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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第7章:エンドルート編

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377頁:プレイヤーの総力を結集しましょう

 ゲームオーバーまで、残り約九時間(プレイヤーの抵抗次第で延長)。


 『戦線(フロンティア)』のメンバー中32人、その他のギルド、ソロプレイヤーから22人。

 合計54人、9パーティー分のレイドが突入部隊として編成され、ラストダンジョン『永遠の魔女の城』へと突入を開始した。


「いいか! 3パーティーごとに分かれて互いに連携を怠るな! 索敵系スキルでトラップを警戒! モンスターは基本前方チームが中心になって対処! 消耗したら中央に下がって移動しながら回復! ローテで回しながら先に進むぞ!」


 幸い、ラストダンジョンの『迷路』としての難易度はそれほど高くはない。

 これまでダンジョン攻略を続けてきた最前線メンバーからすれば、この程度は一本道とそれほど変わりない。

 それよりも……


「待て! 大扉だ! 『門番』が出て来るぞ!」


 このダンジョンは『危険度』に主眼が置かれている。

 これまでのエリアで登場したギミック、トラップ、モンスターの総復習のようなダンジョン構造と……不可避のポイントで扉を護る、懐かしき『門番』の存在。


「『プリンス・オブ・ギアギミック』……取り巻きもいないしHPバーも一本しかないみたいだが、油断するなよ! 調査隊からの報告ではステータスは上がっているが行動パターンは『キング』とそのまま同じだ! 攻撃パターンを思い出せ! これまでの攻略を思い出せ! 今の俺達なら犠牲を出さずに攻略できる! 倒して先に進むぞ!」


 プレイヤー達は進む。

 この世界の攻略(エンディング)を目指して。









《現在 DBO》


 突入部隊の出発から約二時間半。

 ゲームオーバーまでの残り時間……約八時間。

 『攻略連合』の抵抗は約束の一時間を超えて、三十分以上の猶予を与えてくれた。


「ここでの防衛がどれだけ上手く行くかで、突入部隊がどれだけ余裕をもってラスボス戦に挑めるかが決まるわけね」


 スカイは『大門』から出現を始めた『聖王神聖騎士団』を望遠鏡で見やる。

 数はさほど減っていない……騎士団は自動で回復する上、弱った者を後ろに下げて万全な個体が前に出てくると言った連携も可能だ。防戦に徹した『攻略連合』が削れた数にも限りがあるだろう。


「だけど生憎と、こっちは時間稼ぎじゃなくて殲滅のつもりで行かせてもらうわよ……みんな、準備はいいわね! 『第一波、発射』!」


 出現したばかりの神聖騎士団に飛来する、百を超えるミサイル型特攻ユニットの雨。出現直後で密集したタイミングを狙ったダメージ効率重視の範囲爆撃。

 しかし、それは見慣れたとばかりに、神聖騎士団は対空迎撃の弓矢を構え……


「申し訳ありませんが、まずはこの一撃、対応される前にまともに受けてもらいます」


 狙い澄ましたように『弓矢を構えた全ての騎士』に光弾が降り注ぎ、放たれた矢のほとんどを見当違いの方向へと外させる。特攻ユニットは次々と騎士団へと着弾し、一撃では殺しきれない威力であっても度重なる爆発でその数を削っていく。


「効果あり! 『第二波、第三波、続けて発射』!」

「対空迎撃の対策は任せてください。全て出鼻を挫いて見せます」


 『必要な数だけ』の光弾を降らせるのは、多数の光輪を背に飛ぶマリー。光弾の威力は最小限だが、その狙いとタイミングは完璧だ。


「これが、このデスゲームにおけるプレイヤーの力の総結集です。簡単には通しません」


 マリーは『救世スキル』でフレンド登録をしているプレイヤーの経験値を消費して、望む結果に必要なステータスを発揮する。

 マリーは準備期間を利用して、突入メンバーと防衛メンバーに頼んで自分とのフレンド登録を解除してもらうと同時に、この防衛戦に直接参加しないプレイヤーほぼ全てにフレンド登録を結び、経験値の供給源とした。

 つまり、直接戦える力のない者も、覚悟のない者も、光の矢で心が折れてしまった者も、全てのプレイヤーがこれまでこの世界で積み上げた経験値がこの戦場での力となる。


「とはいえ、敵を一掃するような力はさすがにないのも事実。対空迎撃の妨害や、逆にあちらからの遠距離攻撃の迎撃。皆さんの攻撃が最大限に効果を発揮するように、効率良く行かせてもらいます」


 次々と降りかかる特攻ユニットの雨に対して、弓矢での迎撃が不可能だと判断した神聖騎士団は盾を頭上に構え、亀のように隙間なく並びながら小隊に別れ狙われやすい密集状態を解除して行く。


