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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第五章:成長(ビルド)編

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191頁:市街地戦の基本は陣取り合戦です

 スカイには『故郷を想う』という気持ちがわからない。

 彼女の人生は、振り返りながら生きるにはあまりに過ちが多すぎて、捨ててきたものが有りすぎて、とてもではないが故郷を想うなどという『無価値』なことをする気にはなれない。


 刹那的に、しかし計画的に……あらゆるものを駒やカードとして、利用するべきものとして認識している彼女にとって、その『初期配置』などどうでもよいのだ。


 しかし、それでも彼女は多くのプレイヤーの最初の拠点であり初期配置である『時計の街』を放棄しない。襲撃イベントで攻め落とされる危険があっても、他にいくらでも拠点にするには十分な規模の街があるとしても、それを考慮した上で『時計の街』を拠点にして守っている。


 それは、彼女自身が価値を見出しているかどうかに関わりなく、多くのプレイヤーが街に愛着を持ち、守るべき価値があると認識しているからだ。

 ただの紙切れや金属片に『貨幣』という価値を持たせるのも、戦いの大義名分としての防衛拠点を決めるのも、全てその『共通認識』だからだ。


 一回目の『時計の街』襲撃イベント……非戦闘員を全て街から逃がそうと思えば不可能ではなかった。むしろ、多少無理をしてでも安全を考えればそうするべきだった。

 しかし、スカイは『手薄になった避難者を犯罪者が狙うかもしれない』という理由を作り、街に残すことを選んだ。それは、安全面への考慮よりその先を考えてのこと……安全地帯から『戦場で戦っているプレイヤーもいる』と認識させるのではなく、危険を間近に感じられる場所から戦場を見せて『自分達も生きるために戦うプレイヤーだ』という共通認識を育てる意味もあった。


 そして同時に、『時計の街』を攻略の本丸だと認識させた。


 ナビキの六千の分身……『黒いもの達』。仮にそれが『ゲートポイント』で転移しながら散発的に、同時多発的に暴れまわれば、増殖能力と相まって収拾は不可能だった。

 認識上の『本丸』は、そのまま反乱分子の攻撃を誘導する的として機能する。大雑把だが、ある意味マリー=ゴールドの『認識の壁』にも近い。


 そして、そんな『政策』を取れるのは彼女自身に敵意の全てを受けてもそれを押し返せるだけの防衛力と、それに耐えられる精神力があるから。


 そして……この街を慕うプレイヤー達の『故郷を想う心』を、客観的に信用しているからこそ、スカイは街を守れると、確信しているのだ。











《現在 DBO》


「チクショウ! バリケード破って何百か抜けやがった!」

「バカ! 届かないのは後回しだ! 弾幕緩めるとここもヤベエ!」

「クッソ、飛行能力が厄介だ! とにかく撃ち落とせ!」

「誰か! 矢は余ってねえか!?」

「こっちも空! 補給線はまだ回復してないの!?」




「ヤバいぞ逃げろ!!」

「こちら馬車の護衛チーム! ヤツら食べ物の匂いに寄ってきやがる!」

「馬自体も狙ってやがんぞ!」




「ぐっ、しまった……悪い、ポーション飲む時間稼いでくれねえか……」

「しっかりしろ! ほら、これ使え! おまえの残り少なかっただろ!」

「盾にヒビが……チクショウ、孤立したまま応援が来ないとなるとジリ貧だぞ……」

「うわっ! 壁に穴空けて来やがった!」




「EPが限界だ……もう、防壁の魔法は長く保たないぜ……」

「こいつら脆いけど一体一体が怪力過ぎる……囲まれたら避けきれない……」

「応援はまだこないのか?」

「ダメだ! 街のそこかしこに奴らがいて逆に誘導(トレイン)してきちまうらしい!」



「あいつどんだけやったら倒れんだよ……」

「いい加減大人しくなれってんだよ!」

「そんなら、何度でもぶった斬ってやる! オーバー100『ドラゴンズフレア』!!」

「フハハハハ! 嘗めるな戦闘バカ共! 我が輩はまだ27段階の変身を残しているのだ!」

「「「多すぎるだろこの変身バカ!!」」」




 街のそこかしこで、苦戦を強いられるプレイヤー達の声が上がる。

 ドクターの持ち込んだ栄養剤によって爆発的に増えた『黒いもの達』がそれまでの報復でもするかのようにプレイヤー達に襲いかかり、強固な陣形を組んでいた『攻略連合』までもが数の力で密集を崩され、連携が崩れ、ほとんどのプレイヤーが数人規模で逃げながら戦っているのだ。


