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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第五章:成長(ビルド)編

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216頁:心を一つにしましょう

 今回は少し、精神世界的な話がメインになります。


 あと、マリーさんが年齢制限的な話でちょっとヤバいことやらかしていますが……あくまで、『という夢だったのさ』ということでセーフってことにしといてください。

 一応、直接的な表現は控えていますが……

 IFの世界。


 それは、何かの仮定によって成り立つ世界。

 それは、何かの前提によって成り立たなかった世界。

 それは、過ぎ去った過去の可能性から分岐した世界。


 世界観には世界は始まりから終わりまでが全て予め決定した決定論と、この世界がランダム性に支配されているというランダム論がある。

 決定論では、IFの世界は発生しない。というより、IFの世界への分岐点がない。道がどんなにカーブして折れ曲がっていようが、一本道でしかないのが決定論の世界だ。

 そして、ランダム論では無数のIFの世界が存在し得る。ある人物の一瞬一瞬の選択から、あるいは電子の現れる座標すらも分岐点になり得る。


 どちらが正解か、それを断言できる人間はいない。

 IFの世界を想像する人間がいたとしても、それを想像することすら先に決定していたのかもしれない。あるいは、結果論の観点から見れば決定論はかなり有力となる。現実に選び取ることのできる未来は一つであり、『あの時、ああしていれば』とどれだけ考えようと、時間を巻き戻すことなどできない。たとえそれが小説の展開についての二次創作のようなものであったとしても、本物の物語は一つしか存在できず、別のルートを通ってしまえばそれは別の物語となってしまうのだ。



 だが、IFを想像するのことは、創造することは自由だ。

 展開の違う物語を、より良い未来へ繋がるルートを模索することは自由なのだ。

 それを否定することは、選択の意味を否定することになる。



 たとえばここに、一人の少女がいる。

 彼女は取り返しのつかない間違いを犯した。どれだけ時が戻ってほしいと思ったかわからない、それほど後悔するような過ちだ。

 しかし当然、時は戻らない。

 いつしか彼女は、その間違いを犯した時点で自身の未来が終わってしまったと思い込んだ。

 事実、その時点から彼女は負の連鎖に囚われ、転落の一途をたどり、身も心もボロボロになっていった。


 だが……全て閉ざされたかに見えた選択肢は、その時の彼女の目から見たものでしかなかった。

 俯いた彼女の目に、全ての道など見えるはずもなかった。

 角度を変えさえすれば、いくらでも道くらい見えておかしくなかった。


 違う未来を想像し、その状態の心から観察すれば、抜け道などいくらでも見つけられたかもしれないのだ。


 『する』と『しない』、『0』と『1』、『ある』と『ない』という情報は、その二択の選択肢だけで熱量にして『kIn2』のエネルギーを持つ。

 想像されたものだとしても、IFの世界という情報も当然エネルギーを持つ。

 決定論的には最初にあらゆるものに与えられたエネルギーによって世界の全てが決定してしまう。だが、もしそこに『IF』という別の世界からのエネルギーが加われば、運命が変わる。世界の全てが変わってゆく。

 『kIn2』とは人間が感知することもできないほど微細なエネルギーだが、それだけでも世界が変わるのだ。


 大事なことは、『忘れない』ということだ。

 想像した、そして観測したIFの世界を、『忘却(リセット)』してしまわないことだ。

 それを憶えている限り、それが自分に与えた影響を捨て去ってしまわない限り、意識していなくても、それは影響を与え続ける。

 忘れてさえいなければ、『そこに別の可能性もある』という認識だけで『kIn2』のエネルギーを持つ。


 巨大な権力も、武力も、超能力も必要ない。

 たった一つ、二択の選択肢……運命を変えるのに必要なのは、たったそれだけの違いを選択し、方向を定める意志の(エネルギー)

 それこそが『マクスウェルの悪魔』の魔法の炎であり、未来について夢想し懊悩して選択する『魂』を持つ『人間』が無からこの世に生み出すことのできる最少にして最大のエネルギー。



