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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第六章:ダーティープレイ編

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228頁:殺戮兵器に気を付けましょう

 ファンタジー世界への近代兵器の蹂躙って最近多いですけど、一番怖いのってファンタジーの化け物が世界観関係なく武装して来たパターンな気がしますね。

 人間が出来ない運用をしそうで怖いというか……

 まだ、VRMMOなどというものが空想の産物だった頃の某日。


 とある研究所で、一人の研究者が言った。


『そうだ、人体実験をしてみよう』


 彼は、歳を重ね、知識を蓄え、しかし子供のような豊かな発想力を失わずに独創的なアイデアから成果を出し続け、他の研究者からは一目置かれながらも、その本当に子供のような無邪気さからとんでもないことを平気でしようとする……俗に言う『異端者』のような存在であった。

 そんな彼は、思いついたことをやらずにいられるようなタイプではなく、誰も協力してくれなかろうと、むしろ妨害されようとも、やると決めたらやり遂げてしまう男だった。


『どうせなら、テーマを決めよう。何か映画や小説、とにかく皆が「これだ」と思うイメージのあるものを、フィクションとしての作り物のそれ以上にそれらしく作ってみよう。そうすれば、夢があって面白そうだ』


 そして彼は、どうしようもなく悪趣味で……どうしようもないほど残酷なことが平気で出来てしまう男だった。


 




 


 








《現在 LOM》


 夕暮れの中、コテージから飛び出して爆発から免れ、すぐさま合流した黒ずきんとホタルは他のプレイヤー達の様子も確認しながら、状況を把握しようとしていた。


「やっぱり……『夜』に現れるっていうのはミスリードだったか。相手が幽霊系なら出て来るのは夜だけかもしれないけど、実体のある殺人鬼は昼だろうが殺そうと思えば殺せるからね。範囲攻撃でプレイヤー側を一網打尽にできるタイミングを狙って来たんだと思うけど……まさか、いきなりロケットランチャーとか撃って来るとは……」


「黒ずきんちゃんが気付いてくれたおかげで私達は対応できましたけど、リーダーさんと他にも数名が逃げきれなかったみたいですね……生きてるといいですけど」


「……そっちは後で考えよう。とにかく、今は移動するよ。次の弾を撃って来たら大人数で固まってるとこがヤバい」


 『殺意』を封じられた今の黒ずきんには、逃げる以外の手立てはなかった。






 一方、黒ずきん達とは違う判断をした者達もいた。


 元々、ワンパーティーだけで敵ボスを倒すつもりでいた上級戦闘職パーティーだ。

 リーダーとその側にいたダメージディーラーが一人、予想外の奇襲から逃げ切れず大ダメージを負ったが、まだ壁役二人と中距離攻撃の斧使い、それに援護役の魔法職が一人残っている。ある程度の連携は可能な編成だ。彼らは、この四人の連携で守りを固め、リーダーとダメージディーラーの回復を待って反撃しようと考えたのだ。


 突然のロケットランチャーには驚いたものの、威力は火属性魔法の上級範囲攻撃とほぼ同等。直撃を受けた二人はHPバーが赤くなる危険域に踏み込んではいるが、即死はしなかった。現実世界に対し、現代兵器の威力は控えめに修正されているのだ。

 想定する敵の武器は、詠唱を省略して高威力の魔法と同等の攻撃が出来る現代兵器。それを利用した奇襲攻撃だ。

 ならば、十分に気構えして待ち受けていれば対抗できる……そう考えたのだ。



「敵影確認……こちらへ向かって、真っ直ぐ歩いてきます!」


「ここまで陣形を固めた俺達に真正面から攻撃してくるつもりか? 壁役(タンク)二人は遠距離攻撃に備えろ! 威力はレベル120代の魔法攻撃モンスター相当だと思え!」


「おう! 盾スキル『リフレクタークッション』展開!」

「盾スキル『リフレクタークッション』展開!」



 壁役二人が展開したのは、術者を中心に半径10mほどの半球状の薄い力場を形成する技だ。この力場に突入した攻撃は進行しながら確実に勢いが減退し、威力が減少する。攻撃としての進行距離が短い近距離攻撃には効果がほとんどないが外から飛び込んでくる攻撃には最大限の効果を発揮する、遠距離攻撃対策としてはポピュラーな技だ。

