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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第7章:エンドルート編

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371頁:レベルドレインに気をつけましょう

 長いこと温めていたこのゲーム最大のチートスキルの設定開示回(活躍回とは言っていない)。

 マリー=ゴールドの称号『救世主』、ユニークスキル『救世スキル』は一種の救済措置だ。


 その特性は、あらゆる局面での『詰み』を防ぐことができる能力……端的に言えば『必要な場面で必要なだけのステータス上昇が自動で行われる』という公式チートスキルだ。

 攻撃を受けても、その攻撃を完全に防ぎきるだけの防御力補正がダメージ発生前に行われる。

 敵の防御を貫通するべく攻撃すれば、相手の防御力を参照してそれを貫通するだけの攻撃力補正がかかる。

 攻撃の射程も敵が100m先にいようが、その位置を狙おうと思えばそれに必要なだけの射程を持つ攻撃が発射される。敵が隠密系のスキルを使っていようが、索敵能力にそれを看破するのに必要なだけの補正がかかる。他のスキルの技を使用する際のEPの不足なども補填が可能だ。

 パワー比べも、攻防力の競り合いも、駆け引きも、戦術もいらない。

 ただ、『使えば勝てる』。元のステータスなど関係ないから、レベルは1のままでいい。正真正銘の反則技。


 だが、その性能を発揮するには代償が必要だ。

 ゲームとしては順当な有限資源(リソース)の消費という代償……デスゲームという環境で、多くの場合命の危険を冒して蓄積された『経験値』を消費することで『必要なだけの力』が発揮されるのだ。

 そして、その経験値(リソース)の供給源は『「救世主」の称号を持つプレイヤーとフレンド登録をした全てのプレイヤー』だ。つまり、救済措置としての『救世スキル』はプレイヤー全体が一人のプレイヤーに全てを託すことで問答無用であらゆる障害を突破するという最終手段。もしも、ゲーム初期でプレイヤー全体が攻略を諦めかねないような事態が発生した場合……たとえば、最初のボス攻略でその時点での有力プレイヤーが全滅して士気が最低限に低下し、誰も街の外に出ようと思わないような状態に陥った場合。

 『ゲーム開始時に最も精神状態が安定していたプレイヤー』が『救世主』として生き残ったプレイヤー全てとフレンド登録を結び、さながらスタンドアロンのRPGゲームの主人公のように期待と経験値を一手に集め、単独でゲームを攻略するという戦法が取れる。


 もちろん、経験値(リソース)が尽きれば『救世スキル』の『使えば勝てる』という性能は失われる。供給するプレイヤー側もどのように効率よく経験値を安定供給していくかという方策が必要になり、それはそれで安全であろうと簡単ではないゲーム難易度になるであろうが、このデスゲームにおいてはその救済措置は使用されることなく、しかし同時にマリー=ゴールドのカウンセラーとしての対人能力によって多くのプレイヤーとフレンド登録が結ばれることで彼女は膨大な経験値を使用できる『最強の切り札』となった。


 『救世主』と結ばれたフレンド登録は、その相手がゲームオーバーになろうが機能し続ける。他のプレイヤーはフレンドとの連絡が取れなくなった場合、それがただの圏外か、アイテムなどによりプレイヤーネームを変更したのか、相手がフレンドリストを切ったのか、あるいは死亡したのかの区別がつかない。だが、マリー=ゴールドは死亡したプレイヤーが優先経験値としてリストに表記されるため生死の区別がつく。以前、ジャックが咲に自由を奪われて勝手にフレンドリストを消された際にも生存確認ができたのはそのためだ。死亡したプレイヤーの経験値から優先的に消費されるため、これまで稀に使用するだけなら攻略を進めるプレイヤーのレベルには影響がなかったのだ。


 しかし、現状その『余剰リソース』は尽きようとしている。

 非常に燃費の悪い戦闘による経験値消費は、目の前の相手との戦闘で深刻なレベルの消費を行っている。

 問題は、深刻な相性の悪さだ。


「『スパルタガッツ』でしたか……『痛みを蓄積させる代わりにダメージをゼロにする』。哲学的ゾンビと言えど、痛みの蓄積には数値的上限があるはずですが……どうにもなりませんか」


