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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第二章:戦闘編

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37/443

34頁:ハイリスクな技は控えましょう

 土曜日には投稿失敗してしまったみたいですいません。

 その代わり、今回は二本立てです。

 ライトには弱点がある。


 ジャックは『車輪の町』のクエストでそれに気がついた。

 防御力の高いクエストボスを相手に連戦した時だ。


 ライトは驚くべき集中力を持ち、多様な技を持つ。しかし、燃費はよくとも火力がなく、多才であっても天才ではない。


 ライトはあらゆる分野に通じはするが特化はしない。

 それゆえに、短所はないが長所もない。


 確かに、出来ることは人並み以上には出来るが、それも一流には及ばない。


 集中力も何時間も持続するのはそれ自体が大したことではあるが、一瞬に集中力を集中できない。


 ジャックは攻撃、回避、分析などの瞬間に集中力を最大限に高めて高精度のパフォーマンスを実現するが、ライトはずっとほぼ同じ度合いで集中し続けている。言わば短距離走の選手とマラソン選手のような違いだ。


 そのため、ライトはつまらないミスで格下の攻撃を受けたりしないし、相手が自分より弱い部分を選んでついて楽に勝つことが出来る。


 しかし、その代わりライトは致命的な弱点を背負っている。


 ライトは自分より弱い相手には必ず勝てるが、小細工抜きでただ単純に強い相手には一気に弱くなる。


 せめて勝つ方法があるとすれば、持久力といくらでも代えの利く手数で、削りきるまで『勝つまで続ける』くらい。


 能力のベクトルはバラバラで、敵の急所に突き立てる必殺の槍にはならない。


 ライトはボスには勝てない。

 そう、『一人では』勝てないのだ。




《現在 DBO》


 ライトとジャックは罠にはまって追い詰められている。


 一番の失敗はマップとダンジョンを照らし合わせてボス部屋の位置を予測できなかったこと。

 そして、『罠を回避する』という行動がきっかけになって発動する罠を考慮しなかったことだった。


 ダンジョン攻略が順調に行き過ぎていた。

 ジャックのお化け嫌いの反動ともいえるかもしれない。


 結果として、あろうことか、二人は本当のボス部屋をスルーし、その奥の取り巻きの控え室のような一回り小さな部屋の最奥へと移動させられてしまった。


 そして、二人がいるのは円形の部屋であり、反対側に扉があるが、そこには三種類合計五体のモンスターが立ちふさがっており、その奥の真のボスモンスターへと近づけまいとしている。


 重装甲の鎧を着て盾と剣を構える骸骨〖スケルトンガーディアン LV25〗が二体。

 魔同士のような服を着て杖を構える骸骨〖スケルトンサモナー LV25〗が二体。

 巨大な体躯に加え、鼻の代わりに腕の骨を使って棍棒を構える白骨化した像〖ツールマンモス スケルトン LV35〗。


 そして、その後ろの本当のボス部屋から取り巻きに支援を送る紫色のバスケットボール大の宝石。

 この階層のボス〖マスタージュエル LV40〗。


 対するは、あらゆる武器を使いこなし、誰よりも多くのスキルを持つであろうライト。レベルは44。

 そして、その横でナイフを構えるベテランVRMMO経験者の少女ジャック。レベルは40。


 ここ最近の過密なほど連続したクエストによる経験値でまだ最初の街から離れていないのに前線でも引けを取らない二人のレベルなら、十分戦って勝てる相手のはずだ。


 しかし、問題はこの罠の作った構図にある。

 〖マスタージュエル〗はどう見ても自分が戦うことを想定したデザインではない。後衛、それもおそらく支援に特化した変則モンスター。


 本来なら、そんなモンスターは先に潰すべきなのだが、部屋の構造上それができない。

 遠距離技で仕留めるにも、ライトの中途半端な熟練度の弓矢の相手としては硬そうだし、完全に一様な球体で弱点も見当たらない。


 ならば、目の前の敵を正面突破して仕留めるしかない。


「ジャックは右から!! オレは左だ!!」

「わかった!!」


 二人は円形な部屋の球面状に曲った壁に沿ってモンスターの陣形を左右から崩しにかかる。


 モンスター側の陣形は巨大なマンモスが正面の一番前に位置し、その左右斜め後ろに鎧を着た骸骨の兵隊が陣取る。

 そして、三体の味方に守られるように術を起動し始めてるのが召喚士の骸骨。


 この中で一番早く倒すべきは……


「『インビジブルバインド』!!」


 ライトは、隊列の正面から見て『左側の召喚士』と『右側の鎧兵』を糸で引っ張った。この技は『糸スキル』と『釣りスキル』を組み合わせたもので、重りの代わりに釣り針を使い、感の相当いいモンスターか特殊能力でもなければ初見では回避されない。


