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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第五章:成長(ビルド)編

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193頁:奇跡とは起きるのではなく起こすものです

 今回は市街地戦の方です。

 地道に展開を進めているつもりです。

 最新版の『黒いもの達』の最大の特長は、その汎用性であった。


 背中から生えた二本の突起。これらは、普段は目立たない程度に小さく収納されているが、展開すると様々な器官へと変化する万能細胞に近い能力を付与されていた。


 強ばらせれば、骨のような硬さに。

 研ぎ澄ませば、爪のような鋭さに。

 力めば、筋肉のような強靱さに。

 広げれば、翼のような軽さに。

 操れば、指先のような精密さに。


 武器にも防具にも移動手段にも道具にもなる二本の触腕のような器官は、使い手の想像力によって力を発揮する。


 『黒いもの達』の進化はまだ……終わっていない。










《現在 DBO》


 『時計の街』での市街地戦は想定外の展開を迎えていた。


 数千の規模で街を食らいつくそうと転移してきた獣のような『黒いもの達』が、単純に暴れまわり食いまわるだけだった単純な行動パターンから一転した。

 一度に全ての個体がというわけではないがかなりの数がプレイヤーとの戦闘の最前線から引き下がり、既に敵のいない地域での安全な『食』を確保したり休憩して『超再生(プラナリア)』の能力で基礎から底上げされた自然回復能力で傷を癒したり、あるいは一部の個体にプレイヤーとの戦闘を任せて別の道を進むと言ったような……『連携』を取り始めたのだ。


 そして、無闇に個体を増やさず減らされた分だけを再び生み出すサイクルを作り出したことで同時に戦闘を行う個体数を減らし、非戦闘状態の個体の活動を単純化することで演算能力に余裕を作りだし、その分を戦闘を行う個体や『イヴ』の操作に集中できるシステムを組み上げ直している。


 そして、その変化に応じてそれぞれの個体の戦闘技術も着実に向上を始めている。

 プレイヤー達と戦う数千の個体がそれぞれ経験した戦闘時の動きの中からより有効だったものを全体が共有し、攻撃はより当たりやすく、回避はより当たりにくくなっていく。通常一人の人間が戦闘で得られる経験を数千倍の高率で獲得していく。

 次第に、個々の戦闘だけでなく複数体でのチームワークの原型も見られるようになってくる。


 そして、元々数の差を個々の戦闘経験の差で埋めていたプレイヤー達はその優位性を失いつつあった。




「やべえぞ、あいつらどんどん殺しにくくなってきてやがる……」

「武器もボロボロだし、EPもほとんど残ってねえ……今度囲まれたら終わるぞ」


 戦闘で消耗した二人の戦闘職プレイヤーが戦闘の前線を離れ、物陰に隠れているがポーションの連続使用で回復効率が悪くなり始め、しかもEPがほとんどなく自然回復もままならない状態だ。

 二人は先ほど戦闘中に別ルートを回り込んできた『黒いもの達』に取り囲まれ、なんとか切り抜けたのだ。


「このまま『敵』と遭遇したら本気でヤバい……補給線がやられたなら、直接物資を取りに行くしかねえだろ……」


「『敵』か……なあ、俺達何と戦ってんだろうな? 犯罪組織『蜘蛛の巣』とかだったか?」


「さあな、案外これもなんかのクエストだったりしてな」


「クハハ、そうだったらクエスト報酬たんまりもらわねえとな。てか、そうだな……よくわかんねえモンと戦ってると思うより、いつものモンスターと戦ってると思った方がヤル気も出るってもんだ」


「違いねえ。だけど、もう一つなんか願うのが許されんなら……」


 二人は、あちこちから戦闘の音が聞こえてくる街の中、それでも何一つ変わらない仮想の夜空を見上げて呟く。



「奇跡でもなんでもいいから、勝ちたいよな……」







 一方。


 個々の戦闘能力において最高の技術を持つ『戦線(フロンティア)』の大部分は、『黒いもの達』との戦闘になかなか参戦できないでいた。


 その前に立ちふさがる強敵『キメラ型』……敵幹部のドクターの相手に、思わぬ苦戦を強いられていたのだ。



「フハハハ!! この形態になった我輩に勝てると思ったか!!」



 大ダメージを負うごとにそのパーツを捨て、新しい組織を成長させることによって次々と肉体を変化させる『キメラ型』は、そのエネルギー源である『黒いもの達』の攻勢に比例して有利に動けるようになり、最高戦力の『戦線(フロンティア)』と立った一人で渡り合うほどの強さになっていた。