 自分の運命を決定する力。

 自らの未来を掴みとる力。

 それこそが、人間が運命を捻じ曲げ、古代に夢想した夜空の星の世界にまで手を届かせた力。



 それは、一人の少女を救うには十分すぎる熱量(エネルギー)だろう。










≪現在 DBO≫


 エリザは、腹を押さえながら呟いた。


「やっぱり無理……傷が深い」


 表面的には『超再生蛭(プラナリア)』と《ガラスの靴》の能力でほぼ治りきったように見える傷。しかし、それはあくまでも表面でしかない。

 身体を大きく削られたエリザの余力では完全に消失した内臓(ウィークポイント)は元には戻せず、また人格としてのエリザも消えかけている。


 『リセット』は、ナビキの脳内のありとあらゆる情報を消去してしまう権限があるのだ。エリザも、他の分身達も、その権限には勝てない。抵抗も対抗も、上位命令に対しては許させず、捕まってしまえば無抵抗に呑まれるしかない。


 人格や情動を超えた、単なる脳内機構として存在するチップからの命令。

 ある意味、それはナビキにとって『神』からの命令に等しいのだ。絶対に逆らうことの許されない、摂理(システム)の放つ裁きの雷なのだ。


 エリザが一撃で完全消去されなかったのは、持っていた情報量が多かったから、そして戦闘経験から下半身を消されてもなお反射的に回避行動を取ったからだ。少ない体積を蒸発させながら逃げる獲物を狙うより、簡単に吸収できる個体から吸収したほうが早いと判断したのだろう。


 実際、その判断は正解だ。

 エリザはもう、ゲームシステム的にも、人格的にも長くは保たない。HPが回復しても、アバターの耐久力がほとんどない。もう、人格データを転送する余力もない。


「終わりは、こんなあっさり……でも、悪くないかも」


 自分の大半を呑まれながらも助けたライト。

 姉達が愛した相手を守って消えるのだ。物語の展開としては、悪くない。


「殺すために生まれて、殺すべき時に殺せなくて、人助けして終わる……なにもうまく行かないけど、おもしろい」


 意識も曖昧になってきたエリザは目を閉じようとするが、そこでふと思う。


 一つ気がかりなのはバックアップデータである『ナナミ』のことだ。あれも、『リセット』の前にはなすすべもないだろう。仮に誰かに護ってもらえたとして、結果は変わらない。

 しかし、それでもありえない未来を夢想するなら……


「おねえちゃんたちと、もっとおはなししたかったな……」


 口下手で内向的で個性的で自立的で、一人でも生きていけるほど強い少女。

 しかし、それは決して『寂しくない』とイコールにはならない。

 格好良く一人で死んでいくことも悪くないと思うが、同時に思うこともあるのだ。


 わたしも、『ナビお姉ちゃん』みたいに……


 その手を伸ばす。

 かつて、ナビを看取った時にすがりつかれたあの手を思い出しながら、誰かに抱きしめてもらえるように前へと開きながら、しかし相手の温もりを感じられるように狭めながら。


 その空間に……



「ごめんね、寂しい思いさせちゃって。でも、もう大丈夫。これからは、ずっと、最期まで一緒だから」



 走り寄ってきた少女の小さな身体が、スッポリと収まった。


 その背後に見えるのは、街のどの建物よりも大きく成長し、全てを呑み込む『リセット』の姿。

 遠くで、誰かの叫ぶ声がする。必死に戦いながら、強大な『リセット』を押し止めようとする人々の声。

 彼らのおかげで、小さな少女はここまで辿り着いたのだろう。

 本当に異様に軽く、なんとも小さな身体……こんな身体で頑張って、間一髪で見事に、ここまでその身を届かせたのだろう。



 分身達のデータのほとんどを吸収され、『リセット』に内側から削り取られながら、力尽きそうになりながら、それでも人格を保って辿り着いたのだろう。



 エリザは『小さな姉』を、ゆっくりと優しく抱きしめた。


「うん……わかった。ずっと、一緒」









 少女は、闇の中にいる。

 自分が誰なのか、何者なのか、定かではない。


 人格の統合、あるいは融合、あるいは新人格の誕生、あるいは消滅……その処理過程にある瞬間。


 そこへ……


「ようこそ、『存在率0.5の世界』へ……と言っても、歓迎しているのは我が輩ではなく、そこの女だ」


 一匹の黒猫が無愛想に告げる。

 そして、その尾が指し示す先には、黒い貴婦人がいた。


「感動的な死の瞬間に割り込んでごめんねー。でも、これからあなたのしようとしてることにもきっと関係あることだから、怒らないでね?」


 少女は応えない。

 今の彼女は不確かで不安定で、反応するだけのパターンが決定していない。


「あなたは、その『エリザ』って人格に残されてる、洗脳抜きの『PTSD防止機能』を使って……正規の『初期設定』の設定を参照して、外部にまで被害を広げるあれを内面に戻そうとしてる。消えゆく自分の中にあれを呑み込んで、道連れにしようとしてる。違う?」


