、なんか別の意味で人間を辞めることになりそうだ。

 しかも、ライトの目が結構本気っぽいのが怖い。


「ライトってそんな事言うタイプだっけ!? あ、まさか殺人鬼混じってそんな風になっちゃったの!? 飼い殺し!?」


 ライトは他人の行動パターンや思考パターンを模倣する事ができる。先ほどのジャックの真似もその応用だろう。


 まさか、自分にはそんな側面が隠されているのかと不安になり始める。


 すると、ライトは帽子を深くかぶり、笑う。


「実はな、『組合』の方で犯罪者を取り締まる『指導室』ってのを作る予定があったんだ。その犯罪者が激減したんだから、多少先延ばしになるかも知れないが、檻一つくらいなら用意できるよ……準備してたからな」


「ペ…ペットプレイを?」


「いや、それはジャック専用サービスだ」


「いらないよそんなサービス!!」


「……この街、刑務所とか無いからな。下手に逮捕だけしても、勝手に罪を裁くとか言い出す奴が出てくるかもしれないから……まあ、ジャックがその前に全部やっちゃったわけだから、その分ジャックをかわいがろうと思って」


 ジャックはその言葉で気がつく。

 ライトの『ハート・イン・ハンド』や、秘匿していた戦闘法は犯罪者鎮圧を想定していたのだ。

 ライトは、ジャックを犯罪者として絶対に殺さず『捕まえる』と言っているのだ。


「だが、それはオレが勝ったらの話だ……どうだ、檻の中も案外快適かもしれないぞ? 安全だし、誰も殺せない。殺さなくていい」


 ライトの提案は少しだけ魅力的に聞こえた。その方法なら、ゲーム終了まで延命できる可能性は高い。

 だが、ジャックは少し悩んだ後、はっきりと答えた。


「やだ。ボクは逃げるよ、ライトを殺すのは難しそうだし、これから何百人も殺すかもしれないけど、もっと自由に生きたい……勝手かもしれないけど、人も無駄に殺さないように、今度こそ自分と向き合うよ」



 お姫様は、茨を引き連れたまま城の外へ出るのを決めた。彼女と茨は、切り離せない物だったが、彼女は自分を護ってくれる茨と共に生きることを決めた。



 それを聞いたライトは、その答えを最初からわかっていたように答えた。


「ああ、殺しを辞めたくなったらいつでも来い。そうでなくても、いつでも頼れ。オレはいつもジャックの……茨愛姫の味方だ」









「で、最後に決別の演技をして、ジャックを逃がしたわけね~。全く、とんだ茶番よ」


 事件翌日の早朝、ライトはスカイの店で事後報告をしていた。記録に残るとまずいので直接話しに行ったのだ。


 まだ早朝で客は居らず、店の扉は閉まっていて盗聴防止の細工がされているので内密な話にはこの店は打ってつけだ。


「ジャックが本気でもう一度来たら、技を見せ尽くしたオレは勝てなかったよ。まあ、スカイの協力がなかったら逃がすことすら出来なかったんだけど」


 ライトは店先に置かれた『手配書』を手に取る。

 そこに描かれているのは顔を隠す鬼の面、そして、目撃者の話から纏めた情報。


「身長175~180、武器はナイフ、肩幅は広くてやや長髪、体格的に十代から二十代の男と推定。服装は黒のジャケットに黒の手袋、そして鬼の面。まさに殺人鬼って感じの情報だ」


 それは、ライトが変装させて作り上げた殺人鬼という偶像。上げ底靴や金属製の胸当て、ウィッグなどで体格を変えたのだ。


「あ、そうだ。はい、今回の請求書。ちゃんと払ってよね」


 ライトは、スカイから送られてきたメールを確認し、苦笑いする。


「わかってるよ。じゃあ、ボス攻略のための回復アイテムでも集めてくるから、ボス戦が終わったら前線の情報も買ってくれよ?」


「まいどあり~」



 スカイはライトの後ろ姿を見ながら昨日の事を思い出す。



『情報操作? まあ、当然するつもりだったけど……ライトとジャックが一緒にクエストしてた情報を消せばいいんでしょ? 都合良くジャックは顔隠してたし、簡単だと思うけど』


『まあ、場合によってはそうかもな。だが、もしジャックをオレが「わざと逃がした」時は、「ジャック」と「黒ずきん」の関係性を隠してくれ。素顔も、同一人物だという事実も、あの子が「黒ずきん」としてゲームをプレイできるように隠してほしいんだ』


『正気? 殺人鬼を匿うつもりなの? そんなの、共犯者になるようなもんじゃない』


『万が一だよ。オレの推測が正しければ、ジャックは正体が知れてしまえば安心できる場所なんてなくなってしまう。だから、せめて「黒ずきん」でいる間だけは安心して、普通のプレイヤーでいて欲しいんだ』


