26頁:お爺さんの言うことは聞きましょう
二章になってから一話一話が一万文字くらいになります。
戦闘シーンで文字数が膨らんじゃってごめんなさい。
『時計の街』9時の方角『看板の町』に向かう道中、ライトはジャックに質問した。
「そういえば、この『EXスキル』ってなんなんだ? ポイントだけが貯まっていくんだが、使い方がわからない」
プレイヤーの初期設定に組み込まれているスキルの中には『EXスキル』というスキルが含まれている。説明文によると戦闘経験値を蓄積するスキルらしく、これだけレベルではなくポイント制なのだが、大量に貯まっていって困っていたのだ。
「メニューの中のチュートリアルに小さく書いてあったけど、それは貯めたポイントを消費して強くなるスキルだよ」
「普通の経験値とは違うのか?」
「普通の経験値は自分の強さに関わらず相手の強さだけで加算ポイントが決まる。でも、こっちは相対的な戦力……つまり、どれだけ不利な戦闘だったかが重視されてる。あと、決闘では経験値は増えないけどこっちのポイントは貯まるよ」
「ああ、だからレオの時は大量に入ったのか……これって『使う』とどうなるんだ?」
「いろいろ選べるよ。ボクは基本ステータス上昇につぎ込んでるけど、他にも『EXスキル』の限定技を修得できたり、モーションを記録させて自分だけの技を作ったり、ポイントを大量に消費するけど特別なアイテムを作ったり出来るみたい」
「技を作る?」
「まあ、それに関してはスキルなしで技を出したときより良いところはポイントに応じて多少追加効果を入れられるところくらいだから、正直他にポイントを使った方が良いと思うよ」
この時、ライトの脳裏には以前経験したある戦い方が浮かんだ。
その戦い方をジャックが目にするのは一週間ほど後の話だ。
《現在 DBO》
その東向きの門は堅牢そうな木造の門であった。古風な日本家屋風で、閉じれば町を囲むカカシを繋いだ柵と合わせて一種の防衛拠点として機能しそうだ。
そして、今は開いている門の奥に見える町の風景は何というか……『戦士の町』という風だった。
町を歩き回るNPCはほとんどがガタイの良い大男、他にも甲冑を着込んだNPC、刀を腰に差した侍風のNPCや長い髭を地面までたらして杖をついている仙人風のNPCなどが普通に歩いている。
そして、施設は小規模だが道場、闘技場、滝、竹林などの『修行』から連想しそうなものが揃っている。
統一されているのはそれぞれの施設に『タイキの居合い流道場』『ガンリュウの滝』などの看板が掲げられている。
「なるほど、宣伝のじゃなくて道場破りに持って行かれる方の看板か……」
「あ、ここでは道場破りしても看板は持っていけないけど、その代わりそのスキルを他のプレイヤーに伝授出来るようになるみたいだよ。自分の看板をつくってね」
ここは『修行』を主産業とする『看板の町』。とりわけ、戦闘に役立つスキルやアイテムが手に入ることで有名な町だ。
「それにしても、なんで最初にここなんだ?」
「ライトのスキルは生産職に傾き過ぎだから、ここで戦闘に使えるスキルを修得してもらうの。特に『聴音スキル』は必ずね。じゃないとダンジョンの暗闇とか危ないから」
「ああ、そういえば前洞窟に入ったときは、いつのにかモンスターに囲まれてて大変だったな…」
「………よく生きて帰ってきたね、『暗視スキル』も『聴音スキル』もなしに」
門をくぐると、そこには関所の見張りらしき老人がいた。
老人はライトとジャックに話しかけてくる。
「おお、旅のお方か。ワシはここで50年門番をしておるオルソ爺じゃ、この町は初めてかね?」
「前来たことあるから説明はいらないよ。行こ、ライト」
「お、おう」
ジャックはそそくさと立ち去ろうと試みる。このNPCは詳しく町のことを教えてくれるが話が長いのだ。
「待たれよ、そこの……ボロい帽子の吾人」
