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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第7章:エンドルート編

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375頁:防衛線を死守しましょう

 聖王『キング・オブ・ジャスティス』。

 南端のエリア『聖王国』のボスにして、デスゲームの最悪な形での終結(ゲームオーバー)のトリガー。


 その実体は今、五千を超える取り巻きモンスター『聖王神聖騎士団』を引き連れ、『聖王国』に一つだけ存在する巨大転移ポイント『軍門』へと向かって歩みを進めている。


 制限時間は約12時間。

 カウントダウンは既に始まっている。










《現在 DBO》


「ま、その制限時間っていうのも『プレイヤーの妨害がない場合』の話だけどな……明らかに『ラストダンジョン攻略に必要な時間を稼げ』って内容だが……さて、防衛側にどれだけの戦力を割くべきかが問題か。見た感じ神聖騎士は一体一体が前線級、そして聖王は人型なのに巨大ボス以上のプレッシャー……全力で迎撃してどこまで耐えられるか……」


 『聖王国』にて。

 ライトは城からの進軍を始めた『聖王神聖騎士団』を望遠鏡で眺めながら、戦力を分析する。


『正記……お願い。お爺ちゃんの方は私に任せて。マリーさんにとメモリちゃん、それに赤兎さんにもちゃんと力借りるから』


 『北』は任せてきた。

 確実に安全だとは保証できないが、十分な勝算を持っていての願いであることはわかった。

 だから、ライトはいち早く『南』へ向かった。

 終局イベントが発生し、一度に大量のプレイヤーが天からの矢に射貫かれて混乱する中、凡百から借り受けた権限と『貸し』の帳簿を使って、強引に必要な資材やプレイヤーの協力者をかき集めた。


 犠牲は本来想定されるものより少なかった。

 戦闘職の多くは普段の経験から咄嗟に矢を回避するか、急所を避けて即死を免れた。しかし、そういった咄嗟の判断に慣れていない生産職は矢に射貫かれる可能性が高かった。それを変えたのが、椿の主導した……花火が断行させた、緊急避難。

 『攻略連合』のギルドホームには多くの矢が降り注いだが、威力が対象のレベル依存であったためか避難したプレイヤーの中に死傷者はほとんどいなかった。避難者の多くが、かつて『成り代わり』が秘密の拠点としていた地下施設へと移動し地下空間にいたことも大きい。

 死者のほとんどは、ゲーム開始からほとんど安全な街の外に出ず、防御力の弱い木製の宿屋や一般家屋に居残っていたプレイヤーばかりだった。


 つまり、戦闘職は統制さえ取り戻せば十分な戦力が残っている。ただ、動揺から立ち直る時間、戦力を集中させる時間、そしてラストダンジョンを攻略する時間を全て合わせれば半日では足りないだろう。

 現在、ラストダンジョンにはマックスを初めとする『OCC』のメンバーと『戦線』のマッピング特化メンバーが調査に入っているが、街の外から見る限りダンジョンの攻略は数時間で簡単にできるような規模ではない。そして、そのボス部屋と思わしき場所への外側からの侵入は襲撃イベントで発生したイベントボスに妨害されている上、外壁への実験的攻撃ではシステム的な進入不能領域なども確認されている。そちらからの侵入は時間がかかる上に確実性がない。


「『時のない大地』に転移した『時計の街』を経由してラストダンジョンへ進入可能……どう考えても、『時計の街』を防衛拠点にしろってことだよな。今までの襲撃イベントはこのための予行練習か」


 十中八九、聖王の進入ルートもゲートポイントを経由したもの。

 それも、『時のない大地』には『時計の街』の施設が転移した場所から200mほど離れた位置に破壊不能な『大門』が配置されている。

 スカイは『大空商店街』に号令をかけ、『大門』の周囲にトラップの設置や集中砲火の準備を進めているが……


「『妨害』でゲームオーバーまでの時間制限が伸びるって辺り……もしも『聖王』を倒せれば無期限にゆっくりラストダンジョンを攻略できることになるが……わざわざカウントダウンになってるのが気になるな。なんにしろ、戦力を確認しないと防衛戦力の目安もわからない」


 通常のゲートポイントを使わないのは、通常のゲートポイントで開く転移ゲートが一度に数人で通れる程度のものであるのに対し、『大門』が数百以上の『隊列』をそのまま転移させることができるものだからだろう。つまり、『聖王神聖騎士団』は連携する。数体ずつ転移してくるのなら押しとどめて削ることもできるだろうが、百以上の軍団となると攻撃も分散し押し留めるのに必要な力も大きくなる。

