表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第六章:ダーティープレイ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

299/443

乱丁32:裏設定を忘れてはいけません

 今まで温めていた裏設定の一つが開示されます。

 私は……私は、『脇田百恵』。


 これは、私が高校生初めての夏休み……登校日前に、正記の家で夏休みの課題の見せ合いをした時の記憶。

 ある程度、中間提出の目途がついて休憩してた時の話。


 私が気分転換でなんとなく部屋の中を見ていたとき、正木の部屋に置かれた小さな……腰くらいの高さもない本棚(というより内側を区切っただけの木箱)に足をぶつけちゃって、一冊のタイトルのついてない本が飛び出してしまった。


「んー、正記ー。これ何の本? 読んでいい?」


 私は偶に、無性に何でもないような物や場所に興味を惹かれることがある。でも、それはよく他人のあまり見られたくない物や場面に繋がるから、できれば我慢するようにしていた。

 だけど、その時はたまたま、場所が昔からの知り合いだった正記の部屋で、正記にはあまり遠慮というものをしないでいいって感覚があったから、私は質問しながらも既にその本を開き始めていた。


「おーい、質問しときながらもう見てるだろ……ま、別にあんまり見られて困るもんじゃないし」


「はは、そうだよねー。正記は見られたくない物はこんなわかりやすい所に置かないしねー……って、あーなるほどねー。アルバムだね、道理でタイトルがないわけだ」


 正記が止めたらページをそれ以上めくらないようにするつもりだったけど、正記が止める様子もないから私はアルバムのページをめくってなんとなく収められた写真を見て行った。

 そして……


「……? なんか、正記の写真少ないっていうか……これ、正記の母さんのアルバム? なんで正記の部屋にあんの?」


 正記のお母さんの顔はよく知っていた。授業参観とかでも少し目立つくらい若々しい人なので昔の写真でも同一人物だと察するのに時間はかからなかった。


「ああ、それな。ちょっと避難させてあるんだ……ほら、うちの母親が大掃除の時とかに見つけると読み返し始めちゃって手が止まるからな」


「なるほど……で、逆に正記の部屋にこれがあれば見られたくない物を見つけられる前に興味を引いて時間稼ぎができると」


「おいおい、まるでオレが母親に見られたくない物を部屋のどこかに隠してるみたいじゃないか。そもそもオレは自分の部屋の掃除を親が何もしなくてもいいほどしっかりこなしてるから、掃除には来ないし何か見つかる心配もない!」


「微妙に語るに落ちてるけど……まあいいや。それにしても……正記のお母さんのご両親、おばあちゃんとかおじいちゃんの写真……ないんだね。こういうの聞いたらダメかもしれないけどさ……」


「安心しろ……別に、疎遠とか駆け落ちとかって話じゃない。そもそも、オレの母親に両親とか祖父母とかいないんだよ。ほら、この写真よく見ろ」


 正記が指差したのは、一枚の古い写真だった。

 古い建物の前で並んだ子供たちや、それより少し大きな少年少女の集合写真。

 私は、それを塾か何かの友達との集合写真かと思ったんだけど……


「子供の家……源氏院? 子供の家ってもしかして……」


「ああ、うちの母親の育った孤児院だ。オレも何度か行ったことがあるけど、ボロくて寂れてて、でもまあ悪くないところだった」


 正記のお母さんが孤児院育ち……まあ、そういうことは自分から言うことでもないだろうし、知らなくても問題はないことだろうから、こういう機会でもないと知らなかったんだろうけど……


「あれ、この人……どこかで見覚えがあるような……」


「ああ、中学の時に転校した悠久永(ゆくえ)じゃないか? それにこっちは初音先輩で、これは生徒会長に似てる」


「あ……それにこの人、大人だけど、花散里さんに似てる」


「まあ、地元近いしな。みんなには変なこと言うなよ? ま、モモなら別に差別とかしないと思うけど」


 本人……じゃないだろう。何せ、正記の母親が子供のころの写真だ。

 私たちの同世代の人たちの、お父さんお母さんってところかな……


 その中に……


「さて、じゃあもういいだろ。ほら、さっさと宿題やって、ついでにお互い見せ合える分は見せ合って……」


「え、ちょっと待って……この人……」


 私は、意外な人物の面影を見た。










≪7月31日 DBO≫


 さて……困ったことになった。


「『OCC』のギルドマスターにして、先の『戦争』で犯罪組織の機密情報を抜き取って人質の解放作戦を裏から動かし、さらに最終局面では物資の配給ラインを一手に掌握して犠牲者を最低限に抑え込んだユニークスキル持ち……実に興味深い」