 だが、その程度で攻略できるほどプレイヤーの本拠地は甘くない。


 小隊は被害分散のために広がり、必然的に『大門』から遠い位置まで隊列が広がる。

 そして、その端の小隊が街へ前進しようと足を踏み出し……


「頭ばっかり気にして、足下がお留守よ」


 爆発。爆発。爆発。

 盾という甲羅を纏った亀をひっくり返すように爆裂する特製地雷。そして、爆発で防御を崩した場所を狙って即座に特攻ユニットが降り注ぎ、小隊を潰していく。


「準備時間が伸びたおかげで最初に造ったユニットに個別指示を与える時間ができてよかったわ……こうなれば、被害を減らしながら進軍するには縦長の陣形で地雷のない場所を確認しながらこっちに進むしかない。だけど……」


 隊形を素早く縦列に組み替え進軍を続ける神聖騎士団。

 その行く先は当然、ラストダンジョンへと続くゲートポイント。

 だからこそ……準備も万端だ。


「さあ、いくよEA! 真正面から来てくれるんならこっちのもんだ! ぶちかましてやる!」

「まったく、ABは女の子でしかもギルマスなんだからもっとお淑やかにならないかなぁ。このゲームに来てからむしろ荒っぽくなったし」


 隊列を真正面から待ち構える二つの『戦車砲』。

 『ハイパー・キャッスルブレイカー』……ABのオーバー150固有技。上部だけでなく真正面にも砲門があり、レールを自分で敷きながら直線する……いや、『真っ直ぐ前に進む』ことしかできない、真正面の障害を吹き飛ばし突進することにのみ特化した戦闘車両。

 それが、メモリアルディスクによってコピーされ、工作員Aが使用したことによって本来の二倍の攻撃力を持って、召喚されたもの。


「いっけー! 粉砕しろー!」

「周囲の安全確認よし! もちろん前の敵は轢いていいって意味だけど!」


 挨拶代わりに主砲をそれぞれ一発。

 さらに伸びた隊列を真正面から踏みつけるように全速発進。

 味方の埋めた地雷さえものともしない超重量の怪物は、神聖騎士の鎧を陶器のように次々と割りながら横転するまでその隊列を蹂躙した。


 そして、その運転士二人の姿は既にそこから消えている。

 背中から生やした義肢に多数の杖を装備した魔法ビルドのプレイヤー……メルディナ。彼女が杖の一つを使って傍らに浮かべている仲間の一人が、手元に『転移(アポート)』させた二人を掴んでいた。


「本当に無茶するな、この生産職組は……なら、私たち弱小ギルドも無茶してやろうか! オーバー150『マジシャンズ・インフェルノ』!」


 戦車砲が消えると、同時に空から降り注ぐ獄炎。レベル150で取得する固有技の性能(ポテンシャル)をただ単純に『威力、範囲、持続時間の高い魔法攻撃』というシンプルな攻撃方法……まるで、基本的な斬撃を極め切った赤兎に対抗するように発現させた火焔地獄がさながらナパーム弾による爆撃のように神聖騎士団を空から焼き尽くしていく。

 連続する攻撃により態勢が整わない内に次の計略が神聖騎士団を襲う。


 それは、地中から現れる脅威。

 横転した戦車砲の誘爆させた地雷と空からの火焔を呼び水として出現する、地中で力を溜め込んだ『不自然』な『自然』の猛威。


「そんなに騒がしくしちゃったら、『みんな』が起きちゃうよ?」


 このゲームを大混乱に陥れた仮想麻薬の発明者、小さきマッドサイエンティスト咲のオーバー150固有技『アンナチュラル・アース』。

 それは、召喚時にはスイカほどの大きさの一つの種。

 だが、地面に埋められ、時間と共に根を広げ、そしてその上で発生したモンスターやNPCの『死』を経験値として取り込んで力を蓄え、攻撃と共に目を覚ます『最強最悪のトラップモンスター』。

 目を覚ませば自らの手で周囲の動くものを破壊し、さらに経験値を得て吸収範囲と能力を拡大する『それそのものが捕食者としての性質を持つ森』。

 ……ライトが『危険すぎるから一つで十分だ』と言ってコピーさせなかった固有技だ。


 『一度植えたら使用者にも制御不能』という余りにも無責任なリスクから規格外の攻撃力を持つ緑の怪物は様々な植物に似た形状を取りながら、神聖騎士を鎧ごと絞め殺し、刺し殺し、潰していく。


