290頁:特集『イベント開催! ハロウィン⑤』
「想定する中で最悪のケースは、『既に完全に杖に支配されたプレイヤーの暴走』だ。こう言い換えることもできる、『本物の魔法少女との交戦』ともな」
前日の会議の終盤。
『杖持ち』についての対策を説明したライトの、最後の注意。
「正直言って、完全支配されたプレイヤーはものが違う……というかそもそも、プレイヤーはただのアバター代わりだ。『魔法少女』そのものが強い」
完全支配。
『杖持ち』が追いつめられて制限解除の呪文を唱えるか、杖が十分な経験値を得て持ち主の抵抗力を完全に越えてアバターを操る、もしくは持ち主が死体となって主導権が杖に移行した状態。
それを防ぐために、鎌瀬たちは『杖持ち』に『追いつめられた』と意識させる暇なく、卑怯なまでの速攻をかけた。
完全支配になる前の状態でも脅威だが、完全支配が完了した後は完全に事情が違うのだ。
完全支配されていない『杖持ち』の危険性を『子供が銃を持っている』というようなものだとすると、完全支配された『杖持ち』の危険性は『訓練された兵隊が銃を持っている』というようなもの。
「中級のプレイヤーから見て、杖を持った状態は『強い』。なまじ高威力の攻撃ができるしある程度の防御が保証されるから不相応な高レベルモンスター相手にも挑みかかってしまう。だが、『魔法少女の意思』から見て、杖を持った中級プレイヤーを操っている状態は『弱い』。だから慢心も油断もない」
鎌瀬の不意打ちが悉く成功したのも、『杖持ち』が杖を持っているだけで強くなったという無敵感を持ち、油断していたためというのが大きい。
だから、鎌瀬にはまだわからない。
油断していない使い手が本気で扱う『魔法少女の杖』の、本当の力というものが。
《現在 DBO》
10月30日。20時34分。
魔法王国領『魔草の街』にて。
鎌瀬は土煙の上がる戦場に飛び込み叫ぶ。
「遅くなりました! 状況は!」
「おう、なかなか苦戦してるぜ!」
「あーもう! ボク今日は衛生兵なんだけど! なんで戦闘要員みたいになってるわけ!」
鎌瀬、七草、霜月が到着したとき、戦場の真っ只中にいたのは『戦線』の赤兎、そして最前線で戦うこともある黒ずきん。普通なら過剰とも言える戦力が、木の陰に身を潜め、弾丸のような雹から身を守りながら足止めに徹していた。
「他のプレイヤーは!」
周囲の破壊音が激しくて会話も大声になる。
七草と霜月が影と植物でドームを作って安全を確保するが、それが精一杯で敵の姿を目視することすらできない。
「一般プレイヤーを避難させて下がらせた! コイツは数で攻めてもダメだ! 今は俺を警戒して深く攻め込んでこないが、躊躇いなく弱いところを攻めてくるぞ!」
予想されていた事態ではあった。
イベント開催前から既に完全支配が完了していたか、あるいはイベント中に妨害行為を咎められて戦闘になり、追いつめられたか。
いずれにせよ、厄介なのは現状『プレイヤーへの攻撃』に抵抗がないこと。
放置すれば、弱いプレイヤーへと襲いかかるだろう。
「敵は!」
「カボチャの被り物した子供だ!」
「今どこですか!」
「上だ! この技は雹を降らせる技じゃない! 上から氷弾をばらまいてるだけだ!」
勢いで攻撃射程まで来てしまったのは早計だったかもしれない。それなりの距離からよく見れば、暗闇の中でも空から攻撃している『杖持ち』が見えた可能性もあった。
しかし……
(今更そんなこといってもしょうがないか……)
数分前。
遠目から雹の降り注ぐ戦場を目視したとき、メールである程度の情報が届いていた。
『敵は一人。イベント参加中のプレイヤーを強襲』
『攻撃手段は高熱と氷の使い分け。飛行能力を有する可能性あり』
『現在、鎮圧しようとした同盟プレイヤーが複数負傷。敵に追撃意思があるため一部高レベルプレイヤーを残し撤退』
(弱ったプレイヤーを執拗に追撃するようなやつなら、残ったプレイヤーが危ないかと思ったけど……ここまで徹底的だとは)
ここにいる二人の人選も、予め昨日の会議で敵の特性を知っているからこそだろう。
しかし、それでも弱点を突けていない。
「遮蔽物の陰から出られない! これじゃまるで塹壕戦だ! あの杖は一度に一つしか魔法を使えないはずなのに!」
話の通りなら『飛行の魔法』で上空に陣取って安全を確保し、さらに『氷の魔法』で攻撃していることになる。
あるいは、『飛行しながら氷を放つ魔法』という一つの魔法なのだろうか?