 決して、各々のプレイヤーの強さは『黒いもの達』には劣ることはない。むしろ、数をかさ増しするため『ドッペルシスターズ』で分身を三倍まで増やしてHPを共有しているため、耐久力を考えればプレイヤーには遙かに劣る。

 しかし、問題はプレイヤー達の消耗や疲労。

 街の建物や仲間の死体まで食べて新しい分身を生み出していく『黒いもの達』に対して、精神的にもゲージ的にも装備的にも疲弊していくプレイヤー達は、時間を追うごとに不利になっていく。

 アイテムの補給も寸断され、メールでの情報共有も戦闘に手一杯で渡りきらない。


 そんな状況を……



「…………」



 闇雲無闇は、その異常に人間離れした聴覚で完全に把握し、戦場のすぐそばに設営された『臨時作戦本部』の屋根の上から、メールで下のスカイへ伝える。


 そして……


「まあ、このくらいの劣勢なら予測の範囲内かしらね。補給線の寸断が思ったよりダメージが大きかったみたいだけど、やれることからやりましょう」


 『大空商店街』ギルドマスターのスカイは、劣勢をものともしないギラギラとした笑みを浮かべながら机に地図を広げさせる。


 机の周りにいるのは、『戦線(フロンティア)』ギルドマスターのイチロー、『アマゾネス』サブマスターの椿、そして……『攻略連合』のサブマスター『誠意大将軍』(誤字ではないらしい)というフルアーマーの優男。

 名だたる大ギルドの指揮官達が集まっている。


 そして、薄い仕切りで隔離されているが、さらに周りにはその護衛としてか数人ずつのプレイヤーが武装して待機が影でわかる。

 ここは、目下行われている戦闘の作戦会議室なのだ。


 メールを見ながら地図に大まかな線を引いたスカイは他の面々に言う。


「今、上の感知系能力持ちに聞いたところだと、特に戦況が厳しいのは『7の4』と『11の3』。あと、激しく動いてるけど、『6の2』の周辺では『戦線(フロンティア)』が大型とやり合ってるわ。他は大体何人かで固まりながら背中を守りあってるらしいけど、後退しながらの戦闘だからまだ持ちそうよ」


 円形の『時計の街』を中心から外へ距離を十に分割し、北から時計の時間になぞらえた数字に付け加えて大まかな戦況を図解する。

 敵が既に広がった場所には人型を簡略化した円柱に近い黒い駒、味方はそれぞれのギルドで『戦線(フロンティア)』が赤の駒、『アマゾネス』がピンクの駒、『攻略連合』が灰色の駒、その他のプレイヤー達が白の駒というふうに分けておかれ、孤立した白と灰色が黒の駒に囲まれて危機を示している。


 作戦会議が行われているのは『9の4』……西側の商店街は『9の9』『9の10』の辺りなので、商店街での『イヴ』との戦場と敵の現れるゲートポイントの中間近くにあたる場所であり、置かれているのは『大空商店街』を示す青色の駒。


「うーん……どうやら、あの大型は主戦場から離れ気味に戦って『戦線(フロンティア)』を救援に向かわせないようにしているらしいな……」


 イチローは自身のメニューからマップを開き、戦場の図と重ね合わせてそこに映る固有技のアイコンの配置から状況を詳しく理解しようとする。


「他の黒いモンスター達は知能は高くないらしいですね。飛行能力があるのに、遠距離攻撃をしてくる弓部隊より近くの近接部隊を追うように移動してる」


 椿は、自身のギルドの得意とする遠距離攻撃のプレイヤー達からの報告から、敵の行動パターンを把握しようとしている。


「もう少し開けた場所なら、私の部下達で大陣営を作って敵軍を押し返せるのですが……」


 将軍は市街地での大部隊の不利を暗に主張しながら、他に意見を求める。どうやら彼は、あまり自己主張の強いタイプではないらしい。


 そして……



「うん……状況は理解した。じゃあそろそろ、『作戦会議』なんてのは終わりにして、それぞれのギルドの『秘策』と行きましょうか? 出し惜しみしてる場合じゃないだろうし。一番多く陣地を取り戻したギルドに、他のギルドから豪華戦勝祝いの御中元なんてどう?」


