表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第7章:エンドルート編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

422/443

370頁:急展開に気をつけましょう

 あけましておめでとうございます。

 戦争において、『奇襲』とは常套手段であり、同時に極意でもある。


 規模の大小はどうあれ、相手の想定外の方向、手段、そしてタイミングで攻撃を仕掛ける。虚をつくというのは戦略、戦術、格闘、あるいは情報戦まで含めて相手に致命的なダメージを与えるために必要な手順だ。広義の意味では単純な正面衝突以外の全ての攻撃が奇襲と言えるかもしれないほどにそれは幅広く、そして研究されつくしている。


 しかし、それでも奇襲という言葉からまず連想されるものが戦術的用法、集団同士の戦闘に用いられるのは、集団の戦闘能力は如何に『呼吸を合わせるか』が重要なためだ。

 時代にもよるが、装備の整った軍の戦力を集結させ、全力で戦闘が開始できるようにするためには実際の戦闘時間の数十倍、数百倍、ともすれば数千倍の準備期間が必要となる。それが遠征などであれば糧食の確保やルートの決定、移動中の警戒を分担するための調整などでさらにその準備期間は伸びる。

 だからこそ、奇襲というものが最大限に機能する。

 同じ人員と軍事費(リソース)がかかっていても、『万全の準備が整った状態』と『準備が整わない状態』の戦力差が大きいからこそ、準備が整わない状態で受けた戦力損害は痛い。籠城戦においては城を攻め落とすのに城の中の敵の三倍の兵力が必要だと言われるのも、城というものが常に『万全の準備が整った状態』であるためだ。つまり、奇襲を受けるというのは三分の一以下の戦力で敵の全力攻撃を受けるに等しいのだ。


 ともすれば……本来は完全に準備を終えて籠城していなければならないタイミングで『自分たち以上の戦力を持つ敵軍』からの奇襲を受けたとしたら……それこそ、絶望だろう。


 それこそが『桐壺要』の快とする……小気味よい、絶望なのだろう。










《現在 DBO》


 ライトは『魔女の城』を出て、『時計の街』への帰還準備を進めていた。

 『冒険者協会』の戦力がほぼ壊滅した以上、もはや攻略を必要以上に遅らせる必要はない。ならば、本格的に『最終局面』に対する対策を用意するため、そして戦力を大幅に失った『桐壺要』を無力化するための策を会議する必要があるためだ。


 その会議の準備をメールでスカイに依頼しておいて……ふと、頭の中にコール音が響く。

 メールの受信とは異なるコール音だ。


「……どうした?」


 言葉に出してそう問いかけると、コール音は止んでよく聞き知った声……マリー=ゴールドの声に変わる。


『私は今、あなたの心に語りかけています』

「そういうネタはいい。どうせユニークスキルだろ。急な要件ならさっさと本題に入れ」

『あ、そうですか。ジャックちゃんの方はもう終わりましたか? 戦闘中ならかけなおしますが』


 どうやら、戦闘中である可能性も考えての出だしだったらしい。

 こちらの状況はある程度把握できているようだが、直接見える距離にはいないということだろう。


「ジャックの件は済んだ。あいつはリタイアしたよ……死んではいないが、自主的に無力化した。だから、後の問題はそっちなんだが……」


『そうですか。一応聞きますが、ちゃんと《血に濡れた刃》は回収しましたね? うわっ、おっと、すいません。危うく捕まりそうになりました』


「……マリー。そっちの状況を教えてくれ。一応『敵同士』なのに直接通信してくるってことは、緊急事態なんだろ」


『ライトくん、一刻を争うので早急に最寄りのゲートポイントに直行してもらえませんか? それと、それにかかる時間もお願いします』


「モンスターエンカウント次第だが全速力で二時間かかる。もう馬に乗った。要件を早く言え」


『第45エリアボスが撃破されました。そして、現在「桐壺要」さんと「少年兵(リトルボーイ)」はそのまま魔王国に進入。「魔王」を暗殺し強制的に最終局面イベントを発生させるつもりです』


「…………は?」


 急展開過ぎてライトもさすがに一瞬では全容を把握できなかった。

 タイミング的に読み切れていなかった……というより、これは完全な『悪手』だ。どういう形であれ、ゲームは早期決着する。終わりのないデスゲームという停滞を望んでいた者の打つ手としては完全にあり得ないもの……異常なまでの方向転換の早さだ。それもこのタイミング……『冒険者協会』の戦闘職がジャックと交戦し始める前からこの展開を導くため動き出していたとしか思えない。