「あいつ……無茶苦茶過ぎんだろ……」


 ぼやく赤兎の目線の先にいるのは、もはや人間からは遠く離れた姿をしていた。


 ベースはタコのような軟体動物。

 しかし、サイズは規格外。三階建ての商店の屋根の上に陣取り、二階から上を包み込むようにして建物と一体化して軟体の身体を固定し、触手を地面へ伸ばしながら『黒いもの達』を吸収し、鉤爪のついた触手や火炎放射、さらには体内で生み出したハリネズミのようなモンスターを射出することで攻撃する。


 本体が動かずとも遠距離攻撃を行えて、屋根から屋根へと近づけば無数の触手で迎撃。しかも、地上には『黒いもの達』が大量にいて気付かれずに接近することもできない。


「ゲームバランスおかしいだろ……」


 レベル的にはそこまで離れていないはず。

 しかし、ポテンシャルの限度を超えた戦力の差がある。


(いや……良く考えりゃ、ここまでの強さの奴がなんでここまでほとんど動いてなかったんだ?)


 これまで、おそらくドクターだと思われる巨大合成モンスターが現れたのは『切り株の街』とこの『時計の街』だけ。しかし、これほどの強さなら……しかも、場合によっては他人にすら同じような力を与えることができるかもしれない能力を持っている可能性があるなら、真正面からボス戦で三大戦闘ギルドを叩き潰せたはずだ。


 あの時の『切り株の街』と、今の『時計の街』……この二つだけの共通点は……


(街に満ちる『黒いもの達』か……燃費が悪すぎて、単独じゃ戦えないってことか……)


 おそらく、少ない『黒いもの達』だけでも連れ歩いてある程度戦える『イヴ』よりもさらに燃費が悪い。

 大量のモンスターを合成して身体を作っているだけあって、EPの燃費がただのプレイヤーと比べると非常に悪いのだろう。それこそ、食事というより呼吸のように『黒いもの達』を取り込まないと活動し続けられない。


(瞬間的な戦闘能力なら『巨大化』したアレックスとそう変わらないはずだ。だけど、頑張っても数十秒しか戦えないアレックスと違って、『黒いもの達』を利用するからそれを持続できる……固有技のポテンシャルを考えても、『黒いもの達』はシステム的に別口で、それと噛み合って強力なコンボになってるわけか)


 一人分のポテンシャルではなく、何十何百という『黒いもの達』のポテンシャルも取り込んだ結果戦術的なまでの強さを得ているのだ。


(下の『黒いもの達』も強くなってきてるし、こんなの二つ同時に相手しなきゃいけねえなんてきつ過ぎだろ)


 いや……しかし、その強さを発揮できるのが『黒いもの達』に囲まれているときだけだというなら、自陣の戦力圏でしか存分に戦えないということだ。知能が高い個体がいるのは厄介だが、『黒いもの達』の戦力が複雑化して密集しているだけと見ることもできる。


 そこでふと……赤兎は気付く。


(奴らに囲まれてる方がいいっていうなら……なんであいつ、屋根の上でばっか戦ってんだ?)


 最初は翼が生えていたし、立体的に動き回れるように屋上や屋根を跳び回ることに不自然はなかったが、その翼を切り落とした今でも何故か地面に下りて『黒いもの達』で周りを固めようとはしない。エネルギー源の『黒いもの達』の中にいた方がいいのなら、より近くにいた方がいいはずなのに……


(『黒いもの達』と奴は別口……微妙な距離感……まさか……)


 赤兎は、仲間達だけに見えるアイコンを指で押して音声通信を開く。


「皆手伝ってくれ、奴をぶっ倒せるかもしれねえ!」




 『キメラ型』の中で、ドクターは考える。


(残りの変身形態は五つ、だがこの戦況なら敵の本陣まで押し切るには十分だ)


 現状有利だからと慢心しない。

 相手は遊撃隊としては最強を誇る戦闘ギルド。虚勢を張ってはいても、実のところ高笑いできるほど圧倒的というわけでもないのだ。

 しかし……


(だが、本陣を潰すまでは撤退は絶対にしないぞ!)


