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デスゲームの正しい攻略法  作者: エタナン
第五章:成長(ビルド)編

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190頁:他人のアイテムを勝手に使うのはやめましょう

 『大森(おおもり)小雨(こさめ)


 身体は男の子だが脳と心は女の子といういわゆる『男の娘』。

 先天的に性別に関する違和感を持ち、しかも平均的な女子より気弱なため自分の性別を個性として割り切ることが出来ずにコンプレックスと感じていたためさらに身を縮め一目を怖がるようになってしまった。しかし、趣味は裁縫や人形遊び、心根は優しく、身体的にもひ弱で病弱だったため……言い方を変えれば普通の女子よりもずっと『女の子らしい』子供だったため割りと学校の女子達や周りの大人達からは理解されていたが、本人は『迷惑をかけている』と思ってなかなか心の開ける友達は増えなかった。

 皮肉な話ではあるが、完全に心を開くようになったのは着ぐるみに身を包み、性別を聞かれても『みんなのマスコットだから性別なんて関係ないよ』と堂々と答えるようになってからだった。


 なお、雨森本人は着ぐるみを熟知しているため呪いのアイテムでも簡単に装備を解除できるので、私生活は不自由はなく、裁縫も自分の手でできる。

 それに、小柄なのでやろうと思えば着ぐるみの口から中に引き込んだ生地を中で縫って外に出すこともできる。

 

 

 『雨森』……『大森(おおもり)小雨(こさめ)』は、身柄を捕らえられ、監禁されても最期まで『彼女』の最高傑作の着ぐるみ『ツギハギさん』の正体である呪いのアイテム《化けの皮》の外し方を絶対に喋らなかった。


 それは、決して生半可な覚悟ではなく、本当に殺されるまで……文字通り、死んでも教えたくなかった。


 ツギハギだらけの頭でっかちな着ぐるみ『ツギハギさん』は、雨森にとってそれほど大切なものであり、ただの防具以上の意味合いがあった。

 ツギハギだらけで不格好なその人形は、昔……自身の性別についての認識が他人と違うと気付き始めた時期に、『女の子らしい』ものを親にせがめなかった彼女がこっそりと拾って直して遊んだヌイグルミが元になっていたのだ。

 ブランケット症候群……とまでは言わないが、小さい頃から慣れ親しんだ物を常に肌身離さず身につけることで、気弱で精神的に強靱とは言えなかった雨森が厳しいデスゲームの世界を生きるのに耐える精神的な強さを得た。


 それに、デスゲームで『人前では常時完全武装』というスタイルを取ることは、決して不思議なことではない。『殺人鬼』の称号のような不意打ちで殺されかねない可能性があるゲームならば、むしろそのような者が現れない方がおかしいかもしれない。そして、周りの者はその姿を見れば『非常に警戒心が強いプレイヤー』だと認識する。

 雨森は安心感のためと自身の性別違和感を覆い隠すために『ツギハギさん』を着続けていたが、下心を持つ相手に対しては彼女が常に万全の守りに身を固める『異常に警戒心の強いプレイヤー』であるように思わせ、犯罪や詐欺のようなトラブルから彼女を未然に守る効果も発揮していた。


 『ツギハギさん』は、確かに彼女を守り続けていた。


 そして、雨森は自分自身を守り続けた『ツギハギさん』を、絶対に犯罪の道具などには使われたくなかったのだ。



 結果的には死後に『ツギハギさん』の素材となっている《化けの皮》は、それに同化した雨森の皮ごと引き剥がされナビキに移植されて『イヴ』の防御力の基盤とされてしまったが、それは彼女の覚悟が無駄になったわけではなかった。


 何故なら……



 作り手の意思を無視して奪い取っただけの『イヴ』は耐久力の高い防具としてしかそれを利用できず、そのアイテムの本当の力を使いこなすことができなかったのだ。










《現在 DBO》


(この子は……)


 『雨森』を目の前にした『イヴ』……その中のナビキは、一時的に封印していた記憶を想起する。


 所有者の皮膚と同化して、倒したモンスターや素材アイテムなどを取り込んで強化、修復される稀有な呪いの防具《化けの皮》……それも、レアドロップのそのアイテムを複数収集し、合成して使用し続け、巨大な『イヴ』の全身を死角なく包み込み膨大な攻撃に耐えることも可能な性能まで育て上げたプレイヤーであり……それを奪い取るため、ナビキが自らその遺体を改め、辱めた『少年』。


 そして、『本』の中で再開した『少年A』という地縛霊のオリジナルとなった、身体と異なる心を持った『少女』。


 あの時は『忘れて』いたが……思い出した。


 目の前にいるのは、ここまでの道程で自分が踏みにじった命の再現。自分を恨んでしかるべき人物が今……毒でまともに動けない『イヴ』に強い眼光を向けながら、自身から奪われた《化けの皮》を奪い返した。


「□!?」

(ありえない!)