 正面のマンモスはすぐには対応できない。敵が素早く二手に分かれた上、その四足歩行の体は斜め後ろへの移動には向いていない。


 そして、ライト側の鎧兵が剣を構える前に召喚士が防御の中心部から引きずり出され、もう一体の鎧兵は体の向きが変わり、召喚士を守ることができない。


 その一瞬に、ライトはスケルトンと相性の良い棍棒で召喚士を殴りつける。

 ジャックは相性がそこまでいいわけではなくとも、弱点をつけば十分に大ダメージを与えられるナイフを首の骨に三連続で突き刺した。


 ガシャ!?

 ガ、ガガ!?


 一瞬のうちに攻撃を済ませた二人は鎧兵が対応して来る前に、さらにもう一発攻撃を決めて退却する。


「拳術スキル派生技『瓦砕き』!!」

「足技スキル派生技『胡桃割り人形』!!」


 ライトの拳が頭蓋骨を砕き、ジャックの膝が顎を砕いた。


 そして、二人は部屋の左右反対位置まで戻る。召喚士を倒したことも確認しながらだ。

 

 スケルトンの特徴は同じレベルのモンスターの中では比較的『脆い』こと、そして数や種類が『多い』ことだ。だから、二人のレベルで攻撃の相性や当てる部分を上手く考えれば数発で倒せる。単体で現れたスケルトンなどほぼ瞬殺。脅威にはならない。


 しかし、今倒した〖スケルトンサモナー〗は放置しておくとその限りではなくなる厄介なモンスターだ。

 本体は弱い。しかし、自分の半分のレベルの〖スケルトンサーヴァント〗というモンスターを無限に召喚して来るのだ。何の武器もないただの骸骨だが、攻撃がダメージより足止めを目的とするように纏わりついてくるものであり、大量に集まると圧死しかねない。