 それでも、進撃を止める気は毛頭ない。

 その目に映るのは、決定的な『勝利』のみ。

 素早く動き回る『戦線(フロンティア)』のプレイヤーを倒すのは難しいが、真正面から押し負けることはそうそうない。敵の本陣まで辿り着き破壊すれば敵に決定的なダメージを与えられる。


(移動に向かないこの形態ではまずナビキの分身達を先行させ、活動域を拡張させなければ……ん?)


 戦術的作戦を考えていたところでふと、『戦線(フロンティア)』が妙な動きを始めたのを感じる。

 周りにまとわりつく数が減り、一部が自分から離れて行く。そして、残りのメンバーがそれを隠すように大きく動き回る。


(もしや、他の戦場が不利になり、人員を割いて増援に向かったか……)


 自分が軽視させているようで勘に障る部分もあるが、逆に言えばそれだけ他では自軍が押しているということだ。


(やはり我が輩とナビキの能力は最高の相性だ。脳まで筋肉でできたような奴らには理解できんだろうが、この頭脳とそのイメージを実現できる肉体の組み合わせは無敵だ)


 実際、ナビキとドクターの固有技の相性はかなりいい。強い合成生物(キメラ)を生産するために生きた強いモンスターを素材として必要とするドクターに対して、ナビキはいくらでもモンスター化した分身を生産できる。強力な戦力を無限に量産できる強力なコンボが成立している。


 そして……


(感じるぞ! ナビキの力が身体に満ち溢れるのを!)


 ドクター自身も、ナビキに心酔している部分があった。

 ナビキはギルド『大空商店街』の中でも前線に負けない高い戦闘能力と多くの者に好かれる人間性を持っていて、ただのギルドメンバー同士だった時から強く惹かれていた……もっと言えば、それ以前から。ナビキの人格とチップの秘密を解毒と引き換えに聞き出したときは既に、強い興味があった。


 そして、その感情はいつしか独占欲に近い願望……『ナビキを自分の手で染め上げたい』という気持ちに変容していた。

 その洗脳過程でも、『イヴ』への改造の過程でも、彼はナビキを『弄る』ためにその知恵を全面的に提供した。


 他人に便乗する形になったのは不本意だったが、ナビキを自分の手で変えていくことに悦を感じていた。


 そして、その成果を見極めるためのこの戦場だ。


 だからこそ、二人の力で勝利を……



「全員配置についたな……やれ!」



 突如、意識が目の前で叫んだプレイヤー……赤兎に傾けられる。

 それと同時に……


「はあ!」

「りゃあ!」


 背後の触手が切り離される感覚。

 かなりのパワーのあるプレイヤーが触手を切り落としたのだとすぐに察するが、それほど動揺はしない。一人が大声で意識を引きつけ、他が別方向から奇襲を仕掛ける……古典的すぎて少し驚いた程度だ。

 この程度のダメージは、驚くようなことでは……


「今だ!! みんな、行け!!」


 突如、足場として取り付いていた三階建て民家が、一階部分から突然盛り上がり始めた。


(こ、これはまさか……!)


「『巨大化』ぁあああ!!」


 『戦線(フロンティア)』の壁戦士アレックスの固有技……『巨大化』。

 『戦線(フロンティア)』のプレイヤー達がバラバラに動き数を把握しにくくなった隙に、下階に忍び込んでいた?


 その狙いは……


「しまった! させるか!!」

「「立たせるかぁぁああ!!」」


 先に寸断された背後の触手の代わりに別の触手で周りの建物を引っ張り身体を支えようとするが、周りの『戦線(フロンティア)』メンバーが触手を邪魔していく。

 そして、同時に下から『巨大化』したアレックスが掴みかかって押し倒そうとしてくる。


 さらに……


「だあ!!」

「食らえ!!」

「『暴打』!! ぉらぁああああ!!!!」

「ぐぁあああ!!」


 打撃力の強いメンバーが真正面から攻撃し、押し込んでくる。


(このままでは……このままでは……!!)