 《化けの皮》は装備の解除に制限のある呪いアイテムの一種であり、所有者の皮膚に同化してしまうため通常の装備剥がし系の技は効かないはずだ。むしろ、装備破壊などの技ならば自動的に反撃される。それを、高威力の技で貫通するでもなく、削るでもなく……まるごと、引っ剥がした?


 そんなことは、誰にも……



「ボク、黙ってたよね……この特別な皮の、本当の装備解除の方法。それは、今みたいに耐久を削った状態でいくつかの『縫い目』を解いて、つなぎ目を引っ張れば……実は簡単に、外せたんだ」



 いや、唯一……それが出来る者がいた。

 このアイテムを作り上げ、育て上げた雨森ならば……彼女『本人』であれば、可能なはずだ。


 そして……


「ナビキさん……ボク自身のことについては、別にいいよ。悪いのはあの変な組織の人たちだと思ってるし、ナビキさんだって利用されてる人だから……でもね……」


 《化けの皮》の所有権を取り戻した雨森は、形を留めずウネウネと触手のように動き回る肌色のそれを引き連れたまま、近くの店の焼け跡に歩いていく。そして、その地下室らしき場所の扉を開け放ち、その中身を宙にばらまく。

 ばらまかれたそれの正体は様々な布や皮の切れ端……数多の『ツギハギ』。


 本来の主に取り戻された《化けの皮》はここまでの戦闘で深く傷ついたナビキの分身の皮を排出し、ばらまかれた切れ端を取り込みながら雨森の腕に巻き付き、皮膚と同化して、新たな形を与えられていく。

 その形は、ナビキもよく目にしたことのあるツギハギだらけの頭でっかちな着ぐるみと同じデザインの……雨森自身よりも大きな手袋人形(パペット)


「これでも、『ツギハギさん』はこの商店街のマスコットだったんだ。それを街を壊すために使ったのは、ゆるさないよ」


 『ツギハギさん(パペット)』が、マスコットとは思えないような尖った牙の並んだ大きな口を開く。


「デスゲーム『Destiny Breaker Online』脱落(リタイア)……『時計の街』のマスコット『ツギハギさん』の中の人『雨森』。夢を壊す人はゆるしません」


 その表情は、利用された怒りを露わにしているようにも見えた。





 西の焼け跡と街の中心部、二つの場所で何千という身体を制御して戦わせながら、『主人格』としてのナビキは困惑する。


(なんで……? どうして……?)


 やっと毒に抗体ができ、動けるようになり始めた『イヴ』を操作しようとして、ナビキはとある一つの疑問に捕らわれた。

 それは、戦闘が始まってしばらく経ち、ようやく感じ始めた違和感。


(どうしてこんなに、処理が重いの?)


 脳の情報処理能力の低下。

 《化けの皮》という、数多の腕を組み合わせた『イヴ』の身体を仮にも人に近い形状にまとめあげていた要素が欠け、動きを統一するために必要な動作の手順を脳内で再確認したときに気付いたそれは、彼女自身の想定を超えた域へと達していた。


 ナビキと『イヴ』、そして『黒いもの達』の全てを含む分身達は、仮想の肉体(アバター)とステータスこそ独立しているが、実のところそれらの制御が行われているのはナビキの現実世界の肉体……七美姫七海の脳だ。特殊なチップで機械化され特殊な性能を持つと言っても、やはり同時に処理できるデータの量には限りがある。そして、分身達を同時に動かす際には、その数だけ人格を分割し、データ容量を分け与えることで個別の行動を同時に行っている。


 より詩的な表現をすれば、ナビキは自身の『魂』を切り分けて新しい身体に命を与えているのだ。


 その『魂』はあくまでも脳内での情報容量を消費するための権限を示したものであるため、独立して動く身体をより複雑に動かすためにはより多くの『魂』を与える必要があり、単純な動きを簡単なパターンで繰り返すだけならば必要な『魂』も少なくてすむため、その分より多くの分身を作ることが出来る。


 そして、本来は行動不能になり倒された分身に使われていた『魂』はナビキに還元され新しい分身や『イヴ』に使われることになる。『魂』の総量は変わらず、優先度の高い主人格のナビキの意識が強く保たれていればいくら分身が増えようとナビキ自身の処理能力が必要以上に圧迫されることなど起きるはずがない。


 もしも、それがあり得るとすれば『魂』のサイクルに直接干渉できる者が……


(……まさか!)


