30頁:欲を出してはいけません
オマケコーナーがマンネリ化しそうなので、何か後書きの使い方に要望があれば気軽に意見ください。検討します。
手術室に向かう少年。
ギリギリまで付き添う少女。
「絶対帰ってきてよ。じゃないと私…」
「はは、確かにアキを一人残していくのは嫌だな…でも、その時は頑張って生きてくれ……アキには生きてほしいから」
彼には自分の死期は見えないらしい。手術などという外的要因なら尚更だ。
だが、彼はこの時だけはわかっていたのかもしれない。
自分が帰ってこないことを。
彼は手で彼女をより近くに呼び、その耳元で囁いた。
「もしオレが先にみんなのところに行っちゃったら、オレの持ってる物は全部あげるから、ちゃんと生きろよ」
他人の死が見える彼には、彼女にそれがどれほど難しいことかわかるはずだった。
だが、彼の言葉は真実だと確信できる。
「ボクはいつでも、アキを見守ってるから」
《現在 DBO》
『車輪の町』の地下五階。付属ダンジョン。
「キシュウウウ!!」
「ジャック、右下の空気穴だ!!」
「わかった!!」
ライトとジャックは硬質の殻にほぼ全身を隠して戦うサザエのようなクエストボスモンスター〖ラウディーシェル LV28〗を相手に戦っていた。
〖ラウディーシェル〗は貝殻の口の部分を地面に張り付けているのでほとんど動かず、鉄壁の防御力を誇る。
そして、防御状態のまま貝殻の各所から生えた突起のような空気穴から吸い込んだ空気で爆音のような音を発生させ、その振動で洞窟の天井から岩を落とすという変則的な攻撃をしてくるモンスターだが、空気を吸い込む瞬間に空気穴のどれか一つに『眼』だと思われる器官が覗くことを発見し、二人はその瞬間を狙うことにした。
ライトが即座に見つけ出した眼を素早いジャックがナイフで突き刺す。
「ギイシャァァァァア!!」
予想通りに効果抜群で、一気にボスモンスターのHPを激減させた。岩を落とす攻撃も中止される。
見事なコンビネーションの片方を担ったジャックは得意気にライトに言った。
「はは、ボク達相手じゃ敵にならないね」
「油断するなよ」
二人は、『車輪の町』のクエストを踏破しようとしているのだ。
この町のクエストはほとんどが同じような内容だ。
『地下○階の洞窟に珍しい鉱石があるが、モンスターに守られている(もしくは体内にある)。取ってきて分けてくれればアイテム(時々宝石)をあげよう』
という内容だ。
出てくるモンスターは大抵岩や金属で出来ていてやたら防御力が高い。本来はナイフ使いのジャックとの相性は悪いのだが、大抵はどこかに弱点があり、そこを高精度攻撃で抉ると大きなダメージを与えられる。
定石では新種の鉱石モンスターを相手にするときは、慎重に弱点を探りながら戦うのだが……
「動くとき腰に隙間が出来る!! そこだ!!」
「わかった!!」
「ギャウ!!」
ライトが速攻で急所を発見してジャックが手際よくそこを攻撃するので相性なんて全然関係なかった。
みるみる地下のダンジョンは攻略され、夜には二人で宿で山のような戦利品を並べていた。
「クエストイン『車輪の町』コンプリート!!」
「カンパーイ!!」
机には大量の鉱石や宝石、金属部品などが並べられている。
戦闘においては二人の連携が、ダンジョン攻略においてはベテランのジャックが、トラップ解除については数々のスキルを操るライトが猛威を奮い、瞬く間に地下7階までの主だったダンジョンをクリアしてしまった。
もともと前線レベルの二人にここのモンスターは数体では脅威ではなく、難易度は低かったのだが、それに加えモンスターの種類などはライトが事前にある程度下見していたので本当に楽だった。
「それにしても、石ばっかりだね」
「まあ主産業だからな、加工したらいろいろ出来そうだ。スカイから鉄不足が言われてたし……そういえば後、金の注文もあったな」
この町でクエストの報酬としてもらえる物はほとんどが加工前の鉱石だ。中には宝石も混じっているが、総じて『石ころ』と呼べるだろう。
「東の『鉄鍋の町』には確か製鉄施設を貸し出してるNPCがいるって情報があったな」
「あ、あったよ。『溶鉱炉も鉄鍋の仲間!?』って驚いたけど」
