表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第7章:エンドルート編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

441/443

ヒロインズ・リザルト

《ナビキ(本名 七美姫(ななびき)七海(ななみ))》


 あの『デスゲーム』から数日。


「あの時助けてあげられなくて本当にごめんなさい!」

「そもそもナナミだって気付かなくってホントに悪かった」


 家を訪ねてきた『幼馴染』二人からの開幕土下座だ。

 まだ世間は混乱から抜けきってないというのに、この二人は今の『七美姫七海』の住所を調べ上げて謝りに来たらしい。

 まあ、気持ちはわからんでもないけども……


「ま、まあ落ち着いて、ね? こっちも言うべきことがあるというか……」


「本当はあの最終決戦の時に謝るつもりだったけど見つけられなくて」

「赦してもらえないのはわかってるけど、どうしても謝りたくて……」


 まあ、リアルの知り合いだったのにデスゲームの世界で精神が狂っていく『ナビキ』の支えになれなかったのを謝りたいという気持ちはよくわかる。うん、だけども……


「あたしは『ナビキ』じゃなくて『ナビ』だっての! そんな言われてもわかんねえよ!」


 あたしは主人格であった『ナビキ』じゃない。

 第二人格の方の荒っぽい部分の『ナビ』だ。

 本当にどんな手違いがあったんだか……肉体に戻ったのはあたしの方だった。

 これに関してはあの背の高い女も原因がはっきりとわからない……もしかすると、魂とかそういう部分の問題かもしれないんだと。まあ、確かにあたしも妙な確信があるが……ナビキはただ消えたというより、行くべき場所へ行ったんだろう。もしかしたら、ナビキが普通に人間のままだった世界。事故が起こらなくて両親も生きてるような、そんな世界に。

 ……ちなみに、あの現実世界で生活させるのは不安な末妹(エリザ)もどっか行ったっぽい。あいつは自由気ままだから心配いらないだろうが。


 で、空いた肉体を押し付けられたあたしはこうしてこの数日、よくわからない人間関係に振り回されてるわけだ。ま、元々友達とか少ないタイプだったナビキのメルアドはほとんど空欄だったからある意味助かったけども。


「ちっくしょう……いやな、ホントに悪いとは思うんだよ。ナビキの椅子を奪っちまったっていうか、第二人格のくせに主人格を押し潰して身体を乗っ取った感じになっちまってるのはわかってるつうか……むしろ、謝るべきなのはこっちだし、あいつの身体でこんな可愛げのない振る舞いされるのも不快だろうが……」


「…………」

「…………」


「おう、なんだよその顔。文句があるならはっきり言ってくれ」


 てか知ってんだぞ。付き合ってんだろおまえら。

 デスゲームの世界で探偵と助手やってた頃から噂は聞いてたけど、結局本格的に付き合って行くとこまで行ったんだろ? アイコンタクトで会話できるくらいになったんだろ? 距離感でわかんだよ。あたしだってライトと付き合ってたんだかんな。

 だからって顔見合わせて目と目で通じ合うなよ。あたしにもわかるように話してくれ。


「いや……ね?」

「なんていうかさ……」


 なんだ、やっぱりナビキの身体でこんなガサツな言葉遣いされると違和感があるとかそういう話ならすぐにはどうにもならないんだが……


「「今の方が昔のナナミっぽい、ていうか事故の前に戻ったみたいだなって」」


「…………え、マジで?」


 まさか『ナビ(あたし)』の人格って……










《シャーク(本名 鮫嶋(さめじま)(じょう))》


 『デスゲーム』とやらがあったらしい日から数か月。

 うちには何故か妙な居候が住み着いている。


「シャークサーン。リモコン取ってヨ」

「そっちの方が近けえだろうが、自分で取れや」


 妙な訛りのある胡散臭い家出娘……突然上がり込んできたうえに『デスゲームの世界で付き合ってたヨ』とか言って来やがったから最初は通報しようとしたんだが、通報したら俺に連れ込まれて乱暴されたと言うなんて言って来るし、無理やり追い出すこともできずにいつの間にか部屋の一部を占領されていた。

