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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第一章:セットアップ編

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2頁:困ってる時は他人を頼りましょう

投稿遅くてすみません。

今回は早速定番のユニークスキル登場です。

 行幸正記が高校一年生の8月初旬のことだった。


 行幸正記は知り合ったばかりのミカンに『招かれ』て、ミカンの作ったプライベートのVR空間に入った。


 VR技術が栄えている時代の若者世代に属するとはいえ、正記はまだあまりVR空間に馴染みがなかった。正直、体を無防備にするVR技術を使わずともホログラムで充分必要な作業はできたからだ。


 その時、最初の正記の感想は


「人がいませんね」


 だった。


 ミカンがデザインしたというその空間は、一昔前のサービス業を営んでいるような会社の高級フロアだった。広いはずのフロアが机とプリンターなどの機材で手狭に感じる。椅子や作業途中の書類、飲みかけのコーヒーもあり、まるで人間だけが突然消失した世界を切り取ったかのようだった。


「まあね、ここに招くのはキミが初めてだよ。70階層の鉄筋コンクリート製ビルディングで2010年代の保険会社をイメージした手作り空間。一応屋上とビルから半径500m以内の空間はただの背景じゃなく『外』として入れるようになってるわ」


「……手間がかかってるのに全然それが嬉しくないですね。まだ何もない草原とかのほうがいいと思います。これじゃまるで……」


「世界が滅びた後みたい?」


 ミカンは正記が言いたいことを言い終える前にそれを先読みした。もしかしたら正記がそう言うだろうことも考えてこの空間をデザインしたのかもしれないが、当時の正記には判断がつかなかった。


「でもさー、世界が滅びるって言っても、それってどんな状況なんだろうね? 人類が滅んでも世界自体は消えたわけじゃないし、宇宙自体が消えたとしてなんか『滅びた世界』って感じにはならない気がするし。もう何もない以上『滅びた世界』も存在できないんだから」


「そんな哲学みたいな問は答えに困りますよ。それより、どうしてこんなところにオレを連れてきたんですか?」


 その時、正記は理由を伝えられずに、ただただ受動的にその空間に入っていた。


 この時、ミカンが正記の問に被せてきた問に正記はいまだ答えを出せていない。


「さてアンケートです。この世界に生き残った人間は『私』と『あなた』二人だけ。どちらか一人が頑張れば世界を元に戻すことができますが、その一人は『絶対達成できる代わりに苦痛に満ちた旅』をしなければなりません。もう一人はただ世界が救われるのを待っていれば安全です」


 片や『名誉』、片や『安全』の天秤だろうか。その時、正記はそう考えた。


 平等な条件だったら自分はどちらを選ぶかと言われれば、正記は『安全』を選ぶと言おうと考えた。そもそも、平和な日本に生まれた自分がそんなRPGの主人公みたいな冒険をすると答えるのは自分を美化し過ぎだと考えたからだ。


 だが、天秤の皿の重さは平等ではなかった。


「ここで、『あなた』に選択権を与えます。どちらが旅をし、どちらが待つかは『あなた』が決め『私』はそれに従います。さて、『あなた』はどうしますか?」


 問題は名誉や安全ではなかった。他人に旅を強いることができるか否かだった。

 正記はゲームにログインしたときにも、まだ答えを出せていなかった。


 だが、きっとミカンに金メダルと称される人物なら、すぐさまこう答えたのだろう。

「そんなこと言わずに、みんなで一緒に行きましょうよ」










《現在 DBO》

 ゲームログイン時、最初の感想は『人が多い』だった。


 仮想世界の大地に立った長身で短髪の青年は周りを見回し、半ば無意識に自分より背の高い女性を探していた。


 彼の名前は『ライト』。現実世界での本当の名前は行幸正記だ。

 キャラクターアバターは製作をミカンにすべて任せてしまったせいで、顔つきは本当の顔そっくりで髪はリアルより短くてリアルよりよく顔が見えてしまうような仕様になってしまっている。


 リアル情報の流出もいいところだ。


 今いる場所はログインしたときの初期設定での出現地らしい円形の広場だ。中心に10メートルを優に超える豪華な時計台があって、広場の周りは中世風の木や石で出来た建物に囲まれている。


 アカウントに付いていた説明よると、現実世界での時間は夜の7時だが、ゲーム内の時間は午前の7時らしい。


「ま、当然だけどいないなぁ……あの人」


 ライトはいつもよりよく見える目で周りを見回したが、ミカンの姿は見当たらない。そもそもここに来る予定はないし、アバターの顔があっちもリアルとそっくりとは限らないので見つけられる確率なんてゼロに近いのだが……


