22頁:警察はいなくてもモラルは守りましょう
新キャラ投入です。
(……スカイがヒロインの座を守れるか不安です)
強いことにどれだけ意味があるのだろうか?
基本的に強いことは良いことだ。
勝ちたければ勝てばいい。負けたければ手加減すればいい。引き分けたければ相手に合わせればいい。
なら、強過ぎることは良いことだろうか?
「強過ぎることは何も問題ないよ。でも、弱さが無いのは問題だね」
ミカンはそう言った。
人間と猛獣は同じ家では暮らせない。
捕食者と被捕食者は同居できない。
肉食獣と草食獣では同じ巣には住めない。
しかし、世の中には例外もある。
それは共存関係にある時だ。
互いの弱点を埋めるために、敵同士が手を取り合うのは歴史を見れば珍しくない。
弱点を通して、弱者と強者が対等になることも珍しくない。
「じゃあオレは、弱点でも作りましょうか。そうすれば案外、師匠に勝てるかもしれないし」
「期待して待ってるよ」
弱いものが強いものを倒すなど、珍しいことではない。
《現在 DBO》
復興し始めた西の荒れ地にある一軒の建物の中に、一人で書類を整理しているプレイヤーがいる。
地面まで届く灰色の髪に細く今にも折れそうな手足、そしてやっと定着してきた着物は今は夜空をモチーフにして紺色の地に三日月を象ったデザインのものだ。
このゲームで最初にプレイヤーショップ『大空商社』を開業した脅威の商人スカイだ。
夜10時30分頃、スカイが店で攻略本に載せる情報を整理していると、ノックの音がした。
「合い言葉は?」
「ねえだろそんなもん!!」
「正解。その声はライトね」
大方またアイテムを売りに来たのだろうと思い、スカイは扉を開ける。
ライトは大きな袋を担いでいた。
「えっと……これは?」
袋に入れるものとなると前に頼んだポップストーン辺りだろうかと思った。だが、ライトは首を横に振る。
「まあ、見てくれ」
ライトはそっと袋を足下に下ろし、袋の口をスカイに向けて開けた。そしてそこには……
「ちょっと、開けるなら先に言って!!」
裸の少女が入っていた。
スカイはライトの経済事情、最近の噂などからすぐさま答えを出した。
「私は誘拐の共犯者にはならないわよ!!」
「誘拐じゃねえ!!」
そりゃ、袋に裸の少女が入っていたら真っ先に連想する。
「AV的な写真とかは当店では取り扱いません!!」
「え、AV!?」
「オレだって頼まれてもその仕入れには荷担しねえよ!!」
「警察……はないから、ナビキに……ナビに知らせないと」
「それはやめてくれ!! あいつ最近メキメキ強くなってるから!! そんな口実作ったら絶対前線から来ちゃうから!!」
スカイの誤解を解くのには十分ほどかかった。特に『いつかはやらかす気がしてた』というスカイの発言には議論が勃発し、少女そっちのけだった。
そして、ようやく説明をまともに聞いてくれた。
「つまり、そのジャックちゃんが追い剥ぎされて、武器も服もないままフィールドにいたらモンスターに木の上に追い立てられて、そこをライトに助けられたけど……ライトは余りの服を持ち合わせていなかったから手持ちの袋に入れて持ってきた……と。なんでそれを早く言わないのよ?」
「言ってたのに聞かなかっただろ!?」
「裸の女の子を袋に詰めて持ってきて、まともに話聞いてもらえると思わない方がいいわよ。誘拐の現行犯にしか見えないし」
「それでもオレはやってねえ!! こんな事なら、上着の一枚くらい羽織っていれば……いや、今すぐにでも用意して冒頭のシーンをやり直すか?」
「それよりボクの服をどうにかして!!」
ずっと袋詰めのままのジャックが声を上げる。二人の口論の間、二人の間に裸で放置されていたのだ。
二人は思いだしたようにジャックを見て、そして互いに目を合わす。
「作戦タイムもらっていいか?」
「すぐ終わるからね~」
ジャックを残して、二人は店の外に出た。
「ライト、どうして私の店に連れてきたの? まさか私が慈善で服を用意するとは思ってないわよね?」
「まあわかってはいたが……オレへのツケで良い、服と装備をコーディネートしてやってくれ」
「多重債務者がツケって……」
ライトは今、休む間もなく働いて借金を返している。そこにさらに借金を重ねると言っているのだ。
「ジャックは明らかに被害者だ。だったら、ジャック自身に請求するのはお門違いだろ? それに……裸を見たことはそれで赦してもらえるように交渉を頼む。オレじゃ女の子のコーディネートはできないからな」
スカイはため息をついた。
ライトの行動原理はよくわからないが、変なところが律儀だ。
「まあいいわ。その内、追い剥ぎの犯人が見つかったらそっちに払ってもらうし……ところで、なによその目」