 『救世スキル』の光線や光弾による攻撃は強力だ。

 だが、それは本来救済措置としての機能の一部。そこにデメリットが……そして、同時にフレンド登録に応じたプレイヤーへのメリットがある。

 それは、フレンド登録が結ばれたプレイヤーへの『救世スキル』による攻撃はダメージも苦痛も大幅に減少するということ。味方への同士討ちを防ぎながら範囲攻撃ができるというメリットでもあるが、完全に敵に回った場合には対処が難しくなる。そして、マリーからフレンド登録を解除することはできない。


 マリーは先程から直接攻撃による痛覚蓄積を避け、周囲の建築物を破壊してその瓦礫などによってダメージを与えているが、ステータスの高さと反応速度のせいで有効打が与えられていない。


 無視してゲートポイントに飛び込んででも『少年兵(リトルボーイ)』を止めに行きたいのだが、花火のオーバー150固有技『タイマン・チェインマッチ』で一定以上離れると引き戻されてしまう。おまけに、ゲートポイントの出現地点には易々と転移ポイントに入れないように瓦礫の山というおまけつきだ。

 花火も目的は足止めまでだ。マリーが降参してここに留まるというのなら攻撃をやめるだろうが、それでは最終局面突入が止められない。しかし、戦闘が続けば経験値というリソースを浪費し、最前線のプレイヤー達の戦力が低下しかねない。これから最終局面に突入する可能性がある以上、レベル1の減少でも命取りになる。


「これまで攻略で役に立ってない同士で削り合って皆さんの足を引っ張るとか……はあ。むしろ、こんな戦力なんてなかった方が気楽だったんですけどねえ。ま、勇者にならなかった者同士、文句を言ってもしょうがないですか」


 ため息を吐きながら、被ダメージを避け空中からの遠距離攻撃に徹する。

 引き際を探りつつ、都合のいい奇跡を待ちながら。










《現在 DBO》


 現実世界、物質世界の自分が死んでいることは最初から薄々わかっていた。

 故郷の村には知られていないだろう。表の世界での事故や病気ではなく、裏の世界の極道とマフィアの抗争に勝手に首を突っ込んで、勝手に死んだのだ。死体はどこかの山中にでも埋まっているか、魚の餌にでもなったか……あるいは、売り払われて非人道的な研究にでも使われたか。


 まあ、自分の亡骸の行方などどうでもいい。死ぬ前に、縄張りを荒らして悪い薬を売っていたベトナムマフィアに攫われた組長の……友人の隠し子を奪い返して、組の若い衆に任せたのを憶えている。仁義でも杯を交わした親子や兄弟でもなく、ただの友人だったからこそ、自分だったからこそできたことだった。社会的に見て良い友達付き合いではなかっただろうが、自分だって元から立派な人間にはなれない性質だった。その暴力性を人を助けるために使えた。それだけで、後悔するには満ち足り過ぎていた。


 この世界に『再現』された自分は、死ぬ直前より少し若い自分だった。

 どうして自分なんかがこんな世界に再現されたかは未だによくわからなかった。他の『成り代わり』と呼ばれてる人間擬きよりも『役割』の強制力が薄かったのかもしれない。だから、特に活躍するつもりも何もなかった。


 それが変わったのは、今にも崩れ落ちてしまいそうな少女を見つけた瞬間だった。


(あ、こいつほっとくとヤバい奴やで)


 裏稼業の人間を何人も見てきた経験から直感した。

 この少女は、まだ道を踏み外してはいないが、一度踏み外せばどこまでも転げまわりながら周りを巻き込んで行く。普通の世界で普通に生きていけば、大した罪も犯すことなく普通に生きて普通に死ねるが、異常に触れてしまえば後戻りのできない人間。ある日、運悪く裏路地を覗いてしまったことを一生後悔するようなタイプの人間だ。