 『リセット』は、ナビキとって神にも等しい絶対権限を持つ摂理。しかし、結局のところそれはナビキが内包するものであり、ナビキの一部でしかない。

 ならば、ナビキが自らの全てを跡形もなく消し去ってしまえば……自分の外の記憶媒体まで消してしまうとする『抹消(リセット)』の設定(ルール)まで『初期化(リセット)』してしまえば、その権限も消える。

 忘れ去られた神には、権限は存在しないのだ。



「データ消去中の設定変更なんて無茶なこと考えてるのはすごい好きだけど、そんなことをすれば今のあなたの記憶は完全に消えるし、本当にチップ『初期設定』までリセットすることになるから経験の積み重ねで形成された性格の面影すら残らないわ。後に残るのは、今『リセット』の姿になってるプレイヤーアカウントに、基本知識とあなたとは全く別の無地の心を持つ新品の人格を持った新しい『七美姫七海』って女の子。今の『リセット』の結果として残るのとは全く違う、それこそ、記憶喪失のテクニシャンと真正のDTくらい違うわ。それに、あの『リセット』が完全に蒸発するまで大人しくしててくれるとも限らないしね」


 たとえはよくわからなかったが、自分が消えてしまうことはわかる。

 しかし、動揺はない。


「へー、決意は固いってわけね……ますます気に入ったわ。でも、そこでちょっと提案なんだけど……あなたに、見て欲しいものがあるの。これを見せた上で、あなたに一つの選択を迫りたい」


 黒い貴婦人は、少女に向かって一つの物体を見せる。

 それはリンゴのような、真っ赤な木の実。


「私は『リリス』……『最初の女(イヴ)』になれなかった、色欲の大悪魔。新しい種の誇りとして『原初個体(イヴ)』を名乗ったあなたに私が与える試練(デスゲーム)は、『失楽園(ロストエデン)』。知恵ある者として、魂ある者として、間違いを犯す権利を持つ者として、あなたには選択して欲しい」


 『色欲の大悪魔』は、優しく、悪魔の微笑を浮かべた。


「あなたは、あなたにとっての『神』なんかが勝手に決めた摂理(ルール)なんかに従って大人しく裁かれちゃう迷える子羊なのか、間違っているとしても自分の意志で道を歩いていく罪人なのかを」










《未明 ロストエデン》


 黒い貴婦人『リリス』は、少女の意識を引っ張り誘導する。


「今から見せるのは『サキュバスの淫夢』の上級版みたいなものなんだけど……まあ、平行世界(パラレルワールド)みたいなものだと思ってくれていいかな。ここは、このゲームが始まってからのあらゆるデータが記録されてる……そして、今から見せるのはそのデータを元にした『あり得た可能性』の世界」


 周囲は夜空のようにキラキラと光が瞬き、それらを巨視的にみると電子基盤のようにラインが分岐し繋がっている。


「わー……すごいわね。これが特別製チップの力なのかしら? それともVR技術の原典を体験したから? 普通は理想の世界の一つか二つシュミレートする程度で限界なんだけど……まさか、『人間原理(アザトース)』とここまでの適合性があるなんて」


 距離感も大きさも掴めず曖昧な空間だが、意識として曖昧な少女にはむしろ居心地がよかった。


 リリスは驚きを収め、妖しい笑みを向ける。


「これから見るものはあなたにとっては偽物の世界よ。でも、これから見るのと同じ世界、それかすごく近い世界は本当にあり得たもの。もしかしたら、本当にそれと全く同じ世界がこの世界じゃないどこかにあって、そっちではこっちが『あり得た世界』なのかもしれない。そういう意味合いも込めて、私達はこの中立空間を『存在率0.5の世界』と呼んでいるわ」


 『リリス』は、近くにあった光の一つを指で摘まみ、微笑んだ。


「そうね、まずはこんな世界はどうかしら?」







 気付けば少女は、暗い部屋の隅でうずくまっていた。


 装備は初期装備とほとんど変わらず、部屋も最低級の宿部屋だ。


『ここは、あなたがただひたすらゲームが終わるのを待つことを選んだ世界。記憶が消えるから、次の自分に最低限のメモだけ残して、ストレスが溜まって発狂寸前で記憶が消えるのを繰り返していた世界。食料やなんかはギルドの支給を受けて、最低限の生活でひたすら記憶が消えるのを待っている世界』