「おい、ボロい帽子って言ったぞ今。NPCにまで言われるのかこれ」
「ソナタからは弱者を寄せ付けない強さを感じる。じゃが、その強さは隠されよ。この町の者はソナタのような強き者に出会えばきっと挑戦せずにはいられないであろう」
説明が終わったのか、オルソ爺は門の方を向いてまた最初と同じように座り直した。
ライトはジャックに説明を求めた。
「どういうことだ?」
ジャックは振り返ることなく前へ歩を進めながら答える。
「この町のNPCとはいつでも決闘ができるの。ほら、どこかで誰かが戦ってるような音がするでしょ?」
ドガッ バキッ バシッ
「血の気の多いのは時々、目が合うだけで向こうから決闘を申し込んでくる。一々断るのはめんどくさいから目を合わせないように気をつけて」
ジャックは自分で言いながら、なるべく血の気の多そうなNPCと目が合わないように前だけを見て歩を進める。
ボキッ ガキッ ドゴッ
「まあ、レベル30もあれば大抵は余裕だろうけど、一々受けてたらキリがないよ」
ダンダンダン ズシャ ブスッ
「だから大事なのは変なのは相手にしないこと……って聞いてる?」
ドガガ フワッ アクロバットマン!! バキッ
後ろから聞こえた技名の詠唱の声にジャックは思わず振り返った。
「って、言ってるそばから何やってんの!?」
そこには、五人程のNPCと同時に戦うライトの姿があった。
「いや、おっと、なんか、いきなり、勝負、挑んできて、キャンセル、出来なくてさ、『インビジブルカッター』!!」
「全くもう、先が思いやられるね」
そう言いながらも、ジャックはナイフを取り出してライトの加勢に入った。
十分後。
「まさか、『威風堂々』が原因とはなぁ」
「もっと早く気付いて!! おかげで10人も相手したんだからね!!」
戦いながらも敵はどんどんと増えていき、最終的には10人に及んだ。そこで、ライトが気がついたのだ。『あ、オレの技のせいか』と。
『威風堂々』は低レベルのモンスターしか出ない場所では純粋にモンスター除けとして働くが、強いモンスターは逆に襲って来やすくなる技なのだ。それがここではNPCに対して発動したらしい。技を解除するとすぐにNPCは挑戦して来なくなった。
「それ、この町の中では使わない方がいいよ。あと、ボスモンスターとかも多分狙ってくるから使うときは気をつけて」
「ああ、さすがに『この町の人全部が相手』とかはやりたくない」
この町で挑まれる決闘はHPが0にならない設定がされているが、それでも一人一人のレベルが10代から20代までいるので死なないとしてもそんなに頻繁に戦っていたいと思う相手ではない。
「さっさと目的のクエスト受けよう。『聴音スキル』の修得だよな? どこで受けられるんだ?」
「うん。もう着いた」
「え、着いたって言われても……」
ジャックが立ち止まるが、そこにはただ『メイサイ流隠れ身道場』という看板以外何もなかった。ただ、看板が置いてあるだけの空き地があった。
「ほんとにここ? 道場なんて見えないんだけど」
「うん。見えないね……でも、空き地で修行出来るならそもそも建物いらないよね」
「なるほどな、とにかく入ってみればわかるか」
ライトは空き地に入ろうと一歩を踏み出した。だが……
「アガッ」
「あ、言っておくけど別に見えないからって無いわけじゃないよ」
ライトは見えない壁に顔をぶつけた。
改めて前を見ると陽炎のように『道場』が出現した。
「これは……」
「触ると見えるようになるって言おうと思ったのにー、ライトはせっかちだなー」
「いや、わざとだろ」
ジャックのニヤニヤ笑いがその犯行を裏付けていた。
クエスト『免許皆伝!! 気配探知』
『メイサイ流隠れ身道場』でのクエスト。クリア条件は道場内にて『不可視化』の能力を持つ『メイサイ師範代』を打倒すること。