 先輩として、裏路地を知る者として、カタギの世界とそうでない世界の境界を知る者として、見過ごせなかった。


 それがきっかけだった……結局の所、それはきっかけでしかなかったが。


「飴ちゃんいるか?」




 『生前』に後悔はない。

 自分は自分なりに全力で生き切った。生き急ぐほどに生き切った自覚がある。

 しかし、それでも一度死んでみて満たされていなかった部分があったことを知った。


 弱い誰かを護りたかった。

 小さな世界の盾になりたかった。

 今なら、父親の気持ちがわかる。自分の暴力性を、自分の才能を、善いことに使いたかった。優越感や傲慢のためと言われれば否定のしようがないし、否定する気もないが、生まれ持った硬い拳に意味があると思いたかったのだろう。


 いつしか、守るべき世界は少し大きくなっていた。

 ギルド『アマゾネス』……ギルドマスターなんていう自覚はあまりなかったし、机仕事もほとんどできなかった。一度死んでから、新しい仕事を覚えるのが前よりも苦手になった気もする。けれど、不思議とみんな自分に付いて来てくれた。


 楽しかった……味わったこともないほど、幸せだった。

 だからこそ、罪悪感が募った。


 自分にこの世界を作ってくれた少女は……椿は、いつか現実世界に帰らなければいけない。

 けれど、自分はそこに帰れない。もう、帰る肉体はない。

 打ち明けようとしても、できなかった。役割が薄いと言っても、『成り代わり』である以上は自分から名乗ることはできないらしかった。それは言い訳として魅力的で、問題の先送りの口実として心地よ過ぎるものだった。


『僕からのお願いを聞いてくれるのなら、キミの正体を絶対に明かさないことを約束しよう』


 情けない話だ。

 しかし、結局の所、自分は人間全体にとって善い人間であるよりも、自分だけの小さな世界を護ることを優先してしまう『人でなし』を選んだ。


 椿はきっと、自分の正体がこの仮想世界の住人だと知れば現実世界への帰還を諦める。

 それどころか、この世界を少しでも長く存続させようと他のプレイヤー全てを敵に回してでも攻略を妨害するかもしれない。そして、きっとそれは叶わず、最後には命を絶つ。彼女がそれほどまでに恋に命を懸ける性質なのは知っている。

 それが彼女の良いところだ……悪いところでもあるが、やっぱり良いところだ。自分のような存在から歪んだ人でなしではなく、ちゃんとしたいい人間と付き合えば必ず相手を幸せにして、必ずその力になれる。自分にはもったいない、最高の良妻だった。


 最後に、できるだけ多くのプレイヤーを護って欲しいと頼んだのは、それが椿の未来に必要だからだ。

 良いことをしようと思えば、好きになる相手さえ間違えなければ、彼女はあれだけ多くの人を救える……きっと、彼女の活躍と功績を知る誰かが、これからの彼女を支えてくれる。


 結局、自分はどこまでも自分勝手で……自分の護りたいと思ったもの以外はそのついででしか護れないのだ。


「全く……そんなら、最初からこんな力なんて持っとらんければ気楽やったな」


 強制力が弱いと言っても、『成り代わり』として動かされたのは初めてではない。

 NPCとして、システム的な操作力には抵抗できなかったことがある。

 『成り代わり』の情報隠匿のために、同じく『成り代わり』としてこの世界に再現された少女……犯罪組織の少女を撃墜したこともある。

 おそらく、自分の役割はそういうことのためなのだろう。普段からレベルを上げ、カリスマを振りまいて大勢に影響を与え、そして飛び抜けたプレイヤーに対抗する。強制力が弱いと思っているのも気のせいで、上手く操られていることに気付かないだけかもしれない。


