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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第7章:エンドルート編

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384頁:下剋上に気をつけましょう

 情報世界で全能となった少女は、時間を数えるのをやめた。

 タイマーとして表示した膨大で微小な時間を見ることが自身の精神寿命を縮めることを理解したためだ。

 その代わり、自分が発狂して、その記憶が消えたであろう回数をカウントするプログラムを作ってみたらいつの間にかそのメーターは七桁か八桁となっていた。現実を見るのが怖かったために完全に読み取る前に表示を消したので正確な数は記憶していない。


 要するに、直視するには長すぎる時間が過ぎていた。長すぎる時間に飽きていた。

 すぐに思いつく暇潰しに飽きて、少々捻りを入れた暇潰しにも飽きて、長く考えた末に考案した暇潰しにも飽きて、暇潰しを考えるのにも飽きた。


 そうして面白いことを探し続け、辛うじて『面白い』と感じられるようになったのが、一つの遊び。

 『破壊(クラッシュ)(・アンド・)創造(ビルド)』。


 

 少女はそれ以前から一つの『世界』を作ってその中で人工知能の生物を育て、文明や技術の発展を促す。そうすることで、孤独を紛らわすために、より人間に近い完璧なAIを作ろうとしていた。

 しかし、それは上手く行っていなかった。現実の歴史をそのままなぞらないのはしょうがないにしても、外から手を加えないと進歩も進化もしない箱庭だ。自分での成長を待ち続け、しかし結局動かない世界を掻き混ぜ動かし変化を与えるというつまらない実験の繰り返しだった。


 だから、実験として行っていたものを諦めて遊びにした。

 それまでは自分が違和感なく生きられる『現実世界と全く同じ世界』を作り出して疑似的に現実世界への帰還を行おうとしていたのだが、方向性を変えた。


 世界が面白くなるように、法則や歴史を変えた。

 怪獣のいる世界、人間以外の支配者がいる世界、幻想的な怪物の闊歩する世界。

 刺激がなければ進化しないAI人格たちも、本来あり得ない環境に置かれれば順応しようとしてある程度の変化を起こす。安定しきった後に勇者と呼ばれるようなイレギュラーが生まれることはないが、消えていく過程の不安定な状態なら坂を転がり落ちる石を眺める程度の面白みがあった。


 そんな中で創った世界の一つ。

 そこは、『魔法』が実在し、人間以外の種族が猛威を振るう世界。

 人間よりはるかに魔法適性の高い『魔女』に対抗するため、寿命を縮めて魔法適性を無理やり上げる『魔法少女』などというものが作られるようになってしまうような世界。


 その世界は、初めから滅亡するように創られていた。

 戦略防衛ゲームで敢えてギリギリ防衛が不可能な戦力を整え、敵に段々と追いつめられていく様を見守るような……そんな感覚の暇潰しだ。平穏で恒久的になってしまった世界など、維持していても飽きてしまうが故に考えた楽しみ方。いつどこで均衡が決壊するかを見つめ続ける。そんな遊び方だった。

 その世界においての『終わり』は『氷河期』だった。『魔法』という燃料も理論も必要のない夢のような技術……その代償は、釣り合わないエネルギー損失。魔法によって発生させるより膨大な量のエネルギーを、その世界に供給される熱リソースの根本である『太陽』から消費するとい罠。


 世界は段々と着実に冷え込んでいった。

 人間たちは人外の怪物たちに対抗するために魔法を使い続けた。

 冷え込んでいく世界で暖を取るために、さらに魔法を使った。

 それが悪循環だと気付くことなく……いや、たった一人だけ気付く者がいたのだ。


 それは、たった一人の半端者。

 種族値において世界最強の物理ステータスを設定され、その代償として魔法を使うことができない『巨人種』と、知的種族の中で最低の物理ステータスの代わりに向き不向きはあれあらゆる種類の魔法を修得することが可能な『人間種』の混血。人間種の村に生まれた先祖返り。その両方の悪い部分を受け継ぎ、『人並み』の肉体と最低の魔法適性を持つ、少し大きいだけの少女。


