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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第二章:戦闘編

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32頁:お湯にはゆっくりと浸かりましょう

 冠婚葬祭とかの贈り物では包丁とかは失礼なので注意しましょう。

「はーい、実習でーす」


「パチパチパチパチ(棒読み)」

 夏休み真っ只中の八月中旬。

 正記はミカンに呼び出されて繁華街へやってきた。


「ちょっとー、テンション低いよゾンビくん。もっと盛り上がらないとつまんない人間になるよ」


「生憎ゾンビはテンションが低いのが世間一般のイメージなんですよ。それに、明日は友と無限将棋する日だから対策も立てないといけないし……」


「はは、この前会ったときは大将棋やってたのに、今では無限将棋なんて素晴らしいね幼女の学習力。『ミカ姉』は嬉しいよ」


「無限将棋なんて教えたのは師匠自身でしょ。その学習力に無理やりついていかされる身にもなってください」


「じゃあさっさと実習を終わらせましょうか」


 そう言い、ミカンは正記を引き連れて繁華街を進む。


「ところで、何の実習なんですか? 何にも説明が無いと何して良いかわからないんですけど」


「ほら、夏休み明けの部活ではゾンビくんは『町を裏から護る裏番長』って役やるでしょ? あれの予習」


「ああ、捨て犬でも拾うんですか?」


「ううん、そっちのシーンじゃなくて戦闘の方」


 そこまで話すと、二人は裏道に入った。

 そして、何度か曲がるとそこには如何にも『かつ上げされている』らしい同じ高校の生徒と『かつ上げしているらしい』他校の生徒が三人もいた。


「やっぱり探したら見つかるねー……さて、『おい、そこの不良共うちの生徒に手えだしてただで済むと思うなよ(棒読み)』」


「あ? なんだこの尼、た、たっぱがあるからっていきがってんじゃねえ!!」


 他校の生徒は揃ってナイフやスタンガンなどの『武器』を取り出す。190を超えるミカンの大きさに威圧感を覚えたのだろう。


 だが、ミカンは全く怯むことなくライトに呼びかける。


「いい? 一度手本を見せるから後はゾンビくんが片付けなさい。終わったら帰って良いから」


 話している間に不意打ちを狙ったのか、スタンガンを持った不良がそれをミカンに押し付けようと飛びかかってくるが、ミカンはスタンガンを軽く避け、不良の顔を掴んで地面に叩きつけた。


 唖然とする残りの二人。そして、正記は少し申し訳なさそうにその二人に言う。


「なんか手伝わせて悪いな、部活の演劇で不良と戦うシーンがあるから、ちょっと『役作り』に協力してくれるか?」







《現在 DBO》


「スカウト?」


 ライトは倒れ伏したプレイヤー達を見下げながら少々怒りを込めてジャックとチイコに説明した。


「なんかチョキちゃんの刀鍛冶としての腕を聞きつけて来たらしいが、工房にいたオレを刀鍛冶と間違えやがったんだ。まあ、それだけなら別に怒ることはないが、コイツら『本物は小学生の可愛い女の子だ』って言ったら『デタラメ言ってんじゃねえ』って襲ってきたから……」


「いや……ふつう工房で武器作ってたら……おまえが本物だと思うだろ……ガクッ」


「あ、悪い。そういえばまた工房借りたから」


「勘違いだけでこんな暴れたの?」


「だってコイツら『首を横に振ろうものなら暴力で』みたいな感じだったし」


 どうやら、穏やかな話ではなかったらしい。そこでライトはその場で使っていた『武器作成スキル』に使う《金鎚》と『研磨スキル』で使う《砥石》で工房で暴れようとした三人を叩き出したようだ。


「く……俺たちにもノルマがあんだよ……何も営業妨害しに来た訳じゃ……」


「つまり、ノルマを設定した奴……スカウトをさせた奴がいるんだな?」


「……」


 三人の表情が変わる。

 ライトはそれを一瞥し、溜め息を吐く。


「はあ……どうせどっかの戦闘職がギルドでも作ろうとしてるんだろ。それで前線にはロクに生産職がいないから慌てて人材を集めている……そういうことだろ? まあ、攻略に熱心なことは良いことだが、生産職なら力を見せれば従うとかって考え方は好きじゃないな」


