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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第二章:戦闘編

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35頁:クエストの説明は最後まで聞きましょう

連続投稿いきます。

 〖スケルトンキング〗の迷宮攻略後の夜中過ぎ、ライトは何者かの気配で目が覚めた。

 とはいっても、ジャックと同室のためかなりの高確率でその気配はジャックであるはずなのだが、それはむしろ侵入者よりも違和感を感じる。


 ジャックは、動いていても気配がほとんどない。

 普段歩いているときも足音がしないくらいなのだ。


 ジャックが自分に気取られるような行動をしている。

 もしかして気がついてほしいのか、それとも、精神的に気配を消していられないほどの動揺でもているのか……


 とりあえず、そのまま寝たふり続行。

 ジャックはライトの手を取り……メニューを操作し始めた。


 これはマナー違反甚だしい行為だ。

 何かアイテムでもくすねていく気だろうか、いや、ジャックはそんなことするくらいなら『決闘してボクが勝ったらくれない?』とか言いそうだ……


 などと思っていると、ジャックがフードケープの懐から何かを取り出した。


 あれ? 盗もうとしているどころか入れようとしている?


 いい加減状況が詳しく知りたいので目を開け、起き上がった。


「グッドモーニング……クリスマスはまだ先だよ。ちなみにマリーの誕生日もクリスマスだけど」


「!! これはその、いや、クリスマスじゃなくて……ライト、誕生日は?」


「4月8日」


「遠いよ!! じゃなくて……ほら、えっと……」


「ちなみにスカイは1月2日らしいぞ。まあ、嘘かも知れないが……」


「そう。ちなみにボクは5月5日……てか、もう下手な言い訳はやめよう」


 ジャックは手に持っていたアイテムをライトに押し付けた。

「これ、怖いからもらってくれない? 捨ててもいいから」


 それは、確か『DESTINY BREAK』で手に入れた中でもメイン的なアイテムだった。

 それは一つの面。表情も口も鼻もない、ただ吊り上った目の穴が穿たれ、唯一特徴と言えるのは頭の上の両側の部分に牛のような……あるいは鬼のような二本の角が生えた面。

 元々の名前は≪魔除けの鬼面≫。しかし、ジャックの倒した〖マスタージュエル〗の核が自動で額に埋め込まれ、二人の目の前で≪破魔の鬼面≫となったおそらく一点もののレアアイテム。