 私が自分を『普通』に保つための『調節(チューニング)』の最中、相席を申し込んできた謎のおじいさん……彼が笑顔の裏に隠す悪意は、完全に私を捉えていた。

 今は昼時、お客さんは減り始めてるけどレストランの中。こんなところで派手なバトルみたいなことを仕掛けてくるとは思えないけど……私の戦闘能力は、高レベルの戦闘職の人には遠く及ばないし、何より……


(この人は絶対に危険だ……でも、その『危険』の種類は直接的なものじゃない。今すぐに襲って来ることはないけど、私がここで声をあげたり逃げたりしたときは……多分、周りの人に狙いを移す。そういう陰湿なタイプだ)


 今日の私はいつもより少しだけ人の気質に敏感だ。

 悪い人間と善い人間の区別は空気でわかる……ここまで近ければ、もっと詳しく。

 この人は背中を見せてはいけないタイプの人間……睨まれたら睨み返して、敵対することが得にならないとわからせなきゃいけないタイプの人間。でないとこの人は、私をマークしたまま、私が逃げたら逃げる先を潰そうと嫌がらせをしてくる。学校のクラスで一人はいる、いじめっ子みたいなタイプだ。


 私はいつも印象を持たせず、興味を必要以上に引かず、人ごみに紛れて私自身への認識を薄くすることでそういうのに目を付けられないようにしてきた。でも、外からそういうのを観察できたからこそ、予兆みたいなのはわかる。

 ここでどのくらい食い下がれるかが、重要な分岐点になる……そんな気がする。


「……あなたは、鮫島さん……シャークさんの知り合いですか?」


「ほほう? 何故そう思うかね?」


「前の戦争の件と、私のユニークスキルのことを知ってて……しかも、犯罪組織の機密情報の流出を知る立場の人ですからね……でも、シャークさんはもっと臆病で慎重です。こんな人の多い所で……たくさんのプレイヤーを巻き込むところで、事を起こしたりはしません」


 もしかしたら、店のお客の中にこの人の手の者がいるかもしれないけど……店の全員が彼の味方ってことはありえない。今日の街にいる人の流れは観察したから大体把握できてる。店にいるほどんどは見覚えがあるし……私の動きに合わせて集まるような不自然な動きをしていたらさすがにわかる。

 もしそれをしたければ、私がここに来なくても自分の気分や予定でここを選ぶはずだった人たち全員がたまたま味方だった……街の人間の大部分が味方だったくらいでないと、たぶん今日の私は人の動きからそれを感じ取れる。


 ここのお客さんの中にかなり強い彼の味方がいて、それを保険としていたとして……もし、その人を動かせば無関係な人を大勢巻き込む。

 鮫島さんは、『イヴ』の暴走で街一つを巻き込んだ時も怒ってたし、そういうリスクは侵さない。

 でも、目の前のこの人は……場合によっては、不特定多数の人を巻き込んで、迷惑をかけることも……無造作にこの街が取り戻し始めた日常をぶち壊すことも、躊躇なくやるつもりでいる。


「なるほど、馬鹿ではないか……まあ、確かに彼とは無関係ではない。僕もこの前の戦争では『こっちがわ』だったしね。だが、今回は別に争いたいというわけではない。きみと話をしに来たんだ」


 きっと、第三者からは優し気で紳士的な老人の柔和な笑みに見えるその表情も……信用できない。

 だって、私に……目の前の人間に少なからず恐怖心を与えて、不信感を向けられて、嫌われて……それでも構わず、変わらず子供みたいに無邪気な笑みを見せる人間を、私は信用できない。

 ライトみたいな、相手を安心させるために苦笑してみせたり傷つくふりをしてみせたりするのとは全く違う……自分勝手で、相手を委縮させることを楽しむサディスティックな性格の滲み出るこの老人の笑顔には、油断できない。


「……なるほど、相手の与えようとする印象、そしてそれに対する自分の反応とさらに相手の返す反応から、瞬時にその性質をプロファイリングする才能かい。きみはなかなか、スパイにでも向いてるんじゃないかい?」


 それは昔、正記にも言われたことのある言葉だ。


「そんな特別な人間みたいな言い方はやめてください。私はごく普通の人間で、そんなこと誰でもやってることです」


「プロファイリングした数千人分のデータを頭の中だけで統合し、平均化したプロフィールを自分に適応して実現するなんてことは誰でもできることじゃないと思うけどね。まあ、今回はそんな話をしに来たわけじゃないし、きみのようなレディの機嫌を損ねてしまっては後が怖いから、この話はここまでにしておこう。なあに、僕は確かに犯罪組織と呼ばれる組織に属してはいるが、そこまで警戒しなくてもいい。組織の元々の目的は破壊でも侵略でもなく、冤罪者や軽犯罪者の保護だったんだ。この前の戦争は、一部のプレイヤーが暴走した結果さ。だから、きみの友人の死などの不幸な事故は一旦忘れて、あまり目の敵にしないで話だけでも聞いてくれるかい?」


