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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第六章:ダーティープレイ編

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296頁:特集『緊急クエスト! 魔王から姫を取り返せ⑥』

 クエスト『魔王から姫を取り返せ!』


 ルール①

 チーム『サバト』6人。

 チーム『前線』8人。

 それぞれのチームの登録メンバー以外のプレイヤーとのダメージを伴う接触が発生した場合、クエストはその時点で終了とする。


 ルール②

 『降伏』を宣言したプレイヤー、あるいは所定の『牢獄』に収監されたプレイヤーはその時点でリタイアとなり、敵チームの捕虜となる。

 捕虜は、捕虜となっていない味方チームのプレイヤーに触れることで復帰できる。


 ルール③

 各チームはそれぞれリーダーを設定し、そのリーダーが敵チームの捕虜となった時点でそのチームの敗北となる。

 また、各チームには初期から各一人ずつ『人質』を置き、それが相手チームのリーダーと接触した時点で、接触したリーダーのチームの勝利となる。


 ルール④

 クエスト開始前24~1時間までは、チーム『サバト』が設定した半径2kmのフィールドにチーム『前線』のメンバーが侵入・攻撃することを禁止する。

 クエスト開始前1時間からは、チーム『前線』がフィールド内に拠点を作ることができる。この間、チーム『サバト』が拠点に侵入・攻撃することを禁止するり

 クエスト開始後、終了までは両チームのプレイヤーは共に設定フィールドから出ることを禁止する。

 禁止事項を破ったプレイヤーはその時点で失格となる。


 ルール⑤

 両チーム共に、プレイヤーのHPを全損させてはならない。これを破れば、その時点でそのチームの負けとする。










《現在 DBO》


 11月5日。21時00分。

 『大空商店街』ギルドホーム、会議室にて。


「要するに、あっちは罠仕掛け放題の防衛戦に対して、こっちは少し人数の多い攻略戦。そして、同時に人質と捕虜を救出するケイドロでもある。こっちのリーダーは俺、あっちのリーダーはメモリだ」


 鎌瀬は、ライトから渡された台本を思い出しながら、説明を続ける。


「チーム『サバト』が勝った場合のクリア報酬はメモリの引き抜きと、前線での攻略への参加権、それにギルドメンバーの釈放とアイテム没収の取り消し。こちらが勝ったら、人質の解放とアイテム没収の実行。ギルド所属とアイテム所有の処理に関してはギルド『OCC』のサブマスターの固有技でクエスト終了時に自動的に行われることになった」


 既にクエスト自体は発令され、チーム『サバト』は準備に入っている。ここにいるチーム『前線』のメンバーも、クエスト発令前にはライトから話を聞き、チームに参加する承諾を得ている。


 今行っているのは、『表向き』の確認だ。

 シナリオとしては、『前線への復帰を望む小ギルドが、未検証だが使用者へのリスクが危惧されるアイテムを入手し、さらに最前線のプレイヤーメモリのお墨付きで前線に通用する戦力を得たため、復帰の許可をかけた審査として模擬戦を行う』という筋書きになっている。

 誘拐については犯人のメモリが操られているだけであり、人質とは元から知り合いであること、危害を加えられてはいないことから、あくまで『メモリを引き抜こうとする小ギルドの説得』として自主的に交渉に赴いたギルド『OCC』の使者ということになっている。


 鎌瀬としては、大家さんが『OCC』の関係者などというのは無理のある設定だと思ったが、全てが終わった後、操られていただけのメモリの立場を悪くしないためには仕方ないと受け入れた。


 鎌瀬が便宜上リーダーとなっているチーム『前線』は8人。相手チームより人数が多いのは、罠の設置や魔法陣などで準備期間がある方が本領を発揮しやすい魔法職ギルドを不利にさせないため、下準備をさせる分のハンデだ。

