表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第二章:戦闘編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/443

28頁:男女で宿は分けましょう

 エロ展開は無いので安心してください。

 8月のある日。

 正記はミカンのプライベート空間で彼女と対峙していた。


「行きますよ」

「いつでもどうぞ」


 正記の手にはVR世界なければ間違いなく銃刀法違反になるであろう日本刀が握られている。


 正記は、それを大きく振りかぶった。そして、一気に振り下ろす。

 軌道は確実にミカンの仮想の肉体を切り裂くはずだった。

 だが……


「『羅生門』」


 ガキッ


 その刃はミカンにあっさりと捕まった。両手で掴まれ、押そうが引こうが全く動かない。


 そして、ミカンはゆっくりと片手を日本刀から離すと拳を握る。


「残念、すぐに刀を離して逃げるべきだったね」


 次の瞬間、正記が刀を離す間もなく、正記の仮想の肉体の頭部は爆散した。



 数分後。

 アバターが再生した正記は壁にもたれかかった。

「もう少し手加減してくださいよ……はあ、一分も生き残れなかった」


「手加減なんてしたらキミを甘やかしたことになるでしょ? 第一、この世界の身体能力は現実そのままの設定にしてあるんだから、もし本当に私がキミを殺そうとしてたらキミは死んでたんだよ? もっと深刻に反省して努力しなさい」


「その『現実そのまま』で頭が吹き飛んだって事実が怖いんですが……でも、いくら何でもゲームにそこまで命かけてる人なんていないでしょ。見本がいればやりますけど……」


 そうやって正記が言い訳を並べると、ミカンは少しの間だけ顎に触れて考え事をすると、何かを思いついたかのように微笑んだ。


「いいよ、教えてあげる。キミが見習うべき人間達のことを……大人になれない子ども達のことを」





《現在 DBO》


「あー、まだ耳痛い。さっきのあれ何?」


 ジャックは耳を時々押さえながらライトに問いかけた。ナビキとマサムネはロロを探して『時計の街』に行ってしまった。


「ナビキの必殺技……というより、『歌唱スキル』戦闘専用の攻撃技『ボイスチャージ』と『ハイパーノイズ』のコンボ技。派手で強いが使えるやつは少ないな」


「支援どころかそのまま滅茶苦茶戦えるじゃん」


 スキル発動の輝きからして、フィールドで発動すればかなりのダメージを与える技だということが見て取れた。そんなものを町のド真ん中で発動するというのは立派なテロ行為だが、ナビキにそんな悪意があったとは思えない。


「ナビキはナビと違って性格的に戦いを好まないからな。あの曲はナビキが『ストレス発散』のために作った曲にスキルで威力を付けただけだ……オレのアドバイスでな。ストレスたまってそうだからやらせた」