 それを二重がけ。

 相手の次の攻撃を、遠距離の物陰から爆撃や弾幕だと考えての最大限の防御だった。


 しかし……


「敵……軌道そのまま、突進してきます!」


 予想に反し、敵の影は剣のようなものを振り上げ、真っ直ぐに飛び込んでくる。

 援護役は迎撃しようと攻撃魔法を唱えようとするが、力場の中であることを思い出し中止する。『リフレクタークッション』は遠距離攻撃への防御に有効な代わりに、自分達からの攻撃も邪魔してしまうのだ。


 切り替えていては間に合わない。

 相手が真正面から向かって来るというのなら、こちらも、迎え撃つしかない。


「タイミングを合わせろ!」

「二対一だ、負けっこねえ!」


 壁役二人は盾を突きだし、タイミングを合わせて敵を押し返そうと身構える。

 援護役も、二人に攻撃力上昇の支援をかけ、それを後押しする。


 そして、敵が力場に踏みこみ、その姿を間近に見せた。



 180cmを越えるがっしりとした体躯と、それを包む擦り切れた服。そして、それを外から『X』の形に締め上げるベルトに縛り付けられた兵器のケースと、顔を隠す白いホッケーマスク。

 確かに実体を持ち、距離感も大きさもはっきりと掴めるのに、その内部の危険性が把握しきれない謎の威圧感と迫力を内包している。


 表示される名前は〖ジェイソン・B・フレンディ〗。


 そして、振り上げられた鉈。

 それは、乱暴に荒々しく、血を吸わんとするかのように振り下ろされる。


「ぐおっ!?」

「重っ、ぎ!!」


 イメージした以上の衝突力に態勢を崩す壁役二人。タイミングを合わせて発動した『盾スキル』の盾を鈍器のようにぶつける技は確かに真正面から『ジェイソン』を受け止めた。しかし、それでもなおパワーで押し込まれたのだ。


 だが、相手がプレイヤー以上のパワーを持っていることは、ボスモンスター相手では珍しいことではない。

 彼らも、レベル100を越える上級のプレイヤーなのだ。


 斧使いは、既に大きく斧を振りかぶり、振り下ろされる鉈に狙いを合わせていた。


「固有技『精密軌道(ヒットルート)』!」


 レベル50ごとに修得する、そのプレイヤーのプレイスタイルに合わせて生成される強力にして基本的に唯一の奥の手……『固有技』。

 それにより、振り下ろされかけていた鉈は軌道をずらされ外れる。


 敵が手強いと直感した四人は既に、奥の手を使うことに躊躇はなかった。


「固有技『戦封器』!」

「固有技『サプライズボンバー』!」 


 壁役二人の固有技。

 盾を乱回転させる技と、盾からびっくり箱のように拳を出現させる技により、鉈を攻撃されて隙の出来ていた『ジェイソン』を後ろへと押し出す。

 さらに……


「固有技『ガンマビーム』」

「固有技『剣砲大二乗』」

「固有技『シャドーシャーク』」


 援護役のプレイヤーの一度限りの強力な光線技、さらに回復し始めてようやく少しだけ動けるようになったリーダーとダメージディーラーの、剣の長さをメートル単位で二乗の大きさにして飛ばす技と、影絵の鮫で相手の影を攻撃する技……パーティーメンバー全員の固有技を同時に打ち込まれ、さしもの『ジェイソン』も後方へ数メートル吹っ飛ばされる。


 その瞬間、その様子を見て、6人は勝利を確信した。


 そして……


 『コンッ』と、パーティーの中央にいた援護役の肩に何かがぶつかった。


「……ん? なにこれ?」


 それは、小さなパイナップルにも似た形状の……


「ば、ばか! 投げ捨てろ! それは爆弾……」


 手榴弾が、パーティーの陣形中央で炸裂し、爆炎と鋭利な破片(ボーリング)を撒き散らした。


 至近距離で爆発を受けた援護役は重傷を負い、回復し始めていた二人も再び危険域に陥り、さらに後ろから不意の攻撃を受けた壁役二人も装甲の薄い脚部の後ろ側を負傷して膝を突き、すぐ後ろから、しかもスピード優先の軽装で破片の当たりどころの悪かった斧使いは致命的なダメージを受けた。