 そんなものをジャックは何故捨てようとしているのか……


「えっと……オレ的には満足のいく戦利品も手に入ったし、これまではもらえないんだけど……どうして?」


「……この宝石がなんか怖いから」


「宝石? 〖マスタージュエル〗の核?」


「……うん」


 ジャックは顔を背け、恥ずかしそうにしている。

 ライトは、とりあえずベッドの上に座り、自分とジャックの間に仮面を置く。


「えっと……それはあの戦いが怖かったから、この宝石を見ると思い出してそれが怖い。そういう解釈でいい?」


「概ねそれでいいよ。でも、全部が怖かったわけじゃないの。ただ、最後の一瞬だけ……本気の『殺気』みたいなのを感じたから……」


「殺気? そういえば、ナビもレオを相手にしたあと同じようなことを言ってたような……」


『最後の攻撃の直前、確かに「意志」みたいなものを感じた』ナビはそう言っていた。


「だから、なんか怖いんだよこの仮面!! 呪われてそう、報復されそうで怖いの!!」


 ジャックが本気で怖がっていた。スケルトンとかゾンビとかの『斬れば倒せる』相手と、魂みたいな『あるかどうかも分からない』相手では感覚が違うらしい。


 というより、ジャックは信じているタイプだろう。

 仲間の魂のためにプレイヤーキルだってできた少女なのだから。


 だが、そうなるとこれからは倒したモンスターの悪夢にうなされる可能性もある。

 ライトは、今回のように異常に成功率の低い『DESTINY BREAK』のボスモンスターには特別なAIが組み込まれているのではないかと睨み始めている。


 まあ、イザナあたりを見る限り最初から特別でなくても交流を重ねて特別になるパターンも否定できないが……


 とにかく、ジャックが今のうちにモンスターの怨霊をふりきれるようにならないと困る。

 トラウマになる前になんとかしようとライトは判断した。


「ジャック、目を閉じてくれ」


「それ前失敗したやつでしょ!! 前はそのあとジェットコースターに乗せられたよ!! シートベルトも座席もなしで!!」


「あの時も結局は何とかなっただろ。いいから目を閉じろよ、何も起きないから」


 ジャックは恐る恐る目を閉じる。

 ライトは、仮面をジャックの頭にひっかけて引き下げれば完全にかぶれるようにして、ギリギリまで自分の顔をジャックの顔に近づけた。


「目、開けていいぞ」


 ジャックはゆっくりと目を開く。

 すると、目の前にはライトの顔がもう触れ合う直前の状態で……


「うわああああ!!」


 全力でライトを突き飛ばし、仮面をしっかりとかぶって顔を完全に防御した。

「ななな、何してんの!? 仮面被せられるくらいかと思ったのに、何ボクのセカンドキスを取ろうとしているわけ!?」


「セカンドってことは……あ、ファーストは初代ジャックか。まあそれはいいとして、その仮面はどうだ? 呪われてるか?」


「え……あ」


 ジャックは無意識に仮面を自分でかぶっていたことに気がついた。

 外そうと思えば簡単に外れる。当たり前だが、ただの仮面だ。


「まあ別に処分したいなら壊すなり売るなりすればいい。『威風堂々』に引けを取らない、なかなかいい効果もあるし、スカイもそこそこいい値段で買ってくれるだろう。だが、そのまま持ってても良い。お守りみたいにな」


「お、お守り?」


「オレの考え方的には強敵のくれた戦利品以上のお守りはないし、いつか護ってくれるかもしれないからな。ちなみにオレは、あのマンモスからもらった戦利品をスカイに売る気はない。大事にするつもりだ」


「……そもそも、あんな技あるなら全部ライトが倒せばよかったんじゃない? 強敵以前に一撃で倒せる相手だったし」


「あれは使うと『99秒間全てのスキルが無効化される』って効果があるから一撃で仕留められないとオレが死ぬんだよ。全く、使い方が難しいたらありゃしない」


「なんでそんな技をEXポイントを消耗してまで……」


「いや……ちょっと、知り合いにそういう『必殺技で一撃必殺』みたいなのが好きなのがいるんだよ。だけどなかなか、思い通りに真似なんてできないもんだな」


「一撃必殺……ね」


 このときジャックの脳裏には、その『一撃必殺』を実現し続ける異世界の和装の女性プレイヤーが浮かんでいた。




≪現在 DBO≫


「じゃあ、次の町に行く?」


「アイテムの補充はバッチリ、ライトの左腕もボクの治療でほぼ完治。そしてルートも開拓済み。足りないものがあるとすれば睡眠かな……夜中しか入れないとは言え、あの迷宮は夜更かししないと攻略できないってのは規則正しい生活を送るボクにはキツい」


 ジャックは眠そうに目をこする。

 ライトはそれを見て苦笑する。


「これから行くのはなかなか面白いものが多くて目移りする『ブランド品』の産地。『館の町』だ。きっと見たら目も覚める」


 そう言って、二人は開通済みの道を歩き始めた。




 しばらくして、たどり着いたのは建物が全てほぼ同規格の館という、ある意味殺風景ともいえる町だった。

 町を歩くNPCは大抵上流階級のような格好をしており、シルクハットや杖が似合っている。


「ここが『館の町』? 想像よりなんか地味なんだけど……」


「まあ、外見だけならそうかもな。だが、凄いのは館の中だよ。まずは……図書館に行こうか」


「なんで図書館? なんか地味そうなイメージがあるんだけど……」


「だが、クエストで手には入るものを聞いたらジャックは驚くぞきっと」


「何が手に入るの?」



 ライトはニヤリと笑うと門をくぐりながら言った。

「『魔法』だ」



 クエスト『魔法使いの修行』

 図書館で《魔導入門》という本を借りて指定ページを一息に(このときだけは設定で苦しくなるが息継ぎなしで)音読し、特殊な呼吸法で魔法に必要な魔力を生み出せるようになる『魔力生成スキル』を修得の後、基本技となる『射撃』の呪文を解読する。