 出て行く気配がまるでないし、勝手に料理なんて作って仕事帰りの俺を待ってることもある。こいつの言ってる通りのことがあったとして、俺がこんな子供と付き合うなんて思えないんだがなあ。


「心配しなくてもワタシ、エロイことしても大丈夫な歳ヨ。それに、ゲームの中ではシャークサン犯罪者やってたネ。ワタシを襲っても見損なったりしないヨ」


「ますます信じられねえし……てか、そのわざとらしい訛り方もあって一々嘘くさいんだよ。ほれ、洗濯するからそれ脱げ」


「やっと『あの頃』みたいにあんなことやこんなことする気になったカ?」


「洗濯するって言ってんだろ! てかてめえ、そのジャージ何日着てんだよ! そもそもそれ俺の部屋着だ! 俺がそんな何日も同じ服着てる不潔な女と付き合うわけあるか!」


「心配ないヨ。ワタシ、代謝ほとんどないから服汚れないヨ」


「いいから脱げって言ってんだ! ほら、新しいのここに置いとくぞ。ホントに汚れないにしたって新しい方が気分いいだろ……どうせ出て行く気がないんなら、せめて人並みの暮らし方しろ。せっかく綺麗な顔してんのに他がそれじゃ惚れたくても惚れられねえよ」


 俺の言葉に何故か目を丸くするミク。

 俺、そんな変なこと言ったか?


「……クク、『人並みの暮らし方』なんて求められたの久しぶりヨ。それにシャークサン、ワタシのこと綺麗ないって思ってたヨ」


「うるせえ……付き合ってたってのが本当だったとして、それはどうせ見た目に騙されただけだろ。お前がちゃんとしてみてそれで俺がなんとも思わなければキッパリと追い出せるからな! そんときゃあれだ! てめえの好きだった奴は死んだって割り切ってちゃんと今を生きやがれ!」


 もしもこいつの話が本当だったら?

 知ったことか。俺にそんな記憶はないんだ。いつまでも他人の傷心に付き合ってやる筋合いはない。

 無理に追い出してどっかで勝手に自殺なんてされても困るし、ちゃんと現実の俺に失望して新しい男でもひっかけやがれってんだ。


「シャークサン……ワタシ、興味本位でここ来たケド、なんか本気で気になって来たヨ。シャークサンが面白すぎるのが悪いヨ」


「どういう意味だそれ!?」


「嫌いな奴がいたらいつでも言って欲しいヨ。宿賃代わりにサクッと仕留めてきえやるネ」


「俺を共犯にして犯罪者にし直そうとしている!?」


 この女、まだまだ俺の家から出て行く気はないらしい。










《椿(本名 椿原(つばきはら)吉花(よしか))》


 あれから一年。


「受験勉強とかマジだるいよねー、バッキー一緒にカフェいかな……ってバッキー、何その問題集の山!」

「カフェは一人で行って。私はもうちょっと勉強してから帰るから」


 最近は勉強に忙しい。

 だけど、元々頭が悪い方じゃないし。目標があって勉強するのは結構苦じゃない。むしろ、今まで学校で他人を操って遊んだりして気が晴れなかったのは目標がないのに能力だけがあったからかもしれない。

 まあ、そういう自己分析はどうでもいい。今はとにかく勉強だ。

 なにせ……


『椿はホント頑張り屋さんやな……でも、無理して体壊したらいかんで?』

「はい……でも、もうちょっと勉強したいんです」


 私のMBIチップには、花火さんの人格AIが……あの世界の記憶を持った花火さんがいる。

 最近復活し始めたVRなら直接触れ合うこともできる、本物の花火さんだ。

 あのデスゲームの時、最終決戦で花火さんは約束してくれた。『現実世界の身体はなくてもこれからもずっと傍にいる』と。そして、花火さんの人格データの核になる部分を受け取った……花火さんは思い出として私を支えるような意味合いのつもりだったかもしれないけど、私は忘れられなかった。