 清々しいほど胡散臭い。

 信じてもらおうとも思ってない。むしろ、不信を煽って、怒らせようとしてる。


「……懺悔なら、教会にでも行ったらどうですか? 私に言われても困ります」


「教会……マリー=ゴールドか。生憎だが、あの娘とは少しケンカ中であまり会いたくないんだ」


「あの温和な人とケンカとか想像できませんけど」


「なに、子供の教育方針でちょっとね。それにしても……本当にきみは興味深い。きみ自身より、きみの今いる『位置』が興味深いと言えるかもしれないがね」


 私のいる『位置』か……メモリちゃんも、同じようなことを言ってた気がする。

 つまり、この人は私じゃなくて……私の『位置』を見てる。いや、私の『位置』の価値がわかる、そういう人だ。


「きみの『位置』は……かなり特殊なものと言えるかもしれない。何せきみは、こうやって目の前にいても、そう易々とは手を出すことはできない。排除することのできない『位置』にいる。その『位置』が、きみ自身の能力以上にきみの価値を引き上げているとも言える」


「目の前にいても……排除できない?」


「そうだね……たとえるなら、角飛車に守られた歩といったところかな。正直、きみ自身をとること自体はそう難しくはないだろう。確かに『OCC』を初めとした周囲の人物の戦闘能力は高いが、四六時中誰かと一緒にいるわけではない。今この時のように、一人で活動している時間がないわけではない。きみ自身のステルス性能は高いが、暗殺不可能というわけでもないだろう。だが……きみをとれば、こちらは詰んでしまう」


 私に手を出すつもりがないって言っているようにも聞こえるけど、全く油断できない。

 この人の言葉には保証が何もないし……なにより、手を出すつもりがないなら、悪意を秘めた笑顔で私に接触してくる理由がない。


「きみは無自覚かもしれないが、きみの周りには有力者が数多く登場している。軽く調べただけでも大ギルド『大空商店街』『アマゾネス』『戦線(フロンティア)』のサブマスター以上の有力者、異才揃いの『OCC』メンバー、その他にも裏表の有力勢力とのパイプを持つ。しかも、ほとんど自分から顔を売る形ではなく、自然な形で利害関係とは違う対等に近い関係を持つ……一種の特異点となっている。しかも、それだけのものを持ちながら利用は最低限にして繋がりを保っている」


 困ったときはお互い様……それが、私のスタンスだ。

 それくらいが負担がなくて、嫌にならない付き合いだと思っているから。でもそれは言い換えれば、『人脈を温存している』とも言えるかもしれない。


「直接の交友がないプレイヤーでも、戦争の時の物資や土地のばらまきで命や職の恩を感じている、潜在的な味方も数え切れないだろう。そんなきみを討ち取ってしまえば、おそらく速やかに動くのは『代役』を得意とするライトくんか『信仰の吸収』に長けたマリー=ゴールド。このどちらかがきみのいなくなった『位置』に置き換わり、報復戦でも始めたら……それこそ、このデスゲームのプレイヤーのほぼ全てを敵に回すことになりかねない」


 私は、この人の言葉を全面的には信用できない……けど、理屈はわからないわけではない。

 確かに、私はたくさんの人と話して、力を貸してもらって、手伝って、繋がってきた。もちろん、偉い立場の人からしたら私一人にもし何かあっても少し悲しんでくれるくらいかもしれないし……正直、私がいなくなったからって怒り狂う正記なんて想像もできないけど、『OCC』のみんなくらいなら、私の仇をとろうって言ってくれるかもしれない。そして、その流れを利用しようとすれば……私の今まで築いてきた人の繋がりは、大きな武器になるかもしれない。


「まあ、きみにもっとも近い『OCC』はそれこそ制御の難しい才能の集団だから、きみの『位置』を逆手にとって我々の手に見せかけて排除するなんてこともできない。少しでも不自然な部分があれば、すぐさま見抜かれてしまうだろうからね。きみはそういう意味ではあちら側にとっての切り札たり得ない……偶然にも人間の繋がりの交差した、天然の特異点とも言えるだろうね」