 なお、『魔法スキル』は《魔導入門》の種類によって6つの属性に分かれる。



「えっとこれがこれと同じで……これはさっきと同じだから……」


「これこれこれこれ、さっきのやつだからここはそのまま代入」


 魔法の修得には謎の言語で書かれた文書を解読しなければならない。内容は修得したい魔法の『名前』『威力』『追加効果』『呪文』などの知らなければ不便な必須要項なのだが、別個に付いている辞書で同じ記号を見つけて、指でドラッグして訳文を貼り付けするという地味で面倒な作業が続き、ジャックは眠ってしまいそうだ。逆にライトは順調に解読を進めていく。


「ライト解読速過ぎだよ!! てか、なんで六種類全部同時!?」


「内容ほぼ一緒だし、ぶっちゃけ解読二回目」


「二回目!?」


「一回目は前来たとき。その時は魔法のシステムの確認とどんな魔法があるかの確認で目次だけ解読した」


「だからって全属性一気に修得してもレベルなんて上がらないよ、一つか二つに絞った方が良いって」


「畑で使う『雨ごい』とか物資の運搬に使う『摩擦軽減』とかは複数属性要るし、いっそ全部取っといた方がいいだろ」


「結局生産用? 今更魔法使いに転向はしないと思ってたけど、そこまで生産メインで修得?」

 

 ライトは弓矢も使えるがあまり使わない。どちらかと言えば近接型のプレイヤーだ。しかし、魔法を修得したら流石に防御や回復に使うものだと思っていた。


「黒ずきんはどうなんだ? ナイフだけでも十分強いだろ?」


 ジャックも近接型で今まで魔法がなくて苦労したという憶えはない。しかし、ジャックはそっけなく答える。


「『闇魔法』だよ……あの宝石と戦って、反支援の一つ二つくらい出来たら良いかもって思っただけ」


 ライトは手を止めてジャックを見つめて、やがてニヤリと笑う。


「ジャックも、倒した敵に見習うことを憶えたみたいだな。昨日は恨まれてるんじゃないかって怯えてたのに」


 ジャックはあの仮面を捨てていない。装備こそしないものの、ちゃんと『戦利品』として扱うことにしたようだ。


 ジャックは気丈に振る舞っていても、実はセンチメンタルで精神的に弱い部分もある女の子なのだ。

 戦い続けたという自負心を支えにできれば、元々の戦闘センスと相まって人間的にもかなり強くなるだろう。


 だが、今はまだ堂々とその葛藤を誇れるほど完成はしておらず、そこをからかわれると動揺を隠せない。


「う、うるさいね、さっさと解読しちゃおうよ」


「はいはい、了解したよ」




 ジャックが『闇魔法スキル』と一番基本的な攻撃呪文を修得するのには時間がかかり、その間にライトはいくつか生産系に使えそうな魔法を修得していた。


「はあ……疲れた。肩凝った……」


「自分で治せばいいだろ。まあ、慣れればもっと楽に解読できるようになるよ」


「デスクワークはいい加減コリゴリだよ」


 ジャックは自分で自分の肩を揉みながら溜め息を吐く。それを見てライトは朗らかに笑う。


「丁度日にちも合ったし……夜になってからやりたいクエストもあるんだが、まだ早すぎるしな……じゃあここからはクエストしながらブラブラ遊びまわろうか。この町は美味しいものや珍しいものが多い事で有名だから」



 その後、二人は様々な館を回った。

 外からはほぼ同じように見えても、中は『博物館』『レストラン』『美術館』『貿易商』『貴族の家』などの様々な種類があり、二人はそこでクエストを受けて化石標本と戦ったり、いつもより少し高級な料理を食べたり、魔法の絵の中の世界に迷い込んだり、貴族のお嬢様のコレクションしたヌイグルミの山に圧倒されたりと楽しい時間を過ごした。



 そして、時間は過ぎて夜になる。


「そういえば、夜になったらやりたいクエストがあるって言ってなかった?」


 珍しいアイテムが揃った店での買い物に区切りを付けたジャックは、同じく買うものを大方決めたライトに話しかけた。


 ライトはメニューから時間を見て考える。

「確かにそろそろだが……ちょっとジャックには難しいかもしれないぞ?」


「難しい?」


「まあ、オレにはそれほど難しいクエストでも無いんだが、ジャックには難易度高いかもなーって……」


「冗談言わないでよ。それならボクは楽勝でクリアしてやるよ」


「……よし、じゃあ行こうか。後悔すんなよ?」





「な、なに? こ、この格好……この服」


「何って、このクエストの正装だよ。あ、それとももっとフリフリ系の方がいいか?」


「そういう問題じゃないよ!! なんでボクがこんな『ドレス』着てるのかって言ってるの!!」


 ライトは今、燕尾服に近い高級そうなスーツを着ているが、ジャックに胸ぐらを掴まれせっかく整っていた服装が台無しになっている。ちなみに流石に帽子も今はかぶっていない。