 個々の戦闘能力だけでなく、どの程度の知能を持ち、どの程度の連携を行えるのかを見極めなければ痛い目を見ることになる。


「だが、さすがに万全の軍隊に平地で真正面から突撃なんてのは自殺行為だ……ということで、やってくれるか?」


 ライトは、振り返って背後にいる者達に問いかける。

 そこにいたのは、人ならざる者達。百鬼夜行のごとき『妖怪』や、テイムモンスター、デスゲームの景品として使役されるNPCたち。勝敗に関係なく、もはや終わりの近いこの世界と共に主人との別れを控えた命なき者。


「できる限り援護はする。だが、オレがここでするのは戦力偵察であって決戦じゃない。俺が可能な限りの情報を持ち帰るために……そして、一秒でもあいつらの行軍を遅らせて準備の時間を稼ぐため。生き残ったプレイヤーの生存率を上げるため……この世界での最後の活躍として、暴れてくれるか?」


 帰ってくる言葉はない。

 しかし、そもそも答える必要がないのだ。

 ここにいる時点で、結果がどうあれこの世界での活動が終わることが決まっている時点で、彼らのするべきことは一つだけだ。


 そんな中、大蛇に乗った『プレイヤー』の少年、キングが小さく笑う。


「儀式は終わったか? なら、支払いの時間だ。ライト、ほらよ。お望みの商品だ。大急ぎで用意した分、お代は弾んでもらうぜ?」


 キングの使役するテイムモンスター達が地面に置くのは、巨大な収容コンテナ型のマジックアイテム。本来はギルドホームなどに据え置きで配置するべき建築資材系アイテムまで収納可能なものだ。


「支払いはいいが……もうこの世界での金なんて集める意味あんまないだろ」


「悪いが、俺様にとっては貯めた額がこのゲームでのスコアなもんでね。そっちこそ、支払いを惜しむ必要ねえんだからぼったくらせてもらうぜ」


「……ほれ、オレの持ち金全部だ。たくっ、スカイへの支払いが済んで貯まってきたと思ったらこれだ。足りなければオレの名前で適当に前線メンバーから集めとけ。今なら最高級ポーションだろうが魔女のドロップアイテムだろうが言い値で買ってくれるだろうよ」


「へっ、遠慮なくじゃあ絞らせてもらおうか……じゃあな、ポチ。他のやつらも……ペット飼うのは初めてだったが、悪くなかった」


 『OCC』のサブマスター。

 デスゲームという世界に来てから、並外れた商機の見極めと恐れを見せぬギラついた笑みで大人すら圧倒し……しかし、本心では弱い自分を隠し続け、人外魔境に身を寄せて生き抜いた『普通の天才児』である彼は、この世界で自分を死の恐怖から護り続けた人ならざる『友達』に静かに別れを告げる。

 その時の笑顔だけは、この世界で誰も見たことがない、年相応の優しいものだった。


 キングは『OCC』秘蔵のドロップ品を(スコア)に変えてくると言って立ち去った。

 

 ライトはコンテナの所有権を取得し、設計図をストレージから展開する。


「メモリアルディスク。オーバー150『圧縮型工業地帯(ギガントファクトリー)』」


 コンテナから溢れ出た資材が変形し樹立するのは、まるで継ぎ接ぎの工場のような城……いや、城のような工場の方が正確か。

 スカイのオーバー150固有技。

 大量の資材を消費し組み上げ、そしてそれ自身を解体しながら消費した分の資材に見合うユニットを設計図通りに生産し続ける『巨大生産ユニット』。


 最初に生み出されるのは発射台、そして『(ミサイル)』としての使命を与えられた特攻ユニット。


「初撃から全力だ。ここで少しでも時間を稼げば、それだけ街の方でスカイの工場が造り出す防衛ユニットが増やせる……いくぞ! 自爆特攻ユニット五機生産完了! 『発射(ファイア)』!」


