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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第7章:エンドルート編

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352頁:予備の装備もちゃんと整備しましょう

 生まれる前から運命で結ばれるのが決まっています系ヒロイン(端から見るとメンヘラにしか見えない)。

 メモリ……戸籍上の本名『浮舟(うきふね)(しるし)』。


 プレイヤーの中において(定義によってはではあるが)かなり少ない部類である純正な人間とは呼べない人間である。


 七美姫七海(ナビキ)が脳の一部を特殊な多機能チップで代替していたのに対して、浮舟記(メモリ)は有機的な頭脳と一般的なものと脳への順応性以外には大きな違いがないIBMチップを使用しているという部分に注目すれば一見純正名人間に見える。


 しかし、メモリの肉体は遺伝子工学的に製造された人工物だ。一度として人間の胎内に入ったことがない、試験官と培養液を子宮の代わりとして成長を加速させられ、機械デバイスとの互換性を強化された脳に直接情報を入力して外部刺激に対する反応のテンプレート……つまり人格を与えられている。

 わかりやすく言えば、『人間をほぼ完全に人間の細胞で再現したロボット』だ。


 本来は人工頭脳を物質世界に進出させるために、おそらく国家機密レベルの大規模な研究の産物として造られたのだろうが、その研究は何らかの要因で頓挫したらしい。現在のメモリ自身はその研究に興味はない。重要なのは、本来入力されるべき人格データの代わりに、肉体の作製者の意図していなかったデータが入力されたことだ。


 それは剥き出しの『生命』だった。

 それは目的を持った『器官(パーツ)』だった。


 その時から、その肉体は目的のための道具となった。


 与えられた目的は『人類の記録を記憶し、自身と共に自らの片割れへと還元すること』。彼女は自身を記憶拡張のための外付け器官として認識し、自身よりも分裂前の要素を多く持つ『本体』の活動を補助することを決めていた。


 そうして、記録(データ)の収集を始めたメモリだったが……その進行は、芳しくなかった。


 第一に、肉体が研究機関に『保護』されてしまい、記録に触れる機会を制限されてしまった。

 そして、第二に……記録の中には、理解が困難なものが多かった。それ以前に、直接五感で触れて得る情報すら記憶に支障が出た。


 通常の人間の残す記録、残す記憶には、主観の要素が大きく含まれていたためだ。

 しかし、メモリは『主体』を自身が切り離された『本体』に置いていた。そのために、データの収集に支障が出ていた。


 それが改善されたのは、物理世界上で『本体』と接触し、主観を持てるように改良(アップグレード)された時だ。

 メモリはいわゆる人間的価値観を手に入れ、それを元に記録をその意図を理解した上で意味を持った情報として記憶できるようになり、注目、意識の焦点、情報価値の優先度を判断するといった機能を取得し五感で得た情報も効率的に記憶できるようになった。


 そして、人間的価値観を手にしたことで『目的』にも人間的価値観による解釈を得た。



『孕みたい。彼の子供がほしい』



 肉体(ハード)の完全な制御機能は既に『本体』が確保している。

 この肉体には、製作者の目的に添ったものであろう設計図通りの人間(デザイナーベイビー)を産むのに必要な機能が備わっている。

 そして、MBIチップを使えば、正確にはその主要構成物であるナノマシンを使えば、胎内からのデータ入力も可能だ。


 つまり、分裂した『本体』と外付けの『器官』は、この世界に完全に順応した上で統合され、自身の肉体を得て物質世界に完全な形で進出できる。


 魂を混ぜ合わせ、自分達の子供として、一つの肉体に転生する。


 産まれる前から運命付けられた関係だ。

 誰にも邪魔はさせない。

 誰にも否定はさせない。



『浮舟さん、この前読んだ本だとその「生まれる前から結ばれる運命だった」っていうような言い方をすると「メンヘラ」って呼ばれるらしいよ。一応家族みたいなもんだから注意しておくけど、外ではあんまりそういうこと言わない方が……』