「元凶おまえか!!」


 ちなみに、あの後ライトはマサムネから情報を聞きながらさらに30分ほど座り続け、きっかり4時間でクエストを終了した。

 クエスト報酬として『瞑想スキル』とそれに付随した条件付き派生技能がいくつか修得できたらしい。


 しかし、その間に空は暗くなり、夜になってきている。そろそろ宿を探さなければならない。


「あ、そうだ……黒ずきん、ちょっと先に宿見つけておいてくれないか?」


「ライトは? 何か用でもあるの?」


「さっきマサムネに教えてもらったクエストを受けてくる。それに、ちょっと調べたい事もあるしな……」


 ライトの表情は真剣だ。

 ジャックは詳しくは追及せずため息をついた。


「はあ、クエストは一つだけだよ。宿見つけたらメールするから」


 本当は問い詰めたい事もあるが、ジャックも隠し事が無いわけじゃないのでここでは追及しない。

 今日ライトがあんな時間のかかるクエストを受ける事となった遠因はジャックにあるのだ。それで夜になったのだから、ジャックが宿を探すのも筋の通らない話ではない。


 それに、ライトに頼むアイテムのデザインもしなければならない。


 使わないかもしれないが、ライトにはどうしてそんなものが必要なのかわからないだろうが、ジャックにとっては重要な物なのだ。





 一時間後……

「お待たせ~」

「おかえりー……って、HP黄色くなってるよ!?」


 どこか既視感のあるシチュエーションだったが、ライトはなかなかの激戦をしてきたらしく、装備に真新しい傷をいくつも付けてメールで指定した宿の一階の酒場に来た。


「まあな、ちょっとやりにくいクエストだったからな……でも、ちゃんとクリアして、秘伝技を修得してきた」


「秘伝技?」


 秘伝技とはクエストなどで得られる特別な技だ。ふつうの技と違うのはスキルのようにレベルがあり、レベルがあがるほど効果が追加されたり威力があがったりする。


 ジャックの知る限りではライトの『威風堂々』がその一つで、それに噂では他にも『白刃取』、『超回復』などがあるらしい。


 なんでも、修得はスキルのクエストより困難でどんなに頑張ってもクリアできないことも多いらしい。それをたったの一時間でクリアしてきたというのだから、やはりただ者ではない。


「どんな技なの?」


「技名は『ハート・イン・ハンド』、初期レベルは37」


「なんか名前が強そう。必殺技みたい」


 これは期待できそうだった


「効果は『ダメージの軽減』、それだけだ。しかも自分より強い相手にはあんまり意味がない」

 ずっこけた。


「必殺技かと思ったら防御技!? ホントにそれだけ!?」

「本当にそれだけだ。他にクリアしたやつが居なかったらしいから一番最初に取っておこうと思ってな」


 思ったようなものじゃなかった。正直言えば、ライトは持ち前の回避力とカウンターで普通の戦闘ではほとんど大ダメージなんて負わないのでパートナーとしては攻撃技を修得してほしかった。


「まあ見てろ、その内役に立つ」


「?」


 ライトは今はそれ以上説明する気はないらしく、話題を変える。


「それより、オレの部屋の鍵をくれ。早速新しい竹光も作りたいし」


 このゲームでは宿屋のフロントで鍵を受け取り、それの所有が部屋の利用権をシステム的に認める条件になる。つまり、仲間に自分の部屋を取っておいてもらうことも出来るし、視点を変えれば鍵を強奪すれば部屋を奪うことも出来る。