 だから、この密室が骸骨で埋め尽くされていく前に召喚士二体を倒せたことは幸先の良い展開だった。


 そのはずだった。


「あ!!」

「チ、そういうことか!!」


 〖マスタージュエル〗の支援の光が一際強く輝き、地面に落ちた骸骨の欠片が浮き上がって組みあがり、もとの召喚士の形に戻る。HPも全回復された。


「あの宝石を先に何とかしないと無限に復活するぞこいつら!!」


 召喚士が骸骨を召喚し始める。

 地下から地面をすり抜けるように現れる〖スケルトンサーヴァント LV15〗。一撃で倒せる相手のはずだ。


 しかし、骸骨が実体化しきった瞬間、宝石が新たに輝きを放つ。


「あ……新しく召喚された骸骨も不死身に……」


 新たに生まれた骸骨がライトを襲った。

 ライトは棍棒でそれを打ち壊すが、目の前で復活する。


 鎧兵の骸骨は召喚士を守るために動かないつもりらしいが、こんなもの無限に出されてはきりがない。


 そう思っていると、地面がわずかに揺れた。


 宝石から放たれる光に影がかかる。

 ライトが見上げると、マンモスが骨の棍棒を振りかぶっていた。


「走行スキル『スタートダッシュ』」


 『走行スキル』の基本技『スタートダッシュ』。

 数メートルだけ高速で移動する技だ。それによってライトは棍棒と反対の方へ動くが……


「バァォオン」


 振るわれた骨は復活したばかりの骸骨を粉々にし、ほとんど抵抗なくライトへ向かう。


 ライトは長い腕で……鼻で延長された攻撃範囲から退避しきれず、その攻撃をモロにとまでは言わなくとも確実に喰らって、派手に吹っ飛ばされた。


「ギ……こいつ、攻撃力すごく高い……」


 マンモスはなおもライトを追撃しようとゆっくりと動き出す。


 ライトは立ち上がり、棍棒を両手で持ってぶら下げた。

「投擲スキル派生技能『ハンマー投げ』」


 宣言したスキルを使い、一周振り回した棍棒を投げつけてマンモスの顔面に当てる。


 だが、HPは思ったほど減らなかった。


「しかも硬いな……こいつ、本気で強い」


 その言葉に、ジャックは状況を確実に認識した。

 増え続ける増産型骸骨、それを召喚する骸骨、召喚士を守る強い骸骨、そして、一対一でも苦戦するマンモスの骸骨。

 それらを不死身にするボスモンスター。


 まさに『絶体絶命』だった。




「ライト、ポーションが残り少ないよ!!」

「オレも手持ちの武器がもう少ない、投げてくれ!!」


 戦闘開始から約十分後、二人は消耗していた。ジャックは立て続けのダンジョン攻略からの不利な戦闘で精神的に疲労し、ライトは精神的には大丈夫だが武器を消費している。


 その理由は『投擲』だ。

 〖スケルトンサモナー〗は妨害がなければ30秒に一体くらいのペースで骸骨を生み出す。それを防ぐために時折投擲で召喚を邪魔しているのだが、その投げた武器が回収できずにいる。


 それに、投げた武器も他のモンスターに阻まれて届かないことがあり、〖スケルトンサーヴァント〗はもう8体まで増殖している。


 ジャックは地面に落ちていた剣を戦闘の合間に拾い、ライトに投げる。


「ジャグリングスキル『ジャグリングキャッチ』」


 ライトはスキルを使って回転しながら飛んできた剣の柄を捕まえて、まとわりついてきた骸骨を切り払い、急いで飛び退く。


 その直後、仲間を粉々にしながら骨の棍棒がライトの居た位置を通過した。


 危険なのがこの〖ツールマンモス スケルトン〗だ。移動力こそないものの、攻撃力、防御力が高く、オマケに味方がいようと関係なくその棍棒を振るう。


 このままでは、量産される骸骨達に捕まり、捕まえている骸骨諸共撲殺される。


 倒しきらなければ良いかと思い、骸骨の手足を切って立ち上がれないようにもしてみたが、そうするとマンモスが踏み潰して復活させてしまった。ならばと、苦労してマンモスの脚を折ってみたりもしたが、マンモスは足がなくなると自重を支えられなくなって倒れて分解し、復活してしまった。