道場にて、ライトは忍者っぽい格好をした大男のNPCと向き合う。
ジャックはクエストに参加しないので道場の端の方でライトの応援に徹する。
「落ち着いて、姿が消えても音はそのままだから」
「透明人間か」
このクエストの要は『音』を頼りに戦うということだ。これを乗り越えないと音で敵の気配を探知する『聴音スキル』は修得できない。
メイサイの弟子型NPCが声を張る。
「いざ尋常に……はじめ!!」
はじめの合図と同時にメイサイ師範代の姿が消える。
「来るよ!!」
「わかってる」
足音だけが接近してくる。しかし、正確な位置はわからない。
ライトは今素手だ。作戦があるのかもしれないが、敵の居場所もわからなければどうにもならない。
直立するライトの腹に衝撃が走った。
「グ……」
見えない打撃技……おそらく中段正拳突き。
しかし、ライトは無闇な反撃はせず、身を縮めて防御の構えをとった。
ドッ ガツン ガッ
続く攻撃にもライトは反撃の気配を見せない。
何発か攻撃がヒットしたのを見て、ジャックは次第に焦りを感じ始めた。
もしかしたら、ライトは視覚に頼らない戦いが苦手で手も足も出ないのではなかろうか……と。
このクエストは決闘ルールで死なないようにはなっているが、攻撃を一方的に受け続けるというのは気持ちのいいものではない。
本当にライトとこのクエストの相性がそこまで悪いのなら、それはクエストを無理に受けさせた自分の采配のミスだ。自分もクエストに参加するべきだった。ジャックはそう思い始めた。
「ライト…降参しても……」
「お待たせジャック、もう読み終わった」
突如として、ライトが体勢を変えた。
縮めていた体を元に戻し、背筋を伸ばしてかかってこいとでも言うように腕を広げる。
「攻撃パターン5種、連撃なしのヒットアンドアウェイ。攻撃は退却を考えながらだから少し軽い。それじゃあ目をつぶっていても、耳を塞いでいても勝てる」
ライトの顔には余裕の笑みが浮かんでいた。
踏み込みの足音が道場に響く。
だが、ライトは最初からわかっていたかのように余裕をもって『正拳突き』を避け、腕を振り上げて前進した。
「『一期一会』だったかな」
ジャックは透明のNPCがライトの腕に首を捉えられ、後ろに吹っ飛んだのを感じた。
さらに、ライトは追撃はせず腕を広げる。
その手の平は内側を向き、直径1mほどの透明の球体を抱えているようにも見えた。
またも、足音が響く。
「『羅生門』」
次の瞬間、ライトの両手は確かに『何か』を捕まえた。そして、ライトはそれを掴んだまま右足を引く。
「歯を食いしばれよ……『レッグハンマー』」
『足技スキル』中級技『レッグハンマー』。装甲を貫通する重い衝撃が炸裂した。
「グオ……参った……」
負けの宣言と共にメイサイ師範代の姿が現れた。
その姿は蹴られた股間を押さえるという、あまり見栄えの良いものではなかった。
「それにしても、なんであの蹴りはあんなに効いたんだろ? そんなに痛いの?」
「あれは男にしか一生理解できない痛みだよ」
無事『聴音スキル』を修得したライトはジャックと共に次のクエストを探すことにした。
「でも……ライト、意外に対人戦強いね」
「対モンスター戦でももっと強くなりたいけどな……レオにはボコボコにされたから、いつかはリベンジしたいし」
ライトは話に聞く『百獣の王〖ダイナミックレオ〗の凱旋』の一件で『四肢損傷による進行阻止』というクリア方法に不満があるらしく、なんでも『今度はそんな卑怯な方法じゃなく1対1で最後まで倒しきりたい』ということらしい。
「じゃあ次は少し危ないけど、モンスター相手のクエスト行ってみる? 前は一人だったから念のためやめといたんだけど、多分ライトとなら楽に勝てると思うから」
「おお、じゃあそれにするか。どんなクエストなんだ?」