 ライトが工場の生成と同時に手の中に現れたマイクに指示を出すと、工場が『運転』を始める。ジェット発射により飛び出していく特攻ユニット。

 発射直後から聖王神聖騎士団が視線を飛来する特攻ユニットを捉えるが、混乱や動揺は見せず、逃げ惑うようなことはない。

 ユニットが一定距離まで接近する……その瞬間、同時に騎士の一部が一糸乱れぬ動作で弓を構え、特攻ユニットへ向けて矢を放つ。

 特攻ユニットは五機。その内、四機が矢の直撃を受けて空中で爆発。爆弾に組み込まれていた散弾が飛散しダメージを与えるが、直撃した一機ほどのダメージは与えない。そして、直撃した一機も神聖騎士数体にダメージを与えるが即死させるほどのダメージではない。しかし、目視により確認できる鎧の損傷はHPの減少よりも大きい。ダメージが通っていないというより、鎧がダメージを引き受けているような印象を受ける。

 なにより……


「足を止めたのは一瞬。しかも、敵が全滅すると非戦闘に戻って行軍再開。しかも神聖騎士の鎧が回復し始めるか……防御力がHPじゃなくて鎧依存なのは、遠距離からの爆発とかの『雑な攻撃』じゃなく鎧の隙間や負傷部分を狙う近接戦闘の方が倒しやすいってわけか……それに、聖王の近くの方が迎撃が正確だ。やっぱり聖王への遠距離攻撃が一番困るってことだな」


「つまり、やっぱり私たちがぶつかってくるのが一番と」


 そこにいたのは、『妖怪』を従えた大人の姿となった赤髪のNPC……『イザナ』だ。

 彼女の傍らには、接近戦に優れた『アワシマ』と『ヒルコ』が控えている。


「イザナ……今までありがとうな。モモを護ってくれて」


「感謝なんていりませんよ。私も楽しかったので……この世界では基本傍観しようと思っていたのに、お店を開いたり自分たちの稼いだお金で遊んだりするなんて思ってませんでした……うちの子が巻き込んでしまって、申し訳ありませんでした」


「さあ、何のことだか……じゃあ、エンディングの後で」


「はい! 必ず!」


 イザナが先頭に立ち、その影が波打つ。

 一日一体の『妖怪』というNPCを生み出すことのできるその能力は、『毎日増やされても養えない』という凡百からの要望で長らく停止されていた。そのため、『妖怪』の数はある時期から増加していない。

 しかし、長期間の『溜め』によって生産できる強力な怪異もある。


「今こそここに、神威を示します……『神成(カミナリ)』」


 かつて、神の威光の象徴とされた恐怖と畏怖の具現化。

 純粋な一度切りの『破壊力』に特化した『怪異現象』。溜め込まれたエネルギーに比した『雷光』が地面を走り、聖王と神聖騎士団を襲う。

 さらに、電撃によるスタンで対空攻撃が不可能になった瞬間に工場からの第二派が降り注ぎ、隊列を崩す。


「突撃!」


 二度とはないであろう大きな隙を逃さぬように発令された突撃命令。 

 NPCたちは走り出す。

 中には、戦闘型でないNPCもいる。ただ単に召し使いのようにプレイヤーに仕えていた者、愛玩ペットとして飼われていてレベルが上がらず……その主人を光の矢で失った者、今はなきプレイヤーと『恋』をしてしまった看護婦NPC。

 敵が万全な状態では一撃すら入れることができない者たちが、そして『命懸けで一撃入れたとしても』まともなダメージを与えようがない者たちが、暴徒のように襲い掛かる。


 その手に、毒薬を、酸の瓶を、爆弾を、呪いの呪符を、魔剣を、与えられた様々な武器を手に飛び掛かり、一太刀に切り捨てられ、盾で殴りつけられる。しかし、それでも手にした武器を死んでも打ち込む。


 ライトは、複数の記録アイテムでその光景を撮影すると同時に、自身の分析系スキルをフル稼働させて敵の戦闘能力(ステータス)を探る。

 味方の一撃、敵の反応、攻撃パターン、攻撃対象の優先度、属性攻撃への耐性強度。その全てを、一切見逃さぬように記録し、記憶する。


 聖王は戦闘能力の低いNPCは一切無視し、ダメージも受けない。周囲の神聖騎士に任せきりだ。

 だが、キングのテイムモンスターとアワシマ、ヒルコ、さらにそれを支援・援護し聖王に反支援(デバフ)をかける高レベルNPCが取り囲むと初めて剣を抜き、戦闘態勢を取った。