 勝つには、ボスを先に倒さなければならないが、扉の前の四体がそれを阻む。

 ジャックは何度もトライしているが、量産された骸骨に邪魔されながらでは最高速度で突っ切ることもできない。


 このままでは、回復アイテムも武器も尽きて嬲り殺しにされる。


 焦りが募る。

 視野が狭くなる。

 何か、打開の策は……


「ジャック!! このままじゃ無理だ、オレが全部ひきつけるからその間にボスを倒してきてくれ!!」


「さっきからやろうとしてるよ、でも扉の前に張り付いた奴がいて……」


「そいつらもこっちへ引っ張る!! だから扉ががら空きになったら早く行け!!」


「どうやって……まさか!!」


 ライトには、ボス戦において一気にターゲットとして注目される技がある。それを使えば、確かにできるかもしれない。

 しかし、二人でも対処しきれないようなモンスターを扉の前の門番含めて全て相手にするのは危険すぎる。


「やめ」

「『威風堂々』」


 ライトの身を仄かに黄金の輝きがつつむ。そして、元々ライトを狙っていたモンスターも、ジャックを狙っていたモンスターも、扉の前の四体も全てがライトに注目する。


「今だ、行け!!」

「て……たく、後で説教だよ!!」


 ジャックは妨害を受けることなく加速して、ライトの方へ動き出す四体を無視して本当のボス部屋にたどり着く。


 〖マスタージュエル LV40〗、予想通り手も足もないのでライトの方へ動き出そうとはいていない。

 ただ、球体の中心にある紫色の光のつくり出す『瞳』が罠から抜け出したジャックを見つめた。


「自分の同レベルのボスモンスターの単独撃破か……いきなりレベル上がったとは言っても、デスゲームでやることじゃないよね……」


 ジャックと〖マスタージュエル〗のレベルは同レベル。

 本来なら、このダンジョンのボスモンスターのレベルは多くても35くらいだと思っていたが、安全マージンをひっくり返すくらいの急激なレベルアップ。


 ここが正念場だ。

 ここで勝たなければ、本当に死ぬ。


 〖マスタージュエル〗の『瞳』が輝いた。


「!!」


 ジャックは斜め前に飛び出てその光を避けた。

「やっぱり、支援役だからって無抵抗でやられてはくれないわけか……」


 さらに光がジャックを狙うが、ジャックはジグザグに前進して距離を詰める。

 過去には『狙撃封じ』と呼ばれていたこともあるのだ。このくらいの単発光線魔法など、避けることは容易い。


 瞬く間に距離はなくなり、ジャックは走りながら加速したスピードを乗せてナイフで斬りつけた。


「か、硬っ!!」


 ガラス程度の強度かと踏んでいたが、その感触は予想を遥かに超えて硬かった。台座から転がり落ちることもない。

 一段しかないHPバーの消費量はせいぜい5%ほど。一撃でボスモンスターに与えるダメージの割合としては多いかもしれないが、この状況であと19回は同じ攻撃をしなければならないと考えると状況は厳しい。


 その瞬間、攻撃で速度が落ちたその瞬間、『瞳』が一際強く輝いた。


「きゃっ!!」


 壁まで吹っ飛ばされる。

 そして、全身にひどい不快感。体が少し重い。


「これは……反支援(デバフ)?」


 能力値を一時的に底上げするなど有利になる効果が付加されるのが支援。

 そして、反対に状態異常や能力値低下などの不利な効果が付加されるのが反支援だ。


 自分のHPバーの隣に浮かぶアイコンを見てみると『麻痺 LV1』の表示。


 体が動きにくくなる『麻痺』はレベルに応じて症状がひどくなり、LV1なら動きが鈍る程度、LV2ならジャックのような高速戦闘タイプはいつも通りの戦いなんてとてもではないができない。レベルが上がりLV5までいくともはや全く動けず、喋ることもままならなくなる。


 ジャックがその慣れない不快感とカウンターのショックで動けずにいる間に、さらに光が襲ってくる。


「あぐっ!!」


 また違う種類の不快感。今度は先ほどまでの衝撃は受けないが、またも反支援を受ける。

 表示されたのは『毒 LV1』。時間と共にHPが削られる。


 なんとか立ち上がり光を避けながらも接近しようとするが、麻痺で鈍った体が意識について来ずに何発目かで避けきれずにまた光を受ける。


「くぅ……」


 今度は一回目と同じ不快感。一つ目の表示が『麻痺 LV2』となっていた。

 どうやらこの攻撃には状態異常をランダムで付加、同じ種類はレベルアップで重ねがけという効果があるらしい。


 しかも、攻撃を受けた直後の反撃は通常とは桁違いの反応速度を持つ。


 このモンスターを倒すなら、セオリーでは五、六人以上で交代で『攻撃』と『状態異常の回復』を回して一撃当てたら離脱(というより吹っ飛ばされる)という戦法を取るべき相手だ。


 こいつを一人で?

 麻痺と絶望感で足が止まる。


 その時、動きの止まったジャックの頭にガラス瓶が当たって砕けた。

 思わず衝撃を逃がそうと上半身を揺らすと、宝石の放った光が過ぎて行った。


「止まるな!! そんな石ころの相手で『ネバーランド』の……『ジャック』の伝説を終わらせていいのか!!」


 それはライトの声だった。

 麻痺のレベルが一つ減っている。投げられたのは麻痺の回復薬、『調合スキル』の技『ドラックボム』だ。攻撃技だが威力は低く、薬などを投げると命中したときそれを投与した扱いになる。


 次の光線を受けないように移動しながら声の方を見ると、ライトが扉の前でなだれ込んで来ようとする骸骨を押さえているように見える。


 状況はよくわからないが、攻撃を受けたボスモンスターがライトからモンスターを奪って自分を守らせようとしていて、それをライトが先ほどまでと逆に入り口でで押さえつけているらしい。


 〖マスタージュエル〗も追い詰められているのだ。

 今、ライトがこの状況を『守って』いる。


 ライトは『ジャックとライトVSボスと無数のモンスター』ではなく、『ジャックVSボス』の形に持ち込めたのをチャンスだと捉えている。ジャックに戦況の全てを任せている。


