表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第六章:ダーティープレイ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

268/443

245頁:特集『潜入! 裏道百貨店!』

 一度名前だけだしたことのあった新キャラの登場です。そして、ボスモンスターに追いかけ回された鎌瀬の新たな受難とは……

 たった五秒でいい。

 あるいは、たった一秒にも満たない短い間でもいい。

 いっそのこと、瞬きより短い一瞬でもいい。


 『恩人(あのひと)』と触れ合っていられたら、それだけで良かった。








《現在 DBO》


8月12日。

 9時59分。

 前線からほど遠い過疎地帯の街の一画にて。


 鎌瀬は今日、先日のボス攻略作戦への参加の振り替え休日(メンバーごとに時期はずらされるが、『重傷』だったため療養もかねて早めに割り当てられた)で、『プライベート』ということになっている。ちなみに、『4番』『11番』のコンビは瀕死の鎌瀬を取り巻きから護って救護班まで送り届けたことでその功績を認められ、近々正式に『攻略連合』へ加わるらしい。実際は鎌瀬を瀕死に追い込んだのはその二人なので助けられたことになっている側としてはかなり複雑なのだが、弱みを握られている身としては文句も言えない。


 しかし、ギルドメンバーとしての『プライベート』であっても、鎌瀬がこんなところに来たのは休日の旅行というわけではない。ここに来たのは、犯罪組織『蜘蛛の巣』の一員『夜通鷹』としてここに来たのだ。


 鎌瀬は、『攻略連合』の鎧や制服とは違う私服装備で、暗い路地の奥にある店の戸口をリズムを刻んでノックする。


 すると、その戸口の奥から別のリズムを刻みながらノックが響き、戸が開く。


「予定通り、10時ピッタリだね。でも、ピッタリすぎてわざと来るのを遅らせてたみたいでちょっと感じ悪い」


「俺に気を使わせたかったらもっと好感度を上げてほしいもんだ。てか、もっと率先して協力してくれてもいいだろ。一応うちの組織の一員なんだし、アジトまで出張サービスくらいしてくれてもいいんじゃないか?」


「お生憎さま、それならこっちは追加料金を要求するね」


「なら、ちょっと割安で済んだことを喜んどくか。それにしても……なんだよ、その姿」


 戸口を開けたところにいたのは、見知った顔……ではない、というより見知った顔にはしたくない顔だった。


 自分の顔である……しかも、平時の顔ではなく、以前リリスに捕虜にされたときに姿をかえられた『22番』、メイド少女姿の自分の顔である。声はあの時他人に聞こえないものだったので見た目のイメージに合わせたものにしているらしく、ご丁寧にメイド服も当時のものに似せたものだ。


「どう? 一番にお披露目するのは夜通鷹くんがよかったんだー。似合ってるかな?」


「あんまり思い出したくないから別の姿にしてくれ。『仮面屋』」


「ちぇー、反応薄くてつまんないなー」


「黙れ変態」


 メイド少女姿の鎌瀬に姿を変えていた人物は自分の裾をつかむと、アニメの怪盗が変装を解くときのように布を引っぺがし、先ほどとは違った姿を現す。



「さて、じゃあ『悪だくみ』の時間と行こうか」



 そこに現れたのは、素朴な木の仮面を付けた鎌瀬より小柄な少年。

 服装も先ほどとは違い、日曜大工か死体の解体作業でも始められそうな着込まれたツナギだった。


 彼は『仮面屋』……犯罪組織『蜘蛛の巣』のメンバーであり、『変装スキル』の達人。そして、犯罪を行う上でこの上なく役に立つ『プレイヤーネームを偽装するアイテム』を自在に作り出すことができる固有技の持ち主である。


 鎌瀬が来たのは、先日リリスの攻撃で破損してしまった《夜鷹の面》の修復を頼むためであるが……


「あーあ、こりゃ無理だ。相当強いやつに吹っ飛ばされたね。これは《鉤爪(クロウ)》系統かな、しかもなんかの呪い系が付加されたやつ。これはもう、新しく一から作った方が早い、てか楽だね。ということで、それなりの見返りをいただくよ」