 そして、最近復活してきたネットワーク上で拡散されたある『アップデートデータ』……技術の向上で土台が完成したという合図。情報世界に散って眠っていた人格AIを目覚めさせる『アラーム』が、花火さんを目覚めさせた。


 花火さんは、今はこうして私と会話するくらいしかできないけど、これからさらにアップデートが続けばもっと実行力を持った存在になる……多分、この前家に来たライトが教えてくれた彼の『師匠』のように現実世界の人間と同じだけの振る舞いができるようにもなるはずだ。

 私が勉強してるのはその時のため。


『椿はすごいで……政治家になりたい、なんて夢持って頑張っとるんやから。あたしは頭悪いで勉強の手伝いはできんけど、応援しとるで!』


 これから先の時代、花火さんみたいな元人格AIの人……今や『情報生命体』と呼べる物になりつつある人達は、社会も無視できなくなってくる。

 その時に、社会のルールを決める側にあのデスゲームの世界を知らない人しかいなければ、『情報生命体』との共存ということを本質的に理解できる人がいなければ、戦争になるかもしれない。

 そうなれば、花火さんもいつかは消されてしまうかもしれない。だからその前に、私はルールを決める側に入って、私の人の心を操る才能を有効に使う。花火さんと一緒に居られる時間を限りある物にしないために。


 そして、最終目標としては……


「花火さん、いつか花火さんみたいな『情報世界の人』と私たち『現実世界の人間』が結婚できる法律ができたらその第一号になってみませんか?」


 今度は『世界のルール』なんかにこの想いを邪魔させたりしない。










《凡百(本名 脇田(わきた)百恵(ももえ))》


 あの『デスゲーム』から十年が経った。


 私は相も変わらず脇役のまま、普通に一般人をやっている。仕事は教師、今はとある孤児院に併設された学校で少し特殊な子供達の先生をしている。


「桐壺くんは相変わらず勉強の成績はトップなんだけど運動がちょっとなあ……みんなで遊べる競技系なら楽しく……いや、それだと竹河ちゃんはハンデがいるし……」


 私の悩みなんて、そんな仕事でのちょっとした考え事くらい。あと、そろそろ婚期を逃さないか心配し始めてるくらい。いや、職場が閉鎖的すぎて相手がいないんであって私が地味すぎるのとは多分無関係。というか気のせいか出逢いの気配があるたびに教え子達に妨害されてる気もするし。


 まあ、それはともかく、あの何かにつけて刺激的な世界でも割りと普通にほのぼのと生き延びた私だ。何度か世界が滅びの危機に瀕している的なニュースが流れてた時期も経験したけど、一般人はそういう時にも割りと普通に生活しているし、逞しく生きている。脇役というのは悪役よりも滅びにくいものだ。


「さてと、明日の授業の準備はこれでいいとして……今日は何があったのかな、と」


 今現在、彼氏なし一人暮らし(偶に友達が泊まる)の私の地味な趣味はサイト管理。ちょっとした掲示板メインのサイトで、世界のちょっと珍しい出来事とかおかしな事件なんかの情報を掲示してそれについて話し合ったり各々知ってる関連情報を出し合ったりして情報を共有する、よくあるサイトだ。


 私はみんなから集まった情報の中から特に盛り上がりそうなネタを選んで関連情報をまとめて掲示するのがサイト管理の主な仕事。時にはそれに関連したちょっとしたイベントを主催することもあって……


「へー……『長野の山奥で傷害事件』『犯人を捕縛しようとした警官が錯乱した被害者に噛まれて重傷』『近くの村との連絡途絶』……リリスさん、イザナさん、楔ちゃん。ちょっとこの辺りの情報調べてくれる? あと最近の妙な動きしてる機関のことも。うん、今すぐに」


 よく私の端末を溜まり場にしてる二人に頼んでネット上の情報を漁ってもらうと、何やら『ネタになりそうな』情報が続々出てくる。


「民間信仰で『死体が起き上がる伝承』、それに近くに詳細不明の『生物化学関連の研究施設』。おまけについ最近CIA、それに新ソビエト共和国のN部隊のメンバーが何人も『旅行目的』で入国ね……これは事案(ケース)『Z』の類かな。まったく、変なところをこっそり突こうとして変なものが流出とか困ったもんだわ」