『ホントに正気? バレたら私もライトも……』


『その時は「殺人鬼の共犯者にエリア内で殺すと脅迫された」って言ってくれればいい。スカイが戦えないのは皆知ってるから、うまくやれば被害者のままでいられる。むしろ、もう隠しきるのが無理そうになったら先に明かしてくれれば、スカイこそが勇気ある内通者だよ。』


『まさか、自分を売れっていうの? ……まあいいわ……でも、忘れないで。これはライトが口止めを要求してるだけで、私に益はない。当然、口止め料がかかるわ』


『……いくらだ?』


『そうね~。殺人鬼の正体の情報なんて、誰もが買いたがるに決まってるし……安く見積もっても全プレイヤーが殺人鬼の素顔の写真に一万払うとして……他の経費もあわせて7000万bかしらね。どう? 払える?』


『ああ、すぐには無理だが必ず払う。』


『…………はあ!? わかってるの!? 今までの借金とは桁が違うのよ!?』



『取引成立。オレはスカイの言い値でジャックの全情報を買ったんだ、これで交渉成立だよ』



 そして現在、ライトの背中を見ながら、スカイは店先でため息をつく。

「……普通断ると思うわよ……もっと高く言うべきだったかしら」








 昼頃『鉄鍋の町』のとある工房。

 空色の羽織りを着たライトが『仕事』として訪れた大鍋のある工房では、一人の少女が薬を作っている。一気に大量の薬を調合しているためか、蒸気で蒸し暑い。

「やあ、黒ずきん。調子は?」


「まさか、この服をもう一回着るとは思わなかったよ」


 その服装は、『館の町』のクエストで手に入れたドレスを改造して普段着らしい外見にしたものだ。

 その服装で薬の入った鍋をかき混ぜる姿は魔女の見習いのように見える。


 とてもじゃないが、殺人鬼の手配書とはイメージが繋がらない。


 しかもキャラクターネームまでライトが『変装スキル』のクエストで得たレアアイテムで『黒ずきん』に偽装しているので、ダメージにさえ気をつけていれば、ほぼ完璧な偽装だ。それに、腰にはわかりやすく長さ30㎝ほどの杖を装備していて、一見『魔法使い』にしか見えない。


「まあ、ほとぼりが冷めるまでは怪しいフードケープは辞めた方がいいからな……ところで、本当に持って行っていいのか?」


「はいよ、材料費は大量にあったし、好きなだけ持って行って。その方が供養になるんでしょ?」


 部屋の角には、大量の薬瓶が積まれていた。中には各種の回復系の薬が入っていて、どれもこれも市販より少しだけグレードが高い。

 これは、ジャックが殺したプレイヤー達の所持金で買った材料で作られている。

 そしてこれらは、ボスのダンジョンの攻略で『寄付』として使われるのだ。


 ライトとの契約を終えた『黒ずきん』は殺人事件に巻き込まれたため精神的にショックを受けたため、療養をかねて一旦戦闘職を辞め、本格的に『医者』となるために『医療スキル』『調合スキル』を上げることにした……という設定であり、『黒ずきん』が医者を目指していたのを知っていたチイコにはそう説明してこの町に住むことにした。


 黒ずきんがこの町に来たのは朝のことなのだが、ライトがチイコの工房に補給用の武器や修理用の材料を取りに行った時は『薬と武器を作りまくって戦闘サポート系生産職の看板娘になっちゃおう!!』とはりきっていた。


「持っていけるかなこの量……ストレージがいっぱいになって他のものが入りそうにないぞ」


「これ使って」


 ジャックは、片手に乗るサイズの銀の箱をライトに投げ渡した。


「なんだこれ?」


 ライトは箱を『ジャグリングスキル』を使って完璧にキャッチしてから、それを回転させて表面を観察する。なかなか高級そうな箱で、不思議な紋様が彫られていた。


「《ディメンションキューブ》。物を沢山収納できるマジックアイテムだよ。前から武器が重すぎて狩りで手に入れたアイテムが持ちきれないって言ってたでしょ? あげる」


「ありがたいが……いいのか? こんな高級そうなマジックアイテム」


「良いから黙って受け取って。じゃないとまた事件になるかもしれないよ」


「そ、そうか、じゃあ遠慮なく……そういえば……ジャック、いや、黒ずきんはこれからどうするんだ? しばらくは大人しくしてると助かるんだが……」


 ジャック……黒ずきんは、鍋を混ぜる手を止めた。そして、振り返ってニヤリと笑う。


「まだ決めてないけど、昨日暴れたからしばらくは我慢するよ。でも、我慢できなくなったら……遊んでくれる?」


 そのスカートに隠された刃に、ジャックはゆっくりと手をかける。その殺意も凶器も、隠されているだけなのだ。

 それを見て、ライトは苦笑する。


「はは、殺人鬼に比べたらボス戦なんて可愛いもんだろうな」






 そして現在。

 ライトはマリーと対峙する。


「真犯人はオマエだ……『金メダル』、いや、マリー=ゴールド」

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