 最後の手段としてアレックスに取り付こうとするドクターが前へ伸ばした触手は……


「さ、せ、る、かぁぁあああ!!」


 『戦線(フロンティア)』のエース、赤兎に全て切断される。

 もはや、後ろに倒れる『キメラ型』を支えるものは何一つなく……



「貴様らぁぁあああ!!」



 地響きを立て、地に倒れる巨体。

 そして……


「「「ガガァ!!」」」


 地面を埋め尽くす『黒いもの達』が、池に餌をばらまかれた鯉の群のように、親鳥に餌をせがむ雛鳥のように一斉に食らいつく。

 起き上がろうとするのを『巨大化』したアレックスが上に乗って抑えつけ、『キメラ型』は端から、全身から喰われていく。


 それを屋根の上に避難して見下ろす『戦線(フロンティア)』のプレイヤー達は、その悲惨な様子を見下ろして発案者の赤兎に尋ねる。


「おい赤兎、これって一体どういうことだ? なんであいつ、味方なのに食われて……」


 問いかけられた赤兎は、哀れむような目で食われゆく『キメラ型』を見下ろしながら語る。


「たくさんいる黒いヤツらは、お互いを識別して共食いしないようにしてるが……あのでかい奴だけは、躊躇いなく他の黒いのを食ってやがった。ま、頭の中にプレイヤーが入ってて動かしてんだから当然かもしれねえけど……思ったんだよ。もしかしたら、たくさんいるヤツらがテレパシーとか……見えない『絆』みたいなので通じ合って味方を識別してんなら、頭が別物のあいつだけは俺達と同じ……『餌』にしか見えねえんじゃねえかってな」


 補食される危険があったから、地上ではなく建物の上で戦っていた。

 そうでなければ、『味方』に囲まれていた方が安全なはずなのだ……それこそ、『イヴ』がやっていたように。


「つまり、あいつは……」


「ああ。あいつは多分、誰かの能力だかテイムモンスターだか知らないけど、あの黒いヤツらをうまく使ってあの強さを手に入れたんだ。あいつの強さには、その誰かが必要だった。だが……そいつにとっては、別に他人の力なんていらなかったんだ。あいつはきっと……『片想い』してただけなんだよ」


 食べれば食べるほど増殖していく『黒いもの達』に身体を削られていく『キメラ型』は、いつしか抵抗を失っていく。


「さて、そろそろ救い出さないとあいつ自身も喰われちまう……アレックス、助けてやってくれ! ……アレックス?」


 高い防御力で『黒いもの達』の歯が通らない『巨大化』状態のアレックスに、プレイヤー部分だけをすくい上げるように促す赤兎だが……ふと、アレックスの様子に違和感を覚える。


 いや、違和感を抱いているのはアレックス自身かのような……



「逃げろ!!」



 次の瞬間、『キメラ型』が自分ごと表面の『黒いもの達』を取り込み、爆発的に組織を再生させ、無数の触手を網のように広げ、赤兎達『戦線(フロンティア)』メンバーまで取り囲むように展開する。細く、広く展開しただけで密度は低く力はほとんどないように見えるが……



 その全てが、赤兎の脳裏に刻まれたある瞬間と同じ『光』を放つ……それはかつて、チイコを救い出そうと『蜘蛛の巣』のアジトに攻め込んだときの……



「こいつ……自爆する気だ!!」







 光を放つ『キメラ型』の中心で、ドクターは思考する。


(ただでは終わらん!)


 心に浮かび上がるのは、ゲーム初期に出会ったある老人の言葉。


『死が怖い? 世界が怖い? 何もかもが怖くて、気が狂ってしまいそうになるのかい? なら、いっそ狂ってみればいい。狂っていても、強い自分を新しく作ればいい。マッドサイエンティストなんて……かっこいいと、思わないかね?』