 前線では、モンスターハウスなど多対一での戦術的立ち回りが必要とされることもあるので、口実としては真っ当なのだが……



 チーム『前線』メンバー


 リーダー『鎌瀬』。

 ギルド『攻略連合』特別犯罪対策室室長。


 『七草楔』。

 ギルド『攻略連合』特別犯罪対策室所属。


 『霜月』。

 ギルド『攻略連合』特別犯罪対策室所属。


 『赤兎』。

 ギルド『戦線(フロンティア)』サブマスター。


 『レモン』。

 ギルド『アマゾネス』戦闘員。


 『黒ずきん』。

 ソロプレイヤー。ボス戦の常連。


 『石頭』。

 プレイヤー相互協力団体『冒険者協会』所属。


 『お初』。

 プレイヤーショップ『八百万協力社』下働き。



 ほとんどが『泡沫荘』の住人である。

 所属はバラバラで、普段から連携して狩りをしたりすることもないが、一応は全員が前線で戦える実力者……改めて見ると、『泡沫荘』の住人の戦力の充実っぷりは異常である。


 このメンバーを集めたのはライトだが、集まってくれたのは大家さんの人徳によるものだろう。家に大穴があき、それから何日も姿が見えなくなった彼女が厄介なトラブルに巻き込まれたのは『魔法少女の杖』の事情を知らないレモンなどにも明らかで、その救出に二つ返事で参加を表明したのだ。


(石頭さんは強いかどうか知らなかったけど、『冒険者協会』の所属なら心配ないだろうな。お初さんもステータスちょっと見せてくれたけど霜月と同じくらいのレベルがあったし、もしかして俺『泡沫荘』で一番弱いんじゃないか?)


 レベルで勝っていても戦ったら勝てる気がしない咲、底が見えない大家さん、どこかただ者ではない雰囲気を放つ赤髪先生、そういった面子相手に全く物怖じせず攻撃的な態度すらとるマッチ。

 鎌瀬も前線でやっていける程度の強さはあると思っているが、全く優位性を感じることができない。


(しかも何で俺がリーダーなんだよ……最強の戦闘職がいるんだからそっちに任せるべきだろ)


 ライトにリーダーという役を押しつけられ、大家さんが発行したクエストに参加表明をさせられた時の話では『敵の戦力を分散させるため』らしい。

 何せ、スルトには一撃必殺の超威力魔法があるのだ。リーダーと最強戦力が同一なら、躊躇いなくそこを狙える。しかも、赤兎は『無敵モード』を持つため、逆に全力で攻撃しても『反則負け』にならない可能性が高い。

 まだ完全に意思が一致していないと考えられるスルトと『サバト』の敵意が一点に向けば、対応しきれない攻撃が来るかもしれないのだ。


 だから逆に、その赤兎は鎌瀬と別行動をとる。

 簡単に言ってしまえば、『サバト』との因縁がある赤兎と、ルール上狙われやすいリーダーの鎌瀬を囮に敵の意識を分散させ、各個撃破するのだ。


 そのために、鎌瀬が落とされるのを防ぐのが防御力と対応力が高い七草と霜月だ。余分の人数二枠も、この二人のために取ったと言っていい。


 しかし、優秀な護衛を付けるからといって、鎌瀬の役割は『逃げ回ること』ではない。


「作戦の仔細は後で詰めるが、簡単な説明として……俺、七草、霜月が城に乗り込んで『人質』を確保する。みんなはその援護をしてほしい」


 勇者を囮に幹部を引きつけ、魔王に挑むはその歯牙にもかけらなかった弱者の刃。

 最弱でありながらリーダーという大役を任された鎌瀬の負う重圧はとてつもなく大きかった。







 そうして、鎌瀬は重責に苦しみながら可能な限りでの事情をチームメンバーに説明し、戦闘領域を見せるため城の最寄りの街へゲートポイントで転移した。

 そして……


「使い魔の2、6、8が落とされた。各0.8秒。自動迎撃だ」

「順番は言ったとおりか? 時間差がこれなら……迎撃の仕掛けはここらへんだな」

「無闇から。地下に不審な反響音がするらしい、場所はエリア『6K』」


「いや、ライト……それに『OCC』か? 何やってんだ?」


 チームメンバーに名前のなかったライトは、何故か街のレストランを貸し切りにして図面を広げていた。

 しかも、一緒にいるのは『OCC』サブマスターのキングと、前衛のマックス。ギルドメンバーが操りれたのにチームに参加する者が一人もいないことを不思議に思っていたが、どうやらライトにつき合わされていたらしい。