 しかし、今処置すれば何とかなるかもしれない、そう思って意識が後ろに向いた壁役達の前で、ケースの開く音がした。


「はっ!?」

「まさか!?」


 気付いたときには既に遅かった。

 平然と上半身を起こした『ジェイソン』の手には、RPG(ロケットランチャー)機関銃(ミニガン)……手負いの6人を屠り去るには、十分すぎる兵器が展開されていた。


「Goodbye,see you again when you get next life.(じゃあな、来世でまた遭えたらいいな)」


 それが、6人の聞いた最後の言葉であり、そのあとに轟いた銃声と爆発音が彼らの聞いた最後の音だった。







 その様子は遠くの物陰から他のプレイヤー達にも見られていた。

 戦闘で発生した激しい音と光は注目を集め、その戦闘の成り行きを空間全域に伝達した。


「やべえ! 勝てるわけがねえ!」

「逃げろ!」

「一緒の方に来るんじゃねえ! 狙われたらどうすんだ!」

「とにかく離れろ!」


 散り散りに走って離れていくプレイヤー達。

 もはや、真正面から立ち向かおうとする者はいない。

 ひたすら距離を広げ、林の奥へと逃げ込むその背中に、もはや敵意とは呼べないほどの圧倒的殺意を感じない者はいなかった。







「えっと確か、ここをまっすぐ行くと木こりの小屋に着くはずで……」


 一応、昼間に一通りの場所は歩いて下見をしていたが、夜になって暗くなると『暗視スキル』である程度の光度を確保できても見える景色は全くの別物になってくる。昼間は目立つものが目立たなくなり、影が物の輪郭を変化させて、同じ場所でも全く別のものに見えてくるのだ。

 

「畜生! 道を間違えたのか!? また湖の畔に出ちまった!」


 そして、密集した林のように真っ直ぐ歩くことができない地形だと、真っ直ぐ歩いているつもりでもいつの間にか方向が変わっていて同じところをグルグルと回ってしまうことも珍しくない。

 いつもは攻略本についた地図を片手に、そこに書かれた目印をあてにして探索をするプレイヤーにとって、夜でもわかりやすい目印を見つけるのは意外と難しく、しかもそれは実際に日が沈み迷い始めてから気付くのだ。


「しょうがない、もう一度マップで……」


 そして、メニュー画面から周辺のマップデータを引き出すが……それは、この状況では危険な行為だった。

 他人から内容を見えないように設定できるメニュー関連の画面は、しかしそれがそこにあることはわかるようになっている。しかもそれは、暗闇でも読みやすい程度に明るく、目立つようになっているのだ。

 しかも、画面を見ようとすれば、必然的に周囲への意識を向けづらくなる。


 自分の現在位置がわからずメニュー画面を開いて自分の位置を特定しようとしたプレイヤーの背後で、『ザクリ』という足音がした。


「はっ!?」


 音に驚いて振り返ると、そこには誰もいなかった。


「な、なんだよ……ビビらせやがって……」


 数瞬の緊張と沈黙の後、それをステージの効果音か聞き間違えかと考え、目を後ろから前に向けたそのプレイヤーの目の前には……


「Hellow, and Goodbye.」


 鉈を振り上げた『ジェイソン』がいた。

 その真っ直ぐに自分へと伸びた剣先の輝きが、叫びをあげる間もなく彼を首をはね飛ばした。







「また一人やられた! なんて奴だ!」

「とにかく、なんとか奴から離れたところで集まって作戦を立て直さないと……」


 湖の対岸。

 暗視機能の付いた双眼鏡を片手に、『ジェイソン』の犯行を見届けた二人のプレイヤー達。彼らは中級戦闘職のパーティーメンバーだったが、比較的隠密行動や偵察に長けたプレイヤーであり、この状況でも他のプレイヤーよりは冷静に振る舞うことができていた。