 それを聞き、他のギルド代表者達は驚きながらもすぐさまその意味を理解し、メールの操作を始める。余力がある程度残っている内に指示しなければ大規模な策は持ち腐れとなってしまうことを理解しているのだ。


 スカイは、セールストークでもするような調子で、ギラギラとした笑みを浮かべる。


「さあ、まずは『大空商店街』提供。『鉄人兵団(アイアンアーミー)』よ」


 スカイは、青い駒を懐から複数取りだし、黒駒に制圧された領地に展開した。







 『黒いもの達』に制圧され、木材から石材までむさぼり食われる街並み。

 そんな中、一つの倉庫のような建物から、爆音のような強烈な音が響いた。


「ガッ!?」


 『黒いもの達』に狙われていなかった鋼鉄の倉庫から現れるのは、鋼鉄の自律兵器。キャタピラで動き回転する刃を振り回すだけの、スカイの『機械犬(シリウス)』と比べれば精緻さは遠く及ばず、行動パターンも近くの『モンスター』に接近し刃で切り裂くだけの単純な物。

 しかし……


「ガガッ!」

「ギッ!」

「ガガガ!」


 鋼鉄の兵器は、着実に敵を減らしていく。

 相手が近くの的を襲うだけの自動操縦なら、機械の兵器もまた動くものを襲うだけの自動操縦で十分。

 機械達は冷徹に、壊れるまでその使命を全うしようと暴れまわる。




 スカイは光魔法によって映し出される映像を見ながら解説する。


「警備用の試作品だけど、接近戦の迎撃に特化した量産型の『生命機械』。プレイヤー相手にするにはまだまだ動きも雑で動きも遅いけど、単純に動く物を狙って襲ってくる奴らが相手なら十分にやり合えるはずよ。えっと、写真は……あー、それそれ」


 地図の上に、いくつかの写真が並べられる。回転刃が並んだものに、銃口が前面から飛び出したもの、除雪車のように行く手を阻む物を跳ね飛ばすような形状をしたもの……さまざまな攻撃手段をもった『試作品』達。


「何せ攻撃が雑だからプレイヤー戦力と併用が難しいんだけど、これなら食べられて敵に吸収されることはないし、乗り込み式じゃないから危険な戦場の真っただ中でも全然大丈夫よ。どう? お宅のギルドホームの警備に一体」


 何気ないトーンでセールストークを挟むスカイ。

 『こんな時にまで商売魂すごいな』という一同の視線を受けても動じない。

 そして……


「さあ、お次はどなた?」


 笑顔を見せながらも暗に告げる。

 『奥の手を隠していられる局面じゃない』と。


 各々のギルドが街の各所で秘蔵の武器や固有技、大規模破壊魔法などを放って『黒いもの達』を一斉に削る。



 その甲斐もあってか、防衛戦を越えて西のもう一つの戦場へ抜ける『黒いもの達』はしばらく現れることはなかった。










 同刻。


 東の空から迫ってくる約三百の分身達。

 『雨森』の猛攻を受けていた『イヴ』の中のナビキは、内心で勝ちを確信する。


(これで回復の時間も稼げるし、単純な戦力としてもあれだけいれば形勢逆転できる! 少しデータ容量を優先して複雑に動けるようにして……)


 分身達は戦力であり同時にエネルギー源でもある。

 単純に考えて百人のレベル100以上のプレイヤーが増援に来たのと同じ戦力。そして、ここまでの戦闘でカツカツになったEPをマックスに回復できるだけのエネルギー。


(半分は私の所へ直接、半分は援護役に回せばあっちがどんな『変身』を隠してても人海戦術と物量作戦で押しつぶせるはず……)