 受ける、斬る、突く、魔法攻撃、蹴り、周囲の神聖騎士への指示、連携。

 洗練された動作、高い戦術眼、練熟された戦闘センス。戦闘スタイルは、デスゲームの中で磨かれたプレイヤーの強さを極めたようなもの。その柔軟性の高さはただのAIとは一線を画す戦闘能力を示す

 しかし……戦闘の最中、胴体をぶつ切りにされながらも噛みついた大蛇の牙が鎧の隙間を貫いた瞬間、聖王にダメージが入ると共に、一つの予測の元表示してあったゲームオーバーまでのカウントダウンが僅かに『伸びた』ことが確認された。


「……よくやったな、上出来だ」


 NPCたちの攻勢は、初撃で作った隙を狙った瞬間的なもの。

 だが、神聖騎士団が立ち直ればそんなものは簡単に巻き返され、圧し潰されるだろう。


 ライトは、記録したアイテムを手にし、ここまできた中でほんの一握りだけの『プレイヤー』と、突撃に参加しなかったたった一人のNPC……『サキュバス』に告げる。


「防衛線の仕組みがわかった。神聖騎士へのダメージはそれほど意味がない。あれは聖王の護衛だ。重要なのは聖王へのダメージ……カウントが戻ったことからすると、聖王はダメージを受けると戦闘後に回復するまで行軍を停止する。だが、おそらくHPを全損させられないか、0からでも回復する。つまり、戦闘の問題はいかに取り巻きの神聖騎士を引き剥がしながら聖王を削るかだ……オレはこの記録アイテムを持ってすぐに街へ戻るが……」


「『工場』はプレイヤーが指示しないと動かないんだろ。それ貸せ、やってやる」


「……言っておくが、下手すればこの工場も攻撃対象認定されて死ぬ。彼女に任せても……」


「悪いが、俺はあんたらほどNPCを信用してないんでな。いいからさっさと渡して行け、時間が惜しい」


 そう言ってライトからマイクをもぎ取った男……石頭(いしず)は、彼自身が連れてきた仲間達に叫ぶ。


「いいかてめえら! 『冒険者協会』最後の仕事だ! 罠を張れ! バリケードを積み上げろ! ギリギリまでやつらの進行を邪魔し続けろ! 散々踊らされまくって潰れる面子もねえんだ! せめて最後に泥臭くゲームを長引かせてやれ!」


 『成り代わり』に侵食され、僅かにしか生き残ることのできなかった『冒険者協会』のメンバー。

 この世界への永住を、攻略の停滞を望んだ彼らは今、このゲームの終焉のため、ゲーム攻略のための時間を稼ぐためにここにいる。


「心配しなくても、ヤバくなったら逃げるさ……ただ、汚名返上のために、ギリギリのところまでやりたいってだけでな……さあ、さっさと行け」


「ああ……お初さん、危なくなったらぶん投げてでも逃がしてやってくれ」


 『サキュバス』の生き残り……『泡沫荘』の名義上の所有者であった『お初』は、笑顔で手を振る。


「はいはい、任せときなさい。まだちょっと日が明るいけど、それくらいどうってことないわ。まあ、あっちの攻撃は光属性もありみたいだからずっとは無理だと思うけど」


「じゃ、頼むぞ!」


 お初の返事を聞くや否や、ライトはゲートポイントへ向かって走り出す。

 本当に、一秒だろうと惜しい状況だ。情報を持ち帰り、対策を立てて迎撃準備も敵のスタイルに対応できるものにしなければならない。


 そして、残された石頭とお初は、並んで早くも傾き行く戦場を見やる。


「……意外でした。あなたがこんな役目を買って出るなんて。NPCを嫌ってるのに、NPCの死を看取ってくれるだなんて」


「ふん……この重要な場面をNPCに任せる方が危ねえだろ。まだ俺は、あんたのことも信用してねえんだぜ」


「あら、それは心外。じゃあ尚更、なんでここに?」


 しばしの沈黙。

 その後、石頭は目を伏せて答える。


「せめて最後くらい、世界の真ん中で戦ってやらねえといけねえかなって思ったから、かな。俺はずっと……『なんでこんなガキどもが』って思ってたんだ。仮想世界とかゲームへの慣れとか、反射神経の差とか、そういうのがあったとして……なんでこの世界の中心が、活躍するのが若いガキばっかりなんだってな。あの大家だってそうだ……天才共に懐かれてるからいい気になってんだろって、そう思ってた時もあった」