 ジャックは追い剥ぎされたときに鍵も奪われたらしいので、宿に置いてあった物も全部奪われたといって良い。


 ライトは二人分の部屋を取っておいてほしいというニュアンスで『宿を探してくれ』と言った。だが、ジャックはキョトンとした顔で言った。


「『オレの』? 『オレ達の』でしょ?」


「へ?」


 ライトは一瞬逡巡したあと、恐る恐る問いかけた。


「黒ずきん……何部屋とった?」


 ジャックは当然のように答えた。

「一部屋だよ。当たり前じゃん、部屋代もったいないし」


「わかってるのか? 同じ部屋で寝ることになるんだぞ」


 黒ずきんは何食わぬ顔で答えた。


「別にいいよ、ライトは何もしないでしょ?」






「どうしてこうなった……」

「大げさだよ、ベッドは一人一つあるし。最悪、ライトが襲ってきたら両目抉るから」


 ジャックはフードケープを脱いで壁際のベッドに腰掛けている。ライトは反対側の壁際のベッドに腰掛けながら鑢や彫刻刀を使って《銀竹》を《竹光》に加工している。


「普通女の子は是が非でもこういう危険な状況は回避しようとするだろ。貞操観念って知ってるか?」


「心配しなくてもそんな世間知らずじゃないよ。それとも、もしかして襲ってやるって宣言なの? そうだったらスカイに泣きつくよ」


「やめてくれ、社会的に抹殺される。オーバーキルされちゃうから」


 ジャックは部屋を出て行く気配もライトを他の部屋へ移させる気配もなかった。むしろ、同じ部屋に泊まることに拘っているようにも見える。


「あ、もしかしてあれか? 本当はオレが被害者になるって流れか?」


「違うよ、ただゆっくり話したい事があるだけ……」


「ギルド『ネバーランド』のことか?」


「!!」


 ジャックは突然脈絡もなくライトの口から飛び出したそのギルドの名前に固まった。


 確かに、『ネバーランド』はこれからしようとしている話に関わる事ではある。しかし、そこまで話すつもりなどなかったし、ジャックは一度もその名前を口にしていない。


「……どうして、その名前を……」


「ジャックがオレに発注した黒いバンダナ。『DEATH』って赤く染め抜いたあれ、ゲームが違っても仲間同士で誰が誰だかわかるギルドの目印シンボル)だろ? そして、確かそのリーダーの名前が……『ジャック』だったはずだ」


 ジャックは思い当たった。

 ジャックがライトに頼んだ加工は黒の反物の一部をバンダナにして文字を染め抜いてもらうことだった。


 ライトはVRMMOの初心者だと聞いていたので、そのデザインの意味なんて知らないと思っていた。しかし、ライトはどこから知ったか知らないが、かつて極短い期間だけ話題のトップに登り、今はもう話題にも上がらないようなある意味伝説のギルド『ネバーランド』を知っていたのだ。


「初心者じゃなかったの? 『ネバーランド』が活躍したのは一年くらい前のはずだよ」


「師匠に聞いたんだよ、『ゲームに命を懸けてる見習うべき人間達だ』ってさ」


 ライトはジャックを静かに見据えた。


「だが、当初最大で18人いた『ネバーランド』は数ヶ月のうちに一人、また一人とログインしなくなり、最終的には消滅したと言われているらしい……ジャックがパーティーを組まずに一人でデスゲームを戦っていたのも、なかなかパーティーを組もうとしないのも、『ジャック』というキャラネームを大事にしながら堂々と名乗らないのも、そこに原因があるのか?」


 帽子の影で見えにくいが、ライトの目はジャックの目を見ていた。


 ジャックは少しためらった後に深呼吸し、平坦な口調で言った。


「何も特別なことは起きてないよ……ただ、『私』意外のみんな死んだ。それだけだよ」






 今はジャックを名乗る彼女は昔はとても活発で、スポーツが好きで、男の子に間違われることもあるくらい元気な女の子だった。


 医者の父親と看護士の母親、四つ年上の兄に囲まれ、これといった不自由はない生活を送っていた。


 親に憧れて押しつけられるまでもなく、大人になったら医者になりたいと思っていた。

 大人になることになんの疑問も持っていなかった。



 そんな彼女が胸を押さえて倒れたのは小学校最終学年の秋、クラスの友達と鬼ごっこをして遊んでいる時だった。



 当時の彼女には自分を診てくれたお医者さんの話の難しい所はわからなかった。だが、父の真似をして医学の簡単な本を読んでいた彼女には肝心な事はわかった。


 彼女の心臓は大人になるまで保たない。


 その病気の手術は難しく、世界でも成功例は極わずか。国内では0だ。


 それからというもの、彼女の何不自由なかったはずの人生は灰色に染まった。

 好きだった運動は制限され、通院で休みがちだったため学校の友達は思うように出来ず、いつか来る死に怯えた。


 そんな生活が半年ほど経過したとき、彼女に転機が訪れた。


 海外から来た自分と同じ病気の少年。奇しくも同い年で、親の配慮もあり同じ病室の隣のベッドに来た彼が、彼女の世界を塗り替えた。





「それが『初代』ジャックか」


 途中まで話を聞いたライトは確信を持って言う。

 目の前のジャックも頷く。


「言っておくけど、アメリカ人じゃないよ。『ジャック』は彼の名字の日本語での発音から来てる。『寂しい』と書いて『じゃく)』だったから」


「なるほど、それで納得がいった。体型が近いアジア人同士ならいつの間にか『襲名』しててもわからないからな。それで、その『初代ジャック』と出会った後、どうなったんだ?」