「それは楽しみだ。じゃあ、明日は東へ行くか」
「そうだね……あ、でもその前にここ行ってみない?」
ジャックはクエスト報酬でもらった中で数少ない非金属、鉱石のアイテム《鉱脈地図》をライトに見せた。
「ここ、宝石とかレアメタルがたくさん取れるらしいよ」
「このマーク、隠し扉か……まあ良いけど、明日は朝一番でリアカー借りて行きたいから今からでもいいか?」
「うん、行こう。一つ下の階層だよ」
ちなみに、階層間の移動の模様については敢えて言及しない。
この町に繋がる地下ダンジョンは地下深くの方がモンスターのレベルが高く、攻略は困難になる。
しかし、地下二階の隠し扉から二人が入ったダンジョンは、ほぼ一本道で単純だったが、出てくるモンスターはその階層のモンスターよりもだいぶ強かった。
しかし、それも二人の前では特に障害にもならず、ダンジョン奥の小部屋まで難なく到達できた。
そこには、鋼色に輝く巻き貝や、様々な色の宝石の殻を持った二枚貝が壁に貼り付いていた。
「うわー、キレイ……」
「えっと…〖ドリルシェル LV15〗と〖ジュエルシェル LV15〗か。全部名前とレベルが統一されてるな」
「そんなことより、取り放題だよ、早く取ろうよ」
ジャックは近くのエメラルド色の貝を拾うと、ナイフを容赦なく突き立てた。
「っ、硬!!」
ナイフの一撃では貝を壊すことは出来ず、何度か攻撃し続けてようやく殻にひびが入り、そこにナイフを突き立てると貝のHPは消失した。
ジャックはドロップしたアイテムを実体化する。
そこにはエメラルドの真珠と貝殻の欠片。
ジャックの『解体スキル』はモンスターからのドロップに補正がつくスキルだ。モンスターによってはこのスキルでしかドロップしないアイテムもあるらしい。
ライトが同じように貝を壊すと真珠だけが出た。
「なるほど、硬くて面倒だが金稼ぎには効率がいいな。だが、ここは狭いし何人も来てやる場所じゃない……」
ジャックは夢中で宝石の貝を壊している。
ライトも邪魔にならないように巻き貝を中心にアイテムに変えていく。
しかし、十分程してライトは突然言った。
「ジャック、宿に戻ろう」
「え、もうちょっと」
「ダメだ。必要な量は取れたし夜も遅い。さっさと戻るぞ」
やけに真剣な声だった。
ジャックはライトの方を見る。
その表情は焦っているようにも見えた。
「……どうしても?」
「ああ、どうしてもだ」
ジャックは渋々引き下がる。ライトは何かを隠しているが、それはここにいない方がいいと結論付けるものなのだろう。
「……わかったよ。帰ろう」
帰り道、なんだか誰かに見られている気がした。
プレイヤーの幽霊の噂が頭をよぎったが、ジャックは頭を振ってその考えを追い出した。
翌朝、レンタルリアカーを借りた二人は二人のストレージに入りきらず、トロッコ備え付けのストレージに入っていた鉱石の山をリアカーに移した。
「これ、どうするの?」
「リアカーは隣町に返す場所がある」
「じゃなくて、石!! 全部加工しても持ちきれないよ!!」
「考えてある、とにかく行くぞ!! あんまり日が出過ぎるとモンスターが増える!!」
『車輪の町』⇄『鉄鍋の町』のルートは開拓途中だ。利便性的には必要な道だが、あのジェットコースターが精神的障害になっている可能性は否定できない。(『看板の町』との間は最初に道の開拓クエストのチュートリアルで開通したらしい。)
時々出てくるモンスターを速攻で蹴散らして、ライトが『荷運びスキル』『走行スキル』を発動して加速したこともあり、二十分ほどで次の町『鉄鍋の町』に到着した。
かなり足早に移動したためジャックは少々仮想の呼吸を荒くしているが、それでも新しい町を前にテンションが上がる。
「さあ、到着だよ! ここが『熱』を主産業とする加工品の町『鉄鍋の町』だよ!!」
レンガの門の奥には、地面からほんのり湯気が上がり、所々で小火山のような土の山が火を噴く町だった。
町を歩くNPC達は大きく三つに分けられる。
一つは作業服らしい動きやすさと丈夫さを重視した厚い布地の服を着ているか、何やら加工専門の道具を持っている職人タイプ、ローブで身を包んだ魔法使いタイプ、そして力仕事などは出来なさそうな老人タイプだ。