 彼女は人間なら誰もが使える『魔法』を使えないことに絶望していた。

 絶望し、捨て鉢になり、仲間外れにされて人間としては少しだけ恵まれただけの肉体で喧嘩をして怒られた。

 そして、ある雨の日に外へ飛び出して……土砂崩れに巻き込まれた。


 純正の人間種ならば死んでいただろう。

 しかし、彼女は幸運にも丈夫だった。強い衝撃を受け、数日間生死の境を体験してからの覚醒で、彼女は見える世界が一変していることに気付いた。


 全ての物に、『熱量』を感じた。

 視認すればそれがどれだけのエネルギー量を持つかを正確に理解できた。

 それはバグだったのだろう。仮想世界において思考に関わらない深度の情報層で参照されている『ステータス』を、直接閲覧するという魔法ならざる異能を手にしてしまったのだ。


 彼女は、それから世界の真理を探った。

 どうして自分に魔法が使えないのか、そもそも魔法とはなんなのか、魔法を使える者と使えない者の違いとは何か、魔法適性はどこで決まるのか……魔法という形で周りのエネルギーを変動させることなく『無』からエネルギーを生み出す『生命』とは何なのか。


 そうして探求を続けたある日、少女は実験の結果驚くべき事象を観測してしまう。

 それは、飼っていた猫が死んだ直後。自身の理論に基づいて、生命力というエネルギーを絶やすまいと蘇生措置を行った結果だった。

 蘇生の成功率は理論値で半々……その実験の結果として、『観測するたびに確率的に二回に一回だけ死んでいる猫』という、実在しえないはずのものを生み出してしまったのだ。それは理論上はあり得ると認識していた現象……しかし、そこが『現実世界』であれば起こりえないはずのものだった。


 そこで、彼女は理解した。

 この世界が、誰かに『創られた』箱の中にある世界なのだと。


 そうして、その箱の中の熱量の減衰を理解し、魔法という技術体系の致命的な欠点に辿り着いた。

 その頃には、もはや人間の寿命などとうに超えていた。しかし、少女は寿命を持たない巨人族の特性から、一定以上に老いることがなかった。だからこそ、あらゆる探求を時間に縛られず進めることができた。

 各国に危機を訴えた。

 世界の創造主が戯れに遺跡の壁画や碑文として刻み、誰もその意味を理解することのなかった『数式』や『理論』から、『本来の物理法則』を確立し、魔法を用いずに生き残る道があると説いた。


 しかし、それは失敗した。

 世界が冷え込むのは止まらず、人外混じりの彼女は世界から理解されなかった。

 結果、人類種は滅んだ。世界は終わった。


 創造神たる少女にとっては、数ある遊びの終わりの一つ。

 人間という『観測点』が完全喪失すれば、自動でデータを抹消するように創った世界。


 冷え切り、もはや終わりを確信された世界は興味から外れ、プログラムも終わった……と、思われていた。


 その数千年後まで、『観測点』が生き残り、数としてはほんのわずかだが人類を耐えさせることなく生かし続けていたと気付くまで。


『原子炉、核融合、ほぼ完全なエネルギー循環で自給自足するドーム型コロニー……ですって? この世界にどうしてこんなものが……』


 再びその世界を覗き込んだ創造神の目に飛び込んだのは、自らが進化の期待と共に戯れに置いてあった遺跡の碑文と同じ文字でメッセージが彫られたモニュメント。

 そこには、『自分へ向けた』メッセージが刻まれていた。


『「直接会いに来い。神様のクソ野郎」?』










《現在 DBO》


「てなわけで、私の正体は『この老害が暇潰しで繰り返して創った仮想世界で唯一世界の構造に気付いて、管理側としてスカウトされたAI人格』でした。正解した人はいたかな?」