 ナビキは『気配』を頼りに辺りを探り……二つの戦場の丁度中間地点に留まる『原因』を見つけた。


(エリザ……あんたは!)


 『殺人鬼(オニ)』と『ゾンビ』のミックス『吸血鬼』……エリザは、ナビキの別人格であり、分身でもある。『黒いもの達』と呼ばれる量産型の分身達より自立性が高く持っている『魂』の割合も桁違いに大きいためナビキの意思に左右されず、しかし主人格であるナビキの意思に影響を及ぼすほどの権限はないのでもはや他人に近いが……しかし、ナビキとの繋がりは確かに持っている。

 ナビキや『イヴ』を正面から相手にしようとすれば逆に取り込まれてしまうとわかっていたからこそ、今までは脳内干渉はしてこなかったはずだが……


(私が戦いに気を取られてる隙に、浮いた権限が自分に流れるようにルートを繋ぎ直した!?)


 倒された分身、削られた『イヴ』の末端部分……そういったものが倒され、切り離されてナビキの制御下を離れた瞬間、それを動かすために割かれていたデータ容量は……『魂』は、宙に浮くことになる。過去にエリザは、分身達を自らの手で襲って倒すことによってその瞬間を作り出し、タイミングを合わせてその権限を回収していた。効率が悪く問題にならないと考えたため無視していたが……


(今は、私が干渉する暇がないのを分かってて回収に全力で集中して、全部を持って行かれてる! この戦いで倒された分も、削られた分も、全部がエリザに流れてる!)


 まるで、吸血コウモリが傷口から流れ出た血を啜るように、着実に『(ちから)』を奪われていく。


 エリザを利用した弱体化という、ライトの秘策……いや、むしろライトの本命はそちらだ。

 ごく少数でも分身の一部が生き残っていれば何度でも戦力を補充できるナビキを本当の意味で倒すため、ライトはナビキが全力で自分の元へ駆けつけてくるように画策し、その上で二度と同じことが出来ないようにナビキの力を奪っていく。


 ここで『イヴ』を倒されれば……ナビキ本体が倒されれば、エリザとの力関係が逆転しかねない。


(削られた分も考えて、皮がなくなった分も補うことを考慮して……今すぐにでも、何百体かの分身を機能停止させてでも『イヴ』の操作のための『魂』を補充しないと……でも、それをするには……)


「やぁあああ!!」

「■■■!!」


 やっと麻痺の解けてきた身体で、相手に応じて振るう、中身が剥き出しの巨腕。

 しかし……


「□!!」


 壊れたのは、あらゆるプレイヤーと比べても群を抜いて強力なパワーを誇るはずの『イヴ』の巨腕。砕かれると言うより、極細の鋼線の網に絡まって寸断される感覚に近い。力で押し切ろうとするほど、圧力がうまく伝わらず相手の切断力が上がっていくだけなのだ。


 しかし、ナビキは傷つくのを承知で、末端の権限をまた奪われるのを承知で、それでも牽制として巨腕を振るい続ける。


 隙を見せれば、冗談抜きで『本体』まで削られてしまいそうだから。


(相手が強過ぎる……油断したら、本気で殺られる)


 ナビキは『イヴ』と真正面からの『殴り合い』を演じる『雨森』の強さに震撼していた。






 所変わって、鐘突き堂の屋根の上。

 遠く東の戦いを見守るキングと『アマテラス』は、その光景を目の当たりにしていた。


「す、すげー……あの『イヴ』と、真正面からどつきあいしてやがる……」


 キングは、『雨森』の猛攻を望遠鏡で見ながら本当に信じられないような顔をする。

 気弱そうな少年(少女?)が、自棄になったように振るうパペットのグローブが、着実に『イヴ』の身体を削っていく。


 それも、パペットはただの重厚なナックルとしてではなく、攻撃を受け止めるときには綿の詰まったクッションや弾力のあるゴムのように、殴りかかるときは硬質な金属のように、あるいは鋭利な鋼線の網のように変質、変形して圧倒的パワーの差を埋めている。


「口の動きを見る限り……『コットン』『ゴム』『パンク』『ケブラー』か……ま、あのアイテムが身体の一部として認識すれば動かせるらしいし、あの程度の変化はライトなら楽にやるよな」