「なら……どういう心境の変化で?」


「……あの大家は、誰かの悪口を言ってるとことか見たことがねえんだ。それに、さっきの小僧も酒をいくら飲んでも酔わないんだと。商店街のギルマスは上手く歩けねえらしいが、それに不満を言ってるとこなんて一度も知らねえし、教会の子守女は見返りを求めねんだとさ」


「まあ……それは、みんな子供にしてはいい子たちという話ですか」


「いや、違うんだよ。やつらは、俺らが酒飲んで、悪口言って、愚痴溢して不満言って、サボってズルして楽しんで……そういう『無駄だが楽しいこと』とか『気分が楽になること』ってのを全部切り捨てていやがんだよ。悪いことや上手く行かなったことを他人のせいにしてみたり、酒で吐き出して忘れたり、他のことで埋め合わせたり……そういうのを一切せずに『じゃあ次はこうしよう』って、決まり切った方向にまっすぐ進み続けてるんだ。そりゃ、強くなるわけだよ。理不尽に責任を押し付けられたり抑え込まれたりする他人の下なんかにつけるわけがねえ……俺の知ってる、外の世界での常識が通じる『社会』なんてものは、ああいう規格に合わないやつらを弾いて枠に収まるやつらだけが集まった世界……ああいうやつらが、大人になるまでに見放して出て行くような狭い世界だったんだ」


 それは、ある種の『純粋さ』なのだろう。

 楽に生きるための妥協や誤魔化し、諦めや自己正当化。そういったものを認めず、自分のやり方を突き詰めて息切れするまで全力疾走する不器用さ。『協調性』というものと相反する『個性』の強さ。

 だからこそ、それを塗りつぶすだけの社会という『数の暴力』がないこの世界において、彼らは覆い隠されることなくその輝きを見せつけた。それだけだった。


「ガキが調子乗ってるわけじゃねえ。大人が頼りなくて、全然動こうとしなかったから、ガキが自分たちで世界を動かすしかなくなっただけだったんだよ。親がだらしないと子供が勝手に家事を憶えるみたいにな。ま、中には仮想麻薬なんてとんでもないもんを作っちまった分別のないガキもいたらしいが……そいつはきっと、親がそういうのを教えられないような、鳶が生んじまった鷹みたいなやつだったんだろうな。そりゃ、叱りつけてやれなかった親と、親みたいに叱ってやれなかった俺達が悪い……これから世界を変えていくようなとんでもないガキどもがこんな狭い世界で満足できるはずがないのに、そいつらを巻き込んでこの世界に居座ろうとした、勝手に外にある自分たちの世界への不満を戦わない理由にしてここに閉じこもろうとした『賢い大人』が悪い」


「……私の立場で言うのは変かもしれません。けど、数は少なくてもここにいる友人知人を守り抜いたあなたは、大人としてはそれなりに立派な人だと思いますよ。あなたはNPCを信用しなかったし、実際それは正しかったから『成り代わられる』こともなかった。あそこまではっちゃけて飛び出していくことはできないけど、人の上に立って守ってあげることはできる……そういうところ、好きですよ。自分より心が強いと思ってるあの子のことも、それでも大人として守ろうと思ってくれていたんですから」


「そりゃ、一つ屋根の下にNPCやら殺人鬼やら元犯罪組織やらがいたら、何かあった時には俺が守ってやらなきゃならんと思うだろ……たく、結局俺が生き延びたのもあそこにいたおかげなんだろうがな」


「ふふ……なーんだ。これまでずっとお世話になっちゃったお礼に何かしたかったなら、そう言えばいいのに」


「……うるせえ。そっちはどうなんだ。この世界が終わるってのに、お仲間があんなにやられてんのに、妙に楽しそうじゃねえか」


 お初は戦場から目を逸らさず、不敵に微笑みながら答える。


「そりゃもう、楽しいですよ……これでも私、子悪魔系の女の子ですからね」


 そこには、石頭が少年少女に見る『輝き』と同じ、未来だけを見据える光があった。


「神様への叛逆、運命への反抗、抗いようのない大きなものへ全力で戦いを挑めるなんて……楽しいに、決まってるじゃないですか。よければ、最後までお付き合いしていただけます?」 

 愚直な子供ばかりが活躍してしまう狭い世界で肩身の狭い大人枠の石頭さん。

 文字通り頭は硬くとも義理も硬い、脇役だけどこういう人だからこそ救えた仲間もいたというのを入れておきたかった。

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