「違うよ! あいつ! ずっと飛んでるわけじゃない!」
黒ずきんの声。
彼女も敵の姿を見ることはできないはずだが、攻撃のパターンから手品の種を暴いたらしい。
「攻撃に波がある! 一度高く飛んで落ちながら攻撃してる!」
『飛行』と『氷』の連続切り替え。
おそらく、氷弾を真下に撃った反動で落下速度も抑えているのだろう。その分、狙いは甘いが一瞬の攻勢では脅かされない高さを維持している。
ここはフィールド扱いになっていて、落下ダメージによって死ぬこともあり得るのだ。魔法の素早い切り替えに自信がなければできないやり方だ。
(なるほど、確かに今までの杖に従ってるだけのやつらとは根本的に違う。だけど、『魔法少女』の頃がどうだったかはわからないけど、プレイヤーの魔力生成は有限だ。このままの感覚で攻撃してくれれば……)
「……は! 鎌瀬さん! マズいです! この氷、毒を含んでます! 受けた『枝』が……」
「持久戦も不利かよ!」
七草の作ったドームが枯れ始めている。元々は防御力の高い植物に七草のEPとHPを分け与えて作ったものだが、それが急速に死んでいくということはそれだけのダメージがあるということだ。
それが毒によるものなら、降り続く攻撃によって蓄積していく性質も持つはず。氷に毒が含まれているなら、時間経過で氷が溶けるにつれて毒ガスのような効果を持つ可能性も高い。高レベルプレイヤーは自動的に毒への耐性も強くなるが、それは毒の量によって貫通することができる。耐性を抜くレベルまで攻撃を続けられたら全滅しかねない。
「つまり、手早く叩き落とすしかねえか……黒ずきん、位置はわかるか?」
「うーん、あっちが動きすぎてる上に狙いをつけずにばらまいてるから殺気も辿りにくいんだよね。そうじゃなきゃ撃ち落としてやるのに」
「つまり、やつが狙いをつけてくれれば狙えるわけか……おい、そこの影使いの嬢ちゃん、そっちの防御は敵の毒関係ないっぽいな。ちょっと手伝ってくれねえか」
「あ、えっと……」
霜月が鎌瀬の方を見やる。
現在は氷に含まれた毒に強いらしい『影』の防御もあって鎌瀬の安全が確保できているが、霜月が抜けて七草だけの防御になれば長くは持たないだろう。
だから、この中で一番『脆い』鎌瀬を心配しているのだ。
「……いい、手早くすませてくれ」
足手まといになるつもりはない。
自分のせいで反撃のチャンスを逃すなど、手遅れになるなど、あってはならない。
「……わかった!」
「じゃあ、行くぜ!」
赤兎が刀に手をかけ、木の陰から姿を見せる。
『無敵モード』の赤い光を身にまとわずに、氷弾に身をさらして。
「オーバー100『ドラゴンズ・ブレス』」
身を守るのではなく、攻撃するための固有技。
斬撃のあたり判定を広げ、本来斬撃が効きにくい相手も斬ることができる技だが、さすがにはるか上空の相手を斬れるほど便利な技ではない。
むしろ、刀が纏ったエフェクトが目立ってしまい、格好の的だ。
それでも、赤兎は逃げない。