「胸見て言わないで。あと、言っとくけど、これは最後はあんまり気持ちのいい話じゃないよ」




 当時、すでに治療用から一般向けへと進化しつつあったMBIチップは当然のように二人に移植されていた。

 当初は言葉の通じなかった二人も翻訳ソフトを使い意志の疎通を取り、互いに相手の国の言語を話せるくらいにまでなった。


 彼は、故郷では有名な雑技団の売れっ子だったらしく、その知名度のおかげで設備の整った日本の病院に来れたらしかった。


 二人は元々活発だったのが似たもの同士で共振したのか、親友になった。


 そして、現実世界で遊べない代わりに仮想世界で遊ぶようになった。医者も入院のストレスを解消するため、体を動かす感覚を忘れないためという理由で許可してくれた。


 彼女は精神的に活力を取り戻し、学校で出来ないならと病院の入院仲間と友達を作り始めた。


 彼女の入院する『集中治療棟』は治療の難しい患者の集まるところだったため、その空気は重かった。しかし、友達を作り楽しく今を生きようとする彼女は他の患者を勇気づけた。


 そんなある日、その『友達』の一人の容態が急変して死んだ。その時、二人は急には来られなかった家族の代わりにその『友達』を見送った。


 彼女は泣き、彼は泣かなかった。


 彼が泣かなかったことで喧嘩もした。


 だが、彼は言ったのだ。

『みんないつかは死ぬ。最期に精一杯生きられたなら、幸せなことだ。』


 彼女はそこで初めて、『死』というものと真正面から向き合った。ただただ恐ろしかった『死』が、自分を殺そうとしているかのように思っていたものが、本当は誰にも平等に降りかかる物だったのだと気がついた。


 100まで生きようが20まで生きられなかろうが大差はない。20で死ぬなら100まで生きる奴の5倍精一杯生きればいい。そう思えた。


 だから、彼女は言ったのだ。

『みんなで最期まで精一杯生きよう。大人になれないなら、大人になってからやりたかったことを今やろう』


 そうして、彼女と彼は患者の中でも特に生存が厳しい子供達を集めて、現実では『出来ない』事が『出来る』世界で遊ぶ集まりを作った。

 それぞれが自分のしたいことが出来る世界へ、大人になったら叶えたかった『夢』を叶えられる世界へ、一緒に旅立つための集団ギルド)


