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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第二章:戦闘編

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36頁:他人の衣服をいじるのはやめましょう

 第二章の最後の方は複数投稿するかもしれません。この前は投稿遅れてすみませんでした。

 デスゲーム開始の数日前。初めて見る見舞い客がいた。同室の誰かの客かとも思ったが、その歩みは真っ直ぐ自分に向かってくる。


 そして、ベッドの横に立った『彼女』は腕を組んで『私』を見下ろした。

「ふーん、寂くん、最期の最後にとんでもない可能性を秘めた素体を見つけたもんだね。だけど、不運なことにその可能性は今度の手術で死ぬ。このままでは手術を乗り越えられない。生きようとする意志が足りない」


 自分勝手で一方的な話し方だった。

 そして、その大きな身体を隠すことのない、堂々とした立ち振る舞いには見覚えがあった。


「あなた……もしかして、オレンジ?」


 先日、格闘系VRMMOのGWOゴッドウォーズオンライン)において準決勝で対決し、掠り傷をつけるので精一杯だった規格外の絶対王者。『不死』『傾国』『一撃必殺』などの数々の二つ名を欲しいままにしている最強のプレイヤー『オレンジ』。


 その『オレンジ』が、リアルで目の前に現れた。そう判断できる理由は『体型』だ。オレンジは女性でありながら身長が190を越える。日本人離れしたその姿は、世界が違っても見間違えることはないだろう。


「はじめましてかな? 二代目ジャックちゃん」


「二代目って……それにさっき『寂』って……」


「うん。私はキミの死に別れた恋人のことも知っているよ。本人の了解の元、彼を研究してた……心臓のほうじゃなく、寿命がわかる予知のほうだけど。あれを完全に解析できれば医学は大分進んだだろうけど、本人の寿命じゃしょうがない。せめて最期は寂しくない充実した人生を送ったのだと信じたい……とまあ、余分な話はここまでにしておこうか。キミも残り時間は多くないし」