スカイはライトの顔を見て唐突に言った。
「目? 別にオレは裸には興味はないぞ。むしろコス……」
「何言ってんのよ? ライトがそんな深い傷を負うなんて珍しいって言ってるのよ」
スカイはライトの右目を指差す。
「え、傷?」
ライトは自分の顔の右側を撫でて状態を確認してその『状態異常』に気が付いた。
「右目が……ない?」
十数分後、病院から帰ってきたライトはノックで確認を取り、店の扉を開いた。
そこには新しい装備に身を包んだジャックがいた。ライトは先程まではなるべく見ないようにしていたが、改めてよくジャックというプレイヤーを観察した。
年齢は中学生、恐らくマイマイより年上。身長は目算で160cmより少し低いくらいで体系はスレンダー、スカイが選んだであろう装備は動きやすさを優先させたのか薄手のシンプルな戦闘服で統一されていて、そのベースカラーはすべて黒。さらに、ショートカットの髪の色はカラスの羽のように深い黒。
顔つきは幼さが残るが弱々しくはなく、佇まいはよく洗練されている印象を受けた。
彼女は『戦える』人間だ。
なんだか気まずそうな表情でジャックを名乗る少女は口を開いた。
「えっと……この服のお金は稼いで返すよ。だから……ボクのことは……今日のことは忘れてくれないか?」
ジャックは早々とライトとの関係性を絶とうとする。だが、ライトはそれを許さなかった。
「いや、出会い頭に目を抉られた思い出を忘れろってのは無理があるだろ。こんな台詞を言う日が来るとは思わなかったが……ゴメンで済んだら警察いらないぞ」
「え、あれこの子がやったの!?」
「ボクの裸を見たから……」
「完全に不可抗力だっただろ!?」
互いに自分の正当性を強調する言い争いが始まりそうだ。
それぞれ言い分の有るらしい両者を見て、スカイは溜め息をついた。
「ここ私の店なんだけど、あんまり騒ぐとブラックリストに登録して入れなくするわよ?」
スカイの脅迫の後、とにかくスカイとライトはジャックから詳しい事情を聞くことにした。ライトがいない間にもスカイは断片的に情報を聞いたらしいが、今度はしっかりと順序立てて話してもらう事にした。
ライトとスカイは最近の強奪行為の解決策を模索していたため、被害者の生の声が聞きたかったのだ。
「今日は昼頃に『鉄鍋の町』を出て狩りを始めたの。それで途中で岩の裏に隠し洞窟を見つけたから探索してみた」
スカイはそれに反応した。
「もしかして……一人で?」
「うん。そうだけど?」
ジャックはなんでもないように言うが、それはなかなかに凄いことだ。
『鉄鍋の町』とは『時計の街』を囲むようにある六つの町の一角。『街』と『町』の違いは規模であり、『街』には畑や大きな池、坑道などがあってうまく使えば自給自足できるだけの設備が整っているが、『町』はそこまで全てが整っているがわけではない。
しかし、その代わり今見つかっている『町』にはそれぞれ特有の特化した産業があり、必要な物を得るためにライトもいくつかの町に行ったことがある。
だが、町へ行く途中にはフィールドを通る必要があるため、そこそこ腕に覚えのあるパーティーしか町へは行かない。
その町を活動拠点にしてるあたり、ジャックはフィールドの通常モンスターくらい安定して倒せる実力があるようだ。
しかも、いきなり見つけた隠し洞窟に単身乗り込むとは大した自信だ。
「〖オリジンマウス〗の派生系みたいなのがいっぱいいて、ちょっと死にそうになったけど」
「おい、死にそうになるくらいならそんな危ない冒険するなよ」
「いやライト、アナタも似たこと言ってなかったっけ? 〖ヘビーメタルローラー〗につぶされかけたとか言ってたわよね」
ライトも人のことを言えなかった。
ジャックは話を続ける。
「変な酸みたいなのを出すネズミのせいで武器もボロボロになってきたから帰ろうと思って、フィールドに出たらもう夕方だった。……それで町に戻ろうとしたらモンスターの群れに囲まれたの」
最近よく聞く話だ。
ライト達はなんらかの法則で発生するイベントなのではないかという方向性で検証しているが、未だに法則は掴めていない。発生の法則さえ分かれば予期、回避ができるのだが……
「何とか全滅させたけどもう武器が全部壊れちゃってて……そのすぐ後に二人の男プレイヤーに襲われた……あのタイミングじゃなきゃ負けなかったよ」
洞窟で撃退され、モンスターの群れに囲まれ、犯罪者に襲撃されたとは……運が悪いとしか言いようがない。
「その二人の顔は見た?」
「……バンダナで隠してたからわからない」
スカイは腕を組んで考え込んだ。