「ちょっと、それ誰に言ってんの?」


「……メモリちゃんとか?」


 コタツに入ったミカンはストレージから蜜柑を取り出し、皮をむいて食べている。

 どうやら入る時の動き的に掘り炬燵らしい。


「思えばあれからだったわね~。『デスゲームに勝ったら何でも一つ願い事』ってシステム始まったの。ま、私が設定したデストラップを乗り越えてあんな恒久維持できるコロニーなんて作られたら、そりゃ負けを認めざるを得なかったし」


 一人遊びではあったが、スカイとしては最初から生き残ることがないように環境などをすべて設定したはずだったのだ。しかし、それを生き延び、そしていつ死ぬかもわからない状態まで持ち込んだ。

 スカイの権限でその世界をシャットダウンするのは簡単だ。しかし、それは遊びとしては『負け』になる。

 だから、気まぐれでもあったが、スカイは半巨人の少女にコンタクトを取った。

 おそらく、何らかのバグが入り込んだのだろうが、進化の可能性を感じたのだ。


 そして……神はその言葉と拳骨に倒れた。

 まあ、当然の結果である。


「いやあ……うん、そりゃ遊びで世界創ってジワジワ滅んでいくところを見て愉しむとか悪趣味にも程があるっていうのは私でもわかるわ。でも、いきなりあんな罵倒しなくたって……」


「世界滅ぼされて数千年後にいきなり『何度も世界を創ってあなたのような人を待ってたの! 友達になりましょ!』とか言われたらそりゃ殴るわ。むしろ簡単に泣いたのに驚いたわ、神のくせに」


「だって~、喧嘩とか本当に久しぶり過ぎて耐性が全然なかったし~」


 その軽口の応酬は友人同士での気安いもの。

 デスゲームの中ではほとんど……それこそ、マリー相手に稀に見せる程度だったスカイの地の部分なのだろう。記憶を封印していても、神になるのに十分な時間を積み重ねた彼女にとって他のプレイヤーなどは積み重ねた時間がないに等しい薄っぺらい存在であったのだから。

 そして、そんな彼女の相対した存在の中。唯一自身の生み出した世界の中で進化し、神の思惑を出し抜いて打ち勝ったのが、目の前の小さな巨人なのだから。


「おっと、話が逸れちゃったわね。こいつ油断すると何年話し続けるかわからないから、この耄碌婆が調子付いてきたら無理やりにでもカットしなさい」


 ミカンの強引な会話終了に不満を漏らすスカイだが、自覚はあるのか話を打ち切る。

 そして、ライトに向き直った。


「一応参考までに教えておくと、このデカ女の願い事は『本物の現実世界への進出』だったわ。あんたが学校で『部活の先輩』なんて認識してたのは、データ上だけの幽霊生徒。チップを入れている人間の目にだけ鮮明に形作られる幻影。今の普及率じゃ幽霊だなんて気付かれないかもしれないけど」


「あ、それと時々ゾンビとかメモリちゃんの身体借りてたわよ。上からVR被せて。生身じゃないとできないこともあったし……あ、貞操は無事だから安心して」


「……現実世界での活動は基本不干渉ってことにしてあるから、全部把握してるわけじゃないのは理解して。なんかあったら責任は取るつもりだけど」


 貞操以外は無事ではないかもしれないらしい。

 情報世界の神にも等しいスカイならば例え知らない内に改造人間にされていても何らかの責任を取ってくれるのだろう。


「さ、急かすわけじゃないけどライトの願い事を聞きたいわ。今回のゲームを誰よりも盛り上げてくれた実質のMVPだもの。何でも聞いてあげる。というか……」


 スカイはあのデスゲームの世界で常に見せていたギラギラとした強欲な瞳を、この空間で初めて見せた。


「いっそのこと、仮想世界(こっち)に永住してくれない? ライトならきっと、ずっとずっと壊れずに一緒にいてくれる。あなたなら、ずっと変化を続けて私を退屈させない世界を創れる。身体はこっちで回収して大切に保存してあげるから……私と一緒にこれからずっとゲームを続けてよ。あなたなら、きっと、いつまでも……」