 手術の近づいている患者に死を暗示するようなことを言うのはどうかと思ったが、オレンジは自分勝手に話を進める。それが先の短い自分への配慮なのかもしれない。


「さて、このままだとキミの人生はあと数ヶ月しか無いわけだけど……生きたい? それとも他人に迷惑かけずにさっさと死にたい? 軽い気持ちで答えてみてよ」


 全然軽い気持ちで答えられる質問ではなかった。しかし、少し悩んだ後、はっきりと答えることができた。


「生きたい……最期の最後、限界まで生きたい。じゃないと、必死に生きた皆にあわせる顔がない」


「それが、死ぬより辛く苦しい道かもしれなくても?」


「うん。楽だからとかじゃないんだよ。死ぬのは怖くないけど、生きたいよ」


 どうしてそんなに真剣に答えたのか今でもわからない。しかし、オレンジはそれを聞き、一つのファイルを送ってきた。


「それが本当なら、その世界に行くと良いよ。そこに行けばきっと、これからの一生分の苦しいことも楽しいことも、全部見られるから。精一杯、命懸けで楽しんで」



《現在 DBO》


「どうしてだ……どうしてこうなった?」


「細かいことい~じゃないライト、ミミズだって、オケラだって、アメンボだって~みんなみんないつか死ぬんだからー、生きてる内に楽しまなきゃ~」


「ポジティブなのかネガティブなのかよくわからないが、だからって歩けなくなるまで飲むなよ。未成年だろ?」


「うっさ~い! どーせ大人になってから飲めないんだし、今楽しんでもいいじゃ~ん。ビバ刹那主義。15の夏を楽しむの~」


「まだ15で飲んだくれってどうなんだ……あれ? この前、中二って言ってなかったか? もう誕生日が過ぎてても14じゃ……」


「うっさいってー、言ってるでしょ~? 通院と入院で出席足らなくてダブったのー、察しろバーカ。シクシクシクシク」


「泣くなよ、変なこと聞いて悪かったって……今度パフェ奢ってやるから泣きやんでくれ」


「はーい!! 店員さーん、ジャンボパフェ一つ!!」


「嘘泣きかよ。はあ……宿についたら速攻ベッドに投げ込むぞ」


「ベッドイン? ライト、だいたーん。でも、ここゲームだからダ~メ!」


「『投げ技スキル』でこのまま一本背負いにしてやろうか」


 何故にこんなことになっているのか。

 やたらテンションの高いジャックはドレスのまま、スーツ姿のライトに背負われて人気のない夜の町を宿に向かって進行している。


 館でのクエストの終盤。

 ダンスパーティーで高得点を貰ったライトとジャックは、その景品として着ていたレンタルの『正装』と『ダンススキル』をもらい、さらに幾つかのレアアイテムを贈呈された。


 そして、その場で出された飲み物を流れ的にに断れず飲んでしまったのだが、それはジュースのように子供にも飲みやすい……酒だった。


 それをいたく気に入ったジャックは『いくらでもどうぞ』というNPCの言葉に甘えて次々とおかわりし、現在のおかしなテンションに至る。


 ちなみに、ライトは運転手的な意味合いで最初の一杯しか飲まなかった。昨今のゲームでは脳を誤認させて本当に『酔う』ことができる『擬似アルコール』もあるのだ。当然そのような役割分担も出てくる。



 ジャックは酔うとテンションが上がるタイプらしい。ただし、暴れるような事はなく、猫がマタタビを嗅いだかのように表情も動きも緩くなっている。

 ライトとしては、暴れるようなタイプでなくて良かったと思った。戦闘能力に長けたジャックが暴れていたら止められなかったかもしれない。


「そういえばさー、ライトってー彼女いる~? やっぱりー、本当はスカイと付き合ってるの?」


「付き合ってないよ。借金してる側と貸してる側ってビジネス的な関係だよ」


「ただ弱み握られてるだけじゃ~ん。あー、もしかしてー、ホントはリアルの方にいるとか~?」


 ジャックがライトの首に手を巻き付け、会話だけでなく物理的にも絡んでくる。


「いないよ。父親のことがあってからは安易にそういう関係は作らないって決めてるんだ。男子も女子も完全に平等に友達。下心なんて欠片もない」


「気が付いてる? それー、修羅場フラグだよ~。てゆうか、ホントーに特別な人いないの~? 前言ってたお師匠さんとかー」


「師匠はあれ恋愛感情じゃないよ。絶対オモチャへの愛着っていうか、なんか実験動物みたいな感じかな。しかも、オレより凄い通称『金メダル』がいるらしいし、きっと他にもいる。案外、黒ずきんも妹弟子だったりするかもな」


「にゃははー、ないない。その人が死んでるなら~別かもしれないけど。……でもそっかー、だからライトは一緒に寝ても何にもないんだ~」


 ジャックは愉快そうにクスクスと笑う。

 ライトは他人に聞かれたら問題になりそうな所をとりあえず訂正する。


「一緒とか言うなよ。同じ部屋に泊まってるだけだろ」


「そうだねー、まー、ライトが変な気を起こしたら、悪いことできないくらいバラバラにしてあげるから~。クスクス」


「サラッと怖いこと言うなよ! そんなことしないからな!」


 ちなみに、宿に着いてから寝苦しいだろうとライトがドレスの首もとのボタンだけ外そうとしたところ、酔いが醒めたジャックにバラバラにされそうになった。




 そして翌朝。

「おはようライト! 今日はとうとう最後の町だね」


「てゆうか、あんだけ飲んで二日酔いしないなんて、実はジャックすごくお酒強いんじゃないか? まだテンションちょっと高いし」


 どうやら酒に酔って行動不能になるような事態にはならなかったらしい。むしろ、調子が良さそうだ。


「さて、最後の町は何だっけ?」


「主産業は『農業』、これまでとは違ってクエストもイベントも少ないけど、珍しい植物の種や穀物がそろってる。その名も『壺の町』だ」


「なんか地味そう」


「まあ、あそこはモチーフが『過疎地の農村』だからな……あ、そうだ。じゃあ少し寄り道していいか?」


「寄り道?」


「昨日の夜スカイからメールが来た。なんかデカいもの作ってるから大量に木材と金属が欲しいらしい。特に、木材は街の中でも入手できるから金属をなんとかしてくれだそうだ。質より量で」




