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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第7章:エンドルート編

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350頁:重い過去に気をつけましょう

 ごめんなさい。

 旅先からスマホで投稿しようとしたらまともに電源すらつかないというアクシデントが発生したため投稿が遅れました。

 まことに申し訳ありません。

 これは、どこにでもいるような、少々はぐれ者気味な男女のカップルの話。

 少し容姿が優れていることで驕っていた女と、他人より力持ちだった男の話。


 女は生まれつき、美しい容姿を持っていた。

 男を欲情させ、身体をちらつかせて期待を煽り、手足のように扱った。気に入らない他の女をいじめ、蹴落とし、辱める。控えめに言って悪女と呼ばれる類の女だった。

 言い訳が許されるなら、それは彼女が夜の仕事をして収入を得ていたシングルマザーの母親の背中を見て学んだ『正しい生き方』だったことを挙げるべきだろう。彼女は父親を知らず、健全な男女の関係というものを知らず、本当の愛というものを知らず、愛し合うという概念を知らなかった。知識としては知っていたが、実在するとは知らなかった。


 だが、その女はある日、一人の武骨な男に出会った。

 自分に無関心で無愛想な男。図体は大きいくせに物静かで、いつも黙々と仕事を片づけていた寡黙な男。

 正直に言って、どう扱えばいいかわからなかった。自分が魅力的であるはずの振る舞いをしても、誘いをかけても、振り向こうとしないのだ。


 別に害がある訳ではなかった。

 見る目のない男と、無視すればよかったはずだった。

 なのに、いつしか女はその武骨で面白味のないはずの男に執着していた。


 そして、男もまた、しつこく関わろうとしてくる女に口を開くようになっていた。


 そこから先は、ありふれた話だ。

 本物の愛を知らなかった女は、困惑しながらも本物の愛を知り、心の壁の厚かった男も、ゆっくりと心を開いていった。

 そして、恋に落ち、女はそれまでの振る舞いを改め愛に誠実になった。



 ただ一つ、悲劇のきっかけになったのは女が何も知らなかったことだ。

 女の魅力は、本人の思っている以上で、女の周囲にいた男たちは女が思っている以上に本気だった。



 女は祝福されると思っていた。

 本物の愛を知り、恋に落ち、浮かれていた。盲目だった。

 男たちが自分に向けているのが、自分の幸せを祝福してくれるような純愛ではなく、もっと獣に近い劣情であることを、古い男女観と共に忘れてしまっていた。


 男たちは今まで散々貢ぎ、従いながらチャンスを狙っていた女が突然どこからから現れた面白味も何もない男に盗られたなどと言われて、冷静でいられるわけもなかった。


 女の最大の落ち度は、本当の愛を預け恋人となった男をその場に連れてこなかったことだろうか。

 自分が、周りにいた男たちのものにならないことが確定しても変わらずアイドルでいられると魅力を過信していたことだろうか。


 結果として、女は獣欲を暴走させた男たちの恐ろしさを知った。

 そして……


『…………すまない』


 愛しの男が、寡黙だった理由を知った。

 それは、難しい理由ではなかった。ただ、彼は天性の肉体を持ち、鍛えたことがなくとも、そこらのアスリートやボクサーより力が強かったというだけの話だった。

 そして、彼が限界を超えた激情に耐え、力を加減できるタイプではないというだけの話だった。


 男は、女がかつて従えていた男たち、6人を殴殺した。

 夜道で背後から襲いかかるような小細工も、一人ずつ呼び出して順番に相手をするようなフェアネスもなく、単なる素手の喧嘩で、一人残らず殴りつけ、相手は死んだ。勝手に死んだ。単に感情的に力一杯殴っただけで、倒れた彼らは二度と起きあがらなかった。


 殺す気はなかった。

 許す気もなかった。

 生かす気もなかった。

 何も考えず、感情を抑えられず殴った。

 ただ、それだけだった。


 その後の顛末には、語るほどのことはない。

 一夜明けて男は普通に警察に出頭し、殺害に至った過程に関しては考慮すべきものがあるものの、その殺害数は赦されるものではないとして、裁判の後に絞首台へと上がることとなった。



 そして、女の胎内には子供が遺された。



 女にとっては、胎内の子供が愛した男の子供であると固く信じることだけが、生きるために縋るべきものとなった。


 しかし、しばらくして育ちゆく子供を調べた女を、ある事実が苛んだ。


 子供は双子だった。

 男女の双子。二卵生の双子。


 一人なら、その子を愛した男の子供と信じて生きていけた。

 しかし、二人となるとそうもいかなくなった。


 もしも、片方が愛する男の血を引く子供で、もしももう片方がそうではない子供だったりしたら?