 片方が『ジェイソン』から目を離さずに位置を確認しながら、もう片方は索敵の魔法を展開し罠や他のプレイヤーの動きを把握探っている。湖は円形に近い形をしており対岸まではかなりの距離があるため、常に相手の位置を把握しながら湖に対して反対に陣取ることで距離を盾にとって身を護っているのだ。互いの能力を補完し合いながら運用でき、しかも相手が一人しかいないからこそできる作戦だった。


「奴との距離を保ちながら移動して、他の奴らにも呼びかけよう。その間も何人かやられちまうかもしれないが……」

「無闇に突っ込んでも勝ち目はないしな……やつが林に入るようなら教えてくれ。あいつを見張る使い魔を増やして奇襲に備える」

「あいよー……ん?」


 双眼鏡を覗いていた方のプレイヤーが、疑問符を浮かべる。

 何やら、『ジェイソン』の不審な動きを感じ取ったらしい。もしや、また新しい獲物(プレイヤー)でも見つけたのかと思い、その様子を聞こうとしたもう片方が声をかけようとすると……


「やべえ!! 逃げろ!! あいつこっちに……」


 双眼鏡を降ろして相棒へと向けた頭が見えない拳に殴り飛ばされたかのように吹っ飛ばされ、HPが消し飛ばされ倒れて動かなくなった。


「……は? おい、いったい何がどうなって……」


 わけもわからないまま、倒れた相棒の手から、震える手で双眼鏡を手に取り、対岸を見る。

 するとそこには……ほぼ直立したまま、自分たちのいる方へと長い筒を……AML(アンチマテリアルライフル)を向ける、ホッケーマスクの殺人鬼の姿があった。


「ははは……安全な場所なんて、どこにもなかったのか……」


 その0.6秒後、双眼鏡は音速を超えた弾丸によってその先にあった彼の頭ごと粉砕されることとなった。










 同刻。


「本気でヤバいよあれ……あんな武器もってて、しかも時々瞬間移動みたいに離れた場所に消えたり現れたりしてるみたい。もう、半分くらいやられちゃった……」


 ホタルは傍らの黒ずきんと共に、湖の近くの草むらに隠れて息を潜めながら、敵の戦力を観察し、対抗策を見つけるどころか絶望感ばかり募って行くのを感じる。

 しかし……


「あれ……なんで……どういうこと……」


 傍らにいる黒ずきんの混乱する様子に、自分まで慌てている場合ではないと思い、なんとか冷静さを保っているのだ。守るべきものがある方が人は心を強くもてるという見方もあるだろう。


「大丈夫、あなたは私が護るから……」


 しかし、それはある意味見当違いだった。


 黒ずきんが混乱していたのは、相手の強さや手段の多彩さなどという部分に対してではなかった。

 ホタルには『瞬間移動のようだ』というふうにしか見えなかった、『ジェイソン』の『離れた場所に消えたり現れたり』という動きが……黒ずきんの眼には、うっすらとだが、別の様に見えていたのだ。

 それは、『瞬間』での移動ではなく単純な『隠密』の移動。

 目視されない状態で相手を待ち構えて姿を見えるようにすれば瞬間移動のようにも見えるし、走って逃げる相手を歩いて追いかけるふりをして姿を見えなくした状態で静かに走って先回りすることもできる。簡単に考えれば、その迷彩効果もあの重火器と同じように『ジェイソン』の持つ武器の一つなのだろう。


 問題は、その姿を隠す『方法』だった。

 黒ずきんには……僅かながら、認識できてしまったのだ。

 種族的な精神面での抵抗力か、あるいは以前それと同じものを見せてもらったことがあるからかもしれないが……



(なんであいつが……マリーさんの『透明マント』を使ってるの!?)

 ちなみに、『ジェイソン・B・フレンディ』の背負ってるケースは展開すると中身が変形して見た目以上の体積の武器になります。(重量は変わらない)

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