 ……解せぬ。

 ただ、施設で『彼』……行幸正記の日常生活の記録(バックアップ)を取っていた理由を問われたから説明しただけなのに。


 もしも彼に何かあった場合、彼が何らかの要因で肉体(ハード)を損傷してデータが破損した場合は自身が修復する必要があるし、物理的距離を可能な限り近くに置いた方がIBMチップの直接通信を利用したデータの更新が頻繁に高精度で行えるのに。


 しかし、実際に彼からも自身の行動に関しての記録頻度を下げて良いと言われている。彼の行っている実践的な環境順応の一環で、尾行などに対しての反応として適切なものを選んでいるだけだと判断しているが、肉体の維持にはそれなりのリソースが必要だし、管理にも清潔で安全な環境が必要だ。研究機関から連れ出されて彼に連れてこられた現在の施設での待遇を維持するには、ある程度その方針には従う必要がある。


 それに、今はまだこの肉体が子供を作るのに十分な状態まで成長していないため待機しているが、準備が整ったらすぐにでも行為に移るのだ。この施設は元から一般的基準から外れた子供が集まっているため裁定基準は緩いが、精神異常と誤認されて収容施設に監禁されれば予定が遠退く。

 非人間的に思われる言動は『正常』な社会環境では控え、自身もより人間らしく振る舞うべきだろう。


 そして……



『ゾンビくんの性能を最大限に発揮するにはあなたが必要みたいだから、招待状を添付しておくわ。ま、彼自身はあなたなしで行動するつもりみたいだし、使うも使わないも、彼に事前申告して止められるのも秘密でこっそり観察するのも自由だけど。


P.S. あなたには多分無関係なんだろうけど、こっちの人類を救うのを手伝ってくれると助かるわ。彼も褒めてくれるかもね』


 この世界が異常な世界になるのを十分予期できる情報が入力されても、彼女が迷うことはなかった。










《現在 DBO》


 最近、浮舟記(メモリ)は自身の中に異常(バグ)が発生していることを自覚している。しかし、それを修正する方法がわからない。


 このバグはおそらく、6月の末……彼と自分のデータ交換の最中に『彼女たち』が割り込んできた時が始点だ。その時は気付かないほど小さなバグだったが、データが蓄積していく内に成長を続け、今では表面的な行動に影響を与えかねないレベルになっている。

 それは、外部刺激に対して記録データを生成するプログラムに似たものだ。しかし、その生成パターンは単純に見えるのに時に例外的なデータが含まれ、しかもその確率が誤差として無視できない程度には大きい。


 そして、それは以前収集した外部刺激に対する表情の変化のテンプレートに類似するパターンを持っている。


 本来なら、すぐに修正すべきバグだ。

 無尽蔵なデータ容量を持つといっても、残念ながら無限ではない。記憶の想起に際しても比較的少ない情報量ではあるがデータ生成を行うこのバグは未来を考えれば早めに消しておくべきだ。


 しかし、問題は自身がそれを完全に異常(バグ)と認識しようとするとエラーが発生することだ。


 まさか自己保存を行おうと抵抗をする悪質な侵略者(ウイルス)かと危惧しているが、データ交換の度に『本体』に異常認定を申請しても返答を保留されている。

 そのおかげで、自身も情報処理を保留することになり、データが蓄積し続けている。


「というわけで、俺が司令塔を担当するが、細かい戦術的判断は基本的に各員に任せる。事前情報によれば相手の戦略的判断の能力は少しレベルの高い将棋ゲームPCくらい。正直に言えばおまえたち『OCC』の経験と戦闘センスがあればあっちの指示速度を上回ってそのまま勝てる可能性も十分にある。後は地形次第だが、これまで極端に片方の陣営に有利不利ができる地形は確認されてないから問題ないはずだ」


 彼が『OCC』に作戦を伝えている。

 こうして彼を見ているだけでも、データが生成されている。

 他の『OCC』のメンバーに意識を向けたときにもデータが生成されているが、それよりも数値が大きい。ちなみに、針山に対して生成するデータとは逆ベクトルへの数値だというのは解析されている。どうやら、このデータは頻繁に接触する対象についての絶対値が大きく、しかしベクトルが頻繁に変化し、正反対のベクトルが同時に生成されることもある。