 だから、飛車と角に守られた歩……相手が取ろうとすれば詰んでしまうけれど、自分で取ることもできない、盤面の変化の中でできてしまった軌道の交差点。

 私自身の意思や能力には関係ない、そこにいるだけで価値があって、存在を護られる駒。

 それって……



「それにしても……なんともまあ、素晴らしい茶番だとは思わないかい? きみの命は、まるで何者かの意思でもあるかのように、過保護なまでにこの厳しく汚い世界から護られているんだ。そこにいるだけで価値を見出され、自分では日々を生きているつもりで実は生かされているだけの、愛玩動物のようなものだとね」



 過保護なまでに……護られている。

 今こうして、危険な人物の目の前にいながらも危害を加えられていないのも、私がその『位置』に護られているから。まるで、私とこの人の間に頑丈な檻があるみたいに。

 だけど、檻に入れられているのは……危険な猛獣か、あるいは危険から護られた無力な愛玩動物の方か。


「まあ……正直に言えば、きみのは天然に見せかけた作為的なものに見えるけどね。それも表から見えないように、偶然に見せかけて因果を絡めた……とても偏愛的なものだ」


「偏愛的……?」


 それはまるで、今の私の『位置』が誰かに意図して作られた安全地帯であるかのような口ぶりだった。

 できるだけ信用できない話は聞き流すつもりだったけど、その話は聞き流すことができなかった。


「ライトくん……最近はなかなか妙な噂のせいか表に顔を出せないようだが、彼とは旧知の間柄らしいね。彼が最近、何をしているか知っているかい?」


 一瞬、急に話が変わったかと思ったけど……話の流れ的に、無関係だとは思えなかった。

 あるいは、直接関係性を切り出さず、私に連想させることが目的かもしれない……なんとなくだけど。


「彼はどうやら、他人に容貌を似せるスキルを修得したようでね。彼自身の演技力も相まって、最近ではいろいろな人物に変身して、様々な場所で人々を騙しながら活動しているらしい。本当によくできた偽物でね、おそらく本人以外には識別できる者はほぼ皆無だろう。いや、もしかしたら化けている間は本人すらも自分が偽物であるという自覚を忘れているかもしれない。まったくもって恐ろしいものだよ、計画的に暴走する完璧な擬態能力なんてものを躊躇なくふりまわしているのだからね」


 さすがにそれは誇張表現だと思うけど、あいつなら他人に化けられるスキルなんて手に入れたらガンガン使うだろうな……実際、演技力も真に迫るレベルのを普通にやるし、あいつも私と別ベクトルで目立つのを嫌う。

 そして、あいつは嘘を……自分のために使うことはない。


「そのおかげで、こちらは綿密な計画を立てられなくて困っているところだ。なにせ、常に誰かに成り代わり何食わぬ顔で会話をし、本人と比べても遜色のない仕事をし、誰にも怪しまれぬまま別の姿に移り変わり、騙されてもしばらくは騙されたことに気付かない。人から人へ伝わるはずの情報が知らぬ間に寸断され、本来伝わっていない情報がいつの間にか伝わっている」


 誰かに伝えるはずの言葉が、そっくりな別人に伝えられて、さらに別人の口として別の人物へ伝わる。

 本当にそんなことが起きていれば、集合時間や場所がうまく伝わらずパーティーでの狩り活動が中止になったり、逆に本来出会わなかったはずの相性のいいプレイヤーがお互いを知り協力し始めることもあるかもしれない。

 小さな情報でも、そこから広がる波紋は限りなく大きくなることがある。 


「本当に困ったものだよ。仲違いするはずの男女が仲違いする原因すら知らず、すれ違うはずのパーティーがいつの間にか真実を共有している……逆もあるがね。予測できない情報の遮断と短絡のおかげであらゆるシナリオが遅々として進まない。だが、きみの周りについては少々事情が違うらしい……どうやら彼は、相当にきみのことを気にかけているらしい」


「あいつが……私を? そんなはずは……」


 正記とは、仲が悪いとは言わない。

 だけど、あいつのこのゲームでの私への姿勢は基本的に不干渉だ。私がこのデスゲームに参加してることを知っても、彼は普通のフレンド以上の関係をほとんど持とうとしなかった。メモリちゃんだって、私を殺しそうになってたからやめさせただけで、進んで私の命令を聞くようにしたわけじゃない。彼女が私のために動くようになったのは私が『OCC』のギルドマスターになったからだ。


 あいつが私を気にかけるなんて……大切にするなんて、想像できない。


「まあ、動揺するのはわかるよ。彼のことだ、きみ自身が絶対に干渉を悟らないように完璧に事を運んだだろうからね。彼の来歴(ルーツ)を考えれば、その程度は容易いだろう。そして、その安全地帯を自分ではなく『適当』な他人に与えることもまた、想像に難くない。現にきみは、使い方によっては私利私欲に使うこともできる権力を悪用していない。以前から親交があったのかもしれないが、きみの性格を熟知した上での判断なら納得できる」


 なんでこの人は……まるで、私や正記の関係を……リアルを知ってるみたいなことが言えるの?