『最後の二つのエリアはシステム的に特殊です。「飛び地」でのイベント功績点蓄積でダンジョン攻略などを経ずにエリアボスへの「謁見」が可能になります。本来はそこで交渉イベントが発生するのですが……その時に暗殺が可能なことがこれまでのイベントで示唆されています。ゲームクリアの裏技に見せかけたミスリードですが、彼はそれを意図的に踏もうとしています。「少年兵(リトルボーイ)」の単体戦力では難しいはずですが……「冒険者協会」の生き残りメンバーのほとんどが姿を消しています。おそらく、彼は「本」に洗脳済みの彼らを収納して「少年兵」を用いて輸送、そして解放と共に「自爆」させて攻撃に使っています。「少年兵」は爆発耐性が特に飛び抜けているので、人数さえ確保できればその方法で確実に敵を倒すことができます』


 『自爆』を用いた攻略。

 人間を確実に使い潰して一撃限りの強力な兵器として消費するデスゲームにおける禁じ手。もちろん、それだけに特化させたプレイヤーはボスの目前まで迫ることも難しいが、『本』という携行ポータルによって戦闘向きではないプレイヤーを運ぶことのできる『桐壺要』ならばその問題を解決できる。

 だからこそ、想定外の速度で第45エリアボスが短時間で討伐されてしまった。


「マリー! そういうのを止めるためにそっちに行ってたんだろうが!」


『ジャックちゃんへの対応で戦力を増やそうとする「成り代わり」を止めたりこっちはこっちで手が離せなかったんです! というか今も目下足止めを受けているから頼んでるんですけど! 「少年兵」を止められるプレイヤーなんて他にもういませんし!』


「赤兎は?」


『彼をこの段階で戦わせるわけにはいかないので「戦線(フロンティア)」と一緒に一般プレイヤーの防衛準備をお願いしています。他の人にも声をかけていますがジャックちゃんの騒ぎで浮足立ってて……ライトくんがすぐに転移できないとなると……』


 タイミングの問題だ。

 『殺人鬼ジャック』についての騒動、プレイヤー間での疑心暗鬼のピーク。その対応のために、ライトもマリーもこの急展開へ備える余力がなかった。

 おそらく、マリーの受けている『足止め』が最も致命的な計算外。この時のために『桐壺要』は万事を備えていたのだろう。あるいは、ゲーム停滞を狙っていたことすら、この最終局面を予測させないためのブラフとして。


「なら、メモリを『本』から出して転移魔法で……いや、対策されてるか。マリー、『泡沫荘』、『大空商社』、『OCCギルドホーム』は無事か?」


『正確にその場所かはわりませんが、ついさっき街中で複数の爆発があったみたいです。ダメージは発生していないようですが、他にもいくつかの場所が同時に爆発して軽いパニックが起きていて……それがより、プレイヤー全体の統制を乱しています』


「チッ、おそらく設置しておいた魔方陣は全滅か」


 メモリの『転移魔法』は強力な分、制限もある。あらかじめ設置しておいた魔方陣に転移できるが、その魔方陣にも有効にできる数に限りがあるのだ。

 魔方陣には転移時に障害物にぶつからないように一定以上の広さの空間にしか設置できないなどの制限もあり、探そうとすれば見つけるのはそれほど難しくはない。設置にも時間がかかるしトラップなどを仕掛けられれば致命傷になりかねないので定期的にチェックする必要があることを考えれば、ありそうな場所に心当たりをつけるのは難しくない。おそらく、爆発は実際に魔方陣が見つかった場所だけでなく、あり得る場所もまとめて吹き飛ばしたのだろう。


「マリー、おまえは今どこにいるんだ? どこで足止めをくらってる?」


『「雪像の街」、本州の北端です。ゲートポイントから転移しようとして待ち伏せされました。現在交戦中ですが……固有技で強制決闘に持ち込まれました。脱出困難です』


「一応聞くが……相手は?」


 マリーとの強制決闘で足止めができる人物。

 そして、それだけの力がありながら『桐壺要』の策に協力している『裏切り者』。

 それは……










 少々時は前後する。

 『時計の街』をはじめとするプレイヤー密集域での連続爆発。

 最近の噂から、とうとう殺人鬼ジャックが街中での大量殺戮という暴挙に出たかとパニックに陥る無力な生産職プレイヤーたち。

 そんな中、その混乱を押しのけるように、拡声された声が響く。


『皆さん! 非常事態です! これより、襲撃イベントの発生が予想されています! 今回のイベントはこれまでにない激戦が予想されています! そのため、あなたたちは我々「同盟」の誘導に従って、最も防衛の準備の整った「攻略連合」のギルドホームへと移動していただきます! 生き残りたい者は全員、私たちの指示に従ってください!』