「だと思ったよ。ていうか、そんなんだから組織の中で微妙な扱いになるんだぞ。個別に見返りとるし、フリーの犯罪者とか他組織にも仮面売ってるし」


「言っておくけど、うちは『蜘蛛の巣』がお得意様だから業務提携してるだけで手下になったつもりはない。もっと言えば、個別に見返りを求めるのは別に強欲なわけじゃなくて、ただ単純に僕の魂込めた作品を雑に扱って欲しくないからそれに見合った苦労をして手に入れてほしいってだけさ。もちろん、もらったものは有効活用させてもらうし、他の組織とかとも関わるときにはベラベラと情報を洩らしたりしないから安心して」


「そう言って、取り引きによってはあっさりと話すんだろ。偏屈な上に変装の達人で情報屋まで兼ねてるって、キャラ立ち過ぎだろ」


 そう、『仮面屋』ははっきり言ってかなりの変わり者だ。


 まず第一に、素顔を見せたことがない。見せたこともあるかもしれないが、先ほどのように頻繁に別人のような姿で活動しているので、どれが本当の顔かなんてわかりはしない。『変装スキル』で声も服装も瞬時に変更できてしまう上、彼(実のところ性別も曖昧なので『彼女』かもしれない)の固有技で作った面は、彼自身が装備したときにはそのアバターの体型ごと変えることができてしまう。しかも、彼は変装時喋り方や仕草まで模倣してしまうので一度入れ替わってしまうと見分けることも困難だ。一時期は、『大空商店街』に属しながらギルドを裏切っていた錬金術師のプレイヤー『ドクター』と入れ替わってアリバイ工作をしていたこともある。


 そして第二に、彼は固有技で作り出すアイテムだけでなく、珍しいもの、非合法なもの、非倫理的なもの、その他にも様々なものを扱っているのだ。有形無形、アイテムか情報かに関わらず、毒入りポーションだろうと誰かの隠し撮り写真だろうと噂話だろうと、取り引きとして釣り合うと判断すれば何でも受け取るし、何でも引き渡す。故に、やばい情報を手に入れて狙われることも多いので、こうして事前に予約しなければ店で出会うこともできない……それ以前に店も毎回違い、以前の場所を訪ねても大抵はもぬけの殻の廃墟だけが残っている。


 最後に、彼は『取り引き』で絶対に扱わないものがある。それは『金』だ。

 このゲームの共通通貨を使わず、『物々交換(情報もあり)』または『依頼』という形で仕事の『見返り』を取る。それも、素材アイテムの山やレア武器などではなく、プレイヤーメイドやNPCショップでは値を付けられないものをより好む。


 つまり、鎌瀬が今日ここに来たのは……


「で、その仮面を新しく作るのに、俺は見返りに何を用意すればいい?」


「そうだね……まあ、今回はもうちょっと耐久値の高い材料使ってれば修理で済んだかもしれないし、そこらへんの改良がしたかったってこともあるからランクは『D』くらいでいいかな」


 ランク『D』。

 それは、『仮面屋』の店での取り引きの目安であり、『A』から『E』の五段階のうちの下から二番目。ここでの取り引きでは簡単な方だ。

 しかし……


「実は……今回は、仮面とは別に頼みたいことがある。情報関係なんだけど……『黒死病(ペスト)のバッドステータス』、あるいは『少年兵』ってワードについて、何か情報があったら知りたいんだ」


「『黒死病(ペスト)』? それは聞いたことないな……だけど、『少年兵』についてなら、聞いたことがないわけじゃない」


「そりゃそうだろうな……さっきの顔を知ってるってことは、あの日、あの店にいたんだろ? 俺の知ってる情報は、あの日聞いた僅かな会話だけだ。だけど、それ以外の俺が知らない部分について知りたい」


 鎌瀬の『22番』としての姿を知るのは、あの日リリスの店に行ったものだけだ。盗撮などもリリスが見逃さないだろう。『仮面屋』は能力的にいつどこに紛れ込んでいるかわからないが、シャークからの依頼で店の中での取引を確認する役割についていたとしたら筋が通る。