ジャックは密かに顔を綻ばせた。このクエストは実は前、受けたかったのをレベルの安全マージンが少なく、安全性を考慮して泣く泣く保留にしたものだったのだ。
「討伐系クエスト『免許皆伝!! 大熊猫老師の試練』だよ」
クエスト『免許皆伝!! 大熊猫老師の試練』
人語を話すパンダ〖大熊猫老師〗の依頼で町の中にある竹林を荒らす〖大食漢熊猫〗を討伐するクエスト。
竹林は町の領域内だが隔離された『ミニチュアフィールド』であり、外観より中が広く、HP保護もないので危険を伴う。
クリア報酬は『武器作成スキル』の条件付き派生技能『竹製武器』の修得と〖大熊猫老師〗から選択制で贈られるレアアイテム。
「でも『武器作成スキル』はオレしか持ってないし、ジャックは少し損じゃないか?」
「ボクが欲しいのはアイテムの方だよ。すっごく欲しいのがあるんだ」
フードで表情はわからないが、ライトには隣を歩くジャックの声から本当にそのアイテムが欲しいのだとわかった。
今はもうすでに竹林に入ってクエストボスである〖大食漢熊猫〗を探している。本来なら通常モンスターを警戒して行くところだが、ライトの『威風堂々』でその心配はない。ボスに関しても『探す』こともクエストに含まれるので、あっちから来てくれるなら手間が減っていい。
「何が欲しいんだ? 材料系ばっかりだったと思ったが」
「ほら、白と黒でセットになってた上等な反物あったでしょ? あれの黒い方。白の方はいらないしライトにあげようかなー」
「そこまで黒で統一したいのか!? まあ、白い反物なら染めて使いやすいから助かるが……」
「あ、じゃあついでにこっちも模様つけてもらっていい? 前のはマーカーで塗ったんだけど盗まれちゃったし、せっかくだから今度はちゃんと作ったのが欲しんだ。多分あるよねそういうスキル」
「染め抜きたかったら『染色スキル』、刺繍なら『裁縫スキル』でできるからデザインさえ教えてくれればすぐ出来る。反物のお礼だ、任せといてくれ」
「ライト、こういうとき凄く便利だね。そこまで快諾されると逆になんか罪悪感が湧いてくるよ……あ、そうだ。ライトは何もらうの?」
「そうだな……あの《銀竹》ってやつにしようかな。木製なのに金属並の強度があるっていう竹」
「早速新しい技能で竹槍でも作るの?」
「いや、あれで今よりさらにリアルな《竹光》を作る」
「せっかくのレアアイテムでわざわざ攻撃力皆無のネタ武器を進化させるとは……ホント物好きだね」
「その物好きに仕事を頼むんだ。しっかり頼まないと、下手するととんでもないセンスで完成するかもしれないぞ?」
「うん、肝に銘じておくよ」
そんな会話をしながら、二人は竹林を進んだ。そして、『メキメキッ!!』という竹が折れる音がした。
「黒ずきん」
「わかってる。タゲはよろしく」
ライトは槍と棍棒を、ジャックはナイフを取り出す。
「グゥォオオオ!!!!」
竹を踏み倒しながら現れたのは体長4mほどのパンダ型モンスター〖大食漢熊猫 LV25〗。大きさ以外で普通のパンダと違うのは腹の模様がギザギザの尖った歯の並んだ口が閉じた絵のようになっている所くらいだ。
「さあ、全滅の時間だ」
「その毛皮、戦利品にもらってやる」
そこから、戦闘は10分ほどの間、ライトが攻撃をカウンターを加えながら防ぎ、その間にジャックが目まぐるしく動きながらダメージを加えていくという単調な戦闘が続いた。
攻撃を加えながら、ジャックはライトの戦闘を観察していた。それは、先ほどのクエストの時の戦闘で感じた違和感を確かめるためだった。
(やっぱりだ……ライトは途中から攻撃が『始まる前』に反応してる……しかも、きっと攻撃の種類までわかって行動してる)
ライトの戦いの違和感。『速力』が低いはずのライトが明らかに自分より速い相手より先手を取り、カウンターを相手の攻撃より先に打ち込んでいる。
(勘がいい、あるいは攻撃を誘導して思い通りに動かしている?)