刀に手をかけ、動じずに空を見上げる。
そして……
「ん、ここか」
大きく動き回るのではなく、首を軽くひねる、腰を切るといった最小限の動きで氷弾を回避し始める。
「切れ目は……ここだな」
回避し続け、危うくは見えない所での突然の居合い。
それは赤兎ではなく、その背後の鎌瀬と七草に迫った飛び抜けて巨大な氷塊を打ち砕き四散させる。
「な……」
「こいつは弱い奴を狙うが。いたぶるのが好きなわけじゃないな。ただ、弱い奴を守る強い奴が倒しやすいってだけだ。なら……こうするとどうだ?」
赤兎が刀を引き、腰だめに力をためるように構える。
すると、刀身が先から鍔の方へ、赤のエフェクトから黒へ変わっていく。
「仲間を狙われて怒った敵はやりやすい。それに、赤が黒になるって最終形態っぽいよな」
氷弾がやむ。
それと同時に、上空で眩い光が輝き始める。
「行くぜ……んぉりゃあ!」
赤兎が刀を振り抜くと同時に、空でも光が一本の線のように収束し始める。
黒いオーラが刀そのものから離れ始め、空からも光の剣が振り下ろされ……
「なんてな! 『ドラゴンズ・ブラッド』」
「殺気むき出し! グッジョブ赤兎!」
赤兎の身体が赤いエフェクトで包まれ、ダメージを無効化する『無敵モード』となると同時に、全く別の位置から短い魔法の詠唱が行われ、闇属性の硬直の魔法が放たれる。
相手は赤兎の刀の黒いオーラのようなものを、『ドラゴンズ・ブレス』の先の『飛ぶ斬撃』のようなものと思ったはずだ。何故なら、そのような攻撃手段でもなければ身をさらすことは愚策に過ぎないからだ。
元々遠距離攻撃ができるのが装備でわかる黒ずきんや、来たばかりで不確定な鎌瀬たちなら小技を警戒したかもしれないが、赤兎のような純近接型の隠し持つ遠距離攻撃なら、ここぞという時の必殺の一撃をイメージする。
だが、黒いオーラは霜月の『影』で作ったフェイクだ。
そして同時に、『影』はもう一つにわけられ、そちらは黒ずきんを守り、隠しながら敵の意識の外へと移動する盾となった。
必殺の一撃を迎撃しようとしていた光の剣は大きく狙いを外し、本体が黒ずきんの魔法を被弾したことを示す。
だが……
「油断しないで! 強力なスタンを使ったけど、その分持続力はないから!」
数秒の硬直でも、空中なら地面に落下して大ダメージを受けるだろう。地面との接触直前に自由に動けるようになったとしても、減速は間に合わない。その瞬間を押さえるべきだと判断した鎌瀬は七草の作ったドームから大きく身を乗り出した。
しかし、その予想は外れる。
大きく狙いを外したはずの光の剣が地面へ突き刺さり、地面をめくりあげるほど激しく爆発する。
「なっ!? 爆発の衝撃で!」
「あぶねえぞ!」
赤兎が飛び出そうとした鎌瀬を自分の背後に引っ張り、降りかかる爆炎と土砂から守る。
それと同時に、鎌瀬は自身の致命的な『失敗』に気付いてしまった。
(しまった! よりにもよって俺が、追撃のチャンスを奪ってしまった!)