 それがギルド『ネバーランド』だった。


「そして、ネバーランドの面々は生きた証を残そうと数々のゲームで輝かしい功績を残しました。めでたしめでたし……じゃないよな?」


「まあ、先に逝ったみんなに関してはほぼそれで合ってるよ……でも、最後に残った『私』は納得できなかった」




 彼女は『ネバーランド』の全員を見送ることとなった。一番親しかった彼を見送ると、彼女はまた一人になった。


 皮肉にも、彼女にはなかなか迎えは来なかった。


 しかし、彼女は皆を見送った後も確信できていた。『自分達は精一杯生きた』。


 その確信のままに死んでいったなら、彼女もまた安らかに眠れたのだろう。


 だが、時の流れは残酷だった。


 ある時、彼女は久しぶりにVRMMOをプレイした。もうすっかり仲間達の死からも立ち直り、ただ単純に、気軽に遊ぼうと思ったのだ。


 そこで気が付いた、気が付いてしまった。

 一時は話題の中心になり、数々の功績を残した『ネバーランド』のメンバーであった自分に誰も『気が付かない』のだ。


『ネバーランド? ああ、そういやいたなそんなギルド』

『さあ? ワタシは最近始めたものですから』

『あの小さいギルドだろ? 噂では自然消滅したらしいけど』

『昔は人気あったけど、もう過去のギルドだろ。なあ、それよりうちのギルド来ないか? うちは百人単位の大規模ギルドだぜ』


 彼女は何が起こったかわからなかった。

 しかし、聞き込みを重ねるうちわかった。


 ただ単純に、忘れられたのだ。


 『名前を残す』『生きた証を残す』そんな物は、ただのオマケのつもりだった。目標としてちょうど良いからそれに向かって努力していただけだった。


 だが、それが忘れられていくのは耐えられなかった。仲間の墓標を踏みにじられているように、魂を汚されたように、この世に残る仲間の面影を消されかけているように感じた。


 もしこのまま自分が死んでしまえば、『ネバーランド』が消えてしまう。皆の魂が消えてしまう。


 だから彼女は顔を隠し、性別を偽り、正体を隠して『ジャック』となった。


 そして、目下一番の知名度と人気を持つVRMMOに舞い降りた。


 そして、ただひたすらプレイヤーに挑みかかった。より多く、より強そうなプレイヤー達に、より不利な状況で襲いかかった。



『私が……ボクがネバーランドを……みんなの魂を護る。それを邪魔するヤツらには恐怖とともに「ボク達」の存在を刻んでやる。全滅させてやる』



「それでジャックはボクっ子になったんだな」


「そこ? まあ、その通りだよ。生憎とボクの夢だった『医者』はなかなか良いゲームがなくてね。代わりにボクの人体の知識と彼の……寂の雑技団での動きを組み合わせた暗殺術とか作って彼と二人で戦闘職やってたから、ボクがすぐに有名なれるとしたら、ただひたすら戦うしか方法はなかったんだ。『ネバーランド』の代表者として、ジャックの名前で」


 その結果、望んだ通りなのかはともかく、『ジャック』はGWOで最も有名なPKプレイヤーキラー)として名を馳せることとなった。


「なるほど、それでナビとマサムネさんがTGWのメンバーだと知ったときは逃げたのか。万が一GWOでの正体が知られると困るから」


 現在、ゲーム開始から約二週間の間に殺人は起きていない。しかし、これから起こらないという確証はない。仮に、ジャックが別のゲームで有名なプレイヤーキラーだと知られれば、どんな風に弾圧されるかわからない。


「ただ死ぬだけならともかく、こんな素顔を晒して死んだらジャックの……彼のこれまでの名声に傷が付くかもしれない。それは嫌なんだ」


 おそらく、ライトが初対面で警戒を解くために名乗ったとき、本当のキャラネームを明かしてしまったのは失敗だったのだろう。

 まだ、決心がついていなかったのだろう。この世界でその名を名乗るべきか、それとも隠すべきか。



「ライト、ボクと一緒にいたらその内PKの疑いで追われることになるかもしれない。隠せるかと思ってたけど、ライトがGWO経験者との交流があるならいつかばれるだろうから今言ったんだよ」


 ジャックの言葉は言外にこう言っていた。

『人殺しと疑われたくなければ、ボクと縁を切ってくれ』


「大丈夫、ボクなら一人でも勝ち続けられる。いや、そもそもボクはクリアの是非に関係なく死ぬんだ。今のうちに忘れておいた方が……」


「死ぬとは限らないだろ? クリアしてから手術すれば……」


 ライトは『助かるかもしれない』と言おうとした。だが、ジャックはそれを遮る。


「来月、手術の予定だったんだ。成長と体力の低下を考えるともうタイミングはない」


 あと一ヶ月や二か月でこのゲームはクリアできない。何年かかるかわからない。

 このゲームが開始した瞬間にもうジャックの死は決定してしまったのだ。


「そもそも、身から出た錆なんだよ。消えかかった亡霊の悪足掻きだったんだ。所詮ボク達は時間には勝てない運命……」


「『BUILD』のコウジと『COOK』の釘原は『カーペンターズシフト』で不可能と言われたお菓子の家を作り上げた。『GROWTH』の錫子が代表として『アマハラの庭』の品評会に提出したマンドラゴンは品評会の初代優勝作だ。『FIGHT』のタイニーはダントツに小さな体躯をもろともせず『スラムバトル』の公式大会第1回世紀末バトルロイヤルで優勝を果たした。他にも『CURE』のトキコ、『MOVIE』の紫煙、『DRIVE』のキッカー……」