「あの話し方からすると、少なくとも『一番弟子』は来てるんだろうな……それで仲良くなって二人で師匠に勝てるくらいになれってことか?」


 ミカンは時々こういう小説の伏線みたいなことを言うことがある。そうやって正記に暗に行動の道筋を示すのだ。


 なぜそんなことをするかと聞いたら……

「だって、そうした方が物語っぽくて面白いでしょ?」

 だそうだ。


 時々、正記はそんなミカンが本当は現実世界を本当にフィクションだと思ってるんじゃないかと思ってしまう。

 まあ、演劇部の部員としてはそのくらいの方が演技の時に身が入るのかもしれないと思って突っ込まずにいるくらいの些細な心配だ。


「でもなぁ……顔も名前も性別すら知らないし見つけられる気がしないな。どうせなら、コスプレの似合う女性……『あの子』って言ってたから女の子だといいな」


 周りを見てもみんな初期装備でコスプレみたいな装備のプレイヤーはいない。

 プレイヤーの人口も増え始めて広場も手狭になってきた。先ほどは走り回れそうだったのに、今ではラジオ体操をしたら他人にぶつかりそうなくらいな人口密度になってきた。


 このプレオープンは初回ログインに時間指定がされていて、最初のチュートリアルの際『初回限定アイテム』を配布するらしいので一気にほぼ全員のプレイヤーがログインして来ることになる。


「チュートリアルまであとどのくらいだ?」


 ライトは慣れない手つきでメニューを出して時間を確認する。


 チュートリアルまであと1分くらいだ。


「ん? なんか違和感が……」


 VR空間でのメニュー画面などの設定は基本的にゲームだろうがプライベートだろうが統一されている。そうでないとVR空間に入ったが最後メニューが出せなくてログアウトできないなんて事態が発生しかねないからだ。


 ボイスコマンドなども基本統一されているが、『この空間の設定ではボイスコマンド限定で打つコマンドもあるのでメニュー画面の選択肢が他より少ない』なんて設定はない。


 だが、このメニュー画面はいつもと何か少し違う気が……


 ライトが違和感の正体を探っているうちに時間は過ぎ、人が増えていった。


 そして、ライトが違和感の正体に確信を持つ前にタイムリミットが来た。




 その瞬間、彼らはそれまでの人生の中で初めて聞くであろう壮大で、それでいて全く不快に感じない、まるでオーケストラの内容を一撃の音に凝縮したかのような鐘の音を聞いた。


 時計台が世界を揺るがすような音で時を告げた、ここにいる全員がおそらくは一生忘れないような事件の幕が上がった瞬間だった。


 プレイヤー全員が時計台を見上げる。


 時計の針は長針と短針が丁度重なり合うように、ピッタリ12時を指している。


 プレイヤー達の注目の中、時計台の文字盤の下にわずかな裂け目ができた。壁面に罅が入ったのではなく、はじめからそのように設計されたカラクリのようだ。


 時計台が大きな一つの目玉を持った機械の怪物のように変貌し、その口からその見た目に不釣り合いな落ち着いた男の声が響いた。


『ようこそ、7200人のプレイヤー諸君。絶望的な運命を打ち破るべく集まった挑戦者たちよ』


 ここで、ライトは一つの疑問を感じた。


 7200人?


 正確な参加人数は聞いてないが、プレオープンの人数の相場はそんなに多くはなかった気がする。

 それに、7200という数字は無作為に決めて出て来る数字ではない気がする。


『さて、このチュートリアルの目的は大きく分けて二つある。一つは初回限定アイテムの配布、そしてもう一つはこのゲームのルールの中で最も重要な部分の解説だ。本当に大事なのでよく聞いてほしい』


 プレイヤー全員の目の前に『アイテムゲット!!』という表示が同時に表示された。


『まず、その中身は《タイム•イズ•マネー》というアイテムだ。実体化させればチケットになるので後で確認してくれ。

 さて、そのアイテムこそが初回限定アイテムということになるのだが、そのアイテムの主な使い方は二つある。

 その一つは……リアルマネーへの課金だ。

 このゲームの中のどこかにいるラスボスにとどめを刺したプレイヤーのチケットはリアルマネー100億円に課金できる。』


 一瞬、プレイヤー達の理解が遅れて沈黙が広がるが、その後にはどよめきと歓喜の声が広がった。


 平凡な暮らしの中、偶然に一生遊んで暮らせる額の賞金を提示されて冷静ではいられない人間からテンションが伝染していく。


 そんな中で、ライトは悪寒を覚えながら時計台を睨んでいた。


『そして、もう一つの使い方は「現実世界への帰還チケット」だ。ここからはゲームのルール説明とも被るが……』


 この瞬間、ライトの中で先程の違和感の正体が確定した。

 ライトは他のプレイヤーと比べてほんの一瞬だが、先にこの後に起こる衝撃を予知したのだった。


 だが、その一瞬が後にどんな影響を残すかは、このときのライトには予知できなかった。


『このゲームはクリアするまで自発的ログアウトはできない。そして、ゲーム上での死亡に伴ってキミたちの脳も破壊され、その魂は現実世界からも消滅する』


 歓声は消え去り、沈黙が場を支配した。


 時計台から響く男の声は滑らかに言葉を続けて情報を補足する。


『外からの強制切断によるログアウトも期待しないほうがいい。先ほど言ったような「死亡」の場合と、外からの強制切断のような「逃亡」の場合はともにキミたちの脳内のチップが特殊な信号によって脳を破壊する。』