先程のクエストではあたかも敵が見えているように、もっと言えば敵の行動が全てわかっているかのようにカウンターを決めていた。
(最初に防御を優先しているのは行動パターンを誘導する伏線を張っているのか、あるいは攻撃パターンを全て見極めるためか……口振りからして後者っぽいけど)
「二本目!!」
三段あったHPバーが最後の一本になった。HPこそ多いが防御力が低いのでかなり順調に削れていたのだ。この調子ならあと5分もあれば倒せそうだ。
「グゥォオア!!」
〖大食漢熊猫〗が腕を広げて威嚇するような体勢をとる。
「心臓もらった!!」
ジャックはがら空きになった胴体に飛び込んだ。ジャックのスピードなら心臓を刺して大ダメージを与えてから、開いている腕を使った反撃が来るまでに退避することなど余裕だったからだ。
だが、ライトがジャックの足を掴んだ。
「待て、喰われるぞ!!」
「な…」
ライトに引っ張られてジャックは後ろに引き戻される。
文句を言おうとしたところでジャックは目を見張った。ただの模様だったはずのパンダの腹の口が目の前で本物の口となり、尖った牙が先程ジャックがそのまま飛び込んでいたら今頃通っている空間に噛みついたのだ。
「う…そ…」
ボスの中にはHPが減ると行動パターンが変わるものもいる。一つのクエストのクエストボスでは珍しく油断したが、食らっていたら大ダメージを受けていただろう。
地面に着地したジャックにライトは厳しい口調で言った。
「気をつけろ、オレは死人を蘇らせるスキルは持ってないからな」
そこからの戦闘は順調に進み、見事二人とも大したダメージを受けることなくクエストをクリアした。
しかし、竹林を出たジャックはライトを問い詰めた。
「ねえ、なんであの攻撃がわかったの……あれは『初めて』の攻撃パターンだったでしょ?」
概知の攻撃パターンなら予測や誘導で説明できる。だが、あれは完全に新しい攻撃パターンだった。
問い詰められたライトは少し黙り込んだ後、少し冗談めかして答えた。
「オレ、未来が見える超能力者なんだよ」
それに対してのジャックの反応はライトの予想と大きく違うものだった。てっきり、誤魔化すなとさらに問いつめてくるか、否定されると思ったが、ジャックは不意をつかれた顔をして一言
「もしかして……ライト『も』そうなの?」
と言った。
「え、『も』って……」
ライトがその反応に疑問を呈そうとしたとき、突如として二人の間を刃が通り、地面に突き刺さった。
「うわっ!!」
「これは!!」
それは人の背丈ほどもある大鎌だった。
そして、地面に刺さった鎌の柄に器用に乗りながら『彼女』はライトとジャックを見て話しかけた。
「ははは、なんだよ。三日ぶりに会ったと思ったらデート中かよ? そんなの見せつけられたら、あたしとあの臆病者が妬いちまうぜ?」
その姿を見て、ライトは驚きながらその名を呼ぶ。
「ナビ……久しぶり」
同刻。
『時計の街』の西側の建物の陰で荒い息をするプレイヤーがいた。
「ちくしょう、しつけぇんだよあの死神女……こんな狂った世界でオレ一人勝手にやって何が悪いってんだよ……」
彼はもともと前線で戦っていたプレイヤーだが、その目的はゲーム攻略ではなく平均より高いレベルになり、食事も宿も質のいいものにしたい、それだけだった。
そのために必要なのは金だった。
こんな世界でマナーもルールも無いだろうと、手段を選ばず自己中心的なプレイをしていたら一部の『真面目』なプレイヤーに目を付けられたのだ。
「一人で勝手にやってたらそりゃ孤立しますよ。この世界だけでの話ではありません」
「誰だ!!」
彼は今、追っ手から逃げて潜伏しているのだ。他のプレイヤーに見つかるのは避けたい。
「そう怖がる者じゃないですよ。そうですね……ではあなたの好きなお金にちなんで『金さん』というのはどうですか? それなら怖くないでしょ? あ、でも私はお代官様じゃありませんし、桜の刺青もありませんし」
不思議だった。
そのふざけた口調は怒りを誘うものではなく、むしろ追い詰められ余裕をなくしていた彼の心を落ち着かせるものだった。
「……なんなんだあんた、あの鎌女に頼まれてオレを探してたのか?」
「いえいえ、ただ通りがかっただけですよ。でも良かった。丁度あなたのような高レベルで大勢に流されない人が欲しいと思っていたところなんです。協力してくれますか?」
「脈絡がねえな、オレに何させたいんだよ」
いつの間にか、彼は目の前に現れたプレイヤーの頼みを聞く前提で話をしていた。無視したり脅して口を封じたりという選択肢は思いつきもしなかった。
『金』を名乗ったプレイヤーは優しく微笑みながら彼に言った。
「そんな子悪党みたいなことはやめて、『ダークヒーロー』になって大きなことをやってみませんか?」
(キサキ)「どうもオマケコーナー『キサキの部屋』です。今日のゲストはイザナさんです」
(イザナ)「ちょっと!! なにコーナー乗っ取ってるんですか!?」
(キサキ)「本編で出番ないそうですし、もうこっちで足場を固めちゃおうかと」
(イザナ)「私がゲストって、次からお払い箱にするつもりですか!?」
(キサキ)「レギュラーになりたければせめてコーナーの名前を固定してください。名前が決定されないうちはずっと『キサキの部屋』ですよ」
(イザナ)「私ももう二章で出番ないのに……」