「………え、それってまさか……」


「大多数がどうだかは知らないが、オレは憶えてるよ」


 それは、他人から聞くことはないと思っていた仲間達の名前と功績。

 自分しか憶えていないと思っていた仲間達の記憶。それが、ライトの口から発せられた。


「師匠から演劇の時の資料映像として見せられたんだ。『本物』を知らなきゃどんな職業も演じられないからな……オレは、そうやって参考にした相手のことは忘れない。それぞれが自分の夢に向かって本物以上に本物みたいに輝いていた『ネバーランド』はオレの中では今でも伝説だ」


 目に熱い物がこみ上げてくる。

 

 生きていた。仲間達の魂はライトの中に生きていた。


「ジャック、プレイヤーキラーとして迫害されることとかは考えなくていい。オレが護るよ」


「……どう……やって…?」

 涙を押さえながらジャックは質問する。

 それに対してライトは冷静に答えた。


「攻略本《デスゲームの正しい攻略法》はまだ試作段階なんだ。今は最小限の情報が載ってるだけで表紙も決まってないし、ゲームそのものの情報だけじゃなくて活躍したプレイヤーの情報も載せるって案が出てる……だから、そこに攻略本製作の功労者、『ネバーランド』のジャックの名前を残そう。そうすれば、ジャックは集めた情報で護られる全てのプレイヤーの『守り神』になれる。……そして、もしジャックが死んでしまうならオレが『語り部』になるよ。精一杯生きた『ネバーランド』の物語を次につなぐ語り部に」



 ジャックの目からは、知らず知らずの内に涙がこぼれていた。


 ライトを無理矢理にでも突き放すつもりだったのに、戦うことしかできない自分なんて孤独に戦うしかないと思っていたのに、プレイヤー達全員を自分なりの方法で守ろうとするライトの隣にプレイヤーを襲うことしかできなかった自分は不釣り合いだと思ったのに……


 ライトは希望を語ってくれた。


「本当にいいのかな……勝手に『ジャック』の名前で戦った『私』が……名誉を護るどころか、ただ有名になろうと不名誉ばかり重ねちゃったこの『私』が……彼の名を偽った『私』が……守り神なんかになっていいのかな?」


 尻込みするジャックに、ライトは帽子を脱いで目をつぶる。

 そして、自分がいつも他人を信用するときと同じように、真っ直ぐ視線を合わせる。ジャックに、目を見つめさせる。


「別に名誉挽回くらい自由だと思うけどな。さて、オマエの秘密ばかり聞くのは悪いな……オレの秘密も話しておこう」


「ライトの……秘密?」


 ライトは、極めて真面目に口を開いた。


「オレさ、実はシスコンなんだよ」


「……は?」

 そして、突然意味不明なカミングアウトをして来た。


 だが、ライトは構わず話を続ける。

「だが困ったことに、オレって一人っ子なんだよ。戸籍上の兄弟とかいないし、従妹とかもいない」


「妹いないじゃん」

「だが、父親の浮気相手の家には腹違いの妹がいる」


 ジャックは固まった。それは、十分秘匿すべき情報じゃないのか。


「中学一年生の時さ、ちょっとひょんなことから父親の浮気現場を見つけたんだ。浮気相手は母親の親友だって昔紹介された人でさ……母親に言うこともできなくって、最初はすごく悩んだんだ。でも、ある日家でその人の落とした手帳を見つけて、母親にばれないようにその人のところに返しに行った。道端で拾ったふりしてさ……その時に、あの子に出会った」