 そして、ライトに詰め寄るジャックの服装は貴族の着るような高級ドレス。黒を基調として袖口や襟、裾などに白いレースがささやかにあしらわれ、豪奢な印象を持たせながらも余分な布は使用せず、ごたついた印象を持たせない工夫がされている。


「だから難しいかもしれないって言ったんだが……服のレンタルの段階まで来たらもうキャンセル出来ないぞ?」


「く……」


「そんな顔するなよ。なかなか可愛いじゃないか普通に女の子の格好しても」


「可愛い言うな!!」



 クエスト『お館様からの招待』。

 『館の町』で最も大きな館に住むNPCの貴族『お館様』が定期的に開催するクエスト。食事会、そして舞踏会に参加し、それぞれで好印象を与えることが出来れば有用な情報やアイテムを与えられる。

 特に、男女ペアのパーティーだと得点を稼ぎやすい。



 食事会にて。

「そんなに縮こまることないだろ。もっと堂々と胸を張ればいい」


「でも、こんな服装したことないし……恥ずかしいよ……それに、似合わないよ……かわいい系の服なんて」


「似合わなくても良いじゃないか。偶にはいつものキャラと違うキャラになってもいいだろ?」


「……ライト、ボクが恥ずかしがるの見て楽しんでない?」


「うん。楽しんでる」


「え、即答!?」


「オレはコスプレした女の子を見るのが好きなんだよ。店のコスチュームにかこつけてスカイにコスプレさせようとしたら引かれたけど」


「あっさりと性癖をカミングアウトした!? いや、それ以前にあのスカイが引くとかどんな格好を要求したの!?」


「メイド服とかな……ジャック、メイド服来てみる気はないか? スカイの店に置いてあるから」


「この流れで着てもらえると思わないで!! というか、メイドがいいならそこら辺にいっぱい居るでしょこの町。そっちを見てきたら?」


「本物のメイドがメイド服を着ていても興味はない! むしろメイドさんにはお嬢様風のドレスを所望したい!!」


「わけがわからないよ!!」


 ライトのテンションがやたら高かった。

 ジャックは罠にはめられたような気分になった。ただでさえ恥ずかしいのに、食いつかれると余計に恥ずかしい。

 しかし、同時になんだか新鮮な気分だった。それはきっと、ライトの普段のキャラからは想像できなかった新しい側面を見られた気がしたからだ。


「……ライトって、そういう変な趣味ないと思ってた。なんか、そういう『付け込む隙』みたいなものは見せないっていうか……」


 クエストの時、ライトは大したミスもせず、迷いもせず、弱音も吐かず……完璧に見える。

 しかし、今のライトはなんというか……塗装が剥がれて『地』が見えてしまっている。


「オレが嫌いになった?」


「そんなことないけど……なんか意外だっただけ。いつものライトのキャラと合わないから」


「いつものキャラか……ジャックから見て、オレってどんなキャラなんだ?」


 ジャックはその言葉に少々当惑する。

 ライトがわざわざ他人に聞かなければならない事とは思えない。

 しかし、一応思いつく端から答えてみる。


「クエスト中毒のワーカーホリックで……異常にスキル持ってて大抵の事は平然と出来ちゃって……葛藤とか悩みとかって概念と無縁で……しかも未来が見えるとかチートじみた特技もあって……しかも時々すごい先達っぽいこと言うし……かと思えばトラブルを呼び込むし……なんか『主人公』を絵に描いたようなキャラかな」


 それを聞き、ライトは苦笑いする。


「なるほど『主人公』か……だが、残念ながら本当のオレはそんなかっこいいものじゃないぞ? 正体はゾンビみたいなもんだし、良くても主人公の偽物……『主役』くらいが丁度いいかな。演劇部だし」


「ゾンビ? 偽物?」


「ジャックが見てるオレは、格好付けただけの作ったキャラなんだよ。失望させたら悪いけど、オレがすごいと思う要素も、大体他人の真似をしてるだけ。コスプレが好きなんて言うのも、本当は『偽物』が好きなだけかもしれない」