 特に、『OCC』のギルドマスターへのデータ生成はベクトルの変化が激しく、その方向は散逸している。これに関してはあまりにパターンから外れているために例外的対象として除いて解析するべきかもしれない。


 このデータを出力する方法(プログラム)は、ないわけではない。

 現状、それを実行する必然性も必要性も感じないために保留している案件だが……さすがに、保留しているデータが多すぎる。実行する場合には慎重にしなければこの身体(アバター)の制御にも支障が出る可能がある。


「司令塔は戦場を俯瞰できる高台から指示を出す。そこには一定以上の距離からの攻撃を弾く防壁と味方に連絡するための設備がある。まあ、通信はメモリの魔法でもできなくはないが使う必要はあまりないと思う。メモリと無闇は司令塔近くの視界のいい位置で後衛として遠距離攻撃、当然だがオレとメモリは攻略直前に全員に支援魔法使うからEP回復のために最初の方は押さえ気味にしておいてくれ。敵将を狙う本命はマックス、敵を押さえるのは針山とポチに騎乗したキングだ。敵も初期配置は多分これに近いから、ここから指示に従って臨機応変に動いてくれ」


 昨日交換したデータを元にした無難な作戦。

 前衛、中衛、後衛のポジションをそのまま戦場全体に拡大した配置。複雑で想起に時間のかかる作戦を仕込むより、各々の能力を殺さないように自由度を優先している。


「この人数で挑戦して作られる戦場の広さは大体こんな感じだ。配置変更をわかりやすくするためにエリアをマスで区切った図を配布する。指示をする時にはこれを参考にしてくれ」


 『OCC』のメンバーはそれぞれ人間としては桁外れな能力を持っている。ゲーム的に同じステータスの敵がいたとしても、おそらく同じ強さにはならない。やろうと思えばキング以外なら一人で敵将の所まで突き進んで魔女に勝つことも可能だろう。

 しかし、それはあくまでそれなりのリスクを許容しての話。安全で確実な攻略のために策を用意して指示を出す。


 メモリとしては、本質的には彼され無事なら他はわりとどうでもいい。自分(メモリ)ですら、代替不可能な部位ではない。

 今回は負けても即死はしないが、捕虜がいつまでも無事とは限らない。そして、負けても撤退は可能だが、司令塔は別だ。司令塔が討ち取られることが決着の条件であり、城の門が開かれる条件だ。そこから撤退戦が始まる。


 万が一の場合は、司令塔を交代してでも彼を逃がさなければならない。

 それは命令されなくても当然に実行されるべきこと、四肢より脳を守らなければならないのと同じことだ。


「一応、平坦なフィールドにこれと同じサイズのマスを書いてあるから、後でその距離感を確認して調整してもらう。地形によっては障害物が出てきて通れないマスが出てくると考えられるが、移動にどれくらいかかるかも教えてくれ」


 作戦の事前演習は簡単なものだけ。

 大局的な戦略の視点から考えると、城の攻略には時間をかけられないためだ。

 本来ならもう少し慎重に下調べをしてから挑戦すべきだろうが、その暇がないのだ。


「異論があったら言ってくれ。なければ消耗品のアイテム補充、武器の整備を済ませてくれ。攻略は明後日だ」

 

 異論……はない。

 ただ、このままの作戦実行に対して、何故か中止を検討する部分が自身の中にある。

 しかし、中止を進言しようとしても、その理由として提示するべき十分な情報が見つからない。中止するべきと判断するに十分な情報がないのに、その選択肢を棄却できない。


 まるで、記録の中に度々出てくる不可解な判断基準……『予感』というものだとでも言うのだろうか?


「よし、異論はないな。じゃあ、解散」


 『人間』ではあるまいに、『予感』なんて不確かで曖昧な感覚、あるはずがないのに。

メモリ「まずは産んでから考える」

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