思ったより犯罪者について得られる情報が少ない。あえて言えば、隠し洞窟の存在がわかったことが儲け話だ。この調子だと他にも隠し洞窟がいくつもありそうだし、攻略本のネタにはちょうどいいだろう。
ただ、問題はやはり犯罪者への対処だ。
攻略本で効率のいい狩場を見つけて公表しても、そこが犯罪者の『プレイヤー狩場』となってしまっては意味がない。正確な情報を公表するだけでその後の責任は全く持たないというのでは信用に関わる。
スカイが考え込んでいると、ジャックは申し訳なさそうに言った。
「役に立てなくてごめんなさい。ボクはなんの役にも立てない……スカイ、あなたみたいに何かを作ったり誰かを助けたりはできないんだよ」
スカイはそれに対して何も言うことはできない。
スカイは何も壊せない。だから、作る道しかなかった。
そう割り切ったからこそ、今のこの店がある。
戦闘職になれない生産職がいるように、生産職になれない戦闘職もいるのだ。
スカイにはわかる。
仮に今からスカイの足が正常に稼働するようになったとして、スカイは戦闘職にはなれない。スキルやステータス配分以前の問題として、スカイの価値観や思考パターン、いわゆる『スタイル』は既に『つくり出す』ことに特化してしまっている。もう知ってしまっているのだ、自分の才能がそちら側のものだということに。
同じように、世の中には『つくり出す』ことができない人間もいる。
一度その『スタイル』が決まってしまえばそれを変えることはなかなかに難しい。ジャックには曲げられない戦闘向きの『スタイル』があるのだろう。
だが、だからといってスカイがジャックをこのまま手放すということにはならない。
ジャックは間接的にせよスカイに借金をしていて、今ならスカイの自由に動かせる。生産職だからといって戦闘職を従えられない理由はない。
欲しいものは手に入れる。今ない物でも作ってでも手に入れる。手に入れるために支払わなけれならないものがあるとしても、それでも欲しければ手に入れる。偶然にも目の前に落ちていた物だろうと価値があれば全力で拾う。
それがスカイの『強欲』というスタイルだ。
「ライト……そういえばクエストの手伝いが欲しいって言ってたわね?」
「ああ。できればある程度戦える人が……え、まさか」
「そのまさか。ねえ、ジャックちゃんは最前線での攻略を目指してるの?」
これは形式的な質問だ。攻略を本格的に目指しているなら砦を超えた向こう側の町を本拠地にしている可能性が高い。
予想通り、ジャックは首を横に振る。
「目指してない……ちょっと事情があって、そんなふうに目立ちたくない」
「レベルは? 大体でいいから」
「……30くらい」
ライトは現在レベル36。前線の平均レベルが30前後らしいのでジャックの戦力は前線のプレイヤーに並ぶと言ってもいい。
十分過ぎる戦力だ。ライトの足手まといにはならない。
スカイは大きく身を乗り出して二人に言った。
「ジャック、ちょっとライトを手伝ってくれない? ただクエストを手伝うだけでいいから」
ライトは『やっぱりか』とどこか諦めたような表情、ジャックは『何を言っているんだ』という表情だ。
「言っておくけど、ボクは誰とも組む気は……」
スカイはとびきりの営業スマイルで痛恨の一撃を放った。
「じゃあ、今すぐ服返して♡」
この瞬間、ライトとジャックの間に協力関係が成立した。
同刻。
教会にて、マリーが絵を描いていた。
最近では内職系クエストで生産系のスキルを得ていた子供たちが、スカイの店の商品の『加工』を依頼されて収入が安定して入るようになり、前のように休みなく『売り物』を作る必要もない。
今描いているのは純粋に彼女の趣味の絵。
彼女は無料で教会に居座るために『バイト系クエスト』の一環として牧師服など着ているが、本当は『聖職者』ではない。どちらかと言えば『芸術家』を名乗りたいというのが本音だ。
「ふふふ……ライトさん、みんなが笑顔なのはあなたのおかげですよ」
そのキャンバスには、自分の何倍もの大きさのライオンと戦うライトの姿が描かれていた。
(イザナ)「こんばんわ、『NPCにご相談?』のコーナーです」
(キサキ)「もはや原型がNPCしか残ってない……その名前だと相談してくる人が居るみたいだけど」
(イザナ)「お便り来てまーす!!」
(キサキ)「ホントに来てるんだね」
(イザナ)「えーと、『時計の街周辺夜行性モンスター同盟』さんから。なになに? ………変なオーラを放つ人が夜中に歩いてて怖くてポップ出来ません。どうしたらよいでしょう? ってこれ、ライトさんだよね」
(キサキ)「そうだね」
(イザナ)「えーと………あきらめてくださーい!!」
(キサキ)「大胆すぎる」