「うーん……言っとくけどさ、それかなりヤバい情報について嗅ぎまわってるって自覚あるかい? 何せ、この『仮面屋』をして不確定情報しかない。それでいて、その情報であってもランクは『A』に相当する。もっと深く、確実な情報があれば『A』を超えて新しく『S』を新設したいところだぜ? そんな危ないもん、絶対シャークの命令で調べてるわけじゃない……っていうか、ヤバすぎてストップがかかるの確実だから相談すらしてないって辺りだろ?」


「やっぱりか……だけど、『恩人』についての手がかりが……」


 痛いところを突かれて言いよどむ鎌瀬だが、その様子を見て『仮面屋』は鼻をならす。


「ふん、まあいいさ。さっきはあんなこと言ってたけど、今度は僕が組織の端くれポジションなことに感謝するといい。ちゃんとした見返りさえ用意できるなら、情報は教えてあげるさ。ついでに、ランク『A』のおつりで仮面の方も無償で作り直したっていい」


「つまり……ランク『A』は、ランク『D』がお釣りとして帰ってくるほど高難易度なのか」


「まあね、確か鎌瀬くんが今までで一番高い取り引きしたのはランク『C』だっけ? 大体それの二十倍くらいの難易度の依頼を頼むと思っていいよ。アイテムなら『大空商店街』の《ガラスの靴》を盗み出してくるくらいしてくれないと釣り合わなくなるし。それに、鎌瀬くんの固有技を使えば、案外楽勝かもしれないしさ」


「い、いったい……どんな依頼なんだ?」


 鎌瀬は怖々問いかける。

 下手をすれば、レイドクエストに一人で挑むより困難な無理難題を言われてもおかしくない。あるいは、誰も見て生きて帰ったことがないという殺人鬼の素顔写真を撮ってこいというような無茶を言われるかもしれない。そう覚悟していた鎌瀬も……その依頼の内容には、度肝を抜かれた。



「じゃあ、『教会(ディストピア)』のリーダー『マリー=ゴールド』のところに行って、仮面の材料になる『顔型』を取って来て」







 同日、12時10分。


 鎌瀬は『大空商店街』の本拠地であり、プレイヤー全体の攻略や生活の中心であり復興の象徴でもあり、何より『教会(ディストピア)』と呼ばれる裏勢力の本拠地……というより、『母体』でもある『時計の街』へとやってきた。

 ゲートポイントをくぐり、街並みを見た鎌瀬は呟く。


「俺……この任務が終わったら、『帆船の街』の家族のところに帰るんだ」(※ただの帰宅)


 フラグついでの現実逃避である。

 というか、本気で目の前の現実から逃げたくなって来ている。


 何せ相手は、『教会(ディストピア)』のマリー=ゴールド。

 シャークいわく、『敵に回すと歴史の闇に放り込まれかねない』と称される情報組織の長。というより、彼女自身が『教会(ディストピア)』そのものだといっても過言ではない。何故なら、この勢力が他の裏勢力と遜色ない影響力を持つのは、マリーの人心掌握術に他ならない。便宜上組織などと呼ばれるものは、マリーの能力によって感化されたプレイヤー達のネットワークにより各方面から情報が集約する過程であり、本質的に言えば『教会(ディストピア)』の構成員はマリー=ゴールド、ただ一人だけである。

 しかし、それで彼女を力ずくで押さえて情報を奪い取ろうとしたり、情報の秘匿のために彼女を害したりするプレイヤーや勢力はいない。


 それはつまり、彼女がたった一人で他の勢力を敵に回せるだけ……いや、敵に回ろうとも思わせないほどの『能力(ちから)』を持っているということである。


 噂では固有技が異常に強いだとか、彼女を襲おうとしたプレイヤーが逆に捕まって洗脳されてしまうだとか、はたまたGM権限の一部を持っているだとか様々な憶測が立っているが、確かなことは以前『荘園』という❘仮想麻薬《VRドラッグ》の生産地を強襲しようとした数百人のプレイヤーがまとめて彼女の手によって返り討ちに会い、丸々捕虜にされてしまったということ。表の世界では❘仮想麻薬《VRドラッグ》自体が都市伝説なのでそうそう知られていないが、裏の世界では有名な話である。


(そのたった一人で裏の四大勢力の一つに数えられるような相手に一人で挑まなきゃならないとか……顔型を取ってこいとか、正気の沙汰じゃないっての)