「すごいわね~……あんなの、ゲーム終了直前でもなきゃ発動できないわ~。というか咲ちゃん、いつの間にレベル150まで育ってたの?」


「なんか襲撃イベントで一度放置した街にあった植物兵器が野生化して勝手にモンスターを刈り続けてたらしいですよ。テイムモンスター扱いで経験値が勝手に入ってきたとか」


「あの子、現実世界に帰ったら本気で確保しておきたいわね。主に世界のために」


 呆れながら首を振り頭を押さえるスカイ。

 しかし、その無責任な猛威はこの状況に限っては絶大な効果を発揮する。


 完全に神聖騎士の強さを超えた『アンナチュラル・アース』の猛威に耐えかね地雷や特攻ユニットの被害も構わず散り散りに走り出す神聖騎士団。

 集団で固まって移動するよりも、各個体がそれぞれに動き街を攻略することを選んだのだろう。

 それは正しい判断だ。一撃必殺の大技を撃ち込まれる危険を避ければ、地雷や特攻ユニットの一発二発程度はそれぞれが鎧の耐久で耐えられる。


 しかし、正しい判断だからこそ、狙い通りでもある。


「敵が散ったぞ!」

「街へ接近!」

「俺達の出番だ! 一体ずつならそれほど強くねえ!」


 再集合を果たす前に襲いかかるのは、突入部隊にこそならなかったものの、自らここで戦う意思を示した戦闘職の義勇兵。

 背後から魔法の支援と援護射撃を得て、一体につき数人がかりで他の神聖騎士が助けに来る前に鎧の破損部分を狙って確実に仕留めていく。

 彼らは皆、表情に鬼気迫るものがあった。


「お前らの矢で死んだ仲間の仇だ!」

「最後くらい『攻略』のためにやってやる!」

「せめて一度くらい役に立って、胸を張って現実世界に帰るんだ!」


 共にこの世界で生き延びた仲間についての恩讐、これまで犠牲を他人ばかりに強いてきたことへの後悔、そして主人公になれずとも自分で自分を誇れるようになりたいという願望。

 これが最後の機会。これが最後の戦い。

 思い残しのないように、この世界で生きた時間を無為な消費にしないように。


 デスゲームを『死ななかった』というだけでなく、『生き抜いた』という思い出にするために。


「そりゃ! 次だ! そこのてめえだっ」

「馬鹿! 突出するな!」


「そうだ、まだ敵は多い。油断するな」


 素早く差し入れられた槍が突出した防衛プレイヤーを襲おうとした神聖騎士を貫き沈黙させる。


 戦意に燃え上がった彼らを御すのは、居残った『戦線(フロンティア)』や最前線でのボス戦経験者達。

 ビルド的に高速でのダンジョン攻略より防衛戦向きな者、この防衛戦に参加する親しい者を近くで護ろうと決めた者、この街に思い入れのある者。彼らは『戦線(フロンティア)』のギルドマスターであるイチローから指揮を受け、危険な戦いをしているプレイヤーの援護に回る。


 一人でも犠牲を減らすために。

 この場にいる誰も死なせないために、彼らはこれまで磨き続けた武器と技を振りかざす。


「誰も死なせるんじゃねえぞてめえら! 俺達はこの世界でただ遊んでたんじゃねえ! 『俺達が大勢の人間を救ったんだ』って胸を張るために戦え!」


 もはや、嫉妬も羨望も競争も派閥も意味はない。

 ただ戦うのみ。生きるために、死なせないために。

 たった一人の力で生き抜くことができた者など、誰一人としていないのだから。







 スカイは機械犬(シリウス)に乗り、戦況を俯瞰しながら適度に援護射撃を放つマリーに確認する。


「マリー! 『作戦は順調です』みたいな報告ばっかり来てるけど、誰か問題を隠してこそこそしてるやつとかいない?」


「私の見る限りではいませんし、そういった空気も感じません。しかし……」


 マリーの言い淀む言葉に、スカイは先んじて答える。


「それは私も思ってたわ……『順調すぎる』。あんたの予想では、この段階でそれなりに死んでるんでしょ?」


「はい、予想難易度から考えると、そろそろ騎士団が『想定外(アクシデント)』に繋がる行動を始めるはずなんですが……」


「行動パターンが単調過ぎる……つまり、やっぱりその分の難易度上昇があるってことね……聖王『キング・オブ・ジャスティス』に」


「神聖騎士団は所詮取り巻き……ゲームオーバーの条件はあくまで聖王そのものです。つまり……」


 異変。

 予想していた、しかし来て欲しくはなかった大きな変化。


 『アンナチュラル・アース』が……茶色に変色し、枯れてゆく。

 そして、崩れ行く森から歩を進めて現れるのは、森の『核』であった種、全ての根の繋がる根本を剣で切り取り、握り潰す聖王の異様。


「どれだけ神聖騎士が潰されても『聖王(あれ)』単体でこの防衛ラインを突破できるなら難易度的には問題ないってわけね……マリー、全体の援護は終わりにして。あれは一級の戦力で囲まないと本当に死ぬわよ」


 

 次回、『聖王』討伐戦本番です。

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