 《化けの皮》は皮膚と一体化するため装備を解除するのが困難な代わりに、練習次第では手足のように動かせるようになるという特殊なアイテムだ。自身の人格を自在に操作できるライトなら、形状や抗力を操作して材質を変える程度は楽にやりそうだ。


 しかし………隣の『アマテラス』は、即座にそれを否定する。


「違うわよ。あれ、あの『雨森』って子の自前よ?」


「えっ……」


「ま、レベル制のゲームだからその分のパワー補正スピード補正くらいはついてるだろうけど、あの『強さ』は美化でも誇張でもなく、生前のあの子の再現よ」


 今現在、『イヴ』は毒が抜けきっておらず本調子とは言えず、しかも分身達が近くにおらず燃料切れを起こしていて、しかも脳内の情報処理能力が足りず動きも鈍っている……しかし、それでも純然たるパワーは到底プレイヤーが個人で受け止められるようなものではなかったはず。

 それなのに……


「あんなのと、真っ向からやりあえるとか……そんな実力があったなんて知らなかったぞ。いつも着ぐるみの中に隠れてて、しかもその中身があんな気弱そうな顔してんのに。あれか? 野を舞う鷹は爪を隠すってやつか?」


「『野を舞う鷹』じゃなくて『能ある鷹』ね。ま、だけど『雨森』って子場合は『野を舞う鷹』で合ってたかもね。人前ではほとんど本気を出すことなしに、爪を隠したままやられちゃったってところは。あの性格じゃあ、他人に力をひけらかすってガラじゃないだろうし、対人戦では人質でもとられてろくに本気を出せずに負けちゃったのかもね」


「なんだそりゃ、もったいね! こんだけの実力者がこんな早い段階でリタイアしてやがんのかよ」


「まあ、確かに『もったいない』っていうのは同感だけど……デスゲームでは、別に珍しいことじゃないわ。むしろ、本当に強い者が一番になる方が難しい。バトルロワイヤルで一目で分かるほど飛び抜けて強い奴がいればたとえそれが一人しか生き残れないタイプだろうと十中八九、他が徒党を組んで先に潰そうとするし、強い奴はむしろ強さの波が見えやすいから弱ってる時はよく狙われる。何せ命懸けのコンティニュー不可が前提だからね。反則が反則にならない、卑怯卑劣に文句が言えない。そんな中じゃ、攻略者に負けず劣らすの実力がありながら一番には届かなかった実力者たち……そんな『銀メダリスト』がいくらでも発生するのがデスゲーム。そして、そのデータを回収して『敗者復活戦(リベンジマッチ)』を実現できちゃうからこそ、あの子は……『銀メダル』なのよ」


「ああ、あれって本人がメダリストだからって意味じゃなくて死んだ奴が装備して復活する装備品的な意味合いでの命名だったのか。それにしても……あの『雨森』、生前より強くね? 元々力を隠してたにしても、結局あの性格のせいで実力を発揮しきれなかったんだろ?」


 望遠鏡の先に見える『雨森』は、猛攻を仕掛けているが……強い意志が籠っているのはわかるものの、気弱そうな印象は変わっていない。

 人格を歪めて戦意を底上げしたわけではないらしいが……


「『あの性格のせいで』? それは間違いよ……あの子は『あの性格』だからこそ、あそこまで強くなったの」


 怖がりながら、怯えながら、しかし力強く戦う『雨森』を見ながら、『アマテラス』は語る。


「『気弱』『心配性』『怖がり』……そういう性格は、戦闘職だと確かにマイナスになりやすいわ。いざというときに足が竦んだら命取りになるから、むしろ『勇敢』『大胆』『猪突猛進』みたいなアクティブな性格の方が強くなりやすい。逆に指揮官型だと『臆病』『慎重』『完璧主義』みたいな機敏に動けなくても動く前に先の先まで読めるタイプが強くなる……そして、あの子みたいな性格の『生産系戦闘職』は、自分の弱さをコンプレックスにしているほど強くなる」


 ライトを除く『戦える生産職』の中で最強……それが、『雨森』が生前受けていた評価だった。


「固有技『パワードスーツ』と固有技『ヒーロースーツ』……だったかしらね。自分の体の動きを記録して正式な技に変える『EXスキル』のオリジナル技作成能力を服に適用して覚え込ませる固有技と、素材にしたモンスターの技をインスタントスキルとして服に組み込む固有技。あの怪獣ちゃんには最期まで明かさなかったみたいだし、知ってて使おうとしなきゃずっと気付きもしないような力だけど……あの子の『力』は、全てあの着ぐるみの中に組み込まれてる。そして……ああいう『自分で作った武器で戦う』ってタイプは、強さの全てを自分の外に依存するタイプは、自分の弱さを理解してるほど強くなるのよ」