 まさか……


「あなたは、私達の何を知っていると……何を根拠に、そんなことを言っているんですか? まるで……」


「はは、根拠かい? そうだね、きみは知らなくて当然かもしれない。これは何せ第二世代だからね。しかし僕は、これでも家族とかには興味を持つ努力をしている。資料としての情報にも目を通したことがあるし、きみらの骨格や細部の特徴、そして面影からすぐピンと来た……きみらは、僕の弟や妹、あるいは後輩とよく似ている」


「言っている意味が……」


「おやおやきみは、本当に親から何も聞かされていないらしいね。まあ、無理もない。彼はあの『計画』において失敗作とも言えたし、思い出したくもないことだろうからね」


 マズい……話のペースを完全に持って行かれてるけど、それを覆せない。

 この老人が知ってて、私が知らない情報が確実にある……それを知りたいと思う気持ちを抑えられない。その先に、悪い予感しかしないとしても……


「その顔は、興味がないわけではないらしいね? では、教えてあげようか。何、それほど複雑な話ではないよ。僕ときみやライトという少年、それに他にも何人かこのゲームに関わっている者達が、ある場所(ポイント)に深い関わりを持っている。そして、僕が特にその場所(ポイント)に特に詳しかったからきみらの関係を想像できたそれだけの話さ。もしかしたら、意外と聡明なきみは無意識に心の内からもうその答えにつながる情報を見つけだしているんじゃないかな?」


 私は、彼の語りに聞き入ってしまっている。


「これから話すのは、とある場所……一つの孤児院で何十年という期間で行われている、とある教育上の『計画』の話さ。それは本来『未来』のため行われた計画だった。もっとも、その目的は既に破綻してしまっているがね。だが、計画が狂おうが失敗作しか作れなかろうが、孤児院で育てられた子供が消えてしまうわけではない」


 孤児院……記憶の奥底の、正記の部屋でアルバムを見たときの映像が蘇る。

 そう、あそこに映っていた少年は……


「その計画に参加させられた子供には、その後を追跡しやすいように、孤児院の名前にちなんだ名字が与えられた」


 『行幸』正記……『明石』悠久永さん……『花散里』天女……珍しい名字だと思ったことは、確かにあった。

 そして……


「しかし、計画についてこれなかった子供もいた。その場合は、計画から解放された証として、改名の権利が与えられた。名は体を表し、そして存在を縛るものだ。名を捨てるということは自分を捨てるということであり、名を変えるとは生き様や在り方を変えるということだ。まあ、完全にかつての名から逃れられる者も少ないがね」


 私の家のアルバム……数少ないお父さんの子供の時の写真。

 私はそれを、気のせいだということにして、意識の隅に追いやっていた。


「教育とは遺伝する。虐待されて育った子供が自分の子を虐待するように。これは人間という、遺伝子外の知識や文明を後の世代に受け継がせようとする生物の本能だよ。どれだけ知識があろうと、自身が人格形成の初期段階で体験して刷り込まれた『正しい子供の育て方』を塗り替えるのは至難だ。きっときみにも、その因子は確かに残っている。むしろ、環境を変えて自然な社会の中で育てられたことで環境に適応した性質として確立されることもある」


 第二世代……あの写真の孤児院の出身者の子供達。そして……その異常性を引き継いだ可能性のある野に放された子供達。


 『行幸』の正記みたいに、物語を動かすような能力を持つ人間。


「さて、ここまで話せばきみももう察しはついているだろう。僕はきみに尋ねたくて来たんだ。それだけのスペックがありながら、まるで『脇役』のように……あるいは、外伝主人公かのように、他人の描く物語の隙間を埋めるような立場にいつまで甘んじ続けるつもりかな? そろそろ、きみも自分の意志を持って本編に参加すべき頃じゃないかな?」


 『普通』であるべき私が、向き合わなければならない私のルーツ。


「『野分(のわき)(りょう)』の娘……きみは、筋書きの上の現実シュミレーティッドリアリティというものに従うかい?」

 作者は『実は宿敵の正体は身内だった』みたいな展開は割と好きです。

 恋愛関係なら弟妹、ラスボスなら親かご先祖様、ライバルかパートナーなら従兄弟くらいがベストだと思ってます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