 フィールドの一見何の変哲もない岩。

 しかし、よくよく観察するとその前には長い草で隠された穴があり、そこから下には隠されたダンジョンが広がっている。

 そして、そこには地上と同じ、あるいは類似する種類ながら、地上とはレベルの違うモンスターがいる。


 地下ダンジョン『鋼虫の巣窟』。

 地上を徘徊する金属の甲殻を持つ芋虫〖ヘビーメタルワーム〗の巣窟。

 ライトが一週間前に一人で挑み、撤退を余儀なくされたダンジョンだ。


 地下第3層。

 この階層のボス〖ヘビーメタルローラー LV30〗がダンゴムシのように体を丸めて転がってくる。その直径は5mを超え、その迫力は普通の〖ヘビーメタルワーム〗とは桁違いだ。


「また無敵モードか……だが、軽業スキル『(ウォール)ジャンプ』アンド、玉乗りスキル『テンカウントバランス』!!」


 ライトは壁を蹴って踏み台代わりにしてその球体の上に乗り、バランスをとる。強力な攻撃だが『潰す』ことに主眼が置かれているため上に留まられると何もできないのだ。

 このモンスターとは一度戦って行動パターンや弱点はわかっている。丸まっているときの防御力が激的に上がるが、この攻撃の後に大きな隙ができるのだ。


「6、5、4、3、2、1、今だ!!」


 ライトは合図と同時に玉乗りをやめて飛びあがり、その直後に玉が開いてひっくり返った虫の姿が露わになる。

 そして、『隠密スキル』と『忍術スキル』で隠れていたジャックがその隙を突き、無防備な腹部を貫いた。


「これで、止めだ!!」


 〖ヘビーメタルローラー LV30〗は残ったHPを全て失い、力尽きた。


 敵の死亡を確認したジャックと戦闘中に投擲した武器を回収したライトはボス部屋の中央に集合して互いの状態を確認した。


「それにしても、話に聞いてたほどじゃなかったね。取り巻きの虫も少なかったし」


「もしかしたら、夜は外にいない分こっちが増えてるのかもな。じゃあこれもスカイに伝えておかないと。あ、ここメール送信できないから後で他の情報と一緒に送らないとダメだな………それにしてもアイテム入りきらなくなってきた。ジャック、ストレージはまだ余裕あるか?」


「こっちもそろそろ限界が近いよ。アイテム削るにもレアアイテムとか沢山あるし……確か、もらっていいんだよねこれ」


「ああ、わざわざ取り分のレアアイテムを減らすことはない……あれ使うか」


 ライトはメニューから大きな袋を取り出した。唐草模様の布でできたその袋は《引っ越し袋》というアイテムで、ある程度アイテムを収納できるアイテムだが、アイテムを入れるほど重さも増え、大きくなるため『アイテムを持ちやすくなる』程度の効果しかない。それでも便利なアイテムではあるのだが、戦闘などの邪魔になるし、移動速度が落ちる。


「だが……荷運びスキル『リフティング』。よっこいしょっと、これで歩く分にはそれほど支障はないし、戦闘の時はそこら辺に置いときゃいいだろ」


「でも、ホントにいいの? レアアイテムもらっちゃって……結構良いアイテム出てるし。一度帰ってストレージを空にしてから来た方がいいんじゃない?」


「オレたち二人で持てる分にも限度があるだろ? だったらマップとか出てくるモンスターとかの情報を徹底的に集めておいた方が、後で金属を集めに来るプレイヤーがやりやすい」


 かなり未来まで見越しての計画だ。

 だが、スカイの動かせる人員を考えれば、確かに現物よりも入手法の確立の方が効果的だろう。


「早急に必要な分はチョキちゃんに預けた中から適当なの運んでもらうよう頼んだし、攻略を進めておけばここはいい訓練場になる。チョキちゃんは材料集めついでにすごいレベル上げしそうだな」