 『雨森』は生前の彼女の戦闘経験やポテンシャルを全てつぎ込んだ人形(パペット)と一体化し、生前の力をそのみに振るう。


「あの手の子は、大体が怖がりで、自分の戦闘センスとかに自信がないからそれを埋めるために強い武器に拘るの。まあ、試し斬りが大好きな刀工とかもいるから一概には言えないんだけど……自分の全身をまるまる覆い隠す着ぐるみに執拗なまでの防御力を付加してたあの子はその典型。そして、気弱で怖がりな性格だから、過剰なまでに隙のない防御を得ても全く満足せず、戦いながらもさらなる安心感を求めて工夫を凝らし続けるのよ」


 ショック吸収、弾力、硬化、切断……それらを使い分けて、『イヴ』の攻撃を悉く無効化しながら戦い続ける。


「例えばあらゆる武器を弾き返す最強の硬度を持った盾を手に入れたところで慢心する間もなく、『もしも、相手が壊せならないなら盾を奪おうと考えたらどうしてよう』とか『盾を回り込む鞭とか来たらどうしよう』『武器じゃなくて拳なら壊れちゃうかもしれない』とか、そんな心配が湧き上がってきて、『掴まれてもいいように切り離せる装甲を被せておこう』とか、『敵を見ながらでもカバーできる範囲を広げるために覗き穴をつけよう』とか『トゲトゲをつけよう』とか、そういう対抗策を取ろうとする。そして、戦闘を経験しない純生産職とも、武器は専門外の純戦闘職とも違って、戦いながら経験の中でそういう『現実味のある』弱点を発見して対策(パッチ)を当てていく……簡単に言っちゃえば、より実用的でバランスのいい武器を作れるようになっていくのよ」


 例えば、戦争での話。

 『最新鋭』の試作兵器と『旧式』の量産兵器。

 同じ数が動員され同じ練度の兵士が使った場合、より戦果を上げられるのはどちらの方か……それは、高確率で量産兵器に軍配が上がる。

 もちろん、戦略や環境との相性、例えば防寒対策の有無などでは話が変わるが、総合的に見た場合、使い古された兵器はその過程で弱点、問題点、利点などが実地に沿ったあらゆる形で把握され、使用者がそれを踏まえていれば、あるいはその問題点が改良されていれば、そのデータは大きく性能を底上げする。


「量産兵器だと実際に使ってみながら、犠牲を出しながらも生き残った使用者から感想や起こったアクシデントを聞いて開発者がそこを埋めていくけど……その『使用者』と『開発者』を同時に兼ねるようなタイプのプレイヤーの改良速度は桁違いよ。その上で、怖がりや心配性はどんな小さな欠点でもすぐに直さないと気が済まないし、気弱なら安心感を求めて改良に手間を惜しまない。まあ、そんな性格でがっつり戦闘するプレイヤーは多くはないけどね。そこにあるのは使命感か、あるいは強さへの憧れか……だけど、そういう手合いに関しては大体共通して言える、一番モチベーションが上がる状況があるわ」


 『イヴ』が、猛攻に耐えられず後退する。


「自分用にチューニングした発明品(アイテム)を他人が勝手にチューニングし直して使うと、どんなに温厚でも信じられないくらい怒るのよ」










 同刻。


 ジリジリと『イヴ』を後退させながら、ナビキは考える。


(体勢を立て直さなきゃ負ける……でも、戦いながらの脳内干渉なんてできない。『イヴ』は動かすのに必要なデータ量が多すぎる……傷を癒すためにも、一度休まないと……)


 しかし、目の前に立ちふさがるのは油断すれば『イヴ』の核まで……ナビキまで食い破りかねない破壊力を持った『雨森』。


 完全に防御姿勢を取ったところで時間稼ぎにはならない。


 ならば……


(牽制しながらの時間稼ぎ……成功!)


 風を切る大量の羽音。

 それに気付いた『雨森』も振り向き、そして目撃する。



 『時計の街』の中心近くから黒い翼で飛んでくる、数百の分身……『黒いもの達』。



 溢れ出た戦力が……ついに、『イヴ』に合流する。


「■■……」

(さあ、数で押し潰してあげる)

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