 死んだように生きている少女。

 この世界では『イヴ』も、それ以前にナビもエリザも生まれず、少女には惨劇を引き起こす力もないが、彼女は幸福には見えない。


 リリスは、少女が持つべき記憶か、あるいはゲームのログを参照したのか、過去を見通したように語る。


『分岐点は、最初に記憶が消えた後、また記憶が消えないように歩き回ってたか諦めて座り込んだか……ってあたり。最初は外で物乞いみたいなことしてて、後々ギルドの数合わせに組み込まれたけど、役には立ってないみたいね。ま、本人はどんなにお荷物として嫌な視線向けられても忘れるからいいと思ってるみたいだけど』


 何もないとは、何も動かないということである。

 何もしなければ、この状況は動かない。

 悪い方向へ転ぶこともなければ、好転することもあり得ない。


『さあ、次の世界を見てみましょうか。今度はもう少し後の方で分岐した世界よ』







 気が付くと少女は、椅子に座っていた。

 目の前には、書類が山になっている。


「……」


 何かの事務処理をしていたらしいが、いきなり書類と向き合わされても全く理解できずに、何かを書こうとしていたらしい手も止まる。


 そこに……


「どうしたナビキ。疲れたなら休んでもいいぞ」


 年配の男の声が投げかけられる。

 少女がそちらを向くと……


「マサムネ……さん?」


「全く、他の奴らは脳筋ばかりか。仕事を誰も手伝いに来んとは。それに引き換えナビキは真面目でいい娘だ。お前ならば、私に何かあったときもギルドを託せる」


 『イヴ』が暗殺した『戦線(フロンティア)』元ギルドマスターのマサムネが、同じように書類に向き合っていた。

 二人で一緒に、事務処理をしているらしい。



『この世界では最初に「T(チーム)G(ゴッド)W(ウォーズ)」に入ってたとき、多重人格(ナビ)のことだけじゃなくて昔の事故や記憶消去のことも話した。そこからよりパーティーメンバーが仲良くなって、ナビだけじゃなくてナビキとしても打ち解けて、会計係みたいなことをやり始めて、最終的にギルドのサブマスターにまでなってる。ちなみに、襲撃イベントではパジャマパーティーにアイコを選んでたからエリザが生まれなかったし、前線組と一緒に街を離れたからイベントで戦うこともなかった。そしてなんと、アイコとは赤兎を取り合う恋のライバルになってる』



「……! じゃあ、先輩のことは……」


「ん? どうしたんだナビキ?」


『ライトとはたまに会う程度の親密度になってるわね。一応「みんなに馴染むのに協力してくれた優しい嘘の人」くらいの認識はあるけど、「同族」辺りの話は冗談として受け取ってる。それと、この世界では完全にナビとの役割が戦闘と対人関係に分離してるから、かなり安定した人格として独立してて、ナビキとは別にこっそり赤兎にアプローチしてるわ。ライトに関しては特に興味もなくて名前も時々間違えるくらいね』


「そんな……」


『別に驚くことはないわ。乙女チックに運命の相手とか考えてる子に言うのはなんだけど、長く連れ添う相手なら相性とかもあるけど、片思いの恋とかは勝手にするものだし関係性が違えば簡単にこの程度変わる。別にあなたが尻軽女で簡単に男に発情する売女だってことにはならないわよ』


 恋愛事情が元で戦争にまで発展したという側面もあるライトとナビキの関係性だが、それがたった一つの違いから全く違う相手への恋心を持つ世界となっていることには驚きを隠せない。

 少女が、全てをかけてしまってもいいと思っていた感情が別の人物へ向けられ、別の形で小さく平和的な争いを起こしている……そんな世界があることなど、考えたこともなかった。


『恋は盲目って言うけど、基本的に人間なんて盲目なものよ。恋なんてしなくても、自分が盲目なことに気付いてない。ただ、恋に関しては後から考えると恥ずかしい思い出ばっかりになりがちだから盲目だったって気付きやすいんだけどね。さ、次はどんな世界かしら?』







 気がつくと少女は、ベッドに寝ていた。

 今度は『普通の日常が送られている世界』なのかと思いかけた少女だが……掛布団の下の服装が……着衣が、かなり乱れているのに気付く。

 いくら夏で暑くて寝苦しくても、少女はそこまで寝相は悪くない。それよく見ると、ベッドは一人用ではなく二人用に近い大きさで、少女の隣にもう一人分、シーツに人の寝跡らしいしわがあった。