「……そういえば、まだあれ言ってなかったっけ……」


 ジャックは仮想の呼吸を整え、首の数か所の点を押す。

 『医療スキル』の派生技能『指圧』だ。十分ほどだが、受けている状態異常の症状をを一段階低いレベルにできる。


 そして、敵を見据える。

 口にするのは、自分たちの運命を笑い飛ばそうと、冗談半分で決めた『ネバーランド』の戦闘部隊の攻撃開始の決め台詞。


「さあ、全滅の時間だ」





 少し時間は戻り、ジャックが部屋を出ていったとき、ライトは大量の敵に囲まれていた。


「さて、ジャックなら負けることはないだろうが……早くしてほしいな」


 今はとにかく威力より手数を優先して拳と蹴りで応戦しているが、時間稼ぎが精一杯だ。

 そして……


「オマエが一番ヤバいよな、ファンファンの御先祖様」


 ライトは足技スキルの『キックステア』を使って骸骨を踏み台にし、全力でジャンプして回避する。

 そして、ライトが苦労して一度に相手していた四体の量産型骸骨と一体の鎧兵が一掃される。


「強すぎるだろ!! オマエが本来のボスだろ絶対!!」


 超重量。高威力。重装甲。そして不死身。


 馬鹿げたモンスターだ。不死身無しでようやく、今までのこのダンジョンのボスの強さの上昇と一致するくらいだ。そうなるとHPが一段なのが矛盾するようだが、あの不死身付加があったらむしろこのくらい少ないほうがいいだろう。この硬さでは、たとえ一段でも倒すのは大変だ。


 ライトが着地した時、遠くで紫の光が一際強く輝いた。


「お、あっちも戦闘開始か……って待て!! オマエはそっち行くのか!?」


 ボスから救難信号でも出たのだろうか、マンモスはライトを無視して扉へ向かう。

 流石にボス級二体が相手では、ジャックでも勝ち目は薄い。


「チッ、『インビジブルバインド』『ストリングストロング』……ギ、力強すぎだろ!!」


 糸で引っ張っても全く進行が止まらない。

 他のスケルトンはスカスカで軽いが、〖ツールマンモス スケルトン〗は中がぎっしり詰まっていて、まるで戦車を引っ張ってるような感覚だ。


「……なら、こうしてやる!! 骸骨ども、こっち来い!!」


 ライトはマンモスを引っ張るのを早々に諦め、唯一マンモスに勝る能力である『速力』でボス部屋の入り口に先回りし、自分の方へと寄って来る弱い骸骨たちを糸で引っ張って引き寄せる。骸骨の体勢が崩れるが、そんなことは気にしない。