 この手の『クエストの絡まない』ダンジョンは、誰かが一度ボスを倒すと、ボス部屋の近くに次からはボスと戦わなくても下層に降りられるようになるルートが出現する。つまり、ダンジョンを攻略しておけば、後のプレイヤーは一々危険なボス戦をしなくても下層に行けるのだ。


 しかも、『スケルトンキングの迷宮』のように下層に行くほどレベルは上がり、これらのダンジョンをうまく使えば『時計の街』の近くでも前線並の経験値を集めることもできる(というより、前線の攻略具合に合わせて階層が追加されるらしく、前線より強くなるのは難しい)。

 ライトとジャックが未だに前線に出ずに高いレベルを維持できているのは、このダンジョンのような『レベルに合った経験値』を得られるクエストや場所をうまく使っているおかげでもあるのだ。


 そして、ライトはさらに様々なスキルを使用してレベルを上げることで、そのボーナス経験値でプレイヤーとしてのレベルを上げている。そのためレベルの割に戦闘系スキルも低めだ。

 今こうしてスキルでアイテムの運搬をしている時も、僅かずつだが確実に経験値を稼いでいる。


「さて、もう一層降りられるみたいだし、行ってみるか? 前みたいに変なトラップに掛からなきゃボスのレベルも35とかだろ」


「うん……あ、でもナイフの刃がそろそろボロボロ……」


「武器の整備くらい毎日寝る前にしとけよ……って、昨日は酔ってそのまま寝てたな。ちょっと貸してくれ、すぐ研ぐから」


 ライトは《砥石》を取り出して手際よくナイフの切れ味を取り戻していく。

 プロさながらのサポートを見て、ジャックの口からは自然と感謝の言葉が洩れた。

 ライトは戦闘面では少々扱いづらいビルドかもしれないが、こういう時はいつも本当に助かる。


「ありがとう……ここの虫やたら硬いから、刃の状態が悪いと折れちゃってたかもしれない」


「気をつけろよ。武器は自分の命を護ってくれる、もう一つの命みたいなものなんだからな」


 ライトのその言葉に、ジャックはチイコの言葉を思い出した。ライトに同じことを言った事は無いかと思っていたが、ライトが『武器を何かに絞った方がいい』というような忠告を無視しただけなのかもしれない。チイコの心遣いをむげにするライトは、あまり想像出来たものではないが……


「……ライトは、何か得意な武器とかないの? いつも思うけど、ライトって同じ武器連続で使うの避けてるよね?」


「ああ、まあ否定はしないが……問題か?」


「いくらレベルが低いほど速く上がると言っても、一気に全部の武器のスキルのレベル上げてたら全然レベルなんて上がらないよ。それに最近はタゲ取ってもらうのをメインにしてもらってるのも、技の威力に差が出来過ぎてるからって部分もあるし。ぶっちゃけ最近ライトの攻撃威力低すぎ。レベル差的に普通は余裕で一撃でぶっ飛ばせる低レベルモンスターでも、ギリギリ削りきってるみたいだし」


「う……そこまで言われると流石にキツいな。だが、オレはこの戦い方が自分に最適だと思ってる。ついでに言えば、最悪武器が無くても拳で戦える」


「知ってるよ。朝早起きして徒手空拳の修行してるでしょ。朝は眠いからほっておいたけど、部屋のアイテムケースに武器全部置いて行かれると、着替えの時面倒なんだけど。アイテムが底の方に追いやられて」


「う……ごめん。……あれ? でも装備ってフードケープの着脱以外いつも同じに見えるけど、もしかして着替えって《下……」


 シャキン


「うんごめん。でも、だからって研いだ直後の刃をオレに向けないでくれ。自分の研いだ武器にやられるなんて殺人鬼の武器を直して口封じされる『哀れな被害者さん』みたいじゃないか……って目!? 口封じではなく顔見られたから確認できなくするやつ!? そっちの方がリアルに恐い!!」