赤兎は敵が落下し始めるタイミングから既に『無敵モード』に入っていた。それは、相手が地面に攻撃をぶつけて減速と着地の時の防護壁とするという動きを予測していたからだ。
しかし、『無敵モード』の赤兎なら、爆炎を突っ切って着地のタイミングを狙えた。鎌瀬がドームから出さえしなければ。
敵側はその動きを知ってか知らずか、あるいは鎌瀬の迂闊な動きも想定の内だったのか。
爆炎がかき消されるように大気が冷えつく。
まるで先程生み出した熱量の帳尻を合わせるかのように周囲の温度が下がり、霜と氷が生える。
その中心で、カボチャの被り物をかぶったゴシック調のコスプレと言っても違和感のないコスチュームを着た子供……シラヌイと同じか、あるいはさらに小さな少女が、手に杖を掲げ、鎌瀬を見据えていた。
その杖は鎌瀬の見てきた他の杖と比べて、禍々しいオーラを放っていた。
派手な装飾があるわけではない。長さ1.5m程の金属質の棒の先に円形のプレートが付いただけのデザイン。そのプレートに刻まれたマークが、どこかで見たことのあるような『6枚の花弁を持つ花から等間隔に半分を取り除いて3枚にしたかのような』マークが、鎌瀬の命の危機を感じ取る直感力を大きく刺激する。
「あなた、なんでみんなの杖、いっぱい持ってるの?」
鎌瀬はドキリとしてしまう。
『魔法少女の杖にはある程度の仲間意識がある』……ライトが言っていた言葉だ。
それはつまり、杖に込められた意思が、元になった少女たちが仲間意識を持っていたということ。だとすれば、その象徴たる杖を狩り集めた鎌瀬はどう見えるのか……
「っ!?」
「過ぎたことウジウジ考えんな、やべえぞこいつ」
次の瞬間、敵の杖と赤兎の刀がせめぎ合っていた。
筋力値では、赤兎は最前線でも最高クラス。それと拮抗するということは、使っている魔法は『基本能力値の強化』。
「障壁なしで接近戦!?」
今までの、自分が傷つくリスクを最大限に遠ざけ遠距離から魔法を撃ち込もうとする『杖持ち』とは違う。基本能力値の強化に魔法を全振りし、純粋な杖術だけで近接前衛職の赤兎に戦いを挑んでいる……いや、鎌瀬を狙っているのだ。
「返して」
「させねえよ!」
鎌瀬に蹴りを撃ち込もうとする敵の『魔法少女』だが、踏ん張りが弱くなった瞬間に力を増した赤兎に押し込まれ、蹴りは掠めるだけで終わり距離を離す。
鎌瀬は動けなかった。
高速戦闘は鎌瀬の得意分野のはずなのに、動揺で身体が動かない。
いや、違う……これは、動揺だけでなく……
「うぐ……毒……氷だけじゃなくて、さっきの、炎も……?」
動きが鈍い。ダメージがジワジワと刻まれていく。
『無敵モード』の赤兎は平気そうだが、庇われたとは言え、僅かにでも炎でダメージを受けてしまった鎌瀬には毒が通ってしまっている。
(マズい! 敵の戦法は……)
『弱った敵から狙う。それもなぶるためではなく、そうすれば強い敵の動きも封じられる』。
接近戦を持ちかけてきたのも、遠距離攻撃で鎌瀬を引き離す隙を作らせないため。鎌瀬が自身の力で後退しようにも、強力な範囲攻撃のできる相手に動きの鈍った状態で背を向けるなど自殺行為だ。『無敵モード』の赤兎が至近距離にいるからこそ、敵も迂闊に魔法を撃てないのだ。
しかし、赤兎の『無敵モード』には時間制限がある。鎌瀬を守っている分攻めきれないが、そうしている間にコストであるHPがガリガリと減っていく。
このままではジリ貧になって負ける……自分のせいで。
(七草も霜月も出てこない。昼ほど力の出ない七草はこのスピードについてこれないし、夜で強くなってる霜月もついてこれるかわからないから、『影』で黒ずきんを守ってる)
鎌瀬を狙った杖の一撃が赤兎によって弾かれる。鎌瀬は身体の動きが思考について行かず、振り回されるように攻撃の死角へと移動させられる。
「『T……」
このままでは、本当にただのお荷物だ。
挽回しようにも、普段ならともかく今の状態では戦闘に対応して助太刀することもできない。それどころか、自分の毒を治すためのポーションを取り出す隙すらない。
しかし……『止まった時間』に入れば、逆転できる。
今、『TW2Y』を発動すれば、鎌瀬に触れ続けている赤兎と鎌瀬だけが5秒分の行動を許される。その間は敵にダメージを与えることはできないが、動けないと思われている鎌瀬が杖を掴み、時間が動き出した瞬間に全力で奪い取れば……
(失敗を挽回できる。この技が赤兎に知られてしまう可能性は高いけど、このままだと取り返しのつかないことになる!)