 鎧兵や召喚士も両手からの糸で引っ張り寄せる。

 そして、自分の近くに集めた骸骨たちを糸で一纏めにして、先日手に入れた≪白い反物≫をメニューから取り出す。


「梱包スキル『インスタントラッピング』」


 まとめた骸骨たちをそのまま反物で粗く縛り上げて、大きな一つの塊に変える。『梱包スキル』は拘束にも使えるが、相手が強く抵抗すればすぐに拘束は解けてしまう。


 だが、今は時間稼ぎができればいい。

 マンモスが迫るが、少しだけ時間があるのでジャックの様子を確認する。


「あれ、なんだジャック。止まっちゃって……麻痺受けたか?」


 ライトは麻痺の回復ポーションを投げつけて少し『応援』する。

 そして、目の前に迫り棍棒を振り上げるマンモスに向き直る。


「さあ、オマエたちの自慢の不死身を生かした『スケルトン製高反発クッション』、壊せるもんなら壊して見ろ」






 高速で走りながら、ジャックは考える。

 自分は、今までより多くの相手と、より強い相手と、より厄介な相手と戦ってきた。

 最初は袋叩きにされて笑われたこともあったけど、絶対に折れずに抗って来た。いつしか相手のパーティーを全滅させるようになり、忌避されても戦った。


 死んだ仲間達のため、より強くなれると信じて、より密度の濃い時間を送れると信じて。


 このゲームを始める少し前、槍使いと支援役のカップルを襲った覚えがある。

 最初はもっとたくさんいたパーティーだったけど、他はすぐに全滅してた。


 そして、最後の二人になって、仲間を見捨てて逃げるかの選択を迫られると急に強くなった。

 自分には及ばないけど、明らかにそれまでと違った。

 本当に『愛の力』だったのかもしれないと思う。まだ付き合っているわけではなかったみたいけど、お互いに相手を想っているからこその強さだったのだと思う。


 正直、負けるかもしれないと少しだけ思った。

 あの時、槍使いが自分を道連れにすることに思い至って、そのために全力を傾けていたら危なかったかもしれない。


 思い知った。

 『心』は『強さ』に換えることができる。

 ならば、今こそ『心』を強さに換えるべきだ。


 さあ、久しぶりに本気で『殺意』を振るおう。

 

 



 万全の速度で光線を避けながら宝石に接近する。

 そして、自身の攻撃範囲に入った瞬間、ジャックは技を起動する。


「『虚影(きょえい)』」


 その瞬間、ジャックは『消えた』。不可視化ではなく、完全に『消えた』。

 そして、宝石の近距離からの光線は外れ、その直後に宝石を通り過ぎたジャックが『現れた』。


 この技は、使うと一瞬だけ……約一秒にも満たない時間だけ『消え』て、その間一切の攻撃を受けない効果を持つ。

 その代わり、その間は攻撃してもダメージは与えられない。存在しないのだから当然だ。


 光線を避けながらターンして、またも攻撃直前に『消える』。


 まだ攻撃はしない。

 まだ、そのときではない。


 宝石がまるで学習しているかのように光線を攻撃のタイミングに合わせてくるが、その光線はジャックの通っている『はず』の空間を通り抜ける。もしかしたら、フェイントに混ぜて本当の攻撃を加えてくるのを狙っているのかもしれない。


 そして、六回の『虚影』を繰り返した時、ジャックはフードケープを脱いで投げつけた。


 ついに、時が満ちたのだ。


 宝石はパニックになったりしない。

 フードケープなど、状態異常などなくとも光線の衝撃で吹き飛ばせる。それよりも目標はその奥にいるはずの挑戦者。


 光線でフードケープを吹き飛ばすと、ジャックは確かに現れた。そして……


「忍術スキル『影分身の術』!!」


 〖マスタージュエル〗を『取り囲む』ジャック『達』からほぼ同時に『18発』の攻撃を喰らった。


 ガキン ガキン ガキン ガキン ガキン ガキン ガキン ガキン ガキン ガキン ガキン ガキン ガキン ガキン ガキン ビシッ ビキッ ピキッ


 これが、忍術スキルの中級技『虚影』とクエストで習得する派生技『影分身の術』のコンボ。

 『虚影』で消えている間もプレイヤーは行動していて、その僅かな間にダメージゼロの透過する攻撃を加えることも出来る。そして、『影分身の術』は、その空白の時間の間の動きをなぞって動く分身を作り出す。