 ライトはたまらずハングアップ。

 ジャックもナイフを鞘に戻す。


 そして、呆れたように溜め息を吐く。

「まあ、回避力は申し分ないし攻撃力はボクがいるから何とかなるけど……なんか違和感あるんだよねその戦い方。なんか、武器も技もみんな本気じゃないっていうか……リハーサルしてるみたい。……もしかして、この前の『オール・フォー・ワン』みたいなここ一番でしか使えないような技大量に積んでるとか?」


「……どうだろね。ただ、確かに使ってない技とかはあるよ。でも、その『御披露目』は準備が整ってからだ。『あれ』もスカイが本格的に作り始めてくれてるし、あんまり未完成の内に他人に見られたくない」


 ライトの説明は要領を得ないが、つまりはこういうことだ。『その内教えるから今は聞くな』


 ジャックも、それが分からないほど子供ではない。

「……出し惜しみして死なないでよ? 人って殺してもなかなか死なないけど、殺さなくても簡単に死んじゃうから」




 一時間後。

「EXスキル『オール•フォー•ワン』!! ……な、残った!?」

「ジジジジジジジジ」

「『アーマースピア』!!」

「ジャジャ!!」


 鋼鉄の皮膚を持つ第四層のボス〖メタルフライヤー LV35〗はライトの攻撃を受けたものの後ろに飛んで致命傷を免れたが、ギリギリ残ったHPは後ろから『鎧通し』の技で皮膚の薄い部分を狙ったジャックの一撃で消し飛んだ。


 金属装甲の硬さと今までの鋼鉄製の虫とは違う素早い動きと飛行能力に思いの外苦戦し、EPの残量を危惧して一気に大技で仕留めようとしたのだが、仕留め損なってしまった。


「ありがとうジャック、死ぬかと思った」

「さっき言ったばっかりじゃん!! いいからさっさとEP回復して」


 『オール・フォー・ワン』は威力は高いが攻撃後スキルが99秒間『全て』無効化されるというリスクがある。外すと危険な技だ。


「そんなんだと、いつかその技の直後に反撃されてやられるよ。……全く、ボクが援護しなかったらどうする気だったの?」


「それは…あれだ……ジャックを信じてるからだよ。ジャックとオレの信頼関係あってこそのコンビネーションだ」


「今考えたでしょそれ。わかりやすい嘘つかないでよ」


「ジャックを信頼してるのはホントだよ。命預けられるくらいには」


「……たった6日間で信用されたもんだね」


 そう。今日で契約6日目。明日で最後だ。

 思えば、いろいろなことがあったがまだ出会ってそれくらいしか経っていないのだ。


 一緒に前線に行けば明日が最後というわけではないが、それでも区切りは区切りだ。今の関係性は今だけのものだ。進展するかもしれないし、形式上協力関係でも疎遠になるかも知れない。下手をすれば片方、もしくは両方が死ぬかもしれないのだ。


 だが、どちらにしろジャックは数年の命なのだ。生き残るなら未来のあるライトであるべきかもしれない。


「……ライト、もしボクかライトしか助からないような状況になったら……」


「そんな状況になったらスカイか赤兎辺りにでも助け求めるよ。てか、そんな状況になる前に助けを求めてくれればなんとかする。だから、自分が犠牲になるとか勝手に決めないでくれよ。自己犠牲なんて小説の中だけで十分だ」


 その言葉には、強い信念が籠もっていた。








 約一時間後。

 洞窟を脱出した二人は道を南下し、目的の町へと辿り着いた。

 そこは畑ばかり、建物はほとんどが納屋のようなものばかり。いままでの町よりいくぶんか広そうだが、イベントやクエストの起こりそうな施設はずっと少ない。


 ここが『壺の町』。農業を始めるにあたり必要な『種』や、それらを調合した漢方などが手に入る町だ。


「まあ、どうして『壺』かといえば種とか穀物みたいな『粒』単位では売れないものが大量に扱われてて、その入れ物の壺が店頭にズラッと並んでるからなんだけど……」


「クエストとか少なそう。何か面白そうなクエストあるの?」


「そうだな……乗馬ができるくらいかな。後は……あ、あとジャックの『調合スキル』の派生技能の『漢方薬』があるらしい」


「……ここのクエストが全部終わったらどうするの? 契約期間1日残るけど」


 内容を聞く限りクエストでかかる時間は一日もないだろう。


「そうだな……一度『時計の街』へ帰ってスカイにいろいろ報告しなきゃならないし……結構時間かかるかもしれないから、そこまで時間は残らないぞ。黒ずきんは何がしたい? 任せるけど」