「何って、敵情視察だが?」


「敵情視察って……明日までフィールドには入れないのに……」


「『チームメンバーは』だろ? オレや『OCC』は部外者だ。偶然足を踏み入れて罠を見つけてもルール上何も問題ない」


「ひ、卑怯な……」


「何を言ってるんだ。いいか? 強い戦士になるには正々堂々戦って強くなればいい。だが、戦争の勝者になるのに必要なのはどれだけ鮮やかに汚い手を使えるかだ。情報戦だって立派な戦争だろ」


 鎌瀬はルール上、地の利を持つ相手の有利な勝負だと思っていたが、実のところ外部からの協力を受けられる攻撃側が有利になっているらしい。

 戦う前から罠の位置や敵の配置がわかれば、相手の準備もほとんど意味をなさないだろう。


「いや、そんなことないぞ」


 ライトが鎌瀬の考えを読んだかのように言葉を挟む。


「あっちも馬鹿じゃない。空中撮影用の使い魔が次々落とされてるし、不自然な霧がかかってる場所もある。見つかりにくい夜間に偵察が来ることくらい簡単に予想できる。あっちも情報を洩らさないように、なおかつこっちから情報を奪えるように手を尽くしてるさ。半端な能力じゃ侵入してもすぐ見つかって撃退されるし、無闇と針山でもそこまで楽にことが進んでるとは言えないくらいだ」


 どうやら、脳天気に戦争が明日からだと思っていたのは鎌瀬だけらしい。

 鎌瀬以外の面々も、テーブルに広げられた図面を見ながら作戦を立て始めている。あの雰囲気は哨戒戦の情報を得た後のボス戦攻略会議に似ている。


「脳天気なんじゃなくて、クソ真面目過ぎるんだろ。誠意を持って挑めば理解し合えるんじゃないかとか思ってんだろ? そういうのは今回はやめておけ、戦いこそがあいつらの求めた関係だ」


「そんな甘いこと……」


「『嫌々戦ってるかもしれない』……この前の杖でそう思ったなら、それは誤解だ。あれだって、理由はどうあれ戦わないと終われなかった。ケジメが付けられなかった。戦う相手なんだから憎めなんて言ってるんじゃないぜ? そんなこと言ったら、オレは誰とも戦えないしな」


 まるで今まで誰一人として憎しみを向けたことがないように聞こえるライトの言葉だが、実際この飄々としたところのある男はそういった感情に流されることがないのだろう。

 衝動的な行動の多い鎌瀬とは大違いだ。


「できる限り情報は集める。だが、実際に戦えるのはおまえらだけだ。そういうルールにした。そして、あっちもそのルールに従って準備してる。こうやって、敵情視察の使い魔やなんかを送られても、陣地を離れて文句を言ってくることなくな。なら、心配はいらない。情報をちゃんと使え。あっちは全力で来るんだから、こっちも全力で応えないと失礼だ」


 まるでスポーツか何かのように言ってくれる。

 いや、違うのか。

 鎌瀬が人質解放のための交渉の一環のように思っているこの『戦争ごっこ』は、手段ではなく目的に値するものだというのか。


「まさか……あんたが俺にやらせたいことって……」


「やっと気付いたか。察しが悪いな」


「いやちょっと待ってくれ! それだったらやっぱり俺じゃ役不足だろ! そんなの……」


「おう、『役不足』なんて自信満々なこと言うじゃないか。ま、安心しろ。過大評価したつもりはない。赤兎よりおまえが適任のはずだ」


「なんでそんな!」


「決まってる。おまえの『全力』に期待してるからだ」


 ライトは指先を鎌瀬へと向けた。

 それも、高速で、眼球に触れる直前まで。


 鎌瀬はそれを、瞬きもせずに見つめていた。


「これで目を閉じないなら、目を閉じる必要がなかったなら、絶対にいける」


 ライトは指を横へ動かし、城のある方角を指した。



「目を逸らさず、壁に向き合え。自分を卑下せず、迷わず進め。それだけで十分に勝てる」

 本来の『役不足』とは、役者に荷の重い役を与えることではなく、むしろ役が軽すぎる時に使う言葉です。

 もはや誤用されすぎてどちらの意味でも通じてしまいますが、揚げ足取りみたいに指摘すると嫌な奴だと思われるので注意(というのを知っていてわざわざやるライト)

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