 DNAを調べて確認すればいいというわけには行かなかった。

 もしも『どちらも彼の子供でない』と確定してしまったら、彼女は生きていけなかった。


 だから、決めつけた。

 少しだけ成長の早かった男の子の方を、『彼の子供ではない方の子供』と、そう決めつけた。


 そして、闇医者の元で男の子だけを堕ろし、残った女の子だけを大切に産み、育て上げた。


 女は、子供が物心つかない内に山間の村に移り住んだ。我が子が犯罪者の子供と迫害されるのを防ぐためだ。

 村の名前は通称『八分村』。

 加害者遺族、被害者遺族、そんな世間やマスコミの玩具にされて傷付いた人々が集まった、情報的に隔離されていた村。


 そこで女の子は、伸び伸びと育った。

 誰も村の外での経歴を詮索せず、自分たちの親がどんな人間だったかを知らない者も多い村で、彼女が自分の父親のことを知ることもなかった。


 ただ、彼女が成長を、特に肉体的な丈夫さを自慢すると母親が大いに喜んだことを良く憶えている。


 初等部の時、男子全員に腕相撲で勝ったと自慢すると、ご馳走を出された。

 中等部の時、二十代の教師にも腕相撲で勝ったと自慢すると、誇らしげに頭をなでてもらえた。

 高等部の時、握力計を壊してしまった報告をしたら泣かれた。


 そしてある日、山奥に迷子になった初等部の後輩を探しに行き、その時に樹の上に逃げた彼を襲おうと待ちかまえている野犬を見て……彼女は、初めて自分の中に眠る『暴力の才能』を知った。


 野犬を殴り殺し、自分の拳が動物の頭蓋骨を陥没させるだけの破壊力を持ってしまったことを知った。

 自分が感情に呑まれると、力を制御できないヒステリックさを持つことを知った。


 そうしてようやく、彼女は父親の生き様と死に様を知ることとなった。


 村を飛び出した彼女は、母親が頼った闇医者を問い詰め、産まれることのなかった『兄』が同じ父母の子であったことを知った。闇医者は闇医者ではあったものの悪人ではなく、両方とも父親の遺伝子を持つ子だと告げたが、母親はそれを信じられなかった。それこそ、闇医者の同情や堕胎を止めるための嘘である可能性を捨てきれなかったからだ。

 それに、愛した父親以外への『男』への強い恐怖があったことも知っている。万が一の可能性でも、娘と『男』を一緒に育てることができなかったのだろう。


 つまり、彼女は産まれるために実の兄を殺していた。

 母親の愛を得るために、間引きをしていた。


 その感情は、どこへ行けばいいかわからなかった。


 一番悪い6人の男たちは、既にその罪の清算を命で終えている。

 父親も、法の裁きの下に命を支払っている。

 母親も、生きるためにはそうするしかなかったと知っている。長年愛されて生きてきて、その苦労を知っている。


 村には帰れなかった。

 村では、子供にはよくわからない法則で許婚が決められる風習があったが、村の外で名前を検索すればすぐにその法則がわかったのだ。


 被害者遺族と加害者遺族、悪人の血筋と善人の血筋を混ぜることで、その性質を中和し、その区別を有耶無耶にし、共存するための風習。

 血を清め、血を汚し、均すための風習。

 幼い頃から共に育った許婚の、血を穢すための風習。


 もはや、何が正しく何が間違っていたのかなどわからない。全て終わったことだったのだから。


 だから彼女は、前を向くことにした。

 ひたすら前へ、過去を振り切るように前向きに。

 もはや清も濁も関係なくなった彼女に、生きられない場所はなかった。


 皮肉にもと言うべきか、彼女の受け継いだ天性の肉体は彼女をいつでも護ってくれた。あるいは、自分で身を守れるようにと父親が自分に遺してくれたものかもしれなかった。

 そうして、生きる中で一つの折り合いをつけた彼女は……この、『デスゲーム』の世界に来てしまった。


 殺し殺されが簡単に発生し得る、狂乱の世界に来てしまった。


 彼女は、確信してしまった。


『あ。あかんわこの世界。あたし、絶対どっかで人殺すで』










《現在 DBO》


 花火から生い立ちを聞いたその日の深夜。

 一度ギルドを出て再侵入したライトは、椿の部屋にいた。


「というのが、花火の隠していた来歴らしい。じゃ、後は自分でなんとかしてくれ。なんならリアルに帰ってからでも住所とか探せるくらいの情報だろ」


「ちょっ、それそのまま私に言っちゃだめなやつじゃないんですか!? ていうかあまりの重さに最後まで聞き入っちゃいましたけど!」


「文句言うな。こんな思い事情他人がとやかく言ってどうにかなるわけないだろ。ま、一応俺も『椿は殺人犯の親がどうとか気にしないと思うぞ、多分、きっと、高確率でな』ってフォローしといたが」