 最初、大量に引き連れてきた分身達は『(ひのえ)(しずか)』の大規模放火で焼き尽くされてしまい、そこから消耗が激しくじり貧になっていた。しかし、その『静』が燃料として使うべき町はもうほとんど燃え尽き、同じ火力は出せないはずだ。それに、変身を繰り返しているとはいえシステム上は一人のプレイヤーであるならそれなりにEPを消耗している。

 ここで『イヴ』が回復すれば流れは逆転する。


 そう考えるナビキの前で、『雨森』は困ったような顔をして呟く。



「ボクの出番は、とりあえずここまでかな」



 右手にパペットとして纏った『ツギハギさん』の根元から、左手に持った糸切ばさみで縫い目を幾つか順に切って行く。

 すると、取り込んだ切れ端がハラハラと散り、小さくなった≪化けの皮≫が皮膚と同化して体に張り付いて傍目からはわからないようになる。


 そして、『武装解除』した『雨森』は唱える。


「メイクアップ『銃殺鬼(トリガーハッピー)』、哿不可(カフカ)『ジェイク・スミス』」


 またも、姿が変わる。

 子供の身体から、長身の大人の身体へ。

 ファンシーな服装から、マフィアを思わせるフォーマルな黒いスーツに。姿勢も、やや猫背になり、ポケットに手を突っ込んでいる。



 顔立ちは二十代後半、無精ひげが生え髪も乱れたいかにも『荒れた』風貌の男だが、しかし浮浪者のようなくたびれた感じはなく、むしろ容易に触れることを許さない鋭い気配を纏っている。


 『組織に雇われた手練れの無法者』そんな印象を持つ『男』……『ジェイク』は、ポケットから手を出し、頭をガリガリと掻く。


「たくっ、久々のドンパチって聞いて楽しみにしてりゃ、ただの『害獣退治』じゃねえか。オレの専門は『人間』の相手だってのに、怪獣やら空飛ぶ化物やらが相手かよ。嬢ちゃんの頼みだからって、あんまし()る気しねーけど……」


 言い淀んだ次の瞬間……『シュッ』という大人しい発砲音と共に発射されたものが、一番先頭を飛んでいた『黒いもの』の額と、自身を見つめていた『イヴ』の眼球を貫いた。


「ガッ……」

「□!?」


 発射されたものは真っ赤な『釘』と錆び付いた茶色い『釘』……発射したのは、いつの間に行われたかもわからない抜き撃ちで引き金を引かれた二つの『釘打ち銃』。


「ま、やることは変わんねーやな。殺人鬼(シリアルキラー)が人以外を殺していけないって法があるわけでもねえし、あったところで守る義理はねー。オレはテキトーに弾が切れるまで引き金を引き続けるだけだ。それが偶然急所に当たっちまっても……悪いのは、避けられないてめーらの方だぜ?」


 当たり前に人を殺す……殺人鬼(シリアルキラー)の殺意が牙を剥く。


「えーと……『The Golden Tresure』助っ人参加、だったか? まあ、名乗るほどのもんじゃねえ。通りすがりの殺人鬼だ、鉢合わせしたオマエらは運が悪かったと思え」


 かなり久しぶりな技解説。

 (作中の説明を一度整理しておく必要を感じたので……と、同時に作中では説明されていない設定の補完)


 『複製災害(クローンハザード)

 オーバー100。使用者……ナビキ。

 自分を複製する技。

 生命力(HP)と体力(EP)の一部を分離することで、所有アイテムや所持金、経験点以外は全く同じ別アカウント扱いのキャラクター(名前は変更可能)を生み出すことができ、また逆にそのキャラクターを取り込むことでその時保有していたEPや経験点を還元することもできる。(レベルなども独立するためレベルアップで消費された経験点は還元不可)

 また、複製されたキャラクターは元の個体の受けている呪いや毒をそのまま受け継ぎ、『医療スキル』などで癒着した部位も同一のものが作られる。

 なお、設定上この技は『単性生殖によるクローン』であり、クローンはオリジナルより寿命が短くなるということからアバターの最大耐久値は代を重ねるごとに僅かずつ減少し、また0.01%程度の確率でプレイヤーのコントロールの効かない『突然変異』の個体が生まれる可能性があり、多用しすぎると取り返しのつかない事態に発展する可能性を秘めている。


 ……はい、ご想像の通り露骨な伏線です。

 もっと自然に張れなくてすみません。

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