 ライトは、金鎚をゆっくりと倒れているプレイヤーの中で一番威勢が良かった者の額に近づけた。


「頭に伝えとけ『スカイと契約したプレイヤーを横取りしようとしたら破滅するぞ』ってな。お互いのためだ」


 それだけ伝えると、ライトはあっさりと背を向けて逃げるままにさせる。そして、ジャックとチイコに向かって笑いかけた。


「さて、夕食にするか」




 ライトは二人から〖ツールエレファント〗のファンファンがテイムされる過程を聞き、宿に入らず馬小屋を間借りしているファンファンを窓から見た。


「前線の方でもいくつかそういうイベントがあるらしいが、『時計の街』の近辺では初めての事例だな。しかも、小動物型のモンスターが多いらしいが、ファンファンは明らかに中型から大型。見つけにくいからレアなモンスターがテイムできたのかもな……しかし、あいつよく食うな……馬小屋の干し草ほぼ独占してるし」


「好物は《パンの耳》なんだけど、やっぱり足りてなかったのかも。あんなにたくさん用意できないよ」


「食費が大変なことになりそうだね」


「テイムされたモンスターを観察した情報の代わりに、世話代を弾むようにスカイに頼んでみよう。観察日記を描いてもらう事になるがいいか?」


「わかった、朝顔の成長観察もやったことあるし、出来ると思うよー」


「あ、そうだ黒ずきん」


「なに?」


「クエストの途中良い温泉宿を見つけたんだが、今夜はそこに泊まらないか?」




 二時間後、温泉宿。


「なるほど、確かに良い湯加減だね……でも、なんでこんなに濁ってるの? なんか泥みたいな……」


「ああ、ここの泥は『若返り』の効用があるらしい」


 湯に浸かった状態のジャックが質問をすると、ライトの返事が返ってくる。

 ただし、ここは混浴ではないので柵越しでの会話だ。他に客はなく、時間も敢えて遅い時間を選んだので貸し切り状態。


「ボクは寧ろ大人になりたいんだけど……」


「浸かりすぎるとアバターの年齢が最大10歳ほど若返るらしいぞ」


 ザバッ


「ボクをロリ化させる気か!!」


「はは、心配しなくても最低一時間くらい浸かってなきゃ若返らないよ。それに、若返ったとしてもフロントで売ってる薬を飲めば戻るし。実証済み」


「やったの!?」


「そういうクエストがあったんだ。まあ、ここは湯加減はいいけど、時間によって泥の効果が変わって『減量』『増量』『増髪』『脱毛』『日焼け』『美白』とか変な効能になるからお客さんがあんまり来ないとか……」


「普通そんなところに入らせる!?」


「ちなみにその効果が凝縮された泥団子があるんだが……後で食べてみるか? うまいぞ」


「二重の意味で断るよ!!」


 呆れながらも、ジャックはまた湯に浸かる。


 お客さんが他にいないのは時間のせいだけじゃないらしい。そんな寝過ごしたらどんな姿になるかわからない温泉に来るのはアバターの容姿を変えたいプレイヤーかライトのような物好きくらいだろう。


「まあ、オレとしては他の客がいなくてよかったと思うよ。静かだから腹を割った話もできるし、温泉は倫理的なセキュリティーの設定が強いから盗み聞きの心配もない。柵越しではあるが、改めて『裸の付き合い』といこう、ジャック」


「ボクは一度裸見られてるけどね。一方的に」


「それは右目と相殺だろ?」


「今度見たら次は両方潰すからね」


「フィールドではやめてくれよ? あのレベルは病院まで行かないと治らないんだからな」


「……そのときは、ボクが治すよ」


 ここでの会話は外には音漏れしない。それはジャックも確認したし、ライトもそれを承知の上でこんな話をしてきたのだろう。


「そうか……どうだった? 夢の『お医者さん』は」


「うん、患者はモンスターだったし、出来たことも薬を塗って包帯を巻いただけだったけど……悪くなかったよ。それに、『ありがとう』って言われるとあんなに気持ちがいいんだね」