 六回の『虚影』の間に、ジャックは毎回通り過ぎながら三回攻撃を加えている。合計18回、ジャックの攻撃速度があってこその連撃。


 この技は最初に素通りさせた攻撃を後から発動させているだけなので攻撃力の合計値は増えないし、EPの燃費もよくない。だが、大きな利点もある。


 それは『カウンターを受けない』ということだ。分身にも実体はあるが、分身が受けたダメージは本体に還元されない。


 宝石は一度に大量の攻撃を受けてムチャクチャに反撃しようとするが、ジャックは消え去り、光線は無駄撃ちに終わった。


 そう、周りには『一人も』いない。

 ジャック本体が360度どこにもいない。


 〖マスタージュエル〗のHPはもう真っ赤に染まっている。あと一撃で終わる。


「これで、終わりだ!!」


 その声は宝石の『真上』から響いてきた。

 そこには、分身を踏み台にして飛び上がったジャック。


「△▽△▽△▽△!!!!」


 ここで初めて〖マスタージュエル〗が鳴き声を上げた。ガラスがこすれ合うような音だ。


 だが、ジャックは逃げない。ナイフを宝石に向け、落下の力で最後の一撃を与えようとしている。

 『影分身の術』は使い終わると反動で一瞬硬直するのだ。だから、最後の止めを刺すために空へ飛び上がったのだ。


 これまでとは比べものにならない数、太さ、速度の反支援の光線がジャックを襲うが、ジャックは落下し続ける。


 そして、最後の瞬間、ジャックは静かに言った。


「自分を不死身にできれば良かったのにね」


 宝石が悲鳴のような音で砕け散った。


 ボスの撃破を確認し、ジャックは台座に寄りかかる。


「麻痺、毒、睡魔、ステータスダウン、知覚妨害……ほんと、反支援好きだねこの宝石」


 最後に受けた状態異常のせいで全く動けない。最後にはHPがほとんどない状態で、狂乱状態になっていたのだろう。




 次の瞬間、『ドグアシャァァン』という派手な音とともに、大量に骨の欠片が宙を舞った。


 ボヤケる視界の中で、扉でモンスターを食い止めていたライトがぶっ飛ばされ、扉の奥に〖ツールマンモス スケルトン〗が見えている。


 他のスケルトンは他ならぬマンモスによって壊されたらしいが、取り巻きの中で最強のスケルトンであるマンモスはボスがやられてもピンピンしている。支援がなくとも関係なく行動している。


 むしろ、ボスモンスターを倒したジャックに敵意を向けている。


「うわ……ボスいなくても戦うんだ……弔い合戦?」


 迫ってくるマンモス。動けないジャック。


 ジャックはなんとか動けないかと抵抗するが、動きの遅いマンモスからも逃げられそうにない。


 棍棒の攻撃範囲まで後一歩という所まで来た。

 このままマンモスが進行してくれば、動けないジャックは容赦なく殴り飛ばされるのだろう。


 だが、それを許さない者がいる。

「よくやった、今度はオレの活躍見てくれよ」


 わかっていた。彼がこんな一番の見せ場を逃すはずがない。

 そこには、不死身の防壁を失った直後にモロに棍棒を喰らってHPを真っ赤にしたパートナー。左腕は折れている。


「……ライト、ボスを一人で倒したよ。すごいでしょ?」

「ああ、ご褒美にオレの『必殺技』を見せてやるよ」


 棍棒をゆっくりと真上に振り上げるマンモス。

 今回は横凪ではなく、一直線上のライトとジャックを狙う。


 対するライトは右手を上げ、唯一残った……残した右拳を真上に掲げる。


「EXスキル『オール・フォー・ワン』……スキルが多いほど威力が上がる。オレの『必殺技』にはピッタリじゃないか?」


 ライトの周りに何十もの『矢印ベクトル)』が浮かび上がり、てんでバラバラのそれらが腕と同じ方向に向き、急激に収束して腕に張り付く。

 全てのスキルが『この一撃のため』に収束する。


 そして、〖ツールマンモス スケルトン〗の棍棒とライトの掌打が激突した。

 掌打の命中と同時にライトの腕の矢印が射出され、その『数』で棍棒を押し返し、さらにはマンモスをも後ろへと押しやり、最後にはマンモスは奥の部屋の壁に激突して砕け散った。


 『オール・フォー・ワン』。

 修得したスキルの種類が多いほど、それぞれのレベルが高いほど威力の上がるライトにとっての『一撃必殺』。


 二人の前に『クエストクリア』と『DESTINY BREAK』の表示が現れ、大量のアイテムと経験値、EXポイントと金が手には入ったという結果が表示される。


 だが、ライトはお金などには目をくれず、状態異常の回復アイテムを取り出してジャックに使う。


「ありがとう、ジャック。オレ一人では勝てなかったよ」

《トレーシングソード》

 大型の片手剣。

 攻撃を避けにくくする。


(スカイ)「今回紹介するのはこちら。筋力は高いけど技術力が低くてなかなか攻撃が当たらないという方におすすめ《トレーシングソード》です~」

(イザナ)「あ、これ草辰さんが使ってましたね……あの人、鍛冶屋なのに技術力低いですよね」

(スカイ)「もともと戦闘職で筋力ばっかり上げてたらしいからね。まあ、戦闘でライトに負けて、鍛冶屋としてはチイコちゃんに負けて、今では二つ名が『かませ犬の草辰』だからね」

(イザナ)「その二つ名は可哀想ですね」




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