 望まない戦いとはいえ、手は抜けない。

 手加減の仕方を知らない。負け方がわからない。

 あるいは……単純に、まだ暴れ足りない。これが、強制力のせいなのか自分の性格のせいなのかわからないが、とにかく止まらない。


「はは、とんだ悪霊やで……いっそ、一思いにぶっ倒してくれたらいいんやけどな」


 マリーが手を抜いているとは思わない。

 上空からほぼ一方的な絨毯爆撃、慢心や手加減とはほぼ正反対の遊びのない戦法だ。

 しかし、それでもこのまま行けばその内に『勝ててしまいそうだ』ということが直感的にわかる。


 いや……そもそもとして、だ。


「あたしに勝てる奴、この世界(ゲーム)におるんか?」


 自慢ではないし、これまで特に隠していたわけでもない。

 ただ、立場上ゲーム攻略にも犯罪者討伐にも積極的に参加することができなかったために、今まで気にしたことがなかっただけのこと。


「『勝てん』って思ったやつ、この世界で一度も見とらんのやけどな」


 この世界に『再現』された時に何かをされたのか、あるいは『生前』では気付かなかったのかわからないが、花火の目には『未来』が見えている。

 『どうすれば勝てるか』『どう動けば負けないか』『どこに投げれば当たるか』、それがわかってしまう。少なくとも一対一で負ける相手は知らない。


 目の前のマリーは強い、すぐに倒す方法はないことがわかるが、『負けなければ勝てる』というのがわかってしまう。そして、その瞬間は……



「……そろそろ、潮時です。これ以上は、生きている皆さんからしかリソースを集められません……残念ながら、あなたの粘り勝ちです。花火さん」



 たった今だった。

 マリーは余力を残している。しかしそれは、ここでの勝利のために使うには割に合わないものだ。それくらいなら、最終局面でプレイヤー全体を護るために使った方がマシという計算。そして、花火もマリーがゲートポイントを通過するのを断念した以上、それ以上の決着をつけようとは思わない。


「それにおそらくは……もう、手遅れでしょうね。今から飛んでも、既に彼はことを成した後……全く、こんなスキルじゃなければ普通にレベルを上げて戦えたのに」


「そっか……悪いことしたってのはわかっとるで、マリー。もっと責めてもええんやで」


「実質人質取られて門番やってる人に怒りをぶつけてもしょうがないでしょう。それに……正直言って、予想外なんですけど。代わりに戦ってくれる人が来ちゃったので」


 大破してほぼ更地になった街に、足音が響く。

 どうやってここまで来たのか……大局を動かすには今更間に合わないのに、どうしてここへ来たのか。


「…………悪いな、遅くなっちまった。ま、そもそもおよびじゃなかったかもしれねえが……」


「「何で来た(んですか)、この(お)馬鹿は」」


「本気でお呼びじゃなかったみたいだなこりゃ」


 そう言って苦笑するのは、日本刀装備の戦闘職。

 このゲームのプレイヤーにおいて、最強を謳われる男。


「大方の事情は聞いた……死に目に会えなくて悪かったな、姉貴。見送りに来たぜ」


 『生前』の花火を知る、故郷の弟分……赤兎だった。

 簡単に表現すると『戦う相手より常に強くなる』という、どこぞの邪神球か最近アニメに出始めた右席の右手さんと同じタイプのチート(わかる人にはわかるネタ)。


 しかしその実態は『救世主』という名のゲーム攻略が精神的に詰んだ時に攻略の全責任を背負わされる外れクジ。


 しかも一度信用した味方に見放されたり裏切られたりするとどうにもならない仕様。

※リソースの供給弁は相手のみ所持

※フレンド登録した相手に攻撃時弱体化


 一応、『殺人スキル』が『殺した数だけ強くなるスキル』だったのに対して『救世スキル』は『味方(フレンド)の数だけ強くなるスキル』ということになっています。そして、殺人鬼の『金属防具以外の部分への攻撃に関して防御補正無効』の攻撃は有効です。

 もしも救済措置としての『勇者に全ての希望を託すルート』に入っていた場合、『殺人鬼』は安全な街中に籠もりきりの経験値供給源(フレンド)を抹殺でき、尚且つ補正なしではレベル1な『救世主』本人を一撃で殺し得るという天敵(強制)的なポジションになっていました。


 なお、マリー自身へさんへ入る経験値はストックして消費するか他人(フレンド)に渡すことができますが、燃費が悪いためにみんなのレベル上げに使おうとしても確実に赤字になります。



 実の所、チートスキルでありながらレベルが上がらない性質のためにマリーさんの足枷になっていた模様。RPGゲームの世界にいながら冒険を楽しめないというストレスの解消のために安全地帯で無垢な子供達(ロリショタ)を囲ってずっとイチャイチャしてました。

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