「ここは主に製鉄、魔法薬、温泉が売りでね、良いお風呂入りたいから結構滞在してた」
「なるほど、あの年配の方々はジャックと同じ目的か」
「その言い方はどうかと思う」
「そういえばスカイが風呂を増設してほしいって言ってたな……温泉掘るスキルとかないかな」
「風呂増設が安易に温泉掘るって発想に行き着くことに驚きなんだけど。でも流石にそんなスキルあるわけ……」
「あるよー!!」
「あるの!? って誰あの子?」
声のした方にはかなり離れているが小学生高学年くらいの子供がいた。作業着に身を包んでいるが活発そうで元気だ。声からすると女の子らしいが……
「お、チョキちゃん!! 待っててくれたのか」
『チョキちゃん』と呼ばれた女の子はライトにかけよってきた。
「もうライトさん、早朝じゃなくて前日の夜に連絡してよー。お陰で跳び起きちゃったじゃん。あと……相変わらず変な帽子だね!!」
「帽子のことはほっとけよ。あと、メールは寝坊防止のモーニングコールだよ。それより、これを倉庫に入れておいてもらって良いか? 多少使っても良いから。あ、あと武器作りたいから工房貸してくれるか?」
「しょうがないなー、ちょっとだけだよー。なにせ工房は職人の聖地だからね……って誰その人? 顔隠してるけど、この前の後輩さん?」
「いや、ナビキじゃない。コイツは黒ずきん、オレの戦闘シーン担当のパートナーだ」
「へー、よろしくー。あたしはチイコ、みんなには『チョキ』って呼ばれてるよ。職業は刀鍛冶」
「あ、よろしくー……って、この子何者なの? 職業が刀鍛冶って、レベル100までスキルあげるのに材料費がかかるから難しいって聞いたことあるんだけど……子供だし」
「この子はスカイの店と専属契約してる子で……と言っても個人じゃなくて生産職の子ども達30人くらいの団体との契約なんだけど……まあ、知り合いの鍛冶屋だ。もう職につけるほどの努力家だから友達になっといて損はないぞ。ある程度の無理難題なら受けてくれる」
「さすがに『鉄砲作れる?』には『無理』って答えたけどねー、まあでも、あたしたちが職業を持って自分達で稼げるようになったのはライトさんのおかげだから出来るだけ注文には応えるよ」
なんだかライトはジャックがまだ知らないことをやっているらしい。というか、子ども達30人の団体ってもうロリコンとかだったら不味い状態じゃなかろうか。
「あ、そうだ。丁度スカイさん経由でマリーねえから注文来たんだった。町出るとき渡すからマリーねえに届けてくんない? まだ完成してないけど明日にはできるから」
「別に良いけど……スカイ経由の注文ならスカイ経由の方が良くないか?」
「マリーねえも会いたがってるみたいだよ? なんなら、もうマリーねえと付き合っちゃえば? マリーねえとくっついて、あたしたちのおにいちゃんになってよ」
「どこのシロネコだよその契約」
「ライトさんが願えば、あの胸にも触らせてくれるかもしれないよ?」
「そんな願いでおにいちゃんになったら、きっと後悔するからやめとく……三十人に嫉妬されたらさすがにどうにもならないから。苛められたらヤバいことになるから」
どうやら、子ども達を束ねている『マリーねえ』という人物(おそらく巨乳)ともライトは接点があるらしく、しかも気に入られている……というより、好意を持たれているらしい。
「なら、あたしとくっついてみる?」
「生憎だが、それをすると都条例に引っかかるかもしれないからそういう事はもうちょい大きくなってから言ってくれ」
「なに、都条例って?」
「さあな……それより、温泉を掘るスキルって本当にあるのか?」
「ライトさん『穴掘りスキル』あったでしょ? 役場のクエストで出る派生技能らしいよ。常に温泉に浸かってるお婆さんがいってたしー」
「じゃあその人にあったらお礼言っといてくれ」
「んー、わかったー」
ライトは鉱石の搬入と工房の間借りのために、チイコの借りているという工房付の宿に消えていった。
取り残されたジャックと、一時的に工房を乗っ取られたチイコはしばしの沈黙の後、互いに相手を見合って……
「ライトって、意外と自分勝手だよねー」