「そ、そんなことできるわけ無いだろ!!」

「これも演出でしょ? ねえ、そうだよね?」

「おい、ログアウトがメニューにないぞ!?」

「緊急ログアウト!! 畜生、VR共通の緊急ボイスコマンドも駄目だ!!」

「ふざけんな!! 食事とかはどうするんだよ!!」


『なお、肉体の維持に関しては心配いらない。こちらで既に手配してあるので、ゲームクリアに何年かかろうと外的要因で死ぬことはないと思っていい。』


 混乱が一気に広がった。


 ログアウトボタン消失に一足早く気がついて平静を保つことができた正記が、周りの人間をなだめるかしばし悩んでいると、時計台の『口』から煙のようなものが流れ出した。


 煙は瞬く間に広場の上に広がって、真っ黒な雨雲に変わる。


『さて、流石に偽物の姿のままでは実感が湧かないだろうし、ここでサービスだ……ただし、一部のVRゲームマナー違反者は覚悟してくれ』


 ライトは何事が起こるのかと警戒したが、起こった出来事は危険な類のものではなかった。


 雨が降ってきた。

 強酸の雨などという危険なオチもなく、濡れても痛くも痒くもない。


 だが、ただの雨でもなかった。


「!!」


 ライト自身の変化はごく少ないものだった。髪が延び、現実世界と微妙に違った手や腕の形が良く見慣れたものに変わった。


「この……現実世界の姿と同じになったのか」


 周りを見れば、他のプレイヤー達も雨に偽りの姿を洗い流されるかのように姿が変わっていく。ライトはアバターが現実とほぼ同じだったため変化が少なかったが、他のプレイヤーの中には全くの別人になってしまった者も多い。


 ライトが自分に影響の少ないイベントに安堵していると、その油断を狙ったように一斉に雷が一部のプレイヤー達に降り注いだ。


「ウア!!」

「キャアアアア」

「ワ!!」


 ライトには当たらなかった。

 落雷があった場所を見ると、そこには妙に女っぽい仕草で、なにが起こったのかわからないと周りを見回す男がいた。


「ネカマには天罰か……」


 VRゲームでは少ないのだが、プレイヤーの中には本来の性別と違う性別を選ぶ人もいる。それらは総じて『ネカマ』と呼ばれる。


 今の雷はそんなマナー違反を犯したプレイヤー達への罰なのだろう。


『さて、ではそろそろチュートリアルを終了しようと思う……後、この街に引きこもって助けを待とうとするのは勝手だが最後に一つ言っておく』


 その声に呼応するように、時計台の長針が三分ほど進んで止まった。


 そして、プレイヤーのほとんどを絶望にたたき落とすのに十分な言葉を放った。


『この時計が次に鐘を鳴らすとき、この街の安全エリアとHP保護の設定は解除される。その前に身を守れるくらいの準備はしておくことを推奨する。』


 男の声はそれきり何も言わず、時計台に開いた口は十数秒ゲラゲラとプレイヤー達を見下しながら笑うと、元から口など無かったかのように継ぎ目も残さず消えた。








 チュートリアル直後。


 時計台を見上げるライトを人混みの中から見つめる目があった。


「身長、体格、そしてあの顔……『先生』の言ってた弟弟子で間違いありませんね」


 そのプレイヤーはこの非常時にも全く動じずにライトを見ている。


「『先生』は『人が困ってたら助けてあげてね』とか言ってましたね」


 少し歩み寄って声をかければ気づいてもらえる距離だ。


 だが、ライトをじっと見つめると、そのプレイヤーはにっこり笑って呟いた。


「流石は銀メダル。私がいなくても大丈夫そうですね」


 誤算があったとすれば、ライトにも一番弟子の映像を見せておかなかったことか、それとも『金メダル級の善意』を過小評価してしまったのか……


 ここで、ライトが目に見えて『困って』いればよかったのかもしれないが……


「善意は人のためならず。自分で何とかできることを助けてたら相手のためになりませんしね……私はもっと困ってる『約7000人』を助けましょうか」


 そのプレイヤーは踵を返すとライトとは反対方向に……


「あら?」


 行こうとしたとき、目の前に自分だけに見えるウィンドウが開いた。


「これは……『ユニークスキル』?」

 毎度おなじみ伏線です。

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