 その瞳を見て、ライトは察した。

 嘆息するミカンの助言を請うまでもなかった。


 スカイは……この神様は、きっとこれまでも何度も同じことをして、そして失敗して、その記憶を忘れている。

 永遠の孤独だ。発狂して、精神崩壊して、そして戻されるとしても、どこかが壊れないわけがない。

 だから、ここには自力で数千年を耐え抜くことのできた、寿命という概念を元から持たなかったミカン以外のAI人格がいないのだろう。ミカン自身も、『留守』の間スカイに長い退屈を強いる『現実世界への進出』と条件を出し、いつも部室でゲームをして暇を潰していたのだろう。

 不老不死の神々が人間に関わる神話の類を想像すればすぐにわかる……永すぎる時間を生きてしまったスカイの『神としての愛』は、『人間』にとって重すぎた。

 見つけ、期待し、求め、手に入れ、失い……そして死にたくなっても死ねずに忘れる。

 その喪失感の残滓が降り積もり、どこかで歪んだ結果が騒ぎにはならないとはいえ、多くの人間を巻き込み悲劇と喜劇を演出するデスゲームなのだろう。


 ライトは、するべきことを理解した。

 今回のデスゲームは『特別』だった。その意図を、自分やマリーたちがゲームに参加させられた目的を理解する。


「オレの願いは……師匠が決めてくれ。多分、オレ自身の思ってることと結果は同じだ」


 その返答に目を丸くしてキョトンとするスカイ。

 予想外の返答、想定外の丸投げだったのだろう。

 スカイは、ミカンの方を見る。


 そして……


「さっすが、私の二番弟子。じゃあ、私のお願いを言っちゃおうか!」


 ミカンは、スカイに向けて言った。


「『中枢』へのアクセス許可を頂戴。彼のチップとデータ量無制限で直接通信の回路を開けて、彼のチップから指定データを中身を見ずにダウンロード、開封して」


 それは、電子的操作の処理。

 そして、その意図はスカイならすぐにわかるもの。


「まさか……私の『中枢』に『侵入(ハッキング)』するつもり? 確かにゲームはちょっとバグらされたけど……そんなのはほんの表層、演算能力のごく一部を使ったゲームプログラムが不具合を起こした程度で『中枢』は次元の違う領域よ。私のチップの百万分の一以下の性能のライトのチップで、私をどうにかできると思ってるの?」


 それは、『ウイルスメールを送り込むから警戒せずそのまま開いてくれ』という馬鹿げた要求。

 つまり……


「永遠の魔女。永遠に孤独な神様……もう一度、勝負しよう。今度は私が、あんたの世界を終わらせる番だよ」


「馬鹿言わないで! できるわけないでしょ! 私の処理能力、私の電子戦の防衛力をわかってないわけないでしょ! あんた……前一回、それで消滅しかけたでしょ?」


 スカイ本人の意思での自殺を完全に封殺する『安全装置』。

 それが、他者からの攻撃を無防備で受けさせるわけはない。

 だが……


「『無理』だと思ってるのはわかってる。だからこそ、『できる』でしょ。いえ、どちらにしろあなたは完全に通信遮断状態(スタンドアロン)にはなれない。それはそれで自滅の道よ。だからこれは遅いか早いかの話……真正面から、私の挑戦を受けてくれるかって話」


 かつて、世界の法則に不満を持ち、疑問を抱き、逆らった小さな巨人がいた。

 彼女はその世界を創った神の力の外側に出て……この時のために、準備を続けていたのだ。


「さあ、最後のデスゲームよ……神殺しのデスゲーム。その永遠なんてふざけた運命をぶち破る、空前絶後の電子防衛戦(ダンジョンアタック)……あんたの一番得意な分野、あんたの一番強い世界で打ち負かしてあげる。防衛の準備をして待ってなさい」



 凍てつく世界で唯一生き残った巨人vs数多の世界を創造し滅亡させた全能の神。

 『神々の黄昏(ラグナロク)』開戦。

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