「うん、なんとなくわかる」
互いに改めてライトを抜きに互いを観察する。
「中学生?」
「うん中二。チョキちゃんは小学何年生?」
「五年生だよー」
それだけで自己紹介は済んだような空気になり、互いに聞きたかったことを聞く。
「マイマイからのメールでのライトさんのパートナーって黒ずきんさん?」
「うん。マイマイちゃんと知り合い?」
「一緒にマリーねえのとこにいた。今はお互いに仕事のし易いところに住んでるけど。黒ずきんさん、なんでそんな格好してるの?」
「……黒が好きだから。ねえ、さっきライトのおかげで仕事につけたって言ってたけど、どういうこと? 攻略本?」
「売れる武器が作れるようになるまで材料とかを集めてくれたから。他の子も、必要な道具をもらったりコツを教えてもらったりしたみたい。黒ずきんさん、武器見せてもらっていい?」
「どうして?」
そう言いながらも、ジャックは腰に納めてあったナイフを抜く。ライトの信用する刀鍛冶なら大丈夫だと思ったからだ。
チイコはナイフの刃をマジマジと見つめて言った。
「もっと大事に使わないとダメだよ。傷んでるから」
言われてみれば、確かに刃が僅かに欠けている。
ホルスター越しで気づけるわけがないのだが、チイコにはそれがわかっていたように見えた。
「武器の扱いには人柄がでるから、武器は大事にしないとダメだよ。命を護ってくれるものなんだから、武器は持ち主のもう一つの命なんだよ」
その言葉に、ジャックはドキリとする。
確かに、ジャックは武器を失ったことで一度身ぐるみを剥がされ、命の危機を迎えた。しかし、ジャックの自分の命に対する重要度の認識は今も低い。それは、またも武器の刃に現れ始めている。
「……ありがとう。同じ失敗をするところだった」
「ライトさんの足を引っ張るくらいは良いけど、死なせちゃダメだからね。あの人は武器にこだわりがなくて見てて不安だから」
ジャックは戦いの中で、ライトがめまぐるしく武器を持ち替えながら戦うのを何度も見てきた。ジャックは、武器を一つに絞った方がスキルの上達も速いからライトの戦い方は非効率的だと思い一度進言してみたのだが、ライトは『オレは相手に合わせて武器を変えてるから効率はいいはずだ。オレはこの戦い方を変えるつもりはない』と断ったのだ。
デカいボス相手ではどんどん武器を実体化してボスモンスターの体に刺して回る。武器が壊されるシーンもあった。
そんな武器の扱いが持ち主の命にも当てはまるとすれば、それは見ていて不安だ。
「せめて、何か一つでも特別な武器があると良いんだけどね」
その後、二人はライトが戻ってくるまでガールズトークを楽しんだ。
同刻。
スカイは寄せられるメールの情報をまとめながら、何やらおかしな流れを感じ始めていた。
犯罪者の被害報告が減り始めている。
しかし、犯罪者自体が減った訳ではなく、犯罪を行う際の加害者一グループの人数が増え、グループ自体が減っている。
犯罪の質が上がっている。
「派閥が出来始めてる? というより、組織的になりつつあるの?」
擬似的な犯罪ギルドの存在は感じていたが、それも組織というより、表通りを堂々と歩けないプレイヤーが隠れやすい場所に集まったようなゴロツキの集まりだった。
今でも困っているのに、これで統率のとれた犯罪なんてされたら手がつけられない。
「ほんと、ライトはどこまで見えてるんだか……」
スカイはライトからの企画書を開く。
そのタイトルには
『企画書その2』
と書かれている。
「この状況なら、『これ』を使うのも遠い話じゃないわね」
スカイは図面を引く準備を始めた。
(キサキ)「ふう、それにしてもこのコーナーはもう一工夫出来ないのでしょうか?」
(イザナ)「お呼びするNPCも少ないしね~」
(キサキ)「そもそも、このコーナーは『NPCの女の子たちを使って新登場のスキルやアイテムの補足をしよう』って主旨だったのに……」
(イザナ)「もはやただのギャグコーナーだもんね」
(キサキ)「なんとかなりませんかね……」
(???)「なら、私がなんとかしてあげましょう」
(イザナ)「あ、あなたは……」
続きはwebで!!
(キサキ)「いや、もうすでにここがwebです」