 ジャックにも『あの子』というのがライトの腹違いの妹だということは言われなくてもわかった。


「その子は知ってるの? ライトが本当はお兄ちゃんだってこと」


「いや、オレのことは『近所のただの面倒見のいいおにいさん』だと思ってるよ。まだあっちは小学生だから交流も一緒に将棋をしたり本を読んであげたりしたくらい。それに……本名を名乗ったこともない。ずっと名前を偽り続けている」


 三木将之(みきまさゆき)。それが妹の前での彼の『本名』。

 変装で浮気相手からも正体がばれないように自分を偽り、浮気相手と自分の家庭の二つを守り続けた。

 父親のアリバイ工作、浮気の証拠隠滅まで全部一人でやった。

 罪悪感を感じながら、完璧に自然な笑顔を装った。

 

「オレはな、このゲームをクリアできたら妹に……ゆう)に本当のことを伝える。これまで騙し続けてきたことを謝って、赦してもらう。そして、代わりにオレの武勇伝を聞かせてやるんだ。オレは本当はこんなにすごいんだぞって、そして、そんなオレはオマエのお兄ちゃんなんだぞってな」


 それを聞くと、ジャックは少し沈黙した後、静かに笑った。


「はは、それ死亡フラグじゃない。結局ボクが生き残って伝えることになるとかって流れになりそうじゃん」

「ああ、言ってて薄々自分でもそう思ったよ」


 二人は真剣な話の後、気が抜けたように笑いあった。

 そして、ひとしきり笑うと改めて互いに意思を確認した。


「ボクは名を残す。そのために、クエスト踏破に協力させてほしい」

「オレはこのゲームの語り部になる。そのために、一緒にこのゲームを盛り上げてくれ」





 30分後。

「ほら、できたよ。『DEATH』のジャック」

「ありがとう。でも、これをつけるのは攻略本でちゃんと『守り神』になってからにするよ。その前に襲われちゃ嫌だし」


 ライトは、DEATHの文字を染め抜いた黒いバンダナをジャックに手渡した。


 そして、立ち上がり、背筋を伸ばして、できたばかりの竹光を抜いて、その峰でジャックの両肩を軽く叩いた。


 それは、まるで騎士の受ける儀式だ。


「ライト立ち会いの下、正式に『DEATH』の『ジャック』の名前が継承されたことを認める。堂々と名乗れよ、これでジャックもまごう事なく『本物』、二代目ジャックだ」


 ジャックは大事そうにそれを抱きしめた後、それをストレージに入れた。


「ところで、一つ聞いていいか? 昼間言ってたライト『も』ってもしかしておまえも……」


「違うよ。予知ができたのは彼……初代ジャックだよ。彼は、病死なら他人が『いつ、なんで、どう死ぬか』がわかるって言ってた。それを使って本当に時間のない子を選んで勧誘してたから、デタラメじゃない」


 ジャックは平然と『予知』について語る。

 『そういうもの』を否定せず、存在を前提にしながら語る。

 ライトの今までの行動もきっと似たようなものだから。


「ライトには『何』が見えるの?」

(キサキ)「どうもおなじみキサキの部屋です。」

(イザナ)「このままじゃ本当におなじみになっちゃう……」

(キサキ)「今日のゲストは菩提樹の主こと魔羅さんです。どうぞ」

(マラソン)「おい、ちょっと待て。名前『魔羅さん』じゃなくて『マラソン』になってるぞ!!」

(イザナ)「あ、ごめんなさい。ネームプレート間違えました」

(キサキ)「このアシスタントは本当に使えませんね。誰でしたっけこの子」

(イザナ)「ヤバい、名前まで忘れられかけてる」

(マラソン)「人の名前間違えたやつが言うかそれ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