 ジャックは、ライトがいつも腰に差していた竹光を思い出す。どうせ差すなら安い本物を差せばいいのにと思ったものだったが、ライトはダンジョンに入るときですら『偽物』を離さなかった。


「よくわからないよ……なんで、そんな自分を否定するようなことを言うの? ライトがやってきたことは全部ライトの成果だよ」


 『時計の街』の復興も、攻略本も、砦攻略も、ライトなしでは実現しなかった。それなのに、ライトはそれほどの功績をまるで誇ろうとはしない。むしろ、それらを自分から切り離そうとしている。


「別にオレは自分を否定するつもりはない。でも、『本物』はやっぱり違うんだ。オレは『本物』の動きを真似して、時に大袈裟にしているだけだ。スカイと会わなきゃゲーム攻略なんて真面目にやらなかったし、赤兎に遭わなきゃ戦闘なんて最低限で済ませてたし、マリーに逢わなきゃ慈善で働いたりしなかった。それに、黒ずきん……ジャックに出合わなければオレは『最前線』になんて行く気にはならなかった」


「『最前線』? それって攻略の?」


 突然、ライトの口から思いも寄らない言葉が飛び出した。『最前線』とは、未だ誰も入ったことのないダンジョンに入ってマップを広げたり、新しい町やフィールドに一番に乗り込む所謂『最もゲーム攻略を進めているプレイヤー』の総称だ。現在はナビキやマサムネ、赤兎のような戦闘職の中でもトップクラスが集まる危険な『戦場』だ。


「今朝、スカイとマサムネからメールが来た。この『国』のボスモンスターのダンジョンが発見されたらしい。レベルが高いから少し攻略を見送るらしいが、それでも近い内に召集がかかる。そして、オレは生産職代表代理として『補給役』として出陣する。オレ一人いれば武器や防具の修理も、手に入れた食料の調理も、大体出来るからな」


 かなり初期のことだが、このゲームの世界のマップは日本の都道府県を模した47の『国』という単位のエリアごとに分かれていて、それぞれ行き来できるようにするには『国』のボスモンスターを倒さなければならないという設定が発見されている。『時計の街』のある国は『歯車の国』と呼ばれ、リアルでは東京に位置する。つまり、近々決行されるボス攻略が成功すれば、隣接する県までプレイヤーの行動範囲が広がる。長い道のりだが、大きな一歩だ。


 そして、攻略に参加するのはほぼ全てが完全な戦闘職。そこでライトが果たす役割は大きなものとなる。


 確かに、ライトのそれぞれのスキルのレベルは『それなり』といったところだが、その代わり大抵……というより、攻略本に載るようなメジャーなスキルは見つかったもの全て持っていると言っていい。一人で『補給部隊』だって出来るだろう。

 そして、いざとなれば自分で戦える。


「……良かったね。前線に仲間入りできて」


 しかし、そうなってしまえばジャックとのコンビは解消するしかないかもしれない。

 ジャックは別のゲームで名の知れたプレイヤーキラーなのだから、それを知っているプレイヤーが確実にいる最前線のボス攻略チームにはついていけない。信用を勝ち取るには、ジャックは強さと引き換えに大切なものを失ってしまっている。


「そこでだが、『医療班』として一緒に攻略に参加しないか? 迷宮ではポーションで治せないような『大怪我』をするプレイヤーも結構いるだろうし、スキルのレベルもすぐあがると思う」


「……え?」


「一緒に最前線に行って、本物の『主人公ヒーロー)』にならないか?」





 いつしか時間は過ぎ、食事会は終わり、舞踏会が始まる。

 しかし、ダンスなど経験のないジャックは上手く踊れない。それをライトがサポートする。


 ジャックもすぐに足運びを覚えて上手くなる。そして、すぐに立派な『お姫様』のようになる。


 ライトからの提案(ある意味告白)は返事をコンビの契約が終わるまで『保留』する事になった。たとえ答えが決まっていても、ちゃんと後悔しないようによく考えてほしいそうだ。