 鎌瀬は懐に入れた『仮面』を確認する。

 それは、『仮面屋』の固有技によって生み出されるプレイヤーネームを偽装し、『仮面屋』の容姿を変える特別な仮面の下地となる、何も彫られていない原型の面。顔型というのは、このアイテムを使い、同じ容姿になりたい相手の顔に『2秒間』はピッタリと付けなければならない。

 別に、そっくりそのまま実在する誰かに似せなくても良いなら加工の仕方は別にいくらでもあるが、一番正確に、高品質なものを作るにはやはり本人の顔から作るのが一番いいのだという。


(てか、よく考えたらあの時の俺の顔になってたってことは、あの時仮面つけられた可能性が高いんだよな。あのドタバタに巻き込まれたときか? 全然気付かなかった)


 『仮面屋』は変装の達人であり、この能力で誰かに化けることも容易いので、そうやって油断させ、寝ているときなどに気付かれないように顔を取るのだというが、今回の相手はさすがにそう易々とはいかない。そのため、ランク『A』の依頼として鎌瀬にこれを頼んだのだ。


(直接会うだけなら簡単……教会で定期的に行われてるマリー=ゴールドの『カウンセリング』に行って、相談するふりをして接触すればいい。至近距離まで近づけば、チャンスがないわけじゃない。ただ問題は、街中とはいえそのタイミングを狙って奇襲をして成功させたって話が今までに一度もないことだ。というより、『模倣殺人(フェイクマーダー)』の件があってからも普通に『カウンセリング』を続けてる辺り、もし自分の命を狙って来るプレイヤーがいたとしても対処できる自信があるとしか思えない。相手が無害な女だって思ってたらこっちがヤバいはずだ)


 鎌瀬は、『手品スキル』で服のあちこちに仕込んだナイフを確かめ、決意を固める。


(『恩人』のことに繋がる情報を手に入れるためだ。多少リスクが高くても、街の中なら基本的にダメージもない……殺す気で、やってやる!)


 建物の間の暗い裏道を通り抜けながら、『仮面屋』に借りた別人の顔(仮面というより怪盗の変装マスクのように素顔に見えるもの)を付け、プレイヤーネームも偽装し裏道を出て、教会を目指す。



 その先に待ち受ける、鎌瀬の想像を絶する『真実』を巡る試練を、彼はまだ知らない。


 ちなみに、これまでも何度も登場している『プレイヤーネームの表示』と『プレイヤーネームを変えるアイテム』についての細かい設定解説です。


 プレイヤーネームの表示ルール。

①プレイヤー間でのダメージのやり取りがあると自動で表示される(それ以前はHPバーとステータス異常などの一時的変動のみ表示)。

②フレンドリストに名前があればダメージなしでも顔を目視(認証)しただけで名前が表示される(闇雲無闇のように視覚信号を遮断する設定がしてあれば視線のみで音声確認が可能)。

③フレンドリストに名前があっても仮面や煙などで顔を隠していれば非表示。ダメージが発生して初めて表示されるようになる。

④プレイヤーネームを隠すアイテムの中には、ダメージのやりとりをしてもプレイヤーネームを表示しないようにするもの(主に犯罪専用)がある。


 プレイヤーネームの変更ルール。

①プレイヤーネームが表示されるときにその内容が本来のものとは別のものになる。その時の表示ルールは通常通り。

②名前を変えているときにフレンド登録をすると、仮に元の名前で登録されていても別の名前で登録される。

③フレンド登録した時と別のプレイヤーネームの時に以前のプレイヤーネームに来たメールは、メール圏内にいればちゃんと届く(メールボックスも差別化されるので、名前によって着信音を変更することも可能)。

④他のプレイヤーと同じ名前の時、本来の受取人側から差出人へのフレンド登録が切れている場合のみ、同名のプレイヤーへとメールが届き、返信の際に同名プレイヤーから差出人へのフレンド登録が可能(殺して入れ替わることもできる)。

⑤フレンドリストの座標検索は検索側のプレイヤーが選択した名前の時にしかマップ上に表示されない。


 一応、名前替えのアイテムはレアですが、ライトや『仮面屋』のように使いこなすプレイヤーは使いこなすので、諜報活動では重宝します(ダジャレになったのは偶然です)。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