 しばしの沈黙の後、ライトはポツリと言った。

「……ごめんな」


 ジャックは何のことかわからず困惑する。

「何を謝ってんの?」


「本当は『手術の日までにゲームをクリアしてやる』とか言えたら良かったんだが、オレはそこまでのことは言えないんだ。もしジャックが、現実世界で医者になって自分と同じような子ども達に『大人になる未来』をあげたいと思っていても、オレにその未来は実現出来そうにない」


 まるで、心を読んだかのようにその『未来』はジャックの中の『夢』のイメージと一致していた。


「……なるほどね、そんな小学生の作文みたいな夢は直接聞くより予知した方が早いよね」


 ライトは『予知』などと大げさに言っていたが、本当はこんなものなのだろう。なるほど、確かに好んで人に話すようなものではない。誰にだって、秘めておきたい夢の一つや二つはあるのだから。


「心配しなくても、ボクが病気になってから兄貴がやたら医学に熱心になったから、間接的にでも叶えられるよそのくらい」


 昔は妹の自分が倒れてから必死に勉強しだした兄に「間に合うわけないだろ」とか思ったりもしたが、それもある意味生きた証になるのだろう。


 ただ、一つ欲を言うなら……


茨愛姫いばらあき)。茨を愛する姫と書いて茨愛姫。ボクの本名だよ」


「……え、まさかリアルネーム?」


「もしボクがゲームクリアより先にみんなのところに行っちゃったら、家族に伝えておいてくれない?」


 ジャックは……愛姫は空を見上げ、見えてはいないであろうライトと、元の世界の家族、そして先に旅立った『ネバーランド』の仲間たちに向けた精一杯の笑顔で、今が一番幸せだとでも言うかのように言い放った。


「愛姫は、良いお医者さんになったよ!!」




 二人とも若返りの効果が出始める前に湯を出て、同じ個室に帰ってきた。


「それにしてもその名前……もしかして、『ネバーランド』では『DRAG』のソーンだった? 師匠曰わく『狙撃封じ』のソーン?」


「あれ? 言ってなかったっけ?」


 『狙撃封じ』。多種のVRMMOで活動していた『ネバーランド』だが、どうしても戦闘が発生するような局面ではほぼ同じメンバーでの少数精鋭。いつもナイフとアクロバティックな動きを武器とする『初代ジャック』がその先頭となっていたが、なにも彼一人で勝っていたわけではなかった。


 完全に接近戦タイプの彼を支え、苦手な遠距離攻撃要員をいち早く暗殺して近接の戦いに持ち込むサポート役がいたのだ。隠密性に長けたことからあまり有名にはならなかったが、ライトはミカンからその名を聞いていた。


 『DRAG』のバンダナを巻く『初代ジャック』の影武者的存在『ソーン』。あらゆる世界で銃、弓、魔法まであらゆる飛道具をつぶして回った影の英雄。 


「なるほど、戦闘スタイルが変わってたからわからなかったよ。しかし……ジャックの本名って『眠り姫』を連想するな」


「ああ、昔はよく『名前と行動力が一致しない』って言われたよ。……でも、あの話あんまり好きじゃない」


「どうして?」


「王子様には、ただのラッキーで茨を抜けてくるより、無理矢理にでも茨をこじ開けてお姫様を起こしてほしかった。もう一回くらい針で刺してでも起こしてほしかった。……じゃないと、もし茨より先にお姫様の寿命が来ていたら、待ってる暇なんてなかっただろうから」