 技術の急発展が始まってから、こういう事件が度々起こるようになった。

 政府や機関の人達も何とか事前に防ごうとしてるみたいだけど、手柄の取り合いやら敵対組織の妨害やらであんまり上手く行ってないのが現状だ。というか、どうにも古い人達はそういうことをしている間に滅びかねない世界になったことを受け入れるのがまだできていないらしい。

 結局、一番早く情報を集められるのも、動き出せるのも、私達民間、一般人だということだろう。


「今日のネタはこれかな……掲示板(クエストボード)を更新、依頼(クエスト)はこの事件の詳細調査と村の人達の安否確認。それと何か原因があればその解決……いつも通り、受注に強制はなし。命の危険は自己責任、報酬は……このぐらいでいいかな、と」


 私の役目はサイト管理。

 サイトの名前は『冒険者ギルドの掲示板(クエストボード)』。

 世界各地から集まる異常事態、大事件、大災害の予兆(ウワサ)を蒐集して、いつも力を持て余しながら『遊ぶ』口実を探してる『攻略者(みんな)』にその解決を依頼するゲームの脇役、ギルドの受付嬢みたいなポジションだ。

 スカイさんやマリーさん、それに死んでいるはずなのによく連絡が来る正記(あいつ)から任された……というかほぼ押し付けられたサイト管理の仕事だけど、そのために必要な権限とかいろんな情報をすぐに集められる特製端末とかもらってるし、私も楽しくやってるからいいかな。



 この十年間。

 あの『デスゲーム』が終わってから、スカイさんが目を覚ましてから、世間では『あの事件を機に世界が大きく変わった』とよく言われている。

 技術が発展して治らなかった病気が治るようになったり、宇宙開発が私達一般人にも身近なものになって来たり、人格AIの住む情報世界が『仮想の世界』ではなく『実在するもう一つの世界』として認知され始めたり。

 確かにそういう技術とかって意味では大きく変わったものも多いと思う。だけど、私は世界そのものが変わったとは思えない。


 私達の生きる世界は元々、こうやって変わっていく……進化していくようにできている。

 『戦争が技術を進化させる』なんて言葉もあるけど、それは別に憎み合って殺し合うような戦争でなくてもいい。まだ会ったことのない誰かと出会って、命懸けの全力を出し合って、自分達が結末(エンディング)を左右する攻略者(プレイヤー)だと自覚する。それだけで、世界は変わっていく。

 それが、いつかは必ず死ぬ人間が『どう生きるか』を問う『デスゲーム』の本質。

 『戦争』なんて呼ばれる殺し合いなんて、その形の一つに過ぎない。私達はみんなで、命懸けで世界を救った。そこに憎しみや怒りはいらなかった。ただ、目の前にあるものに全力で向き合おうとしただけだった。


 一人の少女が、終わり行く世界を救おうとしたように。

 一人の少年が、終われない少女を退屈から救い出したように。


 『自分に何ができるか』を問いかけて、その答えを否定しなかった誰かがいたというだけで、世界はこれだけ進化した。

 これからも世界は進化を続ける。

 良いことも悪いことも関係なく無数の可能性があるこの広い世界では、何もしなくたって攻略すべき運命(ゲーム)は向こうからやってくるんだから。


「一難去ってまた一難……おっと、そうだ。解決済みのクエストの表示変えとかないと」


 私は結局脇役だけど、掲示板(クエストボード)の管理くらいはちゃんとやらなきゃ。

次のゲームは次のゲームとして、クリアしたゲームはお決まりの文句で締め括らないとね。

 


『Congratulations! To be next game!』

 


 皆さん、どうか最期に悔いのないリザルトを残せるようなよき人生(デスゲームライフ)をお祈りしています……なんてね。

※シャークさんはどちらかというとヒロイン。異論は認めない。


 ナビキの魂がどこに行ったかは『転生管理局』の方へ。

 そして凡百さんは相変わらず普通の一般人(エンター一つで世界を救う)。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