 クエストを攻略するために結んだ関係だが、クエストを粗方やり尽くしてしまうとする事がなくなってしまう。

 しかし、ジャックには一度やりたい事があった。


「ならさ……一度手合わせしない? ライトも出し惜しみしない本気で」


「『本気で手合わせ』か……良いだろう。本当はまだ誰にも見せない予定だったが、一週間の感謝を込めて特別にオレの『自信作』を披露してやろう」


「うん。約束だよ」




 その後、クエストは順調に進み、乗馬体験を楽しんだり、井戸の水くみ競争をしたりとそれなりに楽しくクエストを攻略する内に、気づけば夕方になっていた。


 ジャックがふと西の方を見ると、そこには……


「見て、綺麗!!」


 ここは『時計の街』の7時の方角。

 遠くに見えるのは砦を越えないとプレイヤーには突破できない山脈。

 そして、山と山の間に沈む夕日。


「……ああ、綺麗だ。夕日もそうだが、それに感動する黒ずきんも……」


「ちょっと、なにさらっと口説こうとしてるの? そんなこと言っても何もでないよ」


 だが、ジャックが振り返って見たライトの目は、真っ直ぐにジャックを見つめていた。


「……悪い、忘れてくれ。ただ、夕日を見て純粋に感動できるって凄く良いことだなって思ってな」


 ライトも夕日を見つめて、ギラギラとした笑みを浮かべた。


「そうだ、これからも時々一緒に夕日を見るか。攻略して、新しい土地で、新しい夕日を」


 それは、未来への希望に溢れた言葉だった。

 生きて次の日を迎えようという言葉だった。


 それを聞いたジャックは、ニコリと子供らしい屈託のない笑みを浮かべた。


「いいね、二人で一緒に見よ!」




 同刻。

 『隠れ家』と呼ばれる宿屋に敷設されている酒場に、街の中では異様なほど高級な武器を揃えたプレイヤーが20人ほど集まっている。


 そして、その中心にはロロという男がいる。


「ここにいない奴らを含めて32人か……こんなもんだろ。これ以上は指揮系統が乱れるな」


 ロロは今いる20人に向かって大きな声で呼びかける。


「いいか、これまでは戦力増強に集中していたが、そろそろ頃合いだと思う。俺たちが日の目を見る時だ」


 ロロは右手で掴んだものを掲げ、皆に見えるようにする。


「いいか!! これの持ち主を探し、あぶり出し、俺たちで狩るんだ。こいつはある有名なゲームで名を轟かせた悪名高いPKだ。こいつを打倒することで、俺たちの旗揚げの儀式とする!!」


 その手にはマーカーで『DEATH』の文字が描かれたバンダナがあった。


 ライトとジャックの契約期限は……一週間は、着々と終幕に向かっていた。

《日にやけた帽子》

 日にやけて色落ちした帽子。

 魔法によって作られてから長い間人々を見守ってきたカカシの一部であり、魔女様の加護が染みついている。


(スカイ)「今回は見た目はあれだけど実はレアアイテム、ライトのトレードマークの帽子です~」

(イザナ)「通称『変な帽子』ですけどね。元々は街を護るカカシさんの帽子です」

(スカイ)「本編では明言してないけど、効果は『経験値補正』。あらゆる経験値、スキル上達に5%の補正が入ります~。」

(イザナ)「ライトさんスキルたくさん持ってますから、きっと重宝してますね」

(スカイ)「ただし、デメリットとして……」

(イザナ)「デメリット?」

(スカイ)「服のセンスが変だとおもわれます~」

(イザナ)「ライトさんかわいそう」

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