 そういうジャックは少し悲しそうだった。

 重ねずにはいられなかったのだろう。茨に封じられたお姫様と、病院からろくに出られなくなってしまった自分を。


「なるほどな……今出来ることはいました方がいいってことか……ジャック、ちょっと目つぶって?」


「え、いったい何なの!? 変なことする気じゃないよね!?」


「しないよしないから、ちょっと目をつぶって両手を出して、手のひらを上にして広げて」


 ジャックは警戒しながらも指示通りに目をつぶって手を出す。


 そして、手の上に何か少し重量感のあるものが乗せられたのを感じた。


「見ていいよ」



 ジャックはゆっくりと目を開き、手の上のものを確認する。


 それは、鞘に入っていたが刃渡り40cmほどの刃物だとわかった。鞘にはいっていない柄の部分にはジャックの手によく馴染むように丁度良い窪みが彫られている。


 それを渡したライトは頭をボリボリとかきながら自信なさげに言う。


「本当はジャックが医者になりたいって聞いてメスにでも変えようかと思ったんだが、あいつらが邪魔してきたから出来なかったんだ……『車輪の町』でのお詫びもかねて受け取ってくれるか?」


「これ……ナイフ?」


 ジャックのメイン武器はナイフだ。それをプレゼントされたのかと思った。しかし、その刃の形状はナイフというより……


「ナイフだとレベル上がると使えなくなるだろ? だから別のにした。ジャック、料理得意だったし……いや、別に料理人に転向してほしいわけじゃないぞ! ただ、長く使って欲しくてな……」


 それを聞き、ジャックはそれが何かようやく確信が持てた。それは、大きめだが使いやすいように工夫された《出刃包丁》だったのだ。

 少し鞘から抜いてみると金属部分はなかなかの耐久力を持った高級な金属だと一目でわかった。おそらく、あの隠し子部屋で集めた貝から出た金属のほとんどをつぎ込んだのだろう。


「まああれだ……これからもよろしくな」



 本来、女の子へのプレゼントが刃物というのは常識に反するだろうし、夢とは関係ない物で怖がらせたことを赦してもらおうとすることは、しかも『これからもよろしく』などと言うことは、常識的とは言い難い。


 だが、ジャックは包丁を胸に抱き、笑顔で応えた。


「うん。これからもよろしく」




 同刻。

 『車輪の街』の地下ダンジョンにて、誰にも届かない悲鳴が響く。


「だ、誰か助けてくれ!! うわああああ!!!!」


 楽な仕事のはずだった。

 割りの良い稼ぎが手に入るはずだった。


 だが今、それが間違いだと知った。


 男は必死に武器を振るい、少しでも長く生き延びようとする。


 だが、『それ』の耐久力は高く、なかなか壊れない。そうして一つ一つ対応していく間にそれ以上の数の『それら』がまとわりついてくる。


 それは、金属や宝石で出来た貝だった。

 ただ狩られるだけのはずだった貝がプレイヤーの体に張り付き、じわりじわりとHPを削る。

 一つ一つが重く、いくつもくっつくと身動きがとれなくなりそうだ。


 彼はこの階層のダンジョンの入り口にいたNPCの言葉を思い出す。


『洞窟の中で眠ってはならない。眠ればこの洞窟に食われてしまう』


 続けていた抵抗も終わりを迎える。武器は壊れ、張り付かれ過ぎて立つことも出来なくなる。





 また一人、行方不明者が増えた。

(ナビキ)「始まりました『大空通信』のコーナーです!!」


(スカイ)「このコーナーでは当店自慢の商品をご紹介しま~す。記念すべき第一段はこちら」


(ナビキ)「お、さっそく目玉商品、攻略本《デスゲームの正しい攻略法》ですか!!」


《デスゲームの正しい攻略法》

 ゲーム攻略に役立つ情報が目白押し。

 一冊持ってて損はない。


(スカイ)「現在第二巻まで出てま~す。一巻では初心者向けに主要クエストとスキル、アイテムの紹介、さらに、昼間に出てくるモンスターの戦闘パターンと弱点、各アイテムのドロップ率などを掲載。さらに、二巻には少しレベルアップして夜のモンスターも載っていま~す」


(イザナ)「あれ? 一巻に夜のモンスターのドロップ率とか載ってないのってスカイさんが寝落ちしたからじゃ……」


(スカイ)「これからも、『大空通信』をよろしくね~」


(イザナ)「あ、ごまかした」

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