 よく耳を澄ますと他人の気配がする。

 自分はかなり乱れた格好をしていて、しかし他人の気配するところで普通にそのままで寝ている状況。


「これって……まさか………でも一体誰と……」


 混乱する少女に、人の気配のしていた方から声がかけられる。



「あらあら? ナビキちゃん起きましたか?」



 聞き覚えのある声。

 ぎこちない動きでそちらに顔を向けると、風呂にでも入っていたのかガウンを着た金髪の北欧美人が……マリー=ゴールドがいた。


「えっと……マリーさん? 勘違いだったらごめんなさいなんですけど、ていうかただ紛らわしい場面だったってオチがわかりきっていて、それでも一応お決まりとして聞くんですけど……私達、さっきまで……」


「え? はい、可愛かったですよナビキちゃん。いつも通り、顔を真っ赤にして、つい苛めたくなっちゃうような声で……」


「……『いつも通り』? それってやっぱり……///」


 思わず赤面するナビキに、マリーは首を傾げる。

 そして……


「久しぶりにとってもウブな反応のナビキちゃん、可愛いですね……そうだ、今度は少しだけ記憶を封印して初心なころのたどたどしいナビキちゃんを見せてくれません? ああ、そうすればいろんなパターンのはじめてさんを試せていいですね。たとえば、あれをああして……」


 何やらアイデアをまとめているらしいマリーを見て危機感を募らせる少女の耳に、『リリス』の声が聞こえる。


『この世界の特徴は……まあ、見ての通りね。分岐点ではえっと……いろいろあったみたいよ?』


「『いろいろ』ってなんですか!? 何がどう間違ったらこんな状況に!?」


『えっとそれは……』


「ああでも、やっぱりあの時の再現もいいですねぇ。あれは去年のクリスマス、私を見つけてくれたナビキちゃんをお酒の勢いでつい……」


「まさか、そんなところが違っただけで……」


「あ、でも……あのハロウィンでエリザちゃんと『トリック・オア・トリート』の悪戯のつもりで行き過ぎちゃった時のも捨てがたいですね。ちょっとした悪戯のつもりでいろいろしてる内にまさかあんなことまで……」


「え!? ハロウィンってことは10月!? エリザとって……え!?」


『妹が自分より先に大人の階段登ってた驚きはわかるけど、そんなに狼狽えなくても……ってあれ? 気のせいだとは思うんだけど、目が合ったような……』


「あら? そこに誰かいるんですか? ぼやけてよく見えませんが……黒いドレスの……」


『黒いドレスって……えっ、ちょっ、まさか見えてるの!? 位相をずらしてあるはずなのに!? は、早く、次の世界に行くわよ!!』


「え、ちょっ、せめて分岐点が正確にはいつの辺りだったかだけでも……」








 そこからも、少女は様々な世界を巡った。

 大抵は数分覗く程度。場合によっては数秒、あるいは数十分……体感時間では、何日もの時間を過ごした気がする。しかしそれは一瞬のようでもあり、少女はそれを夢か走馬灯のようなものだと思った。


 本当に、分岐の仕方によって様々な世界があった。

 絶望的な世界も、希望に満ちた世界も、あまり元の世界と違わない世界も、全く別物としか思えない世界もあった。

 その中で、少女は感じた。



 『間違った』世界だと思っていた少女の元いた世界も……無数の解答例の中の一つでしかなかったのだ。



 そして……


「次を、私があなたに見せる最後の世界ということにしましょうか。ただし、今度のは『あり得た世界』なんかじゃない。間違いなく『あった世界』、あなたの知らないあなたの過去の世界よ。それか、こう言った方がいいかしらね……『真実の世界』とね。覚悟はいい?」


 少女は心で頷いた。

 そして、『リリス』は少女の意志を感じ取って引っ張る。



「なら、受け止めて……そして決めて。あなたの、自分自身の在り方を」

※マリーさんは催眠術とか使えるので、感度上げてなで回したりしていただけです。どこぞのデビルーク星人さんの尻尾スリスリくらい健全です。


 ……前、ハーレムタグについての感想がありましたが、よく考えたらマリーさんがハーレムやってますね。ジャックとかエリザとか、教会の子供たちとか。



 ちなみに、『人間原理』とは『世界があってそれを人間が認識するのではなく、人間が認識するから世界がある』という考え方のことです。

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