 それは突発的かつ独裁的な強行だった。

 『同盟』の中心たる『大空商店街』にも決行の連絡のみで承諾の返事すら得ていない独断専行。『攻略連合』とそれをたきつけた『アマゾネス』の暴挙。圧政の前科のある『攻略連合』が与える恐怖すら利用して、人々を強引に防衛拠点へと導く扇動。


 その中心人物は……『アマゾネス』のサブマスター、椿であった。


「これでいいんですよね……」


 彼女の目に迷いはなく、後悔も躊躇いもない。

 これが自分のすべきことだと信じて、後に責任を問われる可能性があろうともそうすべきだと確信して行動している。

 全ては、僅か数時間前に受け取ったメッセージのために。


『信じてもらえんかもしれんけど、これからとんでもないことが起こるんや。たぶん、弱いやつらは護ってもらえんと誰も生き残れん。詳しいことは説明できんけど……本当のことなんや。だから、本当に一生のお願いや。何も聞かず、皆を動かして、プレイヤー全部安全なところで押し込んでおいてくれへんか? 一時間でも、一分でも早く、一人でも多く。あたしはこれから、ちょっとせないかんことがあってできんからな……頼むわ椿。みんなと一緒に生き残ってくれ。生き残って、みんな守ってくれ……こんな不器用なあたしを、許してくれとは言わへんけど、信じてくれたらうれしいわ。また会えたら……この世界の外側で、また会おうな』


 彼女が何を知っていて、何故それを話せないかなど知らない。

 どうして、もうこの世界では会えないようなことを言うのかも知らない。

 けれども……ただ、その願いだけは確かに伝わった。


「逆らう人には手荒なことをしてもいいから……とにかく、一人でも多く『城』へ」


 それだけで十分だった。

 椿を動かすものは、それ一つで十分だった。









 同刻。


 本州に対応したゲームエリアの北端に位置する『雪像の街』にて。

 マリー=ゴールドは光の翼を以て宙に浮き、小規模の光輪を大量展開して光弾の雨を降らせる。


「一応、言い訳じゃないですけど、あなたが『成り代わり』……それも、ゲーム開始時点からプレイヤーに混じっている『特殊な個体』であることはわかっていました。しかし……あなたは、最後まで『プレイヤー』として活動し、正体を明かさずに静観してくれると思っていたんですよ。だからこそ、こうして裏をかかれたわけですが……やっぱり、彼女のためですか。私の予想では『協力しないと正体を明かす』と脅されたところであなたは大して堪えないと思っていました。増殖せず人間に成りすますだけというタイプの『成り代わり』の存在意義としては、このタイミングで正体を露見されたところで問題はなかったでしょう? もう、『成り代わり』という概念も広まり切っていて、その上でこれまでほとんど正体を見破られずに隠し通せたんですから。正体を明かされたところで実験終了として運営サイドに帰るだけ……わざわざ、『プレイヤー』として不自然な行動をすることはないと思っていたのですがね」


 光弾の雨は街並みを破壊する。

 だが、その中から飛んでくる『弾』……高速回転しながら飛んでくる『鉄球』が光輪を次々に破壊する。


「……愛、そして恋というのは本当に、時に予知される未来を簡単に塗り替えてしまうものですね。ある意味、あなたはプレイヤーの方針に合わない行動をして、このゲームに参加した偽物としての『成り代わり』として最も上手く行った成果を棒に振っている……けれど、その不合理な行動原理こそ、最も人間らしい。まったく、桐壺さんは相変わらず……人間に酷いことばかりするくせに、私よりも人間のことをわかっているんですから。後は自分自身のことをもっと理解してくれればいいのですけどねえ……」


 マリーの顔面に直撃する鉄球。しかし、それは顔の表面スレスレに触れる前に弾かれ、地に墜ちる。

 攻撃は届かない……しかし、効いていないわけではない。マリーのユニークスキルのために消費されるリソースは、着実に消費されている。

 まずい展開だ。このリソースの過剰消費は、マリー=ゴールドというプレイヤー個人の敗北よりも避けなければならない。


「どうしても、通してもらえませんか……花火さん」

 年末年始の休みで勢いをつけてストックをチャージしました。

 ここから、終局へ向けて畳みかけていきます。

 どうぞ、ここまでお付き合いの方は最後までよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