「なんで最後に不確定性を底上げするようなこと言うんですか! 普通に断言してくださいよ! 私は別に花火さんが世界征服をもくろむ組織の幹部だろうと気にしませんよ!」


「それはそれでどうかと思うが……どちらにしろ、後は椿の問題だ。別にオレはどちらの味方なんて決めてないし。その想いをうまく伝えて止めればいい。できなきゃ別れる。それだけのことだ」


「うー、この人冷たい」


「誤解や嘘での破局を防いだだけで感謝しろ。それとも、オレに花火の心を操って、椿にくびったけにさせてほしかったとでも?」


「いえ……それはないです。そうですね……ご協力、感謝します」


 飽きられたわけではなかった。

 あくまで、椿を気遣った結果の行為だった。

 そうわかれば、諦めずに済む。

 そう心を持ち直させる椿に、ライトは思い出したように言う。


「そういえば、椿に言っておくべきことが一つだけあったか。花火から聞いた話とは別に」


「なんですか?」


「『鉄は熱いうちに打て』ってやつだ。動くのは早い方がいい」


「えっと……つまり?」


「謎が解けたからって、問題を解決しなきゃ何も変わらないってことだ。時間は待ってくれないってな」







 その翌日。


 『大空商社』の地下室で各エリアから集まったクエストの攻略法を考案して書類の山に加えていたライトに、スカイから声がかけられた。


「ライト、今さっき、『アマゾネス』から連絡が来たわ。ギルドマスターが……」


「『花火が消息を絶った。ギルドの序列的に生きているはずだけどどこにいるかわからない』だろ」


「……こうなるの、知ってたの?」


「椿には一応警告はした。動くなら早い方がいいってな。しかしまあ、それでも予想より早かったがな」


「……どうして、こうなったの?」


 スカイの疑問に、ライトはあっけらかんとして答える。


「花火の特別な所は、異常発達した腕力なんかじゃない。悪漢卑劣を赦せない正義漢な所だ。椿にとっての生き残るための生命線が椿だったように、花火にとっての殺さないための生命線が椿だったんだ」


 花火は理不尽を許容できない。

 だからこそ、無法地帯になったデスゲームで人を殺すと確信した。だからこそ、一人では生きられない椿を護ることで、そのために多くの悲劇を見て見ぬ振りをするという大義名分を得た。

 椿は花火の抑えきれない強さに惹かれ、花火は椿の拠り所がなければ生きていけない弱さに惹かれたのだ。


「だが、『攻略連合』の一件で『成り代わり』のことはプレイヤー全体に知れ渡った。花火にその手の話を聞かせないようにしてた椿にも隠し切れないくらいに。そして、今の『冒険者協会』はほとんどがおそらく成り代わりだが、その一部にはまだ人間のままのプレイヤーがいる。もしも花火がそれを知ったら……まあ、我慢できないだろうな。だが、それで本格的に動こうとすれば、椿という『弱み』は切り捨てる必要がある。お互いのために」


「見ず知らずの不特定多数を救うために、一番身近で大切な女の子を泣かせて別れ、一人戦場へ……ね。まるでどこかの物語の主人公ね」


「ヒーローはヒーローであろうとした時からヒーロー失格だなんていうこともあるが、花火の場合は根っこの気質の問題だ。ヒーローでもなきゃ、本当にただの暴力、人殺しにでもなるしかない。その力があって、それを悪用するような性格ならただの暴れん坊として楽に生きられるが、困ってるやつ、虐げられてる弱者、そしてその構図と理不尽を赦せない。そんな主人公気質なやつ、オレみたいな小細工しかできないやつにはどうにもできないよ」


「で、どうにもできないから椿に丸投げして帰って来たと」


「花火の行動は結果的に『冒険者協会』の和を乱して攻略速度を落とすことに繋がる。だが、最終局面になればプレイヤー全体を守るために攻略に参加するだろうな。その時、ラストバトルの難易度が高ければ花火が死ぬ可能性は上がる」


「なるほどね、花火を死なせないためには、椿はこっちのフラグ回収を手伝うしかないと……客観的に見て最低ね。ま、どうにもならないものをせめて最大限に利用しようってだけなんだろうけど」


「椿にも言ったが、オレは椿の代わりに怒ったりはしても、椿の味方ってわけでもないんだ。このゲームをクリアするためなら、犬も食わない痴話喧嘩だって食ってやるよ」


 ライトは、書類の山の最後の一枚を積み上げ、日に焼けた帽子を被る。


「さあ、布陣も整ったところで行動開始だ。スカイ、後衛(スポンサー)は頼んだぞ」

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