 しかし、ジャックの心は弾んでいた。

 『ネバーランド』のジャックとしてではなく、『茨愛姫』のジャックとして表舞台に立てることが嬉しかった。


 今までも嫌だったわけではないが、誰かの偽物ではなく、本物の自分になれることが嬉しかった。


 だからジャックはこの時、自分という存在を誤魔化さず受け止める覚悟をした。他人の仮面を外した自分がどんな自分でも逃げずに受け止める覚悟をした…………してしまった。


 その『自分』というものが時に誰よりも深く自身の心を裏切るということを知るには、ジャックの精神はまだ弱すぎた。






 同刻。

 『時計の街』のとある建物内でスカイと『もう一人』がスカイの店の新製品の味見として紅茶を飲んでいた。


「へえ……つまり、ライトはあなたの弟弟子だからもらい受けたい。そういうこと?……『金メダル』さん」


「いえいえ、ただ貴女方では『銀メダル』は手に余ると言いたいのです。誰も、あの子のことを分かっていない」


 『金メダル』と呼ばれたプレイヤーは紅茶をすする。スカイに反論の機会を与えている。


「ライトは自分の意志で動いていて、自分の考えで私達を手伝っている。これに何の問題があるの?」


 ティーカップをテーブルに置いた『金メダル』はクスクスと笑う。


「やっぱり、あなた達はなにも分かっていない。『銀メダル』にとっては、別に誰でもいいのですよ。ところで、貴女にとっての彼はどんな存在ですか? 『部下』というほど軽くは思ってませんよね? それならこちらに渡しても問題はない」


「何であろうとタダで譲るなんてお断りだけど……『片腕』とまでは言えない。そこまで器用には動かないし……『足』くらいかな……代わりに駆けずり回ってくれるし……」


「そうですよ、彼は貴女が『一番求めるもの』を演じているにすぎません。『特定人物の望む未来を実現する』、彼の行動原理はそれだけですよ。欲望に欠如し自分自身の『未来』を読むことのできない彼は、そうやって生きる目的を補い、求め続けている。今は誰か別の人物の『未来』のために動いているようですが、それが叶えば……あるいは本人が諦めればまた他人の欲望に縋るのでしょう。彼の人生はその繰り返し、他人の物語の主要登場人物になっても主人公にはなれない」


 『金メダル』は、口調を強める。


「だから、彼を私に任せてほしい。私なら彼を救える。彼を、他人のために身を削るしかない人生から……」


「断るわ」


 『金メダル』が、不意をつかれたような表情になる。

 その顔を見て、スカイは愉快そうに笑う。


「ハハハハハ、いいこと聞いたわ、つまりライトは願い事を無尽蔵に叶えてくれる『ランプの魔神』みたいなものかしら? いえ、予想通りには動いてくれないあたり『猿の手』かもね……そんなもの、手放すわけが無いでしょ?」


「……彼が、自分の足で歩き出せないままでもいいと?」


「お生憎、私の欲望は売るほどあるのよ。ライトを退屈させないくらいにはね」


「ライトが貴女を選んだのも、ただ大志を抱く貴女を見つけたから。彼自身の意志などない、それでもいいと、心の底から求められたものでなくともいいと言うのですか?」


「私はお金を拾っても警察にも持ち主にも渡さないような欲張りよ。諦めて」


「…………わかりました、ならば今回は貴女に譲りましょう」


 この時、あっさりと交渉は決裂した。


 二人とも、残りの紅茶を飲み干す。それが、会談終了の儀式だ。飲み終われば何も言わずに解散する。




 『金メダル』が席を立ち、部屋から去った後、スカイは呟いた。


「ああいうの、敵に回したくないな~」

《偽金魚》

 《癒やし金魚》によく似ているが、実は天敵。模様が微妙に違い、仕分けの専門職もいるくらい似ている。

 何かの偽物を見ると、水面の上に顔を出して教えてくれる。


(イザナ)「あぁ……癒されますね。」

(スカイ)「ああ、それ癒やし金魚じゃなくて偽金魚よ? 勝手に触らないようにね」

(イザナ)「偽物って言う割には大事にしてますね……もしかして、飼ってる間に愛着が湧いたんですか?」

(スカイ)「違うわよ。それは鑑定で使う商売道具なの。そんなに癒されたいなら、こっちの水槽見てなさい」

 ドサッ

(イザナ)「うわっ……金魚がいっぱい……苦しそう」

(スカイ)「雄雌揃えて育てて繁殖させてるの。売り物だけど、見るだけならタダにしてあげるからそれで癒されなさい」

(イザナ)「全然癒される気配がない……なんだか農場のひよこの群を見てるような気分です。」


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