 最後には自ら爆ぜて消える。

 マッドサイエンティストとして、もっとも相応しい最期。



 そういえば、この『キメラ型』に『自爆』などという技を組み込んだのは、誰の勧めだっただろうか……



 しかし、彼にはもうどうでもよかった。

 最期まで、何かを貫いて生きた、それだけで十分だった。


 それだけで……


「あ、そうだ……シャーク、それに仮面屋の奴に礼を言うのを忘れてたな」


 最期に脳裏に浮かんだのは、マッドサイエンティストらしい狂気ではなく、自分の研究に協力してくれた数少ない友人達のことだった。







 赤兎は、その瞬間をスローモーションのように見た。


 自爆しつつある『キメラ型』、迫り来る網、そして……


「うぉおお!!」


 その『キメラ型』の中枢を掴み、引っ張り寄せて身を縮める。

 その姿は以前、爆発を自分自身の身体で押さえ込もうとしたアレックスの姿と重なって見えた。


「まさかアレックスお前!」


 爆発までのわずかな時間。

 なんとか中枢から心臓を見つけてその胸に刀を突き立て、爆発を止めることができる可能性に賭けようと駆け出そうとした赤兎は見た。


 『事故犠牲』などとは全く違う……『生きる意志』に満ちる、アレックスの目を。


「うぉぉぉおおおりゃああああ!!!!」


 アレックスは爆発直前の『キメラ型』をハンマー投げのように振り回し、全力で上に投げた。

 そして……



 『巨大化』したアレックスの怪力で遙か高くへ投げあげられた『キメラ型』は空中で爆散した。



 空を見上げる『戦線(フロンティア)』メンバーの前で、アレックスが呟いた言葉は赤兎にだけ聞こえた。


「今度はみんな守ったぜ……婆さん」


 『キメラ型』vs『戦線(フロンティア)』……勝者、『戦線(フロンティア)』。












 同刻。


 方々へ散った『戦線(フロンティア)』メンバー達は、『キメラ型』撃破の報を音声通信で受け、勝ち鬨の声も程々に、すぐさま戦いに意識を戻す。


 今は激戦の最中。

 敵の中ボスを倒しても、まだ気を抜ける状態ではないのだ。


 それほどまでに、プレイヤー側は圧されている。


 特に深刻なのが持久戦による物資不足。

 『腹が減っては戦はできない』と言うが、一度始まってしまった戦は兵が餓えようと容赦なく続くのだ。

 そして、武器や資材にも限りがある。


 このままでは直に多数の死者が出る……しかし、補給するにも物資、特に食料類は『黒いもの達』を引きつけてしまうため大量の運搬が難しい上、敵の侵攻に対応するためにプレイヤー達が広がりすぎている。


 このままでは……



『こちら物資倉庫。「戦線(フロンティア)」の皆さん、今から至急音声通信の音量を最大にします。街で戦う全プレイヤーに緊急通達がありますので情報を共有してください』



 その時、『ローカルサイン』のアイコンから聞き慣れない少女の声が聞こえた。

 機械音声かと思うような平坦な口調だったが、『ローカルサイン』を通した全体通信の音量を一括操作できるのは術者のイチローだけのはず……そう困惑する『戦線(フロンティア)』達の眼前で浮かぶアイコンから、他のプレイヤー達にもはっきり聞こえる大音量で、街中に声が響いた。



『皆さん、聞いてください……この街は、私達にとって特別な場所です』



 それは、一人の少女の、心のこもった声だった。



『このゲームが始まってから今まで、皆で笑いあえるようにしようと頑張ってきた思い出が、ここにはあります』



 それは、この街から旅立った者達が、ここに来る度に感じていた気持ちを言葉にしたものだった。



『私にはこんなことしか……お願いすることしかできないけど……それでも、どうか聞いてください』



 それは、誰の言葉なのかわからない。

 しかし、きっとこの街に住まってきた、この街に大切な何かを持った者全ての言葉の代弁だった。



『この街を、守ってください!』



 街を守るため戦う全てのプレイヤーの前に、その依頼(クエスト)が表示された。



 クエスト『みんなの街』

『「時計の街」の内部に存在するモンスターの討伐依頼。

 なお、報酬は一個体の撃破ごとに受け取ることができ、次の四種から選択して取得することができる(撃破から一分以内に選択されなかった場合ランダム取得となる)。


 ①食料

 ②剣および盾のような手持ち武器

 ③矢および弾薬のような消耗武器

 ④HP回復ポーションおよび傷の応急処置薬品


 なお、最終的に最も多くの報酬品を取得していた者が優勝者となり、街の防衛においての功労者代表として発表される』

 裏設定。

 ドクターによってナビキの『自爆』修得が提案されていましたが、シャークが『分身が連鎖誘爆したら収拾がつかない』と却下していました。

 無限増殖の自爆兵器は敵味方両陣営に恐ろしすぎるので……

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