「W……」
赤兎と敵が接触していないタイミングを見極めながら、固有技を発動するベストな瞬間を探り……
「2……」
「おい、バカなこと考えんな」
そのタイミングを先読みしたかのように、赤兎がいつでも杖を掴めるようにと無意識に前へ出ようとしていた鎌瀬を背後へ振る。
「くっ、どうして! 俺なら!」
「迷惑かけてるとか思ってんだろ! そんなことねえ! わかってる! お前があの時こいつを受け止めようとしてたことくらいな! それは間違いでも失敗でもねえ! だから後悔すんな!」
気付いたら勝手に身体が動いていた。
指摘されるまで、はっきりと自覚もしていなかった。
どうして無防備に飛び出してしまったか。
落ちる瞬間を仕留めするつもりはなかったのに、落下地点へ走ってしまったのか。
「でも、俺のせいで……」
「謝るな! これでいいんだ! だから、こうやってこいつがタイマン張ってくれるのはむしろ都合がいいんだ。だからこのままでいい」
確かに、また空に逃げられて一方的に攻撃されては厄介ではある。
しかし、それはこじつけ、というか詭弁だろう。時間稼ぎをしたところで、救援が来るかわからない。何せ、鎌瀬が足手まといとなっているとはいえ、最強の戦闘職である赤兎が苦戦しているのだ。下手をすれば、援軍が足手まといになるかもしれない。事態が好転する保証などない。
時間稼ぎにしても、赤兎の『無敵モード』は確か最長5分程度。残り時間は2分もないだろう。
その間に、今は影も形も見えない誰かが駆けつけてくれるとでも言うのか。
そんな勝ち目の薄い賭けをするより、鎌瀬を捨てて戦った方がどれほど勝算が高いか。
だが、赤兎は自分を見捨てない。
鎌瀬が逆の立場でも、見捨てられないはずだから。
「『……………』」
「ああん? なんだって!? 聞こえなかった!」
「……『ありがとう』ってんだよ!」
「おう! どういたしまして!」
戦況は不利。
そんな中で、連携などと言える状態ではないとしても、鎌瀬と赤兎の方針が割れれば致命的だ。それなら、主導権を握る赤兎の方に賭ける。
鎌瀬は赤兎の動きを極力邪魔しないように、赤兎が自分を動かす方向へ自分から動き、その負担を減らす。
赤兎も、それを考慮に入れて攻め手を増やす。
しかしそれでも、劣勢は変わらない。
30秒が経ち、60秒が過ぎ、90秒を超え、とうとう……
「もう『無敵』はお終いでしょ?」
敵が大きく跳び下がり、範囲魔法を放とうと杖を掲げる。
「てめ! 俺の技を知ってて!」
「今気付いても遅い」
HPを削りながら使う『無敵モード』は、ギリギリまで使うと解除した時の残りHPが極僅かになってしまうという弱点がある。
そこに完全には防ぎにくい範囲魔法を放たれれば、それは致命傷になりかねない。
そう、『解除した時』に攻撃をされれば……の話だ。
「……敵のHPバーが見えるのは、ダメージのやり取りをした時から。だが、俺たちは互いに防戦一方で、まだ一度もダメージを受けてない……つまり、時間だけを正確に計ってたわけだ」
赤兎は踏み込む。
『無敵モード』を解除せず、強化された能力をそのままに。
「だけど、俺は時間にルーズなんだ。赤兎まで巻き込んでしまうほどな」
強化されたステータスが元に戻ると見越して魔法を放つために開いた距離は、その『計算違い』により致命的な隙になる。
「なんで?」
「『TRLPD』。残り約2分の時点で、俺が時間の流れを3倍まで遅くした。赤兎の『無敵モード』は、あと4分残ってる」
時間稼ぎに徹するのなら、全力で自分もその戦い方に協力する。
その意思表示が、鎌瀬なりの『ありがとう』が、この固有技だった。
「そんな小細工で、このわたしが」
「小細工じゃねえよ。俺たちのコンビネーションの勝利だ」
赤兎の振り下ろした一刀が魔法少女を貫いた。




